01035_企業法務ケーススタディ(No.0355):契約書とかなくても問題ないわい!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十七の巻(第127回)「契約書とかなくても問題ないわい!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社グループ 脇甘興業 所属歌手 グレゴリー半田(はんだ)

契約書とかなくても問題ないわい!?:
グループ内で芸能・エンタテインメント事業の所属タレントが、闇営業を行い、加えて、その相手が反社会的勢力で、写真週刊誌に情報がリークされました。
そこで、マネジメント契約を解除しようとしたところ、相手は弁護士をつけ、
「解除には理由がないので、契約解除には応じられない。
解除後5年間の芸能活動禁止条項を適用せず、解決金をいくらか払ってくれるのであれば、合意解除に応じてやっていい」
といってきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約書なくとも契約は成立するが、喧嘩になれば完敗する
わが国民法においては意思主義が採用されており、口約束であっても意思表示が合致さえしていれば、文書や契約書がなくても、契約は、法律上有効に存在する扱いになっていますが、民事紛争の場面においては、完敗が確定で勝敗が決定します。
「契約があっても契約“書”がない」
というストーリーや、
「記憶があっても記録がない」
というストーリーについては、裁判所においては、
「寝言」
「妄想」(もしくは、より端的にいえば「ウソ」)
として片付けられる、というのが民事紛争の現実です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:理由がなければ解除ができない
一般的に、芸能マネジメント契約は、専属マネジメント契約となっており、事務所側が解除した場合、専属的な取扱いから、数年間(3年あるいは5年)、元の事務所に断りなく芸能活動ができない(あるいは活動が制限される)という扱いになっています。
相手は、たしかに問題ある行動で契約相手に甚大な迷惑や損害を被らせていますが、債務不履行解除とすると、当方が、
「特定の義務を履行しなかった」
という事実を特定して理由として掲げて相手に覚知させ(主張責任)、かつ、相手が争った場合、当該事実の痕跡を提示する(立証責任)必要が出てきます。
しかしながら、肝心の契約書がないわけですから、立証はおろか、主張することすら困難です。
仮に解除(一方的な契約関係の解消)ができたとしても、契約書がない以上、解除の効果として
「数年間(3年あるいは5年)、元の事務所に断りなく芸能活動ができない(あるいは活動が制限される)という扱い」
を要求することは、絶望的に期待困難です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判所に「反社排除」の風潮への同調を期待できるか
最高裁まで争われた、反社絡みの刑事事件では、某県内のゴルフ場で、利用細則、約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたクラブハウス入り口に
「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」
などと記載された立て看板を設置していたという状況において、被告人が、暴力団関係者と共謀してプレーした事実およびゴルフ倶楽部の会員と共謀してプレーした事実の2つの事実で起訴されましたが、最高裁は無罪を言い渡しました。

助言のポイント
1.今どき契約書なしで契約関係を管理するのは無謀。下請法や独禁法の抵触、さらには、関係がおかしくなったとき、手も足も出なくなる事態に陥るリスクが出てくる。
2.契約書がなければ、相手方の特定の義務違反の主張立証すら困難な事態に陥る。債務不履行が主張・立証できなれば、解除も損害賠償も不可能。
3.反社や反社関係者だから、どんな過酷な法的主張も可能だ、とは早計に過ぎる。裁判所は、風潮や世情に流されず、ドライに、クールに、是々非々で議論し、結果、反社を救済・擁護する結論を出すこともあり得る。
4.揉めた場合は、無駄にアツくならず、冷静に目的・ゴールを確認し、スマートに解決し、関係清算すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01034_企業法務ケーススタディ(No.0354):幻の時効完成!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十六の巻(第126回)「幻の時効完成!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
株式会社曲有(クセアリ)工業 曲有(くせあり)

相手方:
よこやり債権回収株式会社
よこしま銀行

幻の時効完成!?:
脇甘グループがM&Aでワケアリ企業を買収した後、債権を取り立てる旨の通知が舞い込んできました。
どうやら、借りたことは事実だったようで、金利も含めまったく払っていないようです。
相手からは、払える範囲でいいので少しでも払ってもらえるなら分割でもなんでも協力します、という申し出がありました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:時効制度
民事事件でも時効制度はあり、改正前の現行民法では、債権は
「権利を行使することができる時」
から10年で時効が完成する(現行民法166条、167条)とされています。
これが原則となり、商行為により生じた債権は5年で時効が完成し(商法522条)、その他債権者の職業属性等に基づく債権発生原因別に短期間の時効が定められています(現行民法170条~174条)。
なお、改正民法では、
「客観的起算点から10年、主観的起算点から5年」
に一本化されるようになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:時効援用制度
時効が完成した後、債権を消滅させるには、債務者側の
「援用」
というアクションが必要となります。
「私は、時効が完成したので、借金を踏み倒します」
という意思表示です。
時効に関するトラブルの大半は、この
「援用」
をしそびれたり、忘れたり、あるいは積極的に返済意思を示すような紛らわしい行為をしたことによって、せっかく完成した時効をフイにしてしまうケースです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:時効のリセット
時効が完成したにもかかわらず、時効をフイにして、さらに、時効をリセット(また完成まで10年かかる)させてしまう場合とは、時効完成後、一度、承認したり、支払いを約束したり、一部支払ったり、と時効援用と矛盾する行為をしてしまうことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:長くほったらかしの債務の取扱
サービサーとしては、あの手この手を使って、時効の援用をさせず、逆に、債務の承認とか支払の約束とか、一部でも弁済させて、時効をリセットしようとします。
債務者側としては、まず、時効完成状況をきっちり調べ、もし、完成していて、時効の利益を使いたいのであれば、絶対に、債務の承認とか一部弁済とか、これと間違われるような積極的で意欲的で良心的な行動もとるべきではありません。
「時効が完成したので、これを援用する」
という意思表示を通知し、あとは、連絡遮断です。

助言のポイント
1.債権も支払わないまま一定期間経過すると、時効が完成し、消滅する可能性がある。
2.ただし、債務を消滅させるには、「時効援用」という「時効になったので、合法的に踏み倒すから、チャラね」という意思表示が必要。
3.せっかく時効が完成しても、債務者側が支払いに協力的な行動をすると、時効がリセットされてしまう。特に、長く不払いとなっている債権の処理に、債権者が甘く優しいささやきをする際は、要注意。
4.自分の債権は時効にかからせないよう、しっかり管理すること。また、時効が完成した債務は、しっかりと消滅させるよう、不用意な行動を取らないよう警戒すること。

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01033_企業法務ケーススタディ(No.0353):著作権侵害と警告されたが、その前に、それって著作物なの!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十五の巻(第125回)「著作権侵害と警告されたが、その前に、それって著作物なの!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
当社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
グループ会社 株式会社脇甘パシフィック・クリエイト(「パクリ社」)
株式会社中貫(ナカヌキ)技研(「ナカヌキ社」)

相手方:
株式会社五味(ゴミ)ソフト開発(「ゴミソフト社」)

著作権侵害と警告されたが、その前に、それって著作物なの!?:
グループ傘下のソフト開発企業が、孫請けのシステム会社から
「著作権を返せ! 勝手に使うな! 使いたければカネ払え」
という通知を受け取りました。
通知書をみると、著作権に詳しそうな著名法律事務所が代理人に就いています。
当社の顧問弁護士は降参モードで、社長もいわれるがまま莫大な著作権買取代金を支払おうとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:著作権という権利が発生するための要件
著作権とは、著作権法に基づき認められた著作物を保護するための権利で、著作者に発生する権利です。
「著作物」
は、
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
をいいます(著作権法2条1項1号)。
コンピュータ・プログラムも著作物となり得ることが法律上定められていますが、作成者の個性が示された、創作的なものである必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:コンピュータ・プログラム著作権の創作性
著作権法が保護するのは、アイデアや発明やコンセプトや技術ではなく、
「創作的表現」(クリエイティブな表現)
です。
ソフト開発工程においては、
「誰が作っても一定程度は同じになる」
といったルーティン部分については、そこに著作物性が看取できるかどうか、ということを検討しなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:額の汗の法理
著作権法はあくまでも
「創作的な表現」
を保護するものであり、人の
「努力や汗や投入労力や手間や時間」
に着目して、その成果を保護するというものではありません。
「額に汗の法理」
が諸外国では唱えられることがあり、EU諸国では比較的認められることもあるといわれていますが、日本や米国では、著作権法の趣旨に合わないことから採用されていません。
裁判例をみてみますと、ある言語で書かれたプログラムの著作物性が争われた事件に関して判断された知財高裁平成18(2006)年12月26日判決においては、サブルーティンの数、ステップの数、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、組合せ、順序、サブルーティン化など多様な記載が可能で、作成者の創意工夫が発揮されている部分は、創作性あり、として著作物性を認めました。
他方で、簡単なプログラムで、プログラムの記載に選択の余地がない、陳腐でありふれた部分については著作物性を認めませんでした。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:本設例について
「プログラムに著作物性があるといえるため」
の要件である、
「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラム全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものである」
か否かを当てはめると、相手は単に額に汗したものの
「陳腐でつまんないし創作的でもクールでもない」
ものの作成に関与していただけで、彼らの成果物に著作物性はない、という帰結も十分考えられます。
加えて、警告というか、安っぽい脅し部分は、不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗にも該当するという裁判例もありますし、脅しに屈せず、この点も争うことができます。

助言のポイント
1.「著作権侵害だ」と、ちょっと警告されたくらいで、慌てて、ビビって、和解しようとしない。眉毛に唾をべったりつけて疑ってかかろう。
2.著作権をはじめとした知的財産権は、権利発生要件が抽象的で曖昧であり、そこにいくらでも争う余地がある。
3.著作物には、「カッケー! ヤベエ! チョーイケてる!」というレベルの創作性が必要。
4.創作性のない、陳腐でつまんないものは、どんなに時間や労力がかかっても著作物ではなく、著作権も生じない。いきなり侵害警告されても、基礎となっている権利そのものに疑いを持ち、徹底して争うことを考えること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01032_企業法務ケーススタディ(No.0352):仮差押をブッ込まれた場合の対処法

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十四の巻(第124回)「仮差押をブッ込まれた場合の対処法」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
グループ会社 デベロッピング・ベンチャーマインド・ソリューション社(「デベソ社」) 社長 一手 久太郎(いって きゅうたろう)

相手方:
大東亜紡績
どつぼ銀行

仮差押をブッ込まれた場合の対処法:
子会社が関わったプロジェクトについて、取引先の先代オーナーの激怒を買い、返金騒動にまで発展し、交渉が破談しました。
しばらくしてから取引先銀行から預金が仮差押となったと連絡が入り、これと前後して、
「カネの7割返せば仮差押を解除してやる」
という話が、相手の代理人からありました。
契約書もあり、未払いもあるとはいえ、裁判所の仮差押命令が出たのなら負けたも同然で、銀行の預金が使えないとなると、事業の継続は困難です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:仮差押命令とは
仮差押とは、これから訴訟を起こす債権者が、後にせっかく勝訴判決を取っても強制執行できない状態となるのを防ぐために、債務者(これから被告となる者)の財産が自由に費消されたり売り飛ばされないよう裁判所に申し出て、凍結する手続きのことです。
発令するためには要件が必要です。
「裁判に勝てそうな蓋然性(債権が存在しそうなこと)」
はもちろんのこと、仮差押される方の迷惑や損害を填補するための担保を積ませてから発令されるのが一般的です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:簡単に発令される仮差押命令
仮差押命令には、債務者のヒヤリング(これを「審尋」という)は予定されていません。
債務者に仮差押の動きがバレると、ずる賢い債務者は先んじて財産を処分するかもしれないので、影でこそこそ行うことが手続上想定されているのです(これを密行性という)。
とはいえ、債権者はきっちり申立書を書き、証拠をつけ、裁判所に出向いて、審尋手続で説明し、担保を決めてもらい、払い込まなければなりません。
不動産という財産に仮差押がかけられると、不動産登記簿の甲区欄に
「仮差押」
という登記がつくことになりますし、預金債権に仮差押がかけられると、取引先銀行から緊急連絡が入り、大騒ぎになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:仮差押命令を争う方法
仮差押命令(保全命令)について理由がない、必要性がないといって争い、取消しや変更を求める場合、保全異議(民事保全法26条)という不服申立てを行う方法もあります。
とはいえ、保全異議はそう簡単には出ません。
当事者双方に対していいたいことをいわせる機会を与える(手続保障)必要から、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる期日を一度は経なければなりませんし、実際、裁判実務においては、すべての保全異議の期日について債権者、債務者双方審尋がなされますし、審尋期日が何度か開催されることもあり得ます。
そうこうしている間も、銀行が融資一括返済の動きを始めるかもしれず、債務者としてあまり悠長な態度で構えていられません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:カネがある場合に、手っ取り早く仮差押命令を無効化する方法
手っ取り早く仮差押命令を無効化したい場合、発令と同じくらいスピーディでインスタントに仮差押命令を事実上なくす方法があります。
仮差押解放金による仮差押命令の取消し、と呼ばれるもので、債権に見合う金銭を債務者側に供託させ、債務者がこれを理由に仮差押の執行の停止または取消しを裁判所に求める、という手続きです。

助言のポイント
1.仮差押命令は、債務者の知らないところで勝手に行われる。
2.仮差押命令如きで慌てるな。まだ正式裁判で負けたわけではない。
3.仮差押命令でパニックになっているところに提案される相手の和解案には迂闊に乗らない。
4.不当な仮差押命令には保全異議で徹底的に争おう。時間的に切迫していて、カネに余裕があるなら、仮差押解放金を積んで、取消し、変更で対応。

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01031_企業法務ケーススタディ(No.0351):アクティビストが襲来した!(6)TOB・完全子会社化で幕引きするほかないか・・・

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十三の巻(第123回)「アクティビストが襲来した!(6)TOB・完全子会社化で幕引きするほかないか・・・」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
当社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
当社 グループ会社 脇甘フーズテック 監査役 円際 寒山(まどぎわ かんさん)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)

アクティビストが襲来した!(6)TOB・完全子会社化で幕引きするほかないか・・・:
大荒れの株主総会を乗り越え、落ち着いたのも束の間、今度は提訴要求通知が舞い込みました。
再び窮地に陥る中、ファンド側から非公式な接触があり、一連のトラブルを終わらせる魅力的な提案がなされました。
「もし、親会社が主導してTOBして完全子会社化するのであれば、代表訴訟を取下げてもいい」
この話にのるほか、解決する道はないのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:アクティビスト・ファンドの目的
ファンドの目的は、平たくいうと、カネ儲けです。
なお、アクティビスト・ファンドが持っているカネは自前の資金ではありません。
ファンドという以上、投資家から集めたカネを運用します。
彼らは、そこそこの期間で、そこそこのリターンを求めます。
ファンド側は、手っ取り早くカネを儲けてエグジットしたいのであり、会社役員の責任追及に何年もかけるほど暇も余裕もない、という推測も成り立ち得ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:買った大量の株は売るのが大変
投資家にとって、もっとも重要なのは出口戦略です。
「勝ち逃げ」

「損切り」
いずれも
「逃げる」
ための手法をうまく操り、カネを増やすことを目的とする生き物であり、これはアクティビスト・ファンドも同じです。
アクティビスト・ファンドが、一般の投資家と際立って違う点は、株を買い集めて、そこそこ大きな割合の株をもってしまったら、出口がなかなかみつけにくい、という点です。
いきなり売ると需給バランスが悪化し値崩れを起こしてしまいますし、段階的に売却すると大量保有報告で撤退・腰引けモードが露見してしまいます。
大量の株を一挙に高く売りつけるには、投資先の会社が自社株買いをしたり、経営陣がMBOしたり、親会社がTOBして完全子会社化したり、という手法がもっとも手っ取り早いです。
ただ、いきなり、投資先の会社に出向いて、
「TOBやれば」
と提案しても、一蹴されます。
そこで、
「もう上場なんて懲り懲り。
早く、市場から退場して、誰にも邪魔されずに楽しくのんびりしたい」
と思わせるために、プロキシーファイトや株主提案や提訴要求通知を、
「会社を健全化する」
というお題目の下、仕掛けたのではないか、との推測も成り立つのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:相手の嫌がることをして、相手のして欲しいことは絶対しない
株主代表訴訟が経営活動の失敗による損害の賠償をテーマにする場合、株主側はそう簡単には勝訴できません。
といいますのは、ビジネス・ジャッジメント・ルール(経営判断の原則)、すなわち、
「取締役が行った経営判断によって、結果的に会社が損害を被ったとしても、当該経営判断が合理的で適正なものである場合は、裁判所は、取締役の経営判断の是非に干渉せず、当該取締役を法的な責任を負わせない」
という法理に基づく抗弁が働くからです。
延々と経営判断の当否の議論がされた挙げ句、大抵、取締役側の勝訴に終わります。
株主代表訴訟の印紙代は安くなったものの、原告・株主側の弁護士費用は、やはり原告自身が負担する必要がありますし、他方、取締役側は、大抵D&O保険に加入しており、対応予算は潤沢にあります。

助言のポイント
1.アクティビスト・ファンドも、金儲けが目的。相手の意図や目的と置かれた状況を正確に把握して、口車に乗せられないように。
2.大量株は、売却するのが大変。その意味では、アクティビスト・ファンドは、常に、出口探しに難儀している。
3.TOBについては、資金や手続コスト、上場メリットの放棄といったデメリットも大きい。焦っているのは相手の方。相手の弱点や急所を掴んで、むしろ、攻勢に転じることも考えること。
4.「経営に失敗したから損害賠償せよ」という理由の株主代表訴訟は、ビジネス・ジャッジメント・ルールで対抗しよう。D&O保険で潤沢な軍資金を手に入れ、徹底抗戦し、逆に、相手を泥沼の長期戦に招き入れ、追い詰めよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01030_企業法務ケーススタディ(No.0350):アクティビストが襲来した!(5)株主総会でやり込められそうだ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十二の巻(第122回)「アクティビストが襲来した!(5)株主総会でやり込められそうだ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)
個人株主

アクティビストが襲来した!(5)株主総会でやり込められそうだ!:
株主総会当日。
株主からの厳しい突き上げに、脇甘社長は窮地に陥ってしまいました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会対策のトレンド変化
アクティビストは、
「図星を突いた鋭い質問」
を、インテリジェントかつエレガントかつジェントルに投げかけます。
さらにタチが悪いのは、会社法を徹底的に勉強し、株主総会における会社側の説明義務を明確に意識した上で、説明義務が果たせないような状況に追い込むシナリオを設計し、見事に追い込んでいく入念さ。
加えて、野次馬根性丸出しの個人株主が数の力でアクティビストを支援します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「投資家との対話重視」時代の総会対策
投資家の質問が依拠する前提理念や前提価値観を集約・整理すると、
「会社は『シェアホルダーズ(株主)』のものであり」
「『シェアホルダーズ』は短期的利益追求を望んでおり」
「会社は、短期的利益追求という『シェアホルダーズ』の要請に応えるべきだ」
という趣旨のものとして整理されます。
他方、会社としては、ゴーイングコンサーン(企業が永続するという理論的前提)による長期的利益追求が目的です。
会社経営陣が、
「会社は、短期的利益追求という『シェアホルダーズ』の要請に応えるべきだ」
という議論の土俵に乗ってしまうと、ほぼ間違いなく論破されることになります。
したがって、質問に対する説明としては、彼らの依拠する前提理念や前提価値観を覆し、まったく別の理念・哲学を基礎にして、
「立場が違うから、いくら議論しても隔たりは解消しない。
その意味では、これ以上の質疑は無意味。
あとは、価値選択の問題なので、決議によって決するほかない」
という論理状況を創出して初めて、説明を打ち切ることが可能となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「会社はトレーダーだけのものではない」という説明ロジック
「会社は、短期的利益を追求する株主だけのものではなく、株主を含む多数のステークホルダーズ(利害関係者)のために存在するものであり、短期的利益追求もさることながら、ゴーイングコンサーンを最大の存続目的とする。
したがって、短期的利益追求のみを指向したご質問は、前提において当社の目指すべき方向性と異なる」
というような価値観や理念は、現代的な株式会社の運営理念としてフェアかつリーズナブルなものとして提唱されたものであり、相応に説得力があります。
彼我の意見の隔たりの根源的な分岐点までたどり着ければ、あとは、価値選択の問題であり、もはや質疑によって解消できる性質のものではなく、採決で決するほかありません。

助言のポイント
1.株主総会対策において、「総会屋を仮想敵とする昭和や平成初期の対策」は、もはや時代遅れの代物となっている。「インテリジェントかつエレガントかつジェントル」な株主から「図星を突いた鋭い質問」をされた場合には使えない。
2.「遊休資産の放置を指摘し、株主還元や配当増額に回せ」という株主サイドの主張に対し、「会社は株主のもので、株主のいうことは絶対」という土俵に乗って議論した瞬間、反論ができなくなってしまう。
3.「会社は、トレーダーだけのものではなく、株主を含む多数の利害関係者のために存在するものであり、短期的利益追求は、長期の継続にとって有害」という価値対立、理念対立にまでさかのぼって議論を構築しよう。
4.価値対立まで議論が進めば、「これ以上は考え方の違いで、堂々巡り。あとは採決で決する」と説明義務の呪縛から逃れられる。頭を使って、うまくやりすごそう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01029_企業法務ケーススタディ(No.0349):アクティビストが襲来した!(4)いよいよ株主総会が始まるぞ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十一の巻(第121回)「アクティビストが襲来した!(4)いよいよ株主総会が始まるぞ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
当社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
同社法務部員 銚子 則夫(ちょうし のりお)
同社法務部員 林 建(はやし たてる)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)

アクティビストが襲来した!(4)いよいよ株主総会が始まるぞ!:
株主総会前日のリハーサルで、顧問弁護士は、
「会社には説明義務があり、違反すると、総会決議取消訴訟が提起され、敗訴することになるため、とにかく、きっちり丁寧に説明して、相手にスキをみせないようにしましょう」
と助言します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会、そんなに大変?
株主総会は、株主、すなわち、株式会社に対して元手(資本金)を出した、共同オーナーの方々が集まって、役員人事や決算承認、その他会社の基本方針や重要事項を決定する、会社の最高意思決定機関です。
上場企業は一定の浮動株の存在が前提となっており、何を考えているか、何を言い出すかわからない集団相手に、疎漏なきよう、しっかりとした機関運営を行い、会社の意思決定基盤を盤石にしなければなりません。
どれだけ予測し、想定し、準備しても想定外の波乱が起こる何でもアリの総力戦です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:数の力にモノをいわせる合理的行動
国会の委員会で、強行採決がされる場面を思い起こしてください。
審議をさらに重ねても、与党と野党では、意見の隔たりが大きくなることはあっても一致をみることは想定されません。
そんな状況において、最低限の審議の機会さえ与えれば、あとは、数の力で、採決を強行して、本会議採決を経て法律を作ることは、一定の合理性がないとは言い切れません。
エレガントで芳しいとはいえませんが、
「相手を満足させるために、際限なき妥協の末、時間と労力を無限に費消し、挙句の果てには、相手の言いなりになる」
という最悪の結果を考えれば、相対的には正しい行動と評価できます。
日本国家の立法機関運営ですら堂々とやっていることですから、たかが市井の会社の意思決定機関運営が真似たところで問題はなさそうです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株主総会における説明義務
会社側には
「説明義務」
が課せられており、この義務に違反して総会決議を強行すれば、当該株主総会決議は瑕疵(法律上の欠陥)を帯びることになり、後日、株主から取消請求を申し立てられる危険性が出てきます。
しかし、何をどの範囲で説明するかは法律的に一義的に決まっているわけではなく、状況や解釈によってさまざまな結論となり得ます。
さらにいえば、説明義務が生じるかどうかも議論になり得ます。
そして、仮に、株主総会決議が瑕疵を帯びた、としても、これを不服とする株主側が相当過酷なまでの資源動員(カネを払って弁護士に依頼し、時間と労力をかけて、訴状を作成し、裁判に持ち込むという負担)をして、3ヶ月以内に裁判を始めない限り、瑕疵は勝手に治癒されていきます(会社法831条1項)。
「瑕疵はあるけど、取消しまでは必要なし」
ということが制度として存在するのです(裁量棄却制度、会社法831条2項)。
さらにさらに、仮に、株主総会決議が裁判所によって取り消されても、もう一回総会をやり直せばいいだけです。

助言のポイント
1.株主総会は、確かに会社の最高意思決定機関であり、重要なイベントだが、必要以上に恐れない。
2.野党側は、要不要、関係のあるなし、どこまで深掘りするか、に関係なく、とことん説明を求めてくるが、言いなりにすべてに付き合って、主導権を握られるような事態は避けること。
3.説明義務違反は総会決議の取消原因とはなり得るが、「説明義務違反か否か」は争点になるし、取消請求する野党株主側としてはリスクと負担を被るわけだし、さらには、裁量棄却という救済措置も用意されている。万が一、取り消されたら総会やり直しも辞さない、くらいの覚悟をしておけば怖いものはない。
4.説明義務違反、総会決議取消、むやみに恐れない。むしろ、無用に恐れるあまり、総会運営が制御不能になる事態を恐れること。最後は、国会の委員会強行採決をイメージし、果断に対処すこと。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01028_企業法務ケーススタディ(No.0348):アクティビストが襲来した!(3)委任状争奪戦が始まった!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十の巻(第120回)「アクティビストが襲来した!(3)委任状争奪戦が始まった!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社グループ内上場企業 脇甘フーズテック株式会社 役員 凡田 蔵男(ぼんだ くらお)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)

アクティビストが襲来した!(3)委任状争奪戦が始まった!:
外資系のファンドに株主名簿を要求され、あっさり手渡してしまいました。
ファンド側は株主提案を行い、激しい委任状争奪戦が始まろうとしています。
株主はまったく無反応です。
そこで、株主優待の前渡しとして、委任状であれ議決権行使書であれ総会出席であれ、とにかく総会に参加してくれたら、脇甘カードをプレゼントすることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:議決権行使書と委任状
プロキシーファイト(Proxy Fight)は、委任状争奪戦といわれます。
もっとも、株主が1000人以上の会社については、会社法上、議決権行使書方式が強制されるため(会社法298条2項)、上場企業で委任状方式は基本的にお見かけしません。
株主総会に、株主が行うアクションは次のようにわかれます。
1 実際に総会に出席し、賛否を投じる
2 議決権行使書に○×を書き、返送して、賛否を投じる
3 委任状を書き、誰か(代理人)に議決権行使を委任し、代理人を通じて賛否を投じる
4 何もせずに放置
一般的な個人株主の行動として最も多いのは4です。
2と3の違いのポイントは、議案書に書いていないが、株主総会の現場で、いきなり想定外の提案等(動議といいます)がなされたときに、対応できるかどうか、です。
議決権行使書は議題に対する賛否を表明しているだけなので、賛否を表明していない議題等には議決権行使ができません。
だからこそ、議決権行使書ではなく、動議への議決権行使対応ができる、オールマイティな
「委任状」
を別途かき集める必要がある、ということになるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:議決権行使に関する利益供与
個人株主という人種は、自分にトクにならないことには指一本動かしたくないチョー利己的な人たち。
株を有する会社が、気に食わない議題を提案してきた場合、いちいち、×をつけ、ポストに行き、送り返す暇があるくらいなら、インターネットを開いて数回クリックして株式を売却てサヨナラするでしょう。
そんな個人株主を動かそうとして、カネや利益で釣ると問題になります。
会社法120条は、株主の権利の行使に関する利益の供与の禁止を定めていますし、株主の権利の行使に関する利益供与の罪(会社法970条)という形で、違反したら、3年以下の懲役刑が待っています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:モリテックス株主総会決議取消請求事件
委任状の勧誘をする際、議決権を行使した株主についてはクオカード500円分を贈呈することを表明し、実際、7000名を超える株主に対して、クオカードが贈呈された裁判例では、株主総会の決議の結果を不服とした筆頭株主側(会社からみると野党側)が裁判所に株主総会決議の無効ないし取消しを求めて訴え、東京地裁は、違法・取消判決を下しました(平成19年12月6日判決) 。

助言のポイント
1.総会当日、動議が出され、荒れ模様が予測される場合、議決権行使書では動議に対する決議に対応できない。
2.アクティビスト・ファンドとの戦いでは、議決権行使書ではなく、金商法にシたがって委任状を従って勧誘し、可能な限り多くかき集めること。
3.個人株主は、「メリットがなければ指一本動かさない」という超利己主義者だから、委任状争奪は大きな試練と心得よう。
4.だからといって、カネや利益で誘導すると、株主の権利の行使に関する違法な利益供与として、株主総会決議取消し、代表訴訟、さらには刑事罰といったキッついペナルティーを食らうことになる。裁判所の温情も期待できないから、禁じ手は一切控えること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01027_企業法務ケーススタディ(No.0347):アクティビストが襲来した!(2)株主名簿の閲覧要求だと!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十九の巻(第119回)「アクティビストが襲来した!(2)株主名簿の閲覧要求だと!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
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アクティビストが襲来した!(2)株主名簿の閲覧要求だと!:
外資系のファンドが、株主名簿を要求してきました。
やむを得ません。
「こういうときは、あきらめと冷静さが大事。
堂々と、みせてやれ。
まあ、みたところで、少数主が動くとも限らない」
と、社長は、株主名簿をみせるよう、法務部長にいいました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:プロキシーファイトとは
プロキシーファイト(Proxy Fight)とは、経営陣サイドに属さない野党(少数派)株主が、株主総会において、会社提案とは異なる、自らの株主提案の可決を目指し、議決権行使の委任状を、他の株主から集める戦い、ないし工作合戦のことをいいます。
わかりやすくいえば、株主総会の議決を巡る、会社の経営陣(与党)と、野党的株主との間の、票取り合戦のことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主総会のトラブル・今昔~総会屋の場合~
かつて、株主総会における法的トラブルといえば、総会屋と呼ばれる、
「よく通る、大きく、元気な声(関西弁だったり、ダミ声だったりすることもあります)の特殊な株主」
の方々がやってきて、トラブルを起こす、というものが大多数でした。
たまに、核心を突く、意外と良いことをおっしゃることもあるのですが、単に困らせること自体が目的です。
極論をいってしまえば、総会屋の方々がどんなに騒ごうが、粛々と議事進行して決議、閉会までたどり着ければ、それ以上、怖いことはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株主総会のトラブル・今昔~アクティビスト・ファンドの場合~
アクティビスト・ファンドの方々の手法は、財務資料を隅から隅まで読み込み、会社にどれだけ資金的余裕があるかも理解しているので、メッセージも、明確で具体的でリアリティが充満しています。
株主の欲得に訴える戦略も視野に入れて株主還元要求や増配要求、政策保有株式売却要求、ガバナンス改善(社外取締役送り込み)要求、M&Aの取り止めや条件変更、事業構造転換要求等さまざまなテーマを提起しますので、場合によっては、他の株主の賛同を得て、会社側提案をはねのけ、会社意思として総会で確立されてしまう、現実的恐怖感があるのです。
仮に、アクティビスト側の提案がはねのけられたとしても、株主総会で、相当な株主が会社提案に反対票を投じた場合などには、事実上、会社側の経営スタンスに大きなインパクトが生じますし、いずれにせよ、相当数の反対票を無視して、これまでどおりの平然・超然とした株主無視の経営は困難となりますので、やはり、経営陣として、経営自由度や裁量を維持する上では、アクティビストの動きを放置して、されるがままにやられる、というのはあまりに安直で危険なスタンスといえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:株主名簿閲覧請求権
株主名簿閲覧請求権は、会社法125条2項に定められている株主及び債権者の権利ですが、会社法125条3項では会社側は閲覧を拒否できる、とあります。
例外規定は解釈の幅が広く、解釈を巡って高裁、最高裁まで争っている間に、時間的冗長性を確保でき、その間に、良い知恵が浮かんだり、状況の変化や、援軍が期待できるかもしれません。
アクティビスト・ファンド自体、ビジネスである以上、一定時間内に成果を上げるプレッシャーがあるので、徹底抗戦の意思を示され、ありとあらゆる場面で応戦され、時間や労力を取られ、コストを消耗するような
「タフな会社」
が相手では、ビジネス判断として手を引く場合もあります。

助言のポイント
1.プロキシーファイトを甘くみていると、会社の方針や経営陣がひっくり返ったり、会社資産の流出を招く意思決定がされてしまう危険がある。
2.プロキシーファイトで勝ったとしても、敵の善戦を許す薄氷の勝利だと、今後も経営の自由度を大きく喪失する。心してかかろう。
3.株主名簿閲覧請求は序の口だが、緒戦だからといって適当に対処しない。手を抜かず、あらゆる方策を検討し、徹底して抗戦しよう。
4.株主名簿閲覧請求には例外規定が明記してある。しっかり検討し、必要ならば応訴覚悟で企業防衛戦を準備しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01026_企業法務ケーススタディ(No.0346):アクティビストが襲来した!(1)こいつら、一体何なんだ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十八の巻(第118回)「アクティビストが襲来した!(1)こいつら、一体何なんだ!?をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社グループ内上場企業 脇甘フーズテック株式会社 役員 凡田 蔵男(ぼんだ くらお)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカ・ファンド)

アクティビストが襲来した!(1)こいつら、一体何なんだ!?:
アクティビストとして有名な外資系ファンドが、グループ内上場企業の株を買い、大量保有報告書が提出しました。
社長は、グループ会社役員の凡田には、無視して放置するようにと指示を出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:アクティビスト(ファンド)とは
安く放置されている株式を一定数買って、会社にさまざまな働きかけをし、買った株価を上げて投資を回収する手法、というものが存在します。
このようなスタイルの株式投資を行う専門集団は、アクティビスト(ファンド)と呼ばれます。
アクティビストは、発言権を有する株主として認識される一定割合(大量保有報告書提出が求められる5%以上)の株式を取得し、この発言権を裏付けに、企業経営者に対して増配や自社株買いなどの株主還元の要求や、株主総会における議決権行使などを積極的に行う、株式投資専門集団であり、物言う株主とも呼ばれる方々です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:アクティビストから狙われる企業の特徴
アクティビストがターゲットとして選定するのは、
1 株価純資産倍率が1を割り込むのは当然として
2 相対的にかなり低い水準にあり
3 実入りが良く
4 ラクにこなせる本業はしっかりやって
5 カネはたんまり持っているものの、貯めたキャッシュで積極的な拡大や新規事業に乗り出すわけでもなく
6 かといって、配当や自社株買いで株主への還元をすることもなく
7 IRもほったらかしで
8 株価は低迷なまま放置している
といった趣の企業です。
ターゲットの企業の株式を買い進め、一定割合に至ると大量保有報告書提出という形で露見します。
そして、安穏としていた経営陣の経営手法を、株主という立場で厳しく精査し、各種改善要求を突きつけ、さらにはさまざまな法令違反等を指摘して、場合によっては提訴要求通知、さらに株主代表訴訟といった過酷な手段行使に出ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:総会屋とはまったく違う、怖さ
総会屋の企業に対する働きかけは、株主総会という場面で、よく通る元気な声で不規則な発言をしたり、
「一般人としては、興味が掻き立てられるものの、会社経営とはあまり関係がない、役員個人の個人情報」
を暴露する発言をしたりして、株主総会を撹乱するスキルと実績があることを前提に、株主総会を平穏に済ませたいなら金銭その他の経済的メリットを提供せよ、というものです。
攻撃そのものはパワフルなものの、攻撃ポイントがはっきりしている分、防御もしやすく、さらに、法に触れていることが明々白々なので、撃退が可能という点に特徴があります。
ところが、アクティビストは、会社法が株主に認めた武器を知り尽くした上で、経済合理性と合法性を武器に、経済合理性や合法性に問題のある企業を、スマートかつエレガントに、徹底的かつ効果的に、追い詰め、改善を迫ります。
その活動理念や世間に対するメッセージや、チームメンバーの学歴や経歴のきらびやかさは素晴らしいものです。
こういう認識ギャップも手伝って、攻撃対象となった企業においては、いまいちピンとこず、その恐ろしさや猛々しさがわかるのは実際攻撃が始まってからで、また、攻撃が始まってから体制や心の準備を始めても、ときすでに遅く、後手後手に回って、いつの間にかゲームの主導権を握られている、という事態に陥りがちです。

助言のポイント
1.企業統治課題において、総会屋はすでに絶滅種となっているが、新たに、登場した、アクティビストに注意しよう。
2.特に、実入りがよく、ラクにこなせる本業だけ地味にやっていて、キャッシュリッチの無借金経営で、株主還元もせず、IRもほったらかしで、株価は低迷なまま放置している企業は要注意。
3.ある日、突然、見慣れないファンドが、5%を超える株式取得を報告し、その後は、発言権を裏付けにした、会社法が株主に認めた攻撃手段を使って、役員解任や代表訴訟も含め、あらゆるプレッシャーをかけてくることもある。
4.全体的な危機意識のなさ、事態を甘く軽くみることによる防御態勢構築の遅れが尾を引き、瞬く間にゲームの主導権を握られる。正しく恐れ、正しく身構えよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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