00982_企業法務ケーススタディ(No.0302):挑戦の前にお墨付きをもらっておけ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十四の巻(第74回)「挑戦の前にお墨付きをもらっておけ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 盲信(ちよとつ もうしん)

相手方:
行政機関

挑戦の前にお墨付きをもらっておけ!
当社もインターネット通販に参入しました。
消費者は、商品をショッピングカートに集めてから購入決定ボタンを押さずとも、
「欲しい」
と思ったら、即決済できるようなシステムをつくりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:護送船団行政システムの終焉
昭和や平成初期においては、
「なんでも監督官庁(行政機関)に相談する」
ことこそが重要で、監督官庁と緊密な関係さえ保っていれば、
「何とかしてもらえる」
時代でしたが、規制緩和の結果、企業は、法務部や弁護士を活用して自らのリスクとコストで法令を調査し経営判断を迫られるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:行政機関による「お仕置き」(法令の執行)
行政機関は、国会が作った法律を執行し、以下のような権限が法律によって与えられています。
1.企業名の公表 例:新規学校卒業者の採用内定を取り消した企業名の公表(厚労省)
2.業務停止処分 例:製薬会社に対する、医薬品医療機器法に基づく、医薬品の製造販売停止処分(厚労省)、投資用DVD販売業者に対する特定商取引法に基づく業務停止処分(東京都)3.課徴金納付命令 例:不当廉売(ダンピング)を実施した業者に対する課徴金納付命令(公取委)
4.行政代執行 例:違法建築物について建築基準法に基づく除却の代執行(行政機関が、強制的に違法建築物を撤去)

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「お仕置き」を受けると大変(行政行為の「公定力」)
「いったん、お上(行政機関)が下したお仕置きについては、仮にそれが違法であっても、取消権限のある者によって取り消されるまでは、なんぴとたりとも(一般国民だろうが、行政機関自身だろうが、三権分立の一翼を担う裁判所だろうが)、その効果を否定することができない」
ということになっています(行政行為の「公定力」という)。
したがって、いったん
「お仕置き」
が下ると、それをひっくり返すのに多大なコストがかかり、最終的には行政訴訟で争うことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:法令適用事前確認手続きの概要
「対行政上のリスク」
について、一切相談できない状態としてしまうと、企業が委縮する状況となりわが国の経済活動が阻害されてしまいますし、相談できるとしても
「なかなか回答がこない」
状況ですと、迅速な事業活動ができなくなってしまいます。
このような事態を回避するため、
「行政機関による法令適用事前確認手続」(ノーアクションレター制度)
「事業活動に関係する具体的行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうか、あらかじめ当該規定を所管する行政機関に確認する」
制度が、閣議決定によって導入されました。
1. 照会にあたって必要な事項
(1)将来行おうとする行為に係る個別具体的な事実を示すこと
(2)照会する法令の条項を特定すること
(3)照会及び回答内容が公表されることに同意すること(公表のタイミングについては延期を希望することができる)
2.行政による回答  
 照会書が照会窓口に到達してから、行政は原則として30日以内に回答する

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:ノーアクションレター制度活用のポイント
企業としては、利用前に、
「できるだけ関連法令や裁判例について調査をして、照会者にとって不利ではない方向で行政を説得し(「裁判になれば企業側の解釈が採用されそう」という演出を含む)、不利な回答が出されるのを最大限回避する」
ことがポイントとなるでしょう。

助言のポイント
1.行政行為には「公定力」がある。取消権限のある者によって取り消されるまでは、民間に下された「お仕置き」はその効果を持ち続けるということ。
2.いったん行政行為がなされてしまうと、民間側は大変。
3.行政は、いったん出した解釈を簡単には変更できない。
4.事前照会を行う前には、十分に理論武装して、自分にとって不利な回答がくるのを徹底的に避けよう。
5.事前照会は、照会者の名前は原則非公開になったため、使いやすくなっている。
6.とはいえ、質問と回答内容は公表されてしまう。自らの優位性を確保したいときは、公表の機会を遅らせてもらう申請も忘れずに。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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