1 労働法、みんなで無視すりゃ怖くない?
企業活動に必須の経営資源は、ヒト、モノ、カネ、チエなどといわれますが、
「ヒト」、
すなわち、
「労働者」
という経営資源は、これらの筆頭に数えられるくらい重要なものです。
他方、企業経営者にとって、もっとも知識がないのも、労働取引に関するルール、すなわち労働関係法規です。
これにはきちんとしたデータの裏付けがあります。
毎年、
「労働白書」
というものが刊行されますが、ここに、労働基準監督官による事業所調査を行った際の結果が統計データとして公表されます。
これによりますと、国内の事業所において、労働関連法規(労働基準法や労働安全衛生法等)の違反率は毎年70%前後(遵法企業の割合ではなく、違反企業の割合です)、業種によっては85%前後(何度も申し訳ありませんが、これは「遵法」企業の割合ではなく、「違反」企業の割合です)もの割合で労働関連法規違反が発見され、指摘されている、とのことです。
要するに公刊されている白書を前提にすると
「日本では、10社中、7、8社の企業が、労働関連法規を平然と無視して経営している」
という実体が浮かび上がってきます。
ですので、労働問題といえば、税務問題と並び、
「どの会社もつつけば、“必ず”ホコリが出る」
という法務課題の代表選手です。
そのせいか、最近、政府の政策でウジャウジャ増殖した弁護士が、労働者の代理人となって、企業をバンバン訴えています。
辞めた従業員等から訴えられた企業が、弁護士の事務所にやってきて最初におっしゃるのは
「先生、聞いて下さい。こんなインチキ通るんですか! こんなの絶対おかしい。出るとこ出たら、はっきりします。絶対勝って下さい!」
という趣旨のことです。
しかしながら、冷静に事実関係の詳細を確認し、適切に関係法令や裁判例をお示しした後は、たいていの件は企業側に非があり、
「出るとこ出た」ら、
却って自分の方が恥を晒す、ということをご理解いただけます。
相談に来た当初は鼻息荒かった社長や人事責任者も、ションボリして小さくなり、最終的には、
「なんとか和解でお願いします」
と蚊の泣くような声でおっしゃいます。
2 知ってました? 「ヒト」と「モノ」は使い方が違うんですって!
企業が労働法でけつまづく大きな原因は、企業が、
「ヒト」
と
「モノ」
の区別は今ひとつ理解していない、ということに原因があります。
その昔、といっても、近代よりはるか前の頃、人類社会には奴隷制度というものがありました。
その時代、労働力を提供する
「奴隷」
といわれる人たちは、人間としての権利や尊厳を与えられず、
「モノ」
と同様に扱われていました。
例えば、我々は、仕事で必要な情報処理をする際、パソコンという
「モノ」
を使います。
パソコンは、手頃な値段で購入でき、実によく、いろいろな情報処理をしてくれます。
ところが、何年かたつと、壊れたり、陳腐化したりして、使えなくなってきます。
そんなとき、我々は、使えなくなったパソコンをどうするでしょうか?
使えなくなっても、何十年も大事に保管しておくでしょうか?
使えなくなっても、何十年も保守料支払い続けるでしょうか?
使えなくなっても、職場の目立つところに置いて忘れないようにするでしょうか?
そんなことは、一切しませんよね。
速攻でゴミ箱にポイですよね。
では、労働者はどうでしょうか?
労働者が、安価に、いろいろな情報処理や指揮命令された作業をこなしてくれる間はいいのですが、労働者によっては、何年かたつと、壊れたり、陳腐化したりして、使えなくなってくる、ということがあります。
そんなとき、経営者は、使えなくなった労働者をどうするでしょうか?
使えなくなっても、何十年も大事に雇用を継続しておくでしょうか?
使えなくなっても、何十年も賃金を支払い続けるでしょうか?
使えなくなっても、職場の目立つところにおいて忘れないようにするでしょうか?
「んなことは、一切しません。速攻で解雇してポイ」
と言いたい社長さんがほとんどではないでしょうか?
また、こういうことを実際やってしまう社長さんも相当数いらっしゃると推測されます。
なんつっても、
「日本では、10社中7、8社の企業が、労働関連法規を平然と無視して経営している」
という実体があるくらいですから。
しかし、残念ながら、同じ経営資源であっても、奴隷制度を採用しない近代法治国家においては、法律上、
「ヒト」
と
「モノ」
は明確に区別され、パソコンでできるような廃棄物処理が、
「ヒト」
では一切許されないことになっているのです。
このように、ヒトとモノの区別が今一つできていない、人権感覚が、中世封建時代の領主のような古臭い、カビ臭い企業トップがあまりに多く、そのため、
「日本では、10社中、7、8社の企業が、労働関連法規を平然と無視して経営している」
実体が改善されず、厳然と存在しているのです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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