01114_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>契約法務(フェーズ3A)>(4)契約書作成法務

法務スタッフが、自らあるいは顧問弁護士(契約法律事務所)に依頼して、契約書を作成することがあります。

契約自由の原則における契約内容決定の自由があるため、
「契約内容をどのようなものにするか」
という点について決まりや法則はありませんが、解釈をめぐって紛争にならないよう、確定された合意内容が適切に表現されるとともに、紛争が生じて司法救済を受ける際にスムーズに自らの主張が裁判所に理解されるよう、要件事実論を意識した記載とすることが求められます。

なお、一般的なビジネス契約書には
「一般的なビジネス契約書に盛り込む内容」
に列記した内容を盛り込むことが多いようです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

前述のとおり、契約自由の原則(契約内容決定の自由)が存在する関係で、ビジネス上のニーズに基づき、創意工夫を凝らし、様々な権利義務や取引規律を作り出すことが可能です。

例えば、守秘義務契約、提携契約、継続的供給契約、代理店契約、フランチャイズ契約、技術ライセンス契約、技術指導約、OEM契約、共同研究契約、開発委託契約、コンソーシアム契約、ジョイントベンチャー契約、経営委託などは、民商法には記載されていない契約(非典型契約)ですが、企業がビジネス上のニーズに基づいて創出し、普及するようになった契約モデルです。

契約書作成法務は、
「契約自由の原則からくる当事者の意思を契約書の形に残しておく」
ことの重要性に基づくことはもちろん、次表のように、契約書を重視する世界に伍していく必要性から要請されていることにも留意が必要です。

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01113_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>契約法務(フェーズ3A)>(3)契約交渉法務

契約法務(取引法務)には、依頼部門の依頼に応じて、依頼部門の交渉の場に立ち会ったり、あるいは取引相手が指名する交渉担当者との駆け引きをしながら、契約条件や主要な契約条項を確定させる活動(交渉法務)も含まれます。

交渉に関しても、契約自由の原則が働きますので、道義的なものはさておき、法的には、交渉上遵守しなければならないルールといわれるものは特段存在しません。

したがって、自己の立場の優位性を背景に独善的な条件を提示しても構いませんし、相手の足元をみて自己に徹底的に有利な条件を提示しても、相手が承諾すれば法的合意として効力をもちます。

無論、公正な競争秩序を害する形で、優越的地位を濫用したり、下請企業に不当な要求をしたりすることは、契約自由の原則の例外として許されません。

契約交渉の際に彼我の交渉上の立場が対等である場合、互いに自己の条件に固執して交渉がストップすることがありますので、このような状況を打開する契約交渉上のテクニックを紹介します。

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01112_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>契約法務(フェーズ3A)>(2)契約書の精査

法務スタッフが他部門(依頼部門あるいは原局)から契約書のチェックを求められる場合がありますし、また、弁護士も顧問先企業法務部から
「この契約書をチェックしてください」
と要請される場合があります。

この
「契約をチェックしてくれ」
という依頼の趣旨は、一般に以下のような要請と考えられます。 

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依頼部門の担当者から、契約書のチェックを要請された場合、まず以上の1ないし4のうちどの要請であるのかを確認すべきです。

問題なのは、依頼部門の担当者自身が、そもそも契約書を全く読んでおらず、自らの要請の趣旨すらつかめず、ただ意味もわからず
「契約書のチェックを乞う」
といっている場合です。

この場合、依頼部門の担当者の要請の本質は、1ということになりますので、当該担当者にそのことを自覚させ、今後のことも考え、少なくとも契約書を独力で読む程度のことはさせるべきであり、その上で、依頼の本旨を確認し、所要の対応をすべきです。

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01111_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>契約法務(フェーズ3A)>(1)契約自由の原則

日本をはじめとした先進諸国では、いずれの国でも契約自由の原則が採用されています。

契約自由の原則とは、各契約主体は、法律の干渉を受けることなく、全てその意思に基づいて自由に契約を締結し、当該契約で規律された法律関係を契約主体間において形成することができるとする原則をいいます。

そして、契約自由の原則は次の内容を含みます。

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01110_経営政策・法務戦略構築フェーズ>法務活動・フェーズ2>戦略法務(フェーズ2B)>(4)種別>中小企業>破産・再生分野

企業が破綻し、破産・再生手続を進める場合、
「どのような法形式を用いるべきか」
を考察するにあたり、法の知見を利用して、戦略的に手続を構築していくことが行われます。

企業が法的手続により再生する場合、考察すべき点は、
1 経営陣が退陣させられるか否か
2 担保権や租税債務の負担が残るか否か
という点です。

この点、従来の慣行・運用によると、
「会社更生法を適用して企業再生を行う場合は、手続上、担保権や租税債務は吹き飛ばすことができるが、このような過激な措置の代償として、経営陣は退陣させられる」
「民事再生法を適用して企業再生を行う場合は、経営陣は残留できるが、手続上、担保権や租税債務の負担を吹き飛ばすことはできない」
というドグマがありました。

しかしながら、
「会社更生法上、『経営陣は総退陣しなければならない』などと明記されているわけではなく、『会社更生をして、銀行(担保権者)に迷惑をかけるなら、経営陣は責任を取って退陣すべし』というのは経営陣のモラルハザードを防止するという趣旨に基づいて事実上守られている単なる慣行(非法律的取扱い)に過ぎず、絶対墨守する必要があるわけではない」
という点から、会社更生と民事再生を“いいとこ取り”したハイブリッド型手続が編み出されました。

これがDIP型会社更生手続と呼ばれるものです。

企業再生戦略を構築するにあたり、DIP型会社更生手続を用いることで、経営陣は、その地位を追われることなく、再生にとって重荷となる銀行の担保権や租税債務を吹き飛ばす(無論、一定程度の債権者が更生計画に同意する要件のクリアが必要となりますが)ことが可能となりました。

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01109_経営政策・法務戦略構築フェーズ>法務活動・フェーズ2>戦略法務(フェーズ2B)>(4)種別>中小企業>税務分野

税務における租税回避行為も、企業が展開する戦略法務の1つです。

租税回避行為とは、通常用いられる法形式とは違う異常な法形式をあえて選択することで、結果的には、通常の法形式を選択した場合とほぼ同一の経済的効果を実現しているにもかかわらず、通常の法形式を選択した場合に課されるべき税負担を軽減ないし排除することを指します。

シンプルにいいますと、
「法の予定しない税負担減少行為」
です(法の予定する税負担減少行為は「節税」、法に違反した税負担減少行為は「脱税」と整理されます)。

消費者金融大手のオーナー一族が、
「当時海外に『住所』のある日本人が国外資産を贈与されても非課税扱いとされていた」
ことを利用し(その後、2000年法改正で課税措置が採られるようになりました)、創業者の子弟を、1年の約3分の2程度の期間を香港で過ごさせることで、
「住所は海外にある」
という状況を作り出し、税負担なく贈与を実施し、生前の資産承継を行いました。

課税当局は、租税回避意図による住所移転の不当性を指摘して、
「住所はいまだ日本にある」
とみなし、課税処分を行いました。

しかし、最高裁は
「住所」
の実体は、租税回避意図の有無ではなく、客観的・常識的に判断すべきであり、当該子弟は
「日本国内に住居がなかった」
との判断を示し、課税処分を違法とし、当局側に対して約2000億円の贈与税還付を命じました。

このほか、企業は、税法の不備を探し出し、様々な創意工夫によって、違法とならない範囲において、節税や租税回避行為を実践しますが、これらは税務における戦略法務の実施と捉えられます。

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01108_経営政策・法務戦略構築フェーズ>法務活動・フェーズ2>戦略法務(フェーズ2B)>(4)種別>中小企業>行政争訟

許認可権や行政処分等の強制力を有する行政庁からの不当な措置や承服できない対応に対して、企業として、戦略的に対応する場合があります。

特に、行政サイドが、法的根拠が希薄な状態で強硬な対応をする場合や、行政指導のように任意とも強制とも判断しかねるような対応によって企業を従わせるような場合には、法的知見を最大限戦略的に活用して、不当な措置に対抗し、企業側の権利・利益を防衛すべき場合があります。

1 適正手続に違反する行政上の措置に対する対抗

憲法31条は、適正手続を保障しています。

この条文は、アメリカ合衆国憲法の
「法の適正手続」(due process of law)
に由来し、条文上は
「手続の法定」
だけが要求されているようにも見えますが、実際に
「手続が適正であること」
も保障されると解されています。

そして適正手続の保障は、刑事手続のみならず、行政手続にも及ぶべきものと解されています(成田新法事件、最高裁大法廷平成4年7月1日判決)。

しかしながら、実際の行政運営の場では、往々にして適正とはいい難い、一方的で強硬な手続により、企業側の正当な権利を侵害する場合があります。

そうした場合、相手が行政当局であっても、企業法務サイド(法務セクションや顧問弁護士)としては、行政当局側の非違を徹底して指摘し、最終的には国家賠償請求訴訟等まで視野に入れつつ、強硬に対抗していくことになります。

2 不当な行政指導等に対する対抗措置

行政側が、強制力を働かせるだけの法的根拠を有さない場合や、
「強制力を働かせる法的根拠はあるが、四囲の状況や時機からみて強制することが不適当と判断する」
ような場合、往々にして、任意とも強制ともつかない行政指導というファジーな手法によって行政目的を達成しようとすることがあります。

これに応じることによって、企業側の権利や利益が侵害され、爾後法的に争う権利や機会も奪われるような場合には、憲法31条や行政手続法の知見を用いて、行政指導を拒否し、さらなるしつこい慫慂を排除するような対抗措置を取っていくことになります。

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01107_経営政策・法務戦略構築フェーズ>法務活動・フェーズ2>戦略法務(フェーズ2B)>(4)種別>中小企業>請求に対する抗弁提出

1 時効

例えば、なんらかの取引行為がなされ、債権が生じた場合、本来ですと、消滅時効は10年であるという先入観があるため、当該期間中は支払いの請求に応じなくてはならないとも思われます。

しかしながら、短期消滅時効という法理を正確に把握し、効果的に用いることにより、債権の発生原因によっては、1年であるとか2年であるとかいう短期間請求を受けなかった場合には、合法的に当該債権が消滅していることを主張できる場合があります。

ここで、時効とは、ある事実状態が一定の期間(時効期間)継続したことに基づき、法律関係より事実状態を優先する制度です。

刑事事件の時効はよく知られていますが、民事・商事の取引関係においても時効制度は存在します。

一定期間不動産等を占有していると本来権利がないにもかかわらず権利を取得するタイプの時効(取得時効)と、債権を不払いのまま放置しておくとそのうち債権が消滅するタイプの時効(消滅時効)とがありますが、企業活動にとって重要なのは後者です。

すなわち、債権債務が約定期限に問題なく履行されていれば問題ないのですが、相手方担当者が請求漏れのまま放置する等ということは決して珍しくありません。

こういう場合、時効期間が経過し、債務者が
「時効だから支払いません」
と主張(援用)した瞬間、法律上、債務が消滅してしまいます。一般に、債務が消滅する時効期間は、
「民事10年、商事5年」
といわれており、原則としてはその理解で差し支えありません。

ところが、民法の規定をよくみると、5年より短い時効で消滅してしまう債権が相当数あり、これを戦略的に用いることにより、債務を短期間に合法的に消滅させることが可能となるのです。

2 相殺

売掛先が倒産しそうになった際などに、
「反対債務で相殺する方法で不良債権を事実上回収してしまう」
という方法も強力な武器として使えます(相殺の担保的機能)。

上記の応用テクニックとしては、あぶなくなった取引先に対して債権を持っている別の債権者と組んでこちらの債権を譲渡したり、担保枠に余裕がある債権者に債権譲渡を行い、担保枠を使った回収に相乗りすることにより不良債権の回収を図る、という方法などがあります。

債権譲渡は債務者である当該取引先にいちいち承諾を取ることなく、こちらが一方的に通知を発するだけで手続が完了しますので(民法467条)、
「取引先を飛び越して譲渡先との話をつければ、間答無用で実行できる」
という点で非常に有力な手段となります。

運営管理コード:CLBP76TO78

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01106_経営政策・法務戦略構築フェーズ>法務活動・フェーズ2>戦略法務(フェーズ2B)>(4)種別>中小企業>債権回収分野その2

3 危険負担法理の援用

例えば、売買契約を締結したものの商品の引渡しは済んでいないという状態において、商品が震災等の不可抗力によって滅失してしまった場合、本来は、売買代金の請求などできそうもないように思えます。

しかしながら、危険負担法理を効果的に用いた法務戦略により、商品を滅失しておきながら、なお代金請求だけ可能となる場合があります。

危険負担とは、
「運悪くモノが滅失してしまったときに買主と売主のどちらがその損失を負担するのか」
という場面を処理するための法理です。

債務不履行のようにどちらかに滅失について帰責性があれば物事は単純ですが、天災等によりモノが滅失した場合に、どちらが危険(=損失)を負担するのかが問題となります。

最善策は、そのような場合の負担について契約でしっかりと定めておくことですが、契約で定めておかない場合も多々あります。

そのようなときには一般法である民法により処理されることになりますが、民法は
「特定物については債権者が負担、不特定物は債務者が負担」
としています(民法534条、536条)。

敷衍しますと、
「誰が悪いわけでもなく商品が滅失した場合には、買主が引渡しを請求できなくなるのだから、引渡義務を負っていた売主(=債務者)も商品滅失の損害は負担しなさい」
というルール(危険負担における債務者主義)が原則であるものの、目的物が特定物(世界で唯一のものである等、モノの性質に着目して取引の対象物としたもの)の場合には、
「たとえ引渡しが売り主からなされていなくとも、買主は転売することもできるのだから、滅失した場合であっても代金を支払うべき」
というルール(危険負担における債権者主義)が例外的に定められています(民法534条)。

ここで、この
「特定」
という概念は、種類物(どこにでもある一般的な商品)であっても買主のために他の商品と分離をして準備をしたことを通知した場合に適用される法律効果であり、すなわち
「特定物」
と同様の効果が生じるとされています(民法401条2項)。

このため、不特定の商品を売る売り主としては、買主のために準備・分離・通知を行うことで、仮に震災等により滅失した場合であっても、その損害を負担する必要がなく、買主に対して滅失した商品の売買代金を請求することができるのです。

運営管理コード:CLBP75TO76

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01105_経営政策・法務戦略構築フェーズ>法務活動・フェーズ2>戦略法務(フェーズ2B)>(4)種別>中小企業>債権回収分野その1

非上場企業・中小企業における戦略法務については、債権回収(動産先取特権や物上代位)、請求に対する抗弁(相殺、時効、危険負担法の援用)、行政争訟(不当な行政指導や処分への対抗)、税務(節税・租税回避)、破産・再生(DIP型会社更生)といった分野で展開されます。

その実践においては、法の盲点や解釈運用上の不備を効果的に利用しながら、競争優位、交渉優位の状況を創出していくことになりますから、
「競争相手や、競合する債権者や、許認可を所掌する行政当局や、税務当局等を潜在的なカウンターパーティーとした“知恵比べ”」
といった色彩を強く帯びることになります。

1 動産売買先取特権

動産売買の先取特権とは、
「商品などの動産を売った者は、その動産の代金の対価について、その動産から、他の債権者に優先して弁済を受けられる」
という法定の担保権です。

この担保権は、動産を売った相手に対して、担保についての契約・登記等をすることなく行使することができるため、大変使い勝手の良いものです。

商品を売ったにもかかわらず代金が支払われないときには、その商品について動産競売の申立てが可能であり、競売代金から配当を受けることができます。

また、買主がすでにその商品を第三者に売却してしまっていたときには、その転売代金を差し押さえることも可能です。

2 物上代位

例えば、担保権者として建物に抵当権を設定していたにもかかわらず、建物が地震や火事で焼失してしまったような場合には、抵当権の対象がなくなってしまうため、抵当権も消滅してしまうのが原則であり、担保権者は担保を失い、被担保債権は無価値化してしまいます。

しかし、このような状況においても、抵当権の通有性である
「物上代位性」
を利用した法務戦略により担保価値を取り戻すことが可能です。

抵当権は、目的物の
「価値を把握する権利」
であるため、例えば目的物が形を変えた場合にはその
「形を代えたもの」
に対しても権利が行使できます。

これを
「物上代位」
といいます。

そして、建物に火災保険がついていた場合には、火災で担保物件が焼失したときに、建物の価値が保険金に形を変えると考えることで、物上代位権を行使し、被担保債権の回収を図ることができます(民法372条、304条)。

運営管理コード:CLBP73TO75

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