戦いにおける地の利の分析や、安全保障における地政学と同様、法的紛争解決を戦略的に志向する場合にあっても、環境を俯瞰的・客観的に観察し、機能的に理解・評価することは、非常に重要です。
これは筆者の造語ですが、この種の機能的状況観察(場合によっては、経時的変化を検討する、展開予測も含む)という営みを「ランドスケーピング」「法的・戦略的ランドスケーピング」と言うことがあります。
まず、そもそも、クライアントにおいて、
「こんなの法務課題ではない」
「こんなの普通に雑談していれば自然に解決できる」
「相手も常識人として普通に対応してくれるはずだから弁護士が出るような話でもない」
といった形で、楽観想定、楽観バイアスが働いている場合があります。
「こんなの法務課題ではない」
「こんなの普通に雑談していれば自然に解決できる」
「相手も常識人として普通に対応してくれるはずだから弁護士が出るような話でもない」
という素人さんの見立て(ランドスケーピング)が往々にして致命的に誤っている点については、下記拙稿で指摘しているとおりです。
引用開始==========================>
そんな
「言った言わない、話が違う」
ということなんて、普通の認知と記憶と常識があれば、起こり得ない、と言われそうです。
確かに、1000円貸した貸さない、とか、
「その本、私もう読んじゃったのがあって、メリカリで売ろうと思っていたから、500円で譲ってあげる」
みたいな話であれば、
「言った言わない、話が違う」
なんてことは生じ得ません。
お互い譲り合えばいいだけですから。
しかし、億単位、あるいは数十億円単位の話となれば、別です。
億単位、あるいは数十億円単位の話は、常識を超えた話です。
そんな常識を超えた話にトラブルが発生し、
そこは1つ常識的に、
ここはお互い譲り合って穏便に、
まあまあ、相身互いで、円満に行きましょう、
といって、納得するはずがありません。
だって、常識を超えた額の話ですから。
常識が通用しないスケールの話ですから。
ちょっと勘違い、食い違い、想定外、思惑違いがあったので、
ちょっとタンマ、
ちょいノーカン、
そこは許して、
譲って、
という話のサイズが、数億円、数十億円のロスやダメージの容認となります。
そんなことをにっこり笑って許容するなんてしびれるくらいのアホは、ビジネス社会では生きていけません。
たとえ、しっかり認知していて、はっきり記憶していて、ただ、契約書がなかった、あるいは契約書の記載があいまいだった、という事情があって、相手の言っている内容が事実としても記憶としても間違いなく常識的で正当な内容であっても、
「契約書みてもそんなことは書いていない。書いていない以上、認めるわけにはいかない」
と突っ張るのが、責任ある企業の経営者としての態度です。
すなわち、
「言った言わない、話が違う」
ということなんて、普通の認知と記憶と常識があれば、起こり得ない、
というのは、1000円、1万円の話であればそのとおりですが、ビジネスや企業間のやりとりにおいては、些細な勘違い、食い違い、想定外、思惑違いであっても、契約書や確認した文書がなければ、すぐさま、
「言った言わない、話が違う」
のケンカに発展し、常識も情緒もへったくれも通用しないトラブルに発展することは日常茶飯事なのです。
<==========================引用終了
億単位の話ではないとしても、企業としては、沽券やメンツがかかっているので、そう簡単にミスを認めるわけにはいきません。
このような企業の沽券やメンツという価値は、それこそプライスレスであり、表面的な金額とは別に、億単位以上の話かもしれません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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