01154_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(7)各ステークホルダーの特性に応じた個別対応>報道機関への対応(経営、法務等と連携した戦略広報)

もし企業内の特定の従業者による法令違反行為が争いえない状況であったとしても、少なくとも企業ぐるみ、組織体質による事故ではない旨を説明することも重要です。

適正な内部統制システムを構築し、これを厳正に運用している企業は、コンプライアンス体制を整えるメリットで述べたとおり、
「適切な遵法体制を整備しており、法令違反の発生予防に企業として最善を尽くしたが、特定部門・特定個人のルール軽視の態度が原因となって今回の事態に至った」
という説明が可能となるのです。

逆に法令違反の予防・検知・回避のための適切なシステムが存在しない場合やシステム自体存在してもそれが有効に機能していない場合、企業が組織として積極的関与した形跡がなくとも、放置・黙示的容認ととられることになります。この点は、大和銀行ニューヨーク支店事件判決において、
「システムは存在していたが、有効適切に機能していなかった」
との判断を下し、役員個人に対して数百億円規模の善管注意義務違反の賠償責任が認められたことに十分留意すべきです。

適切な内部統制システムの構築・運用を憚怠して法令違反事態を漫然と惹起してしまった企業は、社会から
「今般の企業の法令違反行為に起因する不祥事は組織的問題である」
と評価されることになり、企業価値が著しく低下する事態を招くことになります。

さらに、類似事件が起こるたびにケース・スタディとして繰り返し報道されることになり、企業信用回復のコストは莫大なものとなっていきます。

なお、有事における広報戦略についても、企業の有事対応上の経営戦略のコアを形成するものとして社内独自でのノウハウを蓄積すべきです。

しかし、豊富な他社の事例をふまえた最新のノウハウを適用する、という意味でも外部コンサルタント採用は検討に値すると思われます。

ただ、この種のコンサルタントは企業価値を低下させない点についてはプロフェッショナルであっても、法律のプロというわけではありません。

したがって、広報コンサルタントは後の監督行政機関対策や訴訟対策まで見据えた広報戦略を展開できるわけではないので、法務スタッフや外部弁護士との機能的連携も必要となることに留意が必要です。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01153_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(7)各ステークホルダーの特性に応じた個別対応>一般消費者・取引先等への対応

有事対応としては、一般に被害者対策や報道機関対策に目を奪われがちですが、企業を取り巻く利害関係者は、株主、取引先、金融機関、証券取引所や監査法人(上場企業の場合)、監督行政機関等数多く存在し、かつこれら各利害関係者はそれぞれ違った観点で企業の有事状況を認識し、それぞれのアクションを行います。

当該利害関係者ごとに級密なケアをしていく必要があります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

企業が法令違反にまつわる不祥事を起こし、これが企業を取り巻く外部の関係者(消費者や取引先)に直接間接の被害を加えることがあります。

また、被害を加えていなくても、企業の法令違反行為に起因する不祥事が長期的継続的な取引関係に悪影響を及ぼす可能性もあります。

特に、規制業種においては、監督行政機関から法令違反に対して業務停止命令等の措置が採られる可能性があります。

企業活動を禁じる行政処分(指名競争入札における指名停止処分を含む)が採られると、顧客との取引関係に決定的な打撃を与えるし、その際の企業の対応が拙劣であると、混乱を招き、危機そのものに、さらなる企業価値の低下が発生します(不祥事の種類によっては、危機自体に伴う信用低下より、むしろこのような企業の拙劣な有事対応が露顕することによる企業価値低下の影響の方が大きい場合もあります)。

企業のとるべき有事対応は、
「業務停止命令という事態がありうる」
旨の展開予測を早期に行い、先手を打って、現実に業務停止命令が出た場合の顧客へのアナウンスと混乱回避のための具体的対応プラン(現場での対応マニュアルやFAQ〔Frequently Asked Questions;質問事例集〕パンフレット等の整備)まで含めて対応を整えておくことです。

危機が具体化した場合、顧客は正確な情報を欲しますし、何より混乱を嫌うものです。

また、顧客は、他方で企業が危機に対する対応能力・信用リカバリー能力をどの程度持っているか、冷静に評価しています。

したがって、迅速な調査と事故報告、被害拡大防止措置・緊急改善措置の実施と報告、専門調査チームによる事実関係の調査・原因の究明と報告、今後の具体的改善策の提案など、顧客の信頼をつなぎ止める誠実かつ迅速な対応を行うための手順を確立しておくことが顧客対策上重要となります。

この点、欠陥隠蔽をしていた三菱自動車パロマガスは、顧客への損害を拡大し、企業リスクの拡大再生産を招いてしまいましたが、他方で、事実の公表と迅速な製品回収を果断に行い、かえって企業価値を高めたジョンソン・アンド・ジョンソン社や参天製薬の例もあります。

有事対応は
「企業信用が低下する厄介な事態」
ではなく、企業の有事対応能力をアピールする絶好のチャンスである、という形で積極的に捉え、適切な対応を取りたいものです。

なお、危機に直面した企業は組織力が低下し、現場の士気が下がりがちであり、顧客や取引先に対して企業の内情や悪評を言い出す者も少なからず出てきます。

このような行為に対しては、
「会社に損害を与える行為として、このような行為は厳に禁じる。企業内不祥事は内部通報システムを通じて直言すべきであり、公益通報者保護法の要件を満たさない外部への通報行為は、企業価値を著しく損ねる場合として、就業規則に基づき懲戒を加えることがありうる」
旨の社長声明等を行うべきです。

いずれにせよ、企業が危機に直面しても、現場の末端の従業員も含めて全社員、これに動じず、通常と変わりなく適切な対応を整然と行うという姿を顧客・取引先に見せることが最大の顧客対策と考えられます。

これまで、消費者契約法違反事案に関しては個々の被害消費者が個人的に被害回復を図るだけでしたが、消費者契約法改正により、適格消費者団体による大規模かつ組織的な事件介入が法的に認められるようになりましたので、消費者団体の動静には注意と警戒を怠らないようにすべきです。

運営管理コード:CLBP133TO135

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01152_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(6)調査活動(不祥事関連情報の収集と分析)その2

2 不祥事関連情報の管理と制御及び保秘の徹底

有事対応下においては、情報はトップに全てを集中させ、トップで処理し、決定を発信するということを徹底して行わなければなりません。

特に広報と法務はそれぞれ独自の価値観を有している場合が多いのが実情です。

広報は企業イメージや報道機関との良好な関係維持を考えるあまり、必要以上の情報開示に及んでしまう危険があります。

他方、法務スタッフとしては、情報開示に過剰な防衛本能が働いてしまうあまり社会的視点や常識人としての視野を欠いて危機を拡大してしまう危険があります。

法務と広報を互いに独走・暴走をさせず、トップの明快な指示により責任分掌させた上で、効果的に連携させなければなりません。

なお、最大の問題は調査の過程で不利な事実が発見されたときです。

基本的な対応としては、開示によって現在拡大中の損害が抑止・軽減されるのであれば、不作為による損害拡大に対して追加的に不法行為責任を課せられるべき危険性も考えて積極的に開示すべきですが、すでに損害が拡大すべき状況になければ、後の訴訟・監督行政機関への対応も含めて、顧問弁護士(契約法律事務所)を参与させて慎重に対応すべきことになります。

なお、この種の有事対応をコンサルタント等に委託する企業もありますが、その場合、厳格な守秘義務契約を締結する必要があります。

そもそも弁護士は法律上の守秘義務を負っており、機密漏洩には行政処分(業務停止や弁護士会からの退会等)のほか刑事罰(刑法の秘密漏示罪)のリスクが伴いますので、弁護士から情報が遺漏することはまずありませんが、この点があいまいなコンサルタント等の場合、そこから情報が漏洩するリスクが存在します。

この理は、証券会社やファイナンシャル・アドバイザーや金融機関も同様で、不祥事関連情報を伝える際は、必ず守秘義務契約を締結すべきです。

また、企業の命運に関わる情報を扱う以上、その有事対応業務を請け負うコンサルタント会社に関しては、法人との守秘義務契約のみならず、当該コンサルタント会社の個々の従業員からも守秘義務誓約書を徴収する必要があります。

3 情報収集における現場主義

有事調査の基本として、常に現場主義を念頭に置く必要があります。

特に、事故現場では責任回避のために、隠蔽や情報の握りつぶしもありえますので、迅速に現場に赴き、必要な証拠を保全する必要も出てきます。

そして、現場で調査する場合、調査担当者の能力・資質も重要となります。

すなわち、当該調査担当者は、現場のことがよくわかる目の利く者を派遣して調査にあたらせなければなりません。

4 虚偽報告や隠蔽のリスクを想定する

適切な情報収集を終えた後のアナウンス戦略としては、
「嘘をつかない」
ということが重要となります。

広報戦略において、嘘は退路を断つなどといわれることもありますが、嘘は絶対ばれますし、嘘がばれた場合には、さらなる企業信用の低下を招いてしまいます。

このことは度重なるリコール隠しで企業ブランドが傷ついた三菱自動車の例をみれば明らかです。

経営陣も組織人であり、嘘をついて信用ダメージを少しでも低下させたい誘惑にかられることも多いかと思われますが、嘘をついてばれたときのことをよくイメージし、その怖さを想像して、くれぐれもこの誘惑に負けないようにしたいものです。

ただ、
「何でも正直にいえばいい」
というものでもありません。

法的危機が発生した後は、官庁対策や訴訟対策等において企業を防衛するというステージが残っており、この段階においては、事実の全面的開示が戦略的和解交渉の可能性を全て奪ってしまうことになりかねません。

したがって、法務と広報が効果的に連携することによって、アナウンス方法や内容を慎重に考えて対応することが必要になります。

運営管理コード:CLBP131TO132

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01151_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(6)調査活動(不祥事関連情報の収集と分析)その1

1 情報の収集・分析の重要性

予期せざる形で法令違反の不祥事が発生した場合、最も大切なのは、良質で正確な情報です。

ここに、
「良質な情報」
とは、
「1 正確な情報の収集 → 2 収集した情報の客観的な分析 → 3 現実的な展開の予測」
というプロセスによる付加価値が付された有事対応上有用な情報、という意味であり、単に正確というだけで価値のない情報を量的に集めればいい、というものではありません。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

「良質な情報」
の入手・獲得のために必要なのは、上記のプロセスを確実に実施できる組織であり、これをどれだけ早いタイミングで作り上げ、動かすことができるかが、その後の有事対応に大きな影響を及ぼしてきます。

そして、上記の情報が整うまで憶測で物を言わない、という態度を取ることも必要になってきます。

報道機関の取材のプレッシャーに負け、すぐに謝罪を行ったり、遺憾の意を表明したりする企業も少なくありませんが、一旦このような態度を取ると、変更したり挽回したりすることが不可能となり、企業信用回復という点で大きな禍根を残すことになりかねません。

企業の法令違反行為に起因する不祥事の発覚があった場合にまずなすべきは正確な情報の収集です。緊急事態においては初期対応が全てを決するといっても過言ではなく、またこの初期対応も正確な情報に基づくことが求められます。

したがって、
「迅速かつ正確な情報収集」
は極めて重要な作業となります。

そのためには機動性の高い専門チームに強力な調査権限を付与して、火急かつ徹底した事実調査を行うことが大切です。

経営陣に事実調査の重要性について認識が不足していたり、さらにいえば、正確な情報が集まらない段階で、コメントを二転三転させたため、混乱を招き、信用を低下させ、企業損害を拡大してしまう、ということは不祥事対応に失敗する企業に共通する特徴です。

正確な情報に基づく対応が必要とはいうものの、不作為も法的な有責となるので、巧遅な対応もときに問題となりかねません。

正確な上、迅速な情報収集をするような合理的努力をすること、あるいは各有事対応組織が合理的な努力をしうるような体制作りが企業として求められることになります。

なお、不正確な事実認識に基づく判断や公式発表は予想のできない二次的な危機を産み出すもとになります。

すなわち、企業の見解が二転三転すれば、
「一貫性のない企業」
「有事対応能力のない企業」
との評価が生じ、その問題を起こした部門を超えて、企業全体として評価を下げる別のリスクが顕在化することになります。

無論、調査未了段階では
「ノーコメント・調査中」
との対応が一般的に推奨されますが、こういうコメントを発表するにあたっては、
「調査を行うにあたって何が問題になっていて、何時までにコメントできるのか」
ということについてもレスポンシブである必要があります。

そして、有事において事故情報を効果的に収集するためにも、何より、
「日常の企業活動の整理・検証」
が可能になっていなければならず、そこで文書管理体制が威力を発揮することになります。

すなわち、適正な文書管理システムの下、日常の企業の活動が正しく記録管理されている限り、違反事実の特定とその規模や時間的範囲まで容にトラッキング(追跡)することが可能となり、迅速かつ正確な原因の解明につながります。

運営管理コード:CLBP129TO131

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01150_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(5)有事対策チームの組成・運用その2

3 社外人材の活用

一定の不祥事状態を認識した後、経営陣が不作為のまま放置してしまったり、隠蔽のためにアナウンスや対応を遅らせたりすることもありますが、これを防止するようなシステムも必要となってきます。

しかし、結局のところ、これは社外の人材からの直言によるしかありません。

この意味において、危機管理委員会等の有事対策チームの最高意思決定機関には、視野狭窄に陥ることなく、冷静かつ客観的に状況を分析し、社会的視点から効果的な対応をスピーディーに構築できる外部のアドバイザーを入れておくことが望ましいと思われます。

外部のアドバイザーは、社内の政治的圧力に屈することなく、事実を正確かつ公平に評価・認識を行う責務を負うことから、法律や危機管理の専門性をもつ独立した知識人であることが必要であり、この点から、弁護士や会計士等が就任するケースが多く見受けられます。

以上のような専門性や知性も必要ですが、有事対応を実施する外部アドバイザーは、社会常識という点から事態を客観的に認識することのできる
「常識人」
であることが必要です。

また、助言を仰ぐべき外部のアドバイザーを高給でつなぎとめると、金銭的利害のため、独立性を失い、直言を憚ることもありうることも考慮に入れておくべきです。

4 弁護士の人選

不祥事等法務活動において参与させるべき弁護士は必ず裁判対応に長けた者を含める必要があります。

企業法務を中心に取り扱う法律事務所の中には、契約法務(取引法務)や戦略法務(企画型法務)のみ専門的に取り扱い、法廷経験がゼロあるいは極めて乏しい弁護士が少なからず在籍している場合があります。

そのような場合、きちんと訴訟実務経験を照会するとともに、必要に応じて訴訟部門の弁護士も、訴訟提起以前から関与させ、将来起こりうべき訴訟への対応も視野に入れた有事対応を行うべきです。

運営管理コード:CLBP128TO129

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01149_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(5)有事対策チームの組成・運用その1

1 有事の組織は平時に整備

有事対応の基本は組織作りですが、
「泥縄」
という諺があるとおり、この組織を有事に作っていたのでは急激に変化する有事状況に適正に対応することは困難です。

すなわち、有事体制は平時にその骨格を作っておくことが大切です。

2 徹底したトップダウン型組織

組織形態としては、有事は徹底したトップダウンのピラミッド型の組織を作り上げることになります。

刻一刻と変化する有事状況にスピーディーかつ果断に対応するため、情報は多極から一極に集中し、決定は一極から多極に分散する形をとらなければなりません。

「小田原評定(有事において長々と議論し、いつまでたっても結論が出ず、対策着手に至らず最悪の結果を招いた例)」
の故事のとおり、フラット型の組織では混乱を拡大するだけで、有事対応にとってはむしろ有害な構造といえます。

平時にフラット型の組織を採用する企業でも、有事の際はトップダウンを貫徹するようなシステムにシフトするようなルール作りが必要となります。

なお、有事関連調査や有事対応の各指揮命令に基づき、各組織が平時以上に有機的かつ十全に稼働するため、有事対応の責任者に組織上十分な権限を付与することは不可欠であり、 トップ名義で活動に協力する旨の声明を行うことも重要となります。

このようにして整備されたトップダウン体制の下、情報収集・情報整理・ジャッジ・指示の一元化が実現し、有事を乗り越えるための前提が初めて整うのです。

運営管理コード:CLBP127TO128

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01148_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(4)有事対応の基本姿勢その2

3 危機のときこそ堂々たる対応を

有事対応について一番日本的で、かつ最も有事対応上意味のないと思われる行為は、
「世間をお騒がせして申し訳ありません」
というお詫びです。

中には、さらに土下座までする光景が見られる場合もあります。

欧米企業の場合、どのような破廉恥な不祥事があってもトップ達は堂々として、事態の究明と原因の特定と今後の取組姿勢を強くアピールします。

上記のような典型的な日本企業の対応も、
「とりあえず世間の逆風を緩和する」
といった意味ではそれなりの効果があるかもしれませんが、社会的には全く通用しておらず、むしろいたずらに企業内の従業員の不安と離反を招来するだけです。

とかく混乱し士気が低下しがちな従業員に誇りをもって難局にあたらせるためにも、トップは堂々として対応し、組織の求心力を高めることが推奨されます。

4 対応を遅らせず、放置せず、損害拡大を可及的に防止する

雪印乳業の食中毒事件や三菱自動車のリコール隠し事件では、事件そのものの悪質性以上に注目されたのが、必要な事故情報に接した後の
「トップの不作為」
です。

アメリカのジョンソン・アンド・ジョンソン社は1982年に自社の主力商品である
「タイレノール」
に毒物が混入し死亡者が発生するという事件に直面しました。

このとき、ジョンソン・アンド・ジョンソン社は巨大なコストを負担して全米から製品回収を行う、という決断を迅速に行いました。

参天製薬についても同様の事件(2000年6月に目薬に毒薬を混入したという脅迫状が送られてきた)がありましたが、こちらも損失を負担しながら直ちに事態を公表し、250万個の目薬回収に踏み切り、顧客の信頼を確保することに成功しています。

このように、有事状況発生後は、その原因を探り関係者の処分や企業としての責任のとり方を検討することも重要ですが、まずは、損害の拡大防止であり、そのための迅速な行動です。

その意味では、有事における対応として、過去に遡る
「原因究明」
と、未来に向けた
「損害拡大防止」
という、時間の流れが相反する2つの課題を同時に達成しなければならず、経営陣の強いリーダーシップと迅速果断な決断・行動が必要となるのです。

運営管理コード:CLBP126TO127

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01147_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(4)有事対応の基本姿勢その1

1 能動的・機動的に取り組む姿勢

有事状況においては、企業の対応はとかく守勢・後手にまわりがちですが、
「攻撃は最大の防御」
という言葉のとおり、主体的・能動的・機動的に取り組む姿勢が重要です。

有事状況においてはまず、ハードの整備、すなわち有事対応委員会なり有事対応チームを結成することになりますが、この場合の人選は重要です。

有事状況によって、批判や論評ばかり述べ、状況改善のための努力のスピーディーな着手をしないタイプの者は不適格と思われます。

また、メディアから逃げないことも重要であり、必要な限り、メディアに接する機会を十分に取り、メディアとの関係を良好に保つことが必要となりますので、こういう点から外交性に富んだ者も必要になります。

2 冷静な対処

有事状況においては、どのような企業組織であっても、組織全部において混乱が生じます。

また、事態が複雑化・多岐化していき、解決に時間を要するにつれ、組織内の構成員の士気も相当低下していきます。

報道機関のほか、顧客・取引先・従業員・株主までがいろいろなチャンネルでアクセスしてくる一方で、上層部からの情報提供が著しく制限され、流言飛語の事態を招きやすいのが有事状況の特徴です。

結果として、企業活動の一貫性が低下し、危機そのものとは別なところで企業の対応力への不信からさらなる企業価値の低下を招くことがあります。

こういった事態は、予測をはるかに超えるものであり、とかく経営陣は冷静さを失いがちです。

ここで大切なのは、冷静になること、すなわち、自分を客観視し、処理にあたっては、社会的視点や常識を忘れないことです。

危機の場合は視野狭窄に陥り、自分の意見に合致する補強情報を過大評価し、反証情報を過小評価し過ぎる傾向に陥りますが、これは極めて危険な兆候といえます。

運営管理コード:CLBP125TO126

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01146_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(3)想定外リスク発生型有事

もう一方のケースは、適正な内部統制を構築し不祥事予防を徹底したものの、企業内従業者の暴走等により不祥事が発生し、企業において予期せざる形で企業の法令違反行為に起因する不祥事が発生してしまった場合です。

具体的には、製造現場主導で行われた各種偽装行為や営業・セールス部門が行うカルテルや入札談合行為等に基づき、企業が法令違反行為を行ったとして、深刻なトラブルが発生する場合です。

想定外リスク発生型有事については、基本的な有事対応姿勢を明確にするとともに、適正な有事対応チームを組織し、適正な調査・情報収集と今後の事態収拾に向けた企業からのアナウンス(情報発信)を実施することが必要になります。

さらに、想定外リスク発生型有事が発生した場合、各ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)が同時多発的に企業に対して厳しい姿勢を向け始めますが、これが監督行政機関による行政処分、被害者からの訴訟提起、株主総会での責任追及、株主代表訴訟の提起などの形となることがあります。

したがって、各ステークホルダーズの性質に応じた個別対応を行い、損害拡大を防止していかなければなりません。

運営管理コード:CLBP124TO125

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01145_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(2)事前想定リスク実現型有事への対応

企業のビジネスジャッジメントとしてリスクテイクした事業分野において、事前に予測していたリスクが具現化するケースは、報道機関対応や官庁対策をあらかじめ想定してある場合が多く、対応組織が整備され、組織の役割や責任は明確となっていることが多いと思われますから、その意味では対応はある程度容易なはずです。

このケースでは、そもそも法令違反の前提として、法令の解釈・適用の点で、企業と監督行政機関、あるいは報道機関や一般世論の考え方が乖離しているだけであり、その意味では、慌てることなく腹をくくって対応するしかありません。

金融証券取引規制の陥穿をつく形で、敵対的TOB、あるいは敵対的TOB対抗策を仕掛けた前述の戦略法務を実施した企業の例などがこれにあたります。

行政機関の法運用が公正とは言い難く、企業活動に対して必要以上の規制を及ぼす形でプレッシャーをかけてくるのであれば、企業としては行政訴訟(処分取消しや処分差止め)や国家賠償請求訴訟の提訴や行政不服審査の申立ても視野に入れ、先手先手で対応していくべきです。

01104】の表で紹介したように夢真ホールディングスが、財務局担当者に対して
「当社が提出したTOB届出に不服があるなら、きちんと不受理処分をせよ。こちらは当該処分を争い、国家賠償請求を行うだけだ」
と応じたのはまさにこのような対応であり、模範とすべき対応と評価できます。

また、報道機関が誤解を招くような報道を行うリスクも想定し、こちらから事前に、積極的なプレスリリースを行うとともに、取材対応時の姿勢ないし方針も事前に作っておくべきです。

無論、報道機関が取材も裏付けもなく、憶測で虚偽あるいは不当に歪曲した事実の報道に及んだ場合、速やかに対抗措置を採るべきです。

さらに、株式公開企業の場合、一般世論に加え、株式市場の評価も重要です。

したがって、投資家に対して事態と今後の推移の予測を適正に説明した内容の情報を適時に開示すべきことも想定し、しかるべき準備をしておかなければなりません。

運営管理コード:CLBP123TO124

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