02052_機密漏洩_その1

機密漏洩については、裁判所や紛争実務の専門家の間では
「単なる愚痴」
として捉える傾向があります。

長年の研究や製造を通じて培われた技術や、巨大企業の根幹を支える高度な知識が関わるケースでは、裁判所もきちんと評価します。

しかし、ほとんどの中堅・中小企業間の紛争で機密漏洩が問題となっても、裁判所は
「犬も食わない、猫もまたぐ」
といった程度の口喧嘩と見なすことが多いのです。

裁判所が機密漏洩を真剣に取り扱うためには、被害者側は、その
「機密」
が、
・具体的に何の情報で、
・それが価値があり特異なものであるかを明確にし、
・もしそのように重要なものであれば、それに相応する管理や保全がなされていたか、
を示さなければなりません。

また、それにも関わらず漏洩した場合、
・どのような経緯でそれが可能になったのか、
・例えば「ルパン三世」や「キャッツアイ」のような泥棒でも雇わなければ成し得なかったのか、
・そしてそのような事態が起こったにも関わらず、新聞を賑わす刑事事件になっていないのはなぜか、
などを説明する必要があります。

そうでなければ、
「おそらく曖昧で適当な関係の下で、いい加減なビジネスをしていたら寝首をかかれた、裏切られた、というような痴話喧嘩がこじれたものだろう。それは自己責任、自業自得であり、裁判所に持ち込まれても『どっちもどっち』としか言えない」
このような裁判官の心の声が聞こえてきそうな
「紛争形態」
と見なされるでしょう。

経験の浅い弁護士が
「これはひどい、訴えましょう。絶対に勝ちます」
と、当初は勢いよく訴え出るケースがありますが、これは単に、裁判所の実情や相場観を知らない無知・未熟からくるものです。

最終的に、そのような弁護士は依頼者の信頼を失い、
「着手金泥棒」
と罵られることになります。

そのような愚劣な営業トークに振り回されない方が賢明です。

守秘義務違反=ただの寝言、愚痴

というのは、経験豊富な知財弁護士の相場観です(無論、デフォルト設定上の相場観であり、例外もありえます)。

同様に、コピペやパクリも、デッドコピーケースでない限り、違法性を立証するのは難しく、独立して違法認定される可能性は低いです(コメダ珈琲事件は、むしろ、かなり踏み込んだレアなケースです)。

白黒はっきりしない混戦状況の場合、担当する弁護士は経験則から様々な推測をしますが、確実なことは言えません。

正解や定石がない中で、試行錯誤しながら最善解、現実解を見つけるためにゲームチェンジを繰り返す、不安定なプロセスとなります。

最終的には、クライアントがビジネスや利益・リスクを考慮しながら態度決定課題として、果断に判断を下すしかありません。

ただし、競業先に加担していたり協力していたり、あるいは機密漏洩した本人が主体で関与していることが明確である場合、その事実が裁判所の判断に被害者側に有利に働く可能性もあります。

要するに、機密漏洩に関する争いにおいては、機密の定義と特定、保全の方法や管理体制をしっかりと根拠づけて議論しなければ、裁判所は
「どうせ愚痴や寝言だろう」
という偏見・前提認識を持ちますので、被害者側にとって
「相当難易度が高い」
争いになるということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02051_法的対処プロジェクトに対する姿勢

当事務所が弁護費用を提示する際、その金額がクライアントの予算を超えている場合には、以下のように説明いたします。

1 法的紛争の本質

ほとんどの法的紛争には
「正解も定石もない」
という点が特徴です。

特定のルーティンケース(明確な借用書を前提とした債権回収や、手続きが確立された倒産処理)を除き、各ケースは独自の展開を持ち、それに対応する唯一無二の解決策は存在しません。

状況認識、状況判断、相手の出方、裁判所の反応、そして最終的な展開予測まで、全てが予測と選択の連続です。

2 状況認知と判断

我々弁護士は、以下の要素を認識し、解釈し、展開推移を予測します。

(1)状況の認識と危険の認知
(2)ケアすべき課題
(3)相手方や裁判所の感受性とリアクションの予測

この
「正解も定石もない」
ゲームにおいて、可能な限り広範囲の選択肢を提供し、その選択に基づいて最善の方針を追求します。

ただし、我々が正解を知っているわけでもなく、定石を把握しているわけでもありません。

むしろ、クライアントには、我々の慎重で保守的な判断が
「度を越すくらい慎重」
と映ることが多いですが、これがしばしば正確であると感じています。

3 高い見積もりの理由

慎重で深刻な状況認識と判断は、より多くの資源を必要とし、それが費用に反映されます。

これは、クライアントの安全を最大限に守るための措置です。

しかし、クライアントがもっと簡単で低予算な解決策を選びたい場合、その意向も尊重します。

我々は、クライアントに選択肢を提供し、予算内で最善を尽くすことを誇りとしています。

4 選択の自由と責任

弁護費用の見積もりは、当事務所の状況認識に基づく1つの提案に過ぎません。

最終的な判断はクライアントが行うものであり、その選択に対して我々は全力で対応します。

たとえば、”Bー29”を撃墜するための”対空ミサイル”を提供いただければ、それを運用して最大限の効果を追求します。

しかし、”竹槍”しか用意できないのであれば、それを使って最善を尽くします。

ただし、論理的・構造的に不可能な命題を提示される場合、その結果責任もクライアントに帰属します。

5 予算策定プロセス

予算策定は、クライアントの判断材料を提供し、協議を重ねながら進めます。

初期段階では、保守的な見積もりを提示し、そこから予算を削る形で進める方が、効率的で現実的です。

このプロセスを通じて、クライアントに多くの選択肢を提供し、その中から最適な解決策を見つけ出すことに重きをおいています。

5 結論

提案した弁護費用は、当事務所の経験と論理的な予測に基づくものです。

最も保守的で重篤な状況認識を前提としたプランから、クライアントの選択に応じた柔軟な対応を行います。

法的対処プロジェクトには正解も定石もなく、すべては選択課題です。

我々はクライアントの選択を尊重し、その選択に基づいて最善を尽くしますが、結果の責任はクライアントに帰属します。

この点を理解いただき、共に最善の解決策を追求していくことを望みます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02050_企業法務ケーススタディ:外国転売を疑う大量購入者への対応策

<事例/質問>

ある客が、店舗に来店し、外国にいる知り合いらしい人とやりとりをしながら、製品を大量購入しています。

同じものを大量購入しているわけではなく、数個ずつ購入していますが、あらゆる商品を購入していきます。

もし、外国での転売をしているなら、抑止する方法はあるでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

売買契約は当事者間の意思の合致が必要であり、基本的には誰にモノを売るかは自由です。

したがって、単純に
「売らない」
という選択肢も考えられます。

例えば、
「当店では、○○点以上のお買い上げはご遠慮いただいております」
といった対応が考えられます。

ただし、法律上のリスクとして、独禁法違反
「単独の直接取引拒絶」
があります。

公正取引委員会ウェブサイトによれば、売主が独自の判断で特定の相手に対して販売を拒否することは、原則として独禁法違反にはなりません。

しかし、市場における有力な事業者が競争者を市場から排除するような場合には、独禁法違反となる可能性があります。

例えば、以下のような状況です。

・Aと競合する製造業者(輸入業者)Xがいる。
・Aは、自分の商品を売る相手BがXとも取引することを嫌がり、Xの市場成長を阻止したいと考える。
・AはBに対して
「Xと取引するなら、うちの商品は売らない」
と言う。
・BはXから商品を買いたいが、仕方なくAに従う。

このような状況であれば、独禁法違反の可能性が生じます。

そのような事情がない限り、原則として
「誰にモノを売るのかは自由」
となります。

しかし、定価で購入している客から
「なぜダメなのか」
「不合理だ」
とネット上で騒がれるリスクもあります。

その場合に備えて、次のようなストーリーを準備しておくことをおすすめします。

1 当店の商品は非常に少量で、多種多様な品揃えをしています。
2 商品の回転率が早く、見逃すと同じ商品に出会えないことが多いです。
3 多くのお客様から「あの商品はもうないのか?」と問い合わせを受けますが、いつも「もう売れてしまいました」と謝っています。
4 しかし、一部の方が当店の商品を大量に購入し、その後、オークションサイトなどで定価以上の価格で販売している事例がいくつか発見されています。
5 一般のお客様は「あの商品を買おうか迷っている間に他の人に買われてしまい、後で高値で売られているのを見て悔しい思いをする」という状況に陥っています。
6 当店は、そのような転売目的での大量購入者よりも、一般のお客様を大事にしたいと考えています。

このような背景説明を準備しておくことで、転売抑止の正当性を示すことができます。

業界の慣習やお客様の傾向を考慮し、最も納得しやすいストーリーを作成することが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02049_有経営者の有事対応:混乱から抜け出すための指針

経営者が直面する有事の状況において、
「いきなり、問題が一気に押し寄せてきた」
と相談に来ることは少なくありません。

このような状況では、混乱した頭脳で思考停止に陥り、時間を無駄にしてしまうことが多いです。

特に、事業承継した社長(創業者の長男)が直面する問題は複雑で、多岐にわたります。

例えば、

・創業者の高齢による経営への悪影響
・アルバイトの大量退職
・従業員のストライキの兆し
・組合との対立
・事業承継直後の会社状況の把握不足
・受注抑制によるその場しのぎ
・親族株主からの会社清算の圧力
・業界環境の悪化と将来の不透明感

これらの問題に対して、社長は
「適当なところで会社を縮小もしくは操業停止しよう」
と考えることもあります。

しかし、ステークホルダーと
「闘わないで縮小清算」
する方法があるかどうか悩むことも多いです。

このような状況下で、経営者が混乱から抜け出すためには、まず
「環境認識ないし原理理解」
を改善する必要があります。

環境認識と原理理解の改善

1  全員の希望を叶えることは無理 

有事において「全員に全ての希望を叶える」という状況は不可能です。これは歴史的にも経験的にも証明されています。
「家族を円満に崩壊させることなく、負債を増やさず、財産を守る」
というのは妄想です。

目の前の有事を乗り越えるためには
「誰かの、一部または全部の利益」
を犠牲にする必要があります。

不平や不満をサンドバッグとして受け入れ、場合によっては反対派を粛清することも考慮しなければなりません。

2  ダメージコントロール 

有事にはダメージがつきものです。

陣羽織の汚れや刀の刃こぼれを気にしていては戦争はできません。

しかし、自分が死ぬことが確実なら戦争は辞めるべきです。

要するに、ダメージコントロールをしてジャッジすることが重要です。

制御するためには、ダメージや課題を具体的に特定し、明確にする必要があります。

「なんとなく怖い」

「なんとなくおそろしい」
という漠然とした恐怖感に基づいて行動すると、際限のない譲歩により制御不能な状態に陥ります。

3 選択肢への還元

「経営への悪影響」

「会社を縮小もしくは操業停止」
「立ちいかなくなる」
などの抽象的な表現は避けるべきです。

選択肢を豊富に持ち、それぞれの選択内容とそのプロコンを明確にすることが重要です。

選択内容やそこから見込まれる予測や帰結を抽象化せず、具体化することが必要です。

また、未経験の内容を選択肢に含める場合は、徹底的にスタディーすることが求められます。

総括

経営者が有事の状況で思考停止に陥らないためには、
「環境認識ないし原理理解」
を改善し、現実的で具体的な選択肢を見据えた判断を行うことが重要です。

全員の希望を叶えることが無理である現実を受け入れ、ダメージコントロールを適切に行い、具体的な選択肢を基に冷静なジャッジを行うことで、有事の状況を乗り越えることができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02048_通販サイト立ち上げ話がキャンセル料問題に発展(教えて!鐵丸先生Vol. 60)

<事例/質問>

友人から紹介された方がネットに詳しいということで、通販サイトを立ち上げてみる、という話になりました。

ですが、あまりその方はそれほどネットや通販に詳しいわけではなく、どこかに外注して通販サイトを作るということになってきて、見積もりも桁が違うものが出てきました。

そこで、話を取りやめにしたいと言いましたら、逆ギレされて、キャンセルするにも迷惑料を要求されています。

どうも知り合いに弁護士がいるようで、モメたらすぐにでも裁判を起こす、と息巻いています。

ここは、穏便に済ませたほうがよいでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

このような場合、相手から
「訴える」
と言われると、驚いてしまうかもしれませんが、基本的には無視することが正しい対応です。

脅し文句に屈して相手の要求に応じると、無駄にトラブルが大きくなりかねません。

「どうぞ、訴状をお待ちしております」
と突き放す姿勢が最も賢明です。

なぜなら、実際に訴訟を起こすことは相手にとって非常に高いハードルがあるからです。

訴訟を提起する際には、まずその具体的内容を
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
する必要があります。

具体的には、
「いつ、誰が、どこで、どうして、どのようなことを行い、それがどのような法律要件に該当し、損害賠償請求権を生み出すのか」
を明確にすることが求められます。

また、賠償額をいくらに設定するかという問題もあります。

1万円、10万円、100万円、それとも1億円か。

賠償額が大きくなるほど印紙代も高くなり、費用がかさみます。

さらに、主張する事実に関する証拠を揃える必要があります。

証拠をどのように整理し、提出の準備を整えるかが非常に重要です。

この準備作業を独力で行うのは難しく、弁護士に依頼する場合、その費用も考慮しなければなりません。

また、仮に一審で勝ったとしても、相手が控訴すれば再び弁護士費用が発生し、最高裁まで争うことになればさらに費用が増します。

こうした疑問や課題が次々と浮かび上がり、それらをクリアするには莫大なコストと労力が必要です。

日本の民事裁判では賠償額の相場が低く、訴訟を起こしてもその費用を回収するのは難しいことが多いです。

このため、多くの人は最終的に裁判を諦めることになります。

相手が
「訴える」
と言った場合、
「どうぞ、訴状をお待ちしております」
と冷静に対応するのが最も賢明です。

相手が実際に裁判を起こす可能性は非常に低いため、恐れる必要はありません。

ただし、今後のトラブルを避けるためにも、事前にしっかりと契約内容を文書化し、相互に確認しておくことが重要です。

このように、相手の脅しに動じず、冷静に対処することが大切です。

事前の準備と冷静な対応が、トラブルを避ける鍵となります。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/83109

※「教えて!鐵丸先生」の収録は、上記Audeeのサイトの4番目のコンテンツ「コーナー:『教えて!鐵丸先生~エンディング』」で聴くことができます

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02047_ビジネス弁護士が教える起業を考える際の重要ポイント(教えて!鐵丸先生Vol. 59)

<事例/質問>

起業を考えています。

ざっくりした相談ですが、ビジネスに詳しい弁護士の先生のお立場から、注意すべき点があれば、ご教示ください。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

まず、起業に際して重要なのは
「お金を愛せよ」
ということです。

世間では
「お金は汚いもの」
という価値観が広がっていますが、これは非常に偏った見方です。

多くの人が幼少期に親や教師から
「お金に執着するのは良くない」
「お金を追求するのは卑しい」
と教えられますが、これは偏見に過ぎません。

成功した起業家やビジネスマンで
「お金は汚い」
と考える人は皆無です。

彼らはお金を非常に大切にします。

例えば、成功者たちはお金を単なる手段としてではなく、夢や目標を実現するための重要なリソースと見ています。

お金持ちは皆、お金を殊の外大事にします。

中には、家族よりも、自分の命よりも大事にする人もいます。

それこそ、死ぬ直前までお金を握りしめるお金持ちもいます。

「お金は汚い」
という考えは、往々にしてお金を持たない人の自己正当化に過ぎず、その偏見を捨てることが成功への第一歩です。

次に、
「常識を疑え」
という姿勢が必要です。

成功を目指すためには、一般的な
「常識」
に縛られていてはなりません。

常識とは多くの場合、他人が作り上げた偏見や先入観の集合体に過ぎません。

アインシュタインの言葉に
「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクション」
というものがあります。

これは、常識が必ずしも正しいわけではないことを示しています。

大きな決断をする際には、どんな
「常識」
や前提も疑うべきです。

特に
「ビジネス社会や資本主義社会の弱者」
としての視点ではなく、
「常識など屁とも思わない、百戦錬磨のビジネスマン」
のように考えることが求められます。

成功したビジネスマンは常識に囚われず、自分の信念に基づいて行動します。

彼らは、常識を超えた新しいアイデアやアプローチを試み、独自の道を切り開いています。

成功を目指すなら、幼少期からの
「マジョリティ」
の雑音を排除し、模倣すべき思考や価値観を選り抜き、それを純化・強靭化していくべきです。

間違っても
「経済社会や資本主義社会の弱者」
に甘んじている人々の偏見に囚われてはいけません。

成功した、強く、富裕な
「常識など屁とも思わないマイノリティ」
に至るためには、自分の信念を持ち続ける強さが不可欠です。

このように、

「お金に対する正しい理解」

「常識を疑う姿勢」
を持つことが、起業成功の鍵となります。

成功には柔軟な思考と強い意志が必要です。

これらの要素をしっかりと持つことで、起業成功への道が開けるでしょう。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/81540

※「教えて!鐵丸先生」のコーナーは、番組の4番です

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02046_海外で流行のサービスコンセプトの名称を使ってビジネスを展開したら商標権侵害だからビジネスを停止せよと通知が届いた(教えて!鐵丸先生Vol. 58)

<事例/質問> 

日本ではまだそれほどメジャーではないものですが、海外ではすでに流行り始めているサービスコンセプトの名称を使って、ビジネスを展開しはじめたところ、
「その名称はすでに商標登録しているので、商標権侵害だから、即刻 ビジネスを停止せよ」
とやたらと弁護士の名前が数多く並べ立てられている内容証明郵便による通知書が来て、社内は大騒ぎになっています。

すぐにお詫びを入れに行ったほうがいいでしょうか。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

商標登録した権利者には、その商標を独占的に使用する権利が認められています。

これを侵害された場合、侵害行為を止めさせるための強力な
「武器」
を使用できます。

具体的には、無断で他人が土地に入ってきた場合に
「出て行け」
と言うように、侵害行為の差止め請求ができ、損害が発生していれば
「罰金を払え」
と損害賠償を請求できます。

さらに、
「侵害行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な措置の請求」
という手段もあります。

これは、たとえばエルメスの偽物が作られた場合に、その偽物をすべて廃棄させるようなものです。

今回の場合、
「海外ではすでに流行り始めているサービスコンセプトの名称」
ということなので、その名称が一般的に使用されている普通名称である可能性があります。

普通名称は識別性がないため、商標として保護されないことがあります。

これは、
「これはあんたの土地ちゃう、みんなが使える公共の広場やで」
というような状況に似ています。

したがって、相手の商標自体が無効である可能性があり、その場合は商標の登録を取り消す手続き
「無効審判」
を請求することが考えられます。

通知書に驚いてすぐに謝りに行く必要はありません。

まずは相手の商標が本当に有効かどうかを慎重に検討しましょう。

商標が普通名称などで識別性がない場合、無効審判を請求して相手の商標登録を無効にすることができるかもしれません。

以前、私が関わったケースでも、相手が商標登録を盾にして脅してきましたが、こちらが
「その商標は普通名称で識別性がないため無効だ」
と主張すると、相手は譲歩しました。

結果として、ライセンス契約を結び、損害賠償を受け取ることができました。

このように、すぐに謝罪するのではなく、まずは冷静に法的な立場を確認し、相手の主張が有効かどうかを見極めることが重要です。焦らずに対策を講じましょう。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/79717

※「教えて!鐵丸先生」のコーナーは、番組の4番です

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02045_登録した商標を無断で使って他人が書籍を出版している!(教えて!鐵丸先生Vol. 57)

<事例/質問> 

登録した商標と同一のネーミングで、赤の他人が勝手に書籍を出版しています。

登録の際に指定した商品の区分にも書籍制作は入っています。

勝手にネーミングを使った書籍の紹介と称して、パクった人間がテレビに出演したりもしています。

どういう対策を取れますか。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

商標登録をしている権利者には、その商標を独占的に使用する権利が認められています。

この権利を侵害された場合、権利者は侵害者に対して法的手段を取ることができます。

たとえば、無断で土地に侵入してきた不審者に対して
「出て行け」
と言うのが侵害行為の差止め、
「カネを払って償え」
と言うのが損害賠償請求です。

これらは権利を守るための強力な
「武器」
となります。

今回の場合も、まずは相手に対して商標権侵害を指摘し、警告を行うことが必要です。

商標権侵害に対する具体的な対応策としては、侵害行為の差止めや損害賠償請求が考えられます。

また、
「侵害行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な措置の請求」
という法的措置もあり、これはたとえば違法に作られた商品をすべて廃棄させるといったものです。

しかし、商標の無断使用者は、自分が他人の権利を侵害していることに気づいていないことが多いです。

そのため、
「あなたが使用している名前は私の商標を侵害しています」
ということをまず知らせることが重要です。

これを伝えるだけでも、相手が侵害を認識し、話が進むことがあります。

この武器を使った警告と話し合いで解決を目指し、話し合いでも埒があかない場合には、訴訟を提起することになります。

しかし、訴訟を起こすと労力とコストが大きくかかるため、現実的な解決策として、ライセンス契約を結んで使用料を得る、または商標権を買い取ってもらうなどの交渉をして、落とし所を探すのが現実的な手法です。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/77667

※「教えて!鐵丸先生」のコーナーは、番組の4番です

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02044_裁判で裁判官同士の意見が割れて大喧嘩・トラブルになることはないの?(教えて!鐵丸先生Vol. 56)

<事例/質問> 

裁判で、裁判官同士の意見が割れて、大喧嘩したり、モメてトラブルになったりしないんですか?

微妙な裁判とか、普通に意見が割れて、揉めそうな気がするのですが。

あるいは上司みたいな方とか東京高裁とか最高裁とか地裁所長さんから
「君、あんな判決だめだよ。出世出来ないよ」
と嫌味言われるとかないんでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

裁判官は完全に独立した存在であり、上司や親会社のような存在はありません。

判断内容について誰からも文句を言われることはなく、逆に上司の立場の人が裁判官に干渉することは厳しく制限されています。

憲法第76条第3項には
「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」
と規定されており、裁判官は誰の命令にも従わず、独立して職務を遂行することが保障されています。

この独立性は絶対的であり、地裁のヒラ裁判官であっても、地裁所長や高裁長官、さらには最高裁長官、内閣総理大臣や天皇陛下、アメリカ合衆国大統領であっても、裁判官の判断に介入することは許されません。

裁判官は、まさに
「天下御免の超法規的存在」
の如く、誰の指示も影響も受けずに、地裁所長に媚びへつらうことなく、高裁長官の意向も無視して、最高裁の老人たちの感受性も踏みにじり、総理大臣や国会議員など歯牙にもかけず、天皇陛下やアメリカ大統領に楯突く結果になっても、自分の経験則と感受性に基づいて判決を下すことができるのです。

日本の裁判制度においては、約3000人の裁判官がそれぞれ独立した
「専制君主」
として法を解釈し運用する権限を持っており、この体制が実際に存在しています。

裁判官は、まるで各自が小さな王国を治めるかのように、独立した権限で法律の解釈と事件への適用を行います。

このため、裁判官同士の意見が割れることはありますが、それが直接的なトラブルや喧嘩に発展することはほとんどありません。

むしろ、異なる視点からの議論が行われることで、より公正で慎重な判断が導かれるのです。

歴史的な例として
「平賀書簡事件」
があります。

1970年代に札幌地裁で進行していた
「長沼ナイキ訴訟」
に関連して、札幌地裁所長だった平賀健太氏が、担当裁判長の福島重雄氏に訴訟判断についてのアドバイスをメモで渡しました。

この行為は、裁判官の独立性を侵すものとして大問題となりました。

平賀所長の行動は、憲法第76条第3項に違反するものであり、後に注意処分を受けました。

「長沼ナイキ訴訟」
とは、航空自衛隊が北海道にナイキ地対空ミサイル基地を建設しようとした際、地域住民が保安林解除の違法性を訴えて提訴した事件です。

住民は
「保安林解除は違法であり、基地建設には公益性がない」
と主張しました。

この事件で福島裁判長の合議体がどのような判断を下すかが注目されていましたが、平賀所長は
「原告の訴えを却下するように」
と示唆するメモを渡したのです。

この事件で注目すべきは、福島裁判長が平賀所長の指示を無視し、逆にそのメモを公開したことです。

結果として
「平賀書簡問題」
として社会的に大きな話題となりました。

この事件は、裁判官が独立して職務を行うことの重要性を再確認させるものとなりました。

このように、裁判官は独立して職務を行うことが求められ、外部からの干渉を受けることなく、自らの良心と法律に基づいて判断を下します。

日本の裁判制度において、裁判官はその独立性と専門性をもって法の公正な適用を担う役割を果たしています。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/76125

※「教えて!鐵丸先生」のコーナーは、番組の4番です

【補足】
番組では、
「裁判長の意見が重視される傾向があり、陪席裁判官が裁判長の意見を尊重する形で判決が出されることが多いとされている」
という、筆者を含めた法曹一般の経験則に基づき、お話しております。
ただ、法律上、形式上、理論上は、
「合議割れ」
という事態ないし状況を想定し、これに対する措置は規定されていますので、補足しておきます(上記のとおり、そのような現象が発生したことは、少なくとも筆者については、寡聞にして知りませんが)。

「合議割れ」
「合議割れ」
とは、裁判官が集まって行う合議審において、各裁判官の意見が分かれることを指します。
俗に
「合議割れ」
と呼ばれるこの現象は、裁判官たちが全員同じ結論に達しない場合に起こります。
合議審では複数の裁判官が1つの事件について話し合い、判決を出しますが、その中で意見が一致しないことも生じえます。

下級裁判所における合議割れの取り扱い
下級裁判所では、合議審の内容を秘密にしなければならないとされています(裁判所法75条2項)。
このため、形式上は意見の分かれた判決を出すことは認められていません。
実際に合議割れがあったかどうかは、担当裁判官以外の人には知ることができない仕組みになっています。

「合議割れ」が生じた場合の決定方法
下級裁判所では、裁判の結論は過半数の意見に基づいて決定されます(裁判所法77条1項)。
「請求認容という点については意見の一致をみたものの、認容するべき請求金額について3人の裁判官がそれぞれ異なる意見を持った」
という場合、数値については中央値を採用します。具体的には、1億円、100万円、1万円という意見が割れた場合、中央値である100万円が採用されます(裁判所法77条2項1号)。
平均値ではない点に注意が必要です。

刑事事件における「合議割れ」
刑事事件において、意見が3つに分かれた場合、被告人に不利な順に並べたときに真ん中の意見を採用します。
例えば、無期懲役、懲役5年、無罪という意見が割れた場合、懲役5年が採用されます(裁判所法77条2項2号)。
5人の裁判官の意見が3通り以上に分かれ、いずれも過半数に達しない場合も、中央値(真ん中)の意見が採用されます(裁判所法77条2項)。

最高裁判所における「合議割れ」
なお、最高裁判所では状況が異なります。
最高裁判所では、長官も含めて全ての裁判官が対等な立場にあり(裁判所法11条)、合議割れが明示された判決が出されることがあります 。
そして、法廷意見とは別に、各裁判官の個別意見(補足意見、意見、反対意見)を判決文に表示することが認められています。
これは、下級裁判所とは異なり、各裁判官の意見が公開され、モメている様子をあえて晒すことで、
「きちんと意見を戦わせてもらっているんだ」
と国民に納得してもらい、判決の透明性を高めるためです(下級審で同じことをやると、敗訴した当事者が「なんだよ、裁判官同士でモメてんだったら、もっと徹底的に調べろよ」と不満を募らせる原因となり、却って判決に対する信頼が低下し、上訴が頻発し、裁判所の機能にダメージが生じかねません。ですので、法律審である最高裁に限定している趣旨だと思われます)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02043_裁判所が下す判決で変な判決やおかしな判断はあるか?なぜ出るのか?(教えて!鐵丸先生Vol. 55)

<事例/質問> 

プロの弁護士として、裁判所が下す判決で、変な判決とかおかしな判断とかってありますでしょうか?

それってどうしてそんな判決が出るのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

裁判所の判決には、一般の感覚からすると変わったものやおかしな判断に見えるものが確かにあります。

これは、裁判官が独立して職務を行い、自分の判断で判決を下すことができるためです。

憲法第76条第3項では
「裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」
と規定されています。

裁判官はその良心に従って判断を下すことが求められており、誰の指図も受けません。

たとえば、私立小学校で学級委員を決める際に、生徒の住む地区によって投票権を不平等に配分する教師がいたら、その教師は解任されるでしょう。

しかし、日本の国政選挙では、鳥取県や島根県などの人口が少ない地域の有権者が、東京都や神奈川県などの都市部の有権者に比べて相対的に多くの票を持っています。

このような不平等が長年にわたり続いていますが、最高裁判所は
「違憲とは言えない」

「違憲だが重大ではない」
と判断しています。

このような判決が出る理由の1つは、裁判官が専門的な視点から法律を解釈し、判断しているからです。

法の専門家としての視点を重視することで、時には一般の感覚とずれることがあります。

その結果、
「変な判決」
と受け取られることがあるのです。

また、裁判官の選定プロセスも影響しています。

裁判官は司法試験に合格し、その後の研修を経て任命されますが、選挙で選ばれる国会議員とは異なり、民主的な基盤がありません。

そのため、国民の意見や感覚と異なる判決が下されることもあります。

さらに、最高裁判所の裁判官に対する国民審査は形だけのもので、実質的な影響力はほとんどありません。

裁判官は、独立して判断を下すことができる特権的な立場にあります。

これが、時に奇妙に見える判決を生む背景です。

たとえば、江戸時代の
「御用商人」
が幕府から特権を受け、他の商人とは異なる扱いを受けたように、裁判官もまた法の解釈において特別な権限を持ちます。

そのため、裁判官の判決が一般の常識から外れて見えることがあるのです。

現在、このような投票価値の不平等や裁判官の独立性に関する問題に対して改善の動きがありますが、その進展には時間と努力が必要です。

法の適用においては、裁判官の独立性と専門性が重要な要素である一方で、その判断が一般の感覚と異なる場合があるという点を理解することが求められます。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/74672

※「教えて!鐵丸先生」のコーナーは、番組の4番です

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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