本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由をご覧ください。
相談者プロフィール:
ファイヤー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 鬼田 厚史(おにた あつし、57歳)
相談概要:
相談者の会社では、中途採用した社員を持て余していました。
就業規則には、
「労働能力が劣り、向上の見込みがない」
場合には、普通解雇ができる、とあったので、相談者は、
「まさにあてはまるから、解雇に問題はない」
と、1カ月分の給料を手当てして、問題社員の解雇を決意しました。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【事例紹介編】その1、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【事例紹介編】その2をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 「解雇権濫用法理」と労働契約法16条
労働契約法16条は、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用(らんよう)したものとして、無効とする」
と明文で規定しています。
これは
「解雇の権利は、形式上・字面上、企業側に認められてはいるものの、そう簡単に使うことはまかりならん。
仮に、イージーに解雇の権利を振り回したら、濫用した、との理由で、一切その効力を認めてやらんからな」
という法理です。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【「解雇権濫用法理」と労働契約法16条】 をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 「オマエなんて今すぐクビ!」と言えるのはドラマの世界の中だけ
労働契約法16条、条文の基礎となった最高裁判決(高知放送事件、最高裁昭和52年1月31日判決)では、次のような事情についてすら、解雇が無効とされました。
ラジオ放送のアナウンサーが、
1)宿直勤務で寝過ごし、午前6時からの10分間のニュース番組を放送することができなかった。
2)その2週間後、再度寝過ごし、午前6時からの10分間のニュース番組を、5分間放送できなかった。
3)2回目の寝過ごしの際、上司から求められた事故報告書に、事実と異なる内容を記載した。
法律上の解雇理由があったとしても、労働基準監督署から解雇予告除外のための事前認定をもらわない限り、解雇は1カ月先にするか、1カ月分の給与(予告手当)を支払わないと、手続き上、
「即時解雇」(今すぐクビ)
をすることはできません。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【「オマエなんて今すぐクビ!」と言えるのはドラマの世界の中だけ】をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 確実に解雇できるのは本人が有罪判決を受けたときくらい!?
日本の法令環境において解雇が認められるのは、殺人や傷害や強盗や窃盗や横領背任などの犯罪行為や、それに準じるような非違行為を従業員がやってしまった場合です。
しかし、
「無罪の推定」
という近代社会のルールがある以上、
「逮捕された」
「起訴された」
程度では、解雇は認められません。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【確実に解雇できるのは本人が有罪判決を受けたときくらい!?】をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 会社の解雇権は有名無実化している
逮捕や起訴のような状況であってもなお、解雇は得手勝手にできるわけではありません。
「とりあえず、判決出るまで休職にすべき」
という法理が浮上するからです。
それほどに、労働者はシビれるくらい手厚く保護されており、半面、会社の解雇権は有名無実化しているのです。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【会社の解雇権は有名無実化している】をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5: 「著しく労働能力が劣り、向上の見込みがない」ことの立証が必要
東京地裁平成11年10月15日決定(会社側敗訴の裁判事例)では、
「平均的な水準」
に達していなかった従業員について、就業規則に規定されていた
「労働能力が劣り、向上の見込みがない」
にはあたらず、本件解雇は無効であるとの判断がなされました。
要するに、裁判所は、
1)「クビにしたい従業員の能力が平均以下」というだけではダメ
2)他の従業員と比べると成績が低い、という相対評価ではなく、絶対評価で「著しく労働能力が劣る」必要があること
3)「向上の見込みがない」にあたるためには、体系的な教育、指導を実施したのになお、向上しない、ということが必要であること(かつ、そのような教育・指導をした証拠があること)
を求めているのです。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【「著しく労働能力が劣り、向上の見込みがない」ことの立証が必要】その1、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【「著しく労働能力が劣り、向上の見込みがない」ことの立証が必要】その2をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6: 裁判に至る解雇トラブルにおいて、会社がやらかしたミス
上記の裁判例では、具体的に証拠をもって裁判所に説明できなかったことが、会社敗訴の原因の1つとなっています。
「過去数年間にわたる、従業員の傍若無人ぶりや、従業員に対する教育等」
について、会社が文書化して証拠としていなかった、というミスが、裁判での負けを導いたといえるでしょう。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【裁判に至る解雇トラブルにおいて、会社がやらかしたミス】をご覧ください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点7: 解雇不自由の原則(“解雇不可能”の原則)
東京高裁平成25年3月21日判決(会社側勝訴の裁判事例)では、適切な証拠が会社から提出された結果、普通解雇を認めた判決が下されています。
しかし、会社が勝訴するまでに費やした時間、労力、コストを考えると、
「企業経営として現実的に考える限り、解雇は、やっぱり“事実上”不可能」
というほかないと思います。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【解雇不自由の原則(“解雇不可能”の原則)】をご覧ください。
モデル助言:
辞めさせたい従業員と縁を切るには、相手に退職を納得してもらい、辞めていってもらうのがもっとも正しい方法です。
さらに言うと、忙しいからといって、能力や適性を考えず、だれでもかれでも採用する姿勢自体、考え直したほうがいいかもしれませんね。
以上の詳細は、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【今回の経営者・鬼田(おにた)社長への処方箋】その1、ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由【今回の経営者・鬼田(おにた)社長への処方箋】その2をご覧ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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