00032_企業法務ケーススタディ(No.0006):銀行支店長から持ち込まれる投資案件には要注意

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
有明製パン株式会社 オーナー 有明 聡子(ありあけ さとこ、61歳)

相談内容:
先生、ごきげんよう。
ところでね、先生ね、今日はちょっと先生のご意見をうかがいたいんです。
芝浦に長年使っていないパン工場跡地があるんですけどね、最近、また不動産市況がいいみたいで、都心に新築マンション作ると結構いい値段で売れるそうなんです。
当社は、バブル期に等価交換やらサブリースやら銀行に散々騙されましたんで、今度は、人に頼らず自分でやろうと思いまして、工場跡地マンション作って売りに出そうと思ってるんですの。
雑誌で読んだんですけど、所帯染みたマンションじゃなくて、デザイナーズマンションっていうんですか、ナウなヤングの情報発信基地みたいな、え?
今そんな言葉使わない?
あ、そ。
ま、ようするにハイカラなマンションなんですのよ。
そういうのつくると、バカ売れするそうですのよ。
それで、先日、この計画をメインバンクの“よこしま銀行”の支店長に話したところ、
「是非、この会社を使ってください。
もう、ナウなヤングにバカ受けのマンション作らせたら、ここ、ほんと、バッチグーです」
なんていって、よこしま銀行さんがメインバンクやってらっしゃる建設業者を紹介してきたんです。
中堅ゼネコンで、”ツキナミ建設”っていうんですが、パッとしないし、なんか公共工事減って経営苦しいって噂聞くし、私としては、正直、二の足踏んでるんですけど、よこしまの支店長は、
「ツキナミさん使っていただければ、建設資金の融資についてはどのような相談にでも乗ります」
なんていってるんです。
先生、どう思います?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:銀行紹介の取引案件の危険性
このケースは、バブル期(といってもかれこれ10年以上前の話ですが)に実際あった事件を参考にしたものです。
バブル経済においては、銀行がいろいろな商品を紹介してくれました。
銀行の支店長室に取引先を呼びつけ、
「完成もしていない(その後も完成しなかった)ゴルフ場でプレーする権利」

「株式市場が冷え込むと大損するような危険な保険商品」
やらを、
「今、買わなきゃバカですよ」
なんて言葉とともに紹介し、買うカネがないと、ご丁寧に融資までしてくれました。
当時、銀行法には、銀行業以外やっちゃいけないというルールがあったのですが(当時の銀行法12条)、
「そういうくだらないルールを守っていたら、健全な金融資本主義は発展しませんよ」
なんて言葉が返ってくる。
バブル時代って、そんな時代だったようです。
「泣く子と地頭には勝てない」
などという諺がありますが、裁判においても
「役所と銀行には勝てない」
という不文律があります。
銀行や役所は、もともと頭がいい上、あらゆる局面で言質を取られない慎重さがあり、加えて、
「役人と銀行員とインディアンは決して嘘をつかない」
という認定則があると思われるぐらい、裁判所では行員の証言は100%信用されます。
設例で参考にした事件は、
「銀行が債務超過の建設業者を契約の相手方として取引先に紹介し、一旦はビル建設を断念した取引先を翻意させてまで契約させ、債務超過という事情を知らない原告に融資金を建設業者の口座に振込ませ、銀行は不良債権を優先的に回収しておきながら、建設業者が破産しても知らんぷりした」
なんてひどいケースでしたが、高裁では銀行が勝訴しています。

モデル助言:
「晴れのときに傘貸して、雨のときに傘を返せというのが銀行」
なんていいますが、資本主義社会において、銀行ほどしたたかな企業はありませんが、有明さんもそういうしたたかなところは多いに見習ってくださいね。
ゴルフ会員権であれ、変額保険であれ、銀行が盛んに勧めることに真に受けると、たいてい待っているのは地獄ですから、警戒は怠らない方がいいでしょう。
ツキナミ建設が万が一つぶれると、マンション建設は頓挫しますが、よこしま銀行としては、そういう場合でも、貸し付けた建設資金はどんなことをしてでも回収してきます。
そこで、こういうのはどうでしょうか。
よこしま銀行さんに対して
「そんなにツキナミ建設を勧めるのであれば、ツキナミ建設が履行すべき施工義務について連帯保証人になってくれ。
それが無理なら、ツキナミ建設が破綻してマンション建設が頓挫した場合、貸金の返済義務を免除するとの念書を差し入れろ」
と言って、踏み絵を差し出すのです。
こういう踏み絵に躊躇するということは、
「ツキナミ建設を勧めるが保証はしない。
ツキナミ建設が破綻しても、建設資金として貸した金は返してもらう」
と言っているのと同じですよね。
そうやって、よこしま銀行の本音をまず確認してから、今回の話を進めるかどうか判断すべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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