01375_倒産・再生法務>特殊な課題・新たな課題>会社更生法の新たな運用その2

3 商取引債権の保護

更生手続開始後に事業の経営のために必要となった費用については、共益債権として優先的な弁済を受けることができます(会社更生法127条2号)。

例えば、更生手続開始後に航空会社が購入した燃料代金については、優先的に支払われるため、燃料会社は比較的安心して燃料を販売することができます。

ところが、更生手続開始
「前」
に会社に対して有することになった債権については、更生債権(会社更生法2条8項)となり、裁判所によって更生計画が認可された後、当該更生計画に従った弁済しかされません。

更生手続
「申立後」
に生じた債権については、要件を満たせば共益債権となって優先的に弁済される余地がありますが(同法128条)、更生手続
「申立前」
に生じた債権については、条文上は、更生債権として扱われざるをえません。

そうすると、更生手続申立前に商取引を行った債権者たちは、債務者に対して不信感を持つばかりか、今後の取引について消極的とならざるをえなくなります。

更正計画においても当該債権者たちの債権カットを含めて手続を進行させねばならず、手続遅延の原因ともなります。

これに対して、もし、更正手続申立前に生じた商取引債権についても全額弁済ができれば、債務者の経済的価値の棄損を最小限とすることができるばかりか、更生計画において債権カット等を実施する対象を銀行等に限定することが可能となり、更生手続の迅速化が期待できます。

このような問題状況の下、2008年12月に東京地裁民事8部の裁判官らにより発表された提言では、更生手続申立前に生じた債権であっても、

(1)債務者会社の規模、負債総額、資金繰りの状況をふまえて、相対的であっても、商取引債権一般が「少額」といえるかどうか
(2)商取引債権を全額弁済することで、事業価値の棄損が防止され、商取引債権の弁済を行わない場合と比べて金融債権者等への弁済率も向上することといった事情が認められるか

について検討し、会社更生法47条5項の要件を実質的に満たす場合には、更生手続申立前に生じた商取引債権一般について、全額弁済を認めるべきとされています。

実際に、東京地裁においては、負債総額900億円、取引債権10億円、最大の取引債権者が2億円であったリース会社の会社更生事件において、債権者が債務者との取引を継続する場合に限る、との条件のもと、弁済を継続させた事例があるようです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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