海外進出に成功するためには、
「全ての責任と権限をもち、事態対処のための完全な自由裁量を有する、強烈な士気とインセンティブが与えられたリーダー」
が、戦略の修正、ゲーム・チェンジ、マイルストンの組み換え、ときには、目標の変更すら適時・瞬時に行うことを休む間もなく継続することが最低限必要で、これらが出来て、ようやく
「戦いの体をなす」
というレベルにたどり着けます。
番頭・手代レベルに、元手を渡して、
「あんじょうやってこい」
という適当な指示で、成功を夢想する、なんてことをやっても、うまく行く道理がありません。
こういう言い方をしますと、
「自分(オーナー経営者)が出て行くと、国内がおろそかになるので無理だ」
「『命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、成功時に得られる莫大なインセンティブと、平然かつ冷静にやり抜くスキルと、自然と被支配者がひれ伏す強烈なオーラと、悪魔の手先のような性根と、常に、エレガントに振る舞える典雅さをもった人間に、法律はおろか神をも恐れぬやりたい放題の裁量を与える』といった海外事業責任者が必要というのはわかるが、そんな、自分でもできないようなことをやってのける人間は、社内のどこにも見当たらないし」
と、言い訳をはじめ、遂には、
「ああ、どうしよう! 我が社は海外進出できない! もう、八方ふさがりだ!」
と頭を抱える中小企業オーナーがよくいらっしゃいます。
では、そんな中小企業として、海外進出プロジェクトについて、どのようにして対応すればいいのでしょうか?
答えは実に簡単。
進出などやめてしまえばいいのです。
誰も、
「そんなに無理をしてまで、大変な思いをし、会社を破綻させるリスクを冒してまで進出しろ」
といって進出を強制しているわけでもありません。
もちろん、大企業の進出に付随して、下請けや孫受けが進出を半強制點せられる場合もありますが、その場合は、大企業を弾除けにして、命第一、安全第一、負けそうになったら素早く逃げる、というスタンスで、逃げ腰・及び腰で慎重に進出するほかありません。
そのような事情でもなければ、わざわざ苦労とリスクを背負い込んでまで、アジアに進出などしなくてもいいんです。
国内で地味に努力して、生産活動を工夫したり、商売を広げたりできる余地はいくらでもあります。
例えば、ICTやAIやRPAを導入すれば、ホワイトカラーの生産性は劇的に改善されます。
トップがICTリタラシーを向上させ、PCとスマホその他の情報機器を使いこなすだけで、経営管理機能を担う人員は大幅に不要となるはずです。
生産工程の見直しとFA化の推進をすれば、
「言葉も通じない、話も通じない、思いも通じない、規律に無縁で、誠実で堅実なカルチャーとは無縁な、俗悪と無作法をはびこらせるかもしれない方々」
と無駄に付き合ってカネと時間とエネルギーを喪失するよりはるかにメリットがあると思います。
結局、ICTの習熟とか、生産工程の見直しとか、そういった地味な作業を忌避し、
「アジア進出!」
という壮大な妄想を華々しく展開することによって、
「何かワクワクするようなことをしたい」
という愚劣で幼稚な発想にもとづき、日本の多く残念な中小企業と、そのような企業を経営する残念な社長が、哲学も展望もシビアな計算もなく、大量にノコノコとアジアに出かけて行っては死屍累々となっている。
これが、生産拠点をアジアに移転しようとして大失敗する企業における根本原因です。
営業や販売についても同様です。
これまで、製造業においては、ほどほどの品質を大量に市場に流し込み、市場でシェアを獲得し、その後、商品力で競争力優位を築いていく経営、すなわち
「プロダクトアウト」型の経営戦略
が、オーソドックスな戦略とされてきました。
しかし、市場がグローバル化し、また、
「ドッグイヤー」
「マウスイヤー」
といった形で経済スピード(陳腐化・コモディティ化スピード)がスタンダート化し、
「大量に出回る、ほどほどの品質の商品」
は、おどろくほど早く陳腐化し、海外から、
「ほどほどの品質と、冗談のような廉価な商品」
が押し寄せてくるとひとたまりもありません。
国内の販売不振が続くと、ついつい海外にいって一旗挙げて、リベンジだ、と安易に考えてしまいがちです。
無論、ルイ・ヴィトンやエルメスやブルガリなど、すでに世界的ブランドとして知名度を確立している商品であれば、
「進出後短期間に相当大きなボリュームの売り上げを立てる」
ということも合理的に期待できます。
しかしながら、
「『日本国内ですら知名度がなく、誰も買ってくれないような商品』しか作っていないような企業が、言語も文化も違う国の市場でいきなり知名度を獲得し、バカ売れして大成功する」
というのはまず不可能です。
結局、日本ですらロクに知名度がない中小企業が、現地コーディネーターの口車に乗せられて現地法人を作った場合、結構な額をスってしまい、現地法人を1~2年で解散・清算する、ということが多いようです。
国際的にビジネスを展開したいのであれば、何も現地法人を作って、いきなり拠点を作って遮二無二進出する必要などありません。
現地法人を作るということは、現地の言語に基づき、現地の会計基準と現地の法律にしたがった法的書類と会計書類と税務申告が必要ということを意味しています。
しかも、この煩雑でコストのかかる手続きは、会社を解散して清算するまで、未来永劫続きます。
これだけですでに莫大な費用と手間とエネルギーを消耗しますが、投下した多額の投資を回収するには、相当大きなボリュームの売り上げを立てる必要があります。
自らは日本国内に拠点を置いた状態で、現地のチャンネルを有する現地企業と販売先や代理店として契約し、そこと緊密に提携しながら、市場にチャレンジすれば、リスクもコストも労力も少なくて済むはずです。
さらにいえば、国内でもまだまだ生き残れる方法があるかもしれない。
市場における顧客のニーズに併せてモノ作りをしたり、さらにいえば、モノにサービスを加えた、顧客の要望を叶える高付加価値なソリューション(もの作り+おもてなし)提供していくこと、すなわち
「マーケットイン」型
の経営戦略に真剣に取り組めば、いくらでも生き残れる場所が見つかるかもしれません。
頭とセンスを地味に酷使するような戦いを忌避し、見た目だけ派手に見える
「海外に打って出る、壮麗なアウェー戦」
を挑んだものの、地の利の不利が災いして、ボロ負けし、会社の生命を縮めてしまう、というアホな失敗をなぜ多くの企業をやらかすのか。
自分が
「国内において地味で広がりのない事業をやっている」
ということに強いコンプレックスをもっている中小企業の社長の方々は、“国際事業”や“海外進出”や“現地法人”といったキーワードに弱く、意味なく無駄なことをしがちだからだと推測します。
また、海外事業の経験がない素人ほど、
「海外で事業を行えば、どんなバカでも大成功するはずだ」
という根拠のない妄想を抱き、
「地道な経営改革より見た目な派手なバクチで会社を劇的に改善できるのではないか」
と甘い夢をみがちなのです。
こういう背景もあり、
「純ドメスティックな事業を、ド根性と勢いで立ち上げたが、海外経験なく、総じて視野が狭いタイプの社長」
が、国内においてなすべき課題が山のようにあるにもかかわらず、海外に異常な期待を抱き、コーディネーターやコンサルティング会社などの口車に乗せられ、海外進出話にオーバーコミットしてしまい、結果、会社を重篤に危機に陥れてしまうのです。
「コンプレックスのある、成り上がりの、幼稚なオーナー経営者が、誇大妄想的に海外に進出して痛い目に遭う」
という話は、豊臣秀吉の時代から変わらない。
ですので、成り上がり者の田舎者で劣等感が人一倍強かった豊臣秀吉のようにイタい膨張政策で晩節を汚すより、徳川家康のように
「引きこもり」「穴熊」戦略
で、地味で堅実に内部の地盤固めをすることが、企業を長く存続させる秘訣なのかもしれません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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