00902_企業法務ケーススタディ(No.0230):解雇

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2008年12月号(11月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二の巻(第2回)「解雇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 経営企画室 担当責任者

解雇:
社長が同席する商談において、担当責任者が1時間以上も遅刻したことから、商談が流れる事態となりました。
寝坊・遅刻の常習犯であるその社員の度重なる失態に、怒り心頭の脇甘社長。
そこで、執高法務部長は、
「その社員はすぐに解雇し、明日以降、わが社には来させません」
といいました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:雇用と婚姻は同じ
企業がヒトを採用するのに規制はありませんが、解雇は簡単にはできません。
「結婚は自由、離婚は不自由」
になぞらえると、
「採用は自由、解雇は不自由」
という言葉があてはまるほど、解雇は厳しく制限されており、ビジネス感覚との大きなズレが存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:解雇の失敗
正しい解雇とは
「法的に正しい理由に基づき、法的に正しい手続を踏んだ解雇」
のことを指します。
法的に疑わしい解雇を強引に行うと、仮処分、労働審判、本案訴訟という裁判沙汰に巻き込まれるほか、労働組合から団体交渉の申入れがなされるなどして厄介なトラブルに巻き込まれます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:法的に正しい理由に基づく解雇
高知放送事件(最高裁1977年1月31日)では、
「2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごし、定時ラジオニュースの放送事故を起こし、放送が10分間ないし5分間中断されることとなり、2度目の放送事故では、直ちに上司に報告せず、事故報告を提出した際に事実と異なる報告をした」
アナウンサーに対する普通解雇について、最高裁は無効としました。
つまり、
「通常の債務不履行事由(遅刻、欠勤、能力不足、仕事納期もれ、ミス)だけでは解雇できない」
という法常識があるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:法的に正しい手続を踏んだ解雇
経歴詐称や横領・背任等を行って懲戒解雇をするような場合でも、企業側は解雇予告をするか、予告手当として少なくとも解雇通知から1ヶ月分の給与を支払うべき義務が生じます。
労働基準監督署の事前認定があれば予告なしの即時解雇も可能ですが、実際、認定が出るまでには1週間から10日かかることもあり、準備をしている間に1ヶ月などすぐにきてしまいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:自発的に辞めてもらう場合には解雇規制は適用されない
労働者側から
「すみません、迷惑かけたので、辞めます」
という形で、自発的に雇用契約を解消する場合は、労働者保護の要請は働かず、非常識な解雇理由も面倒な手続も一切不要になります。

助言のポイント
1.雇用と結婚は同じ。結婚は自由だが離婚は不自由、採用は自由だが解雇は不自由。採用と結婚は同じく慎重に。
2.違法な解雇をしたら、仮処分、労働審判、本案訴訟という訴訟沙汰に巻き込まれるほか、労働組合との団体交渉事件に発展し、解雇を撤回させられ、大恥をかく羽目になる。
3.解雇には理由が必要。最高裁は、遅刻、欠勤、能力不足、仕事納期もれ、ミス程度の理由では、解雇は認めない。
4. 解雇には1ヶ月の猶予期間が必要。どんな非違行為をした人間を解雇する場合であっても、労働基準監督署の除外認定を得ない限り、即時解雇は違法。
5.解雇相当であっても従業員が自主的に退職する場合には解雇規制が及ばない。どんな不始末をした人間に対してであれ「馘首(かくしゅ)より切腹」の方が安全。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00901_「一見、簡単に思えるビジネス」も、課題やタスクはしびれるくらい多い

簡単にみえる、簡単そうに思えるビジネスがあります。

シンプルで、わかりやすく、使いやすい。

ビジネスが、一般人にも、子どもや老人にもわかりやすいものであるからといって、子どもや老人、あるいは平均的サラリーマンがやろうと思っても、まず無理です。

ビジネスがシンプルで、わかりやすく、顧客やユーザーにとって使いやすいからといって、
「そのようなビジネスを立ち上げたり、運営したりすることも、バカでも簡単にできる」
ということではありません。

例えば、わかりやすそうな例として、ネットで商品を販売する、というビジネスを考えてみましょう。

普通の人が、このようなビジネスをいきなりおっぱじめても、まず失敗します。

ネットの空間は、宇宙空間並みに無限の広がりがあります。

自分としては、
「こんなにいいモノがこんなに安かったら、皆、殺到して買う」
と思い込んでネットで出店しても、実は、北海道の原野にぽつんと立っているセレクトショップのように、半年たっても、1年たっても客は1人もこず、すぐに潰れます。

どんなにいい商品を安い値段で提供しても、顧客に知られなければ、商売は成立しません。

また、せっかく1年目に1人お客さんが来店しても、お客さんの欲しいモノが置いていなければ、何も買わずに帰ります。

顧客の現実、欲求、価値観を知り、顧客のニーズやウオンツを研究・把握し、これに基づいて、商品やサービスを企画し、設計し、これを顧客が認知されるに至るまで状況構築し、来店したら、購買行動に駆り立て、売買を成立させ、代金を確実に回収する。

この営みは、生半可なことではありません。

課題が見えていない、ということは恐ろしいことで、 ネットビジネスが簡単でわかりやすいからという理由だけで、
「そのようなビジネスを立ち上げたり、運営したりすることも、バカでも簡単にできる」
という愚かな人が結構いらっしゃいます。

逆に、課題をすべて正確に見えている、というのは、ビジネスの成功の必要条件です。

課題をイメージしたり、発見・特定できる、というのは、一種の
「知性」
です。

おそらく、ネットビジネスを成功するような人の脳内では、ネットビジネスの課題がかなりリアルかつクリアに見えているのだと思います。

例えば、ネットでソフトやコンテンツといった情報商材を販売するのは、原価も少なくもっとも儲かる商売の1つです。

ですが、このような商売をするには、とびきり頭がよくないとできません。

おそらくそういう商売をしている人の脳内は、こんな具合に、緻密かつ複雑に働いているのだと思われます。


ビジネスにおける知性というものは、課題発見におけるイマジネーションと課題特定におけるインテリジェンスとほぼ同義です。

おめでたい人、緻密ではない人、安易に考える人、楽観的な人、不安感情の乏しい人というのは、組織のぬるま湯でほどほどに生きるには向いていますが、厳しいビジネスの世界でリーダーシップをとって生き抜くには難しいかもしれません。

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00900_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える7:チームビルディング(人的リソースの組み合わせと活用のための営み)

役割分担設計において、各種役割を担えるスキルを有する有能な人間がただ集まっていても、チームとして機能するわけではありません。

烏合の衆を、組織的・有機的な機能集団として活動させるためには、チームビルディングという営みを意図的・意識的に行う必要があります。

もちろん、ロマンだけでなく、ソロバンも必要です。

経済的メリットや社会的メリット等、欲を刺激して、士気を高める工夫も必要です。

ですが、その大前提として、
コトバが通じる、
ハナシが通じる、
ココロ(気持ち)が通じる、
といった「集団構成における意識共有基盤」ともいうべきものがないとチームは瓦解するか、少なくともサステナブルに集団秩序を保つことはできません。

ましてや、前提環境としてチームに立ちはだかる対処課題は、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
であり、
「集団構成における意識共有基盤」
があってもなお、タフな状況と内部抗争の火種が常に蔓延し、チーム瓦解による失敗の可能性が限りなく高い過酷なタスクです。

コトバが通じる、ハナシが通じる、ココロ(気持ち)が通じる、というのは平たく言えば、
「倫理性、価値観、哲学、美意識」
といったものが共有できるか、です。

気持ちを偽るヒト、
他人に嘘をつくヒト、
自分にも嘘をついているヒト、
気持ちをミエル化・カタチ化・言語化できないヒト、
コミュニケーションの価値を認めないヒト、
約束や決まりごとを無視・軽視するヒト、
など。

「他人に嘘をつくヒト」
「自分にも嘘をついているヒト」
ですが、生来邪悪な詐欺師や嘘つきで、犯罪者予備軍やサイコパスのような存在ばかりではありません。

プライドが高く、自己保存が強く、負けを認められず、責任転嫁し、八つ当たりし、あり得ない弁解をしたり、知ったかぶりをしたり、逆ギレしたり、というのも
「他人に嘘をつくヒト」
「自分にも嘘をついているヒト」
の亜種といえますし、キャリアやスキルが高くても、あるいは、ホニャララ士や、チョメチョメ専門家や、教授や、官僚OBであっても、この手のタイプは結構な割合で紛れています(「先生と言われるほどの馬鹿でなし」という言葉があるように、先生と呼ばれるようなタイプは、むしろ、「プライドが高く、自己保存が強く、負けを認められず、責任転嫁し、八つ当たりし、あり得ない弁解をしたり、知ったかぶりをしたり、逆ギレ」するタイプが傾向的に多いのかもしれません)。

こうした、スペックは一定程度保有していても、
「コトバが通じないヒト、ハナシが通じないヒト、ココロが通じないヒト」

「約束や決まり事を破る行為や美意識・哲学の面で他のメンバーから容認しえない事件や行動」が1人ないし1つ存在すれば、もはや、チームは内部から崩壊します。

特に、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
では、内部のストレスが高まり、ともすれば、失敗の雰囲気が漂い、厭戦気分や士気の低下、さらに犯人探しや戦犯追求、責任のなすりつけ合いといった、内部崩壊のリスクが恒常的に高くなります。

些細なミスやエラーや漏れや抜けでチームが安易に瓦解しないようにするためにも、チーム内における、信頼関係と倫理や価値観の共有がチームビルディングのために必要となります。

もちろん、パッションや忠誠心やロマンだけではこれも脆弱であり、しっかりとソロバンが働くようなご褒美や報酬やインセンティブがあってのチームビルディングです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00899_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える6:ゲームチェンジャー(秩序破壊型アドバイザー)

プロジェクトが、参謀が描いたとおりに展開し、所与の目的を達成できれば何も言うことはありません。

しかしながら、前提として、対処課題は、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
です。

当然ながら一筋縄では行きません。

責任者(リーダー)も、参謀も、現場参謀も、実務遂行者も、いってみれば社内の人間であり、業界の人間であり、既存秩序に生息してきた人間です。

参謀がいろいろ考えを巡らすにしても、思考や想像力や創造力の限界もあります。

何せ課題前提が
「正解も定石も不明なプロジェクト」
ですから、すぐにプロジェクトがスタックしてしまうことがしょっちゅうです。

そんなとき、ゲーム・チェンジが必要になります。

ロジックやフェーズやプレーヤーやプレースタイルを入れ替えるだけで対処できればいいのですが、根源的なゲーム構造や前提環境を見直すことまで必要になる場合があります。

そんなとき、必要な外部知的資源として、既存の秩序を否定し、愚弄し、引っ掻き回し、こき下ろすような、エイリアンのような存在が必要になります。

すなわち、自社や業界に生息せず、社内や業界に生息する人間とはまったく違う価値観や生き方をしてきて、責任者(リーダー)に媚びず、臆せず、既存の権威やシステムや価値観を全否定し、新たな着眼点やブレイクスルーアイデアを提示してくれる人間です。

また、ゲーム・チェンジャーは、社外や業界外との集団とも自由に往来でき、斬新な外交アイデア、ジョイント・ベンチャー、ホワイトナイトの招聘、M&Aも提案し、推進する役割を担います。

このゲーム・チェンジャーは、既存秩序の生息者にとっては、鼻つまみ者・嫌われ者であり、トラブル・メーカーであり、絶対必要というより、平時は有害な存在です。

しかし、プロジェクトがスタックし、ゲーム・チェンジが必要になったとき、大きな成果を生み出すきっかけを演出する存在です。

もちろん、単なる破壊者というだけではこの役割は務まりません。

鼻つまみ者・嫌われ者であっても、チームに対するシンパシーがあり、チームに貢献し、あるいはチームの危機を救いたいという情熱や倫理が前提として必要です。

最近トレンドとなっている経営キーワードでは、ダイバーシティ(多様性)や社外取締役といったものと関連する。

要するに、
「正解も定石もない経営を舵取りするときに、耳の痛いことを聞かせ、見たくない現実もしっかりとみせてくれ、問題解決に協力してくれる、多様な価値観を提供する人材や外部の知的資源」
が、どの企業も
「ゴーイング・コンサーン(企業の永遠の存続)という、正解も定石も不明なプロジェクト推進のため必要資源」
として認識している、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00898_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える5:実務遂行者(ソルジャー・下士官、作戦遂行者・現場責任者)

プロジェクト遂行現場において、現場参謀(管理系エリート、戦術担当、作業計画策定・統括)と対極に立つべき存在である、実務遂行者(ソルジャー・下士官、作戦遂行者・現場責任者)も絶対的に必要になります。

現場参謀は、戦略(ストラテジー)の実行や活動(アクティビティ)の遂行に責任をもち、この責任を果たすため、戦術(タスク)ないし行動計画(アクション・プラン)を策定します。

また、
「戦術レベルの創意工夫ではおよそ補えない、資源動員レベルの計画を変更しない限り解決できない、構造的行き詰まり」
に遭遇した場合、戦略の転換を求めて、参謀に打開を求めて戦略の変更や修正、ゲーム・チェンジを具申します。

これに対して、実務遂行者は、戦術(タスク)ないし行動計画(アクション・プラン)の遂行に責任を持ちます。

現場参謀が、ソロバンと段取りと冷めきった計算で諸事割り切るのに対して、実務遂行者に必要なのは、情熱と熱狂と忠誠心です。

組織の秩序を、現場参謀が描いたプランや計算ではなく、情熱とシンパシーによって、自律的に作り上げる存在であり、
「計画書という紙の上では存在しないはずなのに、実務・実践の現場では次々に現れる各種想定外やトラブル」
にも柔軟に対処し、危機を乗り越え、リスクに対処し、プロジェクトを軌道に乗せ、前にすすめていくのが、実務遂行者です。

とはいえ、兵隊だけのチームは、単なる烏合の衆となり、やはり目的は達成できません。

実務現場では、チームは、常に、目的合理性や経済性や合目的性よりも、卑近なチームの結束や現場の雰囲気こそが重視されます。

兵士だけで、管理するべきエリートがいなければ、目先の楽しいこと、刺激的なこと、やりがいのあることだけ、好き勝手にはじめてしまい、お祭り騒ぎとなって、暴走してしまいます。

この種の現場責任者は、現場を束ねる魅力や個性やパッションが必要ですが、他方で、
現場「責任者」
として役割を果たしてもらうためには、現場参謀の声にも耳を傾ける柔軟性や受容性も必要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00897_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える4:現場参謀(管理系エリート、戦術担当、作業計画策定・統括)

戦略と戦術という概念区分があります。

戦略とは
「大局を俯瞰した上で考案した目的達成するためのシナリオ・筋道」、
これに対して戦術とは
「戦略を実施に移すための具体的方策や実現方法」
といわれています。

私なりの言い方ですが、戦略とは、
「参謀による目標案の設定」と「責任者による決断・決定」、
「参謀による目標と現実の間の課題やリスクの抽出と整理」と「責任者による裁可・承認」、
「課題やリスクを克服するための選択肢の抽出とプロコン評価」と「責任者による行動上の選択決定」
といったプロセスを経由して策定された
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)」
です。

そして、この
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)」
をより卑近で現実的なものにブレークダウンし、
「実施部隊を組成・統括しつつ現実に実現するための実務遂行計画を策定する」
という営みが観念されます。

この
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)を、組成・統括しつつ現実に実現するための実務遂行」
を戦術と定義できるかと思います。

そして、戦術、すなわち
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)を、組成・統括しつつ現実に実現するための実務遂行」
は、
「行動計画(資源動員計画)」
さえチームメンバーに渡しておけば、ほっといても勝手に、自律的に、実現して、形となって、成果となって出現する、
と考えるのはあまりに幼稚で無知です。

実際は、
「行動計画(資源動員計画)」
をさらに実施するために、細やかな
「段取り、責任分担、賞罰基準(ゲームプラン)、中間目標(マイルストン)」
といった
「作業計画」
がないと、チームメンバーは戸惑うばかりです。

小学生の未経験者にサッカーをさせると、皆、規律も秩序も役割分担もなく、烏合の衆となって、それぞれ得手勝手に、無秩序な団子状態でボールを追いかけはじめます。

他方で、プロサッカーチームやワールドカップ上位ランクのナショナルチームのサッカーをみてみると、規律と秩序と役割分担が決まっていて、組織だってチームサッカーを展開します。

このように、単に
「とにかく目の前の敵に勝て。そのための資金と人員と環境はこれだ」
という雑駁としたプラン(資源動員計画)だけでは、組織だったチームプレイを遂行することはできませんし、もちろん勝つことや目標達成は不可能です。

放置しておけば不可避的に
「烏合の衆」
と化してしまうヒトの集まりに、規律と秩序と役割分担を与えて、組織だって計画的に、段取り良く、チームプレイを展開するための算段や目論見が必要となります。

そして、この
「規律と秩序と役割分担を与えて、組織だって計画的に、段取り良く、チームプレイを展開するための算段や目論見」
を策定するインテリジェントスタッフ(オペレーションを担う作戦参謀・戦術参謀)が、戦略(ストラテジー)レベルの参謀とは別に必要となります。

こちらは、
「資源の把握と動員計画といった『エコノミクス』によるゲームプラン策定」
という
「巨視的・大局的・俯瞰的な知見を要求される人的資源」
というより、
「現場の状況を踏まえた局所的な最適化を図れる現場経験」

「極めて卑近で緻密で具体的な実務・実践上の知見」
を具備した
「実務的・実際的・ミクロ的な情報運用が要求される人的資源」
です。

言ってしまえば、
「ビジョンはないがリアリティがあり、構想力や外部知見は乏しいが計算・管理・事務・実務に長けた、頭の回転が早く、物事をミエル化・カタチ化・コトバ化・文書化・現実化できる実践知性であり、すばしっこく、目先が効くが、陳腐化されたつまんない事務屋であり、取替可能な、個性がない、コモディティ的な実務屋であり、管理系エリート」
です。

比喩的にはなりますが、経営者にもなれないし、経営企画や戦略部署や営業マンにもなれないが、経理や財務や総務なら務まる、クリアティビティはないものの、堅実で実直で、ソロバンと文書と事務に長け、管理と実務ができる、つまんない優等生、といった人材です。

敷衍しますと、参謀が描き、リーダーが選択し、組織としてチームとしてぶち上げた
「ビジョン」「目標」「戦略」
を達成するために、現実的にどのような資源がいつまでにどのくらい必要で、それをどのような段取りと順序で動員し、どのような中間目標(マイルストン)を設定し、といったことをクールでリアルに計算し、
「プラン」
にコトバと数字と根拠を与え、現実化していく役割を担う人材です。

このような現場参謀(管理系エリート)ですが、要求スペックとして、
「どんなに有能でも、こんなヤツは現場参謀としてはNG」
という消極的要素ともいうべきファクターがあります。

「どんなに有能でも、こんなヤツは現場参謀としてはNG」
となる要素の1つは、
「分をわきまえていない」こと。

現場参謀(管理系エリート)は、どんなにハイスペックで、優秀・有能そうで、高い学歴で、高いスーツを着て、高いネクタイをぶら下げていて、高い眼鏡をかけていて、頭と毛並みが良さそうでも、所詮、替えの効く、 コモディティです。

戦術を積み重ねても戦略にはなり得ません。

管理系エリートはどんなプロジェクト実践においても必要ですが、この種の優等生が集まっただけでは、単に
「上をみて(お上や権威にしたがう)、横をみて(業界慣習にしたがう)、後ろを振り返る(過去の先例にしたがう)」
といった、今までの延長線上の目標しか創造できず、結果、
「正解も定石も不明なプロジェクトを推進する」
というプロジェクトは失敗に終わります。

その意味では、どんなに経歴が立派でお利口そうにみえても、所詮
「ハイスペック・コモディティ」
「視野の狭い、実務バカ」
という存在に過ぎないことを自覚させ、分際を弁えさせ、現場での作戦実施や実務や事務的実現部分はさておき、全体な戦略にかかわる、
「ゲーム環境の認知・解釈、
類似事例や先行事例、相場観情報の取材・収集・整理、
ゴール設定に関する選択肢の抽出・整理、
ゴール(to be)と現状(as is)の間に携わる課題の抽出・整理、
課題解決のために動員しうる資源の整理・把握、
課題解決のための選択肢の抽出・整理、
各選択肢のプロコン(長短所)分析、
といった判断前提を情報を整理し、判断を行うトップに上程する」
という役割は担わせないことです。

この種の戦略立案・策定という営みは、
思考の柔軟性、
新規探索姓、
経験の開放性、
健全な自己否定ができる謙虚な自己評価、
といった心因的なスペックと無縁ではなく、経験上の蓋然性でいうと、
「ハイスペック・コモディティ」
「視野の狭い、実務バカ」
といったタイプの管理系エリートはいずれかあるいはすべてが致命的に欠如することが多いからです。

第二次世界大戦で戦略立案遂行した大本営の参謀陣が壊滅的な失敗をしでかしたのも、上記のような知性面や情緒面における致命的欠陥が原因と推察されるところです。

また、
「どんなに有能でも、こんなヤツは現場参謀としてはNG」となる要素の2つ目は、
「分をわきまえていない」
ことと関連しますが、
「困ったヤツや面倒や不安を抱えているヤツ」
です。

カネに困っていたり、仕事に困っていたり、倫理面・情緒面で不安を抱えたエリートは、チームに大きな波乱をもたらすので、要注意です。

この種のスペック面で欠陥のあるエリートは、
「優秀な知性をもった銀行強盗」
に豹変する可能性があります。

番頭が謀反を起こして組織を撹乱したり、瓦解させるパターンはよくあります。

以上の消極要素がなく、立ち位置と分際を弁えて、不安要素もなく、健全で円満なメンタルをもち、ソロバンと事務に長けた、実直な番頭は、 正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える上では不可欠の存在です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00896_企業法務ケーススタディ(No.0229):損害賠償

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当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
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相手方:
ハイ・エナジー・コーポレーション(「ハイエナ社」)

損害賠償:
ハイエナ社との事業提携交渉に際し、守秘義務契約を締結しました。
ところが、ハイエナ社の課長が、業界団体主催の勉強会にて、当社の機密をコピーして配ってしまいました。
ハイエナ社は大筋で事実を認め、謝罪してきています。
守秘義務契約書に
「契約に違反した場合にはその全損害を賠償する」
と記載していましたので、当社としては、重要な機密漏えいの全損害として10億円を請求しようとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:悪さしたんだから、損害賠償は当然認められるんでしょ?
損害賠償を請求する場合、原則として、請求する側において、
「どういう損害が発生し、この損害が金銭に換算していくらに相当するか」
という命題について、主張し、立証する責任が生じます。
「機密保持義務に違反して、機密を漏洩した」
という抽象的で実体のつかみにくい話の場合、
「当該機密の価値がどのようなもので、この機密の価値を喪失したことにより、どのような損害を被り、これが金銭に換算してどのように評価されるか」
という事実を主張し、立証するのは、至難の業といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:損害なければ賠償は不要!
「侵害論と損害論とを分けて議論すべし」
といわれるように、 裁判システム上、たとえ違約した当事者や加害者がどんなにひどいことをしたとしても、被害者が損害の主張立証ができなければ、賠償金を支払う必要はありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:立証が難しい損害はペナルティ額を定めてしまえ
ペナルティを事前に定める方法としては、賠償額の予定のほか、さらに厳しい
「違約罰」
という制度があります。
気をつけなければならないのは、契約文言として規定する上では、
「損害賠償の予定」

「違約罰」
の概念を明瞭に区別し、所要の法的効果が達成できるよう書き分けておく必要があります。
なぜなら2つの概念は、法的効果が異なる上、民法420条に
「違約金の定めは(違約罰ではなく)損害賠償の予定である」
旨の推定規定があるからです。
最後に、極度に高額のペナルティを設定すると、暴利性の抗弁(「公序良俗に違反する高額な賠償額を定めたものとして、民法90条に反し、無効」とする相手方からの抗弁)を誘発しかねませんので、その対策も必要になります。

助言のポイント
1.契約違反や権利侵害の事実が明らかであっても、発生した損害の主張立証ができなければ、賠償金はもらえない。
2.機密保持違反事例など、損害が抽象的な内容で、主張立証の困難が予想される場合、契約書で損害賠償の予定や違約罰を定め、ペナルティ額を確定するといい。
3.損害賠償の予定と違約罰とは似て非なるもの。契約書ではきちんと書き分けること。
4.ペナルティ額を設定する場合、暴利性の抗弁への対策を忘れない。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00895_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える3:参謀(インテリジェンス、ゲームプラン担当)

「ゲーム環境の認知・解釈、
類似事例や先行事例、相場観情報の取材・収集・整理、
ゴール設定に関する選択肢の抽出・整理、
ゴール(to be)と現状(as is)の間に携わる課題の抽出・整理、
課題解決のために動員しうる資源の整理・把握、
課題解決のための選択肢の抽出・整理、
各選択肢のプロコン(長短所)分析、
といった判断前提について、情報を整理し、判断を行うトップに上程する」
という役割を担うのが参謀です。

参謀は、自分の意見を入れたり、勝手に判断することはタブーです。

というのは、前提として、取組課題が
「正解も定石も不明なプロジェクト」
だからです。

「正解も定石も不明なプロジェクト」
で何から何まですべて未経験で常識が通用しないわけですから、確たることは何も言えません。

にもかかわらず、自分の陳腐な常識や、乏しい経験で、何かを判断したり、解釈したり、選択したりするのは、極めて危険です。

そんな判断なり、解釈なり、選択なりができるのは、唯一、
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
であるトップただ1人だけです。

このような役割分担を理解し、分を弁えている、というメンタル・スペックをもった参謀がチームには必要です。

もちろん、参謀はバカでは務まりません。

頭の回転が速く、物事を主観や偏見や常識を交えず分析でき、先端的な知見があり、目先が効き、 冷徹に、現実的に計算する知的能力がなければ参謀は務まりません。

知性もそうですが、ストレスに耐えられるタフさも必要です。

主観や偏見や身勝手な常識や独善的な経験則を交えず、具体的・客観的な事実に向き合い、解釈・選択・判断課題については、どんなに面倒でも、逐一
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
であるトップの裁可・決定を仰ぎつつ、前述のような論理の積み上げで、ゲーム・プランを練り上げていくのは並大抵の神経で務まるものではありません。

この種の精神的負荷のかかる面倒なプロセスを忌避し、
「『常識』という名の『偏見のコレクション』」
や、自身の矮小(わいしょう)な経験や、ちゃちな知性や、独善的で強引な推論でつなぎ合わせ、トップに解釈・選択・判断の前提を提供するのではなく、自己判断で、
「これしかありません。これでやってみましょう。これでうまくいくはずです」
と一方的なプランを押し付け、華麗な修飾語や勇壮な枕詞を並べ立てて、自己陶酔にひたる。

失敗するチームにおいては、そんなタイプの参謀がほとんどです。

どんなに立派な学歴や経歴で、メガネをかけて、七三分けで、高いスーツを来て、高いネクタイを首からぶら下げて、外来語を駆使して、堂々たる態度であっても、トップに選択肢を持ってこないで、自分の考えを押し付けるようなタイプの参謀は、排除すべきです。

アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏は、安全保障や外交課題に関して質問されたら、こういう言い方をすることが多いです。

「すべての選択肢はテーブルの上に揃っている」

安全保障や外交課題は、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
の最たるものです。

トランプ氏は、この種のプロジェクトの取り組み方の本質を完全に理解しています。

おそらく彼は、部下やスタッフにこう指示していると思われます。

「君らの意見や講釈は聞いていない。判断材料や選択肢をもってこい。オレが判断し、解釈し、選択するから。勝手な自己判断・自己解釈・自己決定するんじゃねえぞ」
と。

これこそが、
「正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム」
における理想的なトップと参謀の役割分担モデルです。

このような役割分担を理解した、謙虚さと保守性をもった、知的で負荷耐性があり、責任感のある知的プロフェッショナルが参謀の根源的スペックです。

なお、参謀に必要なのは、知性と論理性であり、既存の業界知識や業課常識や業界慣行の知見ではありません(あっても有害ではありませんが)。

むしろ、
「外の世界」
「異界」
に自由に行き来きして、業界では一般的ではない特殊スキルをもち、 知的好奇心、新規探索性、経験の開放性、思考の柔軟性を実装し、健全な自己否定ができる謙虚さがあり、業界の理解とシンパシーはあるものの、業界に浸かっていないタイプの
「外部の知的資源」
を活用した方が良い場合があります。

その意味では、社外取締役や顧問弁護士やアドバイザー等をスポットで招聘・起用することもおおいに検討に値します。

なぜなら、取組課題が、それまでの業界知見や業界慣行が役に立たない、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
だからです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00894_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える2:責任者(トップ、プロジェクトオーナー)

チームに必要なのは、まずトップです。

トップは、
「権限も成功した場合の成果も帰属する」
という意味で、また、何より、お山の大将として、リーダーとして、その他大勢のとしての皆にとって憧れの存在かもしれません。

しかし、
「正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム」
のトップは、そんなポジティブなイメージだけでは務まりません。

「正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム」
のトップの最も大きな役割は、
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
というものです。

トップの仕事は、判断することと責任を取ることです。

「正解も定石も不明なプロジェクト」
については、判断する事項は非常に数多くあります。

状況認知における選択・判断、
状況解釈における選択・判断、
相場観採否における選択・判断、
ゴール設定(冒険的ゴール、保守的ゴール)における選択・判断、
課題抽出の範囲や想定限度における選択・判断、
プロコン評価における選択・判断、
行動選択における選択・判断、
成否見極めにおける選択・判断、
試行錯誤における選択・判断、
撤退見極めにおける選択・判断、
これらを、
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
として、すべて自身の意思と決断で決めなければなりません。

いってみれば、延々と、丁半博打をしているような、精神が焼ききれるような、痺れる局面がいつ終わるとなく続きます。

有事(存立危機事態)のトップの経験のあるリーダーは、実感として理解できると思いますが、いいことはまったく何もない、責任とストレスとリスクだけが重くひしひしとのしかかる、散々な役回り、それがトップです。

もし、そんな悲惨な気持ちを実感していないトップがいるとしたら、それは、
取組課題が
「正解も定石も不明なプロジェクト」
でなく安穏として対処できる陳腐なルーティンか、
トップがきちんとした役割を果たしておらず、プロジェクトが壊滅的失敗に向かってまっしぐらに進んでいるか、
のいずれかです。

なお、トップは、1人です。

トップが何人もいたら、
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
とのトップの本質的役割があいまいになりますし、軍隊であれ暴力団であれ、リスクの高い不確実性の大きい課題に挑む組織は、トップは必ず1人となっています。

トップが複数の組織は、見解の相違で組織がまとまらずにあっという間に全滅するか、想定外に直面したら内部分裂で組織が自滅するか、のいずれかです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00893_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える1:チーム理念

「正解も定石も不明なプロジェクト」
を推進するためには、陳腐な常識にとらわれず、かといって、野蛮で無謀にも陥らず、本当の意味での知性と冒険心とタフなメンタルが必要です。

まず、チームを統合するための理念や哲学、という点においては、気持ちや感情や情熱だけでは不十分です。

むしろ、気持ちや感情や情熱が過多となると、知性を減退させ、感受性を鈍らせ、思考の柔軟性や、経験の開放性や、新規探索性を低下させかねません。

その意味で、大事なのは、
「ロマン」
より
「ソロバンとサイエンス」
です。

すなわち、チームをドライブするのは、
ソロバン=経済的動機によるエンジン(カネと欲と競争により物事を前に進める経済システム)と、
サイエンス=論理と合理性を前提に、メンバーの士気を秩序立て、組織を有機的に結合し、集団のメリットを活かすための管理という制御機構(可視化と測定を前提とする科学と合理性)
です。

ソロバンというか、ゲーム・ロジックは絶対必要です。

人間の欲望にきちんと向き合って、これを合理的に制度化・システム化して、組織運営原理に取り込むことをしないと、大義名分やキレイごとや建前だけでは、組織は維持できません。

また、勘や経験や常識やインスピレーションではなく、サイエンスによる組織運営も重要であり、必要です。

前提が
「正解も定石も不明なプロジェクト」
ですから、経験も常識は通用しませんし、出鱈目、適当に勘や霊感でやっても無理です。

効率的な試行錯誤を繰り返し、より正解に近い最善解・現実解、あるいは一番マシな不正解を探り当てる、という営みです。

最もベターな選択肢にたどり着くためには、論理的・合理的・サイエンティフィックに試行錯誤や消去法を試みるほかないのです。

「このような理念ないし哲学を理解し、その価値を共有できる」
という、一定の知性や教養を前提とする倫理観をもつことがチーム構成員に求められます。

戦前の大本営には、ソロバンやサイエンスが欠落してロマンしかなく、気持ちや感情や情熱が過多となって、思考の柔軟性も、経験の開放性も、新規探索性もありませんでした。

「勝ちたい」
「負けたくない」
というエンジンはあったものの、
「競争を秩序立て、組織を有機的に結合し、集団のメリットを活かすための管理という制御機構(可視化と測定を前提とする科学と合理性)」
というハンドルやギアやブレーキといった類のものは、
絶望的に不足(あるいは欠如)していました。

大本営で働いてた方々は、皆、受験偏差値は高く、相応に有能でしたし、中には、知性と教養と思考力と冷静さを持った方もいたのでしょうが、結局、チーム全体の理念や哲学として、
「正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム」
としては不向きであったため、壊滅的な惨敗をしでかしました。

企業においてよくみられるのは、情熱過多・知性貧弱なオーナー経営者がチームのトップとなると、
ソロバンが欠落してロマンしかなく、気持ちや感情や情熱が過多となって、思考の柔軟性も、経験の開放性も、新規探索性が欠如し、
「勝ちたい」
「負けたくない」
というエンジンはあったものの、
「競争を秩序立て、組織を有機的に結合し、集団のメリットを活かすための管理という制御機構(可視化と測定を前提とする科学と合理性)」
というハンドルやギアやブレーキもなく、
ルールや相場観もわからず、闇雲な独り相撲をした挙げ句、自滅する、という例です。

正解がわかっていて、定石も確立していて、試行錯誤の余地もまく、ゲーム・チェンジも不要なルーティンを遂行するなら、この種の
「非知的な山賊集団」
も有効です。

ですが、正解がなく、定石も不明で、想定外の連続で、試行錯誤が必須で、ゲーム・チェンジが何度もある、というタイプのプロジェクトには、前記のような理念により結集された知的なチームが必須となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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