00862_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム7:アウェー戦は、トップが陣頭指揮して初めて「戦いの体をなす」

中小企業においては
「功成り名を遂げた創業経営者が、老体に鞭打って、現地に乗り込み、環境・言語・文化・商売慣行といった数多くのハンデをすべて呑み込み、文字通り“死ぬ気”で、もう1回、『創業というミラクル』を成し遂げる」
ということくらいしか、海外進出に成功することは想定できません。

これは、別に、私が思いつきで適当に言っているわけではありません。

歴史上も、
「海外進出というか、アウェー戦を闘い抜いて、勝利を収め、領土や国富を増大させるような国家ないし組織」
は、すべからく、前記のようなリーダーシップ戦略を採用しています。

膨張政策を採る国家においては、
「領土拡張紛争の最前線」

「占領によって新たに獲得した地域の近くに本拠地(軍事拠点等、トップが指揮命令をする中枢)」
を移転し、トップ自身もそれまで安穏として暮らしてきた土地を離れ生活の本拠すら移してしまう、という事例が、歴史上の多数散見されるのです。

足利尊氏は、関東出身の豪族でありながら、鎌倉幕府を承継せず、わざわざ
「魑魅魍魎の政敵がウヨウヨいる、アウェーの占領地である京都」
に室町幕府を開きました。

尊氏は、生まれ育った故郷である関東の地(生誕は京都丹後という説もありますが、育った場所が栃木県の足利荘であることは間違いありません)を捨て、敵地ともいえる京都に室町幕府を開いて、死ぬまで睨みを効かせ続けました。

尊氏は、54歳で、故郷から遠く離れた京都二条万里小路第で、戦いの怪我が原因で亡くなりました。

まあ、今風にいってみれば、尊氏さんは、自ら海外進出し、過酷な仕事が原因で体調を崩し、志半ばで亡くなった
「モーレツ社長」
ということになろうと思います。

膨張する軍事国家を率いる織田信長も、本拠地を尾張に留めず、占領目標である京都に近い安土に政治・軍事の中心(安土城)を作りました。

一説には、今後の西国進出を考えていた信長は、京都など目もくれずに素通りし、大阪石山本願寺跡に巨大な軍事要塞の建築を考えていた、とのことです(この軍事要塞構想は、豊臣秀吉に引き継がれ、「大阪城」が誕生しました)。

まぁ、信長も、本拠地を捨てて、海外進出拠点に引っ越し、さらに隣国まで事業を広げようとしたところ、常務なり専務なりの裏切りにあって、異国の地で死に果てた、といったところでしょうか。

最終的には失敗したものの、豊臣秀吉は、朝鮮出兵にあたって、肥前名護屋に一大軍事都市を作り、大阪城ではなく、当該地に実質的な本拠地移転をし、そこから直接指揮命令を行ないました。

以上のとおり、
「海外進出という、もともと勝ち目の少ないアウェー戦を戦い抜くには、ラスボス(ラストボスの略。ゲームの最後に登場する、最強のボスキャラクター)が、当初から陣頭に立って、真剣に取り組む姿勢が絶対必要であり、そのことは歴史上証明された事実でもある」
といえると思います。

他方、これとは逆に、大将が、ラクをして最前線や現場に出ることを忌避した挙句、悲惨な負け方をした例もあります。

関ヶ原で大惨敗を喫した西軍総大将の毛利輝元、大阪の陣で徳川家康に完膚なきまでに敗北して滅ぼされた豊臣秀頼、いずれのリーダーも、陣頭に立つことを忌避し、よく状況がつかめないまま、気がついていたらボロ負けしていた、という憂き目をみました。

これら総大将は、ともに、
「オーナーないし指揮命令の最終責任者たるトップが、安全なところに安穏と居座り、危険な最前線には、手下を派遣して、危険性の高い事業を担わせ、うまく行ったら、その成果のみ手中におさめる」
などと、消極的で、プロジェクトそのものを甘く考えた態度でいたため、負けるべきして負けたわけです。

勝つべきリーダーは、勝敗にとことん執着し、細かなところまで人任せにしませんし、そもそも人をまったく信じません。

「無能な味方、敵より怖い」
ということを知っており、部下に接するスタンスは
「信じて、信じず」
「任せるが、警戒は怠らず、フォローはしっかりする」
というものであり、部下であっても根源的な部分での猜疑心は最後まで捨てません。

「過酷な敵情」

「無責任な部下の無能と懈怠」
この“二軸の潜在的なカウンターパート(仮想敵)”と正対し、二正面作戦を強いられる。

これが、大きな組織のリーダーの立場です。

「自らが負担する想像を絶する責任をビビッドに理解認識し、その上で、最後まで気を抜かず、勝ち抜き、結果を手中にする」
というタイプのリーダーは、安穏とは無縁です。

「リスクも不確実性も高く、失敗したら財産はおろか生命さえ奪われる、戦争」
において、死ぬリスクすら顧みず、最前線に立ち続け、リアルな戦況報告を受け、刻々と変化する戦局を捉えて、膠着した状況に変化をもたらす戦術を試行するなどして、最後まで、すべてを自分が掌握し、人任せを排し、力の限り、命の限り、闘い抜きます。

こういう観点からすると、
「ラクをして、最前線や現場に出ることを忌避し、安全なところに安穏と居座り、危険な最前線には、手下を派遣して、危険性の高い事業を担わせ、うまく行ったら、その成果のみ手中におさめる」
などといったナメた考えであった毛利輝元や豊臣秀頼が、ボロ負けしたのは当たり前です。

ビジネスもこれと全まったく同様であり、
「絶えず変化し、襲いかかるリスク情報を素早く察知し、不確実性を前提にした、試行錯誤の連続」
といった状況での戦いを日々強いられます。

ましてや、海外進出となると、
「住み慣れた土地でのホーム戦」
ではなく、
「言葉も、話も、思いも、常識も、これまでのやり方も全く通用しない、完全なアウェー戦」
です。

海外進出に成功するためには、
「すべての責任と権限をもち、事態対処のための完全な自由裁量を有する、強烈な士気とインセンティブが与えられたリーダー」
が、戦略の修正、ゲーム・チェンジ、マイルストンの組み換え、ときには、目標の変更すら適時・瞬時に行うことを休む間もなく継続することが最低限必要で、これらが出来て、ようやく
「戦いの体をなす」
というレベルにたどり着けます。

油断したり、気を抜いたり、
「任せてはいけないタイプのリーダーに丸投げ」
といった、商売をナメたことをやっていると、たちまち損失が増大し、事業継続が困難な状態に陥ります。

「こんな圧倒的な権限と裁量を前提とするリーダーシップ」
はプロジェクトオーナー、すなわち
「負けたら、即、命より大事なカネや会社を失う」
という痛い目と責任を担っている人間にしか存在し得ません。

人任せにし、適当な報告を求め、快適な日本で
「隔靴掻痒」
の議論をして、遠いところから適当な指示を飛ばしたところで、指示が到達するころには、さらに状況が悪い方向に変化し、命令自体が陳腐になっている。

こんなことを繰り返しているうちに、たちまち失敗を重ね、最後は、這々の体で敗走することになるのです。

番頭・手代レベルに、元手を渡して、
「あんじょうやってこい」
という適当な指示で、成功を夢想する、なんてことをやっても、うまく行く道理がありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00861_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム6:「アジア進出に失敗する企業」の失敗のメカニズム(総括)と成功するために必要な具体的方策

「企業が海外進出に成功するための条件」
としては、
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」
によって、
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に、徹底的に、情け容赦なく、メリットを活かす活動を行うことが必要です。

こういうことを言いますと、
「こんなリアリティスティックな行動スタイルがないと成功しないのか」
と嘆息が聞こえてきそうですが、これくらいシビアな感覚でもなお、成功は可能性に留まります。

逆に、はちみつ漬けのシロップが充満し、一面お花畑の光景が広がる脳みそで、
「世界は1つ、人類は皆兄弟。平和に、仲良く、ハッピーに、同じ人間として共に手を携えてがんばれば、きっとうまくいく」
といった、妄想に満ちた感覚で海外進出する、という経営者は、正直申し上げて、商売ナめてる、としか評しようがありません。

結局、
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」
となるべき日本人など、まず、滅多にいませんし、仮にいたとしても、誰かのために命を張る、なんてアホらしいことなどせず、自分自身で乗り込んで一旗揚げ、成功の果実を独り占めするだけです。

すなわち、海外進出の成功のためには、創業経営者が現地に乗り込んで、ゼロというか、ハンデキャップ満載のマイナスからスタートする覚悟で、もう1回、創業する、ということが必須の前提となります。

「日本で成功し、カネに不自由せず、ストレスやフラストレーションなどまるで感じず安楽な生活をエンジョイできている創業経営者」
が、老体にむち打ち、それまでの成功体験をすべて捨てる覚悟で、アウェーで、不利な戦いをして、死に物狂いで事業立ち上げをもう1回最初からやり直す、ということを嬉々としてやるのであれば、可能性はないとはいえません。

ところが、海外進出を甘くみる創業経営者は、人任せで適当にやってもうまく行くなどと考え、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込むだけです。

送り込まれた方も、現地に行くと日本でまるで勝手が違い、やることなすこと障害だらけで、日々壁にぶち当たる現実を目の当たりにする。

結局、普通にやっても成果が出ず、無理に成果を出そうとすると、命の危険にさらされる。

実際、2012年7月18日、自動車メーカー・スズキのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場(ハリヤナ州)で、従業員による暴動が発生し、工場幹部1人が死亡、約90人が負傷する、という事件が発生しています。

「他人のために命を張るなんてマジ勘弁。そんなことするくらいなら、適当にやって失敗して、『海外進出は難しいです』という弁解をして帰国した方がマシ」
という、ある意味当たり前の感覚を持つ、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込んでも、うまくいくわけはありません。

かくして、

1 海外進出の困難さをきちんと理解せず、あるいは、「海外進出したら、他人からかっこよくみられて、威張れたり、国際的な大企業から『マルドメ(まるで、ドメスティック。完全な国内志向)の中小企業』などと呼ばれる劣等感が払しょくできる」といった経済合理性とは無関係な意図・目的で海外進出を計画する

2 海外進出を甘く考えるか、「(見栄を張ったりやコンプレックス解消のための)ファッションアイテム」として海外進出を考えることから、創業経営者自身が、命がけで乗り込むことはせず、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込むなど他人任せで何とかしようとする

3 番頭さん(役員)や手代さん(部課長)には、「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」は与えられないし、また彼らは「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」というキャラでもない

4 海外で事業立ち上げを任された番頭さん(役員)や手代さん(部課長)は、やがて、そのしびれるくらいきっつい現実に直面し、「他人のために命を張るなんてマジ勘弁。そんなことするくらいなら、適当にやって失敗して、『海外進出は難しいです』という弁解をして帰国した方がマシ」という、ある意味素直な考えをもつようになり、実際そうする

という
「必敗の方程式」
ないし
「敗北のスパイラル」
ともいうべき常套プロセスが次々に実現していき、ボロ負けし、這う這う(ほうほう)の体で、海外での事業を畳んで日本に帰ってきます。

以上、日本の企業の多くが、海外進出、アジア進出、中国進出にことごとく失敗するに至るメカニズムについては、
「目的があいまいで、考えも甘い中小企業が、アジア等の海外進出しても、相当な確率で失敗して悲惨な状況に陥り、撤退もままならない状態に陥る」
という典型的な事例につい、悲惨な状況に至るまでの詳細なメカニズムを、
「『実際進出に失敗した当事者』にとってはムカつくような冷静さとシビアさ」
を以って分析させていただきました。

なお、私は実務家です。

したがって、単なる批評家として批判するだけではなく、どうすれば成功できるか、ということもきちんと明記しております。

すなわち、海外進出成功させるためには、というか
「海外進出をまともなビジネス・プロジェクトとしてキックオフ」
するには、
「圧倒的な士気と、この士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルにかつ明確に、理解したリーダー」
が、文字通り、
「進出国に骨を埋めるつもり」
で、
「ゼロというか、ハンデキャップ満載の“マイナスから”スタートする覚悟」
で、
「実質創業」する、
という前提環境が必要条件となる、ということもお話し申し上げました。

とはいっても、そこらの中小企業の社内を見渡してみたところで、
「犀利な有能さと、エゲツないくらい、カネや成果に執着するリーダー」
となる資質を有する人材が、掃いて捨てるくらいゴロゴロ存在する、ということではなかろう、と推定されます。

そもそも、
「犀利な有能さと、エゲツないくらい、カネや成果に執着するリーダー」
となれるような、気概と能力を持った人間なら、とっくに、中途半端な規模の会社に見切りを付けてを辞めて、自分で商売立ち上げているか、外資系企業で、信じられないくらいの高給をもらって活躍しているはずです。

要するに、前述のような
「『海外進出を任せるに足るリーダー』としてのプロファイルに該当する、資本主義的競争社会の権化のような人材」
とは、創業経営者その人くらいしかいない、ということなのです。

すなわち、中小企業においては
「功成り名を遂げた創業経営者が、老体に鞭打って、現地に乗り込み、環境・言語・文化・商売慣行といった数多くのハンデをすべて呑み込み、文字通り“死ぬ気”で、もう1回、『創業というミラクル』を成し遂げる」
ということくらいしか、海外進出に成功することは想定できないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00860_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム5:「アジア進出に成功する企業」が徹底して行う、目的達成のための行動原理

ビジネスの目的が客観性と合理性を維持しているかどうかを検証するテストとして
「SMART基準」
によるチェックというものが存在します。

「アジア進出に成功する企業においては、徹底した現実的で合理的な観点で、植民地時代の欧米列強諸国の企業の進出とほぼ近似するようなマインドとビヘイビア」
で怜悧さをもっています。

具体的に、アジア進出に成功する企業は、どのようなビヘイビアで、その目的(具体的な言葉にすると、やや問題を生じかねないので、あえて言葉にしませんが、植民地時代の欧米列強諸国の企業の進出目的ないし動機とほぼ近似するようなもの、と述べるにとどめます)を達成するのでしょうか。

「アジア進出に成功する企業が採用する(採用していると推察される)、“徹底した現実的で合理的なマインドとビヘイビア”」
をご紹介したいと思います。

そもそも、アジアに進出するのは、経済的メリット、それも目眩を起こしてぶったおれるくらいおいしいメリットがあるからです。

別に、
「悠久の大自然をもっている」から進出するわけでもない(はず)ですし、
「長きにわたる歴史や文明・文化があり、これをリスペクトする」から進出するわけでもない(はず)ですし、
「先の戦争でご迷惑をおかけしたので、そのすまない気持ちから、罪滅ぼしのため」に進出するわけでもない(はず)ですし、
「同じアジア人同志仲良くしたいから」
というわけでもないでしょう。

こういう、
「意味不明な」
あるいは
「ヌルい」
ことを考えて進出する企業は、軒並み大失敗して、痛い目に遭ったり、生き地獄をみて会社の死期を早めています。

営利追求を至上のミッションとする合理的組織である企業が、時間をかけて、空間的距離を克服して、わざわざ遠くの国まで進出する目的は、シンプルに言いますと、
「ホニャララくんだりまで行くコストや手間」を遥かに上回るメリットがあるから
というのがその理由であるべきです。

要するに、カネです。

ビジネスです。

身も蓋もない言い方をすれば、
「海外に進出するのは、国内より安く労働力が手に張ったり、競争がラクだから」
というのが合理的理由となるべきはずです。

すなわち、
「“植民地時代”において、“列強諸国の資本家が、アジアその他植民地に進出すると、劣等民族(※当時の彼らの認識です。私はそんな認識ビタ1グラムももっていません)を奴隷労働力として廉価に活用できたり(工場等を作って、生産資源として活用する場合)、あるいは、文明レベルの劣る民族(※当時の彼らの認識です。私はそんな認識ビタ1グラムももっていません )に対して、圧倒的な価値と希少性を有する商品・サービスを提供することを通じた、市場争奪、支配が可能である」
ことを前提として進出したのと同じあるいは類似ないし近似するシビアなメンタリティーにもとづいて、あるいは、このような
「エゲツナイ目的」
を強固に意識して進出する、というのが、
「進出に成功する企業」
のマインドです(無論、こんな本心は絶対明かしませんので、推察するほかないのですが)。

そして、
「海外進出に成功する企業」
は、このような
「“エゲツナイ目的”をしびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」
が、
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に、徹底的に、情け容赦なく、メリットを活かし、その成果をカネとして現実化するための活動をシビアに行っているのです。

このようなリアリティスティックな行動スタイルが、進出成功の鍵といえます。

そのためには、
1 現地の人間になめられないような制度やカルチャーを現地法人に浸透させ、確立する
2 強烈な強制の契機をはらんだ圧倒的なオーラを醸し出し、徹底して高圧的な支配を実行する(とはいえ、植民地時代ではないので、極めてエレガントで、スマートな形で支配は展開されます)
3 俗悪・無作法・怠惰を許さない、徹底した管理を敷く。客観的基準と合理的観察によるエゲつない能力差別を行ない、論功行賞を明確に実施し、ルール違反者に対する過酷な懲罰を徹底して行う
4 独禁法を愚弄する精神で、競争者の存在を否定し、あるいは新規参入の目を容赦なく摘む形で、市場を迅速かつ圧倒的に支配する(つもりで頑張る。実際は法令には触れないように細心の注意を払う)。このような市場支配(を目指した、法に触れない経済活動)を、大量のカネ、物量を背景に、高圧的に、スピーディーに、SMART基準にしたがって、効率性を徹底追求して行う

という各タスクを、眉一つ動かさず、クールに、スマートに、完璧に成し遂げることが必要になります。

このようなタスクを
「しかるべきリーダー」
すなわち、

(1)各タスクを、命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、
(2)平然かつ冷静にやり抜くスキルと、
(3)成功時に得られる、莫大なインセンティブと、
(4)声一つ発することなく、被支配者が自然とひれ伏す強烈なオーラと、
(5)悪魔の手先のような性根と
(6)常に、エレガントに振る舞える典雅さ

を併せもった責任者(=「しかるべきリーダー」)に委ねるからこそ、アジア進出に成功するのです。

ご理解いただけましたでしょうか?

成功には、明確な根拠と理由があるのです。

逆に、
「海外進出に失敗する、残念な企業」
というのは、前記のようなメリットをきちんと明確化も整理もせず、目的もあいまいなまま、目標も実施戦略もロクに立てず、
「しかるべきリーダー」
どころか、まるで、やる気も能力もなく、
「そもそも『何をしたらいいか』すらさっぱりわからない適当な人間」

「適当なこと」
をさせるから、失敗すべくして失敗するのです。

日本企業の多くが、海外進出、アジア進出、中国進出にことごとく失敗する理由ですが、私の目からみたら、ある意味、ものすごく明快であり、近時の撤退ブームも
「さもありなん」
といった感があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00859_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム4:「アジア進出の目的」として設定されるべきものを、純経済合理性に基づき考察する

日本のドメスティックな企業が敢行する
「海外進出」事業
について、その目的の妥当性・合理性を評価検証してみます。

ここで、最近のトレンドを踏まえて、
「中国やその他アジア各国に進出する」
というケースを分析してみましょう。

まず、そもそも、なぜ、中国やその他アジア各国に進出するのでしょうか? その経済的意味はどこにあるのでしょうか?

ここで、倫理や道徳や綺麗事を捨象して、シビれるくらい、シビアに、純経済的に、合理的に目的考察をしてみます。

「アジア進出の動機として、生産拠点を日本からアジアにシフトする、ということを考える企業」
においては、アジア進出のメリットは、ずばり、
「低賃金」
です。

すなわち、
「現地の方を安い給料で、コキ使えるから」
というのが進出の合理的理由として推定されます。

だからこそ、
「最近は中国の人件費が高くなったからベトナムがいいぞ」
「いや、ベトナムも高いから、ミャンマーとかカンボジアだぞ」
といった、まるで隣のスーパーの方が大根が安いとか、卵のパックが3円安いから、といった類の比較にまつわる噂話が聞こえてくるのです。

要するに、生産拠点をシフトする形で中国に進出する企業は、別に、
「中国が好き」とか、
「民間レベルの日中友好を進めたい」とか、
「本場の中国料理」が好きとか、
「中国の方が好き」とか、
「4000年の歴史に敬意を感じたから」
といった動機ないし目的ではなく、その真の目的は、
「(日本人とくらべて相対的に)安くて、コキ使える無尽蔵の労働力がある」
と考えて、進出するのです。

だから、中国より人材が安いところがあると、まるで1円でも安い大根や卵を求めて近所のスーパーをハシゴする主婦のように、経済的判断において、
当該「さらに安い人件費」
を求めて、進出先をいきなり変更したりするのです。

かつて、植民地支配の時代に、欧米列強が、
「当時の彼らからみて劣等民族(※あくまで「進出した当時の者」の認識であって、私のそれではありません)であった現地人を、奴隷労働力(植民地時代の欧米列強の一般的認識としてです)として廉価に活用できるから」
という理由でアジアアフリカ諸国や中南米において生産活動を行っていたことがありました。

生産拠点を日本からアジアにシフトすることを目的とする企業の進出動機は、
「倫理や綺麗事を捨象した、純経済な観察における合理的な目的」
として考察すれば、要するに、これと同様あるいは近似するものであり、
「現地の人的資源を経済的に有利な条件において生産資源として活用したい(からアジアに進出する)」
というのがその目的ないし真の動機として捉えられます。

また、別の企業は、進出するアジアの国を、自社の商品を消費してくれる巨大市場とみて、進出するところがあるかもしれません。

この場合、かつて、植民地支配の時代に、主に商品を販売することを企図した欧米列強の企業がアジア各国に進出したケースと同様、欧米列強が遠く離れた僻地にまで足を運んで物を売ろうとしたのは、
「当時の彼らからみて文明レベルの劣る民族(※あくまで「進出した当時の者」の認識であって、私のそれではありません)に対して、『現地では作れない、現地の方の消費欲求を掻き立てる圧倒的な価値と希少性を有する商品・サービス』を提供することによって、母国では考えられないほど容易に、市場争奪や市場支配が可能だったから」
です。

現代の日本で、販売拠点をアジアに設けることを目的とする企業の進出動機も、建前や倫理・道徳を一切捨象して純経済的に突き詰めれば、これと同様、
「母国とくらべて有利な競争環境を求めて効率的に稼ぎたい(からアジアに進出する)」
というのが、その目的ないし真の動機として捉えられます。

無論、アジアに進出する企業は、こんな時代錯誤も甚だしい下劣な言い方で、その動機や目的を語ることはありません。

綺麗事や建前やエレガントな進出目的(相互互恵による国際的な協調、対等な真のパートナシップによる相互発展など)を騙り、ディスインフォメーション(情報偽装)します。

「この種の韜晦を、いけしゃあしゃあとカマし、実際の目的ないし動機は、植民地時代の欧米列強の企業のものと同様のものを強固に持ち、これを、SMART基準に落とし込んで、部下に的確な指示を出し、シビアに当該目的を達成する」
という企業は、まず、間違いなく進出に成功します。

他方で、本音と建前がよくわからない状況で頭脳の中でカオスとなっている(さらに言えば、「国際進出をした国際的な企業の国際的な社長さん」とみられたいというくだらない意地や見栄のため、進出自体が自己目的化しているような)企業については、アジア進出の目的を見失い、確実に失敗します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00858_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム3:海外進出の目的を「SMART」基準で解析する

そもそも、ビジネスの目的設定は

1 カネを増やす
2 出て行くカネを減らす
3 時間を節約する
4 手間・労力を節約する

のいずれかに収斂させ、かつ合理的な目的設計を行うべきであり、そうでないと時間と労力とコストを散々浪費した挙句、無残に失敗し、結果、企業そのものを危険な状況に陥らせます。

では、ビジネスの目的自体が、前記の1ないし4のいずれかにあてはまるとして、具体的にどのような形で目的設定することが合理的といえるのでしょうか?

この点、
「ビジネスの目的が客観性と合理性を維持しているかどうかを検証するテストないし基準」
として、
「SMART基準(法則)」
が指標として使われることがあります。

「SMART」とは、

“S”pecific(目的が具体的で客観的で明確であること)
“M”easurable(目的が、定量化・数値化されるなど計測可能となっていること)
“A”greed upon(達成を同意しうること。無理難題ではなく、達成可能であること)
“R”ealistic(現実的で、経済合理的な結果を志向したものであること)
“T”imely(期限が明確になっていること)

の頭文字を取ったものです。

ビジネスを真剣に考えないトップがいいかげんなプロジェクトをぶち上げ、その際に適当に設定される
「事業目的」なるもの
は、SMART基準を充足しない場合が多いです。

愛人に本業と無関係のブティックや飲食店事業を経営させたりするようなケースにおいて、
「トップによって公式上説明される建前上の事業目的」なるもの
を冷静に分析検証しますと、大抵、
「具体的でも客観的でも明確でもなく、定量化・数値化もされず、達成が計測可能となっておらず、達成可能でもなく、現実的で、経済合理的な結果を志向したものとはいえず、達成期限すら明確になっていない」
という代物であることがみてとれます。

要するに、このような
「SMART基準を充足しない経済的に無意味な目的」
の事業は、
「動物の剥製、著名人とのスナップ写真、有名絵画、高級酒、さらには、銅像や日本刀や兜」
と同様、
「(経済的には意味がなくとも)イイカッコをする、世間体や体面を保つ、すごいですねと言われてプライドや自尊心を充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する」ために経営資源を動員する
というのが当該事業ないし事業を行う際の経営判断の実体であろう、との推定が働くのです。

そもそも事業は、常に失敗のリスクや目的の下方修正や保守的変更の可能性を孕んでいます。

事業目的を1つ達成するのも大変な苦労を伴います。

複数の事業目的に明確な優劣をつけないまま、多義的で抽象的な目的を設定したまま、あるいは己の分際をわきまえず、欲張って目的を複数同時達成すべく追求しても、最終的に目的相互間に重篤な矛盾を来たしてしまい、結果、すべての目的が達成できず、時間とカネとエネルギーだけを費消するだけで終わります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00857_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム3:海外進出に失敗する企業経営者の頭の中味を分析する

中国進出をやらかして失敗するような中堅中小企業の経営者は、
「目的が未整理で、頭脳が混乱した状態」
で経営判断しているから、ということが原因で愚かなことを仕出かし、悲惨な状況に陥るのだと考えられます。

営利を追求することをメインミッションとする組織である企業の目的設定・経営判断の方向性としては、

1 カネを増やす
2 出て行くカネを減らす
3 時間を節約する
4 手間・労力を節約する

のいずれかに収斂するはずです。

とはいえ、現実的には、
「企業の目的設定・経営判断」
として、

5 (経済的には意味がなくとも)イイカッコをする、世間体や体面を保つ、「すごいですね」「国際企業ですね」とか言われてプライドを充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する

という、
「経済的には説明できない、というか、合理的理解を超えた、愚劣極まりないもの」
も存在します。

オーナー系中小企業をみていると、本社社屋に、娯楽施設とかフィットネスクラブとか茶室とか業務に関係のない施設も併設されていたりする光景や、社長室が無駄に広く、動物の剥製、著名人とのスナップ写真、有名絵画、高級酒、さらには、銅像や日本刀や兜など、高価というだけで特定の趣味・嗜好・センスが感じられない品々が、一貫性もなく、無秩序に羅列されている光景
に遭遇することがあります。

また、素材メーカーや部品メーカーの企業が、突然、イタリアンレストランやブティックの経営に乗り出し、
「素性のよくわからない、社長と親交のある、妙齢の女性」
が当該子会社のトップに抜擢されたり、ということもたまにあります。

以上を整備するのにカネや時間や労力が相当投入されていますが、当該設備への投資は、
「カネを増やす」
「出て行くカネを減らす」
「時間を節約する」
「手間を節約する」
いずれにも無関係であり、これらいずれの目的への貢献もほぼ皆無です(社内外には、相応の説明がなされますが、いずれの説明も、「東大卒弁護士」風情の頭脳では理解できない複雑怪奇な説明であり、案の定、この種の「理解を超越した難解な」新規事業は、いずれも、短い時間に赤字を積み上げ、無残に撤退しているようです)。

目的が合理的でなかったり、現実的でなかったり、計測不能であったり、タイムラインもいい加減であったり、といったものは、形式上の説明如何にかかわらず、要するに
「イイカッコをする、世間体や体面を保つ、プライドを充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する」
というのが当該経営判断の実体であると推定されます。

そして、
「中国進出ブームに舞い上がって中国進出をやらかしちゃった経営者」
というのは、冷徹で緻密な計算をし尽くすこともせず、要するに、
「我が社は、トレンドに遅れていないぜ! 最先端の国際ビジネスをやっているぜ!」
という意地やプライドや主観的満足充足のため、頭脳が混乱した状態で、進出した、という蓋然性が高いと思われます。

だからこそ、
「短期間に赤字を積み上げた揚句、撤退を決定したが、出口戦略をまともに描いていなかったため、撤退すらままならず、のたうち回っている」
という悲惨な現状に直面しているのではないでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00856_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム2:中国進出ブームの到来、そして、その後の中国撤退ブーム

2010年ころになってから、
「中国進出ブーム」
なるものが日本の全産業界を席捲しました。

その当時の経営者向けのメールマガジン等を見てみますと、
「国連『世界人口白書』によると、世界の総人口が70億人を突破する予定です。そのうちの人口のトップは、約13億人で中国。単純に考えて、世界の5人に1人は中国人という計算です。この国が抱える13億人の一大マーケットは非常に魅力的」
なんてリードがあり、
「今、中国進出しないのはバカです! 何もしないと死にます!」
ともとれるような煽り文句が読み取れます。

この種の威勢のいい号令に従う形で、
「日露戦争における203高地への無謀な突撃」
の如く、数多くの中堅中小企業が中国に進出して行きました。

そこから数年経った2015年になると、中国ビジネスに関するもっともホットな経営テーマは、
「中国進出企業の撤退の実務」
に変貌します。

曰く、
「外国企業が中国事業から撤退しようとしても、日本での撤退手続のように、必ずしもスムーズにいくわけではない」
「中国では、外国企業の撤退に関する法制度が未だ完全には整備されていないため、手続が煩雑で、多くの時間とコストがかかる」
「また、撤退に際して、政府から許認可等を得る必要がありますが、各地方政府の担当官の裁量により、ケース毎に撤退に関する判断や要求が異なる場合が多くある」
「中国における清算の実務上のポイントを説明し、いくつかの実例を挙げながら、よりスムーズに撤退手続を行うための方策」
なるものを勉強しましょう、といったセミナーが、中国からの撤退を考える中堅中小企業の経営幹部に人気になりました。

こういう状況を冷静に観察すると、
「進出するのか、撤退するのか、どっちやねん!? お前ら(中略)ちゃうか?」
というツッコミを入れたくなります。

日本の中堅中小企業の経営者の多くが、なぜ、こんな無意味で愚劣な行為をするのでしょうか?

「東大卒弁護士」風情
では理解ができない、何か、高度で深淵な意味があるのでしょうか?

私はそう思いません。

「経営者が、多大な時間とコストとエネルギーを注ぎ込んで中国に進出した挙句、数年後、さらに多大な時間とコストとエネルギーを費消して撤退する、という壮大な愚挙を敢行する」
のは、何か深淵で高邁な意味があるわけではなく、単に、
「経営者が愚劣だから」
ということに尽きると思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00855_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム1:甘い負荷予測と杜撰な調査、そして繰り返される失敗

古くは豊臣秀吉の朝鮮出兵、また、時代が近くなると、満州で一旗上げる話や、ハワイやブラジルへの移民話、さらには、バブル期のロックフェラーセンターやハリウッドの映画会社買収話など、日本人は、国際進出というものを安易に考えすぎる気質があるようで、毎度毎度バカな失敗を繰り返してしまいます。

国際進出は、情報収集も情報分析も国内では考えられないくらい難しく負荷がかかるものです。

これはあくまで感覚ですが、国際進出して成功するには、国内で成功するより20倍難しいといえると思います。

「国内で成功し尽くした会社が、国内での市場開拓より20倍のリスクがあることを想定し、周到で綿密な計画と、十分な予算と人員と、信頼できるアドバイザーを整え、撤退見極めのメルクマール(基準)を明確に設定して、海外進出する」
というのであればまともな事業判断といえます。

しかし、(アウェー戦ではないホーム戦である)国内ですら低迷している会社が、
「新聞で読んだが、中国ではチャンスがある」
という程度のアバウトな考えで、適当に海外進出して成功する可能性はほぼゼロに近いといえます。

本業が痛んでいるにもかかわらず、起死回生の海外進出策などと称した、現実味のない話が出てきて、浮ついているような会社に未来などあるはずもなく、こういう知的水準に問題のある会社が、中途半端に“国際進出もどき”をおっぱじめても、儲かるのは、現地のコーディネーターやコンサルティング会社や旅行関連企業(航空会社やホテル)や現地会計事務所等だけで、たいていはお金と時間と労力の無駄に終わってしまいます。

フィージビリティスタディ段階で自らの無能を悟り、進出をあきらめてくれれば、損害は軽微なもので済みます。

しかし、頭の悪い人間ほど自らの無能を知らないもので、実際は、多くの中小企業が、実に“テキトーなノリ”で、いきなり、現地法人を作ってしまい、その結果、自分の首を締め、死期を早めてしまうようです。

日本企業のアジア進出ですが、多国籍展開経験のある一部の巨大企業を除き、ほとんどの中堅中小企業は、すべからく残念な結果に終わっているようです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00854_ビジネスにおける「起死回生の一発逆転策」の危険性

企業において、起死回生の一発逆転の秘策が奏功した例はほぼ皆無であり、余計なことをすると却って死期を早める結果に終わる例が多い、というお話を申し上げました。

実際、スポーツもののドラマやヒーローものをみていると、主人公が起死回生の秘策を編み出し、土壇場で一発逆転を行うシーンがみられますが、これはあくまで虚構の世界の話であって、ビジネスの世界ではこのような起死回生の一発逆転劇というのはあり得ません。

破綻間近の企業が無理をして行うその種のプロジェクトは、経験値の無さがわざわいし、ほぼすべて、無残に失敗し、かえって死期を早める結果になります。

というのは、事業というのは、一朝一夕に立ち上がるものではなく、
「発案→企画→試作品の完成→商品化にこぎつけ→営業の成功→取引成約→代金回収」
という長期間の地味のプロセス(しかも各プロセスにおいてそれぞれ相当な試行錯誤があること)によって成立するものだからです。

このような地味で面倒なプロセスを嫌って、楽に結果を求めようとすると、かえって、足元を掬われ、より損害が広がってしまいます。

事業はゴルフというスポーツに似ており、ボギーやダボ(ダブルボギー)しか出せないプレーヤーが最終ホールでいきなりバーディーやパーを連発することはあり得ません。

逆に、実力のない者がバーディーを無理に狙うと、逆にダブルパーやそれ以上に悲惨なスコアでホールアウトするのと同様です。

すなわち、パっとしない企業がいきなり
「国際進出だ」
「大型提携だ」
と騒ぐのは、
「それまでボギーすらとれていないゴルファーが、たまたまティーショットがそこそこいいところに飛んだといってはしゃぎ、それまでまともに当たったことのないロングアイアンを振り回す」
のと、まったく同じ状況で、より悲惨な結果が予測されるのです。

「ご臨終になりそうな企業が一発逆転を狙うと称して手を出して大やけどを負ってしまう」
というストーリーにおいて、登場するお約束のプロジェクトが、3大アイテムが国際進出とM&Aと投機・投資です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00853_「法務課題の発見と対応」における「法務担当者の役割」3:法務課題対応における対応処理基準

法務課題を発見・特定した後、法務担当者は一定の対応を行うこととなりますが、これらがアドホックに行われると、営業実務を行う事業担当者の予測可能性を奪うことになりますし、重要性・緊急性の高い法務対応が後回しになってしまう危険も生じます。

そこで、法務担当者が法務課題を発見した後、発見した課題の重要性に応じて、ある程度定型的な対応ができるように、基準を定立しておくことが重要となります。

特に、
1 社内(法務部内)で貫徹すべき事項、
2 外部の法律事務所の助言を得て社内で実施すべきこと、
3 外部の法律事務所に実施まで委託すべきこと、
の3つを明瞭に区別する基準を設けることは、法務予算を適切に管理・配分する上でも有益です。

この基準策定にあたっては、
定量的な基準(一定額以上のディールサイズの取引に関して法務部として承認するには外部の弁護士の助言を得る等)に加え、
定性的な基準(ディールサイズにかかわらず、非典型契約や会社がそれまで取り扱った経験のない取引や事業の構築・遂行に関しては外部の弁護士に委託する等)を設け、
これを併用することが推奨されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

運営管理コード:CLBP39TO40

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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