01512_「情報弱者」企業のしくじりと末路

無論、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)は必要条件であっても、十分条件ではありません。

「情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)を導入すれば、わが社もすぐに売り上げ倍増!」
などと考えている(イタい)企業があれば、それはそれで危険な兆候です。

このような
「情報弱者」
の中小企業を狙って、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)関連企業が食い物にするケースもあります。

一昔、二昔前の話になりますが、
「内部統制バブル」
というものに便乗して情報弱者の企業を狙った悪質なICT関連商法が流行ったことがあります。

すなわち、
「日本版SOX法が施行されるので、内部統制を構築しないと大変なことになる。内部統制構築のため、このシステム一式2億円をお買い上げください。細かいことは考えなくて結構です。とにかくこれを装備してください。そうじゃないともう手遅れです。早く、早く」
などという言い方で中小企業に用途のよくわからないものを売り込む商法です。

ちなみに、背景をいいますと、日本版SOX法は、金融商品取引法24条の4の4で定められる内部統制構築義務を指しますが、これは株式公開企業が履行すべき義務であり、株式を公開していない中小企業は一切関係のない法律です。

ですので、上場していないそこらへんの中小企業に
「日本版SOX法に関するホニャララ」
を売るというのは、認知症の老人に不要なリフォーム工事を売り込むのと同様であり、極めて問題のある商法です。

とはいえ、購入する側の知的水準もどうかしていると思いますが。

その次のトレンドとしては、これは一昔前くらいですが、
「IFRS(国際財務報告基準)が襲来するぞ!今から備えよ!」
という似たような話もありました。

IFRSも株式公開企業の、しかも国際的な事業活動を行っている企業に限定された話で、非上場の中小企業には一切関係のないものです。

「IFRS関連グッズ」
を買おうと検討していた、非上場のマルドメ(まるでドメスティックな)中小企業の社長さんの中には、少なからず無駄なカネを費消された方がいるようです。

いずれにせよ、パソコンの機種やソフトウェアというものは、きちんと活用していれば、法定耐用年数のはるか以前に陳腐化していくものです。

その意味で、5年以上も何らの更新もなくこれらのハードやソフトが使われているとなると、
「当該企業は情報弱者ではないか」
との高度の推測が働きます。

実際、倒産する企業の現場に行きますと、情報環境がおそろしく遅れています。

古びたパソコンに無秩序にファイルが羅列しており、また、紙媒体の情報とパソコンに格納された電子情報が混在し、さらに、ランダムに保存された数種類の保存媒体(CDであったり、USBメモリであったり、外付ハードディスクであったり)上の情報も併存しています。

社長は紙媒体で情報を確認しているが、経理部長はパソコン上のファイルを完成情報と見ており、経理スタッフは各々勝手にファイルを更新している、といった混乱した状態なのです。

これでも、ある程度の期間、一貫して情報を把握している人間がいればいい方です。

人の入れ替わりが激しく、辞めていったり、補充されたり、を繰り返していると、何が何だかわからなくなります。

アタマが混乱している人間は自分の行動を制御できないのと同様、会社の中枢の情報がこのように混乱していて、健全に企業として存続できるわけはありません。

いずれにせよ、所属企業や取引先企業が、情報弱者であったり、あるいはその兆候がある場合、注意が必要となります。

そして、
「情報弱者」企業
は、
「情報弱者」状態
を脱しようと、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)導入を企図するのですが、そこでも、
「情報弱者」
という知的脆弱性がアダとなって、悲惨な形で食い物にされてしまいます。

そして、情報弱者の企業は、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等) 導入で躓いて、そこから企業自体がおかしくなってしまうこともあるのです。

日本の多くの企業において、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等) 導入で大失敗してしまう最大の原因は、
「要件定義」
と呼ばれる作業ができないからです。

「要件定義」
とは、システム開発において、ユーザーが、どのような機能を求めているのかを明確にする作業のことです。

そして、通常、この
「要件定義」作業
は、ベンダー側とユーザー側の双方の協力によって(といっても実際は、ベンダー側が主導しますが)行われます。

しかし、これも考えてみればおかしな話です。

たとえば、普通の知的水準の方であれば、食事をしたいとき、
「どんな食事を、いくらくらいで、どんなお店で食べたいか」
ということを明確に定義することはできるはずです。

もし、毎度毎度の食事で、
「『どんな食事を、いくらくらいで、どんなお店で食べたいか』が全くわからないので、この点いちいち誰かに決めてもらわなければならない」
とすれば、その方の認知レベルは相当問題がある状態であり、どこか適切な施設で暮らした方がいいかもしれません。

「要件定義ができない企業」
というのは、まさしくこれと同じで、要するに
「自分たちは、一体、何のために、どのようなシステムを、どのくらいで購入すべきかわからないので、教えてくれ」
といっているのです。

そして、当該企業は
「何のために、どのようなシステムを、どのくらいで購入すべきか」
を教えてもらうために、システムを販売する会社に何百万何千万円単位のお金を平気で払っています。

「お金はあるが、何がほしいかわからないので、それも含めて教えてくれ。教えてくれたらそれを買う」
という人間が店先に現れたとしましょう。

これは、一般に
「カモが、ネギと鍋と出汁(ダシ)を背負ってやってきた」
といわれる現象であり、
「食い物にするな」
という方が無理かもしれません。

かくして、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等) 導入に際し、情報弱者の中小企業が徹底的にボられるケースが多発するのです。

とはいえ、これはボられる方が圧倒的に悪い。

株式会社は、会社法上
「商人」
すなわち
「商売のプロ」
とみなされるわけですから、認知症の状態で取引社会の鉄火場をフラフラする方が問題です。

いずれにせよ、情報弱者の企業は情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)導入についても常に高いリスクにさらされている、といえます。

運営管理コード:YVKSF078TO084

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01511_スピード経営の時代に必須の経営アイテムとしての情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)

経営にスピードと効率が求められる現在においては、情報と時間を大胆に効率化しあるいは節約してくれる情報通信関連技術(ICT、DX、AI、RPA等)の活用は必須の前提となります。

すなわち、情報の生成、加工・活用、共有が瞬時にかつ正確無比に行え、無駄な業務プロセスや会議や出張を激減させてくれるインターネットやコンピューティングプロセスや各種デジタル技術はそのまま経営のスピードに直結することになります。

逆にいえば、先端情報技術を活用していない企業や、活用以前に理解すらしていない企業があるとすれば、そのような企業はスピード経営に背を向けているのと同様です。

現在の経営環境において、そういう姿勢で企業が生き残れるほど甘くありません。

情報技術の強みを生かしている企業とそうでない企業には顕著な差が生じます。

パソコンやネットワークの最大の強みは、計算機能であり、データ共有機能です。

数値管理を徹底すべく、数値を瞬時に共有し、これをもとに各現場において次の行動に結びつける環境を形成している企業は、ICTの強みを理解し、これを生かしている企業といえますし、今後も生き残っていくものと推測されます。

他方、パソコンの使い方として、計算機能による数値管理やネットワーキングによる情報共有機能ではなく、ワープロや描画機能に特化した使い方をする企業は、長期的な企業存続にやや不安が看取されます。

大胆な言い方をすれば、
「情報共有に関して、メールやグループウェアを多用している企業」
は将来がありそうな気がしますが、
「パワーポイントで印刷したペーパーを配布している企業」
の将来には不安が感じられる、ということになるでしょうか。

社長とか特定の幹部がそこそこ高価な端末機器を使っているのに、グループウェアがなくホワイトボード、なんて会社もNGかもしれません。

いまだに、カビ臭い中小企業では、ホワイトボードと電話と紙の回覧とハンコ決裁という情報技術からすると歴史上の遺物ともいうべき代物が幅を効かせておりますが、そういう企業で、素晴らしい経営成績を挙げているというところは、寡聞にして知りません。

運営管理コード:YVKSF075TO078

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01510_事業経営において最も高価で貴重な経営資源は「時間」。次に「情報」。

「企業にとって最も重要な経営資源は何か?」
という経営に関する古典的な問題があります。

これに対する答えは、よくいわれるように、
「ヒト(労働力)」
「モノ(物資)」
「カネ(資金)」
などといわれます。

情報化社会が進んだ現代では、これに加えて
「チエ(情報、ノウハウ、知的財産権、ブランド)」
が重要などといわれます。

しかしながら、経営者の中には、
「時間こそが、もっとも重要な経営資源である」
と答える方も多くいらっしゃいます。

確かにそのとおりです。

スピード経営が求められる現代において、時間は最も重要です。

ところで、時間とカネは、相互補完の関係に立ちます。

時間をかけるとカネを節約できますし、時間を節約しようとすると、多額の出費を要求されます。

東京から大阪に行くのにお金がない時は、青春18キップで丸1日かけて行くしかありませんが、5倍ほどお金をかければ、新幹線に乗って2時間半で大阪に行くことができます。

飛行機も早めに予約すればかなりの割引を受けられますが、その日に突然搭乗するとなるとバカ高い正規運賃を支払う羽目になります。

現代の企業にとって時間やスピードは生死を分けるほど重要であり、どの企業も僅かな時間を節約するために、信じられないぐらい多額の投資を行います。

企業がなぜ活発にM&Aを行うか。

「企業は、M&Aによって、『企業を買っている』のではなく、『時間という最も重要な経営資源を買っているのだ』」
といわれます。

すなわち、
「企業が規模を大きくしたり、新規事業を立ち上げたりする際、試行錯誤を行いつつ自前で行うよりも、すでに出来上がっているものを企業が買い上げた方が、時間が節約できる」
というわけです。

運営管理コード:YVKSF072TO075

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01509_仕事の効率性向上にもっとも重要な環境整備

経営にスピードが求められる現代の企業活動においては、活動の効率性はもっとも重要な課題となります。

そして、仕事ないし作業の効率性を改善するのにもっとも必要なのは、環境の改善です。

仕事ないし作業の環境が低下し、しかもこれを放置しているということは、
「企業が効率を意識していない経営を行っている」
という意味であり、今の時代、そういう経営が許されるのはお役所くらいです。

かの有名な織田信長は、大変なきれい好きで、部下に徹底的に掃除と整理・整頓をさせ、自分のゆくところ、塵一つない状態を要求したそうです。

また、M&Aによる企業再建の名手と呼ばれる日本電産の永守会長も、再建のため乗り込んだ企業には、トイレを素手で掃除させるなど徹底した掃除をさせ、環境整備を改善するところからはじめるそうです。

さらに卑近な事例を挙げますと、
「飲食店でトイレの清掃を怠っていて不潔なところはすぐつぶれる」
という経験則がありますが、このルールは結構な確率で当たっています。

このように、成長する組織のリーダーほど、仕事の環境整備が事業効率に直結することを理解しており、整然として清潔な職場を徹底して追求します。

逆に、仕事場の環境整備や整理整頓をいい加減にする企業の未来は極めて貧弱である、と言えるのではないでしょうか。

特に、机の上や書類棚というのは机の主のアタマの中をそのまま投影します。

社長室が雑然としているというのは、社長のアタマが混乱しているということを示しています。

こういう汚いオフィスで仕事をしている社長は、必ず
「忙しい」
を連発します。

「忙しい」
とは、
「心」を「亡くす」
と書きます。

汚れたオフィスで仕事している社長は、
「ゴールもマイルストンもロードマップも明確にみえており、儲けるための算段も段取りも完璧に整っているが、ただ時間だけがない」
という状況ではありません。

混沌としたオフィスで仕事をして
「忙しい」
を連発する会社は、単に思考整理ができず、精神が混乱しているだけなのです。

会社の行く末を決定するトップの頭脳が混乱した状態(いわば、殿が「ご乱心」の状態)で会社が生き残れるわけはありません。

運営管理コード:YVKSF066TO070

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01508_諸事整然としておらず、清潔感や秩序感のない、小汚い会社が傾く理由

まず、生産現場が雑然としていて汚いのは、企業が合理化の努力を長らく行っていないことを端的に示しています。

すなわち、設備を更新せず、生産方法も古いままのやり方を踏襲していて、QC活動などもせず、安全管理などもしていない、ということです。

設備も生産方法も古いままでいいのは、新しい商品を作っていないからであって、デフレでモノが売れない時代で、
「10年以上も前の商品を同じ時期に購入した設備で、同じくらい古い方法で作っている」
などという企業は確実に淘汰されます。

また、倉庫が雑然としていて汚いというのは、商品が売れず、不良在庫が滞留し、新規在庫と混在しはじめているからです。

さらに、オフィスが雑然として汚いのは、紙が氾濫しており、情報が分散しているからであり、ICT化や情報戦略が遅れている証拠を端的に示しています。

運営管理コード:YVKSF065TO066

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01507_倒産間際の会社で整然としたところはない

経営再建を依頼された経営コンサルタントや、(もはや再建が不能となって)企業の破産や民事再生の申し立てを依頼された弁護士が、書類レビューのあと、本格的に作業着手するに際して、まず実施するのは、当該会社の訪問です。

むろん、現場視察によって会社の事業内容や活動の実際を把握しておくということが主たる目的ですが、倒産手続などを申し立てる弁護士においては、各種法的手続きに必要な書類を直接探してもってくる、ということも会社訪問の重要な目的です。

そして、実際、倒産間際の会社に行って必要な書類を探そうとしても、どの会社も整理整頓が全くできておらず、大変な目に遭います。

工場を持っている会社に行くと、
「よくこれで事故が起こらないな」
と感心するくらい設備や仕掛品や工具・器具が散らばっていますし、倉庫を見ても、出荷されるものと不良在庫と返品されたものがぐちゃぐちゃバラバラになっていて、まさしく
「カオス」状態
なっています。

またオフィスに赴いても、全体的に雑然としています。

とくに、紙やファイルがそこら中に氾濫しており、各スタッフのデスクやキャビネットを見ても仕事に関係なさそうなものやどういう使い方をしているかわからない事務用品や文具が混在し、
「ごみ屋敷」
の様相を呈しています。

倒産間際の会社の社長室などの経営幹部の個室に行くと、これがまたひどい状況になっています。

書類やファイルは、キャビネットに整理されておらず床に平置されていて、検索効率が悪くなっています。

そしてキャビネットを開くと、書類が無茶苦茶なツッコミ方をしていて、その中に、会社の定款や税務申告書類や各種契約書原本や手形帳といった重要書類が無秩序に混在しています。

また、倒産間際の会社の社長室などに至っては、
「重要書類が段ボールに入れて管理されている」
という特異な状況も見受けられます。

逆に、儲かっている会社や成長している会社には、上記のような雑然な状況とは一切と無縁で、きれい好きが行き届いているのか、商品も器具も書類も整然と整理されています。

運営管理コード:YVKSF062TO065

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01506_どの会社も、予告や告知をせず、ある日突然、いきなり倒産するのはなぜか

倒産を計画する会社は
「わが社は1月後に倒産します」
などというようなことを発表しません。

こんなことをすれば、腐肉に殺到するハイエナのように債権者たちがおそいかかり、まともな管理ができなくなるからです。

むしろ、倒産を考える会社は、倒産を発表する前日まで、
「ピンピンした健康体」
であるかのように装います。

また、倒産を計画していない会社の場合であっても、社長をはじめとした経営幹部自身が、
「『会社がもう死んでいる状態』であることを認識しようとしない、あるいは認識できない」
ということもあります。

太平洋戦争における終戦前日の日本国民が
「大日本帝国の存続が永遠である」
と思い込んでいたように、認識不足で現実的思考に乏しい社長が、
「会社が永遠に存続する」
というゴーイン(強引)なコンサーンを信じ、
「実質債務超過であろうが、多少資金繰りが大変でも、一発逆転の奇策で、絶対立ち直る」
という根拠のない信念を抱き、これを内外に喧伝する、という状態です。

いずれの場合であれ、
「会社のご臨終の場面」
というのは、
「危篤の知らせが親類縁者に発信され、関係者が『そろそろ逝くな』と明確に認識し、時間が来て、皆に囲まれて、天国(か地獄)に旅立っていく」
というものでありません。

むしろ、企業が死ぬ場面というのは、サドンデス(突然死)という形で終焉を迎えます。

企業は社長とごく一部の人間以外は一切秘密にされたまま死んでしまうのですから、何も知らされていない周囲の者からすると、
「真夏のゴルフ場でいきなり心筋梗塞で死んだ」
「風呂に入っていたらそのままポックリ逝った」
「愛人宅で、年甲斐もなく、無茶な行為をして、あっけなく逝った」
という類の無様で失笑されるような不幸話と同様、意外性のある死に方をしてしまうのです。

とはいえ、死ぬ直前までどんなに健康そうにみえても、経験豊かな医者が見れば、突然死の兆候が判るものです。

その昔、ぽっくり病や突然死と言われた心筋梗塞や脳梗塞も、医学の発展で、原因が解明され、さらに発症前の徴候が明らかにされるようになってきました。

弁護士は、監察医と同じく、企業の死ぬ場面をもっとも多く、かつ客観的に観察する立場にあるプロフェッショナルです。

また、企業経営者の真横にいて経営の中枢情報に触れる機会のある経営コンサルタントも同様です。

したがって、ある程度の経験を積んだ弁護士や経営者や経営陣から信頼を得て活動する経営コンサルタントには、倒産する企業に共通する特徴がわかるようになるのです。

運営管理コード:YVKSF054TO058

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01505_株式会社には「責任者」などという者は存在しない_4_会社が破産しても、社長も連座して破産するとは限らない

会社が破産しても、
「『有限責任』しか負わないオーナー」

「ビジネスジャッジメントルールにより免責される社長」
が連座させられて破産の浮目を見ることは、原則としてありません。

こういう話をすると、まず
「でも、中小企業が倒産すると、社長も一緒に破産するでしょ」
という1つ目の突っ込みが入ります。

しかしながら、中小企業において社長が会社と同じタイミングで破産するのは、
「船長が沈みゆく船と命運を共にする」
かの如く、
「社長が、経営責任を自覚して潔く自害するが如く破産するから」
という理由によるものではありません。

会社の破産に合わせて社長個人が破産するのは、社長が借入した際、連帯保証したことにより社長個人が負担した債務を負担し、これを払えなくなったからです。

要するに、
「社長は『個人』として負担した借金が処理できないため、『(会社がどうこうという話と関係なく)個人』の選択と責任の結果として」
いわば
「自業自得、因果応報、自己責任、身から出た錆」
として破産するのであって、他人の責任を背負い込まされて連座させられて破産する、というのとは違います。

銀行はバカではありません。

というか、そこらへんの事業会社の社長より、しびれるくらい怜悧で優秀です。

銀行員は、
「株式会社=有限責任=無責任」
という仕組みをきちんと理解しております。

資本主義社会で最も優秀で、狡猾で、猜疑心が強いプレーヤーである銀行は、株式会社という法人、すなわち、「無責任」な人間にカネを貸すようなことは絶対しません。

そこで、銀行は、
「責任者不在のバーチャル人間ないし幽霊」
たる株式会社がつぶれて
「責任者不在」
の状況になったときを想定し、社長とかオーナーから連帯保証を取り付けてからカネを貸すのです。

であるがゆえ、中小企業において会社がつぶれたら、
社長「個人」
とのかねてからの約束に基づき、社長自身が連帯保証責任を負わされることになるのです。

そして、社長は、この
「個人の約束として負担した責任」
が履行できず、破産させられるというわけです。

銀行は、
「中小企業」や「何とか上場を維持しているようなダメ企業」
に対しては、上から目線で偉そうに
「カネを貸してやる」
という立場を取ります。

しかしながら、
「財務内容が超優良な大企業」
に対しては、銀行は、米つきバッタのように頭を下げ、
「できれば当行も是非おつきあいをしてください」
と卑屈な態度を取ります。

当たり前のことですが、銀行が
「財務内容が超優良な大企業」
にお金を借りていただく際に、
「社長の個人保証をつけてくれ」
などと無礼で非常識なお願いをすることはありません。

したがって、債務者が
「財務内容が超優良な大企業」
については、中小企業と違い、
「会社がつぶれても、連帯保証を強要されない社長は、一切責任を負わない」
という状況が生まれるのです。

東日本大震災で原発事故を起こした東京電力も、少なくとも事故以前は
「財務内容が超優良な大企業」
とされてきましたから、東京電力の社長や会長は、銀行から借金するにあたって個人保証を要求されていないでしょう。

したがって、仮に東京電力が破産ないし破綻して銀行の債権が焦げつこうが、社長や会長の私財が差し押さえられたりすることはなく、また、個人として破産させられることもありません。

次に、先程の話(「会社が破産しても、オーナーや社長も連座して破産するとは限りません」)に関しては、
「とはいっても、会社が倒産すると、社長や役員が代表訴訟で訴えられたり、逮捕される場合があるぞ」
という2つ目の突っ込みが入ります。

しかしながら、会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、
「会社が倒産したという結果に基づいて連座して責任を取らされるから」
という雑で単純で強引な理由によるものではありません。

会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、会社経営において取締役「個人」として明らかな法令違反をやらかしたことによるものです。

すなわち、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、個人の違法行為を個人としてケツを拭かされているだけであり、
「会社が倒産したことに伴って連座させられる」
のとは違います。

以上のとおり、世間一般のイメージとは逆で、会社には責任者がおらず、結構テキトーに経営されています。

だからこそ、会社というものは、一般の方が考えられるよりはるかに簡単に、あっさり、さっくり、しれっと破産してしまうことがあるのです。

運営管理コード:YVKSF046TO053

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01504_株式会社には「責任者」などという者は存在しない_3_「法人制度」の本質とそのダークサイド

株式会社は
「法人」
の代表選手ですが、
「法務局備え置きの登記簿上でしか確認できない幽霊のような存在に過ぎず、お情けで法律上の人格を特別に認めてあげているようなもの」
です。

ちなみに、そもそも
「法人」
とは、フツーの人間と違い、
「法律上のフィクションによって、人として扱うバーチャル人間」
のことをいいます。

この
「法人」
という概念ですが、よく聞く言葉ですが、実は全く理解できない法律概念の1つと思われますので、少しこの
「法人」制度
について解説いたします。

もっとも、身近でわかりやすい例で申しますと、アイドルグループとかプロスポーツチームとか野球球団とかの集団に仮想人格を与えて、あたかも人間扱いするような制度を、
「法人制度」
ということができます。

アイドルグループを例にとってさらに説明を進めます。

昭和の時代、
「少しばかり歌と踊りのできる、『顔面偏差値』の高い青少年を偶像(アイドル)に仕立てて、その偶像を熱心に崇拝するファンやオタクたちから小銭を巻き上げるエンターテイメントビジネス」
すなわちアイドルビジネスが隆盛を極めました。

ところが、このアイドルビジネスを展開する際、最大のリスクは、
ギャランティの多寡でもめたり、
不純異性交遊とか喫煙・飲酒とかの不祥事が発覚したり、
当該アイドルが突然
「いい加減疲れたので、フツーの女の子に戻って、フツーの生活をしたい」
と言い出したり、
などといった、アイドル個人にまつわる割とつまんない都合で、多額のプロモーション投資などをしたにもかかわらず、投資が回収できなかったり、更なるビジネスチャンスをフイにさせられる危険が常に存在することでした。

要するに、
「アイドルの単体売り」
のビジネスモデルは、アイドル個人の属人性が顕著のため、ビジネスにゴーイングコンサーン(事業が永遠に存続するという理論的前提)が働かない、というリスクがあったのです。

そこで、21世紀に入ったあたりから、アイドルビジネスにも
「法人化の波(法律上正確な意味における法人ではありませんが、グループそのものを、個人と離れた『一個の仮想人格』として想定し、アイドルビジネス展開上『アイコン』として使う、という程度の意味です)」
ともいうべきムーブメントが到来しました。

すなわち、
「ホニャララ娘。」

「チョメチョメチョメ48」
のような、
「構成員人格とは離れた集団そのものを、個々のアイドルとは別の『アイドル』人格として、金儲けの道具にすること」
が考えられるようになりました。

このような
「アイドルグループ法人化の波」
ともいうべきビジネス革命によって、当該グループに属する個々の構成員が、
「私には女優の才能がある」と勘違いして独立して女優になりたいとか訳のわからないことを言い出そうが、
構成員に派手な異性交遊や飲酒や喫煙が発覚してグループに居座ることが難しい状況になろうが、
構成員の所属事務所とギャランティ分配でモメようが、
その他構成員個々人の都合による追放やら脱退やら卒業やらとか
といった属人的でつまんない理由ながら重大なビジネス障害となりうるインシデントを乗り越えて、グループそのものをアイコンとして継続・存続させ、その知名度と経済性を活用して、より長く、ファンから金を巻き上げる道具として活用することができるようになりました。

「ホニャララ娘。」

「チョメチョメチョメ48」
とかが、ただのグループ名に過ぎず、実際、歌ったり踊ったりしているのは、その個々の構成員です。

「グループそのもの」
が歩いたり、歌ったり、踊ったり、はしゃいだりしているわけではなく、グループ自体は、抽象的な存在であり、幽霊やバーチャル人間ともいうべき、実体のないものです。

ですが、実際には、
「ホニャララ娘。」

「チョメチョメチョメ48」
といった
「グループそのもの」
の方が、個々の構成員よりも、はるかに巨大な知名度や観客動員力や経済力を有していることは疑いようもありません。

そして、このことは、一般の経済社会においても同様にあてはまります。

ご承知のとおり、現代経済社会においては、
「株式会社」という「法人」
は、個人事業主や勤労者を含めた普通の人間様をはるかに凌駕する
「体格(資産規模)と腕力(収益規模)」
を有する巨大な存在になってしまっています。

このような
「法人」
の存在の大きさや重要性からすると、
「こういう巨大な存在のオーナーや運営責任者は、何か問題が起こったら法人に連帯して相当シビアな責任を負うべき」
という主張が、A日新聞やらA旗あたりから出てくるのも当然と思われます。

ところが、株式会社制度においては、オーナーもマネージャーも含め、誰も責任者がいない、というのが現実です。

要するに、株式会社とは、法律上
「存在も実体がなく不明で中途半端だわ、体格もデカく、腕力も馬鹿みたいに強いわ、その上、大暴れして迷惑かけても誰一人責任取らないわ」
と迷惑この上ない、無茶苦茶な存在といえるのです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01503_株式会社には「責任者」などという者は存在しない_2_ビジネス・ジャッジメント・ルール

「株式会社には『責任者』などという者は存在しない」
という言い方をすると、
「そりゃ株主はそうかもしれないが、社長や経営幹部はそれなりの責任があるでしょ」
といわれそうです。

しかしながら、ごく一部の例外的な場合を除き、社長や経営幹部、すなわち会社の取締役といわれる方についても、原則として、経営の失敗に関しては法的には無答責であり、会社がつぶれたからといって、社長がケツの毛まで抜かれるようなことはありません。

ここで、会社法における
「経営判断の原則」
という法理を見てみましょう。

経営判断の原則、欧米では
「ビジネス・ジャッジメント・ルール」
といわれるこの法理ですが、会社のトップたちがヘマをやらかし会社の経営がおかしくなった場合の責任追及の場面で顔を出すものです。

曰く
取締役は日常的な業務執行に関して、一定の裁量を有していると考えられている。元来、経営にあたってはリスクが伴うのが常であり、結果的に会社が損害を負った場合に、事後的に経営者の判断を審査して取締役などの責任を問うことを無限定に認めるならば、取締役の経営判断が不合理に萎縮されるおそれがある。そこで、取締役などの経営者が行った判断を事後的に裁判所が審査することについて一定の限界を設けるものとし、会社の取締役が必要な情報を得た上で、その会社の最大の利益になると正直に信じて行った場合には、取締役を義務違反に問わない
そうです。

この
「外国語の散文」
ないし
「呪文や祝詞のような奇怪な文書」
ともいえる謎の言語をフツーの日本語に「翻訳」しますと、要するに
経営に失敗したからといって、なんでもかんでも取締役のせいにしたら、取締役がかわいそうだし、取締役のなり手がいなくなる。なので、よほど悪さをしたのでないかぎり、うっかりチョンボくらい大目に見てやれ
ということなのです。

運営管理コード:YVKSF036TO039

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