00782_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する13:裁判所における事件処理の実体(11)裁判官の頭脳の中の「常識」

「裁判官の頭脳の中に存在する特殊な常識や考え方」
がひどいとか、矯正が必要とか、という話はあるでしょう。

実際、そういう話は、主に敗訴した側の当事者や代理人弁護士からよく聞かれます。

しかし、前記思考ロジックは、不愉快であっても間違っているとまでは言えませんし、ましてや、ゲームの勝敗を決定する権限を有するジャッジの思考なり哲学を非難したところでゲームに勝てるわけではありません。

これは、例えば将棋で桂馬を前に動かしたり、銀を横に動かしたりするとゲームが成立しないように、負けそうになったからといってルールの不当性を訴えても仕方がないのと同じです。

「郷に入っては、郷にしたがえ」
「裁判所では裁判官にしたがえ」
です。

訴訟弁護士ないし当事者にとって、前記のような裁判官の思考ロジックはゲームを展開する上での所与条件であり、ゲームを戦う上では
「裁判の思考ロジックをふまえて最適な行動をする」
という選択しか残されていないのです。

保佐や後見の処置をしていない認知に問題のあるおばあさんが1億円のリフォームを発注し、契約書が締結され、リフォームの工事が完成し代金が支払われたとします。この場合、社会常識からすると、当該発注はおばあさんの意志ではなく、明らかに業者の詐欺です。

ですが、裁判官を支配する合理的法律人仮説によると、
「人は、中味を読まずに契約書に署名押印するはずなどなく、契約書記載の条件すべてについて吟味し、不服があれば交渉の段階で異議を唱え、納得の上契約書を締結しているはず」などとして、おばあさんの代金は返還されない、という帰結になる可能性が極めて高い状況となります。

このリフォームの事例ですが、
「合理的法律人仮説」
からするとひどい展開になりそうですが、だからといって
「絶対おばあさんが負ける」
と決まったわけでもありません。

おばあさん側の弁護士は、業者の主張や裁判官の非常識な判断原理と戦っていく上で、ハンディキャップを負担していることを認識しなければなりませんし、デフォルトの設定において不利な状況を覆すよう、さまざまな主張や証拠を用い、また裁判官に
「こちらが認識した事実や妥当と考える解決ロジック」
を理解浸透してもらうよう、効果的な
「マーケティング」
をしなければならない、ということになるのです。

逆に、自分が劣悪な状況に置かれていることに頓着せず、
「これはひどいぞ!」
「おばあさんが可哀相だ!」
「これは社会的に問題だ!」
等とわめき散らして勝った気になっている弁護士(結構この手の方はいらっしゃいます)は、知能に相当問題がある、ということが言えそうです。

そして、このような特殊な嗜好を持つ裁判官のココロを動かすのが、裁判所という国家機関のユーザーである当事者や我々代理人弁護士の役割ということになるのです。

「裁判官はお客様」
「お客様は神様」
です。

そして、訴訟を遂行し、裁判官に自分の主張を認めてもらう上では、
「神様である裁判官への供え物」
を作るのと同じような配慮と慎重さの下、
「通常の状態ではまったく無味乾燥にみえてしまう『生の事実』を、素材の原型をとどめつつ、徹頭徹尾、一般人では到底理解し得ない域に達した裁判官の超特殊な嗜好に合った形で調理し、これを裁判官の顔を伺いながら、効果的にサーブすること」
が肝要となります。

簡単にポイントを申し上げますと、以上のような観点から、裁判所とのお付き合いにおいては

1 ルーズなことをしない。納期は絶対厳守する
2 裁判官に早めに事件の全体像を見せるように努め、仕事が効率的に処理できるよう協力する
3 提出文書は、自分が言いたいことを好きなように書きつらねるのではなく、徹底して裁判官の趣味・嗜好に合わせ、読んでいただける工夫をする、その具体的方法として、
(1)10頁の原則
(2)修飾語やレトリックは「法曹禁止用語」
(3)裁判所の業界内部ルールである「要件事実」を意識する
(4)相手のリアクションを見越した言い方で主張する
といった
「裁判所における推奨行動」
ともいうべきものが導かれます。

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00781_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する12:裁判所における事件処理の実体(10)裁判官の大好きな言葉は「自己責任」「因果応報」「自業自得」

保佐や後見の処置をしていない認知に問題のあるおばあさんが1億円のリフォームを発注し、契約書が締結され、リフォームの工事が完成し代金が支払われたとします。

この場合、社会常識からすると、当該発注はおばあさんの意志ではなく、明らかに業者の詐欺です。

ですが、裁判官を支配する合理的法律人仮説によると、
「人は、中味を読まずに契約書に署名押印するはずなどなく、契約書記載の条件すべてについて吟味し、不服があれば交渉の段階で異議を唱え、納得の上契約書を締結しているはず」

などとして、おばあさんの代金は返還されない、という帰結になる可能性が極めて高い状況となります(もちろんデフォルト設定としての状況であり、反証・応戦次第では、十分結論が変わることはあると思いますが、何もしなければ、おばあさんの敗訴濃厚となる状況がそのまま判決となる危険性があります)。

話の筋は一応通っているが、世間一般の感覚からすれば、
「血も涙もなく、あまりにも非常識で、噴飯ものの話」
です。

とはいえ、よくよく考えれば、おばあさんの側においても、そういう結果を招かないようにすることはできたはずです。

まず、おばあさんの家族としては、認知に問題のあるおばあさんと同居して世話してあげればよかったわけです。

また、認知症が疑われるなら、ちょっと時間とエネルギーとコストをかけて正当な手続を履践し、家庭裁判所から保佐なり後見なりの審判を得て取引能力を制限しておけばいい話です。

おばあさんもおばあさんです。

たとえ
「家族からは無視されているにもかかわらず、業者の若い営業マンが、長時間自分の話を親身になって聞いてくれた」
としても、
「それとリフォームは別問題」
とドライに割り切って、断ってしまえばよかったのです。

また、多少認知能力が弱っていたとはいえ、ハンコを押すことの重大性がわからない程に重篤な認知症でもない限り、いい年して
「契約書を読むのが面倒くさいので、適当にハンコを押した」
というリスキーな行為に及んだことに対するペナルティは相応に甘受すべきです。

要するに、いくらでも回避することができたにもかかわらず、自分の意志と責任において、アホな行動をしておきながら、あるいは手間をかけることや慎重に行動することを懈怠してトラブルをまき散らしておきながら、後から
「なんとかしてくれ」
というのは、虫がいいといえば虫がいい話です。

要するに、自己責任、因果応報、自業自得ということなのですが、裁判官はこの
「自己責任」
「因果応報」
「自業自得」
という言葉が大好きなのです。

そして、前述リフォームの事例を
「自己責任」
「因果応報」
「自業自得」
という観点からみれば、
「暗い勤勉さと陰湿な努力の下、契約書をきちんと徴求してそこに明記されている約束内容の履行を適正に求める業者」
との比較において、
「いい年をしたオッサン・オバハンが、いくらでも回避できたにもかかわらず、努力や手間を惜しんだが故にやらかしたチョンボを、後からピーピーわめいて、お上に助けを求める」
という行為は、いかにも下劣で無様に見えてしまうのです。

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00780_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する11:裁判所における事件処理の実体(9)合理的法律人仮説

裁判官としては、判決を下す上で必要かつ十分な情報と、
「その情報の合理性を基礎づける背景事情」
とを、早い段階で欲しています。

ところで、
「その情報の合理性を基礎づける背景事情」
における
「合理性」
というものですが、これは世間一般の皆さんが有する
「社会常識」

「道義」
といったものとは全く異なるものです。

社会常識とは完全に異なる、
「合理的法律人仮説(私が勝手に呼称しているものです)」
とでも称すべき合理性に関する特異な考え方が裁判官を支配していると思われます。

合理的法律人仮説とは、
「すべての人は、法的合理性と経済合理性にしたがって行動するはずである」
とする仮説で、経済学における合理的経済人仮説をもじったものです。

具体例を挙げて説明しましょう。

ここに、保佐や後見の処置をしていない認知に問題のあるおばあさんが1億円のリフォームを発注し、契約書が締結され、リフォームの工事が完成し代金が支払われたとします。

この場合、社会常識からすると、当該発注はおばあさんの意志ではなく、明らかに業者の詐欺です。

ですが、裁判官を支配する合理的法律人仮説によると、

・意思能力に問題や不安があれば保佐や後見の措置を取るのが普通であり、認知症のまま放置されることはおよそあり得ない
・保佐や後見の措置を取っていないおばあさんは、意思能力がないとは言えないのだから、取引の意思決定において完全性に欠けるところはないと思われる
・人は、不要なリフォームを発注するはずなどなく、発注するからには、相見積もりをするなど、慎重に業者を選定し、十全に価格交渉を行い、請負契約を締結するはずである
・人は、中味を読まずに契約書に署名押印するはずなどなく、契約書記載の条件すべてについて吟味し、不服があれば交渉の段階で異議を唱え、納得の上契約書を締結しているはずである
・契約書に基づき互いの義務が履行されているのに、後からそれがおかしいとかいうのは公平ではなく、そういう後出しジャンケンやわがままを認めると、取引社会が崩壊する

ということになってしまうのです。

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00779_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する10:裁判所における事件処理の実体(8)「お客様は神様」「裁判官こそがお客様」

弁護士にとって本件解決のキーマンは裁判所であり、裁判所という
「お客様」
をいかにこちら側に引き寄せるか、ということが活動のポイントになります。

優秀な弁護士であるほど、裁判とは
「裁判官を、ターゲット・カスタマーとして、『自己の事案認識』という商品を売り込むマーケティング活動である」
ことを知っています。

裁判所の好むロジックや文書を用いて、こちらが認識している事実と裁判所に認識してもらいたい事実のギャップをどのようにして埋めていくかを考える必要があります。

弁護士の中には、正義や人権を振り回したり、相手方の主張の些細な矛盾や破綻を長々とほじくりかえしてはそのことで鬼の首でも取ったかのようになっている方がいますが、裁判官とすればこのようなことはどうでもいい話であって、この種の本筋とは無関係な場外乱闘を聞かせるとウンザリすることとなるのです。

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00778_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する9:裁判所における事件処理の実体(7)裁判所の判断ロジック

以下、裁判所というお役所が好みそうな判断ロジック(「裁判官」という特異かつ希少なエリート固有の経験上の蓋然性を前提にした判断や推認の法則)をいくつか紹介してみます。

「ひねくれていて、人格的にも相当問題のあるとされる、畑中鐵丸という法曹界の異端児」
の特異な経験と主観に基づいて、
「『裁判官』という特異かつ希少なエリート固有の経験上の蓋然性を前提にした判断や推認の法則って、こうじゃないか」
と邪推した程度のものなので、正しい姿かどうかは知りませんが、參考にはなるかと思います。

1 書面による証拠がなければ事実とは認められない。争いになりそうな事実や重要な事実については、一般的に文書化するものだし、文書化されない事実は存在しない事実である。

2 法律や法的合理性にしたがった行動をした方を保護する。逆に法的合理性を無視して、社会常識にしたがった行動をした人間は保護しない。

3 性悪説に立って法的予防措置を取るため行動した人間は「法的に勤勉な人間」であり勝訴させるが、性善説に立って他人を万事信頼して何も紛争予防措置を取らなかった人間は「法的に怠惰な人間」であり敗訴させる。

4 法律に則った主張を簡潔に記した書面はきちんと読んで採用するが、心情に訴えるような主張や形容詞や副詞の多い書面は読まずにポイする。

5 尋問においてウソをつくのは当たり前。理路整然としたウソをついた方の話を真実と認める。あと、銀行員とか役人とかはウソをつくはずがないと考えられる。

6 できれば判決を書きたくない。和解で終わるのが一番いい。合理的な和解案を拒否するヤツはコノヤロ、あとで判決になったら覚えとけ、とか思ってしまう。

7 勝敗が微妙な事件の場合、負けても控訴しなさそうな方(訴訟費用とか出せないビンボーそうな方)を負けさせた方がいい。負けたらすぐに控訴しそうな勝気でお金をもっている方を敗訴させると控訴されてひっくり返され、出世に影響しかねないし。  

ま、6や7は
「畑中鐵丸が裁判官だったらこうするかもしれない」
という程度の与太話です。

私としても、ホントの裁判官がそこまで腐っているとは考えたくありません。

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00777_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する8:裁判所における事件処理の実体(6)裁判における「真の敵」とは裁判官なり

1 裁判における「真の敵」とは裁判官なり

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」
とは孫子の兵法でも有名な一節ですが、これは裁判対策にもあてはまります。

当然、裁判対策を練る上では、
「真の敵」
を知る必要があります。

ここで、通常、
「敵」
というと訴訟の相手方、すなわち裁判の相手方を真っ先に思い浮かべる方が多いと思いますが、裁判において
「敵」
として注意しなければならない存在はこれだけではありません。

裁判を進める上では、訴訟の相手方だけでなく、裁判所も
「『場合によっては自分に不利な方向で事件をさばく可能性がある』という文脈において敵である」
ということをしっかり認識しておかなければなりません。

こういう認識の下、漫然と裁判所を信頼することなく、その動きを注視し、手続の方向や心証の動きをきちんとみておくべきであり、そうしないと思わぬところで足をすくわれることにつながります。

すなわち、裁判というゲームにおいて、生殺与奪の鍵をもっている裁判所であり、しかも裁判所は
「憲法上、自由放埒で独善的な判断が保障されている」
という意味で、何をしでかすかわからず、訴訟の相手方以上に危険かつ厄介な存在であり、裁判においてもっともケアしなければならない存在なのです。

2 裁判所が自分にとって「敵」になる場合

かなり前の話になりますが、某大学教授とその教授がかつて所属していた企業との発明の対価をめぐる高裁での紛争がありましたが、報道によると、一審で200億円もの額が認められた職務発明対価が、控訴審で6億円あまりに減額され、強硬に和解を受諾させられた、ということでした。

和解直後、当該教授は記者会見において
「日本の司法は腐っている!」
などとかなり激しく怒っておられました。

この教授は、おそらく、
「裁判所が敵となる場合」
という状況を想像せず、
「自分たちの言い分を、常にきちんと聞いてくれる味方である」
という勝手で強固な思い込みをしておられたのであり、だからこそ
「裏切られた!」
という感情が強く出たのでしょう。

プロの訴訟弁護士からすれば、司法の判断が裁判所毎に変わったり、世間の常識とまったく逆の経験則でありえない事実を認定したり、明らかに条文の解釈や法的安定性を無視した判断を裁判所が平然とすることなど日常茶飯事です。

ですから、裁判所が常に正しい訴訟運営と事実認定をするとは限らず、むしろ逆の事態を発生しうるリスクとして頭に入れておくべきだったのです。 

「国政選挙における定数問題において、島根県や鳥取県の人たちは1人5票有し、東京都民には1人1票しかもてなくて、地域によって投票の価値が不平等で、『多数決』ではない『少数決』で政治運営されていても、民主主義や平等原則に反しない」
なんていう異常なことを平気でのたまう権力機関からすれば、発明の価値を200億から6億円程度に減じることなど
「たいしたこと」
のうちに入りません。

その意味では、例の大学教授は、こういう事情を弁護士からきちんと説明を受け、訴訟の帰趨に対する期待値を適切な水準にまで下げていれば、あのように取り乱すこともなかったと思われます。

裁判所や裁判官というと、今でこそ、なんとなく上品で紳士的なイメージがありますが、これまでみてきたとおり、法を解釈したり事実の存否を認定できる権力って、実はこの社会においてもっとも強大で危険なものです。

裁判所は違憲立法審査権という権力をもっていますが、これは、
「不透明な選任過程で選ばれた、見たことも聞いたこともない15人の地味な老人」
が、選挙で選んだ議員が侃々諤々の議論の末決めた法律や、民主的基盤を持ち営々と行ってきた行政府の行為を、
「独自の憲法観に合わない」
という理由だけで、吹っ飛ばせるパワーですから、十分ラディカルな権力といえます。

3 裁判では、まず「敵」を知ること

裁判を進める上で、訴訟の相手方も厄介なものですが、
「裁判所」
こそが最大のジョーカーになるということはすでに述べたとおりです。

「世間一般のイメージと実体が異なる」
というのは、世の中においてよくみられる現象ですが、これまで縷々述べてきたとおり、裁判所なり裁判官もその1つです。

裁判所というのは、常に真実を発見できる目をもった超能力集団ではなく、当然ながら、機能的限界が内在します。

行政機関とはやや違うとはいえ、裁判所も当然ながら、お役所という法運用機関には変わりありませんので、役所内部のルールに沿って言い分を申し述べないとまったく動いてくれませんし(このような裁判所というお役所に話すときに用いる特殊なルールないし体系を「要件事実論」なんて呼んだりします)、お役所が動きやすい環境を作るのは、お役所から何らかのアクションをもらう側としては当然の義務です。

役所に出向いて、プラカードやメガフォンをもって、旗立てて、ワーワーキーキー叫んでも役所は何にも協力してくれませんが、一定の方式に則って完全な文書を準備して提出し、役所が好むロジックを使って説得すると、お役所は様々な便宜を図ってくれます。

われわれ弁護士の活動というのは、片手に依頼者というお客、もう片手に裁判所というお客様(「判決」というわれわれのもっとも欲するものを出してくれるという点で、依頼者よりも大事な「お客さん」といえます)を抱え、その両者の認識を整合させるようにすることにあります。

バカもハサミも役人も使いようです。

裁判を進める上では、このような機能的限界を十分ふまえた上で活用しなければなりませんし、逆にこういうことをふまえず
「機能的限界のない常にかつ当然に真実が発見できる完全無欠の神様」
と考えるとたいてい訴訟運営に失敗することとなるのです。

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00776_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する7:裁判所における事件処理の実体(5)裁判は初動が肝心

自分のトラブルを裁判官にプレゼンする際、当該事件が
「裁判官にとって好まれる処理しやすい事件 」、
すなわち思考経済の負担が軽い事件に思わせるのは、事件の終盤ではなく、初動段階においてです。

多くの事件を抱え、その効率的処理に日々頭を悩ます裁判官は、アレコレ悩むより、最初に見通しを決めてしまい、その見通しを最後まで維持したがっているのです。

したがって、事件の冒頭で
「悩まなくていいですよ。当方を勝たしても全く問題ありません。ほら、これだけ根拠も証拠もありますし、法律を離れても妥当性と合理性に適う結論ですよ。ほらほらほら、安心して、こちらの言い分に乗っかっていいですよ」
とささやくように明示または黙示にプレゼンし、事件裁断について絶対的覇権的権力をもつ独裁者である裁判官を籠絡してしまった方がいいのです。

すなわち、競馬にたとえると、差し馬のような勝ち方ではなく、訴訟はすべて先行逃げ切りがもっともスマートで裁判官からも歓迎されるようなススメ方ということになるのです。

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00775_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する6:裁判所における事件処理の実体(4)裁判官に好まれる処理しやすい事件と面倒な事件

書面をことのほか尊重(偏重)する民事裁判官の仕事の進め方からは、裁判官にとって
「好まれる処理しやすい事件」

「処理が面倒で好まれない事件」
が存在するという推定が導かれます。

裁判官が好きな事件とは、正邪が明瞭な事案で、かつ正しいとされる側に証拠がきちんと揃っている事件です。

逆に裁判官の頭を悩ます
「処理が面倒で好まれない事件」
とは、
「言っていることは正しいが、肝心要の証拠が全くない」
というタイプの事件や、
「一見証拠はきちんと整っているが、何かうさん臭くて、裏がありそう」
というタイプの事件です。

いずれの事件も、最後まで心証形成が困難で、尋問で勝ち負けのイメージがひっくり返る可能性があり、思考経済上マイナスの事件運営を迫られる要素が孕んでおり、仕事に余計な手間がかかる案件ということが言えます。

このような
「処理が面倒で好まれない事件」
を持ち込む当事者の対応としては、嫌われるような要素をなるべく省く努力をすることが肝心となります。

すなわち、
「言っていることは正しいが、肝心要の証拠がまったくない」
というタイプの事件については、主張の正しさに酔いしれることなく、証拠の弱さを常に意識し、
「主張を直接裏付ける証拠はないが、主張を間接的・補助的に裏付けるこれだけの資料がある」
といった形で、自らの不利を積極的に補う形で立証の努力を怠らないことが推奨されます。

他方、
「一見証拠はきちんと整っているが、何かうさん臭くて、裏がありそう」
というタイプの事件については、
「こちとら証文あるんだから四の五の言わずにカネ払え!」
みたいな強硬な対応ではなく、
「自らの主張が経済的にも社会的にも正当性・妥当性に支えられている」
ということを補完的に主張し、全体として自らの法的立場が形式(証拠)のみならず実質(妥当性・合理性)も具備していることを積極的にアピールすることが求められるのです。

理想的な勝ち方としては、法(形式的な話の筋)で勝ち、事実(実体的な背景)で勝って息の根止める、というものです。

他方で、このような理想的なゲームできない場合は、
「法で負けるなら事実で勝て、事実で負けるなら法で勝て」
で臨むことになります。

どっちもダメなら、という場合はどうすべきでしょうか。

引き延ばして、泥沼化して、消耗戦で勝つほかありません。

ジタバタして、時間と労力を消耗させ、相手も裁判官も反吐が出るほどうんざりさせて、妥協を図れ、というところでしょうか。

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00774_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する5:裁判所における事件処理の実体(3)旧司法試験・司法試験予備試験と民事訴訟手続の酷似性

「文書を重んじ、口頭での話を軽んじる」
という裁判所の行動様式は一見、噴飯もののように思えますが、見方を変えると極めて合理的なのです。

「書面を重視する」
という裁判所の合理的な行動哲学は、我が国最難関の実務法曹選抜試験としての旧司法試験や司法試験予備試験の選抜プロセス方式にも反映されており、ここに、法曹選抜プロセスと民事訴訟手続のプロセスの酷似性が看取されます。

旧司法試験や司法試験予備試験では、先行して択一式試験・論文式試験を行い、文書のみによって能力判定をほぼ終えてしまい、最後に、
「文書による能力検証に対する補完的検証と、不可避的に紛れ込んでしまう異常者・例外者の排除」
という目的のため、直接面談(口述試験)による最終能力確認を行います。

すなわち、合理的能力検証の極致とも言うべき我が国最難関試験としての旧司法試験や司法試験予備試験においては、法律家としての素養を判定するのにいきなり受験生と膝を突き合わせてグダグタ話を聞くような無駄なことはしません。

また、論文試験で不合格となった者に口述試験を実施し、
「論文でダメだった人間を、話を聞いてあげて救済する」
などという無駄なことも絶対行いません。

無駄ばかりか不正の温床となりますから、けだし当然です。

以上の法曹選抜プロセスを民事裁判になぞらえると、論文試験(主張と書面による証拠の優劣)でほぼ合格者(勝訴当時者)を決めてしまい、合格者の最終検証のために口述試験(証人尋問)を行う、という形で整理されます。

裁判所の本音でいうと、論文試験で不合格が確定した者(民事訴訟において、主張に法的根拠がないか、あるいは書面による証拠で立証できない側の当事者)に口述試験(証人尋問)など行いたくないのでしょうが、さすがに訴訟においてそういうことを露骨にするわけにもまいりません。

ですので、セレモニーと化してしまうことは百も承知ながら、手続も公正性を取り繕うため、とりあえず話だけでも聞いてあげて、ガス抜きをする、ということをしているのです。

とはいえ、旧司法試験や司法試験予備試験では論文で不合格となった者が口述試験で敗者復活することはほぼありませんが、実際の訴訟では、尋問で挽回して書証での不利を覆すというダークホース的な事件が2~3割あるというのが、面白いところです。

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00773_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する4:裁判所における事件処理の実体(2)証人尋問はただのセレモニー

一般に、
「証人尋問は訴訟のもっともドラマチックな場面」
などとされますが、実際の民事訴訟においては、事件の筋、すなわち勝敗は証人尋問開始前にほぼ決まっており、実際のところ、尋問はほとんどの場合、セレモニーにすぎないといえます。

これは筆者が適当な感想を言っているではありません。

弁護士会主宰のセミナーで紹介されていたデータによると、民事裁判官のアンケートで
「証人尋問のあとで心証が変更することはありますか?」
との問いに7~8割近くの裁判官が
「尋問が終わっても心証の変更をすることはない」
と回答していた状況が報告されていました。

これは3つの点で実に興味深い話です。

まず、民事裁判官は証人尋問前に心証を決定している、すなわち、
「どちらを勝たせるか」
を決めた上で尋問に臨んでいる、ということです。

そして、もう1つは、たいていの事件において、証人尋問は、裁判官に何か新しい事実を発見させる場ではなく、すでにわかっている事実を確認する場である、ということです。

最後にいえることは、
「民事事件なんてものは、いちいち話など聞かなくても、関係文書さえみていれば、7~8割方は解決できてしまうものであり、文書が決定的な意味をもつ」
ということです。

経験の浅い弁護士さんや訴訟のことをわかってらっしゃらない素人の依頼者は、証人尋問手続に入ると、
「さ、これから証人尋問! いよいよ本番だ! 裁判官に積極的にアピールするぞ!」
などと気合を入れますが、実は、もうその時点では裁判官はどちらを勝たせるかを決めているのであり、気合を入れるタイミングとしてはかなり時期を逸しているということになります。

すなわち、裁判においては
「尋問前に提出している文書の証拠(書証などと言ったりします)が乏しければ、どんなに尋問でがんばっても無駄」
ということなのです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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