00196_企業法務ケーススタディ(No.0151):株主からの質問への対処法

相談者プロフィール:
高橋映画株式会社 代表取締役 高橋 英雄(たかはし ひでお、68歳)

相談内容: 
先生、最近は、3D映画とかアニメとかに押されっぱなしで、もう時代劇は流行らなくて困っていますよ。
弊社の一部の株主からは
「ドリームワークスみたいなフルCGの感動超大作は作れないのか」
なんていい加減な提案が飛び交う始末です。
今まで、時代劇一本でやってきた会社にCGを作れ、なんて、ムリに決まっているじゃないですか。
とはいえ、今年もまた、弊社の株主総会の時期がやってきました。
今年の議題は役員の改選と定款の一部変更だけなので、そんなに紛糾することはないと思うんですが、何せ、昨年度の売上も悪いだけに、嫌がらせのように
「なんでハリウッドスターを使わないのか」
とか、バカ丸出しの質問が出てくるに決まってるんですよ。
さらに、去年の時代劇の大作でヒロインを演じた弊社の専属女優の熱愛スクープとか、経営に全く関係ない事項についても、ネチネチ質問してくる輩もいるでしょう。
いっそのこと、
「ノーコメント。もう知らない!」
で通してやろうと思うんです。
もちろんくだらん質問に対してですよ。
そりゃ、まともな質問にはきちんと答えますって。
主幹事証券会社の連中や法務の連中は、
「株主の質問には、誠意をもって回答すべき」
とかいってますが、そんなの無理ですよ。
バカな奴のバカな質問には、
「ノーコメント」
で十分ですよ。
先生、それで問題ないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会の位置づけ
そもそも、株主総会というものは、株式会社の基本的な方針や重要な事項について議論して決定する会社の機関の1つであり、会社の実質的な“持ち主”である株主によって運営される会です。
株主が会社の“持ち主”である以上、会社に関することは、全て株主総会で議論して決定するべきとも考えられますが、実際には、多人数に及ぶことが予定されておりますし、日々の業務についていちいち議論していたのでは迅速性を損ない、ビジネスチャンスを逃してしまいます。
そこで、日々の業務については取締役等の経営の専門家に委ね、株主総会では株主の権利を守ることを目的として、基本的な方針や重要な事項についてのみ議論し決定することとしたわけです(いわゆる「所有と経営の分離」)。
なお、基本的な方針や重要な事項について議論するといっても、多くの株主(特に個人株主)は、株価や剰余金(利益)の配当の有無、その額にしか興味がなく、これまでの多くの株主総会は、さしたる議論もなされずに短時間で終了するというのがほとんどでした。
もっとも、近年では、株価をより高くするために、会社に対し様々な提案等を直接行うアクティビストと呼ばれる株主も多くなり、これらの提案等が経営陣の意思決定に大きな影響を与えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:取締役の説明責任
ところで、前記のとおり、株主にとっての株主総会は、会社に対し自分の意見を述べることができる唯一の機会でありとても重要な会合ですが、株主は、日頃から会社の詳しい情報や資料に接しているわけではなく、会社についての情報が不足しています。
また、株主総会開催の際に送られてくる招集通知には簡単な資料しか添付されておらず、議論をするにしても、そのための前提を欠いています。
そこで、会社法は
「取締役(中略)は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない(法314条)」
と、
「取締役は、株主総会において、株主に対して説明義務を負うべきもの」
としています。

モデル助言: 
「株主の質問には、誠意をもって回答すべき」
という主幹事証券会社や法務の担当者の助言は、取締役として会社法に定められた説明義務を果たす、という観点では、間違ってはいません。
ただ、株主の質問には何でもかんでも答えなければならないとするとそれはそれで不合理です。
そこで、まず、会社法は、
「1 株主総会の目的である事項に関しないものである場合、
2 その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合に取締役の説明責任を免除し、また、説明のために調査が必要となる場合や同じ質問を繰り返す場合など、正当な理由がある場合にも説明責任を免除する」
とも定めています。
なお、株主総会の目的に関するかどうかは、
「議題について、株主が合理的な判断をするのに必要な範囲がどうか」
によって決まると解されております。
御社の専属女優の個人的な交際についてはどう考えても
「役員の改選」

「定款の一部変更」
に賛成するかしないを判断する上で必要とも思われません。
また、同じ質問を繰り返すようであれば、株主総会の効率的な議事の進行を確保するために議長に認められている
「質問を制限する」
という権限を行使するのも一つの方法です。
いきなり
「ノーコメント」
では、株主をいたずらに刺激するだけですから、会社法に則って、手続きを踏んで、うまくスルーしちゃいましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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