00304_企業活動を妨害する行政指導への対処テクニック

ビジネスを進める上で、行政から必要な許認可を取得するため申請や届出を行う場合があります。

例えば、ある企業が、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(以下、「建設リサイクル法」といいます)21条に基づき、ある県に解体工事業者の登録申請を行ったしましょう。

申請があった場合、県側は、申請書の記載不備の有無等の形式的審査を行い、申請を受理するかしないか、の判断を行わなければなりません。

もし、県が、形式的に不備がないにもかかわらず不受理とした場合、企業側としては、不受理処分取消を求めて行政訴訟を提起することになります。

しかしながら、行政指導と称して、形式的に不備がない申請行為であっても、いろいろ因縁・難癖をつけ申請を受け付けないことがあります。

もちろん、正面切って不受理とするわけではなく、現実の行政手法は、もっと巧妙なやり口で
「登録申請書を持ち帰ったのは、あくまで企業側の自主的判断」
という形にするのです。

これは、後日、
「形式的に不備がないにもかかわらず、屁理屈こねて不受理にしたのは問題だ!」
ということをいわれても、
「申請書の受理を拒否したって?とんでもない。県としては、『県内の業者の皆様といろいろとお話し合いをなさってからお越しになったほうがいいんじゃないですか』と助言しただけで、南野社が勝手に届出書をお持ち帰りになっただけですよ」
との逃げ口上で責任回避できるようにしているわけです。

行政側の
「われわれはあくまで助言しただけ。企業側が助言を聞き入れて勝手に申請書を取りやめた」
との言い種は、行政指導という手法によるものです。

行政指導は、上品に表現すれば
「行政機関が権限の範囲において行政目的を達成すべく市民に行う勧告、助言等であって処分でないもの」
等といわれますが、端的にいえば
「権力を背景に無言の圧力で市民や企業を従わせる」
ものです。

行政指導は、上記ケースのようなものだけでなく、建築行政、金融行政、運輸行政、医療保険行政等、行政の許認可を要する事業活動を展開する際に広く活用されており、中には不当な指導が行われる場合もありますので、注意と警戒と実際に遭遇した場合の対処の心構えと対応戦略が必要です。

対応戦略ですが、上記ケースの場合でいいますと、申請書は、別に県に持参する必要などありません。

県知事宛に書留で送っても申請行為としての効力に影響ありません。

申請書送付と同時に、県知事宛に
「本日、別便で解体工事業者の登録申請を送付したので、受理されたい。申請書自体は、一切の不備が見当たらないので、まさか不受理ということはないと思うが、仮に不受理という不利益取り扱いをされる場合は、行政手続法に基づく所定の処分を行われたい。なお、先般、申請受理に当たって『県内の業者と話し合うこと』を受理の条件として求められたが、当方としてはどのような行政目的達成を企図した指導なのか全く理解できない。貴庁があくまで行政指導を実施される場合、行政手続法35条2項の定めに従い、指導内容を示した文書を交付されたい」
という趣旨の内容証明の送付を検討すべきです。

県の役人も、自分のクビを懸けて不受理処分をしたり、文書で行政指導するだけの根性もなく、権力を背景にちくちくイヤミを言いたいだけですから、ここまでやると、相手も折れて、受理してくれる可能性が出てきます。

このように、行政と事を構える場合、行政手続法をよくスタディーして、効果的に対応する方法を構築するべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00303_「ファンド協力・支援型MBO」の実体とリスク

MBOとは、マネジメント・バイアウト(Management Buyout)の略です。

英語で表現すると、何だか、物すごく斬新で高尚なことをやっているように思われがちですが、日本で昔からある
「暖簾(のれん)分け」
のようなもので、要するに雇われ社長がオーナーから株を譲ってもらって独立するという話です。

中小零細の非公開企業であれば、簡単に実施できるのですが、上場企業(株式公開企業)の場合、厄介で面倒です。

すなわち、MBOは、社長をはじめとした経営陣が、会社のオーナーである株主から株式を買い受けることにより行われますが、金融商品取引法上、一定割合の株式を買い集めるにはTOBの方法によらなければなりません。

このTOB価格をいくらにするかは重要な問題で、あまり安い価格でTOBをやろうとすると、ライバル会社や抜け目のないファンド筋からカウンターTOBを仕掛けられる可能性があります。

加えて、高値で購入した株主がTOBに応じず、MBO実施後の最終的な追い出し(スクイーズアウト)の場面でグズグズ言い出し、買取価格を巡る訴訟トラブルに発展する場合もあります。

さらに大きな問題は、MBOで株式を買い受ける場合、会社の経営陣に株式を買い受けるだけの財力がなくファンドの力を借りないとMBOができない、ということです。

もちろん、ファンド(実際には、ファンドを組成し、運営を取り仕切る金融機関)は、MBO実施までは、
「経営の自由度が増す」
「上場維持にまつわるさまざまな負担からの解放」
等、経営陣に上場廃止後のバラ色の未来を語ります。

ですが、上場を廃止し、会社の株式の大半をMBOファンドが掌握した瞬間、事情は一変します。

新しくオーナーとなった
「金と数字にシビアな投資家連中」
は、経営陣に対し
「『経営の自由度が増す』といってもあくまで一定の経営成果を出した上での話であり、ファンドの意向を無視して好き勝手できるわけではない」
ということを言い始めるのです。

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00302_アメリカのドラマや映画で有名な懲罰的損害賠償制度は、日本国内の企業もリスクとして捉えるべきか?

懲罰的損害賠償(punitive damages)とは、アメリカやイギリス等のコモンロー体系の国の法制度で、不法行為に基づく損害賠償請求事件において加害者側の非違性が強い場合に、一般予防目的(加害者に懲罰を与えて、将来の同様の行為を抑止する目的)の観点から、実損害の塡補としての賠償(補償的賠償)に上乗せして支払うことを命じられる高額の賠償のことです。

懲罰的損害賠償は、日本企業のアメリカ進出が盛んだった頃、アメリカの法体系の不気味で恐ろい部分を顕著に示す、アメリカの産業社会のダークサイドとして進出企業関係者の間で有名なものでした。

アメリカに進出した企業が、アメリカで提訴され、アメリカの裁判で敗訴して損害賠償債務が確定した場合、無論、判決に基づいて強制執行され、これに基づいてアメリカ国内の被告企業の資産が取り上げられてしまいます。

ところが、被告企業が既にアメリカを引き揚げ同国内に全く資産を持たない場合、原告側としては、日本まで追っかけていき、日本国内の被告企業資産に強制執行しようとしますが、これが実は一筋縄ではいきません。

アメリカで獲得した英文の判決書を、裁判所の執行受付に持ち込んで、
「すぐに強制執行してくれ」
とわめいたところで、何が書いてあるか不明な英語の紙切れを片手に強制執行を求める人間など、裁判所は一切相手する必要はありません。

裁判所は、
「外国判決に基づき日本国内で強制執行したいのであれば、当該判決を承認し、これを執行する旨の判決を日本の裁判所で取ってきてから、出直してこい」
と冷たくあしらうだけです(そりゃそうですね)。

アメリカの判決が日本で無条件に承認・執行されると考えるのは、大間違いです。

裁判も国家主権の行使である以上、日本の裁判所としては、外国の裁判所の判決で気に入らない部分があれば、一切無視できます。

実際、懲罰的賠償責任を含むアメリカの判決の承認・執行の是非が争われた事件(萬世工業事件)で、最高裁は、
「見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しない」
として、
「補償的賠償責任を超える懲罰的損害賠償責任に関しては、日本での強制執行は認めない」
旨判断しています。

国際司法秩序は、全世界的に普遍的に通用する単一法秩序ではなく、各国の縄張りを、それぞれを仕切る暴力団が、それぞれの掟で支配・運営している、そんなモザイク的なものとなっています。

要するに、
「アメリカ組」の「シマ」

「おめえんところは、不義理したヤツから、10倍のペナルティを食らわして構わねえから」
というお墨付きをもらって、
「日本一家」の「シマ」
に行ってカチ込もうとしたら、
「日本一家」の「総長」
から
「てめえ、オレのシマで何勝手なことなことしてやがんだ! オレのシマでは、10倍とか20倍とか、そんな景気のいいペナルティは、掟にねえんだ! 黙ってすっこんでろ!」
と一喝食らった、という構図です。

したがって、マルドメ企業(まるでドメスティックな企業。純国内企業)としては、懲罰的損害賠償は、海外ドラマや映画で楽しく観ていればすむ話で、実際の企業活動に対する法的安全保障のテーマとしては、まず気にしなくていい論点といえます。

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00301_価格引き上げ追随行為のカルテル認定リスク

独禁法が禁止しているカルテルは、事業者間の
「協定」
であり、何らかの話し合いが想定されています。

逆に言えば、価格引き上げ追随行為、すなわち、
「話し合いが始まってすぐに逃げ出し、協定自体に参加せず、同業者が実施したカルテルに一方的に便乗する行為」
は問題なさそうにも見えます。

しかしながら、商品価格の協調的価格引上げにつき黙示の意思の連絡による共同行為が存在したか否かが争われた事件で、東京高等裁判所は、
「特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をしたような場合には、特段の事情が認められない限り、事業者間に協調的行動をとることを期待し合う関係があり、『意思の連絡』があるものと推認される」
という趣旨の判断を下しています。

上記ケースにおいても、会合に参加しなければ格別、
「会合に参加したものの、その後、逃げ出したが、会合参加企業が行った価格引き上げに便乗した」
というケースは、原則として違法と判断される可能性が高いといえます。

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00300_「企業経営者の誰もが理解に苦しむ『独占禁止法』」を制定趣旨から理解し(させ)、リテラシーを改善するための説明ロジック

「商売をする目的は、稼いで稼いで稼ぎまくって、テッペンとって、マーケットをわがモノとし、やりたい放題できる経済的地位を手に入れるためだ。共産主義国家でもない、自由主義経済体制を採用する日本では、自由に商売をして、自由に稼いで、やりたい放題やっていいはずだ! それなのに、独占しちゃいかん、やりたい放題やっちゃいかん、とはどういうことだ! 独占禁止法は、狂っているぞ。こんな愚劣で下劣な法律は、自由主義経済体制にふさわしくない。独禁法などという、自由主義経済体制とは真逆の、下品で、高圧的で、商売敵視の法律は、共産主義、独裁体制の香りがするから、こんなもの、とっとと失くしちまえ!」
口にこそ出さないものの、ほとんどの企業経営者の、独禁法に対する本音は、このようなものであろう、と推察されます。

こういう状況にあるから、なかなか独禁法違反がなくならないのでしょうし、コンプライアンス責任者としても、有事対応責任者としても、根源的な意識ギャップが埋まらず、苦労するのであろうと思います。

例えば、独占禁止法2条6項は、
「事業者間の共同行為で、相互に当該事業者の事業活動を拘束するものであって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」
を禁止しています。

要するにカルテルや談合はイカンということですが、この
「イカンとされる理由」
がピンとこないため、多くの企業がカルテルや談合に安易に手を染めてしまいますし、違反事例が後を絶たないのです。

さらに言えば、明々白々のカルテルや談合をしたとの理由で摘発されてもなお、
「日本の商売をわかっていない」
「相身互いで、仲良くやる日本の美風を理解してくれ」
と愚にもつかない弁解をしたり、
「これはカルテルではない。業界協調行為だ」
と強弁を試みたりする企業がなくなりません。

経営者に対して、独禁法の制定背景を根本からご理解いただくためには、単に、法律の仕組みを百万回唱えても無益であり、腹落ちするようなリテラシーが必要になります。

私は、このような
「経営者啓蒙」
を行う際、アナロジー(たとえ話)を用いて説明します。

オリンピックの100m競争をイメージしてください。

ある国が何がなんでも確実に金メダルを取りたいという場合、
(A)最終ランナー全員を当該国の国民にしてしまう
(B)最終ランナー同士の話し合いで当該国のランナー がトップでゴールできるよう競争をやめる
(C)当該国のランナーが自分の前を走る選手の足を引っ張ったりつかんだりして転ばせてしまう
ことが考えられます。

こんなことは競技の意味をなくしてしまうので、ダメに決まっていますが、独占禁止法も、同じ理念の下、市場での公正な競争を促すため、
(A)を私的独占とし
(B)をカルテルとし
(C)を不公正取引として
それぞれ禁止しているのです。

自由主義経済体制といっても、これは、別に、商売人がやりたい放題やって、自分たちだけが稼いで稼いで稼ぎまくらせることに意義と価値を置いているわけではありません。

すなわち、自由主義経済体制は、
「能率競争(価格と品質による競争)を活発にさせ、経済発展の原動力にする」
ということに目的があるのであって、
「特定の分野の、特定の事業者が、未来永劫、儲け続ける立場を保障すること」
に意義があるわけではありません。

むしろ、
「そのような独占・寡占状態は、競争の障害となり、あるいは競争の前提を破壊して経済発展の邪魔をするという下劣な行動を産む」
ということが歴史上の事実として証明されており、こういう状態を放置すると、国や社会の発展を損ねる、という理念や哲学が確固たる前提として存在します。

こういう点から、事業者による反競争的な行為を取り締まるべく、独禁法というものが制定され、かなり厳しく取り締まられているのです。

なお、厳しくなったとはいえ、日本の独禁法の法システムや規制実務は、ユルユルの甘々な方で、それこそ、欧米の場合、課徴金(制裁金)の額が0が2つ、3つ違いますし、刑事処罰や、捜査妨害に対する苛烈な処分など、想像をはるかに超えた厳しさと強烈さがあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00299_メーカーによる「専門販売員による対面販売義務づけ」措置の、独禁法違反リスク

メーカーが流通価格を制御する方法として、量販店や格安店に卸さない、卸させないという方法や、販売価格や再販売価格を守らせる方法(これに違反したら商品を供給しないというペナルティが課せられる)等がありますが、こういうダイレクトな方法だけでなく、もっと、ソフトでスマートでエレガントな方法も考えられてきました。

すなわち、
販売「方法」
として、店舗に対して、量販店や格安店では到底対応できないようなルールや方法を指定する、というやり口です。

典型的なものが、ある化粧品については、必ず、
「メーカーの指定した教育プログラムを受講した専門販売員がきちんとお客様に説明して販売せよ」
というルールを策定し、これを、店舗に対して強制する方法です。

量販店やディスカウントショップに、いきなり高級デパートの1階化粧品売り場のようなおハイソなブースが登場したら、それはそれで、なかなかシュールで味わい深い光景とはいえなくもないですが、そんなコストのかかることをやっていたら、ディスカウントショップとしては、商品を安く提供できません。

ところが、こういうメーカーが考案した、
販売の「方法」面
について、事実上、間接的に
「ディスカウントショップに卸してはいけない」
する行為が、独占禁止法に抵触する場合があります。

高級化粧品卸販売に関して
「専門販売員による対面販売ができる店以外に卸してはいけない」
という拘束を課したことが独占禁止法に違反するか否かが裁判で争われました。

最高裁1998(平成10)年12月18日判決は
「義務付けられた対面販売は、付加価値を付けて化粧品を販売する方法であって、化粧品という商品の特性に鑑みれば、顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響することは自明のことであるからそれなりの合理性がある」
という趣旨の判断をしています。

「顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響すること」
なんていってますが、
「対面販売なんか要らんから、安く提供せんかい」
という消費者の声は相当大きいはずで、やっていることは反競争行為そのもので、最高裁の前記判決は、反競争行為の追認、お目溢し以外の何物でもないような気がします。

そういう後ろめたさもあってか、
「それなりの」合理性がある
なんて、ためらい傷のような歯切れの悪い言い方をしています。

こういう事情もあり、この判例を、
「対面販売は完全自由」
と言い切ったと解釈するのは早計かと思われます。

したがいまして、この種の、エレガントでスマートでソフィスティケイテッドな
「格安店や量販店」
を排除するための、
販売「方法」面
での反競争チックな行為を考える際は、
「『それなりの合理性』がない対面販売の強制は独占禁止法に違反する可能性があるし、最高裁判決も、論理がめちゃくちゃでメーカー肩入れのトンデモ判決であり、いつ変更されてもおかしくない」
との前提で取引構築すべきと思われます。

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00298_「メーカーは、流通価格を制御できない」というルール(販売価格拘束の禁止)の意味と法的背景

かつて、
「定価」
というものが存在していましたが、最近は、すっかり聞かなくなりました。

変わって、
「メーカー希望小売価格」
「参考価格」
という言葉をみかけるようになりました。

これは、独禁法がきちんと意識されるようになり、独禁法違反行為と間違われる、紛らわしい言葉遣い(や、実際の紛らわしいビジネス慣行)が、コンプライアンス上改められるようになったからです。

自由で公正な競争状態を維持することによる健全な市場経済の発展を目的とする独占禁止法の理念からいうと、モノの値段というのは、市場参加者間のガチンコ競争で決まるものであり、特定の誰かが有無をいわさず一方的に値段を決めるのは反競争的ないし競争制限的であり、資本主義経済社会の根本前提である
「市場における自由競争」
の基盤を損ねる、実にケシカラン行為ということになります。

このような観点から、流通業者に一定の商品価格を順守させたり(価格拘束行為)、あるいは卸先のそのまた卸先の販売店の価格を拘束したり(再販売価格拘束行為)する行為は、独占禁止法上、違法とされています(一般指定12項)。

最近では露骨でドギツイ価格拘束行為こそ影を潜めましたが、価格拘束を守らない業者には取引量を制限したり値引きを拒んだり、あるいはきちんと守る業者だけにリベートを支払ったり、といったソフトな拘束行為は根強く残っています。

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00297_国内で特許取得されていなければ、海外の特許はパクリ放題

ある国で取得された特許権は、登録等を行って別途権利化の手続を取らない限り、他国では特許権としての効力が認められません(特許権における属地主義の原則)。

したがって、国内における登録をしていない、単に海外で登録されただけの特許権は、パクリ放題ということになります。

この点、米国特許法(271条(b)項及び283条)では、
「米国特許権を侵害する商品が米国外から輸入された場合、当該商品の輸出国での製造を差し止めることができる」
旨の規定があります。

かつて、米国特許権のみ行ない、日本には出願しなかった者が、米国特許権の技術範囲に属する日本の商品製造を差し止めるべく、
「オレの米国特許権を日本国内でパクるのはイカン! 米国特許法に基づき、日本国内での製造を差し止めよ!」
という訴訟を日本で提起したのですが、結果は、惨敗。

最高裁は、
「我が国においては、外国特許権について効力を認めるべき法律又は条約は存在しないから、米国特許権は、我が国の不法行為法によって保護される権利に該当しない。したがって、米国特許権の侵害に当たる行為が我が国においてされたとしても、かかる行為は我が国の法律上不法行為たり得ず」
という趣旨の判断をしています(2002<平成14>年9月26日判決)。

要するに、
「アメリカでどのような特許を取ったかもしれんが、所詮、よその“シマ”での話。こっちの“シマ”はこっちの“シマ”の掟でやらせてもらいまっせ」
という言い様です。

法律や裁判は、国家主権そのものであり、トップ同士が手打ちした暴力団の縄張り同様、
相手の「シマ」
に出張って、
「シマ」荒らし
することはご法度です。

それほど、日本でも特許権を主張したいのであれば、アメリカのみならず、日本でも特許を取得しておけばよかっただけであり、こういう基本的なところをサボっておいて、後から、キーキーギャーギャー騒ぐのは、あきまへん。

最高裁は、そういっているようです。

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00296_「世界万国で通用する国際特許権」などという代物は存在しない

飲み屋等でよく、
「ウチの特許は国際特許だぞ」
などということを自慢気に語る中小企業の社長さんがいらっしゃいますが、
「世界万国で通用する特許権」
などという代物は存在しません。

そもそも、特許権については当該権利が取得された国の領域内においてしかその効力が認められません。

すなわち、ある国で取得された特許権は、登録等を行って別途権利化の手続を取らない限り、他国では特許権としての効力が認められないのです(特許権における属地主義の原則)。

無論、ある特許を簡易な出願手続で、複数の国で出願した扱いにする便宜的な方法は存在しますが、これは出願についての仕組であり、最終的に特許権を取得するには、特許権を取りたい国ごとに登録等の手続を行わなければなりません。

さきほどの社長さんは、国際出願をしているというだけのことを大袈裟にいっているにすぎません。

本気で世界中の国で特許権を主張するのであれば、各国ごとに費用をかけて登録手続きをしなければならず、莫大な費用がかかることになります。

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00295_事件屋、反社会的勢力その他「品位も常識もない、法の不当利用者」であっても、裁判所が何の躊躇もなく勝訴判決を与える理由

一般社会においては、反社会的勢力その他、一定のレッテルを貼られると、あちこちで社会生活の妨害を受け、かなり窮屈な思いをします。

ところが、民事裁判においては、裁判所は、事件屋、反社会的勢力その他
「品位も常識もない、世間的には鼻つまみ者ともいうべき、法の不当利用者」
であっても、何の躊躇もなく勝訴判決を与え、他方で、そのような
「品位も常識もない、世間的には鼻つまみ者ともいうべき、法の不当利用者」
の被害者となった善良を絵に描いたような保護と救済に値するようなか弱き一般人を助けてくれない、ということが普通に起こります。

このように、
「法と正義の番人で、悪を倒すはずの裁判所」
が、ヤクザを助けて、カタギを苦しめる状況は、なんだか奇異な印象を受けます。

しかしながら、
「法は自らの権利保全に勤勉な人間を保護する」
という法諺があり、裁判所も、この原則を忠実に実現しようとします。

すなわち、
「パンチパーマで、剃り込み入ってて、ジャージ着てて、大きい声で、関西弁で、民事訴訟法や裁判実務をよく勉強し、ありとあらゆる手練手管を用いて、文書を徴収する」
ことを厭わない
「品位も常識もない、世間的には鼻つまみ者ともいうべき、法の積極的利用者」
こそが、
「自らの権利保全に勤勉な人間」
として民事裁判上保護すべき、ということになります。

逆に、法をあまり知らず、騙されて不利な文書に署名したりした善良な一般人は、可哀相といえば可哀相ですが、こういう人は、いってみれば
「ロクに文書を読まずにサインや押印をするようなだらしない人間」
なのであり、民事裁判を貫徹する本質的理念である自己責任の原則を徹底すれば、こんな
「 だらしない人間 」
など厳しい責任を課すこともやむを得ない、ということになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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