01683_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(26)_各論2_内部統制・コンプライアンスに関する業務

1 概念整理その1:「企業倫理」と「コンプライアンス(法令遵守)」の関係整理

1)コンプライアンスの所掌範囲に関する説の対立

広義説・倫理包含説:コンプライアンス=法令遵守+倫理的要請の遵守
狭義説・倫理排除説:コンプライアンス=法令遵守のみ。倫理的要請の遵守は、別途の問題として議論すべき、リーガルマターとしてのコンプライアンスの議論と混同すべきではない。

2)倫理包含説(コンプライアンス=法令遵守+倫理的要請の遵守 )

(1)倫理包含説の立場からの法務対応例:
このスキームはたしかに法的には正しいかしれない。しかし、そんな前例のないスキームをやること自体、企業倫理的に大問題であり、コンプラ違反だ。横並びの業界に波紋を巻き起こすし、業界的にも世間の目からも奇異なやり方に映り、風評上厳しい状況に陥る。すなわち、あざといやり方だ、金儲け主義だ、と非難されるなど、世間やマスコミからバッシングを受けるかもしれない。法務の意見としてはNGだ。社長には、『コンプラ違反につきやったら大変なことになる。検討に及ばず』、と伝えておけ

(2)倫理包含説の問題点:
倫理包含説によるコンプライアンス運用は往々にして、法務活動のサボタージュのための弁解として使われる。すなわち、コンプラという実体なき概念で思考停止を正当化してしまう危険がある。何でもかんでも、少しでも問題がありそうであれば、緻密な法的三段論法による検証を懈怠して、「コンプラ違反」と言っておけば、「リスクの大元がなくなり、リスクや危機が消失する」という意味でリスク管理として法務の仕事が完了するので、仕事の負担から解放される。また、「法的三段論法の検証が面倒くさい」というより「コンプラ的に問題、コンプラ違反だから、やめといたほうがいい」と言うと、知的で高尚に聞こえるし、思考放棄が誤魔化せ、また、自己評価も維持・改善・向上を図れる。
参照:
00013_「コンプライアンス的に問題です」という応答は、企業法務的に大問題であり、法務部員の職責放棄と同じ
01161_疑似法務活動の概念整理>倫理課題・CSR等と企業法務との関係整理>(2)法令遵守と倫理を渾然一体のものと考える説(「法令・倫理一体説」)の限界その1
01162_疑似法務活動の概念整理>倫理課題・CSR等と企業法務との関係整理>(2)法令遵守と倫理を渾然一体のものと考える説(「法令・倫理一体説」)の限界その2
01163_疑似法務活動の概念整理>倫理課題・CSR等と企業法務との関係整理>(3)「企業倫理」と「企業法務」との概念峻別の必要性
01164_疑似法務活動の概念整理>倫理課題・CSR等と企業法務との関係整理>(4)学説の状況
01165_疑似法務活動の概念整理>倫理課題・CSR等と企業法務との関係整理>(5)まとめ

3)狭義説・倫理排除説

(1)倫理排除説の立場を取る法務対応例:
「法令を調べる限り、明確に禁止した条項はみつからず、所管官庁に対する非公式の意見照会でも、違反とすべき点は見当たらない、との発言を得ています。ただ、あざといやり方で、相手方への打撃が大きく、報道のされ方によっては、ウチが悪者になるかもしれません。その意味では、消費者の離反を招くかもしれず、得られる経済的効果とレピュテーション上の犠牲とのバランスを勘案する必要があります。実際、よく似た事例ですが、この分野における新しいスキームを先取りしたX社は、マスコミから避難を浴び、結局、当該スキームを撤回するという不名誉な選択を強いられ、株価も大幅に下落しました。法務としては、以上のような法律以外のリスクも付記させていただきますので、PR、IR上のシナリオについて、担当部署とよく議論の上で、ジャッジしてください」

(2) 倫理排除説も、企業活動から、一切「倫理」に関する価値追求等を、無視・軽視・排除せよ、とまで言っているわけではない。
「法令遵守の問題」と「世間体の問題」を分けて議論せよ、と言っているに過ぎない。
参照:
01117_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>コンプライアンス法務(フェーズB)内部統制システム構築・運用法務>(1)法務の定義及び射程
01544_「『コンプライアンス』への視点──攻めのリスク管理戦略」

2 概念整理その2:「コンプライアンス法務」と「内部統制法務」の関係

01117_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>コンプライアンス法務(フェーズB)内部統制システム構築・運用法務>(1)法務の定義及び射程
01118_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>コンプライアンス法務(フェーズ3B)内部統制システム構築・運用法務>(2)内部統制の関係

3 企業内従業者性悪説(リスクアプローチ)対企業内従業者性善説

01119_予防対策フェーズ>法務活動・フェーズ3>コンプライアンス法務(フェーズ3B)内部統制システム構築・運用法務>(3)法務遂行上の基本的視点

4 コンプライアンス法務・内部統制構築運用法務を遂行する実質的な意味と価値

問題の所在:なぜ、コンプライアンスや内部統制といった事業課題を遂行する必要があるのか?何かメリットがあるのか?

前提:
人は法を守れない
組織も法を守れない
企業は、普通に活動しているだけで、常に法を犯してしまう可能性は絶対なくならない

他方で、予防は必要。「絶無を目指す、根絶」などという幼稚で愚劣で非現実的な幻想を目指すものではなく、「大事が小事に、小事が無事に近づくような」現実的な対処として必要

さらに、リアルな必要性で言うと、不祥事発生時点における「経営陣の免責」を目指した環境構築(アリバイ作り)が必要

免責適格要件を充足した(後日、裁判所が内部統制構築義務を履行したと評価するに足る)コンプライアンス体制の構築の必要性・実質的価値

5 内部統制システムを構築・運用の実務

00724_内部統制構築の実務1:内部統制システムを構築するにあたって、どのような哲学や基本理念基づき構築すべきか?
00725_内部統制構築の実務2:内部統制とコンプライアンスの相違点
00726_内部統制構築の実務3:内部統制やコンプライアンスを進める体制を効果的に構築するための具体的タスクデザイン
00727_内部統制構築の実務4:タスク(1)コンプライアンス教育・コンプライアンス研修
00728_内部統制構築の実務5:タスク(2)違反の検知-内部監査制度及び内部通報制度
00729_内部統制構築の実務6:タスク(3)違反の調査
00730_内部統制構築の実務7:タスク(4)違反者に対する制裁
00731_内部統制構築の実務8:タスク(5)再発防止策の策定・運用

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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