00264_債務株式化(デット・エクイティ・スワップ)の利点と具体的手法

会社のバランスシートをみると、右側(貸方)には、上段に負債、下段に資本の項目が並んでいます。

法律的にみると、負債は返さなければならない借金で、資本は返さなくてもいい出資金ということで、顕著な違いがあります。

しかしながら、
「会社の運転資金の調達先はどこか」
という観察においては、負債であれ、資本であれ、調達先が債権者か株主かというだけであり、どちらも似たようなもの、ということになります。

今から10年前ほどから、負債でクビが回らなくなりはじめた企業や、負債が大きくなり過ぎて資本とのバランスが悪くなった企業において、負債を資本に振り替えることにより、企業再建に活用したり、企業が健全にみえるようなお化粧直しの方法として、債務株式化という手法が検討されはじめました。

債務(デット)を株式(エクィティ)に交換する(スワップ)という意味で、デット・エクィティ・スワップとかDES(デス)なんて言い方をされます。

債務株式化は、
「大手企業の再建の際に金融機関の支援策として使われるような大規模で難しい手法」
として考えられてきましたが、簡単に実施できます。

最近では、中小企業においても、金融機関や取引先に対してバランスシートの見栄えをよくするための財務改善の手法としてよく用いられます。

債務株式化の手法、債権者が債権を元手として出資して増資する手続になります。

オーナー社長に対する未払役員報酬が1000万円になっていたとします。
会社がこの1000万円を社長に返済し、他方、オーナー社長は返してもらった1000万円で会社の株式を買います。

現金がいってかえっての話になるので、実際には、お金を一切動かさずに処理をする。

この結果、会社としては借金が減り、資本が増え、自己資本比率が改善する。 

簡単に言うと、こういう話になります。

ただ、実際には、債権の評価をどうする、債務免除益が出てこないか等、もっぱら税務面での検証が必要になりますので、税理士の先生も交えて実施を検討することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00263_法人格否認の法理

実質的に個人商店のような会社で、法人格と個人とを使い分けて責任逃れするようなケースがあります。

「オーナーと法人は別人だから、オレには関係ない」
「A法人とB法人は別人だから、こっちの法人はそんな義務知らねえ」
などの詭弁を弄する輩が出てきて、不都合・不公平な事態が生じます。

こういうことから、あまりにひどい場合は、
「法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはそれが法の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからずものというべきであり、法人格を否認すべき」(最高裁昭和44年判決)
等とされます。

「法人格を弄ぶスットコドッコイ野郎に対しては、法人だろうが個人だろうが関係なく義務や責任を負わせるべし」
という粋な計らいは、法人格否認の法理と言われ、法律家の世界では非常にメジャーな法理です。 

しかしながら、このような伝家の宝刀がブンブン振り回されると法人格概念が崩壊するということも懸念され、最近では、この法理の安易な使用を制限する動きも出てきています。

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00262_「LLC(ないしLLP)」なる法人に多額のカネを預けるリスク

企業に持ち込まれる余剰資金運用案件について、出資の方向で話が進んでいくと、時折、契約相手として、BVI(ブリティッシュ・バージン・アイランド)やらケイマン諸島に籍を置く、LLCやらLLPといった名称の、なんだかよくわからない法人が登場します。

状況としては、案件を持ち込む金融マン(たいていは、いい大学を出て、バカ高いスーツを着て、バカ高い靴を履いて、バカ高いネクタイをクビからぶら下げて、堂々としているが物腰が柔らかく、話し方がジェントルな、エリート然とした金融マン )は、タックスヘイブンがどったらこったら、登録規制や開示規制がどったらこったら、ヘッジファンドとして活動するにはオフショア環境が最適云々と長々しい割に、理解困難な話をします。

上記説明をどこまで理解しているかどうかわかりませんが、その結果、企業や団体の資金管理責任者は、この
「ファンド」
に結構な大金を注ぎ込まことになります。

この
「ファンド」
の組織形態が、LLCとかLLPと呼ばれるものであることが多いのです。

もちろん、うまく運用されて、たくさんの利息やら配当やらがくっついて、大きく成長して戻ってくればいいのですが、たまに、預けたお金が雲散霧消して、大きな事件やトラブルに発展します。

代表的な事件としては、
「AIJ投資顧問事件」
で、運送会社や建設会社、電気工事会社など中小企業の厚生年金基金を高利回りで運用するなどと称し、2011年9月末時点で、124の企業年金(アドバンテストや安川電機といった大企業の企業年金も含まれていたようです)から1984億円の資産の運用を受託していましたが。

しかし、実際は、2003年に年金の運用を開始した時点で預かった資金の半分を失っており、2008年には損失が500億円にまで膨れ上がり、その後は、粉飾決算して、損失を隠し続けて資金集めをしていました。

結局、関係者は詐欺で告訴され、投資顧問会社も子会社の証券会社も破産し、預けたお金は消失しました。

このとき、顧客への説明として
「ケイマン籍の子会社を通じ日経225オプションの売り戦略を主力としている」
とのセールストークでだったようです。

この
「ケイマン籍の子会社」
の実体や背景等については、当初、年金基金の代理人や破産管財人も回収を企図して相当調査したものと思われますが、その後も具体的な回収成果については報道もなく、最終的に7%程度になったと言われる債権者配当割合等を考えると、雲散霧消してしまったと思われます。

「ケイマン籍の子会社」
は、千数百億円もの金銭を預かっていたようですが、こんな無責任なことをやって、タダで済むものなのでしょうか。

担当者とか責任者とかそういった関係者が出てきて説明してもよさそうですが、事件としては、
「消失」「消えた」
と、なんとも頼りない結末になっているようです。

お金がドライアイスのように
「消える」
わけはないのであって、バクチで消えたのか、盗んだのか、飲んだり食ったりして使ったのか(1千億円以上も飲み食いしたら痛風を発症するかもしれず、生命や健康をリスクにさらす行為ですが、できなくはありません)、ミサイルを買ったりロケットを飛ばしたりといった尋常じゃない無駄遣いをしたのか等、何らかの背景事実が存在するはずです。加えて、盗むといっても、現金でもっていくとしたら、1400億円だと、1万円札で14トンになりますし、ドルでもそのレベルのボリューム感なので、まずあり得ないので、おそらく、振込送金をしているはずで、振込送金をたどっていけば、お金の流れは相当程度解明できるはずです。

ですが、
「消失」
というのは、なんとも不可解で、納得できない説明であり、逆に言えば、
「カネを預けた先の民間企業相手に債権者や利害関係人として調査を求める」
という非常に当たり前なことを要求しただけにもかかわらず、ものすごい障害に遭遇し、事実上断念したのであろう、と推測されるところです。

ただ、これは構造上、当初から想定されているリスクが実現しただけ、とも言えます。

これは、LLCとかLLPという横文字の本質的意味を読み解けば簡単に説明できる話です。

LLCとは、Limited Liability Corporation(有限責任会社)の略であり、LLPとはLimite Liability Partnership(有限責任組合)の略です。

両者に共通する、このLimited Liability(有限責任)、響きとしてはなんだかカッコいいし、日本語の
「有限責任」
という言葉ないし概念も、かつて存在して聞き覚えのある
「有限会社」
等の言葉としては、ある程度馴染みのあるもので、それなりの、しっかりとした責任をイメージさせてくれます。

しかし、このLimited Liability(有限責任)とは、
「しっかりとした責任」
とは全く逆の実体を内包する概念であり、Limited Liability Corporation なりLimite Liability Partnership が、どれだけ関係者に迷惑をかけ損害を被らせようが、法人ないし組合の出資者は、出資した金額がなくなるだけで、それ以上一切の責任を負わない、という意味です。

とはいえ、1千数百億円もの金銭を預かるわけですから、さぞデッカイ出資金があって、会社の構えも立派で、従業員が何百人も働いているイメージを彷彿とさせてくれそうですが、実際は、資本金ないし出資金は1$とかそのくらいで、会社のオフィスはなく、従業員はおらず、私書箱の中でのみ存在する、ペーパーカンパニーというか幽霊法人がほとんどです。

Limited Liability Corporation なりLimite Liability Partnershipに出資したオーナーがやってきて
「今回の事件ではいろいろご迷惑をおけけしました。いろいろ紆余曲折あってお預かりした大事な1千数百億円(※1千数百円ではない)を消失させてしまいました。責任を痛感し、出資金全額をもって有限責任を果たします」
といっても、資本金ないし出資金の1$を放棄するだけ。

要するに、Limited Liability(有限責任)という御大層な形容詞ですが、一般的な言葉に翻訳すると、No Liability(無責任)という意味です。

年金基金の担当者が、大事な虎の子を預けた先は、遠い遠い異国の離れ小島にある、
「No Liability Coporation(無責任会社)やNo Liability Partnership(無責任組合)」
ということです。

これを、預かった会社ないし法人から観察すると、
「どこか遠い国のお金持から、1千数百億円(※1千数百円ではない)ものお金が振り込まれて、どんなに好き勝手やってお金が全額なくなっても、弁償するのは1$」
という状況です。

この状況で、
「食い物にするな」
という方が不自然であり、無理筋でしょう。

もし、今後、
「いい大学を出て、バカ高いスーツを着て、バカ高い靴を履いて、バカ高いネクタイをクビからぶら下げて、堂々としているが物腰が柔らかく、話し方がジェントルな、エリート然とした金融マン」
がやってきて、自信満々、
「タックスヘイブンがどったらこったら、登録規制や開示規制がどったらこったら、ヘッジファンドとして活動するにはオフショア環境が最適云々」
と長々しい割に、理解困難な前置きとともに、預けただけでものすごい配当や利回りが得られるような
「よだれが5リットルくらい出る、おいしい話」
を提案してきた状況に遭遇したとしましょう。

その際、提案された資料に、Limited Liability Corporation やLimite Liability Partnershipといった言葉が出てきたときには要注意です。

こういう場合、意識の上で、この
「Limited Liability Corporation やLimite Liability Partnershipといった言葉」

「No Liability Coporation(無責任会社)やNo Liability Partnership(無責任組合)」
と書換え、植木等が歌う無責任一代男(古っ!)を脳内で連続再生しながら、眉毛にツバをべったりつけて、話を聞くようにした方がいいでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00261_「法人格」による個人責任遮断効果

一般社会では、人というと、
ホモ・サピエンスとして分類される有機的生命体を指しますが、
「法人」
というのは、グループ(社団法人)や財産プール(財団法人)に過ぎず、現実には影も形もないものです。

すなわち、法律の世界では、生物としての実体も影も形もないものであっても、
「財産や負債を格納できる入れ物」
が存在し、そこに権利を移転したり義務を負担させられるのであれば、
「人」並に
扱うことに何ら問題はないとされます。

このような観点から、
「人の集まりであれ、財産プールであれ、ゼニさえ持たせられるのであれば『人』並みに扱い、取引社会に参加させてもいい」
というフィクションが構築され、法律上の人格をもつべきバーチャル人格というか観念上の人間として、
「法人」
という概念が出来上がりました。

法人でもっとも身近なのは株式会社です。

株式会社は営利追求目的で集まった株主のグループに過ぎませんが、法律上
「営利社団法人」
として、株主とは別個の
「人」
として扱われます。

一般の中小零細企業では、株式会社といっても、現実には株主はオトーチャンひとりだけで、個人事業と何ら変わりありません。

しかし、それでもやはり法律上オーナーの株主トーチャンとは
別「人」扱
となります。

たまに、事業資金を貸したり、掛売りする際、契約書に、契約相手として株式会社だけしか記載せず、オーナー社長を連帯保証人として併記しない、というケースを見受けます。

この契約相手の株式会社が、どんなに零細で、形だけの会社で、実体が個人商店と何ら変わらないものであっても、契約の責任を負担するのは、
「法律上の人格をもつべきバーチャル人格というか観念上の人間 」
としての株式会社だけであり、個人は、一切責任を負いません。

どんなに零細で、形だけの会社で、実体が個人商店と何ら変わらないものであっても、いやしくも
「株式会社」
という法人格を有する以上、
「ホモ・サピエンスないし有機的生命体としてのオーナー社長」
と、
「法律上の仮想人格たる株式会社」
とは、赤の他人です。

赤の他人が負担した借金を、何の根拠もなく、オーナー社長が負担する理由はありません。

したがって、
「株式会社」
という、
「実体も何にもないし、義理人情も道義も責任感も感じない、無機質な幽霊」
にカネを貸したり、掛売りしたりする際は、必ず、生身の人間であるオーナー社長を個人として、連帯保証人として
「法律上の首輪ないし足枷 」
をはめておくべきです。

金融資本主義社会という生態系の頂点に君臨する、経済社会におけるもっとも高い知能を備えた銀行は、この
「実体も何にもないし、義理人情も道義も責任感も感じない、無機質な幽霊」
にカネを貸す際は、必ず連帯保証人を入れさせます(連帯保証人を入れずにカネを貸して焦げ付いたら、担当者は背任を疑われます)。

こういう銀行のプレースタイルは、事業会社であっても、大いに真似るべきだと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00260_企業内に「内部通報制度」を設けるべき本質的メリット(意義と価値)

公益通報者保護法は
「従業員が企業内の不正を発見すれば、どんな場合や状況にかかわらず、ベラベラしゃべってよく、解雇もされない」
ということを定めているわけではありません。

とくに、従業員のタレ込み先がマスコミの場合、通報を正当化するためのハードルは相当高くなります。

そして、内部通報制度を設置することにより、従業員による企業内不正の外部公表行為は相当抑止されます。

すなわち、公益通報者保護法上も、企業内部の自浄を高めるべく、
「社内不正の発見に際して、上司を通さず直接経営トップに通報するための仕組(内部通報制度)」
を設けた場合、従業員は、いきなり企業内不正を外部公表するのではなく、まずは企業内部の自浄に協力すべく、内部通報制度の利用をすべきことが原則として定められているからです。

こういう消極的意義のみならず、内部通報制度が適切に利用されることにより社内の風通しがよくなりますし、不正は確実に減少することは経験上明らかです。

「不正を外に漏らさないため(内々に処理するため)」
という消極的意義だけではなく、
「不正自体を減らし自浄により企業をよくするため」
という積極的価値があることからも、内部通報制度は、
「積極的に導入すべき、現代企業においては必須の内部統制インフラ」
と言えます。

※なお、弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所では、「内部統制監視センター(登録商標)」というサービスブランドで、「外部法律事務所によるネット受付型の内部通報受理窓口受託サービス」を提供しております。受け付けた通報内容の脅威レベルについて、重大性と対応の緊急性の2つの項目により判定し、フィードバックする仕組を兼ね備えたもので、各種企業に採用いただいております。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00259_公益通報者保護法が企業経営に与えるリスク

談合、各種食品偽装、品質偽装、リコール隠し等々、最近、企業内部の不正が多く報道されるようになりましたが、これらの不祥事報道のきっかけのほとんどが企業の従業員等の内部告発によるものだと言われています。

そして、このような内部告発した従業員が、後に解雇されたり、職場で様々な不利益を受けることもよく知られた話です。

企業のこの種の報復から内部告発者を守るため、2006(平成18)年4月に公益通報者保護法が施行されました。

ちょっと前まで、企業内で秘匿されている
「表立っては言えないような事情」
を口外しないことは従業員のモラルとされ、逆に、その種の事情を口外するときは辞職覚悟で行うものとされていました。

しかし、この法律により、
「企業内部の不正を公表するには、辞職を覚悟しなくてもいい」
という新たな企業文化が確立されました。

企業としては、
「コンプライアンスの観点上、企業内不正の密告は奨励される」
という理屈が法制化されたことを理解しなければならず、
「この対策を怠ると、信じていた身内からの裏切りにより簡単に企業組織が崩壊すること」
を認識する必要があります。

「公益通報者保護法」
というと、法律の内容とか企業経営へのインパクトとかが今ひとつピンとこないかもしれませんが、わかりやすく言うと、企業内不正密告免責法とか企業不祥事密告奨励法と言い換えれば、企業にとってどのくらい気をつけなければいけない法律か、ビビッドに理解できるのではないでしょうか。

特に、違法なことをやっている企業、そうでなくても、グレーなことや、やましいことや、外聞の悪いことをやっている(これらは、厳密に観察すると大概、違法行為だったりするわけですが)企業は、かなり真剣にチェックしておくべき法律です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00258_「労働組合ときちんと向き合って話し合わないと、違法(不当労働行為)」とされる、団体交渉のテーマ(団体交渉事項)について

団体交渉といえば、春闘で、ベースアップがどうこう、景気が悪いから賃上げもこの辺で妥協、といった、マクロ経済の議論や物価の高低、景況判断を踏まえた、もっと、労働者全体が関わる、大きく広汎なテーマが話し合われるようなイメージがあります。

ところが、
「従業員を解雇したら、当該従業員が独立系労組に駆け込み、組合加入通知と団体交渉の申入通知が送りつけられてきた」
というケースにおいては、ほぼ100%、組合員の解雇という個人的な問題が、団体交渉の目的たる事項とされます。

一個人の労働契約に関する問題を、企業内のことをあまり知らない労働組合からとやかく口を差し挟まれるのは奇異な感じがしますし、
「そんな、ズレまくっているテーマでの団体交渉なんて、普通にシカト(無視)しちゃっていいんじゃないの?」
という話になってもよさそうです。

しかし、前記のような一労働者の解雇の是非といった超属人的な問題も
「団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」
である以上、義務的団体交渉事項として、会社は交渉に誠実に応じるべき義務(労働組合法上の義務)を負います。

会社が、かような交渉事項に関し、正当な理由なく交渉を拒絶した場合、労働組合法に違反する労働組合活動の妨害行為(「不当労働行為」といいます)として、様々なペナルティを負担することとなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00257_会社で労働組合を作った覚えがないのに、従業員がいきなり「労働組合に加入したぞ」と通知してくる怪現象(?!)について

日本の多くの企業では、企業毎に労働組合が結成され、いわゆる
「御用組合」
という形で企業とそれなりに仲良く共生している例が多いです。

しかし、労働組合一般についていえば、日本国憲法により労働組合を結成する権利が認められており、労働組合を作るのに、一々会社の了解が必要というわけではありません。

そもそも労働組合を作ること自体、漁業協同組合や農業協同組合等を作るときのような意味不明な制約があるわけではなく、かなり自由にできるものです。

すなわち、2人以上の労働者が
「組合作ろう」
「そうしよう」
と意気投合し、地方労働委員会に規約等が労働組合法に適合していることを確認しさえすれば、原則として、労働組合法上の労働組合として、その活動に手厚い保護が与えられます。

企業内の労働組合が存在しない状況において、従業員が企業外の独立系労働組合(コミュニティユニオンとか独立系労組と呼ばれることがあります)の組合員となることは可能ですし、その場合、当該独立系労働組合が会社に対して団体交渉等を行うことも可能です。

そして、この独立系労組というのは、経験がない企業にとっては、シビれるくらい厄介でおっそろしく感じる脅威です。

なんせ、
言葉はギリ通じるものの、
話は通じないし、
気持ちはもっと通じないし、
通じないからといって交渉を拒絶すると労働委員会にひっぱり出されるわ、赤旗が立つわ、
と、とにかく接点をもつと企業として、ヘトヘトになるくらい疲弊させられる悩みの種になる、そんな代物です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00256_株主代表訴訟の脅威を低減・制御する方法

会社の経営陣の方々から、よく
「株主代表訴訟は怖い」
という言葉を聞きますが、
「饅頭怖い」
の落語のように本質を理解せずただ抽象的に怖がっているため、防御策をほったらかしにしているところがほとんどです。

本質的な対策としては、取締役において代表訴訟の原因となるべき任務懈怠あるいはこれと疑われるべき行為を減らす努力が必要です。

問題となりそうな取引や行為については、代表取締役の独断には付さず、取締役会できちんと議論するとともに、議論と承認可決された経緯を議事録に漏らさず記録しておくことにより、代表訴訟のリスクが相当程度逓減されます。

この点において、上場企業において積極的に採用されているのは、弁護士を社外取締役として選任するという方法です。

経営判断に合理性・合法性・外部目線・投資家目線・海外投資家目線が要求される現代上場企業マネジメントにおいては、弁護士を取締役会のメンバーに迎え入れ、
「法律知識をもっており、自らも下手な判断をすると株主代表訴訟のターゲットとなってサンドバッグになるというリスクを負担する」
という立場の弁護士から、経営判断の際、リアルタイムにリスクの洗い出しやリスクの予防・回避・制御のための知恵が出されますので、相当程度、代表訴訟リスクは逓減するであろう、と期待されます(とはいえ、社外取締役弁護士がいるからといって万全というわけでもなく、たまに、社外取締役弁護士も連座して、代表訴訟の餌食になる、という例もあるにはあります)。

脅威が現実化した際の制御方法についてですが、株主代表訴訟は、
「ある日、突然、予告も前兆もなしに、いきなり株主によって提起される」
というわけではなく、予兆というものがあります。

すなわち、代表訴訟提起前に株主から会社宛に、
「お前んとこの悪徳役員を訴えろ」
という内容の訴訟提起を求める書面が参ります。

ほとんどの会社は当該書面をシカトしますが、シカトの結果、怒り狂っている株主相手と役員との仁義なき直接対決を誘発してしまいます。

ケースによっては、株主の言い分どおり訴訟提起をしてあげて、話が通じる者の間で適正に解決した方がいい場合もあります。

ただ、気心知れた監査役に露骨な馴れ合い訴訟をしていい加減なことをしてお茶を濁そうとしても、このような不当な手法に対しては会社法で制限措置が設けられていますので、この点は十分注意すべきです。

最後に、防御策というより責任軽減策として、役員賠償責任保険に加入することや賠償額の制限を定款に盛り込むことも考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00255_株主代表訴訟とは

株式会社の取締役が会社に迷惑をかけた場合、本来、会社がチョンボした取締役に損害賠償をすべきなのでしょうが(この場合監査役が会社の代表として訴訟提起します)、現実問題として、会社を牛耳る取締役に対して、役員仲間である監査役が責任追求するなんてことは期待できるはずもありません。

その結果、取締役としては、絶大な権限を利用して会社の財産を食いちらかすことが可能となってしまいます。

そこで、会社法は、あまりにもひどい場合に、株主が会社に代わって、取締役に対して損害賠償請求することを認めています。

とはいえ、株主の代表訴訟を無制限に認めると濫用される弊害の多く出てきます。

すなわち、暴力団やライバル企業が株式を取得して代表訴訟を濫発すれば、対象企業を事実上機能停止に追い込むことが可能となってしまいます。

そういうわけで、会社法は、取締役の専横を防止する制度として株主代表訴訟を設けつつ、濫用されないような仕組も同時に設けています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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