02062_企業法務ケーススタディ:テレビ局から取材依頼を受けたときの対応計画

<事例/アンケート>

テレビ局から、
「ある社会問題について、実態を調査する番組を企画している。公平性を見極め、当事者や関係する個人・企業から取材したい」
ということで、わが社に取材依頼がきました。

当時の担当者はすでに退職しておりますが、記録らしきものはあります。

取材を受けたとしても断ったとしても、変な憶測を招きかねないのではないかと心配しています。

どのように対応すればいいのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/アドバイス/指南>

対応について計画を立てるためには、次の1~6のフローに沿って、前提を整えることになります。

1 前提たる状況認識

5W2Hで事実を文書化する。

2 危機管理の方向性や相場観環境

「テレビ局が取材を申し込んできたその内容は、社会的にどのような認識や評価がされており、企業の立ち位置や見え方がどういうものになるのか」
について、一般の考え方とトップの考え方の両論が必要。

例えば、
「企業=優れた企業であり、社会に歓迎される存在」
という立ち位置をとるのか、
「企業=客の欲望を満たすためには多少やんちゃなこともやる、その意味で期待を裏切らない過激な集団」
という立ち位置をとるのかによって、方向性が変わる。

 目標の設定を

目指すべき未来図を立てる。

テレビ局が何らかの扱いをすることは既定路線だろうし、テレビ局という第三者の意思や行動を制御することは困難だが、企業側の努力によって、影響を与えられる可能性はある。

このことをふまえ、成功イメージとして
「テレビ局が、このような取り上げ方をしてくれれば、それでよし」
という目標を設定する。

 課題の把握

現状と
「テレビ局が、このような取り上げ方をしてくれれば、それでよし」
というゴールとその間に横たわる課題をすべて発見・抽出・特定する。

 課題への対応上の選択肢

発見・抽出・特定された課題を解決し、改善し、あるいは緩和し、転嫁するために、企業の努力で可能な方法論を、すべて出す。

各方法論においては、メリット・デメリット・カニバリ(自社の商品が自社の他の商品を侵食してしまう現象)を出すのは必須。

6 選択肢の採否判断

「結果にすべて責任を負う意思と能力のある人間」
が選択をする。

ゴールが達成できればいいが、うまくいかないとき・うまくいかなさそうなとき・完全に失敗したときは、
・試行錯誤
・ゲームチェンジ
・新たなプロジェクトの立ち上げ
の形で、最終的に、諦めるか、納得できるか、踏ん切りがつくまで、ゲームを続けていく。

テレビ局は回答を急かすでしょうが、1~6がなければ、対応について計画を立てることはおろか、弁護士による助言の前提が整いません。

本来、合理的な経営モデルを実装している会社なら、非常に簡単な前提整備でしょう。

仮に、この前提を整えるのが自力で無理なら、弁護士にこの事前整備を含めて依頼するといった形で、支援の前提を整えることとなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02061_企業法務ケーススタディ:裁判官は神様ですか?

法律の世界において、
・裁判官は、我々の味方でも相手の味方でもなく、コントロールできない「ジョーカー」のような存在です。
・裁判官は、事件に関し、独裁権力を有している状況ですが、他方で、上訴によってさらなる別の上位の独裁権力のレビューにさらされる可能性もあるため、孤独な独裁者としてのストレスを抱えています。
・裁判所との向き合い方は、情報が隔絶され、人的交流が築けない、上記のようなプロファイルを有する裁判官をカウンターパートとする外交ゲームだと考えることです。
・ゴマをするのが基本ですが、他方で、エレガントに威嚇し、駄々をこね、辟易させたりすることも必要です。
・こちらとしては、人格を多重・多層に設定し、裁判官にはこちらの真意を悟らせず、いくつかの情報の投げかけと、それに対する反応をみることによって、心証を読み取っていくことになります。

これが、法律の世界の環境です。

一般的な当事者は、“裁判官の選好を決定的に変えることのできる、唯一無二の選択”を信じ、絶対視し、追い求め、それにすがってひたすら祈り続けます。

そして、
「裁判官は神様であり、不興を被るとロクなことにはならない」
と考えます。

このような考え方も理解できますが、
「正解はなく、最善解しかない」
というのが、現実です。

さらに、注意しなければならないなのは、
・時間を巻き戻すことはできない
・たとえば、地裁での判決がくだされ、高裁に至ったのであれば、新たなストーリーやエピソードを後出しすることはできない
・選択肢においては、不可逆性を有するものがある
という点です。

企業法務に30年近く携わってきた筆者としては、自分たちの願いを叶えない、あるいは、叶えない可能性のある神様は、
「間違った神様」
だと認識し、こういう神様には、ただひたすら頭を下げたり平伏したりするだけではなく、場合によっては、適切なプレッシャーをかけ、強めの姿勢でこちらの主張・意図を押し出し、しっかりと存在感を示すことも必要だと考えます。

要するに、神様をむやみやたらに恐れることはせず、むしろ、冷静かつ丁寧に、腰を据えて毅然とした態度で
「あんじょうたのんまっせ。わかってますな」
と、こちらの期待をそれとなく伝えることを厭わない、ということです。

弁護士は、クライアントの選択の幅が広がる方向で、交渉リタラシーを駆使し、想定を巡らせ、選択肢を増やすことがその役割ですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02060_企業法務ケーススタディ:穏便な退職交渉の現実と選択肢その2

<事例/質問>

40代の男性社員を退職させたいと考えています。

たとえば、
「子会社を解散させることで整理解雇を行い、結果として男性社員を退職させる」
という案については、どうでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

質問者は、男性社員を退職させたいあまり、正常性バイアスに陥り、事案の本質やその重要性を見誤っている可能性があります。

弁護士として、ただ裁判例を紹介するだけでなく、質問者が現実的なリスクや倫理的な問題点を認識できるように、過激な視点や反対意見を含む具体的な情報や参考資料を提供します。

たとえば、以下の情報を参照してください。

それでも質問者がリスクを正しく理解せず、議論が公正に進まない場合には、厳しい口調で強く警告することになります。

労働紛争においては、企業側が勝訴する確率が非常に低く、その点を十分に理解していない企業は少なくありません。

裁判に発展すれば、長期にわたり、コストやエネルギーを大量に消費する上、最善解が見つかる可能性は低くなります。

さらに、裁判の進行に伴い、論点が変容することもあり、選択肢を何度も見直す必要が出てきます。

そのため、繰り返し議論を重ねることになりますが、もし質問者がリスクを正しく理解しないようであれば、弁護士としては警告や助言を繰り返すしかありません。

最終的には質問者自身が選択を行い、その選択の結果について責任を負うことになります。

厳しいようですが、それが現実なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02059_企業法務ケーススタディ:穏便な退職交渉の現実と選択肢その1

<事例/質問>

40代の男性社員を、できるだけハレーションを起こさずに離職させたいと考えています。

「穏便に話し合いで解決できる可能性がゼロではない」
とは思うので、妥協点を探ることを目標にし、交渉が不調に終われば別の形で目標を再検討したいです。

初めから攻撃的な態度を取ってしまうと、相手を刺激して戦闘的な姿勢にさせてしまうかもしれません。

あくまでも、穏便に離職してもらいたいと願っているのです。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

穏便な話し合いでの解決が理想であることは理解しますが、現実はそれほど甘くはありません。

相手がすぐに退職を受け入れるとは限らず、むしろ強い抵抗に遭う可能性が高いです。

1)前提たる状況認識

質問者は、
「話し合いによる妥協の余地がまだ残されている」
と考えているようですが、現実はそれほど単純ではありません。

当該男性社員が転職先を見つけていない場合、妥協点を見出すこと自体が難しいです。

事実認識や問題の捉え方自体に誤りがある可能性が否定できません。

2)プロジェクトの方向性

穏やかに話せば、相手が法律や弁護士、裁判を持ち出さずに納得するだろうと想定しているかもしれませんが、
「辞めてくれ」
と切り出した瞬間に、彼我の認識差が浮き彫りになり、交渉が行き詰まる可能性が高まります。

紛争の典型的な実例を見ても、そうしたプロセスを辿る可能性は大いにあります。

現実的な相場観や経験に基づいた判断ができていない可能性もあるでしょう。

3)目標の設定

「妥協点を探ることを目標にし、交渉が不調に終われば別の形で目標を再検討したい」
ということですが、男性社員の状況を事実として把握していますか?

男性社員が転職先を見つけられない限り、妥協点が形成される可能性は低く、交渉が決裂するリスクが高いです。

交渉が破談した瞬間、法も裁判もすべて相手方に有利に働き、会社側が孤立無援の状況に陥る可能性があります。

質問者の目標設定には、敗北を招くリスクが含まれていることを否定できません。

4)課題の把握

質問者は
「相手と普通に向き合えば、話し合いが可能であり、能力が低い者は解雇されても当然で、整理解雇などの方法が有効に作用する」
と考えているかもしれません。

しかし、現実には解雇は容易ではなく、現代の労務紛争においては、採用は自由である一方、解雇は非常に難しいというゲーム環境が存在しています。

整理解雇などの手法も、裁判所からは
「卑劣で幼稚な策略」
として見られる可能性があり、問題の解決には慎重な対応が必要です。

5)対応策の選択肢

「ビジネスマンとして、非常識な手段は避けるべきだ」
という考え方は理解できますが、現実には相手があらゆる手段を駆使して抵抗することが予想されます。

「一労働者の人生を破壊するような事案」
である以上、真剣に総力戦を覚悟する必要があります。

「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
を含めた戦略を考慮し、慎重に検討することが求められます。

6)選択肢の判断

質問者のいう
「最初は温和で合理的な方法を試し、それでダメなら過激な手段を検討する」
というアプローチも考えられましょうが、それでは対応が後手に回り、戦線が長期化する恐れがあります。

たとえば、相手方の不正行為に基づく強硬な責任追及を後出しで行うと、信ぴょう性が疑われる可能性があります。

全体として、
「ビジネスマンとしての品位やエレガンス」
に囚われるあまり、戦略的な判断が歪められている可能性があります。

質問者は
「話し合いができるし、話し合いが破綻してから戦闘準備をしても間に合う」
と考えているようですが、交渉決裂後に過去の不正行為を暴露するなどの強硬策は、法的に無効とされるリスクが高いです。

話し合いを質問者側から持ちかけるのではなく、相手に
「話し合いをお願いしたい」
と言わせることが戦略としては有効です。

例えが適切ではありませんが、相手が見ている前で、ブレーキの効かない車を坂の下の家に向かわせて、
「話し合いがしたい」
と言わせるような交渉モデルです。

初動を誤ると、最後まで不利な戦いを強いられることになります。

コメントとするならば、
「40代の男性社員を、ハレーションをなるべく起こさずに離職させたい」
という目標自体が、そもそも可能かどうか、慎重に検討すべきでしょう。

あえて厳しい言い方をすれば、
「転職先なしで、40代のオッサンがクビになる」
ということは
「死ね」
と同じ意味です。

「静かに自殺してくれ」
と言われて
「おおせのとおりに」
と応じる人は、ほとんどいないでしょう。

相手が抵抗し、あらゆる手段を駆使して抗戦することは容易に想像できます。

法は、そのような
「権利や立場に執着し、保持や実現に向けて努力する」
労働者に味方します。

結果として、
「40代の男性社員を、ハレーションをなるべく起こさずに離職させたい」
という目標を追求するには、上品に失敗するか、下品に成功するかという2つの大きな選択肢があるように思われます。

その中間の選択肢をとることで、中途半端に失敗するリスクもあることを理解しておくべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02058_融資に備えての事前準備

企業が融資の話を受ける際、迅速かつ的確に対応するためには、事前に必要な情報を整理し、準備を整えておくことが重要です。

これには、IM(インフォメモ)やIP(インフォパック)と呼ばれる資料の準備が含まれます。

これらの資料は、M&Aの際に売却予定の企業の重要情報を整理するもので、買収を検討する企業が次のステップに進むかどうかを判断するための重要な資料です。

IPは、M&Aだけでなく、融資の際や特定調停の話し合い、さらには各種ファイナンスディールにも活用できる多用途なものです。

いわば、お見合いにおける
「お見合い写真」

「釣り書」
に相当するものです。

例えば、良い縁談が舞い込んだときに、後からダイエットやエステ、写真館での撮影を始めていては、時間がかかり過ぎてせっかくのチャンスを逃してしまいます。

戦略的に良縁を手に入れるためには、事前の準備が欠かせません。

企業の場合も同様で、以下のような情報をあらかじめ整理しておくことが必要です。

1)会社の定款
2)会社案内
3)製品やサービスのパンフレット
4)ビジネスモデルをわかりやすく説明したテキスト
5)3~5年分の財務諸表
6)3~5年分の税務報告
7)過去12~36ヶ月の月次財務諸表
8)会社組織図、子会社や関係会社一覧
9)主要取引契約書
10)会社沿革
11)株主名簿
12)社員名簿(主要代理店や加盟店責任者の職歴書、職務規定を含む)
13)製品とサービスの売上・利益・販売先等の情報
14)稼働している代理店や出先サービス店舗のリスト
15)経営計画(中期計画や年度計画)
16)部門別計画書
17)業界の状況や、企業の強み・弱み・立ち位置を客観的に記述したレポート

これら情報は、企業の状況や将来計画を明確に示すための
「備え」
として、常に最新の状態に保つことが求められます。

これにより、突然の機会にも迅速に対応でき、ビジネスチャンスを逃さないようにすることが可能になります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02057_弁護士チェック依頼における設計図の重要性とコスト選択

弁護士の関与割合と相談者の経済的な負担は、トレードオフの関係にあります。弁護士としては、まず方向性を確認し、見積もりを設計することになります。

A 基本的なプロジェクト設計と最終仕上がりチェックのみを弁護士が担当し、実行を相談者が行う。
この場合、相談者の時間と労力の負担は増しますが、費用は比較的低く抑えられます。

B プロジェクト設計、実施、レビュー、ファイナライズの全てを弁護士が担当し、相談者はプロジェクト設計や施行の過程で浮上する選択肢をジャッジし、仕上がりを確認するだけでよくなります。
この場合、相談者の時間や労力負担は軽減されますが、費用は高くなります。

「こちらで文章を書きますので、そのチェックを弁護士の目から見てアドバイスがほしい」
というリクエストに対しては、
「チェック」
の意味を定義することから案件を進める必要があります。

「チェック」
の定義については次の2つがあります。

(1)設計図があるので、その設計図どおりに施工がなされているかを監理してもらいたい。
(2)設計図はなく、その作成も考えていないので、適当に何か形にしたものを作ってみるので、その感想やコメントをもらいたい。

もし(1)のまともな依頼要請であれば、前提として
「設計図」
すなわち課題対処上の方針を含めたプロジェクト設計図を相談者側で準備する必要があります。

この種の文書対応には次の5段階があります。

(A)状況と自身を取り巻く環境を理解し、課題もアプローチも把握し、うまく表現する術も持っている。
(B)状況と環境を理解し、課題もアプローチも把握しているが、うまく表現する術がない。
(C)状況と環境を理解し、課題も把握しているが、アプローチがわからない。
(D)状況と環境は理解しているが、課題がよくわかっていない。
(E)状況と環境を理解しているつもりだが、社会的観点や客観的認識が不得手で、独善的で混乱している。

たとえば、前述の
「(1)設計図があるので、その設計図どおりに施工がなされているかを監理してもらいたい」

「2日間という短期間で、弁護士に軽負荷(=低コスト)で立証のみ求める」
というオーダーであれば、相談者が(A)のレベルを十全に備えていることが前提です。

(A)のレベルを備えているなら、以下のようなプロジェクト設計図があるはずです。

(a)前提たる状況認識:事実をバイアスなく掌握している。
(b)危機管理の方向性や相場観、環境把握:問題の認識や評価を行い、相談者の立ち位置や見え方を把握している。
(c)目標の設定:具体的な未来図や目標を設定している。
(d)課題の把握抽出:現状とゴールの間にある課題をすべて発見・抽出・特定している。(e)課題への対応上の選択肢抽出:文書を作成する上での方向性を意識し、自己努力で可能な方法論をすべて出している。各方法論のメリット・デメリットやカニバリ(共食い)の有無も考慮している。
(f)選択肢の採否判断:以上の選択肢を基に、結果に責任を負う意思と能力のある人間を選択している。

「正解はなく、最善解しかない」
という状況においては、試行錯誤し、選択を行い、状況を観察するしかありません。

うまく行けばゴールに達しますが、失敗した場合は試行錯誤、ゲームチェンジ、新たなプロジェクトの立ち上げなどを行い、最終的に、諦めるか納得するまで続けます。

以上のような設計図がない場合は、弁護士としては、
「(2)設計図はなく、適当に形にしたものを作ってみるので、その感想やコメントをもらいたい」
という趣旨と理解し、
「こちらで文章を書きますので、そのチェックを弁護士の目から見てアドバイスがほしい」
という相談者のリクエストには、“駄目出し”を行うことになります。

しかし、“駄目出し”といっても、カウンターパートの思考や基準点に立ち、思考実験を行うことで、相談者が新たな情報を得て知的向上が図れるので、その限りにおいては意味がある、といえましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02056_法律トラブル解決のための事実経緯とりまとめの重要性

契約違反や不法行為、規制違反などで法律相談を受けた場合、弁護士は、相談者の意向を踏まえ、裁判外での解決を図るための交渉環境を整備します。

具体的には、相手に対して攻撃的な質問を行い、後の法的手続きで相手に不利な事実を引き出す戦略が取れるかどうかを慎重に検証します。

この検証には、厳密な証拠までは要求されないものの、少なくとも事実関係の確定が必要です。

特に、事態を迅速に進展させたい場合は、なおさら事実経緯の整理が重要となります。

事実を確認せずに感情的に主張しても、相手に対して効果がないだけではなく、逆にトラブルを悪化させるだけです。

法律的な主張を成立させるには、論理の流れが必要です。法律実務においては、次のような三段論法が基本です。

1 事実がある
2 その事実がルールに反する
3 その結果、法的に非難されるべきであり、ペナルティが適用される

このように、すべての主張は事実に基づかなければなりません。

たとえ事実が存在しても、この論法の起点となる事実が曖昧なままであれば、法律上の主張は成立しません。

事実が曖昧であったり、頭の中にあるだけで整理されていなければ、主張自体が無効になるということです。

事実を明確にアウトプットしない限り、事実が存在しないのと同じことになるのです。

この事実確認のプロセスを省略して感情的に相手を非難するだけでは、子どもが
「お前の母ちゃんでべそ!」
と言っているのと変わりません。

事実経緯の整理には、5W2H(Who, What, When, Where, Why, How, and How Much)を明確にすることが求められます。

事実経緯を5W2Hに基づいて整理することは確かに手間で面倒ですが、これを怠れば、法は一切助けてくれません。

例えば、
「2週間前の昼食を誰とどこで、何を食べ、いくら払ったか」
を思い出すような作業は煩わしいものです。

しかし、事実の喚起と文章化(テキスト化)のプロセスを経なければ、事案は一歩も前進しませんし、無意味な綺麗事を並べた感情的な言い分だけでは、裁判所で
「何が事実で、どのように法律が適用されるのか」
が不明瞭になります。

結果的に、法律実務の世界では
「黙ってろ」

「泣き寝入りしろ」
という厳しい現実が待っています。

不愉快で困難な状況であっても、その現実を理解し、その理解の上に早急に行動するしかないのです。

法的な問題を解決するためには、事実経緯がいかに役立ち、今後どのように活用されるのかを理解し、相談者と弁護士が共有できるかどうかが、今後の活動の成否を左右すると言っても過言ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02055_企業法務ケーススタディ:利益相反に直面した弁護士の選択

<事例/質問>

大手食品グループの○○社の中で、とても大切な役割を担っていた●●社が、
「自分たちでやっていく」
と言って、○○社から離れることを決めました。

○○社は
「●●社がいなくなると、グループ全体の結束が乱れてしまう」
と心配しています。

そのため、何とかして●●社が離れないようにしたいと考えています。

さて、これまで○○社からの依頼で●●社が困ったときに手助けをしてきた弁護士は、今では●●社とも契約を結んでおり、両方の会社をサポートしています。

このような状況で、弁護士が○○社を助けて●●社の離脱を止めることはできるのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

弁護士は、これまで○○社の要請に応じて●●社が抱える法的問題の解決を支援してきましたが、現在は●●社とも顧問契約を結んでいます。

このような状況では、弁護士職務基本規程に基づく
「利益相反禁止」(弁護士職務基本規程 第25条)
が適用されます。

依頼者間に利益相反が生じる場合、弁護士は一方の依頼者の利益を損なう可能性があるため、双方の関与が禁止されています。

また、仮に●●社との顧問契約を解除したとしても、過去に●●社に対して行った業務が影響するため、
「継続的利益相反」(弁護士職務基本規程 第27条)
が問題となります。

過去の依頼者との関係でも利益相反が生じる可能性があるため、完全な中立を保つことが難しいのです。

この
「継続的利益相反」
の規定により、弁護士は過去の関与があった依頼者との関係でも、新たな依頼を受ける際に慎重な対応が求められます。

結果として、法と倫理を重んじ責務を全うする弁護士としては、○○社と●●社のどちらにも助言を行わず、
「好意的中立」
という立場を取ることが唯一の選択肢となります。

この
「好意的中立」
とは、依頼者のいずれか一方に肩入れせず、公正かつ公平な対応を維持する姿勢を意味します。

具体的には、要請があれば、弁護士は必要に応じて、利害が独立した他の弁護士を紹介することになります。

以上は、あくまで、○○社が●●社に対して喧嘩をする、という前提においてです。

もし、両者が、和解交渉をしたい、という要望があり、そのコミュニケーションサポートをする、ということであれば、弁護士が
「どちらにも加担せず、どちらにもメリットのある和解交渉の行司役・調停者」
として行動することは、●●社の了解を得る前提で、可能です。

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02054_内容証明郵便が届いたときの対処

内容証明郵便など、この種の通知が届いた場合、相手のペースに乗せられないことが重要です。

まず、土俵に上がらないことが大切です。

土俵に上る前に、リングにケチをつけて無効試合だと騒ぎ、場外乱闘を始めることが肝要です。

また、時間的に切迫した状況に追い込まれた場合でも、慌てず、時間的な余裕を確保する方策を考える必要があります。

焦ると、人間はアホになってしまうからです。

たとえ弁護士であっても、
「あと3時間で地球が滅びる」
と言われたら、自分を制御できず、どんなバカことをしでかすか、わかりません。

それほどまでに、切迫感と時間的余裕が人間の理性に与える影響は大きいのです。

時間的余裕を失うと、どんなに理性的な人でも、愚かになって、最悪の状況に陥る可能性があります。

相手が
「焦れ」
と言ってきたら、こちらは
「のんびりやろうぜ」
と切り返す。

これが交渉の基本です。

事件への対処方針は別途、優先順位を整理し、資源の配分と動員を設計する必要がありますが、内容証明郵便などについては、ひとまず応急処置として書面を出すことで対処できます。

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02053_機密漏洩_その2

競業と機密漏洩は、法的議論において異なるフェーズとして扱われるべき問題です。

たとえば、■■社が始めたビジネスが、▲▲社の競合として軌道に乗っている場合を考えてみましょう。

▲▲社としては、■■社のビジネスが機密漏洩によるものとしか思えないほど極似していると主張しても、それが必ずしも機密漏洩を伴うとは限りません。

裁判所に訴え出ても、この点を■■社側の弁護士が
「たとえ競業が行われていても、それが必ずしも機密漏洩を伴うとは限らない」
と主張することは十分に考えられます。

具体的には、
「関連会社である□□社は、■■社に対して機密を積極的に漏洩した事実はなく、単に資金やデータ、プログラムを提供しただけである」
といった主張が考えられます。

さらに、□□社が様々なクライアントと取引するのは通常の業務であり、その中で■■社も他の顧客と同様に公平に扱っているという見解です。

このような主張に対して、▲▲社側がもし機密漏洩があったと主張するなら、その証拠を具体的に示す必要があるでしょう。

こうした法的交渉や裁判では、非常識に見える主張であっても容認される場合があります。

反論が不十分であれば、逆に主張した側が無責任な攻撃を行ったと見なされる可能性もあります。

要するに、非常識ながら法的に認められる手法も存在し得るのです。

そのような手法に対するカウンターロジックを構築することは可能ですが、最終的に裁判で勝訴しない限り、▲▲社の不利な状況は解消されません。

その間、▲▲社に対して支払いが停止されたり、時間と資金面での困難に直面することがあります。

このように、法的な攻撃においては、理論や理由だけでなく、時間と資源の管理も重要な要素となります。

そしてもう1点。

▲▲社側が法律相談をした弁護士から受けた助言、
「訴訟提起は何とか可能だが、勝ち切るのは難しいと考えられる」
という点を、▲▲社としてどう評価するか、ということです。

「勝たなくてもいいし、■■社に負荷をかけて牽制すればいい」
というのであれば、副次的な効果を期待して、戦略上、その作戦に取り組む価値があると考えられます。

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