01941_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その2_役割分担設計

弁護士の起用については、その役割分担設計が、カギをにぎります。

弁護士の側にたってみる(弁護士視点)と、留意すべきことが明瞭となるでしょう。

たとえば、オーナー経営者が弁護士に対して
「契約書の文言の違いを教えてほしい」
と、助言を求める場合があります。

それは、交渉ごとの、作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違いを求めているということであり、作戦全体の協議では、ありません。

整理すると、オーナー経営者の求めた助言は、
「作戦環境の認識・評価・解釈、適用されるべき作戦原理(交渉ごとのアーキテクチャ・ロジック・ルール)、作戦目標の設定、障害課題の抽出、選択肢の創出、プロコン分析、遂行方針の決定、遂行」
のすべてを、依頼者であるオーナー経営者本人の権限と責任で実行する前提で、依頼された弁護士は、
「作戦全体の協議に応じる必要はなく、個別課題の部分最適に徹すればよい」
ということを意味します。

ですから、弁護士としては、作戦全体の協議を求められているわけではないので、余計な口を挟むことなく、
「作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違い」
に対して端的に答えるだけ、という役割になります。

さて、ここで、弁護士として困るのは、(法務専門家でない)オーナー経営者本人がとりあえずやってみて、うまくいかなかった場合に、突然、弁護士に
「ここから先は頼んだ」
とバトンタッチする、という場合です。

弁護士側からすると、途中から、
「作戦全体についてよろしく」
ということで、はじめて聞く内容を伝えられ、そこには弁護士が認識していた交渉ごとの実体・仕組みとはまったく異なる交渉経過が記されている、というようなことなのです。

そして、このケースは、現実には少なくありません。

むしろ、現実は、規模の小さな会社組織であればあるほど、多いのです。

たとえるなら、
・「索敵と敵情視察だけしてきて報告せよ、作戦構築は口出し無用」と厳命され作戦協議から排除されながら、戦局不利となったら参謀総長と全体指揮を任される状況
あるいは、
・最高級の食材を、料理経験のない人間の適当な仕込みで途中まで仕上げた得体のしれない料理を、うまくいきそうにないから「後は任せる」と3ツ星シェフが言われるような状況
です。

「ことの発端から、タブーや遠慮なき、自由な議論を求められ、その上で、作戦に関与する」
というならさておき、議論にタブーや遠慮が求められ、また、個別最適の論点のみ聞かされるような状況で、失敗したら途端にスケープゴートにされる、というのは、弁護士としては愉快ならざる状況であり、仕事の道義としてもどうだろうか、ということなのです。

「契約書の文言の違い」
の1つとっても、弁護士との役割分担設計が明確になされなければ、結果として、カネ・時間という資源がどんどん費消され、オーナー経営者が願う結末にたどり着く可能性が限りなく低くなるのは当然、となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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