00994_企業法務ケーススタディ(No.0314):ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十六の巻(第86回)「ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘商事株式会社 グループ 脇甘工務店
脇甘工務店の監査役 スミツキ監査法人 会計士 隅尾 啄(すみお つつく)

相手方:
株式会社マブダチ 社長 間夫 太刀男(まぶ たちお)

ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?
社長は、窮地にたつ親友の会社を支援するため、法務部長に、
「契約は後からでいいし、取締役会には適当にハンコをついて回せばいいから、まずは、グループ会社から相手に3億円融資をするように」
と、指示しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:やりたい放題の未上場企業と、公私混同ご法度の上場企業
創業者が100%の株式を所有している未上場のオーナー系企業では、取引に関して社長が公私混同をしようが何をしようが、基本的に問題とされることはありませんし、会社の資金繰りが厳しくなれば代表者個人の財産から会社の決済に必要なお金を融通してもらったり自宅賃料や税金の支払いなど個人的な使途に充てるために代表者個人が会社のお金を借りたりすることは、ごく普通に行われています。
しかし、
「会社が株式を公開(証券取引所に株券上場)している企業」
は、まったく異なります。
取締役は株主に対して
「善良なる管理者(“自分の利益を犠牲にしても尽くす立場”を表す法律用語)」
として忠実に振る舞うことを求められます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ガチで、ヤヴァい、上場企業の公私混同行為
取締役会にも諮らず、契約も後付け、返済計画もなく、経済合理性すら検証されず、目的すら不明の融資を敢行するような公私混同の情実融資は、完全にアウトです。
会社法では、取締役会承認の仕組みを無視して取引を敢行した取締役は、原則として、会社の被った損害を賠償しなければならない、とされます。
規制に違反した場合には、民事上の責任のみならず、
「特別背任罪」
という刑事罰を受け
「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」
に処される可能性もあります。
特別背任罪は、取締役が、
「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたとき」
に成立する犯罪で(会社法960条)、刑法に定める背任罪(同法247条)の特別版です。
取締役は、多くの利害関係者に対して責任を負う立場にあることを考慮して、違反した場合の刑罰を、刑法上の背任罪よりも加重しているわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「そんな、ガチでヤヴァいこと」をやらかして大問題になった例
2008年7月、東証二部上場企業のK電機のS社長が、自らも役員を務める産業用機器開発会社Aに対して、返済能力とないと知りながら、当該K電機から約2億8000万円貸付け、これが回収不能となり、焦げ付かせた、という疑惑が浮上しました。
この貸付けは、その後の調べによって、総額約3億8000万円の規模となっており、K電機はS社長を、特別背任容疑で刑事告訴し、さらに、K電機も上場廃止となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:オーナー系といえども、1円でも他人様の資本が入っている会社のカネは「他人様から預かっているおカネ」だ!
株式会社の使命であり存立目的は営利の追求であり、取締役はその目的遂行のために全力を注がなければならず、 自分の心情や友情や道徳心といった価値観・哲学・生きる目的すべてを後回しにして会社から託された使命を優先すべき、というものです。
取締役が、会社としての行うべきシビアな利益追求や財産増殖や毀損防止をほったらかにして友情や道徳心を追求すれば、それは逆に不誠実であり怠惰であり、さらにいえば、善管注意義務違反という法令違反であり、犯罪行為となり得るのです。

助言のポイント
1.オーナー系企業といえども、株券を証券市場に上場した以上、好き勝手・やりたい放題はご法度。
2.多数の株主の虎の子を預かっている以上、上場企業の取締役は、大きな経営判断に情を交えると法令違反に問われる危険がある。
3.上場企業が他社に融資する際は、経済合理性と法的適合性を、完璧に整える必要がある。情実融資は、身の破滅を招く、と心得よう。
4.どうしても、窮地の友人にカネを貸して救ってやりたい?! どうしてもそんな美談の主人公になりたいのなら、会社のカネを使わず、自分のポケットマネーで出してやること。自分の財布を傷めたくないのなら、「自分の財布を痛めてまで救いたくない、カネにだらしない友人」は、見舞金程度出して、とっとと帰ってもらおう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00995_企業法務ケーススタディ(No.0315):非常識な裁判官をクビにしろ!  記者会見で圧力をかけてやれ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十七の巻(第87回)「非常識な裁判官をクビにしろ!  記者会見で圧力をかけてやれ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
裁判官 筋尾 徹(すじお とおる)

非常識な裁判官をクビにしろ! 記者会見で圧力をかけてやれ!
社長が社外役員を務める地元の電力会社は、裁判で負け、1日当たり約5億5千万円の損害を被ることになりました。
社長は、今日の記者会見で裁判官を徹底的に批判しようと息巻いています。
「なぜ、こんな常識外れの裁判官をそのままにしておく! 最高裁長官は何をやっている! 部下の不始末は上司の不始末、部下の不祥事は会社の責任、こんな当たり前のことも最高裁はわからんのか! 記者会見であの非常識な裁判官に圧力をかけ、最高裁長官にいいつけてクビにしてやる!」

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:確かに、裁判官も行政官僚も、一見すると似たようなもん
「行政官と裁判官は、バックグラウンドも出身大学も試験科目も酷似している」
ことから、フツーの感覚で判断する限り、仕事の哲学やスタイルが同じと考えるのが自然です。
しかし、似ているからといって、同じというわけではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:裁判官には、上司もいない 指揮命令といったものもない
行政組織に属する公務員は、
「法律による行政」
「絶対的上命下服」
の2つの原理で厳しく規律されています。
個性の発揮は法律の軽視や指揮命令の混乱につながるため厳しく禁じられ、私情を排して公正・公平な法を実現します。
一方、行政官僚以上に強大な権力を振るう裁判官は、その職務権限を行使するにあたって、外部の権力や裁判所内部の上級者からの指示には一切拘束される必要がない、と憲法で保障されています(憲法76条3項)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判官をむやみにディスると、ディスった側の見識や教養が疑われる
裁判官が自由に仕事ができる設定になっているのは
「三権分立」
と深い関係があります。
国会は民主的多数決が幅を利かせ、また、議院内閣制を前提にすると、行政権力も、国会の多数派によって牛耳られます。
最後の最後に頼る人権保障の砦である裁判所まで、民主的多数決が幅を利かせると、少数者の人権は危険にさらされます。
そこで、憲法は、司法権を振るう裁判所という国家機関や当該機関を構成する裁判官については、国会や行政や世間やメディアや、さらには上司や上級審の裁判官からの干渉すらも遮断し独立・独裁権力として、事件解決に関する国家作用を取り扱えるようにしたのです。
実際に、特定の裁判官の職権行使について、同じ地裁の所長がメモを手渡して指導したことが、指導をした側の地裁所長が批判にさらされた(昭和44年「平賀書簡事件」)事例があるのです。

助言のポイント
1.裁判官には上司はいない。指揮命令もない。憲法上「独立した立場で自分の良心に従ってOK!」が保障された、ラディカルでフリーでロックンロールな独立権力。
2.だからこそ、裁判官には気を遣おう。最後まで気を抜かず、動静に注意して、過剰なまでに、説得と説明を尽くそう。「情報・説明・資料・根拠を包み隠さず、どんどん提供する」という方法で、ゴマを擦りまくり、こびまくろう。
3.想定外の判決が出されても、裁判制度や憲法上のシステムを理解せず、感情を暴発させて非難・批判をするのはNG。裁判所は、エレガントでない無教養な人種を好まない可能性がある。「江戸の仇を長崎で討たれ」ないとも限らない。
4.判決内容を感情的にディスる暇があったら、上訴等での説得補充や説明強化のための資料作りに取りかかろう。空気を読まず、ツバを吐きかけても、1つもいいことない。

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00993_企業法務ケーススタディ(No.0313):懲戒解雇した不良社員に、退職金を支払う道理などあるか!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十五の巻(第85回)「懲戒解雇した不良社員に、退職金を支払う道理などあるか! 」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 社員 コンプライアンス部 無羅 武良夫(むら むらお)
弁護士 助平 守(すけひら まもる)

懲戒解雇した不良社員に、退職金を支払う道理などあるか!
当社の社員が、通勤中に電車内で痴漢捕まり、本人は罪を認めています。
当社としては、即刻、懲戒解雇するつもりです。
就業規則上も、過去の先例をみても、懲戒解雇ができることになっていますし、退職金は支払わないという扱いになっています。
ところが、相手が雇った社会派弁護士が、
「痴漢くらいで解雇はやりすぎだ。
解雇の案件は争う。
仮に辞めることとなっても、退職金は不支給は認めない」
といってきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:日本の労動者の最後の世話焼き係は裁判所
日本の労働法は、労働者の解雇については、簡単には認めません。
解雇を会社に認めてしまえば、会社は、労働者を意のままに操り、労働者を会社の横暴から保護しようとした労働法の目的が完全に喪失ことは明白だからです。
就業規則や労働契約などにおいて、形式上・字面上、具体的かつ明確に定まっている場合であっても、労働者保護の観点から、会社側の解雇処分をなかったこと(=解雇無効にして復職させる)という扱いをされてしまいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:痴漢をする心得違いは、一発解雇!?
電鉄会社の社員が電車内において痴漢をした事例では、裁判所は懲戒解雇に相当するとの判断を出していますが、この場合、
「半年間に2度、痴漢しているし、1回目に『二度とやりません』と誓約書を出している」
という事情があって、ようやく
「懲戒解雇やむなし」
と判断されました(東京高判平成15年12月11日) 。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:心得違いの大馬鹿者には、退職金などびた一文やらん!
懲戒解雇になった場合には退職金不支給とする規定を置いている企業は多いとされ、企業が組織として活動していく上で、このような考え方は至極当然に思えますが、裁判所は異なる判断傾向を有しています。
なぜなら、退職金は、
「給料の後払い」
としての性格が一部あり、
「報奨金」
としての性格もあるからです。
「著しい背信行為」
が存在する場合に、退職金不支給という判断が正当化されるようです。
社会的非難が高い
「痴漢」
であっても、裁判所は、労動者の生活保障を重視しているといえるでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:懲戒と退職金を使って規律の引き締めだ!
企業としては、退職金不支給規定は労動者に対し予告して規律の引き締めを図りつつも、裁判所に無効と判断される場合があることを自覚すべきでしょう。
労動者自身が納得したうえで
「自己都合退職」
にしたり、懲戒解雇の一歩手前の
「論旨解雇」
としたり、その中で
「退職金の一部減額」
等を行うことも考えられます。
経営者労働者双方が納得し、多くの人が見ても頷かざるを得ない、柔軟な就業規則を作るべきでしょう。

助言のポイント
1.日本の労動者は、労働法、裁判所によって強く守られている。安易な解雇はできないと心得ること。
2.懲戒解雇の「心得違いの大馬鹿者」に「退職金はびた一文支払わん!」というのは、裁判所の世話焼きの前では無効と判断される場合もある。
3.退職金の不支給については「びた一文支払わない!」とするのみではなく、労働者の同意を取り付けて「減額」としたり、柔軟な処分を行えるようにしておくこと。

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00992_企業法務ケーススタディ(No.0312):ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十四の巻(第84回)「ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ! 」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)

相手方:
外資系企業GYAKUSIN(ギャクシン)商事 マネージャー 宇良桐(うらきり)

ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ!
当社に迎え入れる予定のマネージャーは、数多の企業を渡り歩き、短期間在籍した後、法外な退職金を請求しては転職を繰り返しているらしく、当社に入社してもすぐにまた転職するかもしれません。
そこで、入社前に何らかの対策を打ちたいと考え、顧問弁護士に相談したところ、 契約書に
「退職後10年以内に、すべての競合他社に就業するのを禁止し、違反した場合は退職金を一切支給しない」
という内容を入れるようにとアドバイスを受けました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社にいる間は、不義理・裏切りはご法度!! ~競業避止義務~
会社の取締役は、その在任中は競業避止義務(会社法356条1項1号)を負い、また、従業員(労働者)についても、会社と締結する労働契約に関わる誠実義務(労働契約法3条4項)の一内容として競業避止義務を負います。
「競業避止義務」
とは、従業員等が、在職中は自分が働いている企業の商品やサービス・業態がカブるライバル企業で働いたり、ライバル企業の代表者として、所属企業と同じような商品やサービスを提供することを禁止するものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:退職後はやりたい放題!?
従業員等は、退職後については、基本、競業避止義務を負わない、とされています(会社法356条1項1号)。
従業員等の生活保障は
「憲法」
によって守られており、
「職業選択の自由(憲法22条1項)」
という権利の一態様として、手厚く保護されているからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:自由を剥奪する「競業禁止特約」の妙味
憲法上の権利といえども、他人の保護に値する利益・自由を害することまでは認められておりませんので(憲法13条)、退職社員の競業行為についても一定の範囲で制限することができます。
その方法として実務上用いられるのが、
「競業禁止特約」
です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件(東京地判平成24年1月13日)
「2年間競業行為を禁止し、仮にこれに違反した場合には、退職金3000万円を不支給とする」
旨の競業禁止特約の有効性が問題となった事案では、裁判所は、原則として無効、と判断しました。
ただし、例外的に、
1.競業が禁止される期間が短く、
2.会社の機密情報等、ライバル企業へ漏れてしまうと、会社の存亡が危ぶまれるような情報に触れていた人物であること
3.競業避止義務を課す代わりに手当ての支払いなど、代償措置がキチンとなされており、
4.競業に当たるとされる職種・地域も限定されている場合には、
特約は有効と扱われる、ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:処方箋
特約を結ぶ場合は、経済産業省が公表する
「競業避止義務契約の有効性について」
と題したレポートを参考にするとよいでしょう。
実際に競業禁止特約を作成する際には、有効とされるような記載ぶり・内容の契約書に仕上げるべきです(その際には、退任後の秘密保持義務なども併せて文書化しておくことが有効です)。

助言のポイント
1.従業員には、退職後、競業他社に転職するなどの「好き放題・ワガママ放題」をする自由(憲法22条1項)が保障されていることから、競業を禁止することは原則できないと心得よう。
2.裁判所において、競業禁止特約が有効とされるためのハードルは高く、裁判所のお目溢しを期待して適当に作った契約書は、問答無用で無効とされるから注意しよう。
3.事前に競業禁止特約を結ぶ場合、判例が示す要素、具体的には、①禁止期間の長短、②特約締結の必要性、③代償措置の有無・程度、④禁止される職種・地域が限定されているか等の視点を踏まえた契約書を作成すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00991_企業法務ケーススタディ(No.0311):従業員の電子メールを監視せよ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十三の巻(第83回)「従業員の電子メールを監視せよ!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 従業員

従業員の電子メールを監視せよ!?
社内綱紀が乱れている様子から、当社では電子メールの監視に乗り出すことになりました。
メール監視については会社のシステムのみを対象にしており、基本的にプライバシーの問題があるとは考えていません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:一体、どのような法的問題が潜んでいるのか?
電子メールシステムは会社の費用負担で整備されていますから、その利用態様を把握しておくということは会社として当然とも思われる一方で、プライバシー性を帯びることも否定できません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:プライバシー権とは?
他者のプライバシーに配慮するということは、人権問題として法律問題に格上げされるようになりました。
根拠は、憲法13条の幸福追求権にあるとみるのが一般的であり、判例においては、
「個人の私生活の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(略)を撮影されない自由を有する」(最高裁昭和44年12月24日判決)
と具体化されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:どんなときに、「プライバシー権が侵害された」ってことになる?
プライバシー侵害の程度はケースごとに異なり、明確な要件をあらかじめ定めておけないため、合法かどうかを判断する道具として
「比較衡量」
が用いられ、都度、施策・規制等の必要性や合理性とプライバシーの程度や態様を天秤にかけ、
「どの価値観をどれほど重要視するのか」
を各裁判官に委ねられることになります。
経済産業省は、従業員のモニタリングに関して、
「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」(平成16年10月経済産業省)を定めています。
最も端的で完全な解決策は、
「プライバシー権を持つ当の本人から、当該権利を自主的に放棄させてしまう」
ことで、従業員から、
「会社にいる時間は私的なコミュニケーションをする理由がありませんし、会社のメアドその他ICT環境を業務以外に使うこともありません。
したがって、会社が、私のメール等の使用状況を調査することはごもっともで、プライバシーなど働く余地もありませんので、同意なく、いつでも調べまくってもらっても差し支えありません」
という文書をあらかじめ取得しておけば、後々、プライバシー権侵害云々の主張がされることを、ほぼ完全に防止することが可能と考えられます。

助言のポイント
1.プライバシーは、マナーでもエチケットでもなく純然たる法律問題。軽く考えて無茶苦茶やると、不法行為扱いされ、損害賠償の問題になる。
2.会社のメールモニタリングは、プライバシー侵害ということで従業員から訴えられた例もある。実に微妙で場当たり的なファクター分析で判断されており、結論がどっちに転ぶかははっきりいって想定できない。
3.最も端的で有効な方法は、「プライバシーなど要りません」と放棄させること。監視同意書をあらかじめ徴求して運用すること。ただ、強要や脅迫して徴求するのはマズイ。

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00990_企業法務ケーススタディ(No.0310):なぬ?  クビがダメじゃと? なら、辞めるように、イヤガラセで雑用でもさせとけ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十二の巻(第82回)「なぬ?  クビがダメじゃと? なら、辞めるように、イヤガラセで雑用でもさせとけ!」をご覧ください 。

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相手方:
脇甘商事株式会社 グループ 脇甘エンジニアリング 営業担当取締役 雨利 健太郎(あめり けんたろう)

なぬ? クビがダメじゃと? なら、辞めるように、イヤガラセで雑用でもさせとけ!
社長は、相手を解雇できないのであれば、取締役から部長に降格させようと考えています。
さらに、誰が担当しても失敗する部門に配属し、失敗させ、それを理由に、もっと降格させようと考えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:解雇はガチで不自由! マジ不可能!
日本では、
「クビ」
「解雇」
は、法的にみれば、ほとんど
「不可能」
です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「役職」と「職能資格」の違い
多くの日本企業では、
「役職」

「職能資格」
の2つで従業員を格づけしています。
「部長」
「課長」
「係長」
などは
「役職」
と呼ばれます。
「職能資格」
は、職務遂行能力に伴い賃金(基本給)も上がっていきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:職能資格を下げるには就業規則がないとダメ!
職能資格の降格は、そのまま賃金の減額に結びつきます。
裁判所は、職能資格上の降格については、
「賃金の額は雇用契約の重要な部分であるから、従業員の同意を得るか、あるいは少なくとも就業規則上にその要件について明示すべきである」
との判断を下しています(マルマン事件、大阪地裁平成12年5月8日判決) 。
とはいえ、
「前もって就業規則に書いてあれば、自由に降格できる」
わけではなく、著しく不合理な評価によって職能資格を下げた場合には、それ自体が人事権の濫用とされることがあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:役職を下げるのも不自由!
職能資格の降格を伴わないのであれば、就業規則になくても、原則として会社は役職を降格できるとされています。
役職の降格が職能資格の降格を伴うのであれば、就業規則の定めが必要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:東京高裁平成17年1月19日判決
東京高裁は、各降格処分の前提となった労働者の成績評価について、労を厭わず事細かな事実認定を行い(設定目標や成績評価方法・内容にまで踏み込んだ事実認定を行っています)、すべての降格処分について
「人事権を濫用したものであり、無効である」
と判断しています。

助言のポイント
1.「クビがダメなら降格させて、雑用でもやらせてろ!」なんてカンタンにはいかない。
2.職能資格制度がある会社で職能資格を降格して給料を下げたいのなら、就業規則に、「職能資格の見直し・引下げがあり得る」ことを、まずはちゃんと書いておくこと。
3.ただし、「職能資格の降格」は、労働者にとっては就業規則の不利益変更に当たるから、法令の要件を満たさないと変更できない。
4.降格についてちゃんと就業規則に書いてあっても、ヤリスギの降格は裁判所が無効にしてしまう。
5.降格減給が無効となれば、本来払うべき額を利息付けて払うことになるばかりか、別途、慰謝料も払わせられることがあるから気をつけよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00989_企業法務ケーススタディ(No.0309):お上に従っていれば大丈夫!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十一の巻(第81回)「お上に従っていれば大丈夫!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
警察庁

お上に従っていれば大丈夫!?
政治家を呼んでのセミナーを企画したところ、警察が
「政治家を守るために情報がほしい」
と、事前にセミナー参加者の情報を要求してきました。
当社としては、警察が当社の警備に協力してくれるのだから、断る理由などありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:政治家の警備に協力するのは国民の義務?
セミナー主催者として警備に万全を期すことは当然ですし、
「政治家の警備のために必要」
な情報を提供することは、当然警察に協力する義務があるかのように感じるかもしれません。
しかし、この日本という国家は、
「三権分立」
という枠組みで動いており、警察の考えが、裁判所でも同様に認められるとは限らないことに注意が必要です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:権力が一箇所に集まらない仕組みとしての「三権分立」
「三権分立」
という基本システムからすれば、行政権である
「警察」
と司法権である
「裁判所」
はまったく別モノです。
したがって、警察が
「政治家の警備のために情報を提供してください」
と要求したからといって、これが裁判所において
「正当である」
となるとは限りません。
セミナー参加者が
「警察に自分の情報を提供してほしくなかった」
と裁判所に訴え出た場合、裁判所はむしろ警察の暴走をチェックするという独自の観点から判断を行うことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:個人情報を警察へ開示することのリスク
セミナー参加者の中に、
「個人情報」
「プライバシー」
といったものに意識が高い人間が含まれている場合、セミナー参加者の情報を警察に提供したことに対して不満を持ち、
「個人情報を警察に知られない」
という
「利益」
を侵害されたとして、訴訟を起こしてくるというリスクがあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 本件の情報提供の違法性
早稲田大学が平成10年に、当時中華人民共和国トップの江沢民国家主席の講演会を開く際に、
「外国要人の警備に必要である」
とする警視庁の要請に応じて、講演に参加する学生の
「氏名、住所、学籍番号、面談内容」
等の情報を警視庁戸塚署に提供しました。
この情報提供に対し、学生がプライバシー侵害として訴えた裁判において最高裁は、早稲田大学には不法行為責任が成立すると判断しています(最判2小平成15年9月12日民集57巻8号973頁)。
企業として対処するには、アンケートを求める際に、
「政治家の警備に必要な範囲で情報を警察と共有する可能性があります」
などと一筆入れておくことが必要です。
注意事項が入っているにもかかわらずアンケートを書いた参加者は
「情報提供に同意」
しているとみなされ、主催者側が
「個人情報漏えい」
「プライバシー侵害」
を問われることはなくなります。

助言のポイント
1.警察と裁判所はまったく別モノ。むしろ、裁判所は警察の暴走をチェックするという観点を持っている。
2.個人情報、プライバシーは非常に強く保護されている。政治的意見の含まれた情報を警察に提供することは、提供した企業が不法行為責任を問われる。
3.どうしても警備の必要性のために情報提供する場合には、一筆「情報共有の可能性」があることを書いておくと、情報提供に同意したとされ、責任を免れることができる。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00988_企業法務ケーススタディ(No.0308):突撃営業で、大儲けじゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年11月号(10月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十の巻(第80回)「突撃営業で、大儲けじゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
一般消費者

突撃営業で、大儲けじゃ!
訪問販売で商品を購入した消費者が返金を求めて、当社に押し寄せてきました。
当社が商品を販売したのは1年も前のことですし、営業マンたちはお客様に、
「8日たったら解除できません」
と小さな字で書いてある書面を渡していますので、こちらは毅然とした態度で
「クーリング・オフの行使期間はすぎているから、カネは返せません」
と、相手の要求を突っぱねればよいだけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:訪問販売に対する規制
商品の販売方法が特商法上の
「訪問販売」
すなわち
「店舗等以外の場所で行う商品、権利の販売または役務の提供」(同法2条)
に該当すると、原則として、以下の規制を受けます。
1.氏名および勧誘目的の明示(同法3条)
2.再勧誘の禁止(同法3条の2)
3.書面の交付義務(同法4条、5条)
4.不実告知等の禁止(同法6条)
5.クーリング・オフ(同法9条)
事業者は、書面によりクーリング・オフの意思表示をさせる必要があり、書面交付から8日間、無条件で契約の申込撤回や契約の解除を可能としなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:訪問販売規制に違反した場合のペナルティ
規制に違反した事業者は、業務改善の指示(特商法7条)や業務停止命令(同法8条)を受けます。
業務停止命令の場合、その理由となった違反行為の内容等を社会に公表する(同法8条)行政処分を受けるほか、この前段階でも、マスコミや消費者庁の注意喚起リリース(政府広報を活用した注意喚起や地方公共団体や関係機関等の協力を得た普及啓発活動。消費者安全法38条1項)等されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:本件について
販売員が消費者に訪問販売し、消費者側はクーリング・オフに関することが記載された書面を受領したものの約10ヵ月後にクーリング・オフの権利行使が行われたことについて、裁判で争われたケースがあります(大阪地裁平成19年3月28日判決) 。
この事件では、販売員が営業の現場において、どんなに口頭で商品の良さや価格、クーリング・オフについて説明し、消費者がうなづいていたとしても、交付した書面に法律で求められた記載が少しでも欠けていた場合には、クーリング・オフは可能であり、すでに受け取った代金は全額返還する必要がある、という判決が下されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:まとめ
特商法上の規制に違反し、業務停止命令が下されれば、社会的経済的な損害が生じるのみならず、インターネット等を通じて広がり、企業にとって想像以上の大きな痛手となり得ます。
「訪問販売」
は、昨今、お客さんの側ではもうウンザリと感じていることが多く、ストーカー規制等をプライバシーが非常に大事にされている時代にあっては、当該訪問行為自体、世間の反感を招きかねないため、流行りません。
訪問販売をやるなら、きっちりとしたコンプライアンス体制を整備し、厳しく運営してください。

助言のポイント
1.商品の説明は、口頭でするだけでは足りず、商品内容等をキチンと盛り込んだ書面を作成し、お客に交付すること。
2.クーリング・オフに関する事項が記載された書面交付しない限り、いつまでもクーリング・オフを行使される危険がある。
3.特商法は消費者にとって正義の味方。これに違反するとそのペナルティは重大。さんざん悪者扱いされた挙げ句、コンシューマー向けビジネスが潰れかねないので注意すること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00987_企業法務ケーススタディ(No.0307):今さら総会屋!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十九の巻(第79回)「今さら総会屋!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
邪道 蛇男(じゃみち へびお)

今さら総会屋!?
今度の臨時株主総会に、10年ぶりに総会屋がやってくるとの情報がはいりました。
社長個人宛にも恐喝文書のようなものが届いています。
相手の要求を鵜呑みにして会社の金で支払うと利益供与になります。
そこで、社長が個人的に支払えば利益供与で罰せられることはないだろうと考えました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:利益供与の禁止とは
会社法は、
「何人に対しても株主の権利行使に関して自己またはその子会社の計算で財産上の利益を供与してはならない(会社法120条1項)」
とし、会社のオーナーである株主の権利行使に影響をもたせようとして財産を拠出し取締役らが株主の意思決定を歪めることを広く禁止しています。
利益供与に関与した取締役らは、民事上、当該拠出した利益に相当する額の金銭を会社に支払うべき義務を負担するばかりでなく、刑事上も、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処される可能性があります(会社法970条)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:罪刑法定主義との関係
刑罰を定めている会社法970条1項は、
「株式会社…の計算において財産上の利益を供与したとき」
だけ罰する、と記載していますが、法律の解釈の仕方は極めて幅広く運用されているのが実際です。
特に刑罰を付与する条項に関し、国民が予測しやすいように、解釈の揺らぎが出ない文言を選択し、運用も厳格に行われるべきことがいわゆる罪刑法定主義の一内容であり、これは、利益供与の禁止条項との関係でも同様といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判所の解釈権限
法文上は一応明確に記載されていますが、これをどのように解釈するかは裁判所に一任されています。
裁判所は、その損益が究極的に会社に帰属していれば、名義は重要ではない、と判断しました(東京地裁昭和62年2月3日)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:対応方法
仮に、恐喝の内容が極めて違法性の高い、例えば誰かに危害を加えかねないようなものであったとしても、これに諾々と応じることは許されないとされており、現在の会社法制においては、もとより応じるなどという選択肢自体が存在しないのです。
このことは、同種の要求がなされた
「蛇の目ミシン事件」
において、高等裁判所が丁寧に事実関係を検討した上で
「まことにやむを得ない」
などとして、やむなく要求に応じた取締役の責任を否定したのに対して、最高裁が善管注意義務を負担する取締役に極めて厳しい姿勢を示したことからも明らかといえます。

助言のポイント
1.条文を確認した!? 下手の考え休むに似たり、素人考えで法律の裏をかこうなんて、リスクしか存在しない。
2.無茶な要求を丸く収める? 無理、無理。というよりそんなことはしてはならず、法に沿って対応するしかない。
3.法律もその解釈も常に流動的。裁判例にしたってその時々の時代背景に支えられているのであり、勝手に行動してしまう前に専門家に確認するしかない。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00986_企業法務ケーススタディ(No.0306):行政の仁義なき裏切り

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十八の巻(第78回)「行政の仁義なき裏切り」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
杷木打目(はきだめ)村 新村長

行政の仁義なき裏切り
前村長たっての願いもあって当社が整備を始めていた廃棄物処理施設の建設事業が、 頓挫しました。
村長選挙で、廃棄物処理施設の推進廃止を公約する新村長が誕生したからです。
そこで、当社としては、
「約束違反だ。当然、村の債務不履行になる」
と、訴訟提起をすることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約の拘束力
あらゆる契約は、基本的には
「合意」
によってのみ成立するわけであり、常に契約書が契約の成立に必要、というわけではありません。
しかし、結局のところは、その
「合意」
の存在をさまざまな形ある証拠(覚書、メールやり取り等「書面」)によって立証することが必要で、何の証拠もないということになると、端的に
「契約は存在していない」
結論が導かれることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:契約交渉段階における先行投資等への補償はあり得ないのか
そうはいっても、実際に契約書が締結されずとも、
「契約が締結されるであろうこと」
を見越して、先行投資を行うことがあり、それは、ある種の信頼関係が基礎にあります。
「契約は確かに成立していない。
でも、そこに至る交渉のなかで信頼関係が構築され、これを信じて投資したのに裏切られた」
というものは、性質としては不法行為に類似します。
このような私人間の契約締結段階の責任の所在についての法的構成である
「契約締結上の過失」
「契約準備段階の過失」
に基づけば、損害賠償等一応の責任追及ができる可能性があります。
ただし、相手方が行政(自治体)であれば、さらに特別の検討が必要になってきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:行政による突然の方針変更への対応
自治体の活動は、住民の意思に基づいて行うべきとされています(住民自治の原則)。
たとえ、一定の施策を継続すべきという決定がいったんなされたとしても、社会情勢等の変化次第では住民の意思によって変更されることもあり得るわけで、
「地方公共団体が前首長の決定に未来永劫拘束される」
わけではありません。
「自治体は、いったん決定した施策に基づいて私企業等に対して負担を求めたとしても、選挙等に表れた住民の意思の変化に伴い、いつでも私企業の信頼を裏切り放題かどうか」
について最高裁は、いったん定めた自治体の施策が、契約を締結していなくても、企業側の信頼には法的保護が与えられなければならず、施策の変更で損害を被る場合には原則として不法行為が成立するものと判示し、住民自治や民主主義を根拠に企業との約束を無視することはできない、と判断しました(宣野座村工場誘致事件)。
なお、損害賠償といっても、損害の範囲は、信頼利益、すなわち
「契約締結のための調査費用や履行のための準備費用など、有効でない契約を有効と信じたことによって受ける損害」
に限定され、契約が履行された場合に得られるであろう履行利益は含まれません。

助言のポイント
1.行政だったらいったことは必ず守ってくれる? いやいや、一般の企業よりも大っきなちゃぶ台返しがあり得る。
2.行政は銀行と同じく、自分に有利な文書しか自発的には出さない。交渉経過を客観的に保全していくためにも、仲睦まじいときから積極的な文書徴求が必須。
3.契約なしで損害賠償、などというのはあくまで例外中の例外であることを認識し、いついかなるときも契約書を尊重しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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