有事・戦時の作戦協議(作戦協議の前提としての状況の認知・整理・観察・評価・解釈・展開予測や、作戦立案する際に適用するべき有事空間におけるゲームのロジックやルールやアノマリー等の採否を含む)においては、議論の本質を、短時間で、かつ鮮明に浮かび上がらせることが最優先と考え、カジュアルに、リラックスした雰囲気で話をすすめることが推奨されます。
もともと、ミリタリー空間におけるゲームにおいては、
「何でもあり」
がゲームの基本ですから、硬直した思考や、シビリアン空間における常識に囚われていては、状況や展開推移を見誤り、致命的な状況に陥りかねません。
想像力を刺激するような環境で、参加者全員がフラットな関係に立ち、非常識を歓迎し、タブーのない議論や、たとえ腹が立つような内容であっても相手方の立場に立った思考を鮮明に浮かび上がらせるような協議こそを是とすべきです。
筆者としても、有事・戦時の作戦協議においては、クライアントが腹を立てるような認識や展開予測を披瀝しますし、たまに、
「いい加減にしろ」
と怒り出す方もいます。
ですが、筆者の認識や展開予測は、腹が立つくらい的中し、これに対する備えが後日奏功する場合がほとんどです。
すなわち、
「秩序破壊型アドバイザー」
との対話を通じた作戦協議が、有効適切な作戦立案には絶対的に必要である、と考えます。
「秩序破壊型アドバイザー」とは、
有事対処のような正解も定石もない営みを設計・構築・実施する上で必要な外部知的資源として、既存の秩序を否定し、愚弄し、引っ掻き回し、こき下ろすような、エイリアンのような存在です。
すなわち、自社や業界に生息せず、社内や業界に生息する人間とはまったく違う価値観や生き方をしてきて、責任者(リーダー)に媚びず、臆せず、既存の権威やシステムや価値観を全否定し、新たな着眼点やブレイクスルーアイデアを提示してくれる人間です。
作戦協議においては、カジュアルでリラックスした雰囲気が推奨され、実際、筆者は、そのような雰囲気で協議を行いますが、話し方のマナーやトーンとは裏腹に、話される内容は、極めて重要な決断課題、誤解をおそれず飾らずに言えば、
「会社や個人運命・生き死に」
をポーカーチップにしたギャンブルにおけるベットに関する決断です。
すなわち、何か正解や定石があるわけではなく、いってみれば、いずれも不正解の選択肢しかなく、どれが
「よりマシな不正解」
を選ぶ営みです。
「じゃあ、どうすりゃいいの?」
と答えを求めたくもなるでしょうが、どんなに優秀な弁護士であれ、正解や定石を知りません。
知っていたら、とっくに教えています。
正解や定石は存在しないのです。
要するに、
「最善解」ないし「現実解」ないし「よりマシな不正解」
を選ぶしかなく、しかもそれが、極めて重要な決断課題だということです。
ちなみに、正解や定石は存在しない営みを協議する場において、
「正解や定石はこれだ」
と断言する手合がいますが、こいつは、間違いなく、詐欺師です。
まともな弁護士は、詐欺師ではありません。
したがって、まともな弁護士であれば、
「正解や定石が存在しない営みにおいて、正解や定石はこれだ」
という嘘はつきません。
そして、
「最善解」ないし「現実解」ないし「よりマシな不正解」
を選ぶ上では、
1)法務・安全保障課題に関する前提リテラシーの実装と、評価・解釈・展開予測
2)各選択肢のプロス&コンス(長所・短所)
を明確に整理した上で、要するに、ギャンブルの選択状況をしびれるくらいビビッドにミエル化・カタチ化・言語化・文書化した上で、サイコロを振る、という対処姿勢が推奨されます。
態度決定の前に、まず、しっかりと状況を整理し、その上で、最終的に納得した上で、
「最善解」ないし「現実解」ないし「よりマシな不正解」
を選ぶべきです。
もちろん、当該選択について助力が必要であれば、弁護士は支援をします。
支援はしますが、選ぶのは、総大将である当事者です。
そして、選び終わったら、今度は、
選んだ「最善解」ないし「現実解」ないし「よりマシな不正解」
を正解に近づけるための努力をしていくことになります。
いずれにしても、何らかの決定をする場合、当事者にとって、非常に重要な決断になりますので、いろいろ時間的切迫性はあるものの、十分な精神的余裕を担保した上で、慎重にすべきです。
以上含めて、決断は、すべての展開予測を前提に、慎重にも慎重を重ねることが肝要です。
とはいえ、どこまで突き詰めても、最後は、ギャンブルであり、決断するほかありませんし、悩んだり、先送りしたところで、どんどん時間と機会と選択肢を喪失し、追い詰められていくだけです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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