01766_11歳からの企業法務入門_△1_本シリーズ企画の背景:「企業法務」という「面倒くさい割に、くだらない業務分野」のフラット化・民主化

ビジネスの世界で、私が、
「『意味不明な専門用語』を使ったり、『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を使わないと状況を説明出来ない人間」
に出会ったとします。

私は、そいつを、

1 「『意味不明な専門用語』や 『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を記憶する程度のことは出来ても、本質を全く理解していないバカ」か、
2 「バカではないが、絶望的にトークの弱い、コミュ症」か、
3 『意味不明な専門用語』や『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を使って、煙に巻いて相手を騙そうとしている邪悪な詐欺師
4 「東大卒弁護士の私の理解を絶するほど、高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話」をしているシビれるくらいの天才

のいずれかであろう、と推測しますが、経験上の蓋然性として、4は皆無で、たいてい1ないし3に帰着します。

もう少し、敷衍します。

一般論として、あくまで、一般論としてですが、
「普通に聞いても、あんまり理解できない話」
という代物(シロモノ)に出くわすことがあります。

「奥ゆかしく、慎ましやかで、謙虚な畑中鐵丸」
としては、言うのが相当憚られますが、自慢でも何でもなく(ウソです。ほんの少しだけ自慢がはいちゃったかもしれません)、一応、東大卒です。

もっと言えば、東大文一(東京大学教養学部文科一類)現役合格です。

「それが、どうした! うっせえ、うっせえ、うっせえわ! テメエなんか、たいしたことねえわ!」
という声が聞こえてきそうですが、はい、そのとおり。

おっしゃるとおりです。

まったく、たいしたことありません。

しかし、そこそこ勉強してきたことは事実ですし、その過程でそこそこ知識も情報も知性らしきものも教養みたいなものも、ほんの少しだけ獲得できたような気がします。

控え目にいっても、
「日本人成人の平均レベル」程度
には、国語の読解力は実装しているかな、くらいはいえると思います。

「そんな私(注:どうでもいい話ですが、東大卒弁護士です)が聞いても、あんまり理解できない」
という現象が発生した場合、

1 私(注:どうでもいい話ですが、東大卒弁護士です)がバカなのか、
2 話している相手が混乱しているのか、
3 話されている内容が超絶的に高尚で難解なのか、
4 話されている内容が混乱していて狂っているのか、
5 話されている内容が、「シンプルに理解されては困る」という意図の下、あえて理解されないよう、難解で退屈で意味不明な体裁とされ、煙に巻くようなものとして構築されているのか、

のいずれか、あるいは複合的な原因によるものか、と決めつけます。

もちろん、この決めつけは、予断とか偏見とか言われるかも知れませんが、50年以上生きてきた経験の蓋然性として、この決めつけをして間違ったことがほとんどなく、思考経済としては極めて有効な観察・評価手法と自負しています。

そして、企業法務ないし法律の世界においては、この種の
「普通に聞いても、あんまり理解できない話」

「『意味不明な専門用語』を使ったり、『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を使わないと状況を説明できない人間」
に出くわすことが実に多いのです。

ところで、皆さんは、以下の言葉が何を指すか、わかりますか?

1 「一般廃棄物」
2 「特定商業集積」
3 「新規就農希望者」
4 「過度な母子の密着」
5 「語学学習意欲の高まり」
6 「非自発的離職求職者」
7 「各主体の自主的対応を尊重する」
8 「外国人旅行者への対応能力を整備する」
9 「平均的な勤労者の良質な住宅確保は困難な状況にある」
10 「人的資本の流動性の拡大のため環境整備を行う」
11 「円滑な垂直移動ができるよう施設整備を進めていく」
12 「住宅のあり方が夫婦の出生行動に大きな影響を与えている」

この言葉を目にすると、なんだか
「高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話」
のように思えます。

種明かしをしますと、そんな高級な話でも何でもなく、11歳でも判るようなしょうもないものばかりです。

1 「一般廃棄物」=ゴミ
2 「特定商業集積」=ビジネス街
3 「新規就農希望者」=これから農業をやりたい人
4 「過度な母子の密着」=マザコン
5 「語学学習意欲の高まり」=外国語ブーム
6 「非自発的離職求職者」=リストラされて職探しをしている人
7 「各主体の自主的対応を尊重する」=みんな好き勝手やったらいいじゃん
8 「外国人旅行者への対応能力を整備する」=簡単な英会話ができるようになる
9 「平均的な勤労者の良質な住宅確保は困難な状況にある」=普通のサラリーマンでは家が買えない
10 「人的資本の流動性の拡大のため環境整備を行う」=転職しやすくする
11 「円滑な垂直移動ができるよう施設整備を進めていく」=エレベーターを入れる
12 「住宅のあり方が夫婦の出生行動に大きな影響を与えている」=家が狭くて夜の営みがままならず、子供が作れない
(出典:『中央公論』1995年5月号、イアン・アーシー著「『霞が関ことば』入門講座(前篇)」)

なんと、
「高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話」
のように思えたものは、11歳でもギリ理解できるような、しょうもない、下世話なものばかりでした。

本質を覆い隠すには、難しい漢字を用い、難解そうな理解の障壁を作り、小難しそうな人間に運用を独占させ、皆の頭脳を混乱させる、という手法が有効です。

古来より
「知らしむべからず、由らしむべし(理解させずに、盲目的に服従させよ)」
という支配哲学がありますが、これは現代でも用いられており、我が国のエスタブリッシュメントである霞ヶ関の役人の皆様は、こういう感覚で、
「霞ヶ関言葉」
を用いて、
「霞ヶ関文学」
を紡ぎ出し、下々の一般国民を煙に巻きつつ、服従させています。

法律を生業として四半世紀を超えましたが、法律を扱う人種には、
「『意味不明な専門用語』を使ったり、『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を使わないと状況を説明できない人間」
が多いように感じますが、

4 「東大卒弁護士の私の理解を絶するほど、高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話」をしているシビれるくらいの天才

という可能性はほぼ皆無で、

先程の
「蓋を開ければ、しょうもない、下世話な話だった、霞ヶ関文学」
と同様の話を無理解・未消化のまま相手の理解キャパを考えずにダラダラ垂れ流しているだけで、

1 「『意味不明な専門用語』や 『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を記憶する程度のことは出来ても、本質を全く理解していないバカ」か、
2 「バカではないが、絶望的にトークの弱い、コミュ症」か、
3 「意味不明な専門用語』や『聞くに堪えない、上品で難解で退屈な表現』を使って、煙に巻いて相手を騙そうとしている邪悪な詐欺師

のいずれか、という場合がほとんどです。

法律を扱う人間の中には、法の本質を理解していない手合や素人を混乱させて悦に入る手合が少なからずいます。

そういう手合に限って、自分でも理解しないまま覚えた専門用語をお経を読むようにダラダラ吐き出したり、単純な理屈に、ウソや建前や理屈を注入し、難解な言葉で装飾して、理解しようとする人間の頭脳を混乱させたりします。

「真の法律の理解や解釈」
というのは、むしろ、混乱要素(権力者や支配者が理解をさせないために意図的に仕掛けた手口による混乱)を取り除き、本質を見抜き、シンプルに、わかりやすく提示することです。

法は、11歳の知能水準さえあれば、理解できる、単純で明快な正義や公平の考え方しかなく、
「平均的日本人の理解を絶するほど、高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話」
など皆無です。

もし、法が
「平均的日本人の理解を絶するほど、高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話」
のように思えるとするなら、既存の権力が、法を支配正当化の道具や、(機能的識字が出来ない、本質が理解できない一般庶民を盲目にした状態で服従させるという意味において)格差を固定化する道具として、目くらましに使おうとしているからではないでしょうか。

私としては、企業法務にはびこる
「一見、『平均的日本人の理解を絶するほど、高度な意義と価値はあるものの、超絶的に高尚で難解で専門的な話』のようだが、実際はしょうもない、下世話な話」
を、
「11歳の知能水準でも理解できるように、ノイズを取り除き、単純化・平易化する」
ことを通じて、
「企業法務」
という営みを、フラット化して、民主化し、多くの方が手軽に触れられるように解放したい、という
「野望」
をもっています。

「企業法務」

「一部専門家の間で独占・寡占される閉鎖的で非民主的な秘密の知見」
ではなく、ビジネスや企業に関わるあらゆる方々が、手軽に、気軽に実装できるものとなれば、すべての企業活動やビジネス活動が、より安全で、より合理的に、より合法的に進められ、産業界の法的安全保障レベルが向上・改善されるのではないでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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