00955_企業法務ケーススタディ(No.0275):有名なネーミングのパクリは御法度でござる

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十七の巻(第47回)「有名なネーミングのパクリは御法度でござるをご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
テーマパーク ネズミーランド

有名なネーミングのパクリは御法度でござる:
当社では、部門の赤字を解消するため、薬局の名前を全世界的に有名なテーマパークにあやかり、変更しようと考えています。
その名前は、人名ですから著作権はありませんし、著作権侵害になりません。
また、
「調剤」
の役務区分ではまだ商標登録されていませんので、商標権侵害にもなりません。
それに、相手はテーマパークを経営しているだけであって、薬局は経営していませんので、当社がまったく業種が違う薬局の名前に使ったところで何の問題がありましょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:不正競争防止法
不正競争防止法とは、主に、公正な競争を図り、不正な競争行為を防止することを目的として制定された法律です。
要するに、“キタナイ”営業手法を、法律によって規制することで、企業が健全な競争をすることができるように環境整備をすることを目的とする法律なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:著名表示冒用行為
例えば、A社が、和菓子
「水ようかん」
を製造し、世間でよく知られているB社の
「羊羹」
の名称である
「黒一本」
と同じ商品名をつけて販売したとすると、消費者は、
「黒一本」
という商品名がつけられた
「水ようかん」
は、B社が販売しているものだという印象を受けます。
これは、B社が時間とカネと労力をかけて営業活動をした結果、世間に知られるようになった
「黒一本」
という
「羊羹」
の売れ行きにA社があやかろうとして、これに似た名前をつけて営業したもの(いわゆる「フリーライド」)であり、このような“キタナイ”営業手法は、規制されることとなります。
あるいは、A社が、
「羊羹」
とは似てもにつかない
「育毛剤」

「黒一本」
と、商品名をつけることも禁止されています。
なぜなら、ジャンルがまったく違う商品やサービスであっても、場合によっては、消費者が
「同じネーミングを使っているのだから、有名な企業との間で、資本関係とか提携関係とか、何か特別な関係があるのだろう」
と誤解する可能性がありますし、いわゆるブランドイメージが顧客誘引力を持つようになり、それ自体に財産的価値を見出すことができる場合に、これへのただ乗り(フリーライド)を許すとブランドイメージの特徴が薄れてしまうことになるからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:スナックシャネル事件
実際に、老舗ファッションブランド
「シャネル」
のネーミングをパクり、飲食店に
「スナックシャネル」
と名づけて営業を行った事件について、最高裁は、
「(シャネルというネーミングを使用することで、一般消費者に)親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係、同一の商品化事業を営むグループに属する関係があると誤信させるおそれがある」
として、“シャネル”の使用差止めや、損害賠償を認めました(平成10年9月10日判決)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:説例の帰結
世界的に著名なネーミングを使用すれば、一般消費者は、
「あの、テーマパークを経営しているネズミーが今度は薬局を始めた」
と誤解することは必至です。
このような行為は不正競争防止法上、限りなく
「不正競争」
と評価されることでしょう。

助言のポイント
1.著作権、商標権がないからといって、「直ちにパクっていい」なんてことわりは、世の中には存在しない。
2.不正競争防止法は、使いようによってはオールマイティーに企業の秘密やノウハウを守ることができる。保護されるための条件をよく理解して、地雷を踏まないように気をつけよう。
3.「製造している商品が違う」「業種が違う」は言い訳にはならない。ものすごく有名なネーミングには、特別な保護が与えられている。
4.不正競争防止法違反は、損害賠償といった民事の問題だけでなく、刑罰が科される場合もある。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00954_企業法務ケーススタディ(No.0274):労災は隠し通せ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十六の巻(第46回)「労災は隠し通せ!?をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社グループ 脇甘鉱山株式会社 従業員

労災は隠し通せ!?:
グループ会社で事故が起こり、労災処理しようとする法務部長に、社長は、
「事故は隠し通せ。
労災保険は使わない。
財閥系金属会社の下請けとして労災事故が発生したなんてことが知られたら、契約を切られる」
と、反対しました。
そこで、従業員には、ケガに関しては自分の健康保険を使ってもらい、それでも生じる負担分は会社から出すことに。
また、事故に関する守秘義務契約を締結させ、これ以上事故に関する損害賠償請求等なされないよう、全員に損害賠償義務が発生する連座責任を仕組むような契約書を作成することにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「労災」とは
労働災害とは、労働者が、業務上の負傷・疾病・障害・死亡すること(以下「傷病等」)をいいます。
業務上とは、平たくいえば
「業務が原因となった」
ということであり、業務と傷病等の間に因果関係があることをいいます(「業務起因性」)。
業務災害に対する保険給付は、労災保険が適用される事業(原則として、国の直営事業、非現業の官公署等を除いて、1人でも労働者を使用している事業)に、労働者(常用、臨時、日雇、アルバイト等の種類を問うことなく、賃金が支払われる者をいう) として雇われていて 、働いていることが原因となって発生した災害に対して行われます(「業務遂行性」)。
労災等により労働者が死亡または休業した場合、事業者としては、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署(以下「労基署」)長に提出しなければなりません(労働基準法施行規則57条)。
「労災隠し」 は
1.故意に労働者死傷病報告を提出しないこと
または、
2.虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労基署長に提出すること
をいい、適正な労災保険給付に悪影響を与えるばかりでなく、労災の被災者に犠牲を強いて自己の利益を優先する行為として厳しく糾弾されることになります。
具体的には、労働安全衛生法100条に違反し、同法第120条第5号(50万円以下の罰金)に該当することとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:なぜ「労災隠し」は起こるのか
事業者が、刑罰まで用意された労災隠しに及ぶ一番大きな動機としては、将来の取引停止、今後の受注に影響が出ないかなどの懸念があります。
また、行政から免許取消し等の直接的な処分が下される可能性への恐れ、あるいは、無災害表彰の受賞等の安全成績の維持、ひいては保険料を安くする吝嗇、などの理由もあるとされています。
実際に送検された事例は、労災保険の適用の有無により、例えば休業中の補償や後遺症の補償に大きな差が出るため(一般的な健康保険では補償されません)、生活に苦しんだ従業員からの申告により発覚しています。
いざ明るみに出た場合には、送検されることはもちろん、公表されますので新聞沙汰になります。

助言のポイント
1.「労働災害」に該当する要件を把握すること。発生したら、まずは労基署に報告すること。
2.「労災隠し」が判明したら、送検されるわ新聞沙汰にはなるわで一挙に信頼を失う。隠すメリットなんて皆無。
3.「隠し切る」!? 無理ムリ。漏らした場合に罰金を設定するなど工夫したとしても、将来にわたってケガをした従業員抑え込むなんてできやしない。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00953_企業法務ケーススタディ(No.0273):手形の情けは仇になる

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十五の巻(第45回)「手形の情けは仇になる」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
纈尾(ケツオ)産業 社長 纈尾 捲(けつお まくる)

手形の情けは仇になる:
社長は、取引先社長から支払いを待ってもらえないかと相談を受け、支払いを待つ代わりに担保を準備してもらうことにしました。
相手は、担保として、 遅延利息と迷惑料を含めて額面金額は代金の30%上乗せした手形を振り出すことを約束しました。
ただ、一括ではなく分割払いにさせてほしいとのことだったので、
「支払期日から3回の分割払いにします」
と、手形の裏に、きちんと書いてもらうことにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:金銭類似の手形の性格
手形とは有価証券の一種で、他人に
「金銭を請求できる権利」
を有している人は、
「手形」
さえ持っていれば、誰でも
「金銭を請求できる権利」
を行使することができるという点において、金銭と同様の性格を有します。
金銭と同様、手形も、法律をもって記載内容などを厳格に定められており(「要式証券性」)、1つでも事項が欠けていればその効力は発生しません。
記載内容に関する規定は手形法に定められています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:手形の記載事項
「手形要件」
さえすべて具備していれば、手形を振り出すことは可能です。
記載内容は、次の3つに分類されます。
1.必要的記載事項:必ず記載しなければならず、1つでも欠けるとその手形は原則として無効となる
(1)束手形であることを示す文句
(2)支払いを約束する文句
(3)支払う金額
(4)受取人の名前
(5)支払期日(満期日)
(6)振出日
(7)振出人の署名
2.有益的記載事項:記載するかしないかは振出人の自由、記載すると記載内容が法律的に有効となる
(1)利息文句
(2)裏書禁止文句
3.無益的記載事項:記載してもその手形上の効力は認められない

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:有害的記載事項
手形の記載事項には、記載することによって、その効力そのものを無効にしてしまう
「有害的記載事項」
があります。
手形金の支払いに
「条件」
を付けることで、流通性を失ってしまい、金銭と同じように転々流通する手形の性格を没却してしまうからです。
「請負工事の完成と引き換えに手形金を支払う」
「手形金を3回の分割で支払う」
など、余計な記載をすると、手形は無効になります。

助言のポイント
1.手形は金銭に類似する便利な決裁手段であるが、その仕組みを理解しないうちは、決して手を出さないこと。
2.手形は、その会社の信用力で成り立っている。“不義理”をすると、銀行取引停止をくらって、会社がつぶれることに。
3.手形を振り出す時、手形を受領する時は、その記載事項に注意して、慎重に扱うこと。
4.手形取引において“情け”は無用。分割支払や支払条件など、余計なことを記載させると、手形自体が無効になってしまう場合がある。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00952_企業法務ケーススタディ(No.0272):中国進出の恐怖

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十四の巻(第44回)「中国進出の恐怖」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)

相手方:
中国 某会社

中国進出の恐怖:
顧問弁護士が顧問をしている別会社が中国に進出しましたが、工場労働者から賃上げ要求が起こり裁判沙汰で負け、現地からの撤退を考えています。
その話を聞いた社長は 、
「当社が現地法人を丸ごと引き取る。
海外で裁判に負けてもしょせんは民事事件、カネを支払わないからといって逮捕されることもないし、日本に逃げ帰ればいい」
と、いいだしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「民事手続に関する法律」と「刑事手続に関する法律」は別の法体系
「刑事手続に関する法律」
とは、罪を犯した者を処罰するために、逮捕・勾留や捜索差押といった捜査手続から始まり、裁判における手続き、刑罰の執行の方法等を規定しています。
「民事手続に関する法律」
とは、私人(法人)の間の金銭トラブルや、その他の権利・義務に関する紛争について、法的に、かつ終局的に解決するための裁判における手続や、判決の内容を任意に実行しない者に対して強制的に判決内容を執行すること等を規定し、
「カネを返さない者」
を逮捕したり、拘束することはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:中国における民事執行制度の歴史
日本の民事訴訟法が
「訴えを提起すること」
から始まって
「判決」
「上訴」
までの民事裁判の手続きだけを規定し、
「強制執行」
に関するものについては民事執行法に規定しているのに対し、中国の民事訴訟法は、
「訴えを提起すること」
から
「強制執行」
まですべての手続きを1つの法律で定めています。
もともと清朝(1636年~1912年)以前の時代の中国では、
「借りたカネを返さない」
場合は、労役に服すとする刑罰が科されていました(「役身折酬」)。
1949年に中華人民共和国が成立すると、中国共産党はそれまでの法律(中華民国時代も含め)をすべて廃棄したことから、1978年ごろまでの間の
「強制執行」
は、法令に基づかずに、地方の行政官の
「経験」
「内部規則」
「慣習」
に基づいて行われていました。
そして、2007年に内容の改正を行い、次のような現在の形としました。
1.強制執行に協力しない者に対する罰則を強化する
2.債務者に対し、自分の財産の状況を報告する義務を課し、これに違反した場合には過料や拘留といった刑罰を与える

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「出国禁止」措置
中国では、2007年改正の際、
「私人(法人)の間の金銭トラブルや、その他権利・義務に関する紛争」
の当事者が判決の内容を任意に実行しない場合の
「強制執行」
手続きの1つとして、民事訴訟法に新たな条文(231条)が設けられました。
およそ現代国家における
「民事手続に関する法律」
では、
「カネを払わない」
からといって身柄を拘束したりすることはあり得ませんが、この法律によると、中国で民事裁判を提起され、その結果、
「金を支払え」
と判決が下された場合、金銭を支払わずに中国を出国しようとすると、金銭を支払うまで、中国国内に“足止め”されてしまう可能性があるのです。

助言のポイント
1.“夢の中国進出”話に無邪気に踊る前に、もう一度、深呼吸をして、会社にとって、果たして本当に中国進出が必要なのかどうかを検証すること。
2.中国進出の前に、「現地法人」の設立以外の方法もあることを考えよう。単純な物品輸出、ライセンス、OEM、現地パートナーとのアライアンスというリスクの少ない進出方法もある。
3.進出先の法律知識は絶対必要。政治体制も文化も違う国では、日本の常識は通じない。
4.中国では「裁判で負けても海外に逃げてしまえばいい」は通じない。中国の法改正には特に注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00951_企業法務ケーススタディ(No.0271):仲間同士の熱い絆で談合摘発を乗り切れ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十三の巻(第43回)「仲間同士の熱い絆で談合摘発を乗り切れ」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
日本の明るい公共事業を考える会 建設部長 団 剛一(だん ごういち)

相手方:
公正取引委員会(「公取委」)

仲間同士の熱い絆で談合摘発を乗り切れ:
当社は談合の嫌疑がかけられているようで、当社が幹事となっている非公式の業界会合組織について、 公取委から質問がありました。
「ワシらの鉄の結束があれば、怖くも何ともない」
と、社長はいいながらも、この件の対応も含めて臨時会合を開くことにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:課徴金制度
公取委が、昭和52年から導入してきた課徴金制度は、独占禁止法が規定する
「私的独占」
「不当な取引制限」
など、違反した企業などに対して賦課する金銭的な不利益のことをいい、企業などが、
1.談合、カルテルなど 不当な取引制限(法2条6項、7条の2第1項)
2.不当な廉売などの方法で競争相手を市場から排除するなど 排除型私的独占(法2条5項、7条の2第4項)
3.株式を保有したり、役員を派遣したり、取引上の優位な立場を利用することで、競争相手の事業活動を制約することなど支配型私的独占(法2条5項、7条の2第2項)
4.共同の取引拒絶(法20条の2)
5.差別的対価(法20条の3)
6.不当廉売(法20条の4)
7.再販売価格の拘束(法20条の5)
8.優越的地位の濫用(法20条の6)
を行った場合に、課徴金の納付命令がなされます。
課徴金額は、原則として、違反行為実行期間(最大3年間)における違反の対象となる商品(またはサービス)の売上高に所定の算定率を乗じることで算出され、その算定率については加減算要素も規定されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:リーニエンシー制度
平成18年、談合やカルテルなどに参加したり関与していることなどを自主的に申告した企業に対し、通常、課せられる課徴金の額を免除したり減らしたりする
「課徴金減免制度(リーニエンシー)」
が採用されました。
この制度は、公取委の調査が始まる前に
「不当な取引制限」
を行って独禁法違反したことを最初に自主申告した企業には、課徴金の賦課をゼロにし、さらには、刑事告発も免除するという恩恵を与えるものです。
また、2番目に自首申告した企業には、課徴金の賦課を50%カットする恩恵を(刑事告発の免除についてはケースバイケース)、3番目から5番目に自首した企業には、課徴金の賦課を30%カットする恩恵を与えます。
なお、課徴金減免制度を利用したい企業にとって、自社が何番目の自首申告者であるかは、その動機づけの点においてもとても気になるところです。
そこで、他の企業などが同一の違反行為について既に自首申告などをしているかどうか、公取委が識別できる程度に
「違反行為の内容」
「対象商品またはサービス」
を明らかにした上で照会があった場合、公取委は、その時点で想定される順位を教示することとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:設例の帰結
後ろめたいことをしているのが明らかなのであれば、
「30年来の酒と裸の付き合い」
「莫大な課徴金」
「公表による社会的非難」
「入札からの指名停止」
といった不利益を、しっかりと天秤にかけ、1日も早く、申告書と資料をそろえて課徴金減免措置に基づく自首申告を行うべきです。

助言のポイント
1.友情や鉄の結束で談合・カルテルの摘発を逃れられるなんて、“古き良き時代”の戯れ言にすぎない。
2.かつての談合やカルテルの会合は、今や、疑心暗鬼のかたまりの場。いつ、誰が抜け駆けするか殺伐とした雰囲気の中で、呑気にあぐらをかいているのは自社だけかもしれない。
3.課徴金減免措置(リーニエンシー)の効果は絶大。友情と摘発を天秤にかけて、うじうじ悩む暇があったら、とっとと申請書と資料を揃えて自首した方がいい。
4.課徴金減免措置(リーニエンシー)による課徴金免除は立派な勲章。積極的にプレスリリースしよう。

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00950_企業法務ケーススタディ(No.0270):事業譲渡の落とし穴

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十二の巻(第42回)「事業譲渡の落とし穴」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
暮外祭(ボガイサイ)株式会社

事業譲渡の落とし穴:
監査法人から紹介された会社との間で、ゴルフ場譲渡に関する交渉がすすんでいます。
相手の会社本体丸ごと買収しようとすれば何十億の資金が必要ですし莫大な借金も引き継ぐことになるため、あえて事業譲渡としました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商号の譲渡と事業の譲渡とは
会社組織の場合、その名称がそのまま商号になります(会社法6条)。
「事業」
とは、人材・物資・財産・ノウハウ、取引先との関係などを含むその有機的に結合された会社の機能全般を指し、そして
「事業譲渡」
とは、会社の場合において、事業の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。
なお、商法上、商号だけを単体で譲渡することはできず、原則として事業(営業)とともに譲渡する場合に限られます。
このような事業譲渡は
「会社同士の合併・分割・吸収」
といったような複雑な手続きよりも比較的簡単な手続で実施でき、また、株式を全部取得するといったような
「会社全体を“買う”話」
ではないので、比較的安価な価格で、必要な事業だけを必要な範囲で譲り受けることができる点にメリットがある一方、事業譲渡の対価、
「事業」
に関する取引先との基本契約や、従業員との雇用契約、事業場の賃貸借契約などを1つひとつ締結し直さなければならないといった煩雑さがデメリットとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:事業の譲渡・譲受けに伴う義務
「事業を譲渡する側」
には、当事者間において特別な合意がない限り、事業を譲渡した日から20年間、同一市町村内で譲渡した事業を行うことが禁止されます(会社法21条)。
「事業を譲り受けた側」
は、事業譲渡とともに
「商号」
も譲り受ける場合、原則として
「事業を譲渡する側」
の事業によって生じた債務を負担する義務が生じます(会社法22条)。
なお、
「事業」

「商号」
を譲り受けたけれど、どうしても
「事業を譲渡する側」
の事業によって生じた債務について責任を負いたくない、という場合には、事業譲受け後、直ちに、本店所在地において
「『事業を譲渡する側』の債務については責任を負いません」
との旨の登記を行う方法があります(会社法22条2項)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ゴルフクラブにおける特殊な事情
ゴルフクラブの名称を続用した預託金会員制ゴルフクラブの事業を譲り受けた企業が、
「預託金」
を返還する義務を負担するか否かが争われた民事訴訟では、大阪高等裁判所が、
「ゴルフクラブの会員は、単に、ゴルフクラブ事業とともにゴルフ場の名称を引き継いだだけの会社に対しては、預託金の返還を請求できない」
と判断しました。
しかしながら、最高裁判所は、大阪高等裁判所の判決をひっくり返し、
「事業を譲り受けた側」
は、(旧)商法26条1項(注7)の類推適用により、預託金の返還義務を負うものと解する、と判断しました。

助言のポイント
1.「事業譲渡」によって新たなビジネスを手早く手に入れられる場合でも、メリットとデメリットをよく見極めよう。
2.譲渡会社の「商号」を続用する場合には、債務を負担することになることを肝に銘じよう。
3.どうしても債務負担を避けたいなら、「債務を弁済する責任を負わない」旨の登記を活用しよう。
4.「商号」ではなく、「事業」名を譲り受けた場合でも、債務を負担してしまう場合があることを忘れないこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00949_企業法務ケーススタディ(No.0269):誤解の多い「みなし労働時間制」

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十一の巻(第41回)「誤解の多い『みなし労働時間制』」をご覧ください

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 子会社 脇甘トラブル社 添乗員

誤解の多い「みなし労働時間制」
子会社の添乗員たちは、自宅から集合場所に直接出勤してそのまま温泉旅行などに出発する業務形態のため、集合場所や旅館に着いた際には会社に連絡させ、ツアーから帰ってきた際は必ず会社で2時間かけて業務報告を書かせています。
先日、添乗員たちが残業代を要求してきたので、当社の労働組合との間の合意内容に基づいて就業規則を変更し、
「みなし労働時間制」
を導入しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働時間の適正な管理
厚生労働省労働基準局長は、平成13年4月6日付通達をもって、使用者が従業員の労働時間を適正に把握する責任があることを改めて明確にし、労働時間の適正な把握のために使用者が行うべき措置を
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」
としてまとめ、併せて、監督指導などの機会を通じて当該基準の周知を図り、その遵守のための適切な指導を行うこととしました。
この結果、始業・ 終業時刻を確認し記録することは使用者の責務とされ、例外として
「『労働時間を正確に把握するのが難しい事業場外の業務を行っている従業員』については、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を労働したこととみなす」
という取扱いにされました(労働基準法38条の2第1項 )。
この例外を、
「みなし労働時間制」
といい、労使協定を締結、または就業規則を変更することで定めることができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:間違い易い「みなし労働時間制」
「みなし労働時間制」
は、労働時間の適正な管理が責務とされる会社にとって、とても便利な反面、正しく理解するのが困難な制度で、誤解が起因となった事件が多発しています。
「会社は、日報や携帯電話での報告を義務づけているのだから、労働時間を把握することは容易であったはず。したがって、みなし労働時間制は適用されない」
として時間外割増賃金を請求する従業員に対し、会社側が
「ツアーに出発した後は労働時間を把握することは不可能である」
と反論した裁判例では、東京地裁は、みなし労働時間制の適用を認めず時間外割増賃金の支払を命じています(控訴審係属中)。
そもそもの誤解として、
「みなし労働時間制」
は、あくまで
「会社の外」
の労働時間に関する制度ですので、
「会社の中」
で勤務した分については、所定の時間外割増賃金を支払わなくてはなりませんし、法定労働時間である8時間を超えた場合には、当然、労使協定が必要となり、時間外割増賃金も必要になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:設例の帰結
「会社側が労働時間を把握することは可能であった」
と判断される場合もあるので、業務報告を書かせている2時間分は
「会社の中」
での勤務として、所定の時間外割増賃金が必要になるでしょう。

助言のポイント
1.従業員の労働時間の管理は会社の責務。まずは、しっかりと管理しよう。
2.「みなし労働時間制」を導入するなら、その制度趣旨・制度設計を隅々まで理解すること。
3.労働基準法を都合のよい勝手な解釈をするのは命取り。必ず、専門家にきっちりと相談しよう。
4.「みなし労働時間制」は、単純に、時間外割増賃金を払わなくてよい制度ではない。法定労働時間を超えて「会社の中」で仕事をした分は、しっかりと時間外割増賃金を支払わないと、とんでもないことになる。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00948_企業法務ケーススタディ(No.0268):暴力団排除条例の理解

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十の巻(第40回)「暴力団排除条例の理解」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
難波組組長 難波 貞夫(なんば ていお)

暴力団排除条例の理解
当社の社長の無二の親友は、幼稚園時代から付き合いのある暴力団組長であり、10年来のゴルフ仲間であり、週に2回は共にラウンドし、親友の息子の結婚式では当社の交際費から100万円の御祝儀を包んだことは、公知の事実です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:暴力団対策法
「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」
は、暴力団員による暴力的な要求行為を規制したりすることで、市民生活の安全と平穏の確保を図ることなどを目的として制定された法律で、平成20年5月に改正されました。
暴力団員から市民に不当に介入する
「暴力的要求行為」
が行われた場合は、警察署長は当該行為の中止命令を発することができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:暴力団排除条例
「暴力団排除条例」
も全国的に制定・施行されるに至りました。
1.暴力団排除活動の推進に関する地方公共団体の基本的な責務や対応方針の策定
2.地方公共団体と契約締結する相手方に対する暴力団関係者ではないことの証明の要求
3.地方公共団体による暴力団排除活動の広報・啓発活動
4.地方公共団体による暴力団の離脱の促進
5.暴力団排除活動の推進に関する住民の責務
6.事業者に対して契約締結する相手方が暴力団関係者ではないことの証明の要求
7.暴力団排除活動の推進などに向けた行為を妨害する行為の禁止
8.暴力団事務所の開設・運営の禁止
9.条例に違反した者・事業者に対する勧告・公表措置
などが規定され、国家レベルでの対抗策とあわせて、二重に規制を行っています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:東京都暴力団排除条例の特徴
平成23年10月1日に施行された東京都暴力団排除条例では、
1.暴力団や暴力団員が実質的に経営を支配する法人などに所属する者
2.暴力団や暴力団員を不当に利用していると認められる者
3.暴力団の維持、運営に協力し、または関与していると認められる者
4.暴力団や暴力団員との間で「社会的に非難されるべき関係を有している」と認められる者、具体的には、相手方が暴力団員であることをわかっていながら、
(1)その主催するゴルフコンペに参加している場合
(2)頻繁に飲食をともにしている場合
(3)その誕生会、結婚式、還暦祝いなど、多数の暴力団員が集まる行事に出席している場合
「暴力団関係者」
と判断され、不動産譲渡の制限や、東京都との随意契約からの排除など、各種の規制対象となります。
単に、親族などに暴力団員がいる場合や、暴力団員と一緒に写真に写ったことがあるという程度、また、暴力団員との結婚を前提に交際している場合などは、その事実だけをもって
「暴力団関係者」
と判断されることはない、と解されていますが、
1.飲食店経営者などが、暴力団員が経営する事業者であることを知りながら、当該事業者から、おしぼりや観葉植物などのレンタルサービスを受け、代金を支払う行為
2.風俗店経営者などが、暴力団員に対し、「みかじめ料」を支払う行為
3.ゴルフ場経営者が、暴力団が主催していることを知って、ゴルフコンペ等を開催させる行為
4.ホテルなどの宴会場やイベントスペースの経営者が、暴力団組長の襲名披露パーティーに使われることを知って、ホテルの宴会場やイベントスペースを貸し出す行為
5.不動産業者が、暴力団事務所として使われることを知った上で、不動産を売却、賃貸する行為
6.スポーツや演劇などの興行を行う事業者が、相手方が暴力団組織を誇示することを目的としていることを知った上で、その暴力団員らに対して特別に観覧席を用意する行為
7.警備会社が、暴力団事務所であることを知った上で、その事務所の警備サービスを提供する行為
など、暴力団の助長行為や暴力団に対する利益供与を禁止しています。

助言のポイント
1.暴力団や暴力団員とのお付き合いは極めて慎重に。自分では、知人としての単なるお付き合いのつもりでも、世間や法律・条例は許してくれない。
2.暴力団や暴力団員との許されないお付き合いは、暴力団対策法と暴力団排除条例の正しい理解からはじまる。
3.暴力団員でなくても、「暴力団関係者」として規制の対象にされてしまうこともある。「暴力団関係者」としてレッテル貼りをされたくなかったら、しっかりと、これまでの馴れ合いを戒め、袂を分かつ決意も必要。
4.その気はなくても、禁止されている「暴力団や暴力団員への利益供与」に該当してしまうことがある。迷ったら、警察や公安委員会に相談しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00947_企業法務ケーススタディ(No.0267):抜け駆けは御法度でござる

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十九の巻(第39回)「抜け駆けは御法度でござる」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
余荷外(ヨニゲ)産業

抜け駆けは御法度でござる:
破綻した取引先の弁護士から
「近日中に破産申立てをするから、もう債務は払えない。現在の債権額を教えろ」
と、内容証明が届きました。
債権者としては何とか回収をしたいところですが、だからといって、相手先からムリヤリに在庫引き揚げしたら、警察沙汰になるでしょう。
法務部長の調べによると、合意の下、当社の債権額に見合った分だけ弁済を受け、合意のあったことを証明するために、ドキュメントを作成すれば問題ないとわかりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:破産法の目的
破産制度が整備されていなかった時代は、ヒートアップした債権回収が行われ、債務者に対する取り立ても苛烈なものとなり、無用な社会混乱が発生しました。
現代のわが国においては、破産制度を整備し、裁判所に選ばれた破産管財人が破産者の財産すべてを管理した上で
「多くの債権者が、できるだけ多額かつ平等に回収ができる」
ように、
「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る」(破産法1条 )ことを目的に掲げています。 

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:破産法のテーマ「債権者平等の原則」
私法上の一般原則として
「債権者平等の原則」
というものが存在します。
「債務者に資産がなくて、債務のすべてを弁済するのに足りないときは、債権者の債権額に応じて配当される」
ところですが、
「債権者平等の原則」
に従わないまま行動を開始してしまうと、リスクを冒すことになりかねません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「破産管財人」
破産手続が開始された後は、破産管財人(裁判所に選任された弁護士)が、破産手続が開始される前に行われていた
「抜け駆け」
を是正します。
破産管財人が、破産者の手元から出て行ってしまった財産を、債権者らに分配するべき財産(破産法では「破産財団」といいます)に戻す作業を行います。
破産管財人には、
「多くの債権者が、できるだけ多額かつ平等に回収する」
任務が遂行できるように、さまざまな強力な権限(破産法40条、268条)が与えられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「否認権」
破産法は、裁判所から選ばれた破産管財人に、
「破産者が自分の破産間際に債権者以外の者への財産の贈与や、特定の債権者のみに対する弁済などいろいろやってしまった」
ことについて
「否認」
し、財産を取り戻す権限を与えています(破産法160条以下)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:「支払不能」「支払の停止」
「債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する」
としています(破産法15条2項)。
そして、債権者は、債務者が
「弁済能力がないため、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示する行為」
を知ってしまった状態で弁済を受けても、後から管財人に否認される可能性があります。
この場合、受け取った現金については法定利息(商事ですので年利6%)を付けて返済し、受け取った商品については、現物を返すか、転売したり滅失している場合、受け取った商品の価額を賠償しなければなりません。

助言のポイント
1.破産の場面では、平時と異なって「債権者平等」が大原則になる。平時の感覚で「オレってクレバー。華麗な抜け駆けの債権回収だな」なんてことをする場合には、とりあえず法律家に相談しよう。
2.破産管財人は、破産制度の適正な運営のために、裁判所と破産法の御威光をバックにした強力な調査権を与えられている。「うまくやってるから、バレないだろう」などとは思わない方がいい。
3.偏頗弁済をしたり、破産管財人の調査に協力しなかったりした債務者は、免責不許可となって、せっかく破産したのに借金が丸々残るというお仕置きを受けるから要注意。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00946_企業法務ケーススタディ(No.0266):パブリシティ権侵害で巨額の賠償を分捕ってやれ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年4月号(3月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十八の巻(第38回)「パブリシティ権侵害で巨額の賠償を分捕ってやれ!?」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
千代凸 爆進(ちよとつ ばくしん、同社顧問弁護士である千代凸 亡信の息子)

相手方:
なし

パブリシティ権侵害で巨額の賠償を分捕ってやれ!?:
当社グループ芸能事務所所属タレントの暴露本が売れています。
当社としては、悪質な名誉毀損、莫大な損害賠償請求訴訟を起こそうと考えましたが、日本の名誉毀損に対する損害賠償の相場は実にしみったれています。
アメリカから帰ってきた当社顧問弁護士の息子の助言により、パブリシティ権侵害で訴えることにしました。
経済的損害の回復を求めることができるため、本が売れれば売れるほど、その利益をそっくりいただけるし、アメリカでは楽勝の訴訟とのことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:芸能人・著名人を取り巻く権利
「プライバシー権」

「みだりに私生活を公開されない権利」
といわれ、その人の人格的利益を尊重するものです。
「肖像権」
「名誉権(社会的評価の保護)」
が侵害された場合、精神的苦痛に対する慰謝料という形での損害賠償は非常に低く、被害回復を図っても、実際の経済的なダメージを回復するには遠く及ばず、非常に難しいと考えられます。
そこで、
「有名人の商品としての価値」
に着目したのがパブリシティ権です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:パブリシティ権とは
日本でも、最高裁判決において、ようやく、
「顧客吸引力を排他的に利用する権利」(「パブリシティ権」)
が法的権利として承認されるに至りました。
パブリシティ権に対する侵害が認められた場合の損害額は、プライバシー権等の損害額を大きく上回ることがあり、これがパブリシティ権を議論する実益です。
パブリシティ権という経済的利益が侵害された場合、高額な経済的利益の回復も求めることが可能になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:パブリシティ権侵害が認められる要件
パブリシティ権侵害の成立させるには、
「専ら顧客吸引力を利用する目的」
といった高度の要件が必要です。
1.肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
2.商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
3.肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「ピンク・レディーでダイエット」事件
最高裁の事件は、タレントのピンク・レディーの写真14枚を使用した
「ピンク・レディーdeダイエット」
と題する3頁の週刊誌記事が問題となりました。
「顧客吸引力が問題となるのは、記事単体ではなく、商品としての『雑誌』と考えるべきであり、『雑誌全体の分量との比率』が重要である」
として、パブリシティ権の権利者側の主張に水を差す態度を示しています。
日本におけるパブリシティ権侵害の賠償相場に関しては、かなりしみったれたものになっているのが実情のようです。

助言のポイント
1.ここは日本。「アメリカでは~」「イギリスでは~」などと海外の話を振りかざしてワケ知り顔で議論する“出羽(でわの)守(かみ)”は信用ならない。
2.知名度を悪用して金儲けをするような輩には、パブリシティ権を持ちだして、経済的利益の賠償を検討すること。
3.ただ、パブリシティ権の侵害認定要件は相当厳しい。名誉権侵害や著作権、不正競争防止法に基づく請求も併せて検討すること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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