02231_ケーススタディ:「買った相手が消滅した?」 瑕疵担保責任の“鎖”が切れるとき、売主が得る“法的免責”の果実

「事業を売却した後、設備に不備が見つかったらどうしよう・・・」 

M&Aや事業譲渡、不動産取引において、売却後の
「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」
は、売り手経営者にとっての重い十字架です。

何年も経ってから、
「話が違う」
「欠陥がある」
と損害賠償を請求されるリスクがあるからです。

しかし、もしその十字架を背負わせるべき相手、つまり
「買主」
が、忽然とこの世から消えてしまったとしたら?

「権利の鎖」
は、繋がっていて初めて意味を成します。

真ん中のリングが外れれば、その先の重りは落ちてしまうのです。

本記事では、SPC(特別目的会社)が介在するプロジェクト取引において、買主が清算結了(法人消滅)したという事実がもたらす、売り手にとっての
「偶発的な免責」
のロジックと、その際に踏むべき
「賢いクロージング作戦」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 買主(法人)が消滅すると、なぜ転売先からの追求が止まるのか
• 「債権者代位権」を行使させないための「死人に口なし」のロジック
• 高額な弁護士費用をかけずに、安全に会社をたたむための記録術

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社オリオン・パワー・ディベロップメント 専務取締役 葛城 健二(かつらぎ けんじ) 
業種 : 再生可能エネルギー発電所開発・販売
相手方: アクア・ホライズン・キャピタル(買主・SPC)、ステラ・トラスト信託銀行(最終権利者)

【相談内容】 

先生、朗報です! 

先日ご相談した、当社が開発・売却した太陽光発電プロジェクトの件ですが、なんと、買主であったSPC(アクア・ホライズン・キャピタル)が、先月末にすでに清算結了(法的に消滅)していることが判明しました! 

これ、ものすごく大きな意味を持ちますよね?

1 最終的な所有者である「ステラ・トラスト」などの投資家は、通常なら買主(アクア社)の権利を使って(代位して)、当社に設備の不備などの責任追求をしてくるところですが、その「アクア社」が消滅している以上、代位しようがありません。 

2 残るは信託銀行との直接契約ですが、契約書を皿のようにして読み返しても、「売主は買主に責任を負う」とは書いてあっても、「当初売主(当社)が最終受託者(信託銀行)に直接責任を負う」とは書いていません。

つまり、当社がこのまま解散・結了してしまえば、買主も売主もこの世から消え、最終投資家も誰にも文句を言えない状況になるはずです。 

「買主不在」
という事実により、役員や清算人が
「過失」
を問われるリスクも消えました。

高額な弁護士意見書(Fairly Legal Opinion)なんて取らなくても、このままサクッと会社をたたんでしまって問題ないですよね?

「権利の鎖」は真ん中が切れたら繋がらない

葛城専務、鋭いですね。

その読み通りです。 

法律の世界では、権利関係は
「鎖」
のようなものです。

通常、最終的な転売先(C:ステラ・トラスト)は、直接の契約関係がない売主(A:御社)に対して文句を言うために、間に挟まった買主(B:アクア社)がAに対して持っている権利を
「代位(代わりに使う)」
することで、Aを攻めることができます(C→代位→B→請求→A)。

しかし、真ん中のB(アクア社)が清算結了して法人格を失ったということは、この世に存在しない
「死者」
になったということです。

死者は権利を持ちません。 

したがって、Cが代位するための
「足場」
そのものが消滅したことになります。

「死人に口なし、死人に権利なし」。

これが今回の勝因です。

契約書に「書いていない責任」は負わない

信託契約書についても、ご指摘の通りです。 

ビジネス契約、特に金融機関やファンドが絡むプロ同士の契約では、
「書いていないこと」

「合意していないこと」
です。

「なんとなく製造者として責任を取るべきだ」
という道徳論は通用しません。

契約書に
「受託者に直接責任を負う」
という文言がない以上、そこから矢が飛んでくることはありません。

誰もいないリングで防御姿勢をとる必要はない

本来、瑕疵担保責任(契約不適合責任)のリスクを残したまま会社を解散するのは、清算人の責任問題になりかねないリスク行為です。 

しかし、今回は
「請求してくるはずの相手」
が先に消えてしまいました。

これは、
「対戦相手がいないリングに、一人で上がり続ける」
ようなものです。

相手がいない以上、パンチが飛んでくることは物理的にあり得ません。 

この状況で
「ゴングが鳴るまで待とう(時効まで会社を残そう)」
というのは、臆病を通り越して、経済合理性を欠く判断と言えるでしょう。

【今回の相談者・葛城専務への処方箋】

葛城専務、結論を申し上げます。 

「勝ち戦です。粛々と店じまい(清算)を進めましょう」

1 「アリバイ」を議事録に残す 

理屈は通っていますが、念には念を入れましょう。 

万が一、後から誰かが
「なんでそんなに急いで解散したんだ! 責任逃れだ!」
と難癖をつけてきたときのために、
「清算人の報告」
という形で、防御壁を作っておきます。

具体的には、清算結了決議の株主総会議事録に、以下のロジックを少しオフィシャルな表現で記載しておくのです。 

「調査の結果、買主法人は既に清算結了しており、当社に対する債権債務関係は存在しないことが確認された。また、関連契約においても、当社が直接の責めを負うべき残存債務は確認されない。したがって、清算を結了することに法的支障はないと判断する」

2 意見書(Opinion)代の節約

 当初予定していた、高額な弁護士による
「問題ないですよ」
というお墨付き(リーガルオピニオン)は、もはや不要です。

 「相手がいない」
という事実が、最強のオピニオンです。

その予算は、最後の打ち上げ代にでも回してください。

3 結論: 

買主がSPC(特別目的会社)だったことが幸いしましたね。 

彼らはプロジェクトが終われば消える
「使い捨てカメラ」
のような存在です。

今回は、相手が勝手に消えてくれたおかげで、御社は無傷で戦場を去ることができます。

 堂々と、しかし迅速に、幕を引きましょう。

※本記事は、特定の契約関係および事実関係(買主の清算結了等)を前提とした戦略的判断の一例です。 
個別の事案における責任の有無や清算人の善管注意義務については、具体的な契約条項や事実経過により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02230_ケーススタディ:「確認書」を「申込書」に変えるだけで回収リスクが激減? 眠っていた書式を最強の武器にする“3つの改造”

「社内のサーバーに、2年前に作ったけれど一度も使っていない『取引確認書』のフォーマットがあるんですが、今回の大型案件でこれを使ってもいいですか?」

こんな相談を受けたとき、多くの経営者は
「あるなら使えばいいじゃないか」
と軽く考えがちです。

しかし、ちょっと待ってください。

その
「眠っていた文書」、
そのまま使うと錆びついたナイフのように、いざという時に折れてしまうかもしれません。

特に、相手が海外企業や新規取引先の場合、生ぬるい
「確認書」
では、代金回収やコンプライアンスのリスクをカバーしきれない恐れがあります。

本記事では、社内で埃を被っていた
「確認書」
を、リスク管理の観点から
「申込書」
へと進化させ、相手を法的にガッチリとグリップするための
「文書改造術」
について解説します。

【この記事でわかること】

• なぜ「確認書」ではなく「申込書」にするだけで立場が変わるのか
• 未払いを防ぐための「人質(保証金)」条項の入れ方
• 法的トラブルの地雷を相手に踏ませる「責任転嫁」のテクニック

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ゼニス・クリエイション 営業本部長 富樫 健二(とがし けんじ) 
業種 : イベント企画・空間プロデュース業
相手方: グロリア・インポート社(海外高級家具の輸入専門商社)

【相談内容】 

先生、お世話になります。 

この度、海外の高級家具を扱うグロリア・インポート社から、新作発表のための大規模な展示イベントのプロデュースを総額1500万円で受注することが決まりました。 

相手は実績のある商社で、与信調査の結果も問題ありません。

そこで契約手続きなのですが、
「基本取引契約書」
に加えて、個別の発注内容を固めるために
「イベント業務確認書」
という書類を交わそうと思っています。

ただ、この
「確認書」、
2年ほど前に法務担当者が作ったものの、現場では面倒がられて一度も使われたことがありません。

せっかく作ったので、この機会に正式な書式として運用したいのですが、このまま使って問題ないでしょうか? 

記載内容についてご助言をいただけますでしょうか。

「確認書」は“お互い様”、「申込書」は“頼んだのはお前だ”

富樫本部長、2年も眠っていた
「確認書」、
そのまま使ってはただの紙切れ同然になりかねません。

まず、タイトルの
「確認書」
を、
「イベント業務申込書」
に変えましょう。

これは単なる言葉遊びではありません。 

「確認書」
は、
「お互いに内容を確認しましたよ」
という対等でニュートラルなニュアンスを持ちます。

 一方、
「申込書」
は、
「顧客(クライアント)が、御社(プロデューサー)に対して、仕事を『申し込みます』」
という、顧客側からの能動的な意思表示の文書になります。

ビジネスの主導権を握るため、そして万が一トラブルになった際に
「頼んだのはそっちだろ(だから金も払え)」
という構図を明確にするために、文書の性質を根本から変えるのです。

「カネ」を人質に取る ~保証金条項の挿入~

1500万円という巨額の取引です。

いくら与信があるとはいえ、海外製品を扱う商売は水物です。

転ばぬ先の杖は必要です。 

そこで、この申込書に
「保証金(デポジット)」
に関する条項をガッツリ入れ込みましょう。

具体的には、 
「申込時に、保証金として総額の〇〇%(例えば30%など)を支払うこと」
「何月何日までに、指定口座に着金させること」
を明記します。

そして、ここが重要ですが、 
「保証金を期限内に支払わなければ、イベント準備作業には着手しない。その結果、開催日に間に合わなくても、それは金払いの悪いそっちの自己責任だ(御社は免責される)」
という趣旨の、かなりキツイ一文を入れておくのです。

これで、
「カネの見込みがない仕事で汗をかき、結局タダ働きになる」
という最悪の事態を防げます。

「地雷」は相手に踏ませる ~コンプライアンス調査義務の転嫁~

イベントや広告の世界には、使用する音楽や映像の著作権、あるいは展示内容に関する法的規制といった
「地雷」
が埋まっています。

これを御社がすべてチェックするのは荷が重すぎますし、コストもかかります。

そこで、申込書には以下の条項を追加し、リスクを遮断します。

• 調査はクライアントの責任: 展示物の権利関係や関連法規への適合性調査は、すべてクライアント(グロリア社)の責任で行い、御社は調査義務を負わない。
• 不適合時の対応: もし内容が法令に抵触した場合、あるいは会場側の事情で実施できない場合、御社は内容の変更を要求でき、相手が応じなければ中止できる。
• カネはもらう: たとえ中止になったとしても、御社は準備にかかった費用および所定の報酬全額を受領できる。

【今回の相談者・富樫本部長への処方箋】

富樫本部長、結論を申し上げます。 

「2年前の『古文書』を、現代のビジネス戦を生き抜く『最新兵器』にリニューアルしましょう」

1 「確認」から「申込」への意識改革 

単に
「確認しました」
という生ぬるい文書ではなく、
「私が申し込みます、条件はすべて飲みます」
という言質を取る
「申込書」形式
にすることで、心理的にも法的に相手を強く拘束します。

2 「カネ」と「コンプラ」のリスク遮断 

イベントプロデュースにとっての二大リスクである
「未払い」

「法的トラブル」
を、この申込書一枚で相手方に転嫁・遮断します。

「保証金が入らなければ動かない」
「法に触れる企画を持ち込んでも、金はもらうし、イベントは止める」
という強気なスタンスを、契約の入り口で明確にしておくのです。

3 結論: 

2年間眠っていたその文書は、使いようによっては御社を守る最強の盾となり、相手から確実に回収を行うための矛となります。 

ぜひ、この
「改造版」
を使用して、安全にビッグプロジェクトを成功させてください。

※本記事は、具体的な相談事例に基づき、契約書の条項修正やリスク管理の手法を解説したものです。 
個別の契約交渉や法的リスクの評価については、具体的な取引内容や相手方との関係性、適用される法令により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02229_ケーススタディ:「大手だから変な契約書は出さない」は命取り? 契約書の“数字”より100倍重要な“仕事の定義”

「相手はあの大手広告代理店だ。変なことはしないだろう」 
「契約書のドラフトも向こうが出してきたし、遅延損害金の利率くらいチェックしておけばいいか」

新しいビッグ・ビジネスの予感に胸を躍らせ、契約書のチェックが単なる
「儀式」
になっていませんか?

特に、目に見えない
「サービス(役務)」
を提供する取引において、相手のネームバリューを信じて契約書を鵜呑みにするのは、
「目隠しをして高速道路を横断する」
ようなものです。

後になって
「これもやってくれると思っていた」
「クオリティが低い」
と泥沼の争いになるのは、往々にして契約書の
「数字」
ではなく
「中身」
の不備が原因です。

本記事では、大手企業から提示された
「標準的な契約書」
に潜む罠と、遅延損害金や期間よりも圧倒的に重要な
「仕事の定義(SOW:Statement Of Work)」
について、弁護士の視点から解説します。

【この記事でわかること】

• 「モノの売買」と「サービスの提供」で全く異なる契約のリスク
• 「別途協議する」という条文が招く“ちゃぶ台返し”の恐怖
• トラブルを防ぐ最強の盾「SOW(Statement of Work:作業範囲記述書)」の作り方

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ヴァンテージ・ロジック 営業本部長 大西 進(おおにし すすむ) 
業種 : ITソリューション・コンサルティング
相手方: 株式会社タイタン・エージェンシー(業界最大手広告代理店グループ)

【相談内容】 

先生、いつもお世話になっております。 

この度、業界最大手の
「タイタン・エージェンシー」
と、新規の広告コンサルティング取引を行うことになりました。

先方から
「基本取引契約書」
のドラフトが送られてきたのですが、法的に問題がないか見ていただけますか?

私が見たところ、
・検収は30日以内
・遅延損害金は年利6%
・契約期間は1年ごとの自動更新
・管轄裁判所は東京地裁
といった条件で、ごく標準的な内容かなと考えています。

相手は大企業ですし、変な契約書は出してこないと思うので、このままハンコを押して進めてもよろしいでしょうか?

「モノ」と「サービス」は、ルールが全く違う別競技

大西本部長、形式的な数字のチェックは完璧です。 

しかし、肝心な視点が抜け落ちています。 

今回の取引は、ネジやパソコンといった
「モノ」
の売買ではなく、コンサルティングや制作といった
「サービス(役務)」
の提供ですよね?

「モノ」
なら、不良品かどうかは一目瞭然です。

しかし、
「サービス」
は目に見えません。

「私の思った通りのクオリティではない」
「ここまではやってくれると思っていた(やってくれるはずだ)」
という、
「主観のズレ」
が、後々、最大の火種になります。

契約書で数字だけを見て安心するのは危険です。

契約書に「何をするか」が書かれていない恐怖

提示された契約書は
「標準的」
に見えますが、おそらく
「具体的業務内容」
については
「別途仕様書で定める」
あるいは
「都度協議する」
となっているのではありませんか?

これは、
「料理の内容も値段も決めずに、高級レストランで『お任せ』で注文する」
のと同じです。

大手企業であればあるほど、現場担当者はジョブローテーションで変わります。 

「前の担当者は『いい感じでやって』と言っていたのに、新しい担当者は『契約書に書いてないことは金払わん』と言い出す」 
そんな
「ちゃぶ台返し」
が起きたとき、業務内容が曖昧な契約書は御社を守ってくれません。

「信頼関係」という名の幻想を捨てよ

「相手は大手だから、無茶なことはしないだろう」
という正常性バイアスが働いていませんか?

ビジネスの世界において、契約書に書いていないことは
「何をやっても自由」
というのが原則です。

「大手だから」
ではなく、
「大手だからこそ」、
契約書に書かれていない業務(サービス残業的な修正作業など)を平然と要求してくる可能性も否定できません。

それは彼らにとっての
「常識(=下請けは黙って従うもの)」
だからです。

【今回の相談者・大西本部長への処方箋】

大西本部長、選択肢は2つです。

「仕事の定義をガチガチに固める」
か、
「性善説に賭けて丸投げに乗る」
かです。

1 トラブルを完全に防ぎたいなら、「仕様」を握れ 

もし、後で
「言った言わない」
「クオリティが低い」
といった泥仕合を避けたいのであれば、契約書の条文修正よりも、
「SOW(Statement of Work:作業範囲記述書)」
の作成に全力を注ぐべきです。

 「何を、いつまでに、どのような品質で、どこまでやるか(そして、何はやらないか)」
を、小学生でもわかるレベルで言語化し、契約書の一部として合意するのです。

これができて初めて、契約書は御社を守る
「盾」
になります。

2 「大人の関係」で波風立てずに進めるなら 

一方で、
「あまり細かく決めると、先方の機嫌を損ねる」
「現場の柔軟性がなくなる」
と懸念されるのであれば、ご提示のドラフトのままで進めるのも1つの経営判断(ビジネスジャッジメント)です。

相手が紳士的であれば、何事もなく終わるかもしれません。 

ただし、それは
「ノーガード戦法でリングに上がる」
のと同じです。

何かあったときに
「契約書に書いてない!」
と泣きつくことはできません。

自己責任です。

3 結論: 

遅延損害金の利率を気にする前に、
「我々に提供される“サービス”のゴールはどこか」
が、相手と1ミリのズレもなく共有されているかを確認してください。

そこが曖昧なら、どんな立派な契約書もただの
「紙切れ」
です。

※本記事は、業務委託契約(準委任・請負)における業務範囲の特定(SOW)や契約実務に関する一般的なリスクと対策を解説したものです。 
個別の契約解釈や交渉、および具体的な紛争解決については、契約内容や事実関係により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02228_ケーススタディ:「補償金は家主のもの」という大誤解! 立ち退き命令を“設備一新”の好機に変える、店子のための「対行政」交渉術

ある日突然、役所から届く
「立ち退き要請」
の通知。

「道路拡張のため、立ち退いてください」
と言われた時、多くのテナント(店子)経営者は、
「補償金をもらえるのは土地建物のオーナー(家主)だけで、借りている自分たちは泣き寝入りか・・・」
と諦めてしまいがちです。

しかし、その思い込みこそが
「法律オンチ」
の典型です。

実は、公共事業における補償は、家主と店子で
「財布」
が明確に分かれています。

家主に頭を下げる必要も、遠慮する必要もありません。 

むしろ、この不可抗力を利用して、古びた設備を国の費用で最新鋭にリニューアルし、事業を飛躍させるチャンスになり得るのです。

本記事では、家主の顔色を伺うことなく、国(行政)から正当な
「営業補償」

「移転費用」
を満額引き出し、ピンチを成長の起爆剤にするための交渉知識について解説します。

【この記事でわかること】

• 「家主への対価」と「店子への補償」は完全に別枠であるという事実
• 引っ越し代だけでなく、「見えない損失(営業補償)」まで積み上げる請求の技術
• 行政担当者任せにせず、こちらからアプローチする「申請主義」の鉄則

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社オルフェウス・オートマタ 代表取締役 機巧 弾(からくり だん) 
業種 : アンティーク・オルゴールおよび自動演奏楽器の修復・製造
相手方: 国道事務所(国・自治体)、および有限会社バロック・エステート(家主)

【相談内容】 

先生、弱り目に祟り目です。 

当社の工房が入居しているビルが、県の道路拡張計画(バイパス工事)のルートに引っかかり、取り壊されることになりました。

 家主の
「バロック・エステート」
には、土地・建物の買収金として莫大な補償金が入るようです。

しかし、我々はただの店子です。 

工房内には、巨大な自動演奏ピアノや、繊細な調整を要する旋盤・工作機械が所狭しと並んでいます。 

これらを分解・梱包して移転させるだけで数百万円はかかりますし、移転工事の間は修復作業もストップしてしまいます。 

家主に
「補償金の一部を分けてくれ」
と頼んでも、
「それは建物の代金だから関係ない」
と門前払いです。

やはり、借りている身分の弱さでしょうか。

自腹で泣く泣く引っ越すしかないのでしょうか?

「家主の財布」と「店子の財布」は別宇宙

機巧社長、まずはその
「家主におねだりする」
という発想を捨てましょう。

公共事業の補償において、家主(オーナー)と店子(テナント)は、全く別の権利主体です。 

家主がもらうのは
「土地と建物の対価」
です。

一方で、あなたがもらうべきなのは
「事業を継続するための移転対価」
です。

これは離婚の財産分与のような
「パイの奪い合い」
ではありません。

それぞれが国に対して別々の請求書を回す、独立した
「保険請求」
のようなものです。

ですから、家主の顔色を伺う必要は1ミリもありません。

補償の「裏メニュー」を知っているか?

「引っ越し代くらいは出るだろう」 
そんな謙虚な姿勢では、役所の言い値で買い叩かれます。

「公共用地の取得に伴う損失補償基準」
という、いわば役所の“支払基準マニュアル”には、驚くほど細かい
「補償メニュー」
が記載されています。

1 動産移転料: 巨大なオルゴールや精密機械をバラして、運んで、新天地で組み立て直す費用。専門業者による調整費も含まれます。

2 借家人補償: 今より家賃が高い所しか見つからない場合の差額補償(一定期間)。

3 移転雑費: 新しい物件を探すための仲介手数料、広告費、登記費用、移転案内の挨拶状印刷代まで。

4 営業補償(重要!): これが一番大きいです。休業中の固定費(従業員の給料含む)、休業しなければ得られたはずの利益、移転によって常連客が離れることによる減収分まで、理論上請求可能です。

つまり、うまく交渉すれば、古くなった設備を国のお金で最新鋭にし、宣伝費まで出してもらった上で、リニューアルオープンが可能になるのです。

「お客様」になってはいけない

役所仕事の基本は
「申請主義」
です。

向こうから
「こんな補償もありますよ」
と親切に教えてくれることは、まずありません。

「順次、係の者が訪問します」
という通知をのんびり待っていたら、予算消化の都合で、安易な条件でハンコを押させられるのがオチです。

【今回の相談者・機巧社長への処方箋】

機巧社長、被害者面をするのはやめて、今日から
「敏腕請求者」
になりましょう。

1 ターゲットは家主ではなく「国道事務所」 

交渉相手を間違えています。

家主と喧嘩しても1円にもなりません。 

事業主体である
「国道事務所の用地課」
の担当者に、直接連絡を入れてください。

「当社は立ち退きに協力する用意がある。ついては、早期に詳細な条件を詰めたい」 
と、こちらからアプローチするのです。

役所にとって、一番怖いのは
「ゴネて居座る人」
ですが、一番ありがたいのは
「話のわかる、しかし計算高いプロ」
です。

2 「見積もりの山」を築く 

担当者が来る前に、ピアノ運送業者、内装業者、設備業者から、もっとも丁寧(かつ高額)なコースの見積書を取ってください。 

さらに、過去の決算書から
「1日休んだらいくらの損失が出るか」
を弾き出しておきます。

 「これだけの損害が出ます。基準通り払ってくださいね」
と、数字という名の武器を突きつけるのです。

3 結論: 

立ち退きは、ビジネスの強制終了ではありません。 

「国をスポンサーにつけた、大規模な事業再構築プロジェクト」
です。

感情を排して、電卓を叩き続けましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、公共事業に伴う損失補償の一般的な仕組みを解説したものです。
実際の補償項目や算定基準は、事業主体(国・自治体)や適用される基準(公共用地の取得に伴う損失補償基準等)、個別の賃貸借契約の内容により異なります。
個別の交渉や金額算定については、必ず弁護士や補償コンサルタントにご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02227_ケーススタディ:「ドイツ企業なら日本で訴えろ」が正解? “地の利”と“時間”を味方につける国際訴訟の勝ち筋

「ドイツの取引先とトラブルになった。でも国際訴訟なんて金と時間の無駄だ。泣き寝入りするしかない」 
そう諦めて、回収できるはずの債権をドブに捨てようとしたケースがあります。

しかし、ちょっと待ってください。

もし契約書で
「日本の裁判所」
が管轄になっているなら、その判断は早計に過ぎます。

実は、ドイツ企業との訴訟は、最初の難関である
「送達」
さえクリアすれば、こちらが圧倒的に有利な
「ホーム戦」
に持ち込める、勝算の高いゲームなのです。

相手にとって、言葉も法律も通じない極東の島国での裁判は
「悪夢」
でしかありません。

本記事では、ハードルが高いと思われがちな対ドイツ企業訴訟において、
「ホーム(日本)開催」
のメリットを最大限に活かし、有利な和解や回収を引き寄せるための法務戦略について解説します。

【この記事でわかること】

• スポーツと同じ「ホーム・アンド・アウェイ」の残酷なまでの格差
• 最大の難所「訴状の送達」を突破するための心構えとコスト感
• 日本の判決がドイツで「紙切れ」にならない法的な理由

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社クレスト・ケミカル 海外事業部長 剣持 守(けんもち まもる)
業種 : 高機能化学素材・フィルム製造
相手方: ドラッヘ・ケミカル社(ドイツの化学メーカー)

【相談内容】 

先生、頭が痛いです。 

共同開発を行っていたドイツの取引先
「ドラッヘ・ケミカル社」
が、契約を一方的に破棄し、分担金の支払いを拒否して音信不通になりました。

契約書には
「紛争は東京地方裁判所を専属的合意管轄とする」
と書いてあるので、日本で裁判はできるはずです。

しかし、社内会議では 
「国際訴訟なんて泥沼だ」
「勝ってもドイツの資産を差し押さえられる保証がない」
「翻訳費用や弁護士費用で赤字になる」
と、弱気な意見ばかりです。

やはり、わざわざドイツまで行って回収するのは現実的ではないのでしょうか?

泣き寝入りすべきでしょうか?

訴訟は「ホーム」が天国、「アウェイ」は地獄

剣持部長、スポーツの世界を思い出してください。

サッカーでも野球でも、
「ホーム有利、アウェイ不利」
は鉄則です。

訴訟も全く同じです。

もし、御社がドイツに行って裁判をするとしたら? 

ドイツ語の書類、ドイツの法律、ドイツ人の裁判官、そしてユーロ建ての高額な弁護士費用・・・想像するだけで胃が痛くなりますよね。 

しかし、今回は東京地裁が管轄です。

つまり、相手を
「ホーム(日本)」
に引きずり込めるのです。

これは、御社にとっては
「いつものグラウンド」
ですが、相手にとっては
「言葉も法律も通じない完全なる敵地」
での戦いとなります。

このアドバンテージを捨ててはいけません。

「送達」という名の“長くて面倒な入場ゲート”

ただし、この有利な試合を開始するためには、1つだけ厄介なハードルがあります。

それが
「訴状の送達」
です。

日本の裁判所からドイツの会社に
「お前を訴えたぞ」
という手紙(訴状)を、条約に基づいた正式なルートで届けなければなりません。

これには訴状のドイツ語翻訳が必要ですし、外務省や大使館を通じるため、数ヶ月単位の時間がかかります。

多くの企業は、この
「入場ゲート」
の面倒くささと翻訳コストに心が折れてしまいます。

しかし、ここさえ突破すれば、あとはこちらのものです。

日本の判決はドイツでは「紙切れ」ではない

「勝っても執行できないのでは?」
という懸念ですが、執行のハードルは比較的低いと判断できます。

実は、日本の法律(民法など)は、明治時代にドイツ法をモデルにして作られました。

いわば親子のような関係で、法体系が非常に似ています。

そのため、相互の保証(相互の保証)があり、日本の確定判決は、ドイツの裁判所でも
「承認・執行」
の手続きを経ることで、比較的スムーズに強制執行の効力を持つことができます。 つまり、ドイツでゼロから裁判をやり直す必要はなく、日本の判決文を持ってドイツの裁判所に
「これ、よろしく」
といえば、相手の資産を差し押さえられる可能性が高いのです。

【今回の相談者・剣持部長への処方箋】

剣持部長、結論を申し上げます。

 「面倒くさい『送達』の手続きさえ我慢すれば、あとは勝てる可能性のあるゲームです」

1 相手を「土俵」に上げる 

まず、数ヶ月かかろうとも、翻訳費用をかけて粛々と訴状の送達プロセスを進めます。 

これは、相手をこちらの土俵(ホーム)に引きずり込むための、必要な儀式(先行投資)です。

2 「和解」という名の白旗を待つ 

有効に訴状が送達された瞬間、ドラッヘ・ケミカル社はパニックになるでしょう。

 「極東の島国で、ワケのわからない日本語による裁判が始まった!」 
彼らは、日本の法律を理解し、日本語を操る高額な弁護士を雇い、わざわざ日本まで来て対応しなければなりません。

まともな経営判断ができる相手なら、
「こんなコストがかかるくらいなら、和解金を払って終わらせたほうがマシだ」
と考える確率が非常に高いです。

3 結論:我慢比べに勝つ 

国際訴訟は、突き詰めれば
「どちらがより面倒くさい思いをするか」
の我慢比べです。

ホームで戦える御社と、アウェイで戦わされる相手。

どちらが有利かは明白です。 

「泣き寝入り」
という選択肢を捨て、相手に
「アウェイの洗礼」
を浴びせてやりましょう。

※本記事は、一般的な国際民事訴訟の管轄、送達、および外国判決の承認執行に関する実務的知見を解説したものです。
個別の事案における送達の可否、準拠法の適用、および外国での執行可能性については、条約や現地法制により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02226_ケーススタディ:「契約書がない!」を嘆く前に _“どんぶり勘定”を“鉄の証拠”に焼き直す、債権回収の錬金術(5W2H)

「長年の付き合いだから、契約書なんて水臭いものは作っていなかった」 
「合計でこれだけ未払いがあるんだから、裁判所もわかってくれるだろう」

ビジネスの現場、特に古くからの商習慣が残る業界では、こうした
「阿吽の呼吸」
で取引が進むことが珍しくありません。 

しかし、いざ相手が支払いを渋り、法的手段に訴えようとした瞬間、その
「信頼」

「立証の欠如」
という絶壁となって立ちはだかります。

本記事では、契約書が存在しない状態で、多額の売掛金を回収しようとする企業の事例をもとに、
「ざっくりとした請求」

「裁判に勝てる主張」
へと昇華させるための、泥臭くも確実な準備作業(5W2Hの再構築)について解説します。

【この記事でわかること】

• 「合計請求書」だけでは裁判所が動かない理由
• 契約書がない場合に、過去の取引を「鉄の証拠」に変えるリスト作成術
• 仮差押えを成功させるための「銀行支店」特定の重要性

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社プレシジョン・パーツ 営業部長 鉄本 堅(てつもと けん) 
業種 : 精密機械部品・産業用部材卸売業
相手方: 株式会社ギャラクシー・ファクトリー(製造工場運営)

【相談内容】 

先生、先日ご相談した取引先
「ギャラクシー・ファクトリー」
への債権回収の件です。

相手の経営状態が怪しいので、先生のアドバイス通り、訴訟の前に
「仮差押え(相手の資産を凍結すること)」
を急ぎたいと思います。

未払い金は、合計で約1810万円あります。

毎月、合計金額の請求書は送っています。 

ところが、担当者に確認したところ、元々創業者が友人同士だったこともあり、
「基本取引契約書」
などの契約書を交わしていなかったことが判明しました。

契約書がないと、裁判所は相手にしてくれないのでしょうか?

あと、先生からのメールに
「仮差押えをするなら銀行の支店情報が必要」
とありましたが、相手がどこの支店を使っているかなんて、いちいち把握していません。

合計金額の請求書はあるので、これでなんとかなりませんか?

裁判所は「ざっくり」を最も嫌う

鉄本部長、お気持ちはわかりますが、司法という国家作用を動かすには、
「だいたいこんなもの」
という感覚は通用しません。

裁判所は、
「いつ、誰が、誰と、何を、いくらで売る約束をして、いつ納品し、いつが支払期限で、どの部分が未払いなのか(5W2H)」
という事実が、ミクロのレベルで特定されていないと、1円たりとも認めてくれません。

合計1810万円の請求書1枚だけでは、
「内訳は? その根拠は?」
と突っ込まれて終了です。

契約書がない以上、
「過去の個別の取引の積み重ね」
こそが、契約の存在を証明する唯一の武器になります。

「5W2H」で過去を復元せよ

契約書がない場合、諦める必要はありませんが、その分、汗をかく必要があります。 

お手元の納品書、発注メール、受領証などを総動員して、以下の項目をリスト化してください。

• 取引日(いつ注文を受けたか)
商品名・種類(何を売ったか。「XXライン用部品一式」「型番YY」など詳細に)
価格(いくらで)
• お届け日(いつ義務を果たしたか)
請求日と支払期限(いつ払う約束だったか)

これらをエクセルなどで一覧表にすること。 

これが、
「存在しなかった契約書」
の代わりとなります。

面倒だと思われるかもしれませんが、これをやらない限り、裁判所というリングには上がれません。

「銀行支店」という宝の地図

「仮差押え」
は、相手に知られずに銀行口座を凍結する奇襲攻撃です。

しかし、裁判所に対しては
「××銀行の〇〇支店にある預金」
とピンポイントで指定しなければ、差押え命令を出してくれません。

「どこかの支店にあるはずだ」
では、空振りに終わります。

これは、宝探しにおいて
「この島のどこかに宝がある」
と言うのと、
「この島の北緯〇度、東経〇度の木の根元にある」
と言うのとの違いです。

過去の入金履歴や、相手の振込通知書、あるいは営業担当者が聞き出した情報などから、相手が使っている
「メインバンクの支店」
を特定する必要があります。

【今回の相談者・鉄本部長への処方箋】

鉄本部長、契約書がないことを嘆いてもお金は戻ってきません。

今やるべきは、
「事実の再構築」
です。

1 「請求の解像度」を極限まで上げる 

1810万円という
「塊」
を、1つ1つの具体的な取引(細胞)にまで分解してください。

「○月○日現在、部品代金1810万円」
という請求書があるとのことですが、これを、
「○月○日、A工場ライン用ギア、50万円、納期○月○日」
といった具合に、すべての取引についてリスト化します。

裁判官に
「なるほど、これだけ具体的な仕事をしたのだから、代金が発生するのは当然だ」
と思わせるだけの、圧倒的な事実の羅列が必要です。

これが
「事実による立証」
です。

2 「支店特定」は探偵になったつもりで 

銀行支店の特定については、経理担当者に過去の通帳をすべてひっくり返させてください。

一度でも相手から入金があれば、そこに支店名が記載されている可能性があります。 

もしなければ、営業担当者が
「集金」
の名目で相手を訪問し、それとなく取引銀行の話題を出すなど、あらゆる手段で情報を収集してください。

仮差押えはスピード勝負ですが、
「的(まと)」
が見えていなければ矢は放てません。

3 結論 

契約書という
「紙」
がないなら、
「事実と記録」
という
「レンガ」
を積み上げて城壁を作るしかありません。

「細かいことはいいじゃないか」
はビジネスの現場では通じても、法廷では命取りになります。

今すぐ、総力を挙げて
「リスト作成」

「支店特定」
に取り掛かってください。

※本記事は、架空の事例をもとに、債権回収における事実の特定(要件事実)および民事保全手続(仮差押え)の実務的ポイントを解説したものです。 
個別の事案における証拠の評価や手続の可否については、具体的な事情により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02225_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える【#1~#7】


著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02224_ケーススタディ:「納得できない」でもハンコを押せ? 裁判官の“和解勧告”を蹴飛ばしてはいけない「経済的理由」

「あと50万円積めば、この泥沼から抜け出せる? 冗談じゃない、こっちは1円だって払いたくないんだ!」

裁判所から和解を勧められたとき、経営者の多くはこう憤ります。

自分たちに非がない、あるいは相手の要求が不当だと思えば思うほど、金銭での解決は
「屈服」
のように感じられるものです。

しかし、ここでの50万円は、単なる
「負け代」
ではありません。

それは、将来のリスクを完全に遮断し、相手の口を封じるための
「高機能な錠前代」
なのです。

本記事では、裁判所からの
「強い和解勧告」
を蹴ることのリスクと、判決ではなく和解を選ぶことの
「戦略的な経済合理性」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 裁判官の「お願い(和解勧告)」を拒否したときに待っているリスク
• 判決文という「公開タトゥー」:勝敗に関わらず記録される企業の恥
• 「口止め料」としての解決金:判決では得られない「守秘義務」の価値

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ノヴァ・インテリア 代表取締役 整井 納(とい おさむ) 
業種 : オフィス内装デザイン・施工管理
相手方: 合同会社リジット・ワークス(元・施工外注先)

【相談内容】 

先生、納得がいきません。 

元外注先(リジット・ワークス)との施工不備を巡るトラブルの件、今日の裁判で、裁判官から 
「200万円で和解しなさい」
と強く言われましたよね?

こちらは、以前から申し上げている通り、解決金的な意味合いも含めて 
「150万円」
までなら譲歩すると言っています。

これでも十分すぎる額です。 

相手の不手際もあったわけですし、これ以上、1円たりとも上乗せする理由がありません。

「裁判所の努力でここまで下げさせた」
なんて恩着せがましく言われましたが、そもそも200万円払う義務なんてないと思っています。

このまま和解を拒否して、判決をもらって白黒つけたほうが、スッキリするのではないでしょうか?

「具体的な金額」が出たら、それは事実上の「命令」です

整井社長、裁判官の言葉を額面通りに受け取ってはいけません。 

裁判官が
「200万円での和解をお願いしたい」
と言い、かつ
「絶対に和解で終わらせたい」
とまで言った場合、これは単なる
「お願い」
ではなく、実質的な
「命令」
に近い重みを持ちます。

民事訴訟の実務感覚で言えば、裁判官が具体的な数字を出して和解を勧めるのは、
「この辺りが法的な落とし所だ」
という確信があるからです。

これを
「納得できない」
と感情的に蹴り飛ばすとどうなるか。

裁判官の心証を損ね、判決文において、こちらに極めて厳しい事実認定(いわば報復的な敗訴判決)が下されるリスクが跳ね上がります。

50万円をケチった結果、全面敗訴でそれ以上の支払いを命じられる可能性すらあるのです。

判決文は、ネット時代の「デジタル・タトゥー」になり得る

「判決で白黒つける」
とおっしゃいますが、判決には副作用があります。

判決文には、勝敗の理由が詳細に書かれます。 

仮に勝訴に近い結果だったとしても、
「ノヴァ・インテリア社の管理体制には一部不備があった」
などと、後世に残したくない恥ずかしい認定が公文書として刻まれる可能性があります。

現代において、こうした判決文はデータベース化され、半永久的に残ります。 

一方、和解であれば、理由は書かれません。

「解決金を支払う」
という事実だけで、中身はブラックボックスにできます。

企業の評判(レピュテーション)を守る意味で、判決という詳細な記録が残る
「公開処刑」
を避けるメリットは計り知れません。

「50万円」で買う「沈黙」と「未来」

ここが最も重要な点です。 

判決では
「金払え」
「払わなくていい」
しか決められません。

しかし、和解なら
「条項」
を作れます。

今回、提案されているように、
「今後、本件の内容を口外しない(守秘義務)」
「一切の紛争・誹謗中傷を行わない」
という条項を入れることができます。

相手がSNSや業界内で御社の悪口を言いふらすリスクを、このプラス50万円で封じ込めるのです。 

判決まで行って勝ったとしても、相手が腹いせに
「あの会社はひどい」
と吹聴して回るのを止める法的な力は、判決文にはありません。

差額の50万円は、相手の口にチャックをするための
「高性能なジッパー代」
と考えてください。

【今回の相談者・整井社長への処方箋】

整井社長、結論を申し上げます。 

「悔しい気持ちをグッと飲み込み、200万円で手を打つことをおすすめします。それが、御社にとって最も安上がりで、賢明な『勝利』です」

1 「不確実性」というリスクを買わない 

もし和解を拒否して判決になった場合、相手が控訴して高等裁判所までもつれ込む可能性があります。

そうなれば、解決までさらに半年、1年とかかり、弁護士費用も追加でかかります。 

今、200万円でサインすれば、この瞬間に
「将来の不安」

「追加コスト」
をすべて遮断できます。

これは、
「時間を金で買う」
高度な経営判断です。

2 「実質的な解決」をパッケージする 

単にお金を払うだけではありません。

和解条項に以下のセットを組み込みます。

• 清算条項:「これ以外に一切の債権債務がない」と確認させ、後出しジャンケンを封じる。

• 守秘義務・誹謗中傷禁止:違反した場合は違約金を払わせる条項も検討し、相手の口を物理的・心理的に封じる。

3 結論 

裁判官の顔を立てて、穏便に、かつ密室でトラブルを葬り去る。

これが、企業防衛における
「大人の喧嘩の終わらせ方」
です。

50万円の差額は、将来の悪評被害を防ぐための
「広告宣伝費」兼「保険料」
だと割り切ってください。

※本記事は、一般的な民事訴訟における和解のメリットとリスクについての戦略的視点を解説したものです。 
個別の事案における和解の可否や条件については、具体的な証拠状況や裁判所の心証に依存しますので、必ず担当弁護士と詳細に協議の上、ご判断ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02223_ケーススタディ:「裁判に勝っても1円も取れない」悪夢を回避せよ 倒産寸前の資産をロックする「仮差押え」の威力

「相手の会社が危ないらしい。すぐに裁判を起こして回収だ!」 
「いや、ちょっと待ってください。裁判の前に『仮差押え』をしておかないと、勝っても1円も取れませんよ?」

取引先の信用不安が発覚したとき、多くの経営者は
「早く裁判をして白黒つけたい」
とはやる気持ちを抑えきれません。

しかし、法律のプロである弁護士は、
「裁判」
ではなく、まず
「仮差押え」
を提案します。

なぜなら、日本の裁判は時間がかかりすぎるからです。

本記事では、倒産寸前の相手から債権を回収するための必須テクニックである
「仮差押え」
の重要性と、その具体的な準備(コストや必要資料)について、実務的な視点から解説します。

【この記事でわかること】

• 「訴訟」と「仮差押え」の違い:なぜ「仮」の手続きが「本番」より重要なのか
• 早い者勝ちのルール:危ない会社から回収するためのタイムリミット
• 魔法の代償:仮差押えを実行するために必要な「担保金」と「情報」

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ストーン・マテリアル 営業部長 岩田 巌(いわた いわお)
業種 : 建設資材卸売業
相手方: 株式会社ミラージュ・ハウジング(地場工務店)

【相談内容】 

先生、緊急事態です。 

取引先の
「ミラージュ・ハウジング」
への売掛金が焦げ付きそうです。

あそこ、下請けへの支払遅延で、現場が完全にストップしているんです。

夜逃げ寸前というか、もう半分逃げているような状態です。

すぐに裁判を起こして白黒つけたいんですが、法務担当者が
「裁判の前に『仮差押え』をした方がいい」
と言い出しました。

でも、
「仮」
のくせに、保証金を積まないといけないし、手間もかかると聞きました。

面倒なので、いきなり本裁判(訴訟)を起こして、勝ってから差し押さえればいいんじゃないですか? 

どっちがいいのか、ズバッと決めてください。

「訴訟」と「仮差押え」は“カレーとライス”の関係

岩田部長、根本的な誤解があります。 

「訴訟(本裁判)」

「仮差押え」
は、ランチのメニューで
「A定食にするかB定食にするか」
と迷うような二者択一の関係ではありません。

訴訟は
「私が正しい(債権がある)」
ことを公的に認めてもらう手続き(権利の確定)です。

一方、仮差押えは、その権利が認められるまでの間、相手が財産を隠したり、他のハイエナ(債権者)に食い荒らされたりしないように、現状を凍結する手続き(保全)です。

これは
「カレー(訴訟)」

「ライス(仮差押え)」
の関係にあり、両方あって初めて
「カレーライス(確実な回収)」
になるのです。

ライスなしでカレー(判決文)だけ渡されても、食べられませんよね?(回収できませんよね?)

勝訴判決も資産がなければ“ただの紙切れ”

日本の裁判は、丁寧ですが遅いです。

判決が出るまでに半年や1年かかることはザラです。 

「支払遅延で現場ストップ」
しているような会社が、半年後まで行儀よく財産を残していると思いますか?

判決が出るころには、めぼしい資産はすべて散逸し、預金口座は空っぽ、不動産は他人の手に渡っているでしょう。

その時、あなたが手にする勝訴判決は、
「あなたは正しい。でも、お金はない」
と書かれた、ただの高級な紙切れになってしまいます。

これを防ぐために、裁判という長い試合が始まる前に、相手の財布に鍵をかける魔法、それが
「仮差押え」
なのです。

「魔法」を使うための対価(保証金)は必要コスト

この便利な魔法を使うには、それなりの準備と対価が必要です。 

まず、魔法をかける対象(どこの銀行のどの支店の口座か、など)を特定しなければなりません。 

そして、裁判所に対して
「保証金(担保金)」
を積む必要があります。

相場は、請求額の1割から3割です。

「えっ、1000万円取り返すのに、300万円も預けるの?」

と思われるかもしれませんが、これは
「もし私の勘違いで相手に迷惑をかけたら、これで賠償します」
という人質のようなものです。

もちろん、最終的に勝てば戻ってきますが、一時的にキャッシュが寝てしまう覚悟は必要です。

【今回の相談者・岩田部長への処方箋】

岩田部長、結論を申し上げます。 

「四の五の言わずに、今すぐ仮差押えをやりましょう」

1 状況は「待ったなし」 

相手は現場が止まっています。

これは、企業の体温が急激に低下し、死後硬直が始まる直前のサインです。

他の債権者も、血眼になって回収に動いているはずです。 

債権回収は、椅子取りゲームです。

音楽が鳴り止んでから(判決が出てから)動いたのでは、座る椅子(財産)は残っていません。

2 必要な「武器」と「弾薬」 

至急、以下のものを準備してください。

• 疎明資料: 契約書、注文書、納品書、請求書など、「ウチにお金を払ってもらう権利がある」ことを証明する書類一式。

• ターゲット情報: 相手のメインバンクの支店情報や、取引先(売掛金)の情報。

• 軍資金: 申立費用等の実費(数十万円)と、担保金(請求額の20~30%程度)。

3 結論 

ビジネスにおいてスピードは命ですが、債権回収においてスピードは
「すべて」
です。

悠長に裁判の準備をしている間に、虎の子の資産が逃げていってしまっては元も子もありません。 

まずは
「仮差押え」
で相手の急所をガッチリと掴み、その上で、堂々と裁判(あるいは交渉)に臨む。これが、プロの回収作法です。

※本記事は、一般的な民事保全手続(仮差押え)の概要と法的効果を解説したものです。 
個別の事案における保全の必要性(被保全権利の存在や保全の必要性)の判断、および担保金の額については、裁判所の裁量や事案の具体的事情により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02222_ケーススタディ:「独占契約」のはずが「隷属契約」に!?  海外取引で会社を殺す「スカスカの鎧」と「鉄の首輪」

「ついに海外の人気メーカーと独占販売契約を結べる! これで我が社も安泰だ!」 
「・・・ちょっと待ってください。その契約書、御社にとって『死亡届』になりかねませんよ?」

海外企業との取引現場では、金額や数量といった
「数字」
には敏感でも、契約書の
「条項」
には無頓着な経営者が少なくありません。

しかし、海外の契約文化はドライかつシビアです。

「書かれていないことは、何をやっても自由」
「書かれていることは、絶対に守れ」。

この原則を知らずにサインをすることは、目隠しをして地雷原を歩くようなものです。

本記事では、ある輸入商社の事例をもとに、
「自分たちの権利を守る条項の欠落(穴)」
と、
「相手に有利すぎる過酷な条件(罠)」
という2つの視点から、契約書レビューの重要性を解説します。

【この記事でわかること】

• 注文方法や決済条件を決めずに握手することの危険性
• 「独占権」を明記しないと、相手が誰にでも商品を売れる法的理由 • 「変更不可」の納期条項と「賠償上限」に隠された、倒産リスクの罠

【相談者プロフィール】 
相談者:株式会社エターナル・サプライ 専務取締役 轟 剛(とどろき ごう)
業種 : 輸入建材・産業用資材商社
相手方: 欧州・アトラス社(メーカー)

【相談内容】 

先生、ようやく欧州のアトラス社との独占販売契約がまとまりそうです! 

向こうは、今、世界中で注目されている高機能断熱材のメーカーです。 

向こうから契約書案が来ましたし、こちらも要望をまとめた合意書案を作りました。 

「あとはサインするだけ」
のつもりで先生にチェックをお願いしたんですが、本日の打ち合わせで、先生、めちゃくちゃ渋い顔をしていましたよね?

「御社の作った案は、車で言えばエンジンとタイヤがないようなもの」 
「相手の案は、ハンドルが固定されていてブレーキが効かない車のようなもの」
とか、おっしゃいましたが、意味がわかりません。 

具体的に、どこがどうマズいんでしょうか?

このまま契約すると、地獄が待ってる、ってことですか?

「書かれていないこと」は「何をやっても自由」という冷徹なルール

まず、御社(エターナル・サプライ)が作成した合意書についてですが、致命的な欠陥があります。 

注文方法、支払い方法、輸送中に商品が壊れた場合の責任(危険負担)、知的財産権、守秘義務、損害賠償・・・

これらが
「規定がない」
状態です。

これは、結婚に例えるなら、
「好きです! 一緒になりましょう!」
と愛だけは叫んでいるものの、
「で、家賃はどうする? 家事は誰がやる? 浮気したらどうする? 別れる時の財産分与は?」
という生活のルールが一切決まっていないのと同じです。

ビジネスの世界、特に海外では
「書いていないことは、何をやっても自由」
というのが契約の基本ルールですから、これではトラブルが起きた瞬間、御社は
「穴だらけの鎧」
で戦場に放り出されることになります。

「独占」の二文字がない契約書は、ただの「隷属契約」

次に、相手方(アトラス社)の契約書ですが、御社が喉から手が出るほど欲しい
「独占的供給権(Exclusivity)」
の規定がありません。

さらに、
「最低供給数量」
の規定もありません。

ここでも
「書いていないことは自由」
の原則が牙を剥きます。

独占権が明記されていない以上、アトラス社は御社以外(例えば御社のライバル企業)にも商品を売れますし、極端な話、御社からの注文をすべて無視して
「在庫がない」
と言い張ることも可能です。

「独占契約だと思っていたら、実はただの『買わせていただく』契約だった」
という、笑えないオチになりかねません。

「絶対変更不可」の納期と「見せかけの賠償金」の罠

アトラス社案には、
「注文は4週間前に確定し、その後の変更不可」
という条項があります。

今の激動の市場で、需要を完璧に予測し、変更を一切しないことが可能でしょうか? 

予測が外れれば、過剰在庫の山に埋もれるか、欠品で機会損失を出して顧客に怒られるかの二択です。

さらに、アトラス社の責任上限(賠償額)は一見高額に見えますが、
「間接損害(逸失利益など)は免責」
とされています。

もし製品の欠陥で大規模な事故(PL事故)が起き、御社のブランドが地に落ちたとしても、将来の利益やブランド毀損による損害は1円も請求できません。

 相手は
「手切れ金」
としての上限額を払ってサヨウナラですが、御社は焼け野原に残されることになるのです。

【今回の相談者・轟専務への処方箋】

轟専務、このままハンコを押すのは、
「パラシュートなしでスカイダイビングをする」
ようなものです。

以下のポイントで、契約書という
「命綱」
を編み直しましょう。

1 「穴」を塞ぐ(自社案の修正) 

まず、御社の合意書案に、ビジネスの「血液」を通わせます。 

いつ、どうやって注文し、いつ払い、いつ所有権が移り、トラブルが起きたらどう責任を取るか。

これら
「5W2H」
を明確に規定し、
「具体性のない曖昧な文書」
から脱却させます。

2 「手枷足枷(鉄の首輪)」を外す(相手案の修正) 

アトラス社案の供給条項については、現実的なリードタイムへの短縮と、一定範囲での変更の柔軟性を求めます。

「市場の変化に対応できない契約は、共倒れになる」
と、ビジネスの合理性から説得しましょう。

3 「盾」と「矛」を確保する(独占と責任) 

最も重要な
「独占権」
を明記させ、
「最低供給義務」
を課すことで、相手を逃さないようにします。

また、責任制限条項については、PL事故などの第三者請求や、重大な過失がある場合は上限を撤廃するよう交渉します。

結論: 

契約書は、トラブルが起きた時のための
「聖書」
であり
「武器」
です。

神に祈る前に、条文を磨くことが、ビジネスの寿命を延ばします。

※本記事は、架空の事例をもとに、契約法務および国際取引に関する一般的な法解釈と実務的視点を述べたものです。
個別の契約交渉や法的判断については、具体的な事情に応じて弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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