01946_紛争事案を依頼する前の作業

紛争の原因は1つと思われがちですが、ほとんどの紛争は、複数の事象が複雑に絡み合って起こります。

裏を返せば、1つの紛争には複数の事象が存在します(*)。

さて、紛争事案を弁護士に相談する際、依頼者が予め準備するものの1つとして、
「事実関係を時系列で整理する」
というものがあります。

「なんだ、そんなことか」
と言う依頼者も少なからずいるのですが、この作業は重要です。

相手方に対するものであれ、公的機関(裁判所、捜査機関、行政機関)に対するものであれ、自分の身に降り掛かった事件に関し、自分の立場や正当性を適切に主張し、事件の相手方に法的な請求を行い、あるいは相手方からの不当な請求を排除する主張を構築する上で、必須の前提となるからです。

あとから、事実関係の
「証拠」
が必要となる場合もあります。

ですから、この作業は、簡単そうであって、実は大変手間がかかります。

時間との関係もありますが、この作業を丁寧にすればするほど、相談を受けた弁護士は、依頼者の抱える紛争事案から事象(テーマ)を因数分解しやすく、相手の出方(相手のミスやエラーや心得違いや違法行為を含む)や、筋の見立てがつきやすくなります。

逆にいえば、雑であれば雑であるほど、あとになって
「新たな事実」
が出てきた場合、
・認識にも認容にもつながらない
・話の筋としておかしい
・「新たな事実」の意味や評価を争う
ことになりかねません。

作業の手順としては、依頼者は、当方と相手方の行為を事実ないし状況として5W2Hの形(「How」だけでなく、「how much」「how many」という定量的・数額的な特定を含む)で特定し、整理し書き出していきます。

5W2Hの形で特定に至らないものは、言わば、単なる噂や罵詈雑言・独り言のレベルということになり、つかいものになりません。

現実として、最小限の時間とお金で最大限の効果を望む依頼者は、この作業の必要性・重要性を認識し、丁寧に準備します。

この作業が雑な依頼者は、紛争事案の解決に多大な時間とカネを費消する傾向にある、のは言うまでもありません。

我々は、この作業を
「ファクト・レポート」
と呼んでいます。

(*) 訴訟となった場合、同一の原告が同一の被告に対し、1つの訴えをもって複数の請求をなすこともあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01945_雇用保険被保険者離職票修正におけるトラブルの対処行動

雇用保険被保険者離職票は、離職者における失業保険算定上の基礎資料となります。

従業員が退職意思表示を示し、雇用保険被保険者離職票の交付を会社にもとめてきた場合、会社は速やかに交付の手続きをしなくてはなりません(ハローワークが発行しますが、会社を通じてその手続きをすることとなります)。

さて、ある会社において、関連会社に出向していた従業員が退職の意思を表明し、オーナー経営者は合意しました。

総務担当者は、退職の手続きをすすめました。

雇用保険被保険者離職票とともに、給与関係書類として、(当該従業員が関連会社に出向していたことから)賃金台帳ではなく給与台帳をハローワークに送り、ハローワークでは、送られてきた給与台帳をもとに雇用保険被保険者離職票の修正を行いました。

その結果、書類上、当該退職者の給与は、オーナー経営者の認識より高額となりました。

この過程で、当該従業員は、所定労働時間および時間外手当について、会社側と認識の齟齬があったことを知り、その後、当該従業員は、会社に対して、
「未払いの賃金」
があると、請求してきました。

労働法務においては、このように、日常の業務の一環が、ある日突然、トラブルとなることが少なくありません。

この件については、誰が、どういう認識と存念で行ったかはさておき、
「会社の認識と異なる認識内容がミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されて公務所に提出された」
という状況であり、そのこと自体が事件です。

事件を
「事件」
として認識したのであれば、
「通常、事件被害に遭った合理的人間」
として対処すべき一連の行動、すなわち、犯人探しや、犯人に対する責任追及や、是正措置といった対処行動をしておくべきことになります。

もちろん、対処行動をせずに放置することも可能ですが、その場合、
放置=黙認=追認=「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されて公務所に提出された認識内容と会社の認識内容には齟齬がなかった」
ということを、会社が自認したものとして扱われます。

裁判となった場合、当然、当該従業員も、裁判所も、そのような言い方で、会社を責め立ててくるでしょう。

会社が、
「『通常、事件被害に遭った合理的人間』として対処すべき一連の行動、すなわち、犯人探しや、犯人に対する責任追及や、是正措置といった対処行動」
をプロジェクトとして遂行するには、まずは、対処行動のための動員資源(知的資源・事務資源)が必要になります。

本件の場合、対処行動上の相手方がハローワーク(公務所という強大で無謬性を絶対視する存在)となるので、対処方針と行動計画を策定し、着手・遂行する一連の手続きには、相当の時間がかかります。

腹立たしいことこの上ないでしょうが、難事となることを想定しなければならず、相応な予算が必要となり、かつ、予算がかかっても満足な成果が得られない危険もあり得ます。

まずは、会社として、
1 立件するのか(事件認識するか=対処行動を取る覚悟を決めるか=予算動員の覚悟を決めるか)、
2 放置容認するのか(予算を懸念して捨て置くか)
3 立件するとして、どのような体制(予算規律)で対処するのか
1)弁護士に丸投げするのか
2)一部を弁護士に外注するに留めるのか
3)弁護士の助言のみで自力対処するのか
4)すべてを内製化し、自力対処するのか
という論点で、オーナー経営者が、速やかに決定することが必要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01944_補助金事業における会計検査院による実地検査が入るとは

会計検査院の実地検査とは、会計検査院の調査官が、検査対象機関の事務所や事業が実際に行われている現場に出張し検査を行うことです。

対処を間違うと、公金詐欺としての事案立件、社名公表、今後の補助金事業からの締め出し等のリスクもあり得ます。

1 前提認識

「話せばわかる」
「多少のことに目をつぶってくれる」
「温和で、協力的な組織である」
という前提認識に立脚することも可能でしょう。

他方で、実務経験に照らした状況評価や展開予測からすれば、日立製作所ですら不備を指摘され、返金を強要され、晒し者にされている厳然たる事実からして、
1)会計検査院は、凶暴な組織
2)とにかく不備を摘発し、因縁をつけ、それを以て手柄とするような組織
3)日立製作所はおろか、中央官庁ですら嫌悪・忌避する凶悪な検査組織
という認識を前提とすることもできます。

「会計検査院」
という存在をどう捉え、何をリスクとして考え、当該リスクの重篤性をどう捉えるか、ということを前提に、対処することとなります。

2 ゴールデザインは以下のように想定できます。

ケース1:指摘事項等なく平穏に終了
ケース2:口頭注意に留まる
ケース3:(具体的返金指示等を含まない注意・警告に限定された)文書による行政指導(先方の内部情報として注意先・ブラックリスト入り
ケース4:内々の措置で収束(社名公表や書類送検等もなく、事実上の返金で収束することを前提とする、具体的返金指示等の不利益処分ないしその指導
ケース5(ワーストケース):社名公表、公金詐欺による書類送検、その他今後の不利益処分(今後の補助金事業からの締め出し等のリスク)

「大事を小事に、小事を無事に近づけ、なんとか切り抜ける」
という強い要望を持つのであれば、
「最大限の警戒と準備を行い、最大限の安全保障行動を展開する」
という前提で、計画を立案することとなります。

3 準備と安全保障行動の展開について

1) 準備その1 法的意見書の作成
ア)前提としてのゲームロジックやルールの理解(手引書の読解・精読・評価・解釈)
イ)該当規範(規範や概念、論拠構築を含む)の特定
ウ)該当規範の解釈(内包と外延の特定と射程範囲の設定)・規範定立
エ)規範へのあてはめ・結論誘導
オ)以上の検討内容の成文化(ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化)

2) 準備その2 株主総会等による議議事録の作成

3)想定問答の検討・作成・実施

想定するリスクによって、対処の選択肢がある、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01943_従業員の退職撤回リスク

従業員の退職撤回・覆滅にまつわる事件は枚挙にいとまがなく、裁判例も数多く存在します。

これらトラブルは、会社からの退職勧奨が起因となっていることが多く見受けられます。

裁判となって会社が勝訴したとしても、会社側にとっては経過そのものがリスク、となり得ます。

年単位の裁判に関わらされ、薄氷を踏むような勝利であった事実は、経営そのものに影響がなかったとはいえないからです。

たとえば、以下の事件では別の論理で最終的に会社が勝訴しています。

引用開始==========================>
【事件番号】大阪地方裁判所判決/平成26年(ワ)第8169号
【判決日付】平成27年11月26日
(前略)
2 争点1について
(1) 争点1
ア(原告が,7月29日の面談において,本件退職の意思表示を撤回したか否か)について
(中略)
本件退職の意思表示は,合意退職の申込みであると解されるところ,原告は,7月22日及び同月29日の面談を通じ,原告が働き続けたいという意向を有する限り,これに反して退職させることはできず,妊娠・出産に伴い休暇を取得したいというのであれば,原告の要望を容れるので辞めないでほしいという監査役の言葉に感謝するとともに,これを受け入れ,その具体的な日程・段取り等については監査役に任せると述べたものと認められる。
そうすると,原告は,上記両日の面談をもって(最終的には,7月29日の面談をもって),合意退職の申込みである本件退職の意思表示を撤回したものと認めるのが相当である。
イ 被告は,本件退職の意思表示は,被告の退職勧奨なしに原告が自発的に行ったものであることをもって,これは合意退職の申込みではなく,これが被告に到達した時点で退職の効果が発生し,撤回することができないと主張する。
しかしながら,被告の退職勧奨がなかったことから,直ちに,退職願の提出をもって退職の効果が発生するとはいえないし,また,その後の原告の対応を見ても,退職願を提出したことの一事をもって被告との労働契約が解消されるという前提で行動していないことは明らかであり,被告の就業規則における退職の手続(前提事実(2)エ)にも併せ鑑みると,本件退職の意思表示が被告主張のようなものであると解釈することはできず,被告の上記主張は採用することができない。
(以下、略)
<==========================引用終了

労務問題対処実務においては、
「揉めてから考える」
のではなく、
「揉めないようにするため、事前に出来ることは、全て疎漏なく尽くしておく」
という不文律が確立しています。

「揉めた」
場合、その時点で、すでに解消困難なリスクが出現している可能性があり、対処行動上の選択肢が非常に限定された状況となります。

話を戻すと、 会社側が退職勧奨をする場合、
「揉めないようにするため」
のお作法がある、ということになります。

さらにいえば、従業員に退職勧奨する前の段階において(たとえば、休職中や定年など)、
会社は、
「事前に出来ること」

「全て」
洗い出すなど、心づもりしておくこと(人事担当者の教育を含めて)も、リスクを軽減する、という意味と意義においては有効でしょう。

労務問題対処を適切に行う経営者の多くは、 平時より、実務経験に照らした状況評価や展開予測とこれに対する対処行動上の
「選択肢」
について、弁護士と密接にやり取りを交わしています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01942_法務課題解決プランが複数同時に進行する弊害とトップの役割

企業が、ある法務課題について、顧問弁護士に支援を依頼し、具体的行動を計画・準備・着手し、顧問弁護士が代理人として対処している最中に、企業内にて、不協和音が生じることがあります。

ほとんどの場合、ある取締役(責任役員)が不安や不満を発し、複数の取締役(責任役員)に伝播し(あるいは、根回しらしきものが行われ)、進行中(フェーズが変わったとはいえないようなタイミング)に、プラン変更をトップに迫り、トップが押し切られる形でプラン変更を決意する、というような場合です。

言い出しっぺの取締役(責任役員)は、独自の方法、独自の手法、独自のネットワークでの解決を試みます。

他方で、トップは、顧問弁護士に対し、事をなすにあたって挨拶をしておくという意味合いで、
「進行中のプランに並行する形で、別プランも進めようと思う」
「進行中のプランに並行する形で、別プランを進めるが、どうだろうか」
と、連絡をすることもありましょう。

たいてい、別プランの手法等が顧問弁護士に明らかにされることは、ほとんどありません。

相談を受けた顧問弁護士としては、その手法が適法・適正である限りにおいて、特段、許否についてコメントを差し上げるものではありません(手法等が明らかにされないとなると、コメントのしようもありません)。

そして、別プランの手法等が奏効し、法務課題の解決に一歩近づいた(あるいは近づいたように見えた)としても、ガバナンス実務のテクニカルな問題として、手続き等の各種の純法的課題や事務課題が出来することは、容易に想定されます。

そのような法的課題対処においては、(もちろん、法的に適正妥当であることが前提ないし条件とはなりますが)法技術介入の要素ないし契機が存在しますし、その限りと前提においては、顧問弁護士独自の資源動員と、その成果による成功・不成功という事態が確認されます。

したがって、顧問弁護士としては、

・本件については、純粋な法的事案、独立の事案として、継続して遂行する
・別プランの試みについては、その詳細を知らされていないことからも、顧問弁護士は関知できないし、その適否についても、何らコメントできないし、適正性等を保証するものではない(詳細が知らされていないのであれば、意見すら形成できない)
・単純な一般論として、今後、事案全体をより複雑にする可能性も否定できないので、この点に留意していただきたい、とのコメントを提示せざるを得ない

という形で、態度を整理することとなります。

しいて言えば、法務課題の解決は、正解や定石なき営みであり、いってみれば、ゲームであり、ギャンブルです。誰が、どのようなモノサシ(前提リテラシー)を用いて判断するかによって、結果が変わってきます。

トップが右往左往し、プランが複数同時に進行するのは、
「船頭多くして船山に上る」
「役人多くして事絶えず」
となりかねない、ということは確実に言えます。

結局のところ、蓋然性に依拠するあらゆる事象や課題について、最終決断を行い、失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役となるのは、企業経営者以外にはいない、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01941_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その2_役割分担設計

弁護士の起用については、その役割分担設計が、カギをにぎります。

弁護士の側にたってみる(弁護士視点)と、留意すべきことが明瞭となるでしょう。

たとえば、オーナー経営者が弁護士に対して
「契約書の文言の違いを教えてほしい」
と、助言を求める場合があります。

それは、交渉ごとの、作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違いを求めているということであり、作戦全体の協議では、ありません。

整理すると、オーナー経営者の求めた助言は、
「作戦環境の認識・評価・解釈、適用されるべき作戦原理(交渉ごとのアーキテクチャ・ロジック・ルール)、作戦目標の設定、障害課題の抽出、選択肢の創出、プロコン分析、遂行方針の決定、遂行」
のすべてを、依頼者であるオーナー経営者本人の権限と責任で実行する前提で、依頼された弁護士は、
「作戦全体の協議に応じる必要はなく、個別課題の部分最適に徹すればよい」
ということを意味します。

ですから、弁護士としては、作戦全体の協議を求められているわけではないので、余計な口を挟むことなく、
「作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違い」
に対して端的に答えるだけ、という役割になります。

さて、ここで、弁護士として困るのは、(法務専門家でない)オーナー経営者本人がとりあえずやってみて、うまくいかなかった場合に、突然、弁護士に
「ここから先は頼んだ」
とバトンタッチする、という場合です。

弁護士側からすると、途中から、
「作戦全体についてよろしく」
ということで、はじめて聞く内容を伝えられ、そこには弁護士が認識していた交渉ごとの実体・仕組みとはまったく異なる交渉経過が記されている、というようなことなのです。

そして、このケースは、現実には少なくありません。

むしろ、現実は、規模の小さな会社組織であればあるほど、多いのです。

たとえるなら、
・「索敵と敵情視察だけしてきて報告せよ、作戦構築は口出し無用」と厳命され作戦協議から排除されながら、戦局不利となったら参謀総長と全体指揮を任される状況
あるいは、
・最高級の食材を、料理経験のない人間の適当な仕込みで途中まで仕上げた得体のしれない料理を、うまくいきそうにないから「後は任せる」と3ツ星シェフが言われるような状況
です。

「ことの発端から、タブーや遠慮なき、自由な議論を求められ、その上で、作戦に関与する」
というならさておき、議論にタブーや遠慮が求められ、また、個別最適の論点のみ聞かされるような状況で、失敗したら途端にスケープゴートにされる、というのは、弁護士としては愉快ならざる状況であり、仕事の道義としてもどうだろうか、ということなのです。

「契約書の文言の違い」
の1つとっても、弁護士との役割分担設計が明確になされなければ、結果として、カネ・時間という資源がどんどん費消され、オーナー経営者が願う結末にたどり着く可能性が限りなく低くなるのは当然、となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01940_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その1_弁護士の関与のあり方

有事における法的な交渉は、その実体も仕組みも、すべて、複雑な形式知と経験に基づく暗黙知で構成されており、素人がタッチすると、たいてい失敗します。

有事における法的な交渉において、プロ(弁護士)の介入は早期なほどよい、というのは鉄則です。

ですから、有事が発生すると、多くの企業は、弁護士を起用します。

さて、弁護士を起用する前に、オーナー経営者がすべきことがあります。

それは、
「弁護士の関与のあり方」
について、オーナー経営者自身が態度決定することです。

弁護士の関与が
1 企業の利益の実現やリスク・損害の逓減・排除なのか、
2 企業の中にいる特定の方々の立場やメンツやプライドやメンタリティを健全に維持することなのか、
は、重要な論点となり得ます。

当然のことながら、弁護士は、倫理上も道義上も(2ではなく)1を優先する、という立場を固持します(し、それは、長い目でみれば、クライアントの利益に適っています)。

要するに、弁護士は、作戦協議において、禁忌も遠慮も一切無用で、ただひたすらに、作戦原理に基づいて1を優先して交渉事をすすめていきますが、その過程で、
「それは、あまりにも峻烈すぎるのではないか」
「相手方は、今までの取引先なのに」
「このことが、噂となって他の取引先にも広がったら・・・」
と、法務の専門知見の欠如した管理職が、あらぬ心配を口にし始め、その挙句、
「その表現では相手方を刺激しすぎるのではないか」
「もう少しやわらかく交渉した方がいいのではないか」
「社長、本当に、あの弁護士のやり方でいいと思っているのですか」
「このやり方をすすめるのであれば、私はついていけません」
などと、妥協論を唱え、弁護士のやり方を批判することが、(会社の規模や形態・業種にもよりますが)少なくありません。

オーナー経営者が、1を優先させて、管理職の意見を退ければ、作戦目的は達成できるでしょう。

しかし、オーナー経営者が、2を優先させて、管理職の意見を聞き入れ、弁護士のやり方を退けると、内部による利敵行為に足を引っ張られることとなり、作戦目的の達成はなし得ません。

平時では、
「そんなの当たり前だ」
「何を今さら」
「そんなことは、わかっている」
と一笑に付されれそうですが、有事においては作戦目的達成のカギとなるほど、1・2の論点は重要性を帯びてくるのです。

有事における法的な交渉の成否は、オーナー経営者が
「弁護士の関与のあり方」
についてどれほど理解しているかにかかっている、といっても過言ではありません。

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01939_有事の際の心得_弁護士とのコミュニケーション

有事の際、弁護士は、
「目的優先、効率重視、無駄な儀礼軽視」
のコミュニケーション に徹し、クライアント側からすると腹立たたしいほどわかりやすく現実を伝えます。

それは、 ひとえに
「長期的にはクライアントの利益」
のためであり、 (クライアントの)課題や対処事項、その方向性を適正にするためにほかなりませんが、 なかには、
「わたしはクライアントです(もっと丁重に扱われるべき存在です)」
「ここまで無能扱いされるとは心外です(現実をみせないでください)」
「もっと礼儀をわきまえた言い方をしてください(もっと丁寧にやさしく言ってください)」
と、 激怒する方も少なくありません。

弁護士としては、クライアントが望むのであれば、
「目的優先、効率重視、無駄な儀礼軽視」
ではなく、
「目的後退、儀礼優先」
として、ジェントルで、エレガントなコミュケーションを図る方針に大転換することも可能です。

わかりやすくいえば、クライアントが望むのであれば、弁護士は、 腹立たたしいほどわかりやすく現実を伝えるのではなく、ふわっと曖昧でクライアントの耳に心地いい会話に大転換することも可能です。

しかし、その瞬間、クライアントは、
「時間」

「機会」
を喪失し、結果として、利敵の結果を生み、長期的にはクライアント自身の利益を大きく損ねる結果になり得ます。

すべてはトレードオフといえましょう。

クライアントは、
「何を優先させたいのか」
を、よくよく
「思考」
し、
「選択」
しなければ、事態の改善・解決に向かってすすむことはできない、ということです。

厳しいようですが、これが現実なのです。

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01938_相手とケンカをする際のアクションプランの整理

ケンカをする際、相手方によって、アクションは変わります。

弁護士としては、アクションは、4つに整理できると考えます。

アクションプラン1
相手方を「常識が通用するマトモな組織である」との前提で、ジェントルに、エレガントに、良識を以て、おだやかに交渉する

アクションプラン2
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつも、「有力な権力者の威光を以てすれば、相手方はこれにひれ伏し、改心し、常識が通用するようなマトモな組織に矯正する」との前提で、有力な権力者を動かす

アクションプラン3
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつも、「弁護士が出てくれば、弁護士の威光にひれ伏し、改心し、常識が通用するようなマトモな組織に矯正する」との前提で、特に、具体的な圧力を明示せず、とりあえず対話をするため、弁護士を動かしてみる

アクションプラン4
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつ、また、「有力な権力者の威光も、弁護士の威光なども、まったく意に介さないし、相手方には常識が一切通用しない」との前提で、裁判所への提訴を所与として、その準備をしつつ、また、具体的準備状況をちらつかせつつ(具体的な圧力明示)、弁護士を通じた交渉(対話)を行い、頓挫すれば、ただちに訴訟に移行する

アクションプラン1や2であれば、弁護士は要りません。

アクションプラン3や4となると、相応にコストがかかります。

そして、アクションプラン4となれば、相応にコストがかかるうえに、コストを上回る期待値はどうか、といいますと、弁護士として冷静なエコノミクスの分析をしても、その結果については、実際は、腹の立つような結果となることが少なくありません。

どのようなアクションを選択するにせよ、
感情を優先するか
勘定を優先するか
このジレンマをきちっと解消しないまま、相手とケンカをすすめ、
「事件」
に突入することは、さらに不幸が大きくなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01937_紛議になったら、まず整えるべき体制

紛議になれば、本格的に調査・解明を進める
「体制」
を整えることとなります。

それは、資源動員を柔軟にすることと、調査権限を弁護士に付託すること(オーソライゼイション)による、調査を円滑化にすることを目的とします。 

1 調査体制の整備
1)プロジェクトオーナー
2)プロジェクトマネージャー
3)事務局長
4)対策本部顧問

2 計画策定
1)予算
2)時間(期限とそこに至る工程)
3)稼働体制・協力体制に関する調整

3 方法論
1)証拠の入手と整理
2)相関図を含むリストの作成(登記簿謄本などオープンソースとして入手可能な関連資料も)
3)取引等の全記録の抽出
4)(3)のカテゴライズ(ホワイトなのか、グレーなのか、ブラックなのか)
5)推定を含め全容の解明

このように本格的な
「調査体制」
を整えないと、 時間ばかりを費消させ、また、資源の効率的運用という点でも顕著なマイナスが生じかねません。

調査のやり方といった方法論もさることながら、遂行資源を
「体制」
として組織的に整備し、
「時間資源」
をもスケジューリングしながら管理して進める、ということです。

そして、
「調査」
が終われば、その次に、
「調査認定」、
それから、
「各種訴訟提起」
という流れとなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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