01638_法律相談の技法4_初回法律相談実施までの具体的手順(2)_相談実施前に相談者に“宿題”を与える

法律相談を受付、アポイントメントを調整して来所の運びになった場合、効率的に相談を実施するために、相談者には「宿題」を与える、すなわち、
1 法的リテラシーを改善し、正しい法的相場観の醸成してもらうために、関連資料を閲読させる
2 事前問診票を作成させる
3 関係資料を収集し、整理し、事前にメールで送付させ、あるいは当日持参させる

という指示を与えることが推奨されます。

弁護士や相談者の中には、何の事前準備や理論武装もせず、面談してから話を聴取するような、適当でイージーな雑談的相談から始める方もいますが、このような方法論ですと、初回相談は、せいぜい相談者のプロファイルや事業や問題取引の前提概要等を聞き出すところで初回1コマ(1時間)を使い果たしてしまい、抱えている法的課題の発見・特定(具体化)・解決相場観の共有・展開予測・解決ないし改善の是非や蓋然性・大まかな選択肢の抽出とプロコン分析、といったカウンセリングの最重要部分にまでたどり着かない可能性が出てきます。

手際よく、相談者のプロファイルや、前提事情を把握し、問題の核心を把握し、展開予測を行い、相談者の認知改善を行い、啓蒙・教化を遂げ、正しい法的相場観を醸成してもらい、

1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、
4 相談者が、「(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観」を前提に、「概括レベルで」展開予測(場合によってはゴールや着地点の予測)が出来るようになること、
5 以上を前提に、相談者が、基本的かつ大枠レベルでの態度決定、すなわち、
(1)本件について、コストや労力をかけて何らかのアクションを取る方向でプランを策定するのか、
(2)本件について、特段のアクションを取らず、とはいえ、ギブアップすることなく様子見して、事態の推移を観察するに留めるのか、
(3)「客観的な状況観察」と「実務上の知見」を前提にした展開予測と現実的期待値をもとに、本件について、時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのものをあきらめる(=泣き寝入りする、忘れる、捨て置く)のか
をしていただくこと

という、初回相談のゴールにたどり着く、という点からすると、相談者に
「宿題(事前準備)」
を遂げてもらい、お互い時間と費用(相談時間が長引くと、相談者にとってコスト上昇を招く)の無駄を省略するべきです。

この観点から、相談者に対して、
「しかるべき宿題」
を設計し、当該宿題遂行を求めるべきです。

1  宿題1:法的リテラシーを改善し、正しい法的相場観の醸成してもらうために、関連資料を閲読させる

相談者に賦課する
「宿題(事前準備)」
の1つ目は、法的相場観の醸成をしてもらうことであり、このため、
「世間の常識」
とはまったく異なる、
「法律の常識」
「法律実務の常識」
「裁判実務の常識」
を(どんなに思い込みが激しく、機能的文盲が重篤で、総じて理解力が乏しい相談者であっても、一般的な識字能力さえあれば瞬時に状況や相場観が理解把握可能な)シビれるくらいわかりやすく伝える啓蒙資料を探し出し、これを相談者に付与し、法的な相場観を醸成させておくべきです。

例えば、相談者が企業で、
「怠惰で、疎漏が多く、総じて出来の悪い従業員」
を解雇したら、解雇を争って労働審判が申し立てられた、というケースの場合、
「世間の常識」
としては、
「『怠惰で、疎漏が多く、総じて出来の悪い従業員』がクビになるのは当然であり、クビにしたはずの従業員が解雇が無効などと騒いで、復職を求めて、認められるわけはない」
というものであり、相談者がこのような
「世間の常識」
という
「誤ったバイアス」
に罹患した状態で相談に乗り込んでくることが想定されます。

そうすると、前記、初回相談のゴールの、
1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、

に至るはるか手前で、手間取ってしまい、無駄な時間や費用を費消してしまう危険性が浮上します。

このような場合、
「『世間の常識』とはまったく異なる、『法律の常識』『法律実務の常識』『裁判実務の常識』 を(どんなに思い込みが激しく、機能的文盲が重篤で、総じて理解力が乏しい相談者であっても、一般的な識字能力さえあれば瞬時に状況や相場観が理解把握可能な)シビれるくらいわかりやすく伝える啓蒙資料」
として、例えば、
00245_解雇不自由の原則
00902_企業法務ケーススタディ(No.0230):解雇
00621_企業法務ケーススタディ(No.0212):あな恐ろしや、ブラックの烙印押されかねない労働審判
といったものを事前送付して閲読をしてもらっておけば、無駄な時間や費用を費消してしまう危険性を減らすことが出来ます。

2 宿題2:事前問診票を作成させる

また、相談者には、事前に、自分が置かれた状況を思い出し、これを客観性あるファクト(5W2H)としてミエル化・カタチ化・具体化・言語化・文書化した上で、時系列で整理し、要領よくかつ客観的に事情を説明できるような
「ブツ(資料、文書、アウトプット)」
を用意させておくべきです。
すなわち、弁護士は、
「依頼者の、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、ある程度文書化された事件にまつわる全体験事実」(ファクトレポート)
を所与として、そこから、依頼者が求める権利や法的立場を基礎づけるストーリー(メインの事実)ないしエピソード(副次的・背景的事情)を抽出し、こちらの手元にある痕跡(証拠)や相手方が手元に有すると推測される痕跡(証拠)を想定しながら、破綻のない形で、裁判所に提出し、より有利なリングを設営して、試合を有利に運べるお膳立てをすることが主たる役割として担います。
そのために、避けて通れないのは、相談者が「事実経緯を、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、文書化する」という前置作業です

ここで、初回相談の効率化・充実化のため、弁護士サイドから、相談者に、ファクトレポートフォームを事前に送付し、そこに「問診票」のような形で、相談実施までに記入・作成させることが推奨されます(私の事務所では、このようなフォームを整備して、運用しています)。

3 宿題3:関係資料を収集し、整理し、事前にメールで送付させ、あるいは当日持参させる

最後に、相談者には、相談事項に関係する全ての資料を収集・整理し、これを持参(あるいはスキャニングしてPDF化してメールで事前に送付する)をさせるべきです。
手ぶらで、痕跡を示さず、曖昧な状況説明をする相談者(そういういい加減な対応を許す弁護士)もいますが、痕跡の有無や質がわからないのでは、具体的な助言はほぼ不可能です。
たとえ、言い分(主張、ストーリー)が至極もっともであっても、「契約があっても契約“書”がない、というストーリー」や「記憶があっても記録がない、というストーリー」
については、裁判所においては、「寝言」「妄想」(もしくは、より端的に言えば「ウソ」)
として片付けられる、というのが訴訟の現実だからです。

そして、整理する基準ですが、必ず、時系列で整理してもらうべきです。
三次元空間で生存する我々は、
「時間」
という不可逆的かつ直線的に流れる絶対的な次元を世界中の全人類と共有しており、この意味では、時系列を用いた事実整理は、もっとも客観性があり、過誤の介在する余地のない整理軸だからです。
これは要領さえ得てればさほど難しいものではありません。
相談事項に関するすべての痕跡や資料(証拠資料)をまず一箇所に集め、これを、古いものから最近のものに並べ替えれば完成です。
月や日毎にタグ付けしたり、重要な資料には付箋を貼ったりしてもいいですが、コアの基準は時系列、とすべきです。
このような資料が相談時、あるいは相談前にあれば、相当程度具体的な助言が可能となり、弁護士にとっても、相談者にとっても大きな時間とコストの効率化・節約につながります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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