01465_欧米国際法務>特殊な課題・新たな課題>EU独占禁止法(競争法)の域外適用

2007年1月24日、欧州委員会は、ガス絶縁開閉装置(GIS。変電所等において用いる機器)の販売業者が入札談合等のカルテル行為を行ったとして、日本企業5社を含む計10社に対して、総額7億5,071万2,500ユーロ(当時のユーロのレート155円/ユーロを適用すると、日本円で約1,163億円)の制裁金を命じました。

日本企業は、EU市場におけるGISの販売はほとんど実施していませんでしたが、
「『EU内の企業を相手として、相互の市場でGISを販売しないというカルテル協定』を結んでいたことが、EU市場における競争を制限したものである」
とされ、違反認定されました。

これは米国においても同様であり、米国の独占禁止法運用上、
「海外の企業の行為であっても、自国内の競争に影響を及ぼす場合には、米国独占禁止法を適用する」
という立場が採られます。

このように、海外競業他社との合意等を行うことは、日本の独占禁止法のみならず、海外の当局から海外の独占禁止法に抵触すると認定されうる可能性があり、十分な注意が必要です。

なお、EUの独占禁止法運用上、親会社及びそのグループは、単一かつ同一の経済主体とみなされ、子会社が行ったカルテル行為について、親会社が責任を負担させられることもあります。

したがって、海外進出先の現地法人が、進出先の独占禁止法に違反することがないように、十分な内部統制を行う必要があります。

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01464_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>ITC(lnternational Trade Commission 米国国際貿易委員会)

米国企業から、あるいは
「米国企業ではない第三国の企業」
から日本企業に対して、ITC(lnternational Trade Commission 米国国際貿易委員会)手続における審理開始が申立てられる場合があります。

ITCは、アメリカ国内へ輸入される製品のダンピングの有無や知的財産権侵害の有無等を調査し、不公正商品(ダンピングによる廉売品や知的財産権侵害品)であった場合に、アメリカヘの持込みや輸入販売などを排除する権限を有する独立行政委員会です。

日本においてもこれと類似した制度として、税関長が、特許権等の侵害品貨物の輸入を差し止める、輸入差止申立制度(関税法69条の13、同法施行令62条の17)があります(日本の輸入差止申立制度においては、知的財産権侵害品の水際差止めを主な目的としており、ダンピングを理由とする差止めは認められていません)。

ITCでは、輸入製品が侵害品であるか否かを審理し、侵害を認定した場合、

・限定排除命令(Limited Exclusion Order。侵害を行った当事者のみ輸入を禁止される措置)
あるいは、
・一般排除命令(General Exclusion Order。何人も排除対象製品を輸入することを禁じる措置)

を発令します。

裁判所(司法機関)で行われる特許侵害訴訟は、司法手続という性格上、主張・立証が厳格に行われ、審理も長期化します。

他方、ITC手続は、行政手続であり、迅速に結論が出されます(陪審制度がなく、審理期間も15ケ月以内とされています)。

例えて言うなら、知的財産権侵害事件における訴訟対応が“無罪を争う刑事事件”とすると、ITC手続は“交通違反の際の反則事案処理”ともいうことができ、迅速かつ強権的に進められます。

このようなITCの迅速性・強権性から、米国市場における知的財産権侵害やダンピングに関するトラブルについて、ITC手続で争われる事例が増加しています(日本のシャープと韓国のサムスンによる、液晶テレビの輸入禁止を巡る争いなど)。

しかしながら、ITCの権限にも限界はあります。

すなわち、ITCの命令発出は販売や通関を禁止する命令に限定されており、損害賠償についての判断をすることができません。

このため、知的財産権侵害を受けたと主張する米国企業(や米国市場に進出する他国企業)は、ITCに提訴する一方で、同時に裁判所にも並行提訴するという戦略を採用することが一般的です。

このように、日本企業が米国市場において知的財産権侵害紛争に巻き込まれた場合、以下のような
「ITCへの申立書」

「米国裁判所に提起された訴状」
の2種類が同時に送達されてくる可能性がある、というわけです。

なお、このような訴状ないし申立書が、和訳も添付されず、いきなり当事者の関係者や代理人が持参してきたり、あるいは直接郵送されてきた場合、前述のとおり、送達の有効性を争って審理を合法的に引き延ばしたり、これにより相手方の時間やコストを消耗させ、疲弊させる戦略を採りうる可能性があります。

慌てて応訴することなく、送達の違法性を争うことも視野に入れて対応を検討すべきです(無論、すでに米国に事業拠点や執行されうる財産が存在する場合や、輸出差止めにより直ちに事業に大きな影響が出るような場合、速やかな応訴が必要となりますので、“引き延ばし戦略”は採用の限りではありません)。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01463_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>日本企業が、日本の裁判所に訴訟を提起し、外国企業を訴える場合その2

2 日本の裁判所の管轄権

契約違反事例ではなく、国境をまたぐような事件・事故が発生し、日本企業が外国企業等を不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起する場合についても少し述べておきます。

上記のような事例において日本企業が日本の裁判所で訴訟提起をしようとしても、そもそも、日本の(国際)裁判管轄権があるか否かが問題となります。

この点、民事訴訟法には、日本の国際裁判管轄に関する明文規定が存在しなかったのですが、2011年4月に民事訴訟法が改正され、以下のとおり、国際裁判管轄の規定が整備されました。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01462_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>日本企業が、日本の裁判所に訴訟を提起し、外国企業を訴える場合その1

「国際取引において準拠法が日本法で、日本の裁判所が合意管轄裁判所と定められている」
というケースにおいて、外国企業が契約違反に及んだため、日本企業が、外国企業を被告として、日本の裁判所に訴訟を提起する場合の対応について概説します。

1 訴状の送達方法

日本企業が外国企業を訴える場合、訴訟が開始された後は、通常の民商事争訟法務の問題として対応すれば足ります。

上記場合において、最も問題になるのは
「訴訟が有効に係属するための入り口問題」
ともいうべき訴状の送達です。

通常の訴訟ですと、原告が裁判所に訴訟を提起し、訴状に問題がなければ、裁判所は訴訟を受理し、第1回の回頭弁論の期日を指定し、被告に呼出し状と訴状を送達することになります。

この点、被告が日本国内に居住する場合はこの点問題なく訴状及び呼出し状が送達されます。

しかし、被告が外国企業(あるいは外国に居住する者)の場合、裁判所は、被告所在国の協力を得なければ訴状を送達できないことになります。

この理由ですが、前述のとおり、訴状の送達は司法権という国家主権の行使とみなされ、したがって、日本の裁判所が外国企業に直接訴状を送達することは、他国で直接主権を行使することになってしまうからです。

以上の理由から、日本企業が外国企業を訴える場合、以下のような実に煩瑣で面倒な方法で訴状を送達しなければならないことになります。

このような事情もあり、外国企業を訴える事件の場合、訴状が相手に届き、第1回期日が開催できるまで、短くて半年、長ければ1年近くの時間を要することになるのです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01461_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>外国裁判所において敗訴し、懲罰的損害賠償請求を認容された場合

1  外国判決の内容の「公序」違反

民事訴訟法118条は、外国の裁判所で下された確定判決が日本国内で効力を有する要件として
「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」(3号)
と定められています。

外国の確定判決が日本の公序に反するとして、日本国内での効力を認めなかった日本の判例としては、いわゆる懲罰的損害賠償(加害者に懲罰を与えて、同様の行為の発生を防ぐために課せられる、実損害の額を超えた高額の賠償)のケースがあります。

米国カリフオルニア州裁判所が下した懲罰的損害賠償を認めた判決を日本で承認執行するよう求められた事件において、日本の最高裁は、
「我が国の不法行為に基づく損害賠償制度が填補賠償を趣旨とする点に反し、公序良俗に反する」
との判断を下し、懲罰的損害賠償の執行を拒否しています。

2 外国における裁判手続が「公序」に違反する場合の対応

最高裁は、
「外国判決の内容だけでなく、その訴訟手続においても、我が国の公序良俗に反しないことが必要である」
との判断を下しています。

したがって、正当な手続保障が与えられなかったり、不当な訴訟手続を前提に、外国で不当な判決を受けたような場合には、判決内容のみならず、判決に至る手続の違法性(公序良俗違反)を主張立証していくべきです。

3 特許における属地主義

最後に、国際取引においてよく誤解されがちな特許に関わる取扱いを述べておきます。

日本ではなく、海外において特許権が取得された特許権に基づき、日本国内の企業に対して、製造差止めや損害賠償を請求する訴訟が提起されることがあります。

しかし、特許権については当該権利が取得された国の領域内においてしかその効力が認められません(特許における属地主義の原則)。

したがって、ある国で取得された特許権は、登録等を行って別途権利化の手続をとらない限り、取得国以外では一切特許権としての効力がなく、いくら侵害しても自由、ということになります。

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01460_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>外国企業から外国裁判所で訴えられた場合

1 相手国の同意を得ない送達は主権の侵害となる

「X国が、Y国の同意を得ないまま、Y国内で裁判権を行使すること」
はY国の主権の侵害となるため、できません。

そして、訴状を送達する行為も裁判権の行使とされるため、X国は、Y国の同意を得て、Y国の法律に従った送達をしなければなりません。

ところで、英米法体系を採用する国々においては、訴状の送達は裁判所ではなく当事者が直接行うものとされています。

そのため、英米企業等が日本に所在する者を自国の裁判所に提訴する際、自国内での訴状送達と同様に、被告となる者に対して、自ら(場合によっては現地代理人に委任して)訴状を直接相手方に送付するケースが多く見られています。

2 直接交付による送達に関する最高裁判例

この点、日本国の民事訴訟法118条2号では、外国裁判所における確定判決を日本でも執行するためには、
「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
を受けていることが必要であるとしています。

ところで、この
「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
の解釈に関し、最高裁平成10年4月28日判決は、
「被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない。また、裁判上の文書の送達につき、判決国と我が国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではないと解するのが相当である」
旨判断し、弁護士による日本企業への直接の訴状送達は
「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
には該当しないものとして、外国判決の執行を排除しています。

3 直接郵送の方法

次に、訴状が被告企業(日本企業)に直接交付されたケースではなく、直接郵送がなされたケースについて、みていきます。

訴状が被告企業(日本企業)宛に直接郵送された場合、民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(送達条約)との関係で問題が生じます。

送達条約10条aは
「この条約は、名あて国が拒否を宣言しない限り、次の権能の行使を妨げるものではない。
(a)外国にいる者に対して直接に裁判上の文書を郵送する権能」
と規定しています。

日本国は、上記条約にいう
「拒否の宣言」
をしていませんので、訴状が
「直接郵送による送達が法律上有効であるとする国」
から訴状が、被告企業(日本企業)に直接郵送がされた場合には、有効な送達となるとの解釈も有力です。

他方、あくまで司法共助の方法によることが必要であるとする学説も有力なところです。

ところで、民事訴訟法118条2号は、
「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
を受けた場合の他、被告が
「応訴」
すなわち答弁書等を提出していた場合には、同号の要件が満たされると規定しています。

したがって、直接郵送された場合において、あわてて答弁書を提出してしまうと、同条2号により享受している防御ラインを自ら破壊することになってしまいます。

そこで、直接郵送を受けた場合であっても、拙速に答弁書を提出することは避けるべきです。

なお、最高裁平成10年4月28日判決は、管轄違いの抗弁を提出した場合も
「応訴」
にあたるとの判断を下しているので、注意が必要となります。

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01459_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>コンプライアンス法務(現地法人・現地従業員の管理)

日本法人の現地事務所等は、物理的に日本から離れているばかりか、言語や風習が異なることも原因となって日本本社の監視の目が届きにくく、不祥事が発生してもそれを萌芽の段階で摘み取ることが難しい状況にあります。

大和銀行ニューヨーク支店事件からも明らかなように、不祥事に対する早期発見、早期対応が遅れた場合には、会社に重大な損害が発生するおそれがあります。

また、同事件判決は、外国法令遵守についても、
「法令遵守は会社経営の基本である。商法266条1項5号(現会社法423条1項)は、取締役に対し、わが国の法令に遵うことを求めているだけでなく、外国に支店、駐在事務所等の拠点を設けるなどして、事業を海外に展開するに当たっては、その国の法令に遵うこともまた求めている」
「取締役に与えられた裁量も法令に違反しない限りにおいてのものであって、取締役に対し、外国法令を含む法令に遵うか否かの裁量が与えられているものではない」
と述べているところです。

海外に進出する企業においては、判例法理上企業に求められる水準の内部統制、すなわち
「企業内の従業者が常に法令(外国法令を含む)違反を犯す動機を有する、という性悪説を前提に、法令違反の事態を有効に防ぎうる、科学的で合理的な、企業組織内部を統制し管理する仕組み」
ともいうべき体制の構築と運用を行う必要があります。

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01458_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>契約法務>仲裁(Arbitration)

仲裁合意とは、契約から生じた紛争について、裁判ではなく、当事者が選択した第三者を仲裁人として、仲裁人の判断によって紛争を解決する合意をいいます。

仲裁は以下のような特徴があり、国際契約では仲裁を選択することが好まれます。

1 中立的な手続が望めること

仲裁人の国籍や、仲裁地、仲裁規則を自由に選択できるため、当事者が中立と考える第三国における仲裁を求めることが可能となります。

2 使用言語が選択できること

仲裁手続における使用言語を選択することが可能となります。

すなわち、通常、訴訟手続においては、当該国の公用語が使用言語として指定され(日本の民事訴訟法では、法廷や書面においては日本語を用いることが義務づけられます)、外国会社にとってはこのような言語環境は紛争解決における大きな障害となります。

しかしながら、仲裁手続であれば、たとえ、日本国で行う場合であっても、英語を解する仲裁人を選任して、双方英語で手続を進めることは可能です。

3 仲裁手続内容を秘密とできること

通常、先進国の裁判所においては、
「裁判の公開」
の原則により、審理内容が全て公開されます。

そのため、機密性を維持したいノウハウや取引経過などが争点となった紛争においては、裁判手続を紛争解決手段として利用するには間題が生じます。

この点、仲裁は、一般に手続を非公開とされており、事件プライバシーを保った状態で紛争解決を図ることが可能となります。

4 専門家を仲裁人とできること

当事者は仲裁人を合意によって自由に選択できるため、国際取引に詳しい弁護士を仲裁人として、紛争の合理的解決を目指すことが可能となります。

5 執行が比較的容易であること

裁判が行われた国(A国:裁判実施国)の裁判所の判決に基づく強制執行を、相手方の財産が存在する国(B国:強制執行実施国)にて実施するためには、その判決をB国:強制執行実施国において承認してもらう必要があります。

そもそも強制執行は、国の主権の行使に該当しますから、A国の裁判所が勝手に判断した判決を用いてB国で強制執行をするためには、B国の司法機関に逐一お伺いを立てなければなりません。

ところで、判決とは異なり、仲裁手続については、
「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(1958年、ニューヨーク条約)
が、2013年7月時点では、合計149か国で締結されています。

同条約に加盟する日本、米国、英国等の主要国は、同条約に加盟している国でなされた仲裁判断については、判決に比べて比較的簡易な手続(自国の仲裁判断の承認執行と同等の手続負担)で自国内にて強制執行しうるものとされています。

つまり、
(1)相手の財産の所在国、仲裁が実施された国の双方が同条約に加盟しており、
かつ
(2)同条約が要求する他の要件が満たされた場合、
には、相手の財産の所在国にて簡便に強制執行をすることが可能となります。

6 仲裁地の合意

上述のように、ニューヨーク条約加盟国における仲裁判断であれば、同条約加盟国における強制執行が容易となります。

そこで、契約交渉において仲裁地の決定について紛糾が生じ、仲裁を申立てられる側(被告側)の国を仲裁地とすることすらもできない場合には、対案として、
・同条約加盟国である第三国を仲裁地として合意するとの交渉をする
・「(いずれが申立てる場合であっても、常に)被申立人側の所在地を仲裁地とする」と規定する(被提訴地主義の採用)
といったものを提示し、交渉を収束させることも可能です。

なお、後者の被提訴地主義による仲裁地合意は紛争抑止効果も期待できます。

すなわち、被提訴地主義型仲裁地合意は、
「仲裁を申立てる場合には、申立てる側に常にコスト上の負荷が生じる」
ということを意味します。

このように、
「仲裁開始にまつわる初期コストを常に申立てる側が多く負担する」
という仲裁地条項を設計しておけば、
「コストのかかる仲裁を申立てるのは最後の手段にして、その前に、最大限、話合いにて解決する方向で交渉してみよう」
というインセンティブを当事者双方に働かせることを通じて、紛争発生が抑止される、というわけです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01457_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>契約法務>管轄(Jurisdiction)

契約当事者は、紛争が発生して訴訟する場合に、どこの裁判所で訴訟するか(裁判管轄)について予め合意により定めておくことができます。

裁判管轄においても、準拠法と同様、互いが自国に引っ張り込もうとする形での交渉が展開されます。

交渉上、相手国に裁判管轄地を決めざるをえない場合については、

・裁判制度が信頼できるか
・当該国で信頼できる弁護士を選任できるか
・最終判決までにどの程度の時間を要するか
・強制執行や保全がスムーズに行えるか

といったところを調査した上で、ジャッジすることになります。

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01456_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>契約法務>準拠法(Governing Law)

当該契約を、どの国の法律に従って規律するかの問題(準拠法選択の問題)についても、原則として、契約当事者間の交渉によって決定されます。

被告となる者の国の法律を準拠法とすれば、相手を訴える際のコストがネックとなり、事実上
「裁判権を放棄した」
ことになりかねません。

したがって、交渉が可能な限り、外国の法律ではなく、日本法を準拠法とすることを第一の目標とするべきです。

なお、裁判が行われる国によっては、準拠法の合意を認めない場合もあるため、この点注意が必要です。

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