01007_企業法務ケーススタディ(No.0327):ゴミ株主をたたき出せ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十九の巻(第99回)「ゴミ株主をたたき出せ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
粕尾 阿沙流(かすお あさる)ファンド
株主 御根田 揉太郎(ごねた もめたろう)

ゴミ株主をたたき出せ!
当社は、M&Aで傘下に収めた会社の少数株主に頭を抱えています。
株を売ってほしいとお願いしたところ、
「5億円じゃないと、ビタ1株売らん」
の一点張りで、少数株主権を使って、毎週、内容証明や訴状を送ってよこします。
社長は、相手の言い値で手を引け、と弱気になっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ゴーイング・プライベート(上場企業の非公開化)
ゴーイング・プライベート(Going Private)とは、上場企業(Public Corporation)が自らの意思で積極的・戦略的に非上場化し非上場企業(Private Company)になる、というものです。
具体的には、株式公開買付け等により、自己株式を除く、流通している発行済株式の取得を図り、上場廃止を申請して行います。
上場企業から非上場企業になるのは、メリットを上回るデメリットがあるからです。
金融商品取引法上の監査、法定開示、各種IR、株主や銀行、取引所への説明、株主総会での説明、監査法人対応、株主代表訴訟に、敵対的買収等々。
TSUTAYA、ワールド、ポッカコーポレーション、チムニー、吉本興業、コンビ、結構な数の会社がゴーイング・プライベートしています。
中には、すかいらーくや西武やマクロミルのように、いったん上場廃止して、また上場し直す、という会社もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:買収で株式を取得し損ねた分の少数株主をどうするか
買収の際に100%株式取得をしようとする場合、創業オーナーがTOBで流通している発行済株式を買い戻すのであれ、ファンドと組んで買い戻すのであれ、ファンドあるいは事業会社が新たなオーナーとなるべくTOBで株式を取得するのであれ、株主全員が快く応じてくれるというわけではありません。
株主代表訴訟をはじめとする少数株主権は株主の下に留保されますし、さらにいえば、100%の株式を持つ単独の株主なら株主総会すら開催しなくていいものを、1人でも株主が別にいれば、いちいち株主総会を開催しなければならず、これをサボると、総会決議不存在を理由に、チクチクいじめられます。
そんなこともあり、少数株主をどうにかこうにかして追い出したいという要望が、買収した新オーナー側に湧き上がりますが、少ない株式であっても、個人の財産です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:スクイーズアウト戦略
会社法の種類株式制度を駆使して認められるスクイーズアウトといわれる戦略があります。
具体的なプロセスとしては、
1 定款変更により、種類株式発行会社に変更し、普通株式を全部取得条項付普通株式に転換する
2 会社が、前記に伴い、全株取得する
3 その際、
「多数派株主には一株以上となるが、少数株主に対しては全員の持株を糾合しても一株に至らないような端株」
となるよう対価設計する
4 以上のプロセスにより、
「今や、議決権を完全に喪失した状況に陥った少数派株主」
から、適当な額で、端数となった株式を買い上げる
というものです。
ダークサイド面についても解説しておきましょう。
会社が提案した買取対価に満足しない株主から株式買取請求等がなされた場合、裁判所が会社提案の対価の妥当性を審理することになり、裁判所が判断する価格が会社提案のものを上回ると、実施コストが上昇することになります。

助言のポイント
1.買収会社に少数株主を残したままにすると、いつも足を引っ張られ、大胆な経営改善ができないし、買収した意味がなくなる。
2.ただ、買収した後、株式買い取りに応じない少数株主がいる場合、スクイーズアウト戦略を検討すること。
3.スクイーズアウト戦略は、会社法のスタディと、スマートな戦略実施が求められる。経験あるプロを交えて、堅実に実行し、確実に少数株主を排除すること。
4.スクイーズアウト戦略で、最終的な端株買い取り対価で揉めることはあるが、トラブルがあっても、最後は立ち退き料の調整の話、カネの問題。ここは揉めるのを恐れず、正面突破で果敢に乗り切り、後は、カネで処置する覚悟で強気で行こう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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