相手をこちらの提案に妥協させるためには、武器が必要です。
武器でもって、相手の急所を押さえてはじめて、交渉が可能となります。
これは、裁判官に対しても同様の思考と発想で事態対処計画を練ります。
要するに、こちらの言い分を相手に聞かせるためには、どういう力の行使が可能か、ということです。
1 相手の急所とは何か
2 相手は何をすれば嫌がるか(相手にとって忌避すべき状況は何か)
武器を定義してはじめて交渉が展開可能となるのです。
たとえば、相手にとって忌避すべき状況が、
1)家賃を支払われず、延々と居座られること
2)追い出しや家賃を請求しようとして訴訟を提起しても、年単位での時間と費用と労力がかかり、かつ、勝敗がどこまでいっても定かではない
というような状況である場合、
「早々に出ていきたい」
と相手に言うことは、掴んだ相手の急所を放すようなものであり、交渉としては悪手、ということです。
裁判所が相手を説得するにも、
「このままだと困るのだったら強硬な条件を撤回して、早期に現実的な和解をしてはどうか」
という言い方をして、はじめて、相手への制御の契機を手に入れられます。
それなのに、
「早く出ていきたい」
というメッセージを発してしまうと、撤退戦において、武装解除して、背中をがら空きにして逃げるようなもので、なで斬りにして殲滅させられる、ということなのです。
最善策としては、和戦(和睦と戦争)両用の構えで、水面下では移転の準備をしつつ、対相手方・対裁判所においては、構築陣地で持久戦をする姿勢を誇示しつづける作戦が必要となるでしょう。
ちなみに、あまり露骨に移転先を探し始めると、相手は、こちらの動きを察知して、
「なんだ、もう音を上げて出ていくのか。だったら、もっと条件を釣り上げてやれ」
と、どんどん攻勢を強めてきます。
交渉する、と決めたのであれば、手の内を明かすようなことは、してはなりません。
このあたりの外交の緊張感と機微の重要性は、よくよく理解しなければならない、ということです。
そのためには、立場を交換し相手の脳内に入り込んで想像しなければならない、ということなのです。