00682_法務の仕事の前提:作業環境の整理整頓

雑然とした作業環境は、漏れ抜けが生じるリスクが生じます。

法務担当者にとって、漏れ抜けは致命的であり、法務の致命的ミスは、会社の生き死にに関わります。

法務担当者の中でも仕事のできる人ほど、作業環境は整理されています。

作業環境が雑然としている者は、できない人間が多く、できない人間ほど、
「忙しい」
を連発します。

このできない人間が連発する
「忙しい」
は、やるべきことが明確になっていてその段取りもきっちり把握できているが時間がない、という意味ではありません。

この「忙しい」
は、
「時間がない」
のではなく
「混乱している(心を亡くしている)」
というものです。

一流の法務担当者になるには、作業環境を整理して、漏れ抜けを無くし、混乱しないようにして、クールに仕事を進めるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00681_法務部を作る上での論点

0 前提論点:そもそも法務部は必要か、不要か?

1 法務を担う組織の体制作り

2 法務部の役割分担設計哲学

3 内製化するもの、外注するものの区分設計と区分管理

4 法務部運営のサイズ設計と対処課題

5 法務担当者に求められる資質・能力と改善・向上

6 法務担当者が担うべき具体的業務

7 法務担当者に整備すべき情報環境(情報インフラ)と活用術

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00680_法務担当者として法務サービスという仕事を行う前提として、そもそも「仕事」とは何か?仕事の仕方、回し方をきっちり理解できているか?

「仕事」
とは、企業活動を担うことですが、企業活動とは、平たく言えば金儲けです。

安く買って高く売る、
安く作って高く売る、
客に奉仕して手間賃をもらう、
カネを元手にして金融や投資活動でカネを増やす、
のいずれかしか金儲けする方法は存在しません。

ただ、企業が金儲けをする際、以上の活動以外にも様々な活動が派生します。

すなわち、以上の
「金儲け活動」
を管理する活動です。

管理とは、
管理前提を整え、すなわち、ミエル化・カタチ化・文書化・フォーマル化し、
これを前提に、透明化されたものを共有したり、開示したりして、改善を行っていく活動です。

管理前提、すなわち、
「金儲け活動」
の様子を、数字(や言語)を使って、ミエル化・カタチ化・文書化・フォーマル化する活動は、絶対必須であり、重要です。

透明化されないものは、知覚認知できませんし、知覚認知できないものは制御できませんし、制御できなければ改善は望めません。

したがって、管理をする場合、文書を使ってコミュニケーションを行うことが必須スキルになります。

加えて、金儲け活動も組織で行う場合は、情報共有の上、秩序構築された組織的対応をするためにはこちらも、文書を使ってコミュニケーションが必須になります。

結果、企業人の仕事とは、文書にまつわるスキルやコミュニケーションにまつわる活動が大きな柱になります。

以下、企業人の仕事、すなわち、企業活動に関し生じる文書にまつわるスキルやコミュニケーションにまつわる活動の中身を整理して分解してみます。

(1) 報告
① 報告の前提としての正確で客観的な情報
② 報告の具体性
③ 報告のタイミング
④ 報告で用いる表現

(2) 連絡
① 報告と連絡の違い
② 連絡の受信者に対するフォロー
③ 上司への連絡

(3) 相談

(4) 企画する、考える

(5) 段取りを組む、実施する

(6) 整理する

(7) 評価する

(8) 改善する、改革する
① 「改革や改善」という仕事の重要性
② 「改革や改善」という仕事は困難性(皆、苦手な科目)
③ 「改革や改善」のための課題選定
④ 「改革や改善」案の創出
⑤ 「改革や改善」のダークサイド(改革や改善は必ず誰かを損させる)

(9) 関係構築をする、交渉する
① 前世紀における関係構築術
② 今世紀における企業間関係構築の在り方
③ 産業社会における性善説の終焉

(10) 仕事を通じて奉仕する対象である「企業」の把握
① 企業の特徴
② 企業の生態・意思決定

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00679_法務外注の基本思想:「社会人の仕事」と「学生の勉強や試験」との最大の違いは、社会人が仕事を進める場合、学生の勉強や試験と違って「カンニングや替え玉受験やレポート代筆等がすべてOK」という点

企業内に生じた法務サービスについては、法務部が内製化して自力で完遂すべきでしょうか?

それとも、顧問弁護士等の社外専門家に外注した方がいいのでしょうか?

でも、社外に外注するのであれば、法務の仕事は、外注管理ということになり、であれば、
「弁護士という圧倒的に優秀なスキルを保持するサービス提供者の腰巾着か太鼓持ち」
ということになり、
「顧問弁護士がいれば、横でくっついている金魚の(中略)みたいな法務部不要」
という社内世論が出てくるのではないか?

やはり、
「法務部が、企業内に生じた法務サービスに応えられないので、外注する」
という恥ずべき事態は何とかすべきであり、たとえ失敗したり、素人考えの素人仕事であっても、がんばって自力処理するべきではないか?

こんな疑問が生じる前提として、
責任ある自立した社会人として、目の前の課題に背を向け、安易に外のプロにカネを払って済ませる、という事自体、無責任で不誠実の極みであり、人として、社会人として、歯を食いしばって何とか頑張るべきではないか?
という根源的な疑義が存在し、これについてどういう考えをもっておくか、きちんと整理しておくべき必要があると思われます。

まず、押さえておくべき、確認しておくべく基本的な思想としては、
「社会人の仕事」

「学生の勉強や試験」
との最大の違いは、社会人が仕事を進める場合、学生の勉強や試験と違って
「カンニングや替え玉受験やレポート代筆等がすべてOK」
という点です。

学生時代においては、勉強や調べ物や宿題やレポートはすべて自力でやり遂げるべきものであり、
「家庭教師にカネを払って代わりにやってもらう」
などということは言語道断であり、また、試験でカンニングしたり、替え玉に受験させたりするのは、犯罪行為とされます。

しかしながら、社会人が仕事を進める上では、
「『自分たちだけでやり遂げる』ことにこだわり、ロクに知識もない素人が何ヶ月かけてグズグズ議論する」
という方が給料の無駄であり、会社にとって有害です。

そういう無駄で有害な発想ではなく、むしろ、
・課題解決はすべて内製化して自力で行うというドグマを排して、外注という資源動員上の選択肢をきっちりもっておくこと
・迅速かつ適価にて、外部のプロから必要な資源を調達すること
・外注については、目的達成まできっちりフォローすること、すなわち外注管理(予算管理、品質管理、納期管理、使い勝手管理)をすること
の方が、本当の仕事のあり方(付加価値の創出)として求められます。

法務部や総務部に配属される方は、どちらかというと生真面目な試験秀才タイプが多く、
「“仕事”と“お勉強”の違いがわかっておらず、法務リスク管理という純ビジネス課題を学究課題と勘違いし、時間がかかっても自力で調査する」
という無駄で非効率な方向性に向かいがちです。

無論、自力で正しい解決に辿りつければいいのですが、情報や経験の不足から、方向性を誤り、
「時間をかけた挙句、仕切りをミスって、会社に大きな迷惑を被らせる」
という悲惨なチョンボをしでかすこともままあります。

法務リスク管理というお仕事、すなわち、
「法令に関する専門的知見に基づき、発見特定されたリスクをうまいこと処理して、大事にならないように仕切る」
という課題処理は、要するに、
「弁護士その他の専門家という“外注業者”をいかに上手に、適価で使い倒すか」
という点がポイントになります。

無論、最終的な社内ジャッジをする際には法務部等の社員プロパーの仕事になるとしても、ジャッジに至るまでの大部分の情報は外注処理で賄えば足りる話です。

バカもハサミも弁護士も使いようです。

「学生時代の勉強のように、カンニングや替え玉受験なしで、自力でなんとかしなければ」
と考えて無駄なストレスを抱え込むことなく、外注業者をうまく使いこなすことにより、ラクに、楽しくこなせる仕事にすることができるのです。

そのためには、予算と要員資源動員の権限をもっている経営者とうまくコミュニケーションすべきです。

そして、外注がうまく、スムーズに機能するように、経営者の法務リタラシーを改善して差し上げるべきです。

しかし、経営者にとっては、法務のことは全くわかりませんし、判断材料としての資料も「象形文字」のオンパレードです。

経営者とコミュニケーションを取る際、「(経営者にとってみれば)誰も理解できないどこか遠くの国の部族のコトバ」ともいうべき法律用語等を、咀嚼をせず、そのまま役員の前で披瀝するのはやめるべきです。

そして、その種のリタラシー改善や役員の方々にうまいこと説明をしてこの課題を前に進めたい、というときには、手伝ってくれる弁護士を常に複数リソースとして確保しておくべきです。

本当にいい外注業者は、社内担当者が外注起用を行う際、手伝ってくれるものです。

能力や実績やスキルを保有していることは当然の前提として、そういう、
「本当に使える、役に立つ、外注業者たる弁護士」
を選定し、リテインしておくべき、といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00678_「外注管理部署」としての法務部の意義・価値・積極的役割

外注は恥ではないし、役に立ちます。

むしろ、 能力も経験もないのに、
「オレは法務部だ。だから、法的なことは任せろ。オレがこのリスクを社内担当者として、責任を以て管理・制御し、会社の安全保障を全してやる!」
「この課題は法律に関することで、しかも、自分は法務部なのに、外部の弁護士に外注してしまうと、自分の存在価値がなくなってしまう。『弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん』とか言われたら、どうしよう。反論できないし。だから、なんとか自分も法的なことをやらないと」
という考えは非常に危険です。

能力も経験もない素人が、専門家の領域に介入すると、大惨事を招きます。

そんな危険で無謀なことをしなくても、
「外注管理部署」
としての法務部の積極的役割や活躍の領域はきちんと存在します。

とはいえ、
「法務の外注管理」
って何?

きちっと弁護士のきちっとした仕事を横目でボーっと眺めているだけなんでしょ・・・・・と言われそうかもしれません。

すなわち、
企業内に生じた法務に関する対応課題を、法務サービスを担う法務部がしないで、社外の弁護士に外注するんだったら、法務部は何もやらなくていいのでしょうか?
「弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん」という批判に対して、どのように存在価値を示したらいいのでしょうか?
やはり、無理をしてでも、弁護士の向こうを張って、弁護士に負けない法務サービスを自力でやり遂げるべく、頑張ったほうがいいのでしょうか?
と様々な疑問が浮上します。

外注管理部署として、外注管理部署でなければできない役割というものもあります。

外注一般と、外注管理一般について考えてみましょう。

例えば、ニーズの把握や、ニーズの具体化、予算や納期の策定、発注仕様の確定・特定と、発注先の選定、それに発注後の完成・納品・検収までのフォローアップ、発注トラブルが生じた場合(予算の超過、品質割れ、納期割)における対応(クレームを言うなど、受注先とのケンカ)は、重要な外注管理実務であり、外注管理部署しかできない、極めて価値ある、積極的役割のある業務です。

以上は、通常の外注管理や下請管理で生じることですが、法務サービスの外注でもまったく同じことです。

おそらく、
「弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん」
という(無知に基づく)批判が生じる背景には、弁護士というものに対する盲信があります。

・弁護士は、どこに頼んでも同じ、
・弁護士が提供するサービスは、価格交渉が働かないし、言われるがまま払うほかない、
・弁護士が提供するサービスは、常にかつ当然に、完全かつ完璧で、特に、管理しなくても、納期内に、スペックを満たす品質のものが提供されるはずだ、
・というより、そもそも弁護士が提供するサービスには、スペックやコストといった仕様に関する自由度はなく、弁護士が提供した最終成果物が、求められる仕様であり、クライアント「風情」が、「このコストでこの仕様で」などという素人意見をいうなどといったおこがましいことを言うべきではない、
など。

たしかに、もしそうなら、
外注「管理」
という概念自体が成立しませんし、弁護士に丸投げして頼んでおけば、正しいコストで、正しい品質のものが、正しい納期で納品されるので、
「観念の余地がなく、そもそも成立しえない外注管理サービス」
を担うセクションとしての法務部は、単なる間抜けな穀潰し、ということになります。

しかし、きちんとした法務部を整え、法務安全保障サービス調達を合理化する先端企業においては、

・弁護士サービスには、レベル差や能力差や価格差が歴然と存在し、選択が介入する余地が広汎に存在する、
・弁護士が提供するサービスは、価格交渉をすべきであり、言われるがまま払っていると、経済合理性を喪失する、
・弁護士が提供するサービスは、常にかつ当然に、完全かつ完璧というわけじゃない。「自分が弁護士でもなく、自分では弁護士サービスを提供できなくとも、弁護士のサービスのことがわかる」という程度の知識やセンスがある法務の人間として、きちんと外注管理(納期管理、品質管理、予算管理、使い勝手管理)をしてはじめて、納期内に、予算範囲内で、正しいスペックを満たす品質のものが提供されるが、管理をしないと、調達に失敗する、
・というより、そもそも弁護士が提供するサービス自体、スペックやコストといった仕様は広汎な選択と自由があり、きちんと予算や仕様や納期を確定し、発注者として責任をもって「このコストでこの仕様でこの納期で」と厳しく伝えておかないと、調達が達成されない

という前提認識の下、法務部が、社内外注管理部署として、しっかりとその役割を認識し、価値ある社内サービスとしての、外注管理活動を展開しています。

特に、リスクすなわち法務ニーズの発見・特定は、最も重要であり、社内の法務サービス部署としての法務部が、その役割を発揮する活動です。

法務や安全保障を担わない、他の企業活動に従事する社員も役員も、自分たちの活動にリスクがあっても気づきません。

楽観バイアスや正常性バイアスによる
「自分の活動に疑問を抱かないし、抱くべきではない」
という思考の偏向的習性が生来的に備わっていますし、計画の効率的実現が職責・役割であるため、疑問を抱かず、後ろを振り返らず、目の前の事業活動をより早く、より効率的に、より手間をかけずに、前へ前と前進させることに集中・没頭することが求められるからです。

したがって、日常の企業活動の法務安全保障上のリスクにいち早く気付けるのは、唯一法務部だけです。

そして、そのために、法務担当者は、楽観バイアスや正常性バイアスを克服し、
・ 常に、不安になり
・ 常に、危険を感じ
・ 危険を感じたら、危険を発見し、具体化・特定化する
という役割を遂行するのです。

早期に具体化・特定化された危険は、もはや安全保障上の脅威ではありません。

どんな危険であれ、早期に具体化・特定化され、かつ、適切な対応力あるプロを探し出し、当該プロに対してしかるべき外注管理を働かせ、危険がなくなるか、無視できるほど小さくなるまで、働きかけを続ければ、
「大事は小事に、小事は無事に」
なり、制御ないし何らかの対応が可能だからです。

このように観察すれば、法務部は、法務サービス発注起点を探し出し、当該法務サービスの仕様や納期やコストを算定し、当該スペックのサービスを提供できる能力のある受注先(弁護士)を探し出し、競争調達の上、発注し、発注後もきちんと納品されるまで外注管理(納期管理、予算管理、品質管理、使い勝手管理)を行い、ときに、スペック未達や納期割れした場合に、サービス提供者たる弁護士とケンカをしたり、発注先を変更したりすることが求められるのであり、
「弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん」
という批判は的外れどころか、本来の法務部の役割や意義や価値を理解していない暴言ともいえます。

いずれにせよ、外注管理部署としての法務部が、
「無能な穀潰しの、あってもなくてもいい、間接部門」
となってしまうのか、
「極めて価値と意義のある社内法務サービスを担う重要部署」
となるのかは、外注管理というサービス機能をどのように積極的意義を認識し、その意義を盛り込むか、にかかってきます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00677_企業法務ケーススタディ(No.0226):海外進出! それ意味あるの?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース33:海外進出!それ意味あるの?をご覧ください。

相談者プロフィール:
ムロツ・クリエイト株式会社 代表取締役社長 室津義男(むろつ よしお、41歳)

相談概要:
海外でジョイントベンチャー事業展開を計画する相談者は、アジア諸国にて、相手方51%こちらが49%出資して現地法人をつくります。
出資金を用意し販売品を現地にもっていかなければなりませんが、弁護士も会計士も現地パートナーが用意してくれ、国際的企業に大変身できるとあって、相談者は大いに乗り気です。
以上の詳細は、ケース33:海外進出!それ意味あるの?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 日本企業、海外進出の下手っぷり
かつては
「中国進出ブーム」
が日本の産業界を席捲し、数多くの中堅中小企業が中国に進出しましたが、状況は一変し、もっともホットな経営テーマは
「中国進出企業の撤退の実務」
になりました。
以上の詳細は、ケース33:海外進出!それ意味あるの?【日本企業、海外進出の下手っぷり】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:あいまいな目的、海外進出への幻想
営利追求をメーンミッションとする組織である企業の目的設定・経営判断の方向性としては、
1)カネを増やす
2)出ていくカネを減らす
3)時間を節約する
4)手間・労力を節約する
のいずれかに収斂(しゅうれん)するはずです。
とはいえ、現実的には、
5)イイカッコをする、世間体や体面を保つ、プライドを充足する、意地を張る、見栄を張る
という
「経済的には説明できない、合理的理解を超えた」
ものも存在します。
「ブームに舞い上がって中国進出した経営者」

「短期間に赤字を積み上げ撤退を決定したが、出口戦略をまともに描いていなかったため撤退すらままならない」
現状に直面しているのは、意地やプライドや主観的満足充足のため、頭脳が混乱した状態で進出した、という蓋然性が高いと思われます。
以上の詳細は、ケース33:海外進出!それ意味あるの?【あいまいな目的、海外進出への幻想】その1ケース33:海外進出!それ意味あるの?【あいまいな目的、海外進出への幻想】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 海外進出自体を自己目的化させない
進出当事国の所得レベルを考えれば、飛ぶように売れたとしても利幅は小さく、投資を回収するのに長い時間を要しそうであり、その間に、飽きられたりするリスクも想定されるところです。
以上の詳細は、ケース33:海外進出!それ意味あるの?【海外進出自体を自己目的化させない】をご覧ください。

モデル助言:
「すべての商品は、またたくまにコモディティー化する」
という命題すら成り立つのが商売の世界の常識というなか、進出先のパートナーが、それほど御社製品を
「売れる」
「イケる」
「あたる」
と太鼓判を押すのなら、
「売ってやるから、日本円をもって、我が国まで、我が社製品を取りに来い。港で受け渡しだ。あとは、そっちで、がんばって売れ」
というスタンスでもいいわけです。
その上で、
「日本で作った原価の高い商品に運賃を上乗せし、他人に任せて売る」
よりも、
「自分たちで現地生産し、その儲けを分捕った方が、より大きく儲かることがもはや確実である」
と判断してから、現地へ本格進出することを考えてもいいのではないですか?
以上の詳細は、ケース33:海外進出!それ意味あるの?【今回の経営者・室津社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00676_交渉において「条件を先に言い出す」ことの致命的有害性

カネや財産や権利や地位について、殺し合いをおっぱじめかねないくらい対立している状況で、交渉の担当者となって、いきなり、相手に対して具体的な和解条件を提示する方がいます。

さらには、当該和解条件提示に際して、
・万が一、訴訟になれば無駄にカネや時間や労力を費消するから、
などと妥協根拠までバカ正直というか馬鹿丁寧に示したりする方もいます。

「交渉において、初手で、こちらから条件を提示する」
という行為は、もっともやってはいけない、愚かで未熟な手法です。

こちらが提示した条件が、
・相手の想定条件よりよい条件であったら、相手に望外のアドバンテージを与えますし、
・相手の想定条件より悪い条件であったら、「相手は手の内を見せずに峻拒し、次の闘争フェーズに移行させ、闘争の末、次の交渉フェーズにおいて、こちらの条件を起点(アンカリング)に、さらにこちら側に譲歩を迫り、より有利に交渉を進めることができる」というアドバンテージを与えます
ので、いずれにしても有害無益です。

相手がこんな壊滅的なアホであれば、私が相手方交渉担当者なら、相手から出してきた条件がどんなものであっても、初手の提示条件は拒絶するとともに、相手が妥協したがっている(本格闘争を遂行するだけの動員資源に不足しており、弱腰になって、泣き言ほざいて早期妥結にすがりついている)状況を最大限利用し、ブラフとして本格闘争開始(訴訟移行)を宣言します。

「相手が、闘争を開始続行するだけの資源に不足しており、闘争遂行をあからさまに忌避している」
という弱点を晒してくれているわけですから、相手の弱点や傷口は徹底的に攻撃するに決まってます。

相手の傷口をみつけたら、そこに、塩をふりかけ、わさびや辛子やハバネロを塗り込み、最後にレモンを絞りかけるのが普通でしょう。

また、相手が早期妥協への希望や渇望を見せてくれたら、絶望させない程度の希望をちらちらみせつつ、際限なき妥協をさせるべく、闘争カードをちらつかせながら、いつ終わるかわからない交渉を、疲弊してギブアップするまで継続させてもいいでしょう。

それが、交渉というものです。

話は変わりますが、歴史上、もっとも、愚劣で危機管理意識の欠如した人物として、私が心底侮蔑するのは、515事件で暗殺された、犬養毅首相です。

集団で自分を暗殺しにやってきた武装した青年将校が近づいたとき、逃げるわけでも、隠れるわけでもなく、抵抗するわけでもなく、武装するわけでもなく、
「多分、相手も、バカではないし、常識は通じるだろうし、そんなにやばいヤツではないから、まあ、話したら、理解して、帰ってくれるだろう」
と安易に考え、本気で殺すつもりだった場合の備えについてはノープランで、
「話せばわかる」
と切り出しました。

その結果、
「問答無用!」
の一言で、銃殺されました。

無論、それ以前に、軍備拡張する青年将校を免官するプロジェクトを準備を整え、電光石火のごとく、断固たる形で、果断に行うべきところ、
「俺、あいつら、気に食わないから、今度、解雇してやるんだ~」
と、身内(その中には、青年将校のシンパもいる)にべらべらしゃべる、という危機管理意識の致命的欠如っぷりも、
「この話を聞いた相手がどう出るか」
という想像力も欠如した、愚劣極まりない幼稚な行動に出ています。

「濱口雄幸首相襲撃事件が前年に起きているにもかかわらず、犬養は、その後も、警備手薄の状況で、のほほんとしていた」
というところですでにダメだったのですが、最後の最後まで、このリーダーは、善意の塊がゆえの、危機管理者としては超絶に無能の人物だったんだと思います。

我々、法的危機管理や法務安全保障の専門家としての弁護士の経験則としても大いに納得する、至言ともいうべき、行動選択や意思決定に関する格言があります。

「(選択に)迷ったら、苦しい方を選べ」
というものです。

すなわち、
「いくつか選択肢があるときは、より、(経済的、資源消耗的、精神的)負荷がかかり、目先、苦しさが訪れて、準備と段取りに手間取り、時間とエネルギーを消耗するような、そんな選択肢が、最善解に至る可能性が高い」
という経験上の蓋然性です。

逆に、迷った時に、簡単な方、楽な方、安直な方、手っ取り早い方、フィーリング的にフィットする方、自分の常識(という、偏見、思考上の偏向的習性)に適う方を選んだら、たいてい、泥沼にはまりこみ、あとで後悔する、ということも意味します。

特に、精神的負荷の楽な方を選んで失敗する、という例は、私の小さな経験上、よく見聞します。

具体的には、
「人間の善意」
「相手の思考における合理性に対する信頼」
を認識の根源的前提に置き、相手の善意や合理性に依拠して、
「相手が悪意で、期待と真逆の態度に出た場合の備え」
をすることなく、漫然と、安直に、軽い気持ちで、丸腰で、初手を打って、
「相手が悪意で、期待と真逆の態度」に出る、
という憂き目に遭い、そこで詰んでしまう、という状況です。

まさしく犬養の失敗そのものです。

そして、
早期妥結が相互互恵の最善の結末という予定調和と勝手に夢想し、
相手の善意と理性を一方的に期待し、
交渉の初手で、具体的条件を示したり、さらには、闘争忌避を明示あるいは黙示に表明するなどという愚行をしでかす交渉担当者の失敗の根源も同様のものです。

交渉において、妥協内容を含む和解条件の提示するのは、1年かかろうが、10年かかろうが、100年かかろうが、絶対こちらからは切り出しません。

北方領土の返還交渉において、ロシア側は、10年たとうが、50年たとうが、妥協した条件を全く示すことがないのは、まさしくこういう戦略的理性に基づく合理的態度決定の帰結なのです。

民事紛争・商事紛争においても、しびれを切らして条件を出し始めた側が交渉が不利に陥りますので、訴訟が始まり、裁判官が
「このくらいの金額で和解されたらどうでしょう」
という声が聞こえるまで、貝殻のように沈黙を守り通すのが、最も戦理にかなった態度といえます。

無論、支払うべき義務が明らかで、裁判になれば早晩不利な判決が出て、遅延損害金等を支払わされたりして、時間の流れがこちらに悪意に作用するような場合は別です。

しかし、そのような場合であっても、究極的には、供託するなり、債務不存在確認訴訟提起によって、こちらがイニシアチブを握って紛争フェーズを変えることもできなくはありません。

いずれにせよ、相手の理性や善意に漫然と依拠して、思考やメンタリティに負荷をかけずに、キモチがラクになるような方法選択は、プロとして取るべき態度ではありません(クライアントやプロジェクトオーナーが、不利を十分承知で、招来される悪しき結果に対する免責を明確に了解して、そのような愚策履践を求めるなら別ですが)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00675_企業法務ケーススタディ(No.0225):法務部って何するところ? 必要なの?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース32:法務部って何するところ? 必要なの?をご覧ください。

相談者プロフィール:
斎藤工業株式会社 代表取締役社長 斎藤 拓司(さいとう たくし、35歳)

相談概要:
未上場の会社を継承して1年の相談者は、メインバンクから派遣された取締役に、コンプライアンス的に問題だから法務部を立ち上げるように、と繰り返しいわれています。
しかし、法律関係事案は先代を踏襲し、顧問弁護士に教えを請いつつ総務の若手に担当させ運用していて何の問題もありません。
法務部は絶対に必要なのでしょうか? 
以上の詳細は、ケース32:法務部って何するところ? 必要なの?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:あってもなくてもいい組織なのか
法務部は法令上設置を強制されているものではありません。
法務部があるからといって、
社内では法律に詳しい法務部とはいうものの、
「多数の臨床例を基礎に日々豊富な経験値とスキルを蓄積する独立の外部専門家集団である法律事務所」
との比較においては、中途半端な素人集団にすぎず、絶対的危機を切り抜ける知恵やスキルがあるわけでもありません。
以上の詳細は、ケース32:法務部って何するところ? 必要なの?【あってもなくてもいい組織なのか】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:法務部の本質とは
企業が永遠に継続するため(ゴーイング・コンサーン)には
(1)経営資源を効果的に運用して事業を合理的に展開し、効率的に富を蓄積することと
(2)企業内外の敵対勢力(仮想敵を含む)や有害分子から企業を防衛し、安全を確保すること
が必要になります。
そして、組織として、
(1)富の蓄積には
(1A)営業部隊(実働部隊)
(1B)経理・財務部隊(後方支援部隊)
(2)安全保障には
(2A)外部専門家組織(実働傭兵集団)
(2B)企業内法務部(後方支援部隊)
が構成されることとなります。
法務部は、企業の安全保障を担う部署であり、平時において有事を想定しながら、
「大事が小事に、小事が無事に」
なるよう、文書作成や記録管理を中核としたルーティンを担当する組織、ということになります。
以上の詳細は、ケース32:法務部って何するところ? 必要なの?【法務部の本質とは】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 「有事」の蓋然性、ダメージ、コスト
企業における有事を想定するイマジネーションを強化し、外部専門家(顧問弁護士)と良好な関係を構築して後方支援の実を上げることと、有事の際にモノをいう
「文書」
「記録」
を丹念に整備することこそが、法務部の活動として求められる本質的要素といえます。
企業における
「富の蓄積」
という活動については、売上を上限として投入コストが導けます(売上を上回るコストを費やしたら企業組織は持続不能に陥ります)が、安全保障コストはこの種の
「経済的合理性による制約」
が働きにくく、過大にならないように注意が必要です。
以上の詳細は、ケース32:法務部って何するところ? 必要なの?【「有事」の蓋然性、ダメージ、コスト】をご覧ください。

モデル助言:
銀行が、法務体制に致命的欠陥があるといったわけでも、融資を継続するための必須前提として強制しているわけでも、ないのなら、銀行派遣の役員がいうことは120%無視して結構です。
以上の詳細は、ケース32:法務部って何するところ? 必要なの?【今回の経営者・斎藤社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00674_「ホニャララの訴訟に強い弁護士」「チョメチョメの分野で勝てる弁護士」という話の信頼性

「ITに強い弁護士を探している」
「仮想通貨やブロックチェーンが関係するトラブルに強い弁護士を紹介してほしい」
「先端医療分野で勝てる弁護士を教えてくれ」
「遺伝子組み換えが問題になる事件で負けるわけにはいかないので、先端科学分野に詳しい弁護士はいないか」
という話が舞い込むことがあります。

20年を超える程度の私の拙い実務経験が教えてくれるのは、
「ホニャララに強い」
「チョメチョメに強い」
というのは、弁護士の営業文句としてのファンタジーである可能性が高く、
「訴訟の帰趨が特定の弁護士の選任によって決定づけられるような『一般の弁護士には知られていない、特定の専門的な弁護士にだけ知られている、訴訟に勝利をもたらすような高い価値と決定的な意味を有する、 特定の知識や専門性や秘密の情報』」
といった類のものは、ひょっとしたらあるかもしれませんが、あるにしても極めて少ないもの(か、もっと端的には、実はまるっきり存在しない駄法螺やデマカセの類の可能性が高いシロモノ)だと思います。

訴訟を経験したことのない、ド素人の一般ピーポーの方が、
「ホニャララに強い」
「チョメチョメに強い」という弁護士の仕事っぷり
として、どんなことをイメージ(妄想)されるのでしょうか?

「『一般の弁護士には知られていない、特定の専門的な弁護士にだけ知られている、訴訟に勝利をもたらすような高い価値と決定的な意味を有する、この、類まれなる高度で貴重で価値あるこの、秘伝の奥義ともいうべき理論』を、これを知る日本でも数少ない弁護士である当職が、法廷で披瀝したところ、裁判官が刮目して仰天し、それまでの裁判の流れが一挙に変わり、9回裏で逆転満塁ホームランを放ったかのように、窮地に陥ったこの難事件を、鮮やかな完全勝利で終えることができました(爆)」
みたいなことをイメージされるているのかもしれませんが、ツッコミどころが多すぎ、コメントしようがないくらいの与太話です。

訴訟や紛争事案対処というプロジェクトの特徴は、
・正解が存在しない
・独裁的かつ絶対的権力を握る裁判官がすべてを決定しその感受性が左右する
・しかも当該裁判官の感受性自体は不透明でボラティリティーが高く、制御不可能
というものです。

「正解が存在しないプロジェクト」
で、もし、
「私は正解を知っている」
「私は正解を知っている専門家を紹介できる」
「私のやり方でやれば、絶対うまくいく」
ということを言う人間がいるとすれば、
それは、
・状況をわかっていない、経験未熟なバカか、
・うまく行かないことをわかっていながら「オレにカネを払えばうまく解決できる」などというウソを眉一つ動かすことなく平然とつくことのできる邪悪な詐欺師、
のいずれかです。

そもそも
「絶対的正解が存在しないプロジェクト」
と定義された事件や事案については、
「正解」
を探求したり、
「正解を知っている人間」
を探求したりするという営み自体、すべてムダであり無意味です。

だって、
「絶対的正解が存在しないプロジェクト」
と定義された以上、
「正解」
とか
正解を知っている人間」
とかは、
「素数の約数」
と同様、世界中駆けずり回ったって絶対見つかりっこありませんから(定義上自明です)。

とはいえ、こういう
「正解」がない事件や事案
であっても、
「現実解」や「最善解」
なら想定・設定可能なはずです。

「正解」
がない事件や事案 に立ち向かう際にやるべきことは、正解を探すことでも、正解を知っている人間を探すことではなく、まず、
・とっとと、正解を探すことや、正解を知っている人間を探すことを諦めること
と、
・現実解や最善解(ひょっとしたら、クライアント・プロジェクトオーナーにとって腹が立つような内容かもしれませんが)を想定・設定すること
です。

次に、この現実的ゴールともいうべき、現実解や最善解を目指すための具体的なチーム・アップをすること、すなわち、
・プロセスを設計・構築・実施するための協働体制を描けるか 
・それと、感受性や思考や行動が予測困難なカウンターパート(相手方)である敵と裁判所という想定外要因が不可避的に介在するため、ゲームチェンジ(試行錯誤)も含めて、柔軟な資源動員の合意を形成できるか
という点において、親和性・同調性を内包した継続的な関係構築を行い、(おそらく相当長期にわたることになる)事件や事案を協働できるチーム・ビルディングを行うべきです。

すなわち、信頼関係が形成できるか、相性の問題とか、ウマがあうかどうかのレベルの問題、もっと平たくいえば、
「ココロやキモチが共有できるか」
を構築前提課題とした関係性内包集団を基本要件としたチームを組成することであり、
「ホニャララに強い」
とか
「チョメチョメの専門」
とかイキっているかどうかはさておき、チームとしてうまく協働できるようなパートナーやサポーターを探し、集団形成・組織構築することです。

そして、上記のようなパートナーやサポーターが見つかり、チーム・アップができる見通しが立ったなら、
・正解がないプロジェクトであることを受容できるかどうか
・現実的な相場観としてどういうゴールを描いているか
・どういう協働体制を描いているのか
・想定外要因に対する現実的な認識形成できるだけの思考の柔軟性や新規探索性・新規開放性や情緒の安定性といったチーム内のメンタリティが形成構築できるか
・柔軟な資源動員の合意が形成できるか(長期滞留型の消耗戦となることが想定されますが、その場合に適切な稼働費用を捻出できるような予算体制が構築できるか)
といった、プロジェクト推進上、重要な諸点について、ストレス・テスト(冷静かつ保守的な観点からの関係性耐性確認)すべきです(平たく言えば、より突っ込んだ形で、ギャラや資源動員の分担に関する話をした上で、きちんと、カネや手間暇を適切公平にシェアできるかどうかも話して、チームが保てるかどうか確認すべき、ということです)。

難事件や厳しい状況でパニクるのも理解できますが、とはいえ、
「この事件は正解がないし難しいが、ほかならぬオレだったら、この事件に勝てるし、勝ってみせる。ただ、費用は高いぜ」
みたいな与太話に安易に飛びつのではなく、
「この事件は勝てるかどうかはまったく不明だし、決定的な証拠と決定的な取扱ルーティンが確立しているようなタイプの紛争でもないし、さらには、訴訟というプロジェクトの性質上、誰か特定の人間に任せれば絶対うまくいく、ということはあり得ない。だが、最悪の結果にならないように、さらに欲を言えば、現実的に想定可能な最善の結果にできるだけ近づけるように、こちらが制御可能な範囲で最善を尽くしてゲームを戦い抜くことはできる。そのために動員可能な予算の範囲で、支援を了承してくれる、ウマが合うし、コミュケーションが取りやすい、専門家を調達できたので、あらゆる想定外の事態やゲーム・チェンジに対応できる保守的想定で、キック・オフする」
という感じで進めるのが、訴訟事件というプロジェクトの実際の推奨手順です。

その意味では、
「この事件は正解がないし難しいが、ほかならぬオレだったら、この事件に絶対勝てるし、勝ってみせる」
という
「眉毛にツバを5リットルくらいつけて聞かなければならないような、怪しげな話」
を真顔で話す、誇大妄想狂のアホか邪悪な詐欺師に引っかかるのではなく、
「現実解や最善解をふまえた保守的なゴール設定や、ゴールに至るまでの課題発見、課題を乗り越えるためのゲーム(試行錯誤)の遂行のイメージと実践、想定外への対応能力を含めた柔軟で開放的な思考能力をもち、予算と動員資源のバランスが取れ、ウマが合い、コミュニケーションが取れる、堅実な実務家」
を探し、地道な営みを協働することが紛争解決の最短距離になろうかと思います。

確かに、相性が合う、ウマが合う、話やすい、親しみが持てるというのも結構ですが、とはいえ、
「そもそもITって何じゃ? わしゃ、ガラケーとFAXでやっとるんで、スマホとかハイカラなもんはさっぱりじゃ・・・」
「ブロックチェーンって、何それ。レゴブロックのチェーン店か何か?」
「血をみるのもやだし、注射とか苦手だし、医者とか病院とか大嫌いだし、医療問題とか絶対やりたくない」
「中学校のときカエルの解剖とかで卒倒して以来、理科とか生物とかマジ無理」
「数学苦手で弁護士なったんだから、特許とか知財とかみたら本当に気味悪いからやりたくない。数式みた瞬間アレルギー出て過呼吸なるんだよね」
とか言い出す専門家はちょっと
「アレ」
ですね(これは法律以前に、事実や状況を把握する段階でコミュニケーションの基盤が失われている状況です)。

専門とか得意分野とか強いとか何とかといったアピールをよく耳にしますが、弁護士として、何かにむちゃくちゃ精通していたり、知識や情報が偏っていることが、紛争処理に関して絶対的に役に立つ、というわけでもないのです。

というのは、裁判は、安っぽいクイズ番組のように、知識を即答するかどうかで勝敗が決まるわけではありませんし、弁護士としての紛争処理支援の仕事は、別にクイズ番組で活躍できる
「物知り」
とか
「東大王」
とかで要求される知識や即答能力がスキル基盤となっているわけでもないからです。

ちなみに、私も、特に当該方面に特段詳しいわけでもなく、先端医療の医療過誤裁判や、遺伝子組み換え実験の違法性が問題となった訴訟を担当することになり、相手は当該分野に精通するとおっしゃっていた先生方でしたが、保全事件も本案事件も、地裁も控訴審も含め、すべて勝訴できています。

ITもシステムも知財もブロックチェーンもロボットもAIも税務も独禁法も環境問題も、法律問題である限り、問題なく対処をして、顧客が十分満足するだけの結果が出せています。

もちろん、50年以上生きていても、いまだに、知らないことやわからないこともたくさんあります。

しかし、普通にわかるように話してもらえ、状況が判明すれば、これに法律をあてはめ、一定の結論や方向性を導き、これを簡潔かつ明快に文書化・フォーマル化し、適切な証拠を整理した上で、裁判所にプレゼンテーションすることは、普通にできます。

知らないことやわからないことで、法律家としての仕事が困難を覚える場合があるとすれば、それは、
・「知らないこと」「わからないこと」に関する状況を抱えたクライアントが、そもそも「専門的知見を持っている」と思い込んでいること自体が幻想で、実は本質的なことが理解できていないか、まるで何もわかっていないか、
・クライアントが混乱のあまり認知能力や記憶力や知能が一時低下し自分の置かれた状況がよく飲み込めていないか、シッチャカメッチャカになっているか、
・クライアントが絶望的に日本語が話せないか、コミュニケーションが壊滅的に下手くそ、
などの原因で、
「私が理解できる程度に状況を伝えることすらできない」
ということによるものです。

申すまでもありませんが、
私自身、東京大学教養学部文科一類(俗にいう、東大文一)に現役合格し、司法試験も大学在学中に最終合格する程度に、日本語に精通し、国語読解能力をもっています。

そんな私が、何度聞いても理解できない状況というのは、私の日本語読解能力の問題よりも、
・話者の日本語の問題(言葉が通じない)
・話者の話の筋や内容の問題(言葉は通じるが、話す内容が狂っていて、話が通じない)
・話者の知性やメンタリティが低下あるいは欠如していて、話者自信が混乱している(話し手が混乱していて、コミュニケーションが取れない)
のいずれかまたは全てが原因と推察されます(経験上の蓋然性として高度の確率でそのように推察されます)。

「言葉もわからないし、話もわからないし、そもそも話している人間が混乱しているので、どれほど賢くて洞察力がある人間が聞いても、何を言いたいのかさっぱりわからない」
という状況については、
「ホニャララに強い弁護士」

「チョメチョメに強い弁護士」
が聞いたからといって、話の内容が明快になるわけでもありません(もちろん、精神科医や臨床心理士の資格をもっている弁護士であれば、「私が原因ではなく、私が聞いてもわからない話、混乱した人間の言語や混乱した話の内容」も精神医学の知見を活用して理解できる、ということもあるのかもしれません)。

「言葉もわからないし、話もわからないし、そもそも話している人間が混乱しているので、どれほど賢くて洞察力がある人間が聞いても、何を言いたいのかさっぱりわからない」
という状況であれば、
・複雑で高度の専門性を含む内容
・日常の感性的経験では知り得ない、有形の現象の世界の奥にある、精神的で抽象度の高い、形而上の内容
・世界の数人しか知り得ない、画期的な先端分野に属するテーマ
といった類のお話です。

話の内容としての価値や意義はさておき、つまるところ、
「世界の誰にも理解・共有されない話」
というほかありません。

「平均以上の知性と洞察力があっても理解できない話」
「東大出にも理解不能なほど難しい話」
ということになると、私もそうですが、裁判官も当然理解できないですし、
「それほどまでに特殊で経験則が通用しない、ぶっ飛んだ話」
は、訴訟の俎上にすら乗せられませんので、勝つ・勝たないどころの話ではありません(おそらく、紛争の実体としては、そんな超絶に難しい話ではなく、要約すれば、「単なる意見の食い違いで、カネや権利や財産や立場に実害が生じた、実に陳腐でしょうもない、犬も食わない下世話なケンカ」の話です。ただ、これを、口下手で話下手で社会性が乏しい方が、頭脳もメンタルも混乱した状態で高級な言語を使って語るので、聞くのにエラい時間と労力がかかって半端なく面倒、というケースがほとんどです)。

結局、高度で先端的で専門的で抽象的で難解な分野の法律問題については、
法的三段論法の小前提(法適用前提としての端的な紛争事実や状況)に還元できるかどうか、
が中核的・根源的な問題部分であり、
「高度で先端的で専門的で抽象的で難解な分野」
に詳しいかどうか、
というより、
「高度で先端的で専門的で抽象的で難解な分野」
に属する事実や状況を、咀嚼能力やアナロジーを用いていかに簡素かつ端的に叙述するか、
という営みこそが決定的に重要です。

そして、そのためには、
・事件の当事者が、混乱せず、状況を、通常の知性と読解力と経験則と洞察力ある人間が聞いてわかる程度の、普通の日本語として話せるかどうか
という方が重要であろうと思います(弁護士としても、「普通の日本語として話された混乱の要素のない内容」であれば、ミエル化・カタチ化・透明化・シンプル化・平易化した上で、文書化・フォーマル化できます)。

最後に、仮に、
「専門的内容」
を含む問題を抱えた方や、トラブルの当事者となった専門的なことを研究されている方と、言葉が通じ、話が通じたとしても、当該問題が、法律を使って解決可能かどうか、とは別の問題です。

当該問題を訴訟等で解決しようとしたら、複雑で高度な内容を、
「通常の知性と読解力と経験則と洞察力ある裁判官が聞いてわかる程度の、普通の日本語」
に言語翻訳・意味翻訳する必要と、話の内容を支える根拠資料を整えてプレゼンテーションする必要があります。

そして、そのためには、話の単純化・シンプル化・安直化と、話のミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化と、根拠資料の整理と選別と提出プレゼンテーションに、途方もない資源動員(カネや手間暇)と時間がかかります。

しかも、それだけ時間とカネと手間暇をかけても、期待できる結果がしびれるくらいチンケな額、という場合がほとんどです。

こういうゲーム環境やゲーム・ルールやゲーム状況やゲームの相場観を知れば知るほど、目の前の
「高度に専門的内容を含む、人類の進歩にとって、大きな意味と価値を意義を有する、ケンカ」
を法と裁判制度を使って解決しようとする営みは、
「1万円札を10万円で購入する」
というくらい経済的にアホなプロジェクト、と判明する、なんて状況が出てきます。

そんな状況が判明したり、あるいはそんな状況が訴訟の途中や最後にわかってきた場合、今度は、別の混乱が生じます。

特殊な問題を抱えた方や、特殊な研究をされている特殊な属性の方々は、
「社会性が乏しく、思い込みが激しく、自我が肥大し、我が強く、孤高というか諸事自分勝手で、情緒安定性にやや欠けるタイプ」
という方々も少なくなく、そういう方々に限って
「そんな話はあり得ない」
「こっちは被害者なんだから、もっと多額の賠償が認められるはずだ(※日本の裁判制度は、加害者に優しく、被害者に冷淡です)」
「普通、懲罰的賠償とかがあって、陪審員も、今回のような件であれば、数十億円の賠償を認めるでしょう(※それはアメリカの話ですが、ここは日本です)」
「そんな、証拠とか事実とか、細かい話がなくても、類まれなる知性と洞察力ある裁判官がすべてお見通しで、ズバッと解決してくれるでしょう(※適当な主張と不十分な証拠だけで裁判が進むのは、暗黒の中世ヨーロッパです)」
「もし、そうなら、日本の司法は腐っている(怒)!」
とか割と勝手なことをわめき出すことが多かったりします。

ひょっとしたら、そういう方々がそういうことを言い出す状況において、うまくコミュニケーションをとって、なだめすかしたり、ごまかしたり煙に巻いたりできるスキルがあることが、
「チョメチョメ訴訟」の専門性
「ホニャララ分野の事件」に強い
ということなのかもしれません。

9割近く敗訴することが経験上の蓋然性として明らかな、(中略)事件や、(中略)事件等においては、動員資源と期待値とのバランスを冷静に考えれば、
「このギャンブルは、期待値1万円の当たりくじを、20万円で購入するような、カネをドブに捨てるような、狂気の行為」
でることは明白であり、訴訟などしない方が圧倒的に賢明です。

したがって、9割近くの当事者が
「こんなバカな結果になった挙げ句、弁護士費用分見事に大損したが、こんなアホな訴訟、最初から、やんなきゃよかった」
と後悔することが見込めるにもかかわらず、
「チョメチョメ訴訟に強い」
「ホニャララ分野の事件なら、私に任せなさい」
という宣伝文句に踊らされて、
「私に任せれば勝てます。いや、これは勝つべき事件だ」
などという無責任な口車に乗せられ、無謀に訴訟をおっぱじめた挙げ句、しびれるくらいたくさんの時間と労力とカネを不可逆的に喪失する、という地獄をみるケースも少なからずあろうかと思われます(そういう場合、専門性ある弁護士の方は、クライアントとのトラブル経験に基づく専門スキルを用いて、うまくコミュニケーションをとって、なだめすかしたり、ごまかしたり煙に巻いたりできるのでしょうか)。

そういうことも考えると、訴訟やトラブルに遭遇した場合、扇情的な話に踊らされず、正しく、しっかりと本質と状況を見極め、冷静に対応を考えるべきです。

すなわち、
ホニャララに強い、
チョメチョメに勝てる、
というのも、話半分、半値八掛け二割引で、「特定の経験があったり、依頼者属性や知識が偏ってるんだ」くらいに捉えて軽く聞き流し、
・当該分野の知識や経験
・当該分野を離れた実務法曹としての知識や経験
・具体的な経験の中身や質
・経験知の内容
・目の前の事件における現実的なゴール設定
・展開予測
・派生する各種課題
・課題対処上の具体的選択肢とその長短所(特に動員資源)
・ゲーム状況の見極めのポイント
・泥沼化した場合の予測される動員資源の費消状況予測
・ゲーム・チェンジの際の手段や方法論
・敗訴状況の可能性とその場合の被害予測と各種資源の冗長性確保とダメージコントロール対策
といった、具体的で中身のある話がどの程度出来るか(あるいは出来ないか)を確認し、
「こいつと、長期の消耗戦を闘い抜くために必要な動員資源(カネ、チエ、手間暇)をフェアに負担しあえる、強固なパートナーシップを構築できるか」
という点をしっかり見るべきです。

要するに、カネや権利や財産を預ける人間を選ぶ際には、
(知性に問題があったり社会経験に未熟な方向けの)宣伝文句やふれ込みに惑わされず、
「ラベル」ではなく「レベル」
で選定するべきであり、
そのような選定を可能にするための
「確固たる哲学と価値観と相場観」
を持って話を聞くべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00673_証人尋問の最大のヤマ場は反対尋問ではない

証人尋問の最大のヤマ場は、決して、
「相手方代理人からの厳しい反対尋問」
ではありません。

「私なりの理解と認識と解釈によりますと」
という限定ないし留保がついてしまいますが、当事者の情緒的な思いを切り離し、観察基準点を裁判官からの視点・観点に切り替えてみますと、
「証人尋問手続きにおいては、主尋問もさることながら、反対尋問について適切な尋問が行なわれる期待はあまりなく、本来の制度運用から考えて無意味で無関係で無価値なものが多い」
と思われます(その昔、裁判官へのアンケートで、弁護士の尋問において有効適切なものはどのくらいあるか、という質問があったのですが、有効適切と答えた割合が思いのほか低く、裁判官は、弁護士の尋問に期待していない、という状況が鮮明に示されていたことを記憶しています)。

弁護士の能力や、尋問の制度趣旨の理解能力の問題も関係しているかもしれませんが、そのこと以上に、弁護士も当事者側に立つわけですから、当事者としてのバイアスやフィルターがかかるわけですし、中には情緒的・攻撃的な当事者にシンパシーを感じ同調する場合もあるでしょうし、依頼者対策として
「怒り狂っている当事者の気持ちを大きな声と派手なパフォーマンスで代弁して溜飲を下げる」
というくだらないことをしないとギャランティがもらえない、という事情が反映していることもあるでしょう。

もちろん、
「裁判官は、弁護士の尋問に期待していない」
というのはデフォルト設定として、という意味である、中には、裁判官が聞きたいことや、口頭でしか語れない書面の隙間を巧みに埋めるようなエピソードやサイドストーリーを聞き出す
「上手い尋問」
が飛び出す場合があるかもしれません。

考えてみればそうでしょう。

2人がケンカして、今でも殺し合いが始まるくらい、揉めに揉めて揉めまくっていて、ケンカの仲裁に入った自分が最終決定権がある状況で、責任を以て事情を聞かなければならない。

責任ある仲裁人である自分が、冷静かつ中立的かつ客観的な立場で、直接、普通に事情を聞けば、とっとと解決できるかもしれない。

にも関わらず、やたらと弁が立ち、相手の揚げ足を取るのが巧みで、小利口で厄介な連中が、小遣い銭をもらって、代弁者として立ち、事件を正しく解決することなどお構いなしに、成功した場合のギャランティを目当てに、その連中が、自分(仲裁者)の代わりに、インタビュアーとなってヒヤリングをおっぱじめることとなり、自分が直接インタビューできず指を咥えてみているほかない、という面倒でキテレツな方法でヒヤリングがおっぱじまることになった。

代弁者は、ギャランティ目当てのスポンサー向けにパフォーマンスとばかり、無意味で非本質的なことばかり聞いて、相手の足を引っ張ろうとしたり、相手を困惑させたり、相手を侮辱したり、ケンカの話とは別の因縁の話に脱線したり、人格や数年前の別の失敗を持ち込んだり、ケンカは収まるどころか、余計に話がややこしくなり、ケンカが余計に激化するだけ。

そんな無意味でむちゃくちゃな仲裁ルールがデフォルト化したら、仲裁する立場としては、
「証人尋問手続きにおいては、主尋問もさることながら、反対尋問について適切な尋問が行なわれる期待はあまりなく、本来の制度運用から考えて無意味で無関係で無価値なものが多い」
という諦めの気持ちとともに憂鬱な気分で証人尋問に臨む、ということもなんとなく納得できます。

では、なぜそんな
「無意味で無関係で無価値な証人尋問」
をわざわざ行うのか、というと、
「ひょっとしたら書面と全然違う事実が判明するかもしれないので消極的確認を尽くしておく」
という保険的意味合いがあります。

加えて、地裁の裁判官としては、たとえ事件の筋が明らかであっても、高裁段階で新たな事実や証拠が出てきて、
「地裁できっちり調べることなく適当な欠陥判決を出しやがった」
という怨嗟の声とともに自分の判決がひっくり返される危険と恐怖(手抜き裁判で当事者と高裁に迷惑をかけ顰蹙を買う恐怖)を防止する必要から、手続保障を尽くしておく、という実に志の低い意味合いからです。

とはいえ、実際証人を呼んだところで、ほとんどのケースでは、それまで出てきた主張やこれを支えた書面の証拠から大きく逸脱することはなく、ただ、弁護士が、依頼者向けパフォーマンスも含めて、どうでもいいことをぐちゃぐちゃ突いて、したり顔になっている、裁判官はそのような心象風景で冷ややかに眺めている(あるいは、あまりにくだらなく退屈で半分眠っている場合もあるかもしれません)・・・これが、私が実務経験を通じて知る民事裁判の尋問の現場の実際です。

証人尋問は、裁判官からすると、極めて例外的な場合を除き、主尋問反対尋問それぞれが退屈で眠たい儀式として行なわれ、その様子をつまらなそうに眺めて付き合うのですが、そんな裁判官が、終盤も終盤になって、突然張り切る場面が出てきます。

尋問の最大のヤマ場中のヤマ場、
「補充尋問(裁判官による質問)」
です。

補充尋問では、本当に重要で、事件の勝敗分岐にかかわる決定的事項の確認がなされます。

考えてみれば当たり前です。

事件の勝敗を決するステークを握る覇権的な独裁者である裁判官が、直接興味や関心をもって事情を聞くわけですから、つまらない質問や関係ない質問や無意味な質問は一切ありません。

先程のケンカの仲裁の話のアナロジーで解説しますと、
「やたらと弁が立ち、相手の揚げ足を取るのが巧みで、小利口で厄介な連中が、小遣い銭をもらって、代弁者として立ち、事件を正しく解決することなどお構いなしに、成功した場合のギャランティを目当てに、その連中が、自分(仲裁者)の代わりに、インタビュアーとなってヒヤリングをおっぱじめることとなり、自分が直接インタビューできず指を咥えてみているほかない、という面倒でキテレツな方法のヒヤリング 」
がようやく終わり、仲裁の最終決定権があり、責任を以て裁断すべき自分が、いよいよ、冷静かつ客観的に観点から、事件の確信の話をインタビューできる、という場面がやってくるわけですから、無意味なわけはなく、むしろ、事件の核心に迫る、最重要局面といえます。

もちろん、裁判官として特に聞きたいことがない、もう結論を決めている、聞きたいことはあったが主尋問と反対尋問で聞いてくれたので十分、という場合は補充尋問無しで尋問は終了します。

補充尋問の際、裁判官の中には、滑舌が悪くボソボソと小さい声で何をいっているのかわからない、質問そのものが下手くそ、という残念な人間もいます。

そのときに、適当に曖昧に愛想笑いしていい加減な答えをしたばかりに、
「それまで話した内容とまったく違う答え」
と誤解されると、取り返しのつかない事態になります(私の実際の経験ですが、滑舌の悪い小声の裁判官の質問に、反対尋問で気が抜けた相手方証人が適当に相槌を打って適当にやり過ごそうとしたことで、思わぬ方向で、事件が進み、こちらが望外の結果を手にした、ということがあります)。

なにせ、弁護士が裁判官質問に異議を出すなんてことをすると、裁判官から不興を蒙り、判決や心証形成の際のしっぺ返しの元凶を作ることにもなりかねません。

再主尋問も反対尋問も終了したあとなので、是正・訂正する機会もありません。

すなわち、裁判官に対する受け答えが、最終的かつ決定的な答えとして事件を決定づける可能性が大きいのです。

裁判官の質問が聞き取れない、わかりにくい、答えにくい場合は、弁護士から異議を出すのは難しいので、証人の方から、
「ちょっと質問が聞き取れません」
「質問の意味がわかりません」
とダメ出ししましょう。

質問した裁判官は、怒ることなく、明瞭に質問しなおしてくれたり、もっと簡単で端的な質問に切り替えたりしてくれるはずです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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