00990_企業法務ケーススタディ(No.0310):なぬ?  クビがダメじゃと? なら、辞めるように、イヤガラセで雑用でもさせとけ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十二の巻(第82回)「なぬ?  クビがダメじゃと? なら、辞めるように、イヤガラセで雑用でもさせとけ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 グループ 脇甘エンジニアリング 営業担当取締役 雨利 健太郎(あめり けんたろう)

なぬ? クビがダメじゃと? なら、辞めるように、イヤガラセで雑用でもさせとけ!
社長は、相手を解雇できないのであれば、取締役から部長に降格させようと考えています。
さらに、誰が担当しても失敗する部門に配属し、失敗させ、それを理由に、もっと降格させようと考えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:解雇はガチで不自由! マジ不可能!
日本では、
「クビ」
「解雇」
は、法的にみれば、ほとんど
「不可能」
です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「役職」と「職能資格」の違い
多くの日本企業では、
「役職」

「職能資格」
の2つで従業員を格づけしています。
「部長」
「課長」
「係長」
などは
「役職」
と呼ばれます。
「職能資格」
は、職務遂行能力に伴い賃金(基本給)も上がっていきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:職能資格を下げるには就業規則がないとダメ!
職能資格の降格は、そのまま賃金の減額に結びつきます。
裁判所は、職能資格上の降格については、
「賃金の額は雇用契約の重要な部分であるから、従業員の同意を得るか、あるいは少なくとも就業規則上にその要件について明示すべきである」
との判断を下しています(マルマン事件、大阪地裁平成12年5月8日判決) 。
とはいえ、
「前もって就業規則に書いてあれば、自由に降格できる」
わけではなく、著しく不合理な評価によって職能資格を下げた場合には、それ自体が人事権の濫用とされることがあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:役職を下げるのも不自由!
職能資格の降格を伴わないのであれば、就業規則になくても、原則として会社は役職を降格できるとされています。
役職の降格が職能資格の降格を伴うのであれば、就業規則の定めが必要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:東京高裁平成17年1月19日判決
東京高裁は、各降格処分の前提となった労働者の成績評価について、労を厭わず事細かな事実認定を行い(設定目標や成績評価方法・内容にまで踏み込んだ事実認定を行っています)、すべての降格処分について
「人事権を濫用したものであり、無効である」
と判断しています。

助言のポイント
1.「クビがダメなら降格させて、雑用でもやらせてろ!」なんてカンタンにはいかない。
2.職能資格制度がある会社で職能資格を降格して給料を下げたいのなら、就業規則に、「職能資格の見直し・引下げがあり得る」ことを、まずはちゃんと書いておくこと。
3.ただし、「職能資格の降格」は、労働者にとっては就業規則の不利益変更に当たるから、法令の要件を満たさないと変更できない。
4.降格についてちゃんと就業規則に書いてあっても、ヤリスギの降格は裁判所が無効にしてしまう。
5.降格減給が無効となれば、本来払うべき額を利息付けて払うことになるばかりか、別途、慰謝料も払わせられることがあるから気をつけよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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