リスク管理・戦時対応の専門家である弁護士が立てる有事対応プラン(一種の「軍事作戦」という例え方も可能かと思います)の計画・立案と実施・遂行においては、
「悲観的・現実的に考え抜いて計画するが、着手し、実行したら最後、見極めに達するまでは、最善を信じて全力で遂行する」
という態度が推奨されます。
このような知的な対処手法は、平時のビジネスも同じだと思います。
「楽観的に計画し(あるいは計画すらせず、単なる思いつきで)、適当に遂行してみて、少しやってみてうまくいかないと、何が原因かわからないまま、見極めに到達しない段階ですぐに諦める」
というやり方ですと、当然うまくいきませんし、次の学びのための情報収集すらできません(無論、うまくいかないことが明らか、という見極めに達してもなお、サンクコストバイアスに罹患して、泥沼化したプランに拘泥するのは愚かです)。
「悲観的・現実的に考え抜いて計画し、とはいえ、最後まで不確定要素が残る以上、最後は腹をくくって、勝負に挑み、戦いの最中は、勝敗を顧慮せず目の前の状況対処に全神経を集中させて最善を尽くし、見極めに達するまで一途邁進する」
というのがビジネスで成果を出すための態度であろう、と考えます。
ところで、
「軍事作戦の立案・遂行」と「ビジネス(要するに金儲け)の立案・遂行」
とでは、決定的な違いがあります。
「軍事作戦の立案・遂行」とは、要するに、
「相手の1万円札を燃やすために、10万円で火炎放射器を買い揃える」ような、
壮大な資源の無駄が生じる営みです。
「非生産的な営みの極地ともいえる裁判沙汰」は、
「お金を払ってくれる客に資源を費やすのではなく、『紛議』という得体のしれない時間泥棒・資源泥棒に、ただひたすら希少な運営資源を食い尽くされること」
を意味します。
立案段階においてすら、腹が立つくらい面倒です。
すなわち、
「軍事作戦の立案・遂行」
といっても、相手への憎しみに駆られて、思いついた攻撃手法を手当り次第に実施していけばいいというものではありません。
もともと資源消耗が著しい営みにおいて、できる限り、効率的な資源消耗を目指すなら、立案段階で、
1)相手方への対処・対応のための論理の模索
2)相手方への対処・対応のための方針の選択
3)相手方への対処・対応のためのプロトコル(要領・手順)の策定
といったプロセスを踏む必要であり、その一つひとつの知的プロセスに時間と資源を必要とするのです。
ビジネスにおいて、
「流行っているから売れる」
「これなら儲かりそうだから」
という雑な感覚で資源動員をしても、売れ残りを抱えて大赤字になったり、店を構えても閑古鳥が鳴く有様で大損を出したり、というのはよくある話です。
「少ない予算や資源を効率的に活用して、最大の効果を」
というのは、ビジネスであれ、軍事作戦であれ同じであり、そのためには、
「賢い無駄遣い(資源消耗)のための、賢い計画策定」
が必要となります。
すなわち、危機事態の観察・評価・解釈やそこからの展開推移を予測し、その対処・対応のための論理を調査・発見し、当該論理に基づいた対処方針と対処プロトコル(要領・手順)を立案・策定するというプロジェクトを立ち上げ、遂行しなければなりません。
「危機事態の観察・評価・解釈や展開予測」
に際して、弁護士は、膨大な裁判例のなかから似たような紛争実例等の検索調査等を行うこととなります。
裁判例は、法令とは違い、裁判官ごとの傾向(いわば「全国に2800存在する独立国家機関」の傾向)という程度のものなので、逐一傾向解析等の上、論理を探り当てるような営みとなります。
なお、この営みは、顧問業務(特段の調査を要せず、ゼネラルな知見で、即座に応答できる助言をカバー)の範疇を超えることとなりますので、顧問料とは別途の調査料が発生します。
さらに、その後も、特定事案についての、現実的で達成可能な作戦目的の定義(SMART基準による目的定義)、目的達成のための課題や障害の発見・特定、課題対処のための方法論(戦略)の抽出とプロコン評価と選択・決定、作戦遂行のための予算を含む資源動員などなど、延々とお金のかかる話が続きます。
「弁護士費用や裁判所利用料としての印紙代という外部化客観化されたコスト」
さえ支払えば、すぐに、解決できるようなものではなく、気の遠くなるような時間と資源を動員することを、理解しておかなければなりません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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