01953_契約書のチェックの工程その5_加筆修正

契約書の加筆修正段階において、校正範囲が広がることがあります。

これは、
「大は小を兼ねる」
「“及ばざるより過ぎたる”を作り、ヘアカットしていく方が作業として合理的」
という業務プロセス理念により、ありうべき修正ポイントをできるだけ加筆するからです。

もちろん、その過程で、誤脱字や重複等ができることもありますが、
「契約書は上書きや過剰・重複は無害」
という“作成ルール”で、まずは加筆していきます。

そして、かなりの時間をかけて
「立場交換シミュレーション」
をし、(相手方にとっては)合理的・論理的な修正が難しいような
「論理と秩序と書きぶり」
を施していきます。

最後に、全体をチェックしながら、
「不合理なもの」
「相手に無用な刺激を与え、ディールブレーカーとなるようなところ」
を削除し、“落とし所に落ち着くように”していきます。

このあたりの工程については、”1文字”あるいは”句読点をどこに打つか”によって、大きく変わることもあります(経験の差、とも”職人技”ともいわれます)。

相手方の意図を最適化しようとすると、隘路に迷い込みます。

暴力的な変更をすると、実態が露呈し、(相手方との)今後の信頼関係に関わります。

相手方から、何らかの論理をひねり出したり、あるいは(相手が格上の場合だと)暴力的・権威的に再修正や原文回帰を求めてくることもあります。

”合意優先がプロジェクトゴール”となる契約では、”妥協は必然”となりますが、契約書修正のやりとりというものは、
1)相手方の意図との齟齬が明らかになるので、今後の外交対処に有益な展開予測情報が得られる
2)不合理あるいは暴力的な相手方に、「まあ、目をつぶってやる」と妥協することで、心理的に優位に立てる(貸しを作れる)
という価値がある、という考え方もできましょう。

双方、納得のいく契約書ができあがれば、契約書のチェック工程は終了となります。

場合によっては、調印前のPDFと、調印版のPDFのチェックを(弁護士からクライアントに)提案することもあります。

それは、
1)調印前のPDFについては、最終校正版との差分検証が必要なのではないか
2)調印後のPDFについては、今後、解釈運用上の齟齬やトラブルが生じた場合に、原典にスピーディーにアクセスする必要があるのではないか
という配慮によるものであり、

すなわち、
1)については、最終校正版から知らない間に有害な毒性加筆・削除がなされた例があること(完全合意条項があれば、最終確認しなかった側の手落ちとなります)や、
2)については、トラブルを起こすような属性のクライアントや、トラブルを起こすような時や状況に限って、往々にして、「契約書が手許にない」「最後のドラフトはある」「調印版が見当たらない」と、捜索作業がはじまり、迅速かつ効率的な対処のための時間や機会を喪失する、
という(弁護士の)経験則に基づきます。

以上のようにして、クライアントの利益と状況上の展開予測を慮った想定を行いながら、契約書の工程をすすめます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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