例えば、一審は勝訴したものの、一審の裁判官も、明々白々な証拠があって、雲1つない晴天のようなすっきりとした気持ちを持ち、胸がすくような形で、一方当事者を勝たせた、ということではない、というケースがあります。
一審判決を読むと、ためらい傷が残るように、懐疑を挟み、躊躇(ちゅうちょ)を覚えつつ、最後まで晴れ晴れとした気持ちではなく、
「どっちもグレーでやましいが、どっちがマシかというと、まあ、こっちかな」
という感じで勝たせてくれたような事件だとします。
そして、相手方が控訴し、高裁審理に至り、そこで、
「第一回期日で即日終結し、新たな証人尋問や論点整理は行わない」
という
「6、7割程度」
の一審踏襲フラグが立つカテゴリーに入ってくれれば一審で勝訴した側も安堵していいかもしれません。
しかし、残念ながら、審理続行となり、やれ、主張の追加や補充、追加の書証の探索と提出、さらには、証人尋問まで行われる、という訴訟指揮を高裁がした場合、1.3審制の
「0.3」
に入っちゃった、ということになります。
高裁で
「第一回即日結審」
してくれず、その後も、グジグジ審理する、ということは、
「高裁は、一審の判決に懐疑的であり、ひっくり返す気持ちマンマン」
という状況が見て取れるのです。
また、高裁の裁判官の出してきたメッセージも重要です。
和解には、単に
「和解を検討せよ」
と、抽象的で漠とした感じで和解検討を指示するときと、
「これこれこの条件での和解を検討せよ」
と、具体的な条件を明示した和解検討を指示するときの2つがあります。
前者は、文字通り
「まあ、和解でも考えてみれば? もし話が折り合うようならそれはそれでこっちも世話を焼いてあげるし」
という
「とりあえず、適当に、言ってみただけ」モード
です。
もちろん、気に食わなければ、あっかんべーして拒否っても問題ありません。
しかし、後者の場合、
「これこれこの条件での和解を検討せよ」
と、具体的な条件を明示した和解検討を指示したときは、明快な日本語に“翻訳”すると、
「和解をしろ」
という命令です。
だって、判決をも食らわせることのできる権力者が具体的な条件を示して言っているわけですから。
高裁という
「実質最終審」
の裁判所が、そのような命令を口にしたとき、空気を読まずに安易に拒否るのはスゲーヤバイことになりかねません。
例えば、和解を担当した裁判官が、
「一審は勝訴した支払全額を免れたかわかりませんが、ここは、500万円程度、お支払いされたらいかがでしょうか、検討していただけますか?」
なんて話が出てきたら、言葉は穏やかですが、
「500万円、という具体的条件をビシっと明示して、検討を指示た」
わけですから、事実上の命令です。
すなわち、
「500万円で和解しろ、わかってんだろうな」
という命令です。
当該事件に関する限り、司法権、すなわち、
「事実を認定し、法を解釈して、結論を出すことを通じて、国家意思を示す」
という国家主権を独裁的かつ最終的に有するのが、高裁の裁判官です。
そんな人間からの命令を拒否ったら、確実に、後で泣きをみます。
ほとんどの事件は別に重要な判例の解釈や憲法論とかが議論になっているわけでもないでしょうし、最高裁はほぼ間違いなく門前払いです。
空気を読まずに蹴り飛ばしたら、逆転敗訴し、裁判官から祟りならぬ、
「逆転全面敗訴」
というご託宣が下され、遅延損害金まできっちり食らうことになり、ヒドい目に遭う結果になります。
以上は、高裁、事実上の最終審(99%最高裁はスルーされるので、99%最終審)の場合を話させていただきましたが、状況は、7割方最終審(70%は高裁でも控訴してもスルーされるので、70%最終審)である地裁でも同じです。
3割はひっくり返る期待が持てますが、7割は、地裁判決が、当該事件についての最終国会意思表明となるわけです。
地裁の場合、証人尋問実施前ですと、具体的条件を示さず、
「まあ、和解でも考えてみれば? もし話が折り合うようならそれはそれでこっちも世話を焼いてあげるし」
という
「とりあえず、適当に、言ってみただけ」モード
の世話焼き・おせっかいもあり得ます。
もちろん、気に食わなければ、あっかんべーして拒否っても問題ありません。
しかし、証人尋問が終わった後の和解となると、ほぼ100%
「これこれこの条件での和解を検討せよ」
と具体的な条件を明示した和解検討を指示したものであり、
明快な日本語に“翻訳”すると、
「和解をしろ」
という命令です。
これを気に食わないからといって、元気よく蹴っ飛ばすと、待っているのは、和解条件をさらに不利に上書きされた、全面敗訴判決となります。
そして、控訴では、戦う相手が増えます。
すなわち、地裁では、戦う相手は、目の前の当事者だけですが、控訴審では、
「相手の当事者+不利な判決を出しやがった一審裁判所の連合軍」VS.「こちら側」
となり、しかも、審判・レフェリー・行司は、7割方、
「相手の当事者+不利な判決を出しやがった一審裁判所の連合軍」
の肩をもち、不戦勝とすることを決めている、予断と偏見にまみれた
「クソ審判」
です。
そういう状況実質解釈を十分踏まえて、控訴審はもとより、一審でも和解戦略を考えて対応しないと、思わぬところで足をすくわれかねません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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