01045_契約書作成の基本(教えて!鐵丸先生Vol.004)

「口約束も契約のうち」
といい、口頭でも契約は成立します。

すべての契約に契約書が必要なわけではありません。

契約書を作らなくても契約は成立します。

コンビニでおにぎりを1つ買うのも契約ですから。

ただし、大きな取引をするときは、契約書があったほうがいい、ということです。

契約書は、
「契約が存在したことや、契約の具体的内容を示す証拠」
という意味をもちます。

契約書は、食い違い・思い違い・勘違い・認識違いが少なくなる、というメリットがあります。

売買の内容、受け渡しの方法、スペックがちがったときはどうするのか、アフターサービス、メンテナンス、いつどのように支払うのか等々、契約のかかえる大きさ・リスクによって、証拠化した方がいいと判断すれば契約書をつくればいいのです。

契約書作成に、決まり・ルールはありません。

何に、どのように書くのかは自由です。

弁護士ではなく自分で書いても、OK。

「甲」「乙」と書く必要もありません(「甲」「乙」は複写式カーボンをつかっていた時代のなごりです)。

包装紙・コースターの裏や紙ナプキンに書いても、理屈のうえでは、OK。

ただし、裁判になったら、契約の効力に影響を及ぼします。

紙ナプキン等では、証拠としての信用が落ちるのは、否めません。
・大きな金額が動く取引
・重要な意味をもつ内容
・自分にとって新しいことや不慣れなこと
このような場合には、専門家に契約書を作成・あるいはチェックしてもらいましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01044_知人とベンチャー企業を立ち上げる際の持株割合設計のポイント(教えて!鐵丸先生Vol.003)

1 知人とベンチャー企業を立ち上げる

最も多い持株割合は、等分(50%50%、1/3ずつ等)です。

成功しても、失敗しても、大抵モメます。

成功したら成功したで、
・俺のネタがよかったからだ
・俺が場を探してやったからだ
・俺が営業がんばったからだ
と、モメます。

失敗したら失敗したで、
・お前が悪い
・お前が金を渋ったからだ
・お前が働かないからだ
と、モメます。

そもそも、ビジネスは困難の連続です。

ましてや、立ち上げ時期は、異常事態の連続で、一番厳しく、しかも、スピードが大事な時期です。

経営についての方針・意思決定がまとまらない場合は、過半数で決まります。

過半数とは、「半数」+「過」

半数を超えなければなりません。

等分だと、ニッチもサッチもいかないのです。

みんなで、あれやこれやと話し合っているうちに、状況が激変し、ビジネスがうまくいかなくなります。

効率的にスピーディにものごとを決めるためには、
「一人株主」
で、スピーディに、効率的に処理をしていくことです。

どうしても金を出したい、と助けてもらうのなら、何も株主になってもらう必要はありません。

議決権のない株式を渡せばいいだけのこと。

金を出してもらっても口を出させないことです。

「誰がボスか」
はっきりさせることです。

2 ジョイントベンチャーの場合

アライアンスを結ぶには、
・資本を提携するのか
・業務なのか
・商品生産なのか
・物流なのか
・販売なのか
その提携形態を決めなければなりません。

取り決めは複雑で多岐にわたります。

飲み会の割り勘じゃないのですから、等分にしても、いいことは何一つありません。

むしろ、その調整のために、無駄な時間を費やすことになります。

「最終的に、どのように着地させるか」
ここでも、過半数が必要となります。

そのためには、どちらかがどちらかの株を買い取ることになります。
・その値段はどうするのか
・最初の値なのか
・うまくいったときの値なのか
ここでも、モメます。

ジョイントベンチャーの場合は、
「調整する時間とコストとエネルギーが見合うだけのプロフィットが見込めるか」
をみきわめてから、一緒にやるかどうかを決めましょう。

3 従業員に株を配る

従業員に株を配る人がいます。

会社が大きくなったとき、その従業員が会社を辞めて出ていくとき、とんでもない金額をふっかけてくることがあります。

「なぜその従業員に株を渡したのか?」
と聞くと、
「何となく」
「友達だから、仲のいい証として」
と、かえってくることがほとんどです。

想像してみてください。

その従業員が辞めて、3~4年後、連絡先がわからなくなることがあるのですよ。

株主総会を開いても、議事録に(その辞めた従業員の)印が押せないのですよ。

適当に三文判を押すと、偽造になるのです。

そして、いざ、モメたら、
・株主総会開いていませんね
・この印は偽造ですよね
と、裁判がはじまり、膨大な時間とお金と手間を費消させることになるのです。

借金だったら、返せばいいのでしょうが、株式を勝手に動かすことはできません。

ニッチもサッチもいかなくなり、泥沼です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01043_反社会的勢力への対応のポイント(教えて!鐵丸先生Vol.002)

反社会勢力(以下「反社」と略します)と、接点を持たないようにするには、どうすればいいのでしょう。

また、接点をもってしまった場合は、どうすればいいのでしょう。

反社といえば、
「パンチパーマ、白いスーツ、関西弁、入れ墨、名刺は○○興業」
というイメージがあるかもしれませんが、実際は、
「ファッショナブルでセクシーなスタイル、名刺はITコンサルタント、昼間からお酒は飲まなず、飲むならプロテイン、出会いの場は経営者の集まりやセミナー」
です。

知り合ったからといって、反社からいきなり○億円をとられるわけではありません。

ITのことを相談するなかで、経営に関することや経営者としての悩みを打ち明けるうちに、会社の弱みを握られるのです。

そして、
「その問題を解決するために」
と、人を紹介され、少しずつ少しずつ、お金をとられていくのです。

そのうち、何となく怖そうな人が周りに増えていき、お付き合いから抜けられなくなっていきます。

大抵の人は、
「あの人が反社だとは気がつかなかった。優秀だし、ITのことをとてもよく知っていて、いかにもできそうな感じだったから、ITのことをお願いすることにした」
といいます。

反社と接点をもたないためには、
1 付き合いの浅い人に、大事な情報や会社の経営・弱みに関わることを話さない
2 信用のおける人からの紹介以外は付き合わない(バックグラウンドを含めた信用調査をしてから付き合う)
3 会っていきなり、大きなもの(財産・情報)を預けない
4 会社の中枢について、話さない
ことです。

しかし、どんなに警戒しても、接点をもってしまうことがあります。

その場合は、
1 契約書の中に、暴力団排除条項(以下「暴排条項」と略します)を入れておく
2 絶対に自分で解決しない
3 法弁護士・警察・暴力団追放センターなど専門機関に相談する
ことです。

反社は、暴力をふるいませんし、露骨に暴力をほのめかしません。

だけど、怖いのです。

なぜでしょう。

暴力のプロだから、暴力の使い方をとてもよくわかっているからです。

そして、暴力を使った時のリスクをよく知っているからです。

本当に巧妙です。

正しく対応しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01042_弁護士に相談するタイミング(教えて!鐵丸先生Vol.001)

弁護士に法律相談に行くのは、いつ、どのタイミングがいいのでしょう。

「あまりに早く行っても、何をどう相談していいのかわからないし、『何でこんなに早くきたの』と言われてしまいそうだし。用もないのに相談に行き、そのたびにお金を払うようなことは避けたいし。むしろ、事件になって問題がはっきりしてから行くほうが、説明もしやすいし、いいんじゃないだろうか」
という声をよく聞きます。

確かに、法律相談に費用は発生します。

個人は5000円/30分が相場といわれ、法人の場合は1万~2万5000円/30分と、いろいろです。

初回は無料というところもありますが、相談に行くたびに費用はかかります。

ですから、
「『ここぞ』というときに相談に行きたい」
となるのでしょうが、法律相談に行くのは、早ければ早い方がいい、です。

早ければ早いほど解決に向かう選択肢は多く、時間がたてばたつほど選択肢はぐんと減り、大きな痛手を負うことが多くなるからです。

将棋でたとえるなら、初手から数手のうちは、駒を動かす選択肢は多く、終盤戦にむかえばむかうほど選択肢が少なくなるのと同じです。

多くの方は問題が生じても(根拠なく大丈夫と)楽観的になったりして、相談時期を遅らせてしまいがちで、
・契約書をよく読まずにサインしてしまった
・信用してお金や大事な商品を預け、時間が経ち、相手はどこかへ行ってしまい連絡がとれない
このような状態になってしまってから相談に来る方が多く、相談するときには、すでにゲームオーバーとなっています。

要するに、取り返しがつかない状態になってから、相談に来る方が圧倒的に多いのです。

そして、それは、解決へ向かうための時間や費用・手間がかかることを意味します。

「何だかひっかかる」
「何だかモヤモヤする」
「不安に感じる」
「問題があるように思う」
「リスクに思う」
このように感じたときこそが、相談に行くタイミングです。

不安に感じるということは、(自分にとっては、解決できない)知らない問題であることを意味し、解決する方法もわからない、ということなのですから。

たまに、
「まずは、自分でどうにかしてみよう」
と、ネットで検索し自力で解決しようとがんばる方がいますが、これは傷を広げます。

世の中、大事なことほど、本にもウェブサイトにも載っていません。

載ってはいるけど誤解を招くような書き方であったり、自分のケースにあてはまらないこともあります。

経営者の方なら、税理士や会計士に相談することはありますね。

「経営者たるもの、自分で考え、自分で実行する」
といって、計算や書き方を間違えて、粉飾決算してしまったりすると、大変ですから。

法律問題の解決を弁護士に頼むのも、同じです。

傷が広がるまえに、大きな痛手を負う前に、不安に思ったら、まずは、弁護士に相談しましょう。

早ければ早いほど、ビジネス成功の確率は高まるでしょう。

相談費用は、保険みたいなもの、と、とらえてはいかがでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01041_訴訟や裁判外紛争を遂行する前提としての事実の調査の困難性

訴訟や裁判外紛争を遂行する上では、まず、相手方との取引その他の関係経緯を、時系列にしたがって、事実として明らかにしておくことが必要になります。

簡単にいえば、過去に何があったか、時間と進行にしたがって、正確に思い出し、記述する、という作業です。

とはいえ、これは相当な時間と労力を費消する、苦痛を伴う作業となります。

10日前にお昼ごはんに何を食べたか覚えているか、といわれても、普通の人は、なかなか思い出せませんし、行動の痕跡等を精査して、昼食で何を食べたかを特定するのは、相当な時間とエネルギーを要することになる、といえば、実感いただけますでしょうか。

個人の10日前の昼食ですらこの有様ですから、
「多くの人間が携わる企業と企業との間の取引関係が病理的問題をかかえ、これが、 訴訟や裁判外紛争に至るった場合の、長く複雑な事実経緯」
となると、想像を絶する困難な作業となります。

そもそも、個人個人の記憶そのものが、電子メールのように、時系列の順序にしたがって、整然と配列されているわけではありません。

人間の記憶は、印象や感想や思い込みによって網の目になったり、塊になったり、ランダムになったりと混乱した状態になっており、また、重要でないものや、忘れたい出来事は、記憶が消去されたり、上書きされたり、と相当ないい加減な形で格納されています。

こんな曖昧で出鱈目な人間な記憶を頼りに、
「過去に何があったか、時間と進行にしたがって、正確に思い出し、記述する」
という作業をしようとすると、
・関係資料や電子メール等、客観的な痕跡をすべて収集する
・これを時系列にしたがって再配列する
・この時系列に整理された痕跡を見ながら、記憶の断片を呼び起こす
・とはいえ、記憶の断片が浮かんでも、「誰が」「いつ」「何の目的で」「どのようにして」といった重要な要素は欠落してしまっていたり、痕跡と整合しない記憶が出てきてしまう
・この場合、記憶を加工したり、上書きしたり、再構成したりしながら、痕跡と記憶の断片に、一定の秩序やロジックを与える
ということを行うことになります。

これは、単に、
「過去に経験したことを思い出す」
という生易しいものではなく、 想像力を駆使した高度に創造的な営みです。

たいていの方は、このような
「想像力を駆使した高度に創造的な営み」
を嫌悪し、忌避し、雑駁で適当に
「あいつが悪い」
「これはひどい」
「私には権利がある、正当性がある」
「こんなことは認められるべきではない」
というひどく雑で荒っぽい結論でまとめようとします。

とはいえ、評価を下したり、結論を出すのは、裁判所の仕事であって、当事者の役割ではありません。

当事者が語るべきは、理屈や意見ではなく、事実や記憶です。

結果、
「想像力を駆使した高度に創造的な営み」
としての事実の調査を忌避し、あるいは手抜きし、勇ましい修飾語を羅列しただけの、アジテーションを繰り返すだけの当事者ないし弁護士は、裁判所から忌避され、あまり良い結果が出せない状況に追い込まれます。

なお、この種の調査や事実の想起・復元に関して、顕著に高いスキルをもつ組織ないし集団があります。

これは、いわゆる官僚組織、すなわち行政機関や大企業の事務組織です。

だからこそ、役所や銀行相手を相手の訴訟は、ほぼ100%勝てない、ということになるのだと思われます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01040_企業法務ケーススタディ(No.0360):倒産危機!  救いの手は助け舟か泥舟か!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2020年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百三十二の巻(第132回)「倒産危機! 救いの手は助け舟か泥舟か!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)

相手方:
灰田・江成(はいだ えなり)法律事務所 弁護士 灰田
よこしま銀行
みすて銀行

倒産危機! 救いの手は助け舟か泥舟か!?:
脇甘商事が倒産の危機に見舞われました。
メインバンクから新規融資の見合わせを通告され、資金繰りが急激に悪化し、ファンドや会計コンサルティングファームや大手法律事務所が紹介されました。
とはいえ、当社は、昔からもっている都心一等地の不動産が多数あり、取引先の離反や転注通告は1つもありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:事業信用と金融信用
企業経営には信用が必要です。
信用は、事業に関する信用と、金融上の信用にわかれます。
俗に、黒字倒産という言葉があります。
事業信用は健全であっても、金融信用をなくせば、会社が倒産してしまう、ということです。
実際、破産手続開始原因として、債務者の債務超過に加え、
「支払不能」
という要件も挙げられています。
債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいい(破産法2条)、これは、民事再生法にも、会社更生法にも存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:資金繰りが悪化したら会社はすぐに潰れるか
銀行は、強硬で暴力的な回収をして高利を貪り食うことを生業にしているわけではありません。
金融上の信用が毀損したからといって、すぐに民事再生や会社更生に行くというのは、早計に過ぎると思われます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:会社の再生とオーナーや経営者の地位の帰趨
「銀行に泣いてもらう」
前提で会社が再生する、というたてつけである以上、オーナー(株主)や経営陣が株主責任や経営責任を問われずに無傷で安泰、という無茶苦茶な話が通るとは到底思えず、ほぼ間違いなく、お払い箱になるでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:結論
相手方弁護士が語るホラーストーリーを真に受け、
「法的整理や事業再生ADRしかない」
と思い込むのは、早計に過ぎる、といえましょう。
「銀行にちょーっとだけ待ってもらえば済む話」
という社長や顧問弁護士の見解は、そのとおりです。
債務者である当社主導で、きちんとリスケ案を作成して軟着陸させ、その間に資産の処分や、不祥事やトラブルの沈静化、事業の継続、信用の回復をさせれば済む話です。

助言のポイント
1.不祥事等で資金繰りがおかしくなったからといって、「破産だ、民事再生だ、会社更生だ」と慌てる必要はない。信用不安や信用毀損の実体が、事業信用まで及んでいるのか、一過性の金融上の信用不安なのか、冷静に見極めよう。
2.法的整理や事業再生ADRにおいては、必ずといっていいほど銀行が泣く羽目に陥る。その状態で、「株主としても経営者としても責任はなく地位は安泰」などと寝ぼけた想定はできない。株は紙屑、経営者はお払い箱、最悪役員としての責任まで追求される。
3.民事再生や会社更生や事業再生ADRでは、かなりの割合で、株が紙屑化し、別の資金提供者が株主として投資をするので、会社は残るが、実質的には、乗っ取られることになりかねない。注意と警戒を怠らない。
4.「事業は健全、資産も健全、資金繰りだけ危ない」という場合は、大騒ぎせず、債務者主導で任意整理や特定調停を行い、銀行に待ってもらう、という戦法も、実は有効で検討に値する。銀行は街の金融業者と違い、高圧的な差押を忌避し、先延ばしにしがちだから、きちんと相手の行動習性を見極めて判断しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01039_企業法務ケーススタディ(No.0359):団体交渉でボロ負けしそうだ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2020年2月号(1月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百三十一の巻(第131回)「団体交渉でボロ負けしそうだ!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社総務部 社員 賀茶津 猛(がさつ たけし)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)

相手方:
脇甘商事株式会社 総務部 元社員 繊田 細子(せんだ さいこ)

団体交渉でボロ負けしそうだ!?:
労働組合は存在しないはずの脇甘商事に、団体交渉の申入れがあり、交渉が始まりました。
ことの真相は、出社しなくなった社員に退職してもらったところ、退職撤回を求めて、独立系労働組合に駆け込んだ、というものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:誠実交渉義務
「義務的団交事項」
について団体交渉が申し込まれますと、誠実交渉義務が生じ、この義務に違反すると、
「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと(労働組合法7条2号)」
に違反する不当労働行為とされ、
「労働委員会に申し立てられ、救済命令を食らう」
というリスクにつながっていきます。
誠実交渉義務は、
「言いなりになる」
ことを意味するわけではありませんし、
「正当な理由に基づき交渉を拒否すること」
は、不当労働行為でもありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:セクハラ、パワハラ、強迫による退職といった交渉テーマと誠実交渉
セクハラやパワハラでは、
「ちょっとした発言や、行動や、指示の仕方や、声のマナーやトーンが、受け手の感受性を基準に解釈したら、ハラスメントに該当する」
という
「判定が困難な、わかりにくい」
ケースがほとんどです。
そもそも、基礎的な事実の確認段階で、
「いった」
「いわない」
の争いになりますし、仮に、特定の事実の存在が確定しても、言い方や喋り方や態度を含めた
「当該事実の解釈」
をどうするか、という問題が発生します。
議論して妥協して調整するような議題ではなく、いつまでも平行線というのは普通に起こり得る話で、
もとより、この種の紛争について、
「事実の存否や評価、さらに一定の事実に法を解釈適用して結論を出して、紛争を最終的に解決する」
のは、唯一、裁判所だけが強権的になし得るものです。
議論が平行線のままであれば、話を打切り、裁判所に話を持ち込む、というのは違法でも何でもありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不当労働行為? 争議行為? それって、そんなに怖い?
裁判所にいくしか解決が進展しないような話が団交事項となっている場合、当然、会社としては、
「正当な理由により団体交渉の継続は無理なので、交渉打切り」
を宣言することになると考えられます。
たとえ会社側の交渉打切りに正当性があっても、組合側が不当労働行為であると言い張って労働委員会に駆け込むかもしれませんし、争議行為が始まるかもしれません。
そういう恐怖もあり、会社側として、組合の言いなりになる場合もあり得ますが、食らうペナルティは、何千万、何億円といった巨額の賠償や操業停止ではなく、
「交渉の席につけ」
「謝罪して二度としないと反省文を書いて貼り出せ」
といった、いわば
「お叱り」
だけです。
さらにいえば、労働委員会の判断に不服があれば、裁判所でこれを争うこともできます。

助言のポイント
1.団体交渉においては、組合と誠実に交渉する義務があるが、だからといって、これは「組合の言いなりになる義務」を意味するわけではない。
2.団交事項によっては、事実の存否や法解釈など、そもそも、妥協や譲歩によって解決することに馴染まないものもある。その場合、議論が平行線になるのは、ごく自然の成り行きだから、決して慌てない。
3.議論が平行線になったり、進展がない交渉を打ち切ろうとすると、組合側は不当労働行為や争議行為をちらつかせ妥協や譲歩を迫るが、そんなものにビビらない。
4.不当労働行為といっても別に大きなペナルティを食らうわけではないし、争議行為といっても従業員全員のストや会社の業務が停止するようなものではない場合もある。恐怖の根源と本質を冷静に見据えて、賢く対応しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01038_企業法務ケーススタディ(No.0358):世のため消費者のために、企業同士がくっついて何が悪い!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2020年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百三十の巻(第130回)「世のため消費者のために、企業同士がくっついて何が悪い!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同グループ会社 脇甘スマート・ペイメント(「脇スマペイ」)
同社 社外取締役 雅致田 競(がちだ きそう)

相手方:
通話アプリ キャッシュレス決裁会社 フラッシュ・コミュ
フラッシュ・コミュの子会社 フラッシュ・ペイ

世のため消費者のために、企業同士がくっついて何が悪い!:
当社グループのキャッシュレス決裁会社が、同業他社との事業統合を計画し、取締役会で議論したところ、官僚OBで社外取締役から、独禁法上の問題があるので事業計画を見直すよう、反対されました。
結局、事業統合計画は、社外取締役のみ棄権、残りは賛成ということで可決となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:経営統合と独禁法
「各々の会社の、運営コストや、広告やキャンペーンといった無駄なコストが不要となり、手数料は下がりサービス品質は向上するのだから、経営の統合は、消費者にとってメリットしかない」
という社長の話にはそれなりの説得力がありますが、独禁法抵触のリスクのクリアランスを必須課題として議論しておくべきとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「無駄な競争を無くして消費者に還元!?」という甘言
例えば、携帯大手3社が事業提携を始めるという共同リリースを出したとしますと、ある程度、学と教養のある人間は、このリリースをみた瞬間、不安と怒りを覚えます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:競争がなくなった場合に生じる消費者の厄災
先の例えでは、厳然たる事実として、
「ガチンコ競争していた携帯3社の競争環境が劇的になくなる」
ことだけはいえます。
企業という独自の意思を持った独立した生き物の行動習性としては、競争環境がなくなったり緩和されたりすれば、努力をしなくなりサボり始めます。
競争環境が不可逆的になくなると、ライバルもなく、新規参入組も参入障壁のため競争に参加できなくなり、結果として、消費者は
「高くて粗悪なサービス」
に半永久的に苦しめられることになるのです。
このような企業の習性は、資本主義の先進国である米国で、資本主義の
「黒歴史」
として、証明されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:独禁法の企業結合規制等の制度趣旨
わが国をはじめとした自由主義諸国が企業に自由活発に営業活動をさせるのは、たくさんの企業が自由活発に活動し、相互に切磋琢磨して、価格競争と品質競争という能率競争を展開することを通じて、
「高くて粗悪なもの」
が駆逐され、国民に
「安くていいもの」
が提供されるようになり、これにより、経済社会が自律的・持続的に発展する、という国益を考えているからです。
他方で、企業は、
「より低コストで、より早く、よりラクに、より大きく儲ける」
という本質的本能を持つため、常に競争をなくし、競争を避けようとします。
企業の本能を効果的に制御して活発な経済発展を企図したところに、独禁法の制度趣旨があるのです。

助言のポイント
1.どんなに、「無駄をなくし価格を下げ、品質を向上させ、消費者のためになる」気持ちがあっても、競争がなくなったり、低下したりするような企業同士のお付き合いや縁談話は、独禁法規制にひっかかる可能性がある。
2.独禁法に違反・抵触リスクがあるような企業結合は、公正取引委員会に、届出、審査をした上でないと、排除措置命令が出されて、さんざん手間暇かけた縁談が破談させられることにもなりかねない。しっかりと規制リスクを踏まえて事業計画を整備すること。
3.「より低コストで、より早く、よりラクに、より大きく儲ける」という本能を持ち、競争を嫌悪し忌避したがる企業一般の行動習性や、資本主義の「黒歴史」も踏まえて、反競争行為規制の本質をしっかりと理解しておく。
4.もっとも、市場の範囲の確定の仕方によっては、「競争に影響を与えない企業結合」と判断される場合もある。きっちりと理論武装して規制クリアランスに臨むこと。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01037_企業法務ケーススタディ(No.0357):証人尋問のお作法!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十九の巻(第129回)「証人尋問のお作法!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
同社 部長 師土路 戻郎(しどろ もどろう)

相手方:
インターナショナル・ネンダ・マテリアル株式会社(「インネン社」) 社長 稔田(ねんだ)
インネン社代理人 橘田・八田(キッタハッタ)法律事務所パートナー 橘田(きった)弁護士

証人尋問のお作法!?:
当社は取引相手から訴訟を起こされ、裁判では尋問前の和解でも話がつかず、証人尋問となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:裁判における証人尋問の意義
民事訴訟法の世界においては、証人は
「証拠方法」
すなわち、事実の痕跡が人間の脳の記憶領域に格納された意味合いとして扱われています。
証人尋問という
「記録(記憶)再生手続」
を行い、その結果を尋問調書として記録し、当該調書が
「証拠資料」
として取り扱われ、事実立証に活用されます。
したがって、証人尋問において、勝手に話を誘導したり威嚇したり困惑させたり議論をふっかけしたりするのは、
「記録再生」
という即物的な営みにおいてはまったく無意味かつ有害です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:証人尋問の具体的対応術
推奨されるべき準備や心構えとしては、
1 尋問態度:
何を聞かれようが議論をふっかけられようが惑わされず、裁判官にきちんと目を向けて 、自分の記憶していることをハキハキと答えることが推奨されます。
2 想定問答を暗記することの是非:
想定問答の模範回答を暗記するのは無意味かつ有害です。
忘れたら、
「忘れてしまいました」
と正直に話せばいいだけです。
準備をするのなら、それまでに裁判所に提出した自分名義の陳述書をよく読み、
「自分がそれまで何を話したか」
を再確認し、矛盾したり誤解されたりしないように記憶をリフレッシュすることの方が重要です。
3 反対尋問への対応:
反対尋問の際には、質問から必ず
「一呼吸」
置いて、答えるべきです。
話がかぶると、記録をとっている書記官がうまく記録できなくなり、大変迷惑がかかるうえ、結局、証人尋問の成果である尋問調書の記載が混乱し、その価値が低下して、事実立証に使えなくなります。
さらにいうと、証人を窮地に陥るピンチから救う可能性が不可逆的に喪失する意味で、証人サイドに立つ弁護士としては非常に困るのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:証人尋問の最大のヤマ場は反対尋問ではない
尋問の最大のヤマ場中のヤマ場は、
「補充尋問(裁判官による質問)」
です。
補充尋問では、本当に重要で、事件の勝敗分岐にかかわる決定的事項の確認がなされます。
補充尋問の際、裁判官が小さい声で何をいっているのかわからないからと、適当に曖昧に愛想笑いしていい加減な答えをしたばかりに、
「それまで話した内容とまったく違う答え」
と誤解されると、取り返しのつかない事態になります。

助言のポイント
1.テレビドラマのイメージだけで証人尋問を想定すると、大きく失敗する。実際の証人尋問の意義と役割、ゲーム環境や達成ゴールをしっかり確認し、正しく対応すること。
2.裁判官に向かって堂々とハキハキと目をみてしっかり答えること。裁判官を敬う余り、遠慮したり、下を向いてボソボソもじもじするのは、ウソをついているようにみえて逆効果。あくまで、裁判官からどうみえるか、を基準に、すべてのプレゼン対応を構築すること。
3.相手方の弁護士の反対尋問は、冷静に、一拍「間」を置いて、対応しよう。感情的になって論争をふっかけられても、ドライにクールに、裁判官に対して淡々と受け答えをすること。勝敗を決する証人尋問の最重要のヤマ場は補充尋問。適当に曖昧に受け流さず、最後まで気を抜かず、しっかりと受け答えをして、勝負を勝ち取ろう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01036_企業法務ケーススタディ(No.0356):残業代未払事件では、企業は必敗する!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十八の巻(第128回)「残業代未払事件では、企業は必敗する!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 社員 銭田 欲太郎(ぜにだ よくたろう)
裁判官 大政 守(たいせい まもる)

残業代未払事件では、企業は必敗する!?:
当社は、元従業員から
「未払いの残業代がある」
と訴訟を提起されました。
担当する裁判官は、被告・当社側に厳しい訴訟指揮を行います。
社長は、
「正社員は、一生面倒みてもらう御恩を滅私奉公でお返しするものだ。
和解などするもんか」
と、強気です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:保守的で体制寄り・企業寄りの傾向が強い裁判官
裁判官は、多数の事件を抱え殺人的に忙しい日々を送っており、実際、労働時間や残業などといった概念すら吹き飛ぶほどの仕事漬けの毎日です。
またその友人も、行政官庁や一流企業に勤めたりしているような人間が多く、月数百時間にも上る残業があり、サービス残業など当たり前のカルチャーで過ごしており、このようなことから、裁判官一般は、割と企業寄りのブラックな考え方に馴染みやすく、割と保守的で権威や体制にシンパシーある行動をとる方が多い、とみて差し支えないでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:未払残業代事件における裁判所の対処哲学
ところが、裁判所は労使問題において、
「常に、当然企業側に立つ」
とは言い難い、独特の哲学と価値観と思想を有しているような節があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「未払残業代事件での企業受難時代」の背景
例えば、企業が無料で際限なく働かせることができる人的資源を用いて経営するとしましょう。
そうすると、企業は、無限で無償の労働力に安易に依拠するようになり、その結果、生産効率は改善されず、設備更新もされずに、進化に取り残されてしまいます(ガラパゴス化)。
この例えを国レベルの話に置き換えてみると、無限で無償の労働力に安易に依拠する国は、人的資源の高コストに悩まされながら、これを克服した国との間に技術格差が広がっていき、進化から取り残され(ガラパゴス化)、やがて、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった圧倒的な新技術に、駆逐されてしまいます。
人的資源は有限で有償の資源であり、しかも、今後枯渇するので、ますます依存不能となります。
昨今の
「未払残業代問題についての徹底した労働者寄りの裁判所の対処哲学」
は、労働者の人権が大切という以上に、日本の産業界の未来を憂いた、エスタブリッシュメントとしての確固たる信念に支えられ、その現れとして、立法府や行政府としては
「働き方改革」、
司法府としては
「違法残業の駆逐」、
という体制方針として具体化されています。
そう考えると、現在の労働課題のトレンドがよくみえてきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:裁判所からしょっぱい対応を受けた「未払残業代事件」
未払残業代事件については裁判所全体として企業側に相当厳しい対応をしてくる、という認識を明確に持つべきです。

助言のポイント
1.「裁判官は保守的なエスタブリッシュメント。日本の産業界や企業に強いシンパシーを持っている。だから、労働事件については当然企業側の言い分をしっかり聞いてくれるはず」というのは誤った思い込み。
2.最近、未払残業代請求事件は企業側が惨敗するケースが多く、ほとんどのケースで企業側の弁解は採用されず、払ってこなかった残業代を耳をそろえ、利息をつけ、さらには付加金というおまけまでつけて払わされることもある。
3.「無料でいくらでも働かせる人的資源があり、企業がこれに依拠した経営を行う」ことが許されなくなっている時代の流れを鋭敏に捉えること。
4.紛議のプロセスで無駄な抵抗をしたり、事件の妨害をしたり、と悪質な態度で望めば、付加金という「倍づけペナルティー」も払わせ、ヤキを入れられることもある。注意しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所