02116_契約チェックからトラブル対応まで!顧問弁護士の役割と活用ポイント

会社の顧問弁護士は、契約のチェックからトラブル発生時の対応まで、企業の法的な安全を守る重要な役割を担います。

その業務は、大きく
「日常的な法務サポート」

「トラブル対応」
に分かれます。

たとえば、企業経営を船の航海にたとえると、顧問弁護士は
「海図を読む専門家」
です。

普段は、安全なルートを確認し、危険を避けるアドバイスをします。

しかし、嵐に巻き込まれたり、座礁しそうになったときには、適切な回避策を講じ、最悪の事態を防ぐ役割を果たします。

1 日常的な法務サポート(平時の業務)

顧問弁護士が企業の経営に深く関わる場面の1つが、契約書のチェックです。

契約書はまず、企業内の担当部署が作成し、それを法務部門が確認します。

その後、顧問弁護士が法的な視点からバックチェックを行い、問題がなければ最終決裁へと進みます。

ただし、顧問弁護士が判断するのは
「契約が法律的に適切かどうか」
のみです。

契約内容が会社にとって本当に有利なのか、ビジネスとして妥当なのかといった
「経営的な合理性」
のチェックは、別途、経営本部が行います。

これは、医師が
「この薬は厚生労働省の基準をクリアしているか」
を確認するだけで、実際に患者に処方するかどうかは、症状や体質を考慮する別の判断が必要になるのと同じです。

2 トラブル対応(緊急時の役割)

企業が経営を続けていると、法的なトラブルに直面することもあります。

その際の顧問弁護士の役割は、トラブルの性質や緊急性に応じて変わります。

(1)事件発生時の初動対応

・緊急性が高い場合は、企業の担当者が直接顧問弁護士に連絡を入れます。
たとえば、突然の刑事事件や重大な訴訟リスクが発生した場合などです。

・それ以外のケースでは、まず法務部が状況を整理し、
「5W2H(いつ、誰が、どこで、なぜ、どのように、いくらの問題があるか)」
の情報をまとめ、24時間以内に顧問弁護士へ報告します。
その後、トラブルの深刻度に応じて、24時間以内から5営業日以内を目安に相談を進めます。

(2)法的選択肢の整理と分析

トラブルに対して少なくとも3つの視点から対応策を検討することになりますが、顧問弁護士は、その助言を行います。

・一般企業目線(ビジネス的にどの選択肢が最適か)
・法律専門家目線(法的に何が可能か、どのようなリスクがあるか)
・オーナー経営者目線(会社の方針や経営リスクを考慮した選択肢)

それぞれの選択肢にはメリット・デメリットがあります。

経営陣の判断が難しい場合や、オーナー経営者から依頼があれば、顧問弁護士はそれらを整理し、経営陣が判断しやすいようにアドバイスを行います。

(3)意思決定のプロセス

トラブル対応の最終的な判断は、案件の規模や影響度に応じて変わります。

顧問弁護士は、企業の意思決定をサポートし、適切なルートで進めるよう助言します。

・売掛金の回収など、比較的少額(●00万円以内)でビジネス上不可避なトラブルは、企業の法務部長が決裁します。顧問弁護士は、依頼があれば、その際の法的リスクを説明し、必要な手続きをサポートします(場合によっては有償となります)。

・●00万円以上の案件や、少額でも事業の根幹や風評リスクが関わる場合は、取締役会や経営本部が判断します。顧問弁護士は、求めに応じて、選択肢を整理し、それぞれのリスクを明確に伝えます(場合によっては有償となります)。

・会社の存続に関わる重大な事件や刑事事件の場合は、オーナー経営者への報告が必要になります。
ここで重要なのは、
「稟議決裁のルートを守ること」
です。
顧問弁護士は、依頼があれば、本部長を通じてオーナーに正式な報告が行われるようサポートし、ショートカットや非公式ルートによる混乱を防ぎます。

3 まとめ

顧問弁護士の役割は、単に法律相談に応じるだけではありません。

企業の経営判断を法的な側面からサポートし、トラブルの未然防止や危機管理を担う重要な存在です。

企業経営は、航海のようなものです。

日々のルート確認(契約チェック)をしながら、安全な航行を続けることが大切です。

そして、もし嵐(トラブル)が起こったときには、経験豊富な専門家(顧問弁護士)のアドバイスを受けながら、最適な舵取りをする必要があります。

日常の予防と緊急時の的確な判断。

その両方を支えるのが、顧問弁護士の役割なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02115_取締役にしたのに「労働者」?グループ企業の人事異動の落とし穴

企業の人事異動や組織再編の際、従業員を役員にするケースは少なくありません。

しかし、
「退職して別会社の取締役に就任した」
という形を取ったとしても、法的に雇用関係が完全に消滅したとは言い切れない場合があります。

特に、グループ企業内の出向や異動とみなされると、後になって
「本当は退職ではなかったのでは?」
と争われるリスクがあります。

1 雇用関係の消滅は成立するのか?

例えば、B社の従業員であるAさんをB社の退職扱いとし、B社のグループ企業であるC社の取締役にする場合、会社側としては
「B社との雇用関係を完全に終了し、C社とは純粋な委任関係にする」
という考えかもしれません。

しかし、以下のような状況があると、
「単なる異動」

「形式的な退職」
と判断される可能性があります。

・退職後も、B社やグループ本社の意向でC社の業務を行っている
・B社在籍時と業務内容がほとんど変わらない
・退職金の扱いが曖昧で、実際は単なる役職変更のようになっている
・一定期間後にB社(またはグループ本社)に戻る予定がある

こうしたケースでは、
「実態としてはグループ内の異動にすぎず、退職ではないのでは?」
と疑われる可能性があります。

また、本人が
「自分は退職ではなく、グループ内で配置転換されただけだ」
と主張し、後に労働者性を争うことも考えられます。

グループ企業内では、取締役就任後も、実質的に以前と同じ指揮命令系統に組み込まれることがあります。

その場合、仮に
「退職」
の手続きを取っていたとしても、実態として
「出向」

「転籍」
とみなされる可能性があり、雇用関係の継続が認められることがあるのです。

2 取締役でも「労働者」とみなされることがある

取締役だからといって、必ずしも労働者性が否定されるわけではなく、業務の実態によっては、労働者と認定される可能性があります。

労働者性が判断されるポイントとして、以下のような点が考慮されます。

・会社からの指示が細かく、業務の進め方まで指揮命令を受けている
・勤務時間や勤務地の自由度がなく、一般従業員と同じように拘束されている
・給与から社会保険料や雇用保険料が控除されている
・報酬の性質が、成果報酬ではなく固定給となっている
・業務遂行の自由度が低く、指揮命令の下で働いている
・経営判断に関与しておらず、一般の従業員と変わらない立場にある

このような状況では、
「取締役という肩書だけで、実態は労働者なのでは?」
と判断されるリスクがあり、仮に本人が
「労働者としての権利がある」
と争えば、裁判で認められる可能性もあります。

3 「純然たる退職」であることを明確にする方法

こうしたトラブルを防ぐには、
「今回の退職は、あくまで完全な退職であり、グループ内の異動ではない」
という点を明確にしておく必要があります。

そのためには、以下のような書面を準備しておくのが有効です。

(1)退職時の確認書

B社を退職する際に、本人から次のような念書をもらっておくとよいでしょう。

「私は、本件退職により、B社およびB社のグループ会社を含むいかなる企業とも雇用関係が終了したことを確認し、今後、B社グループ内での復職・出向・再雇用の予定がないことを承諾します」

これにより、後になって
「グループ内異動ではないか?」
と争われた場合でも、
「本人も退職を認識していた」
と主張する証拠になります。

(2)取締役就任時の確認書

C社の取締役に就任する際にも、次のような念書を取っておくとよいでしょう。

「私は、C社取締役として、貴社の指揮命令に服する立場ではなく、業務遂行に関する裁量を有していることを確認します。また、貴社との間で雇用契約関係が存在しないことを理解し、異議なく受諾します」

このような書面があれば、万が一
「自分は労働者だ」
と争われた場合でも、
「最初から雇用関係がないことを双方が確認していた」
と説明しやすくなります。

4 まとめ

・グループ企業内の異動と退職は、実態次第で法的判断が変わる
・単に取締役になっただけでは雇用関係の消滅とはならず、労働者性の有無は実際の業務の実態により判断される
・業務の実態によっては、取締役でも「労働者」とみなされることがある
・退職時と取締役就任時の念書を準備し、雇用関係が完全に終了したことを明確にしておくことが重要

取締役の人事異動は、単なる役職変更のように見えても、法的には慎重な対応が求められます。

グループ企業内での異動や出向を行う際は、後々のトラブルを避けるためにも、しっかりとした手続きを踏んでおきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02114_間違えると契約が変わる!一文字違いが大問題に?契約書で間違いやすい「清算」と「精算」

契約書を作成するとき、1文字違うだけで意味が大きく変わる言葉があります。

その代表例が
「清算」

「精算」
です。

どちらも
「せいさん」
と読むため、つい混同しがちですが、契約上はまったく別の意味を持っています。

この違いを理解していないと、契約の内容が意図しないものになり、その後トラブルにつながる可能性があります。

例えば、
「精算」
は、お金の支払いを確定させる場面で使われます。

会社で経費の仮払いを受けたとき、実際に使った分を計算して残ったお金を返したり、不足分を支払ったりするのが
「精算」
です。

一方、
「清算」
は、関係を終わらせるときに使われる言葉です。

例えば、会社が終了する際に財産や権利を整理することを
「清算」
と言います。

また、契約関係が終了するとき、未払いの権利を処理し、権利義務をすべて消滅させることも
「清算」
にあたります。

この2つの言葉を契約書で間違えると、契約書の文言が思わぬ意味を持つことになります。

例えば、本来
「精算」
と書くべきところを
「清算」
と記載してしまうと、
「金額の支払いを確定するつもりだったのに、契約自体を完全に終了させる」
ようなことになりかねず、トラブルの元になります。

契約書は、一字一句が重要です。

「似たような意味」
と軽く考えず、正しく理解し、正しい表現を使うことが大切です。

特に、契約書作成や契約書チェックを弁護士に依頼せず、社内ですべて対応しがちな中小企業では、このような間違いが散見されます。

契約を正しく管理するためにも、言葉の違いに注意しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02113_契約書は最後―まずは事業の設計図を描け

契約書を作るのは、最後の最後です。

いきなり契約書を交わそうとする人がいますが、それでは順序が逆。

肝心の中身が決まっていないのに契約書を作ったところで、あとから矛盾や問題が噴出するのは目に見えています。

では、契約書の前に何を考えるべきか? 具体的には、以下のようなものが必要になります。

これらがしっかり固まったうえで、ようやく契約書の出番がやってきます。

1 事業の概要:
そもそも、どんな事業をやるのか? 誰に向けて、どんな価値を提供するのか? ここがあいまいでは、計画も契約も成り立ちません。

2 投資回収シナリオ(社内経費を含めた投資回収):
いくら投資し、いつ・どのように回収するのか? 利益が出るまでの道筋を明確にすることが重要です。これを無視すると、後になって「こんなはずじゃなかった」と後悔することになります。

3 プロジェクトの概要:
事業を具体的にどう進めるのか? 誰が何を担当するのか? 目標やマイルストーンを整理し、事業の全体像をつかみます。

4 募集の方法:
資金調達やパートナーの募集をどう行うか? 募集の条件や方法を考えておかないと、必要な人材や資金が集まらず、計画が頓挫することになります。

5 実施のためのスケジュール:
事業を進めるための具体的なスケジュール。いつまでに何をするのかを決めておかないと、場当たり的な対応になり、スムーズに進みません。

6 事業遂行上予測される問題点と対策:
事業には必ずリスクが伴います。どんなリスクがあり、どう対処するのか? ここを考えずに始めるのは、無防備で戦場に飛び込むようなものです。

契約書が先ではダメな理由

契約書を先に作る人は、
「とりあえず契約すれば大丈夫」
と考えがちです。

しかし、事業の内容が明確でなければ、契約書にどんな条項を盛り込むべきかも判断できません。

たとえば、
「利益が出たら○%を分配する」
と契約書に書いたとします。

でも、利益がいつ出るのか、どのように計算するのかが決まっていなければ、この条項は実際には機能しません。

下手をすると、後から
「そんなつもりじゃなかった」
「言った・言わない」
のトラブルに発展する可能性もあります。

契約書は、あくまで事業の設計図ができてから、最後に
「決めたことを書き留める」
もの。

いきなり契約書を作るのは、設計図なしで家を建てるようなものです。

どこにドアをつけるかも決まらずに、いきなり工事を始めたら、あとで大工さんと揉めることになりますよね?

「行き当たりばったりの博打」を避けるために

これらをすっ飛ばして契約書だけ交わすのは、まさに
「行き当たりばったりの博打」
です。

契約書を作っただけで安心してしまい、実際には何の準備もできていない。

結果として、途中で資金が尽きたり、トラブルが発生したりして、事業が失敗に終わるケースは少なくありません。

大事なのは、
「契約書を作ること」
ではなく、
「事業を成功させること」。

そのためには、まずしっかりと計画を立て、リスクを見極め、シナリオを描くことが先決です。

契約書は、そうした準備のすべてが整ったうえで、最後の仕上げとして作るものなのです。

事業を博打にしないために、順序を守りましょう。

契約書は、最後です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02112_海外DDの落とし穴_弁護士交渉と「契約の壁」、正論では進まない現実

海外で法務デューデリジェンス(DD)を進める際、
「資料収集の責任は誰が負うのか?」
という問題が浮上することは珍しくありません。

例えば、依頼者としては、弁護士事務所との契約(Engagement Letter)に、資料収集の役割分担を明確にしておきたい。

しかし、弁護士側は
「基本的に資料収集は依頼者の責任であり、我々がそれを義務として負うことは難しい」
と主張することが多いのです。

このやり取り、一見すると企業とコンサルタントの契約交渉のようですが、実態は異なります。

依頼者が資本主義のルールに基づいて合理的な要求をしているのに対し、弁護士側は
「契約に書いていないことはやらない」
と頑なな態度を取りがちです。

「成果に対する責任を負わず、決められた手順だけを淡々とこなす」
という姿勢は、まるで旧ソ連の官僚のようにも見えます。

「契約」を盾に取るか、「成果」を目指すか

確かに、弁護士の立場としては、契約上の義務を超えて動くことは避けたいでしょうし、フィーの上限(CAP)が設定されている以上、追加の業務が発生すればコストが増えます。

だからといって、
「必要な資料がないなら何もできません」
と突っぱねるだけでは、依頼者が必要とする情報が得られず、DDの目的が果たせなくなります。

特に海外案件では、現地担当者が
「資料を出さない」
「なくしたと言い出す」
ことも十分に考えられます。

その場合、弁護士側にも一定の柔軟な対応が求められるはずです。

しかし、
「契約にないからやらない」
と言われてしまえば、依頼者は手も足も出なくなります。

では、どうすればよいのでしょうか?

「仕事を進める」ための落としどころ

現実的な解決策としては、
「現地で一般に収集可能な資料については、現地担当者が収集する」
といった一文を契約に入れるか、少なくともメールでその旨のコミットメントを得ておくことが考えられます。

それ以上に細かく
「責任」
を明記しようとすると、
「追加フィーが必要だ」
と言われるのは目に見えています。

資本主義社会の弁護士なら当然のことですが、ソ連の役人相手に
「ちゃんとやれ!」
と詰め寄っても、結局は
「できません」
「契約にないので」
と言われて終わるのと同じ構図なのです。

だからこそ、契約上の責任にこだわるよりも、可能な範囲で柔軟に対応できる形で話をまとめ、まずは実務を進めることが重要です。

もし問題が発生したら、そのときに適切な対応を考える方が、よほど効率的でしょう。

「正論をぶつけるだけでは仕事は進まない」
というのは、資本主義でも社会主義でも変わらない真理です。

適切なバランスを見極めながら、実務を前に進めることが何よりも大切です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02111_訴訟費用を青天井にしないために。海外弁護士と戦う心得

契約書のレビューを依頼する際は、質問の仕方が重要です。

特に、経済条件の設計がゲームプランの鍵を握る場合、経済合理性が維持されている限りは問題ありません。

しかし、訴訟になったときの条件を明確にしておかないと、大きなリスクを抱えることになります。

たとえば、
「月額●●●●ドルで弁護士費用を支払う」
とだけ決めていると、訴訟が延々と続く可能性があります。

特に海外の弁護士は、日本の弁護士とは報酬体系や仕事の進め方が異なります。

多くの場合、時間単位で課金されるため、訴訟が長引くほど彼らにとっては利益になる構造になっています。

つまり、何も手を打たなければ、
「可能な限り長く報酬を得る」
方向に進んでしまうのです。

これでは、いつ終わるかわからないマラソンレースに参加しているようなもの。

そのため、
「総額キャップ」
を設定することが不可欠です。

「2年続こうが、3年続こうが、総額●万ドルで打ち止め。あとはそちらの負担で遂行」

こう決めておけば、訴訟のコストをコントロールでき、現地弁護士にも
「どこまでが限界か」
を示すことができます。

さらに、交渉時にも
「こちらはこの金額までしか払わない」
と明確に伝えられるため、無駄な引き延ばしを防ぐことができます。

また、訴訟の際の条件が決まらないまま交渉に入ると、和解が破談したときに速やかに訴訟へ移行できなくなります。

戦費(ファイトマネー)がない状態で本格的な戦いを始めると、
「こいつら、本気で戦うつもりがないな」
と相手に見透かされ、交渉の主導権を奪われることになります。

ですから、あなた自身、こう問いかけてください。

1 訴訟になった場合の総額予算上限はいくらか? それを明確にせよ。

2 これが決まらなければ契約はできない。 訴訟に突入した後、「ファイトマネー(弁護士費用など)の都合で途中でやめる」などと言っていたら、相手にナメられるぞ。

この部分を決めずに契約してしまうのは、剣も盾も持たずに戦場に立つようなものです。

相手に
「どうぞ好きなだけ攻めてください」
と言っているのと同じ。

たとえば、ケビン・コスナー主演の映画なら、雇われた弁護士は仕事をダラダラと引き延ばし、●●●●ドルをできるだけ長くもらう方向で動くでしょう。

それを防ぐためにも、
「どこまで支払うのか」
を事前に決める必要があります。

契約の前に、必ず総額キャップを設定すること。

それが、海外訴訟で
「勝てる体制」
を作るための第一歩です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02110_企業法務ケーススタディ:遠慮が命取り!?友人との取引で売掛金を滞納された…取引先との売掛金トラブル解決法

<事例/質問>

私は小さな会社を経営しており、友人でもある取引先に500万円の売掛金を請求しています。

しかし、支払期限を過ぎても入金がなく、何度か催促しましたが、
「もう少し待ってほしい」
と言われるばかりで、一向に支払われる気配がありません。

そこで、法的手段を検討しています。

知人に相談したところ、
「まずは内容証明郵便を送って請求し、それでもダメなら訴訟を考えるのが一般的」
と言われました。

ただ、相手側はすでに弁護士をつけているとの情報もあります。

こういう場合、内容証明を送っても効果があるのか、それともすぐに訴訟を起こしたほうがいいのか?  どちらが最善の方法なのか迷っています。

費用もかかるため、できるだけ負担を抑えて、確実に回収する方法を知りたいです。

このような場合、どう対応すればよいのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

法的なトラブルに直面したとき、まず考えるべきは
「示談で解決できるのか、それとも裁判を起こすべきか?」
という選択肢です。

どちらを選ぶかによって、展開は大きく変わります。

1 示談交渉は有効か?

一般的に、内容証明郵便を送付して示談交渉を試みることは、裁判の前段階として有効な手段です。

相手が弁護士をつけない状態で、直接交渉できる場合、こちらが主導権を握ることができ、スムーズに解決することもあります。

しかし、相手方がすでに弁護士をつけているのであれば、こちらが内容証明を送っても、相手の弁護士が冷静に受け止めるだけで、交渉が進まない可能性が高いでしょう。

むしろ、
「示談交渉に応じるつもりはない」
という態度を明確にされてしまうリスクもあります。

つまり、示談交渉を試みたところで、
「空振り」
に終わる公算が大きいということです。

2 訴訟提起のメリット

一方で、訴訟を起こすとなると、相手方も無視することはできません。

裁判は法的拘束力を伴うため、被告となった相手は対応せざるを得なくなります。

また、訴訟が進む中で、裁判所が和解の機会を設けることも多く、訴訟を通じて和解に持ち込むことも可能です。

特に、今回のケースでは相手方が開業している以上、今すぐに倒産する可能性は低いと考えられます。

そのため、訴訟を起こしても回収不能になるリスクは現時点ではそれほど高くないでしょう。

また、請求額についても、500万円プラス法定利率(6%)の遅延損害金を請求できます。

もし仮に12%の合意があったとしても、それを証明する証拠が見当たらないのであれば、残念でしょうが、商事法定利率の6%を適用するのが妥当です。

3 訴訟提起にかかるコストとリスク

もちろん、訴訟を起こすには、弁護士費用や裁判費用がかかります。

着手金を支払う必要があるため、その点も考慮しなければなりません。

ただし、訴訟で勝訴すれば、判決に基づいて強制執行を行うことができるため、回収の可能性は高まります。

最大のリスクは、相手方が途中で倒産してしまうことです。

現時点では開業を続けているようですが、営業力がないのに無理に開業した結果、財務状況が悪化している可能性もあります。

この点は慎重に見極める必要があります。

4 結論—内容証明で示談交渉、その後、訴訟提起

まずは内容証明での示談交渉を試み、相手が弁護士をつけていて示談交渉に応じないようであれば訴訟提起、という流れが、合理的でしょう。

裁判を起こすことで、相手にプレッシャーを与え、和解の機会を作ることも可能です。

取引先が友人ということで、遠慮があったのかもしれませんね。

しかし、売掛金が500万円になるまで放置した結果、回収するのに資源(カネ・時間)を費消することになってしまいました。

これは自招の結果です。

高い勉強代だと割り切ったほうが、決断もできるでしょう。

着手金に問題がなければ、すぐに内容証明による示談交渉、そして、訴訟を進める準備を整えます。

報酬契約と訴訟委任状を用意します。

迅速に手続きを進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02109_一般民事事件:最高裁に上告された? でも焦るな! “放置”が最強の戦略

一般民事事件で、ある日、クライアントから
「最高裁に上告されました!」
と相談がありました。

まあ、よくある話です。

とはいえ、上告された側としては気になりますよね。

「相手はどんな理由で上告してきたのか?」
と。

そこで、上告理由書(正式には「上告受理申立理由書」)を入手しようと、最高裁の担当書記官に問い合わせました。

すると、こんな回答が。

「弁論が開かれる場合には、副本(相手の書面のコピー)が送達されます。でも、それ以前に入手したいなら『送達申請』をしてください」

なるほど。

でも、ここでふと考えました。

「そもそも、この書面、見る必要ある?」

上告審は、基本的に“放置”でOK

最高裁の役割は、法律の解釈を統一すること。

つまり、
「この事件が日本の司法にとって重要か?」
という観点で判断されます。

単なる事実認定の争い(たとえば「Aさんがこう言った」「Bさんがこうした」みたいな話)を持ち込んでも、最高裁は
「いや、それ高裁で終わってるでしょ」
とスルーします。

実際、上告が受理されるのはごくわずか。

判例や学説が分かれている特別なケースでもない限り、反論書面を出すまでもなく、
「放置」
が最適解です。

つまり、そもそも最高裁での上告審は、法令解釈に重要な問題がある場合に限られ、事実認定を争うような主張は基本的に門前払い。

判例や学説が割れているような特殊なケースでない限り、反論書面を提出するまでもなく
「放置」
が最適解、ということなのです。

上告理由書の送達上申すら不要!  結論:「放置プレー」

そこでクライアントにこう説明しました。

「上告理由書の送達上申すらせず、放置プレーが一番」

クライアントも
「なるほど」
と納得。

とはいえ、
「万が一、上告が受理されたらどうします?」
という不安もあります。

でも、その確率は、“隕石が自宅に直撃するレベル”です。

その場合は、開き直りましょう。

ついでに宝くじを買いまくりましょうか。

まあ、隕石が家に落ちたら、その埋め合わせとして宝くじが当たるに違いない?! ですね。

上告不受理の決定はいつ出る?  →  最低3ヶ月、長ければ1年半

とはいえ、
「上告不受理決定がいつ出るのか?」
も気になりますよね。

こればかりは最高裁の調査官デスクの混み具合次第。

早くて3ヶ月、遅いと1年半かかることもあります。

これを聞いたクライアントは絶句していましたが・・・まあ、気長に待つしかありません。

まとめ:最高裁に上告されたら、まずは「放置プレー」

上告されたからといって、慌てる必要はありません。

上告審は「法令解釈の統一」が目的。事実認定の争いは門前払いされる。
判例・学説が分かれていない限り、反論書面は不要。基本は「放置プレー」。
上告受理される確率は隕石が自宅に直撃するレベル。
不受理決定までの期間は、最低3ヶ月〜最長1年半。

最高裁まで持ち込まれたからといって、大騒ぎする必要はありません。

冷静に状況を見極めて、必要なときに動けば大丈夫です。

それまでは、気長に待ちましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02108_企業法務ケーススタディ:契約の穴を塞げ!法務DDでボられないためのチェックポイント

<事例/質問>

海外法律事務所との法務DD契約について、Engagement Letter をご確認いただきたく存じます。

日付や宛先は変更予定ですが、本文の内容はこのままで進める方向です。

問題点や修正すべき点があれば、ご指摘ください。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

契約の穴としては、以下の2点が考えられます。

・「そちらが資料を出してこないから、やんねーよ」 というリスク
 → つまり、必要な資料の提供がスムーズにいかない場合、相手方が業務を進めず、その責任がこちらに押し付けられる可能性がある。

・「資料は揃ったけど、テーマは決まっていないから、そちらのニーズとは無関係に適当にやるよ」 というリスク
→ スコープが不明確なままだと、相手方が勝手な解釈で調査を進め、本来求めていたものとは違う成果物が出てくる可能性が高い。

この穴を防ぐためには、以下の2点を契約書に明記しておくことが重要です。

1 資料収集の責任分担(どちらが、どの範囲の資料を準備するのか)

2 スコープの明記(何を対象に、どの程度の深さで調査を行うのか)

もっとも、そもそもの話として
「こちらとして明確にイメージできていない成果物」
を求める形で契約すること自体が異常です。

これは、ICT導入に失敗する情報弱者企業 と同じ構造になっています。

たとえば、ICT導入で失敗する企業の典型例は、
「どのようなシステムが必要なのか」
を明確にせず、システム販売会社に丸投げしてしまうケースです。

「何を食べたいのか、いくらで、どこで食べたいのか」
を決められず、毎回レストランの店員に決めてもらっているような状態とも言えます。

結果として、
「お金はあるが、何がほしいかわからない」
という状態に陥り、高額なシステムを言われるがままに購入してしまいます。

これはまさに
「カモがネギと鍋と出汁をしょってやってきた」
状態。

こうなれば、食い物にされるのは時間の問題です。

法務DD契約も同じです。

契約の立て付けが曖昧なままだと、こちらの意図とは違う方向に進み、求めていたものが得られないどころか、余計なコストまで発生します。

「お金を払ったのに、よく分からない報告書を受け取った」
という最悪の事態を防ぐためにも、契約のスコープを明確にし、資料収集の責任を整理する ことが不可欠です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02107_企業法務ケーススタディ:17年勤務の産業医、突然の契約解除ー退職を拒否できるか?

<事例/質問>

17年前より、ある企業の健康管理センターで産業医として勤務しています。

当初は常勤医でしたが、その翌年に非常勤嘱託となり、その2年後、自宅での検査判定が仕事となりました。

週5日分のデータを、週1回受け取り、検査判定をしています。

給料明細には勤務日数20日前後/月と記載されており、厚生年金保険に加入しています。

そして、17年後の今年8月29日付けで、
「9月末日をもって非常勤委託契約を解除する」
という書面が書留郵便で届きました。

また、
「9月13日までに必要書類に記載し返送するように」
と指示されていました。

私は書面への記載を保留し、
「退職はしない。通常通りの検査データを送るように」
と伝えましたが、10月から仕事が送られてこなくなりました。

企業本社では、私が
「退職した」
ものとして扱われているようです。

私の希望は下記の2つです。
1 退職はしない
2 厚生年金保険への加入を継続したい

このような状況で、私は
「自主退職しない」
と主張できますか?

また、仮に退職を拒否した場合、企業側は
「解雇」
とすることになるのでしょうか?

私の主張は通るのでしょうか?

ご相談させていただきたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

勤務形態によりますが
「労働者」
としての雇用契約であれば、解雇を争うことが可能です。

相談者は17年間にわたり勤務し、勤務日数も月20日前後、さらに厚生年金保険にも加入していることから、
「労働者」
としての側面が強いと考えられます。

その場合、会社側の一方的な契約解除は
「解雇」
にあたり、労働契約法の規定に基づいて争う余地があります。

解雇には、
「客観的に合理的な理由」
と「社会通念上の相当性」
が必要です。

しかし、今回のケースでは、事前の十分な説明もなく、突然の書面通知のみであることから、不当解雇の可能性が高いです。

企業側が
「退職扱い」
としている点も問題で、相談者自身が
「退職の意思表示」
をしていなければ、退職とは認められません。

したがって、次のような対応を取ることをおすすめします。

・退職届や契約解除の書類にはサインしない。
・会社に対し「解雇理由証明書」を請求する。
・厚生年金保険の資格喪失手続きが進められているか確認し、不当であれば社会保険事務所に相談する。
・労働局や弁護士に相談し、法的手続きを検討する。

相談者の勤務実態によっては、
「請負契約」
とみなされる可能性もありますが、長期間の継続勤務や厚生年金の加入実績から見て、労働契約としての要素が強いと考えられます。

このまま泣き寝入りする必要はありません。

一度、相談にいらしてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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