01384_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類>新設分割

新設分割は、吸収分割とは異なり、ある部門を切り出して新会社を設立する手法です。

社内発のベンチャー企業を作るとか、経営資源を集中させるためにある部門を切り出すといった活用場面が想定されます。

しかしながら、近年では、不採算部門を切り捨てるために用いられるケースがあり、法的トラブルになっています。

不採算部門を切り捨てるといっても、当該切り捨てられた不採算部門の譲り受けを希望するような買手はありません。

したがって、事業譲渡や吸収分割といった手法を採ることができません。

そこで、企業が会社を新設して、そこに不採算部門を移転してしまい、優良部門だけとなった自分のみが生き残ろうとする手法が取られるのです(逆に採算部門だけ分割してしまい、元の会社をもぬけの殻にしてしまうこともあります)。

このような手法が可能とされるのは、会社法上、分割の計画においてどのような資産を分割するかという点について自由に定めることが許されていることによるものです(会社法762条、763条)。

しかし、不採算部門しか残っていない会社に取り残された債権者にとっては、深刻な不利益を被ります。

そこで、このような濫用的会社分割については、民法上の詐害行為取消権の行使が認められるに至りました(最高裁平成24年10月12日判決)。

このような司法判断もあり、以上のような濫用的会社分割を禁止する法改正が検討されています(2013年8月現在)。

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01383_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類>吸収分割

吸収分割の構造は、基本的には事業譲渡と同じです。

事業譲渡ではなく、会社分割という手法を採用するメリットは、会社の経営に関わる各契約関係を、事業を承継する新しい会社に一挙に付け替えることができるという点です。

事業譲渡の場合、取引先との契約や従業員との間の労働契約を逐一締結し直したり、事業用設備・商品在庫・預金等をはじめとする会社資産の譲渡手続や対抗要件具備の手続を行ったり、といった煩瑣な手続が必要となりますが、会社分割を行えば、この種の手続が不要となり、スムーズかつ効率的に分社化が可能となります。

とはいえ、労働契約との関係では特別法である労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)が適用されますので、この点注意が必要です。

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01382_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類>合併

合併とは、法人格を1つにするという会社法上の特別の定めに基づいて行われるもので、買収される側の企業の法人格は消滅することになります。

株式譲渡による買収と異なり、買手企業は、買収対象企業の負債等も含め全て承継しますので、対象企業の資産等の査定(デューデイリジェンス)には慎重さが要求されます。

実務において合併手続がM&Aで利用される場合、ほとんどで吸収合併が選択されており、新設合併が採用されることはありません。

その理由としては、新設合併とすると行政から新たに許認可を取得し直す必要があることや、登録免許税も新設合併の方が高くつく等といったことによるものといわれています。

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01381_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類>事業譲渡

事業譲渡とは、最高裁によれば
「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいうもの」
と定義されています(最高裁昭和40年9月22日判決)。

複雑な言い回しですが、単純化すれば、
「ヒト・モノ・カネ・情報などがしっかりと連動して業務を行える状態の事業を、そのままの状態で売買することが事業譲渡と定義される」
となります。

「会社が保有するビジネスを、稼働している状態で、そのまま売り買いすること」
は、株主や債権者に与える影響が大きいと考えられるため、会社法上特別の手続が用意されています。

なお、事業譲渡における譲渡対象資産に土地や機械や知財等が含まれているときには、その個々の資産について、個別に登記等の対抗要件具備行為が必要となります。

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01380_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類>第三者割当増資

第三者割当増資は、大量の募集株式発行(新株発行)を買収会社が引き受けることで、買収会社が一気に経営権を得る手法です。

買収対象会社の既存株主からしてみれば、いきなり第三者が大株主として登場し、自らの支配権(あるいは支配価値)はダイリューション(希釈化)され、実質的な不利益を被ります。

このようなM&Aは、敵対的TОBに対する対抗措置として、ホワイトナイトとして名乗りを上げた企業に大量の新株を発行する形でも実施されることがあります。

既存株主やTОBを行った者にとっては、ときに容認しがたい措置と捉えられ、募集株式発行(新株発行)自体が不公正発行等として差し止めを申立てられるなどとして、大きなトラブルに発展する可能性を内包しています。

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01379_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類>株式譲渡

会社は株主によって所有されているとよくいわれますが、この意味は、
「株主総会において会社の基本的事項が決せられる」
ということからきています。

そうすると、
「会社の経営権が誰に帰属するか」
は、
「株主総会において議決権を行使できる者はだれか」
という点に帰着します。

そこで、
「株式を譲渡することを通じて、会社支配権の最も根幹となるべき議決権をM&Aの買手に移転させ、ある会社の経営権を他の会社に譲り渡す」
という取引を、M&Aの形態の1つとして整理することができます。

株式譲渡という単純な法的構成によりM&Aを実現することの特色は、単なる株式の売買契約であるため、M&Aの当事会社の法人格や資産、雇用形態等になんら変更はなく、また、新たに株主(対象企業の親会社)となった買手企業は、株主として有限責任のメリットを享受でき、対象会社の債務について一切責任を負わなくてよい、という点です。

中小企業におけるM&Aでよくみられる形態ですが、買収者は基本的に対価を現金で交付しますし、買収対象企業の資産査定に慎重を要する点等は他のM&Aと基本的に変わりはありません。

なお、対象企業の取引先や設備賃貸契約等の主要契約に、チェンジ・オブ・コントロール条項(あるいはチェンジインコトロール条項。会社の主要株主が交替すれば、契約をキャンセルするオプションが取引先に付与される、という条項)がある場合、株式譲渡によるM&Aの前後において、当該取引先との間で当該条項をどのように取り扱うか、という問題を処理する必要が出てきます。

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01378_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの分類

M&Aは、事業譲渡や法人格の変化を伴う合併や分割のほか、技術や販売の提携などの緩やかなものも含む広汎な概念として使われることもありますが、本書では、技術や販売の提携(アライアンス)と呼ばれる形態での企業の結合現象については、企業間取引活動として整理し、事業譲渡(全部事業譲渡のほか、事業の一部門の譲渡を含む)及び資本関係の変動を伴う形態での企業結合のみをM&A法務として扱うこととします。

M&Aを取引形態として分類すると次のようになります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01377_M&A法務>M&A法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説>M&Aの意義

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、本来、
「企業の合併・買収」
を指しますが、一般に用いられるM&Aは、
「企業の合併・買収」
に限らず、業務提携等のゆるやかな企業結合等も含めた意味として用いられます。

1990年代以降、日本でもM&Aという言葉がメデイアを賑わせ、その後も、世界的な金融危機の影響を受けつつも企業法務における中核的地位を占め続けています。

このようにM&Aが企業活動において重要性を増した理由の一因にグローバル化を挙げることができます。

冷戦が終了し世界市場が単一化したことで、供給過剰が生じ、経済が構造的なデフレーション状態に移行するとともに、ヒト・モノ・カネ・情報が瞬時に流通する状況の中で、企業間競争が激しくなり、大競争(メガ・コンペティション)の時代を迎えました。

その結果、コスト競争力等において劣後する企業は市場からの退場を余儀なくされ、一方で、競争を維持できる企業はスケールメリットを生かした生き残りを模索し、その具体的戦略としてM&Aを活用した水平的統合を始めたのです。

このような水平的統合によるM&Aは、研究開発費や製造コストの高い業界(電気、化学、製薬業界等)において、現在でも多く見受けられます。

この他にも、自社の中核ビジネスの川上から川下まで(研究開発から素材の調達、大量生産を経て最終消費者に届けるまで)を押さえることで、流通に関するコストや原材料のコスト等を自社でコントロールする垂直統合を指向する企業もあり、このような戦略を実現する手法として
M&Aが用いられるケースがあります。

大手の小売業が、
「川上」
であるメーカーや問屋をM&Aにより傘下に収め、製造・流通・販売を総合的に管理する事業を行うのはこのような戦略の具体的現れといえます。

このような水平・垂直型統合を目指してのM&Aは、
「関連事業」の買収、
すなわち
「土地勘のある戦場での戦略展開」
であるため、
「あの会社が手に入れば、この部分の合理化ができ、しかもあの販売網を用いることができる」等
といった検討やシミュレーションを具体的にできますので、M&Aによる効果(事業シナジー効果、統合による相乗効果)を見込みやすいものといえます。

他方、この種のM&Aは、
「新たな事業に手を出す場合に一から事業を構築することは多大な時間・コストを要するため、当該事業をすでに展開している企業をてっとり早く買収してしまう」
形で、事業の多角化や新規参入の戦略実現手段として実施されることもあります。

とはいえ、シナジー効果の算定が困難であることや、大競争(メガコンペティション)時代を乗り越えるために選択と集中こそが企業の主な課題となっていること、さらには、コングロマリットディスカウント理論(複数の事業を展開する複合企業体<あるいは多角経営企業>は、複合企業化<多角経営化>していることによって、逆シナジーが働き、個々の事業を別個に営むよりも事業価値の総和が低下していると市場に評価される、とする理論)実証されてきたこと等から、よほど明確な経営戦略に基づくものを除き、最近ではあまりみられません。

最後に、事業シナジーとは逆の方向、すなわち、事業を解体したり、事業価値を損ねるようなM&Aというのも存在します。

これは、グリーンメーラーあるいは日本では
「濫用的買収者」
といわれる者によるM&Aです。

すなわち、上場企業においては、建前上、株式を誰でも買えるため、
「金さえあればどんな企業でも乗っ取れる」
ということが制度上予定されています。

そこで、
「経営に興味がなく、単に企業経営陣にゆさぶりをかけて高値で売り抜けたり、買い戻させたりする」
ことを目的として、第三者から融資を受け(まともな金融機関はこのようなリスクの高い金融を行わないので、当然に高金利なローンとなる)、これを元手に株を買い占め(あるいはTОBを行い)て、現経営陣に、様々な要求を突き付けるという形で攻防が展開します。

いずれにせよ、現代の企業戦略においては、M&Aという法技術は非常に広く用いられており、企業法務において重要な課題と位置づけられるようになっています。

運営管理コード:CLBP536TO538

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01376_倒産・再生法務>特殊な課題・新たな課題>新設分割制度の濫用事例

1 新設分割による事業再生手法

会社法施行後、債務超過会社であっても会社分割が可能であるとされたために、事業再生の一手法として、会社の健全部門を取り出して、新設分割の手法を用いて新たな会社を設立する方法が見られるようになりました。

この方法によれば、債務超過である会社Aは、優良部門だけを分割して新会社Bとし、負債については会社Aに残すことで、事業再生を図ることが可能となります。

この方法は、中小企業再生支援協議会が厳格な要件のもと、公平な債権者保護プロセスを経たうえで実施するいわゆる
「第2会社方式」
として用いられ、特に中小企業における事業再生の有力な一手法として利用されているところです。

2 会社分割制度の濫用事例

ところが、中小企業再生支援協議会以外のアドバイザーが介入した会社分割の一部の事案においては、適切な債権者保護プロセスが実施されず、不満を感じた債権者が訴訟にふみきる事例が増加しています。

これらの訴訟においては、高裁レベルで詐害行為取消請求が認められ、会社Bに対して価格賠償を命じた高裁判例(東京高裁平成22年10月27日判決)や、会社Aと会社Bを同一人格とみなして会社Bに弁済を命じた地裁判例(福岡地裁平成22年1月14日判決)が出てきています。

最高裁は、2012年10月12日、このような濫用的な新設分割について、詐害行為であるものと認め、取り消されるべきだとの画期的な判示を行いました。

また、2012年8月1日に法務省・法制審議会会社法制部会が取りまとめた
「会社法制の見直しに関する要綱案」
では、旧会社の債権者が新設会社に対して債務の履行を請求できる旨の規定を創設し、会社債権者の保護を図る方針が示されており、単に債権者のがれのための会社分割規定の利用は不可能であると認識しておくべきでしょう。

したがって、このスキームを用いた事業再生を実施する際には、これらの裁判例の存在を念頭に置いて、慎重な検討を行う必要があります。

運営管理コード:CLBP535TO535

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01375_倒産・再生法務>特殊な課題・新たな課題>会社更生法の新たな運用その2

3 商取引債権の保護

更生手続開始後に事業の経営のために必要となった費用については、共益債権として優先的な弁済を受けることができます(会社更生法127条2号)。

例えば、更生手続開始後に航空会社が購入した燃料代金については、優先的に支払われるため、燃料会社は比較的安心して燃料を販売することができます。

ところが、更生手続開始
「前」
に会社に対して有することになった債権については、更生債権(会社更生法2条8項)となり、裁判所によって更生計画が認可された後、当該更生計画に従った弁済しかされません。

更生手続
「申立後」
に生じた債権については、要件を満たせば共益債権となって優先的に弁済される余地がありますが(同法128条)、更生手続
「申立前」
に生じた債権については、条文上は、更生債権として扱われざるをえません。

そうすると、更生手続申立前に商取引を行った債権者たちは、債務者に対して不信感を持つばかりか、今後の取引について消極的とならざるをえなくなります。

更正計画においても当該債権者たちの債権カットを含めて手続を進行させねばならず、手続遅延の原因ともなります。

これに対して、もし、更正手続申立前に生じた商取引債権についても全額弁済ができれば、債務者の経済的価値の棄損を最小限とすることができるばかりか、更生計画において債権カット等を実施する対象を銀行等に限定することが可能となり、更生手続の迅速化が期待できます。

このような問題状況の下、2008年12月に東京地裁民事8部の裁判官らにより発表された提言では、更生手続申立前に生じた債権であっても、

(1)債務者会社の規模、負債総額、資金繰りの状況をふまえて、相対的であっても、商取引債権一般が「少額」といえるかどうか
(2)商取引債権を全額弁済することで、事業価値の棄損が防止され、商取引債権の弁済を行わない場合と比べて金融債権者等への弁済率も向上することといった事情が認められるか

について検討し、会社更生法47条5項の要件を実質的に満たす場合には、更生手続申立前に生じた商取引債権一般について、全額弁済を認めるべきとされています。

実際に、東京地裁においては、負債総額900億円、取引債権10億円、最大の取引債権者が2億円であったリース会社の会社更生事件において、債権者が債務者との取引を継続する場合に限る、との条件のもと、弁済を継続させた事例があるようです。

運営管理コード:CLBP531TO534

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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