00915_企業法務ケーススタディ(No.0236):外国公務員への贈賄

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年6月号(5月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八の巻(第8回)「外国公務員への贈賄」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
東京地方検察庁(「東京地検」)

外国公務員への贈賄
当社のフィリピンの現地法人が、病院建設工事受注をめぐり政府高官に贈賄したとの疑いで、東京地検から事情聴取を求められました。
「不正競争防止法で外国公務員への贈賄も犯罪と扱われており、発覚したらほぼ例外なく裁判になるようです」
と慌てふためく執高部長に対し、脇甘社長は、
「医療過疎地域の病院建設は公益的な事業で、儲けはほとんどなくボランティアみたいなもの。
法人格が違えば、関係ないだろうし、付届け先は政府ではなく、税金を使っている民間会社で、問題になどなるはずはない 」
と、いいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:海外での贈賄行為が処罰されなかった時代
日本国内においては贈収賄は厳しく処罰されますが、海外での贈賄は日本で裁かれることはありません。
無論、当該進出国の贈収賄罪に抵触することはありますが、国によっては、実体法規の定めとは別に、汚職が行われても誰も問題にしないところも数多くありますし、捜査当局あるいは司法当局自体が賄賂で動く国すらあります。
そういうわけで、日本企業が海外において外国政府発注事業を獲得・推進するにあたって、政府高官に対する贈賄というものが多かれ少なかれ行われていたようです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不正競争防止法による規制
1997年にOECDにより、
「外国公務員贈賄防止条約」
が締結され、海外の贈賄行為は本国でも違法とし、処罰等の措置を導入することが合意されました。
これを受け、日本でも、1998年に
「不正競争防止法」
が改正され(施行は1999年2月)、同法18条において、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して、営業上の不正の利益を得るための贈賄が禁止されました。
違反した場合、贈賄行為者には5年以下の懲役または500万円以下の罰金が(同法21条)、また企業自体についても3億円以下の罰金刑が課されるようになりました(同法22条、両罰規定)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:外国公務員等贈賄罪の構成要件
贈賄の相手は、外国公務員に限らず、政府関係機関や外国政府が出資した公的企業等も含まれます。
贈賄における要件は、儲かるかどうかは関係なく、また、営利を直接目的とするかどうかも関係ありません。
賄賂の内容は、カネや物品だけでなく、食事やゴルフも含まれます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:現地法人やコンサルタント等を用いた贈賄行為もアウト
法人格が異なる海外現地法人が賄賂の費用をすべて支出している場合は、無関係とも思われますが、不正競争防止法に定める罰則規定には、刑法総則が適用されますので、外国公務員への贈賄行為の成否を検討する場合、同法60条~65条までの共同正犯(共謀共同正犯を含む)、教唆、ほう助等も視野に入れなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:外国公務員等贈賄罪を意識したコンプライアンス体制の構築
外国公務員等贈賄罪については非常に厳しいルールが存在し、また、実際、三井物産ODA利益供与事件(2002年に発覚し、立件は見送られたが、当時の社長及び会長が引責辞任)、電気工事大手の九電工の子会社によるフィリピン政府高官への利益供与事件(2007年に社員2人に有罪判決)、大手コンサルタントPCIによるベトナムホーチミン市公務員への贈賄事件(2009年1月に元幹部ない懲役2年の有罪判決)など、厳しい刑事責任、社会的責任を問われます。
経済産業省がまとめた外国公務員贈賄防止指針(注)が公表されており、コンプライアンス体制構築上、非常に参考になります。

助言のポイント
1.途上国の贈賄が許されたのは過去の話。現在では、厳しい処罰の対象になる。
2.見つからないと思ったら大間違い。税務調査が入って、支出経費が調べられると、簡単に露見することになる。最悪、所得隠しの追徴課税、両罰規定による罰金刑、信用失墜・社会的制裁のトリプルパンチが待っている。
3.「現地法人がやったから知らない」「社会的儀礼の範囲だ」「進出国では問題になっていない」という弁解は一切通用しない。
4.金融の利益、保証提供、親族の役員就任といった「巧妙な方法」もすべてアウト。「価格と品質による競争」以外の競争は基本的にNGと考えよう。
5.現地法人や営業現場に暴走させないためにも、経済産業省公表指針を使って、きっちりとしたコンプライアンス体制を作り上げよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00914_企業法務ケーススタディ(No.0235):公正取引委員会による独占禁止法違反審査

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年5月号(4月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七の巻(第7回)「 公正取引委員会による独占禁止法違反審査」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
公正取引委員会(「公取委」)

公正取引委員会による独占禁止法違反審査:
当社が価格カルテルをしたとのことで独占禁止法違反の疑いがかけられ、公取委が来ることに。
どうやら当社の営業担当者が、同業他社の営業担当者らと3か月に1回程度の割合で会合を行い、四半期ごとの自社製品の値上げ率についての情報を交換していたらしいです。
このままでは、莫大な課徴金をかけられてしまうでしょうし、調査が入ったとマスコミに騒がれたら、当社の信用はガタ落ちになりましょう。
まずは、当社社長が公取委に謝りに行こうと考えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公正取引委員会
独占禁止法は、企業による私的独占、談合やカルテル、不公正な取引方法等を禁止し、公正かつ自由な市場競争の促進を図る法律です。
所管官庁である公取委は、企業によるそれらの各種独禁法違反行為を調査・摘発するための強大な権限を有しています。
一般消費者や他の企業からの申告等により違反を検知した公取委は、関係情報の収集を行い、その結果、違反に向けた本格的調査の必要性があると判断した場合、審査官を指定して事件の
「審査」
を開始します。
その結果、処分が必要と認める場合は、
「排除措置命令」(独禁法7条。独占禁止法違反の行為を排除するために必要な措置が命じられること)
「課徴金納付命令」(同法7条の2。私的独占やカルテルによる不当利得相当額以上の金銭の納付を命じられること)
といった違反に対する強力なペナルティ(行政処分)を課す権限を有します。
さらには、悪質な独禁法違反で行為に犯罪性が認められる場合、犯則調査の上、刑事告発する権限をも有しています。
このように、公取委は、独占禁止法違反問題に関して、警察と検察と裁判所とを掛け合わせたような、とてつもない権限を有するお役所といえるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:公正取引委員会の審査とは
公取委の審査は、刑事手続における
「捜査」
と同じく、独禁法違反を立証する証拠を収集するため、資料の収集や事情聴取等が行われることになります。
審査官による調査には、任意調査と強制調査があります。
任意調査は、対象企業の同意を得て行われる書類提出や事情聴取ですが、実際はかなり断りにくい雰囲気での強制的な要請がなされます。
いちいち同意を得るような方法では手ぬるい場合には、強制捜査、すなわち、
1.出頭命令(関価格協定の担当者の強制的取調べ)
2.提出命令(帳簿等の提出)
3.立ち入り検査(営業所に赴き、業務状況を調査)
といった警察・検察の捜査に似た強力な捜査権限が行使されることもあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:公取委の審査への対応
公取委による審査が開始された場合、自社の正当な言い分はきちんと提出しておくべきです。
審査が止まることはありませんが、審査手続を全体として適正かつ謙抑的に行わせることや、審査後の警告・注意・打切りによる早期かつ軽微に終了が期待できます。
公取委に対して有効な反論を行うためには、正確な事実関係の把握と正しい法的理解を前提にして、自社の正当な言い分や見解を、理論的かつ説得的に組み立てる必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:企業のなすべき対応
何よりもまず、主要な争点を特定し、正確な事実関係を把握することが不可欠です。
主要な争点の特定は最優先事項となります。
主要争点が判明したら、正確な事実関係を把握するため、社内の関係者を呼んで徹底した内部調査を行うことになります。
内部調査は、争点となるべき事実に即応した
「5W1H」
の形で質疑応答を重ねることにより進めていくのが効果的です。
調査開始にあたっては事前にトップのお墨付き(Authorization)を得ておく必要が生じます。
そして、公取委の審査官から出頭要請を受けた担当者には
「自分が供述したことと違った内容の供述録取書に対しては、絶対に署名を拒否し、いったんその場から帰る旨をはっきりと述べること」
等、取調べに対する適切な対応策を、事前にブリーフィングしておく必要もあります。
さらに、取調べを受け終わった従業員には、その日のうちに供述録取書の内容を再現させるべきです。
公取委の審査の方向性や事案や争点の全容の解明のためにも、また、どのような証拠が審査官の手元にあるかを把握しておくためにも、供述録取書の速やかな再現は、必須の作業となります。
こうした手続を経て審査が終了すると、公取委は、審査を打ち切ったり(不問に付す場合)、注意・警告等の是正指導で終了するほか、排除措置命令や課徴金納付命令の発令のための事前手続に移行する場合があります。
事前手続とは、排除措置命令及び課徴金納付命令を行うにあたって、独禁法違反行為をしたとされる企業に、事前に与えられる意見申述等の機会をいいます。
一方、すでに発令された排除措置命令や課徴金納付命令について、事後に争う機会として与えられる手続が
「審判手続」
です。
なお、事前手続を経て発令された排除措置命令等を争うことなく受け入れれば、審判手続に進むことなく当該命令は確定し、企業は、この命令に従わなくてはなりません。

助言のポイント
1.公取委の審査がはじまっても、一切の反論が許されないわけではない。自社の正当な言い分は、きちんと主張すること。
2.後の手続における意見申述や証拠提出の機会を待つのではなく、審査の段階から早期に自社の言い分を強くアピールすることが肝要。
3.正当な言い分を主張して防御を行うためには、主要争点の特定が何より先決。攻撃対象を明確にするのは、防御戦にとって最重要課題。
4.主要争点が特定できたら、徹底した内部調査で事実関係を把握し、具体的な防御方法を固めるとよい。争訟事案処理に長けた弁護士を活用して、不当な認定がされることのないよう粘り強く対応すること。
5.審査官の取調べを受ける従業員については、事前に対応等についてのブリーフィングを行うこと。また、取り調べがあった後は、その日のうちに供述録取書の内容を再現させて、争点把握に努めること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00913_法務担当者や顧問弁護士の固有情報資源

法務担当者であれ、顧問弁護士であれ、専門部署担当者ないし専門家ですから、そのパワーベースは、知識や情報です。

両者いずれも、
・法律知識
・ビジネス知識
が活動基盤あるいは付加価値源泉となります。

ただ、法律知識といっても、理論上の知識と、実務知識の2つが存在します。

また、ビジネス知識についても、一般的なビジネス知識と、特定企業や特定業界固有の実務知識の2つが存在します。

法務担当者も、顧問弁護士も、ともすれば法律知識に偏りがちですが、武器となり、自らの価値を高めるのは、ビジネス知識、それも、一般的ではない、特定企業や特定業界固有の実務知識です。

そして、紛争予防や紛争対応においては、この
「一般的ではない、特定企業や特定業界固有の実務知識」
を、平易化・単純化・透明化・言語化・文書化・フォーマル化することが必須課題となります。

その意味では、
「一般的ではない、特定企業や特定業界固有の実務知識」
を理解するのは当然として、コトバのプロないし文書のプロとして、表現するところまで求められますし、この巧拙が、そのまま仕事の出来不出来に関わってくるものと思います。

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00912_企業法務ケーススタディ(No.0234):合弁契約

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年4月号(3月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六の巻(第6回)「合弁契約」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
合弁パートナー:ハイエナジーコーポレーション(「ハイエナ社」)
合弁会社:ネット動画配信事業会社のユナイテッド・ルーセント・インターナショナル社(「ユルイ社」)
株式譲渡先:ダボス・ハイテック・ゼネラル・コーポレーション(「ダボハゼ社」)

合弁契約:
当社がハイエナ社と合弁で立ち上げたユルイ社を、ハイエナ社はダボハゼ社に売り飛ばしました。
ハイエナ社との合弁契約にはユルイ社の株式譲渡制限はつけていたものの、 パートナーの了解ない株式譲渡を禁じる条項が、巧妙に抜かれていたことに気づかず、結果、ユルイ社の取締役会で、ダボハゼ社への株式譲渡承認が押し切られる形で決議されてしまったのです。
そして、取締役全員の任期切れを前にして、ダボハゼ社から、
「51%の株式を譲り受けたので、今後は、取締役員は全てこちらが選任したい」
という申し入れがきたというわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:合弁事業
合弁事業(“Joint Venture”略して「ジョイベン」などと呼ばれる)とは、2社以上の会社が共同で経営資源を持ち寄り、1つの事業を立ち上げることをいいます。
企業が合弁事業を行うにはいくつか理由がありますが、その大きな1つとしては、リスクの分散が挙げられます。
特に、規模が大きく新しい事業を立ち上げようとする場合や、自分の不得手な事業分野・土地勘のない分野で勝負する場合や、進出事業分野に適合した経営資源が自分の手元になく新たに調達しなければならない場合は、事業の成功の確度を上げる算段のもと、リスクを分散して、共同事業をやろうというわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:合弁会社・合弁契約
一般的に用いられる合弁事業の運営主体は、株式会社です。
合弁事業を行う会社(パートナー企業)それぞれが、合意した割合での出資を行うことによって新たな株式会社(合弁会社)を設立し、出資者の間で出資比率や企業運営の具体的方法(どの会社が何人の役員を送り込むか)等を取り決め、
「合弁契約」
として書面化して、事業を開始します。
合弁契約においては、事業の赤字が続いた場合や、出資企業が脱退したくなった場合の処置や、企業運営において意見の対立が生じた場合の打開方法等、不愉快な事態をより多く想定し、その際の解決のルールをきちんと取り決めておくことが重要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:マイノリティーシェアで投資する企業は契約で自衛すべし
一般論としては
「合弁契約が曖昧なものではダメ」
といえますが、マジョリティーシェア(51%超の株式割合)を有するパートナーは、合弁契約が雑な内容であることを気に病む必要はありません。
逆にいえば、少数派株主側としては、合弁をはじめる前に、
「株式を無断で譲渡することの禁止」
「株式を譲渡する場合における先買権(First Refusal Right)」
「違反の場合のペナルティ」
等といった措置を、合弁契約においてきっちりと定めるべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:合弁で失敗しないための知恵
合弁事業体の組織形態の選択からよく検討すべきです。
組合形態であれば、組合持ち分の譲渡は他の組合員の同意なしに行うことは困難ですし、単純な多数決原理ではなく、十分な議論を経た合意形成が重んじられます。
合同会社であれば、出資者は株式会社同様、有限責任しか負いませんが、法人統治は組合のような閉鎖的規律で運営されますし、また、出資者の交替には全出資者の了解を要し、加えて、合同会社の業務執行権は原則として全出資者が有します。
株式会社を選択する場合でも、まずはマジョリティーシェアを要求すべきですし、それを取れない場合は、合弁契約で自らの権益を具体化し、マジョリティーシェアを掌握したパートナー企業の横暴を許さないようにしておくべきですし、さらに、合弁会社が自らの関与なしでは身動きできないようにする方法を考えるべきです。

助言のポイント
1.合弁事業においては、たとえ「成功を夢見て仲良く一緒にやっていこうというときに、水を差すような無粋なことをするな」といわれても、きちんとしたリスクシナリオを想定して、契約内容に盛り込んでおくこと。
2.合弁契約には「株式を無断で譲渡することの禁止」「株式を譲渡する場合における先買権」「違反の場合のペナルティ」等不愉快な状況を見越した内容とすること。
3.合弁事業体において組織形態を選択する際、株式会社にこだわらず、組合や合同会社も検討してみる 。
4.合弁事業体として株式会社を設立する場合、必ずマジョリティーシェアをとっておく 。仮に、マイノリティーシェアしか保有できないまま、後日トラブルになった場合、圧倒的に不利な立場になることを想定して、シビアな契約内容にしておくことは必須。
5.「商流の管理」「商標権の保全」といった合弁契約外で合弁会社を縛り上げて、間接的に合弁事業を支配する方法も検討する。

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00911_カウンセリング(法務相談・法律相談)から課題発見・特定、法務プロジェクト化(事件・事案受任)までのプロセス1:初期ヒヤリング

企業の法務担当者が、取引やプロジェクトや事件・事案の関係者たる担当部署(原局・原課・主管部署)相談を申し込まれた場合を想定します。

相談を実施する者が企業の法務担当者である場合(法務相談)もあれば、外部の弁護士(顧問弁護士等)の場合(法律相談)も含みます。

法務カウンセリングを行うに際しては、まず、相談者(企業の原局等)が直面している状況を聴取し、概要レベルで把握します。

ざっくり言えば、
「どんなことを目論んでいて、あるいはどんなことをやらかしてしまい、どんな問題にぶちあたり、何に悩み、何を困っているのか」
さらには、
「(何が問題かすらわからないが)何に不安を感じ、何におびえ、どのような予兆をみてビビっているのか」
といった(割と低劣でドン臭い)類の経緯と直面状況についてです。

この際、状況の概要をメモとして作成して事前送付してもらうような段取りが推奨されます。

また、企業が意図ないし実践するビジネスモデルを端的に記述した資料(場合によっては商品の現物やサービスカタログ)等も持参させることも、直面している状況をより具体的かつ鮮明に理解するために必要です。

この際、相談者には、ジャーゴン(符牒や専門用語)を用いず、
「プレイン・ランゲージ(日常の平易な言語)」
で語らせることが重要です。

生業としてのビジネス(稼業レベル)は、所詮、
「金儲け」
であり、シンプル化すると、

・安く仕入れて高く売る、
・安く作って高く売る、
・奉仕をして手間賃をもらう、

のいずれかに収斂するはずです。

事業としてのビジネス(組織ぐるみで行う企業活動)としては、
・カネを増やす
・支出を減らす
・時間を節約する
・労力を節約する
・ビジネスの活動や成果を数字や文字を使ってミエル化・カタチ化・フォーマル化する
・安全保障活動
のいずれかに整理されます。

ときどき、相談者にビジネスを説明してもらったら、私が聞いても理解できないようなビジネスのメカニズムを話される相談者がいます(嫌味に聞こえるかもしれませんが、状況理解の容易化のため慎ましやかな性格をかなぐり捨てて述べますと、聞いている私本人は「東大卒弁護士」です)。

「東大卒弁護士の国語読解力」
で話を聞けば、宇宙の成り立ちとか量子力学とかのレベルでない限り、たいていのことは理解できます。

ましてや、たかがビジネス、たかが金儲けの話です。

「東大卒弁護士の国語読解力」
をもってしても
「まるきり理解できない」
という事態が生じる蓋然性はほぼ皆無です。

「相談者にビジネスを説明してもらったら、私が聞いても理解できないようなビジネスのメカニズムを話する」
という場合、聞き手の理解力が問題というより、
・相談者が混乱しているか、
・相談者は受け売りしているだけで、実は相談者自身が何をやっているかさっぱり理解できていないか、
・相談者の行っているビジネスや営み自体が構造的に欠陥を孕んでいて、無意味あるいは不効率、無駄で有害で愚劣なものであるため、自分の営みを説明しようとしても、理性的な頭脳と知性では理解できないハチャメチャなものになってしまっている、
・相談者の行っているビジネスや営み自体に詐欺性や欺瞞性があるなど、大きな声では言えない、聞こえが悪い、グレーでダーティーな要素があり、これを、体面・メンツ・沽券を維持しようと、法務担当者や弁護士にまで、カッコつけたり、姑息に糊塗隠蔽しようとしたり、美辞麗句で煙に巻こうとしているため、全体として何を言っているかわからない話になる、
といった事情が原因の大半です。

相談を実施する者が、法務担当者であれ、弁護士であれ、一般に法律を専門的に取り扱う人間は、平均的日本人に比べて、日本語に長け、世事に長けています。

したがって、
「相談を実施する者がまともな読解力を以て注意深く聞いても理解できない、というケースは、聞き手の問題というより、話し手が混乱している、あるいは説明力が壊滅的に低劣」
という高度の蓋然性があるものと考え、話し手を落ち着かせ、頭と話を整理して説明させるべきです。

なお、企業人一般(あるいは日本人一般)は話力や整理力が圧倒的に未熟あるいは幼稚であり、
「企業外部の人間や、業界以外の人間に、簡潔かつ理論的に、自社の活動や自分の置かれた状況を説明する」
というシンプルなタスクが、超弩級に下手くそです。

このことは、上場企業の社長のほとんどが、株主総会の議長として一般株主に説明することを嫌悪し、忌避するメンタリティをみても明らかです。

企業のトップがこの体たらくですから、その下に連なるその他大勢の方々のレベルは推して知るべし、です。

いずれにせよ、
「状況を端的に語らせ、これを法務担当者ないし弁護士として、概要レベルで理解把握する」
という初歩の初歩でも、主に相談者のスキルや不慣れのせいで、相当な時間を要する場合があることに注意すべきです。

なお、企業法務部を設置したり、顧問弁護士を配置すると、この
「相談する側が、どんな商売をやっていて、どういうことを目論んでいて、どんな状況にあるか」
ということを日常的・恒常的に状況共有し、コミュニケーションのコストとスピードと効率性の面で劇的に改善することになります。

すでに内容証明郵便による警告書や通知書や反論書が飛び交い、紛争になっているケースにおいては、クライアントの整理されておらず、まとまりがない話を聞くより、通知書等を見たほうが手っ取り早い場合があります。

主に弁護士としては、セカンドオピニオンを求める依頼者に相談を実施することがありますが、その場合、前任弁護士の文書成果物(各種手続書類や報告書等)をみた方が、早く状況把握にたどり着けます。

相談者に寄り添う、
話を聞いてあげる、
愚痴や悩みを聞いてあげる、
気持ちを理解してあげる、
ということは、相談者の精神的安定にとってはプラスですが、貴重で有限な資源である時間の効率的運用という点では、大きなマイナスになりかねません。

相談者の精神的安定についてはセラピスト他その筋の専門家に委ねるとして、事態解決の専門家たる法務担当者や弁護士としては、簡潔かつ理論的に話を整理していくことに注力するべきであり、結局、その方が、却って相談者にとってのメリットにつながると考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00910_企業法務トレンド今昔(前世紀と今世紀)4:現代の産業社会が求める企業法務の姿

21世紀に入ると、企業の法務ニーズが急激に増加しました。

しかし、現代の企業が欲する企業法務は、もはや
「裁判実務に限定した紛争法務(臨床法務あるいは治療法務)を中心とした従来型法務」
とは異質のものとなります。

すなわち、現代の企業が求める企業法務とは、ビジネスの展開スピードに合致し、合理的・合目的的で、洗練され、ビジネスゴールの多様性に柔軟に対応した高度かつ緻密なものなのです。

1 熾烈な市場競争における優位性の確立とビジネスの安全性の向上を調和させることをゴールとして、異分野の知的専門家との創造的な協働作業の中で、企業活動の法的適正を最終的に担保する活動

2 具体的には、経営陣によるビジネスジャッジメント(経営判断)があり、財務責任者や会計士・税理士による会計(税務)判断があり、企業法務スタッフやビジネス弁護士が、これらの判断を前提に、法的リスクをふまえつつ、創造性を駆使し、ビジネススピードに遅れることなく、契約の修正や枠組みの変更を瞬時に実施していく活動

これらが現代において求められる企業法務の姿です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00909_企業法務トレンド今昔(前世紀と今世紀)3:法務武装した外資系企業やベンチャー企業の席捲

21世紀に入ると、
「外資系企業」
「ベンチャー企業」
といった新興勢力が産業界を席捲します。

これらの企業は、それまで
「阿咋」の呼吸
で黙示に形成されてきた不文の慣行をことごとく無視します。

欧米の契約文化を徹底するとともに、
「法律や契約に書かれざることについては、すべて企業の自由である」
というアグレッシブな法感覚を当然のように有し、有能で緻密な弁護士を大量に雇い入れ、法務対応が不十分で諸事モタモタしている伝統的企業をどんどん出し抜いていきました。

タフでクレバーな外資系企業による巧みな買収劇や敵対的TOBにおけるベンチャー企業の熾烈な法務対応を通じて、日本の産業界は
「法務力の格差が企業としての優劣や生き残りに影響する」
という事実をまざまざと見せつけられたのでした。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00908_企業法務トレンド今昔(前世紀と今世紀)2:不祥事予防のために企業が取る行動・対策の変化

企業不祥事の質や傾向における急変状況に合わせて、企業の不祥事予防のための行動も2000年を境に劇的な変化を遂げていきます。

1990年代における、企業の採るべきリスク予防活動といえば、弁護士に話を聞く前に役所や政治家、業界の顔役に相談することが主流でした。

すなわち、当時、
「護送船団方式」

「奉加帳方式」
などに代表されるように、絶大な権限を有する行政機関(霞ヶ関の中央官庁)が企業の守護者として君臨し、様々な事前規制手段を用いながら、業界全体を保護していくという産業規律手法が採られていました。

この実態は、当時の大蔵省が
「銀行は絶対潰さない」
と豪語していたことをみれば明らかです。

要するに銀行の生殺与奪を大蔵省(現:財務省・金融庁)が握っていたのです。

しかし、1990年代の終わりから2000年代にかけて、規制緩和の波が押し寄せて、
「行政による事前規制」
が姿を消し、
「司法による事後監視」
が産業規律の主役となっていきました。

前述のように企業不祥事が質的に変化し、不祥事予防や有事対応を間違えると企業の存続に影響しかねない事態に発展することが認識されるようになるとともに、規制緩和により
「行政機関主導の不祥事予防・有事対応」
が姿を消し、企業は、自らのコストで法律の専門家を雇い、自らの責任で不祥事を予防し、自らの判断で有事に向き合うことが求められるようになってきました。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00907_企業法務トレンド今昔(前世紀と今世紀)1:前世紀と今世紀にかけて起きた、「企業不祥事トレンド」の大転換

1 前世紀における企業不祥事

前世紀、といっても1990年代の話ですが、その当時、今では企業経営者の間で盛んに話題にされる
「企業法務」

「法令遵守」
といったテーマは、さほど重要視されていませんでした。

では、この時代に企業不祥事がなかったか、といえばそうではありません。

この当時も、総会屋に対する利益供与や入札談合、さらには証券会社の損失補填や金融機関による損失飛ばしや損失隠し等、今と同じく企業不祥事の話題が連日新聞紙上を賑わせていました。

ところが、21世紀に入ると、企業不祥事は、質や傾向の点において大きな変化を遂げます。

2 「シェアホルダーズ(株主・投資家)に対する背信」から「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)に対する背信」ヘ

1990年代(前世紀)の企業不祥事といえば、総会屋に対する利益供与等
「シェアホルダーズ(株主・投資家)を裏切るタイプ」
のものでしたが、21世紀に入ると、
「食品表示偽装」
「リコール隠し」
「耐震強度偽装」等
消費者や取引先や社会といった企業に関わる利害関係者すべて(ステークホルダーズ)を裏切るタイプの企業不祥事が増えるようになりました。

1990年代(前世紀)においては、企業が倒産するといえば財務上の破綻が主たる原因でした。

総会屋に対する利益供与や談合等の不祥事といっても、ステークホルダーズの一部でしかないシェアホルダーズヘの影響(それも間接的な影響)に限定されており、
「企業不祥事“のみ”が原因で、企業が倒産する」
ということはまずありませんでした。

ところが、21世紀に入ると、前述のとおり、企業不祥事の種類が製品や商品の偽装等ステークホルダーズすべてを裏切るものが多くなったためか、不祥事は直接収益の悪化につながり、企業不祥事が原因で企業が倒産したり廃業したりする例が増加してきたのです。

3 不祥事インパクト

では、
「シェアホルダーズ(株主・投資家)に対する背信」型不祥事

「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)に対する背信」型不祥事
とでは、どちらが 企業の経営ないし存続に与えるインパクトは大きいでしょうか。

これは、明らかに、
「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)に対する背信」型不祥事
のインパクトの方が大きいです。

すなわち、株主総会でインチキした、総会屋にカネを渡した、といった
「シェアホルダーズ(株主・投資家)に対する背信」型不祥事
は、事件としては大きく取り沙汰されるかもしれませんが、実際に影響を受けるのは、自己責任で投資した株主くらいで、財務的に痛むのも、貸借対照表の左下の資本の部が少し痛む程度です。

他方で、例えば、
「食品表示偽装」
「リコール隠し」
「耐震強度偽装」
「品質検査不正」
といった、
顧客を筆頭とする
「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)」
に対する背信となるような不祥事が起きた場合、いきなり誰も買わなくなります。

そして、売上が極度に落ちます。

損益計算書のトップラインが劇的に落ちますので、大きな損失が発生し、企業の内部留保を凄まじい勢いで食いつぶし、企業は一気に傾きます。

このように、今世紀と前世紀の不祥事のトレンドの変化は、不祥事の重篤性や重大性の変化を意味するのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00906_企業法務ケーススタディ(No.0233):チザイ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年3月号(2月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五の巻(第5回)「チザイ」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
銚子鯉田(チョウシコイタ)水産
大手食品メーカー 株式会社ガタキチ

チザイ:
当社は、チョウシコイタ水産から2億円で購入した特許権で、数社にライセンスし、ロイヤルティを得ています。
最近、ガタキチ社が類似製品を販売し始めたため、内容証明郵便で特許権侵害を警告しました。
ところが、相手はいうことをきくどころか、逆に脅してくる始末です。
弁理士に相談すると、
「この特許はありきたりの技術なので、訴訟したら特許権を失う可能性がある」
といわれました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「チザイ」バブル
知的財産権、通称
「チザイ」
は、2002年に知的財産基本法なる法律が制定され(施行は2003年)、産業界において脚光を浴びるようになりました。
しかし、その内容はあまりにも複雑で、各権利の法的位置づけや体系を整理して正確に理解している人はほんの一握り、というのが実情で、ビジネス界の事故多発地帯となっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:チザイの実体
社会の発展や産業の振興はマネやパクリに依存して展開していくことが多く、かつての日本の産業も、外国のオリジナリティ溢れる技術や製品を巧みに模倣、改良することで発展を遂げてきました。
知的財産権に関する各法も、マネ・パクリ・模倣を原則自由とした上で
「厳格な要件を充足した、保護に値するような知的成果やユニークな標識」
に限定し保護するものとしています。
しかしながら、
「厳格な要件」
は、クリアするのが非常に厄介な代物です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:特許が成立してからであっても安心できない
特許要件が1つでも欠ければ、特許を快く思わないライバル企業が無効審判を申し立ててきますし、特許権が侵害されたからといって、差止や損害賠償請求を仕掛けると、特許がつぶされる危険が生じます。
裁判例では、1998年、冷凍の塩味茹枝豆に関する特許を取得した日本水産(ニッスイ)は、ニチロ、ニチレイ、マルハなどに特許使用料を要求する交渉を開始しましたが、各社はこれに猛反発。
2002年2月にニチロが特許庁にニッスイの特許の無効審判請求をしたことから、ニッスイ側は、この対抗措置として、自社の特許権を侵害したとしてニチロの冷凍塩味茹枝豆の販売差止などを求めて東京地裁に提訴しました。
結果、東京地裁は
「ニッスイの特許技術に進歩性はない」
と判断し、ニッスイ側の完全敗訴となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「なんちゃって特許」を振りかざした訴訟提起は慎重に
特許権があるからといっても、強気に訴訟提起したら、無効審判請求の申立てや、特許法104条の3の抗弁(キルビー抗弁)が出され、徹底的に調べ上げられ、たちまち無効とさせられる危険が生じます。
裁判で負けたら、相手の販売差止に失敗するだけではなく、今度はライセンスしている会社からも
「ロイヤルティを全部返せ」
といわれる可能性もあります。

助言のポイント
1.「チザイ」「チザイ」とよく騒がれているが、その実体は、弁護士も避けて通るほど難しいい。知ったかぶりで「チザイ」を扱うと大怪我をする。
2.特許権や特許を受ける権利の売買話には要注意。特に「特許を受ける権利」などという代物は、買ったところでビジネス上意味がないことがある。
3.特許が成立したからといって安心するのは早計。無効審判や、キルビー抗弁(特許法104条の3)によるカウンターパンチと、後から攻撃されて向こうにされてしまうことに注意が必要。
4.有効性に疑問のある「なんちゃって特許」を振り回して、差止や損害賠償をすると、特許無効の抗弁を提出されて、特許の死期を早める結果になりかねない。訴訟提起には慎重な検討が必要。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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