国家権力の中でもっとも強力な権限は何でしょうか。
法律を作ることや、法律を執行することでしょうか。
他方、現日本国憲法は、法律に対する優位と最高法規性を宣言しておりますので、法律が憲法に違反して無効である可能性を否定できません。
すなわち、
法律を作る権限(東京都千代田区永田町所在の国会が有する立法権力)
や
法律を執行する権限(内閣を頂点とし、千代田区霞が関界隈に多数存在する行政官庁が有する行政権力)
の上に、
当該立法や法執行を憲法に照らして審査し、無効と宣言する権力
というものが観念され、現実にそのような権力と当該権力を振り回す国家機関が存在するのです。
これは、
「違憲立法審査権」
と呼ばれるパワーですが、立憲国家においては、国家運営におけるもっとも強力な権限であると認識されています。
この違憲立法審査権を、どのような国家機関に所属させるかについてはいろいろモデルがあります。
フランスやドイツのように、一般の裁判所とは別系統の特別の裁判所を創設し、これに違憲審査を行わせるようなシステムもあります。
わが日本は、イギリスやアメリカと同様、通常裁判所に違憲立法審査権を付与しています。
その意味では、裁判所(千代田区隼町所在の最高裁を頂点とする全国の裁判所)は、
通常司法権
のほか、
違憲立法審査権
という、
「立法権力や行政権力も凌駕するもっとも強力な国家権力」
を保持しており、
「我が国最強の権力集団」
ということができます。
しかし、これはよく考えてみると、相当特異なシステムといえます。
くだらない民事の揉め事や
下世話な離婚の話、
窃盗や詐欺などしょうもない刑事事件の面倒
をみている国家機関が、
「国会の立法権限や行政官庁の法執行をぶっ飛ばすようなラディカルな事件を担当し、判断し、最終的に結論を出し、シロクロ決めて裁いてしまう」、
ということですから、ある意味無茶苦茶なシステムです。
例えば、東京地裁の例でいうと、民事2部、3部、38部、51部は
行政“専門”部
と呼ばれ、こちらは、行政事件しか割り当てられません(専門部とは、特定の種類の事件が集中的に配点され、かつ、通常の事件が配点されない部をいいます)。
他方、京都地裁民事3部は、
行政”集中”部
と呼ばれ、こちらは、日本国が被告となるような行政事件を集中的に審理するのですが、当該部においても通常事件も割り当てられます(集中部とは、特定の種類の事件が集中的に配点され、かつ、通常の事件も配点される部をいいます)。
したがって、京都地裁民事3部では、
「午前中は、国土交通大臣を被告とする国家賠償請求事件、午後は貸金と契約違反と近隣紛争」
なんて形で、国を揺るがすような大事件と犬も食わないような民事の揉め事が同じ感覚で裁かれる、という実にシュールな光景が繰り広げられたりする可能性が現実的にあったりします。
さらに言うと、もっと小さな規模の地方裁判所や支部になると、単独の部や、1人の裁判官が、民事事件も刑事事件も行政事件も扱うこともあるでしょう。
いずれにせよ、裁判所が日本国の中でもっとも強力な権力を有することは明らかであり、裁判所の前では、泥棒も詐欺師も民事の揉め事の当事者も首相も大臣も等しくひれ伏し、そのご託宣を仰がなければならないのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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