00663_民事裁判官のアタマとココロを分析する(2):「予断と偏見」を以て事件に向き合う

よほどマイペースで無能な裁判官を除き、普通に空気を読める普通の能力をもつ職業裁判官は、証人尋問の前において、事件の勝敗の方向性(業界用語で「事件の筋」などと読んでいます)や心証を決定しまっており、証人尋問を開始する時点では、主張の中身や書面の証拠だけでほぼ決定済みなのです。

いえ、もっと突っ込んだ言い方をすると、
「きちんとわかりやすく、明確で、根拠がしっかりしていて、時系列で整理されていて行ったり来たりせず、読んで話の中身と背景が頭にすっと入ってきて、話のゴールや法律的な要求事項もきちんと意識されているようなストーリーとエビデンス」
が訴訟の初っ端から提示されたら、反対当事者からこれを上書きするような別の話が出てこない限り、その段階で、事件の勝敗はほぼ決まります。

要するに、公式には表明されていないものの、民事裁判については、予断と偏見を以てスピーディーに“解決”することがその最も重要な機能であり、使命です。

ちなみに、“解決”という言い方をしたのは、含みがあります。

“解決”は判決とは限りません。

民事裁判のゴールは、
「判決」ではなく、
和解や取り下げ・放棄・認諾を含めた「解決」
がゴールです。

「解決」
という点でいえば、地裁で
「判決」
をらうことは、控訴や上告で覆ったり変更されたりする可能性がある、という意味で、
終局性がない、中途半端で、意義と価値が低い、いわば出来損ないの「解決」
となります。

「民事裁判については、予断と偏見を以てスピーディーに“解決”することがその最も重要な機能であり、使命」
なんて言い方をすると、法律実務を知らない学生などから
「予断と偏見を以て裁判するなんてことはありえないし、あってはいけない」
と青臭い反論がふっかけられるかも知れません。

無論、刑事裁判においては、建前として、
「無罪推定則がある以上、裁判所は予断と偏見を抱いていはいけない」
というフィロソフィーがある、ということになっています。

訴訟経済や思考経済に資するのは、ハラハラドキドキや大逆転や大どんでん返しなどではありません。

むしろ、適切な相場観と予定調和に基づく
「予断と偏見」
を以て、個々の事件を効率よく、波乱なく、すんなり、すっきり、とっとと終わらせることが、訴訟経済に最も貢献します。

裁判官が当事者に求めているのは、
「最後まで犯人がわからず、ラスト5分で衝撃のどんでん返しがあり、全米が仰天するような衝撃のサスペンス」
ではなく、
「冒頭に、ネタバレ付きのあらすじが、起承転結がクリアな話が端的な形で解説してあるような、小説(と出典情報と参考資料)」
なのです。

最初に、真犯人を把握した上で、予断と偏見をしっかりもった上で、推理小説や、サスペンス小説を読む。

「そりゃ、そういう読み方をしたら、効率的に読み飛ばしできるかもしれないけれど、つまんなくネ?」
というツッコミがきそうですが、裁判官は暇じゃないんです。

多くのノルマに追われ、殺人的に忙しいのです(実際、殺人的なストレスや仕事量のためか、体調やメンタルを崩され、定年退官前に、よく殉職されたりします)。

そして、大量の事件を、無駄なく、もれなく、間違いなく、スピーディーに処理するため、
「予断と偏見」
の力を使って、事件を見通して、仕事を処理していくのです。

「予断と偏見」
に優れた裁判官は、
「事件の筋が読める、腕のいい裁判官」
として、出世の階段を登っていくのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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