00481_「地位を特定した(中途採用者の)雇用契約の解雇」を行う場合の具体的進め方

判例・裁判例の考え方ないし傾向を踏まえる限り、中途採用者の解雇は比較的認められやすい、とされています。

しかし、これがあてはまるのは、
「企業が被採用者に期待する能力」
が契約上明確になっている場合です。

逆に、採用者の側で販売成績の向上などの目的が記載された書面等がなく、被採用者が努力することを約束した程度の抽象的なやりとりであれば、通常の解雇と同様、厳しい制約を受けることになってしまいます。

さらに、採用者が期待する能力についての条項を契約書に盛り込んだとしても、役職や販売成績というような具体的なものでなければ、特定として不十分とされてしまう危険があります。

以上のとおり、ツメが甘いと、
「中途採用者に対する解雇は緩い」
という折角の判例法理が使えなくなってしまうことに注意が必要なのです。

判例を使えるようにするためには、会社側も一定の決め事をしておかないといけません。

すなわち、会社側は
「どんなことを期待して、この人を採用するのか」
を、当初の契約の段階ではっきりさせておかなければならないのです。

そこを口約束や努力目標的なあやふやな言い方ですませていると、裁判所は一切救ってくれません。

能力の特定の程度ですが、相当程度、明確で、具体的にすべきであり、もし、定量的に表現できるなら、数値等で特定した方が安全です。

抽象的な文言は後の紛争の元です。

何年以内にいくらの利益を挙げることというように、できる限り具体化・数値化して、契約書に盛り込まないといけませんね。

また、あくまでも解雇に対する制約が緩くなるだけですから、どんな場合も解雇回避の措置等が全く必要ないというわけではありません。

契約書に
「目標が達成できなければ解雇できる」
と書いておいたとしても、いきなりクビをちょん切るのはさすがに難しいです。

まずは、少しは改善をさせてみるとか、といった配慮は当然必要になります。

それと、解雇ができる状況にあっても、最後は相手がやめる方向に持っていくことが、紛争抑止という点でベストです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00480_一定の能力を前提とした即戦力型中途採用者の解雇

雇用関係は婚姻関係と同じで、
「結婚は自由、離婚は不自由」
というのと同様、
「採用は自由、解雇は不自由」
です。

すなわち、人ひとりクビを切ろうとすると、
「客観的合理的理由」

「社会通念上の相当性」
というおよそクリアできない法律上の要件が課されてしまい、この高いハードルを乗り越えるのはほぼ不可能です。

しかし、これは新卒採用などの場合にあてはまることであって、特定の能力を前提として即戦力になることが期待されている中途採用者の場合は、解雇に対する制約は比較的緩やかになる、ということは意外と知られていません。

実際に、人事本部長という地位を特定した雇用契約を締結して、特定の能力発揮を期待されて中途採用された人物が、人事本部長という地位に要求された業務の履行または能率が極めて低く、就業規則中の
「雇用を終結しなければならないやむを得ない業務上の事情がある場合」
として、会社による解雇が認められた裁判例があります(フォード自動車事件)。

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00479_架空取引による不適正会計に対するペナルティ

2008年2月11日、実態のない循環取引を敢行して不正な会計処理を行い、さらにはこの不正な会計処理を基にした有価証券報告書を作成した等の罪で、東京証券取引所1部上場会社のシステム開発会社の経営陣が逮捕され、その後の2012年12月13日、東京高裁が懲役3年の実刑判決等を言い渡しています(会社自体は2010年9月に解散)。

また、2010年には、大手ワイン製造会社の一事業部門が、循環取引等の架空の取引によって、総額約65億円の売り上げを計上していたことが発覚し、東京証券取引所から違約金の支払いを命じられるといった事件も発生しております。 

このように、循環取引等の不正な営業活動を利用した
「ホラ吹き」行為
ですが、単なる
「見栄」「虚勢」
にとどまらず、投資家の判断を誤らせ、ひいては株式市場への信頼を根底から覆す危険な行為として、金商法上、非常に厳しいペナルティーを与えられる結果を招来します。

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00478_循環取引のリスク

「循環取引」
とは、俗に、実際には商品を動かさず、伝票上だけで売買を繰り返し、複数の企業間で転売していく取引のことをいい、最終的に商品は最初の企業に戻ってくる点に特徴があります。

このような
「循環取引」
は、実際、放っておけば劣化してしまう在庫を売買することで売上高を伸ばすことができますし、自分が売却した商品を、再度、購入するまでの間(循環してくるまでの間)、短期的に資金を確保することができますので、商品代金を他の借入金の返済に充てることなどもできます。

さらには、売上高が増せば、
「将来性のある企業」
と評価され、銀行融資を受けやすくなる場合も考えられます。

このようなメリットがあることから、
「循環取引」
は、同じ業界内で在庫と資金の保有比率を適正に維持する商慣行の1つとして行われることが、ままあるわけです。

それに、商品の転売行為自体を直接的に違法とする法令はありませんし、
「循環取引」自体
を取締まる法的根拠もありません。

しかしながら、特に、証券取引所に株券を上場しているような企業の場合、投資家は、適正な事業活動によって企業が成長していると理解した上で投資判断を行うわけですから、単に、伝票を数社間で“廻す”だけのような取引実態を伴わないような
「循環取引」
で売上高を過大に計上していたのであれば、投資家にとってみれば、“騙された”ということになりかねません。

したがって、このような投資家の信頼を保護する必要がありますので、金融商品取引法は、
「資本市場(株式市場等)への正しい情報提供」
を確保するために、さまざまな規制を設けているのです。

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00477_「不当な」抱き合わせ販売(一般指定10項)の認定手法

「抱き合わせ販売」
とされる独占禁止法上の要件についてですが、まず、行為要件として、別個の商品やサービス等の役務を併せて購入させることが必要です。

そして、問題になるのが、一般指定第10項にいう、
「不当に」
の解釈です。

これは、買主の商品選択の自由を侵害することや、能率競争の阻害をいうとされていますが、抽象的な要件ということもあり、個別の裁判例を検討していく必要があります。

同種の事例において、大阪高裁判決1993年7月30日は、公正な競争を阻害するかが重要であると指摘した上、確かに安全性の確保も考慮することが必要な要素ではあるものの、
「(親会社の)エレベーターの保守に関しては90%の市場占拠率を有している」
から
「(当該)エレベーターの保守を一手に独占し、独立系保守業者等他の競争者を排除しようとの意図の下に本件各行為を行った」
と断じ、さらに、
「安全性確保のための必要性が明確に認められない」
ために、
「不当に」
抱き合わせ販売がなされた、との認定を行いました。

部品の供給と取り替え工事とは、それぞれ経済的には別個の事柄ですし、独立して取引の対象とされることからすれば、相当な判断といえるでしょう。

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00476_抱き合わせ販売の規制

人気のあるものと不人気のものを抱き合わせて販売すること、例えば、大人気のゲームを買うために、人気のないゲームを買うことを条件とするような行為は、一般に
「抱き合わせ販売」
と呼ばれます。

そして、このような行為は、独占禁止法において
「事業者が、独占禁止法上不当に、主たる商品や役務の供給にあわせて、他の従たる商品や役務を、自己または自己が指定する事業者から購入させ、その他自己または自己が指定する事業者と取引するように強制すること」(一般指定第10項)
として規定され、違法行為として扱われます。

違法視される理由ですが、抱き合わせ販売行為は、不人気な商品の在庫を捌けさせることができ事業者には都合が良いのですが、買主は、たいして興味のない商品の購入が強制され、商品選択の自由が不当に害されていることが挙げられます。

加えて、本来的に魅力のない商品が、抱き合わせ販売行為により大量に売れることとなる点も根拠とされています。

独占禁止法は、品質や価格が市場により正当に評価されての競争(能率競争)を保護するものですが、抱き合わせ販売は、これを阻害することとなるため、法により禁じられているというわけです。

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00475_労働契約法上の安全配慮義務

労働契約法は、5条において
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
と定め、法律上の義務として、安全配慮義務を規定しました。

要するに、使用者は、労働者に対してカネを払うだけでなく、労働者が危険を感じて萎縮しながら労働したりすることのないように、また、その労働力をいかんなく提供できるように、常に、労働者の生命や身体などの安全を確保するための配慮を怠ってはならないということなのです。

最近では、従業員を危険な場所や危険な機械等から防御する、というハード面の安全配慮義務だけでなく、使用者は職場の上司によるいじめを防止しなければならない、といったソフト面での安全配慮義務が認められたりもしています(さいたま地裁04年9月24日判決等)。

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00474_就業中に従業員が死傷した場合の企業としてのリスク:安全配慮義務違反

雇用契約というものは、労働力の提供とこれに対する賃金を支払うことを内容とする契約ですが、労働者と使用者の関係は、売買の場合の売り主と買い主のように、ある程度、継続するものなので、単純に
「労働力を提供する」
「賃金を支払う」
というだけの関係で終わるものではありません。

例えば、使用者は、従業員が安全に労働できるような諸条件を整えたりしなければならないのです。

この点、雇用契約について定める民法には、特に規定はありませんが、判例は、古くから使用者に課せられる安全配慮義務というものを認めてきました。

例えば、最高裁判所1984年4月10日判決は、宿直勤務中の従業員が侵入してきた強盗に殺害された事故について、
「会社が、夜間においても、その社屋に高価な反物、毛皮等を多数開放的に陳列保管していながら、右社屋の夜間出入口にのぞき窓やインターホンを設けていないため、(中略)そのため来訪者が無理に押し入ることができる状態となり、盗賊が侵入して宿直員に危害を加えることのあるのを予見しえたにもかかわらず、のぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の盗賊防止のための物的設備を施さず、また、宿直員を新入社員1人としないで適宜増員するなどの措置を講じなかった場合において、宿直勤務の従業員がその勤務中にくぐり戸から押し入った盗賊に殺害されたときは、会社は、右事故につき、安全配慮義務に違背したものとして損害賠償責任を負う」
と判断し、従業員の死亡についての責任を負わせています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00473_パクリ商品を製造販売した場合の法的リスク

不正競争防止法2条1項3号は、
「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡(中略)する行為」
を不正競争と定義し、模倣された者に対し、損害賠償請求や信用回復のための措置(販売差止など)を求める権利を付与しています。

なぜ、このような形態模倣行為を規制するかといいますと、要するに、
商品を開発するには一定の資金や労力が必要となるわけですから、先行してこのような資源を投下して商品を開発したものを保護し、資源を投下することなく“フリーライド(ただ乗り)”する者たちを排斥しなければならないから
です。

ところで、不正競争防止法2条1項3号がいう
「商品」
とは、商品自体に限られません。

その容器や包装など、
当該「商品」
と一体となって、商品自体と容易に切り離し得ない態様で結びついているものも「商品の形態」の一部として保護することとしております(大阪地裁96年3月29日決定)。

なお、このような形態模倣行為を
「不正の利益を得る目的」
をもって行った場合、
「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科」
という罰則が規定されています(不正競争防止法21条2項3号)。

ここでいう
「不正の利益を得る目的」
とは、公序良俗に反する態様で自己の利益を不当に図る目的をいうと解されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00472_著作権を手にするために必要な要件と手続き

そもそも、著作権とは、文章、音楽、美術、映画、写真、プログラム等の表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した者に認められる、それらの創作物の利用を支配することを目的とする権利をいいます。

そして、このような保護を受けることができる
「著作物」
として認められるためには、法律上、
「思想または感情を創作的に表現したもの」
という要件があります。

つまり、著作物といえるためには、創作性が必須ということになります。

なぜなら、創作性がないものまですべて保護するとなると、第三者が同様の作品を創作したり利用したりできなくなってしまい、表現活動に著しい支障が生じるからです。

例えば、単に、他人の絵画を写真で撮影したものは、カメラを利用して被写体を忠実に再現しただけなので、創作性は認められません(東京地裁1998年11月30日判決等)し、
「表現が平凡で、ありふれたもの」
である場合も創作性は否定されることになります(東京地裁1999年1月29日判決等)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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