00562_訴訟を提起する目的その5:仕方なくやっている・パターンB(株主や経営幹部への説明対策上やっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

訴訟提起の目的としては、
「株主や経営幹部への説明対策上仕方なく訴訟提起した」
というのもあります。

例としては少ないですが、例えば
「投資先や融資先が破綻したにもかかわらず、何もせず放置しておくと、そんないい加減なところと仲良しと思われ、不正な投融資により会社の資産を相手方と共犯となって食いつぶしたと勘繰られるので、放置はまずい」
という状況です。

そういう状況において自分の立場の正当性を示すためには、相手方に対してシビアに対応するポーズを示しておく必要があり、その手段として訴訟を提起する、というわけです。

こんな目的のために訴訟を提起された方としてはたまったものではありませんが、これも意外と時間が解決してくれることがあります。

すなわち、訴訟で1年、2年と経過するうち、肝心の株主の関心が薄れたり、あるいは株主の構成がかわったり、経営幹部が入れ替わったり、なんて形で、内部で事件をマジメに追求する人間がいなくなることにより、訴訟提起した目的が半ば達成された状態に至り、最後には弁護士費用分無駄だからテキトーに和解、なんて結末を迎えることがあったりします。

こういうときにビビって早く和解するより、それなりにダラダラと手続を延ばした方がメリットのある解決を得る芽がでてくるので、有利です(裁判所も和解で終わった方が、判決を書く手間が省けるので喜ばしいし、訴訟を提起した弁護士側もタイムチャージでもらっているのであれば、ダラダラした方がトク。結局、原被代理人と裁判所全員メリットがあることになります)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00561_訴訟を提起する目的その4:仕方なくやっている・パターンA(税務的都合でやっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

利害対立がシビアな典型的な紛争パターンとは別に、世の訴訟には、
「ガチンコバトル」
ではなく、やる気がまったく感じられないようなものもあります。

ご存じの方も多いかと思いますが、回収できない債権は持ってても何のトクにもならないので、早く償却するのが賢明です。

理論的に説明しますと、法人税法により、法人が貸倒れによって債権を回収できないときは、貸倒損失として所得の計算上損金に算入できるから、というのがその理由です。

つまり、法人としては、回収するあてもない債権を資産として計上するより、
「回収の努力をした結果、やっぱりできない」
という客観的事実を積み上げ、とっとと損金にした方が税務上メリットがある、ということになります。

貸倒れの認定としては、

1 いわゆる倒産に至った場合(破産や民事再生、会社更生法、会社法による特別清算)
2 任意整理において債権者集会の協議決定がなされた場合
3 債務超過が常態化し、弁済を受けることができない場合
4 債務者の資産状況、支払い能力等からみて全額が回収できないことが明らかとなった場合

の状況が認められるときに限られます。

逆に、こういう状態でないのに、勝手気ままに債権放棄したら、当該放棄額は法人税法上の寄付金と認定されるリスクが発生します。

すなわち、税法上は、法人が相手方に対し贈与や債権放棄した場合、寄付金として取り扱われることとなり、寄付金の限度計算を超えた額が益金に算入され、その分の租税負担が発生するのです。

そんなわけで、
「とりあえず、訴訟を提起しておいて、相手方の懐具合が空っぽで、たとえ勝っても取れっこなく、却って訴訟費用がかさむような場合、裁判所という第三者的機関の斡旋により一部債権放棄して和解し、とっとと当該放棄部分を損金で落とす」
ということが法人にとって合理的行動とされる場合があり、そのための手段として、訴訟を提起するケースが出てくるわけです。

馴れ合いといえば馴れ合いであり、裁判所としても節税のためのセレモニーに使われるのも迷惑でしょうが、実務的にはよくおみかけします。

そんなわけで、もし相手方がこういう目的で訴訟を提起してきた場合、相手方の真意をよく把握し、請求の存否に関する法的主張や反論もさることながら、いかに自分がビンボーかをアピールすることが双方にとって無意味な紛争を早期に解決するという観点からは重要だったりします。

事件を徹底的に争いつつ、相手方原告の決算期までもつれ込ませると、3月下旬に、あっさり和解なんてケースも実際ありますし、タイミングを見計らったり、それとなく相手方弁護士と本音を開示しあえる交渉環境を作ることも有益です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00560_訴訟を提起する目的その3:怨恨を晴らすためにやっている(相手方をイジメたいからやっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

訴訟提起の理由として、相手方を苦しめるために訴訟を提起する、という場合があります。

訴訟による解決は、世間で思われているほど効率的ではありません。

訴訟を提起し、遂行するのは非常に時間とかエネルギーを要する一大事業です。

訴訟を提起したからといって必ず自分の言い分が認められるかというと、これも非常に難しい。

さらに、訴訟に勝っても相手方にお金がなければそれ権利を実現することは事実上不可能です。

「だが、少なくとも訴訟を提起することにより応訴の負担を相手に強いることができる。
とにかく現状を座視することはできないし、泣き寝入りするよりもまし」
という感じで訴訟を提起する人も結構いらっしゃいます。

カネ目的ではない分、合理的かつ理性的な話合いができないし、その意味ではカネの回収や目立ちたがり屋よりもタチが悪いタイプといえます。

この種の訴訟は、弁護士が依頼者と同化し、冷静なブレーキ役ではなく、一緒になってワーワー騒ぐようなタイプだと混乱に拍車がかかります。

さらに、これに刑事告訴とかも加わったりして、かなり物騒な雰囲気をかもしだします。

もし、こういう目的で訴訟が提起された場合、あまりアツくならず、過剰な装飾語(「不当」「言語道断」「法の趣旨を曲解した所業」「正義衡平の理念に反する」「法の趣旨目的の許容せざるところである」)が多用された相手方の主張に逐一反応せず、淡々とクールに自分の立場の正当性をきちんと説明することを心がけることが大切です。

それと、徹底して時間をかけて慎重に訴訟を進めるべきでしょう。

時間が相手方の気持ちを変化させ、和解の気運を呼び込むことだってありますから。

特に、経営陣ではなく、社外役員まで連座して訴えられた場合、社外役員はどちらかというととばっちりを受けた立場だと考えられます。

特に、社外役員等で、執行陣の危険な意思決定に積極的に加担していたわけではないことや自分はあくまで反対の意見を表明したこと等の事情がある場合、これらもきちんと説明した方がいいと思われます。

一見法的に無関係でも相手方の心情に影響や変化を与えるべき情状的な事情を述べ、とっとと個別に和解して脱退することもアリですから。

なお、この種の事件で対応を間違えると大変です。

たまに依頼を申し込まれる方で、
「最高裁まで係属してもかまわないから判決を取ってくれ。強制執行しても取れなかったら、強制破産(債権者破産)をして、相手方が経済的に死滅するまで徹底した手段を実施してくれ。刑事告訴できるネタがあったらじゃんじゃん頼む。カネならある」
などとおっしゃる方がいらっしゃいます。

こんなタイプの人を相手に
「強制執行しても取られるものなんにもないから大丈夫。多額な予納金が必要な強制破産なんてされっこない」
などとタカをくくってナメた対応していると、ホントに破産させられ、経済的信用を喪失する場合がありますので、注意が必要です。

なお、この怨恨を晴らすためにやっている(相手方をイジメたいからやっている)という目的に限定して言えば、訴訟というのは、極めて有効に作用します。

すなわち、憲法は裁判を受ける権利を人権として保障しておりますので、法的紛争があれば、裁判所という司法権力を担う国家機関は、裁判を拒否出来ませんし、相手も、放置したり、無視・座視していたら、欠席判決を食らったりしますので、それなりの対応を強いられます。

もちろん、不当訴訟などと言われるようなやり方は問題を却ってややこしくしますので推奨できませんが、訴える権利や法的立場があれば、裁判所を使うこと自体、保障された人権を行使しているだけですから、誰も非難できません。

その意味では、裁判を、
「権利が認められず、切羽詰まって止むに止まれず、窮余の状況を打開するため、最終手段として、用いるもの」
としてしか使えないわけではなく、
「法的権利関係が観念しうる相手方に対して、紛議を、大事(おおごと)化、フォーマル化することを通じて、法と裁判制度を使って、大掛かりな合法的嫌がらせ」
として利用しようとすれば、でてきしまう現状があります(いいか悪いかは別として)。

したがって、裁判制度を、このような、
「法的権利関係が観念しうる相手方に対して、紛議を、大事(おおごと)化、フォーマル化することを通じて、法と裁判制度を使って、大掛かりな合法的嫌がらせ」
としても機能しうる現実を考えるならば、怨恨を晴らすため(相手方をイジメたいから)訴訟を提起するという意思をもつ人間にとっては、訴訟は、極めて有効な方法として活用できてしまうことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00559_アクティビスト・ファンドが、株主代表訴訟を提起する目的は?

アクティビスト・ファンドが投資先の会社の役員を株主代表訴訟で訴える場合がありますが、一体これは何の目的でやっているのでしょうか?

会社の役員を訴えて、本来の営業とは違う活動にリソースを割かせると、経営の足を引っ張ることになります。

また、会社も補助参加することは火を見るより明らかですから、会社本体も大きな活動低下を招きます。

金融機関や取引先その他のステークホルダーからの印象は悪くなりますし、株価も下がることもあるでしょう。

アクティビスト・ファンドは、自分の投資先を痛めつけて、企業価値を下げて、一体何をしたいのでしょうか?

アクティビスト・ファンドが株主代表訴訟を提起する際、一応、
「企業統治を正常化する」
といった大義名分が掲げられますが、ファンドは経済的目的をもった組織である以上、
「世直し」
をやるために投資家からカネ集めをしているわけではなく、最後は、リターンすなわち、ゼニを増やすことが活動の目的です。

株というのは、
「行きはよいよい帰りは怖い」
ではないですが、安値で放置されている株を買い集めるのはさほど難しくないのですが、
「高値でさっくり売り抜ける」
という出口戦略はなかなか構築困難です。

一番いいのは、自社株買をアナウンスしてもらうか、さらにいいのは、MBOを実施してもらい、プレミアム(支配プレミアム)をたっぷり付けて一気に高値買い戻してもらう、というシナリオです。

そのために、
「もう株式公開など懲り懲り。早く、資本市場から退出したい。MBOで逃げるのは恥だが、役に立つ!」
と思い込んでもらう必要があり、そのために、コンプライアンス・モンスターとなって、モラハラの一環として、この種の代表訴訟をしかけて、音を上げさせる、という意図が背景に存在する場合があるようです。

本音では、
「安値で転がっている株を買い集めたが、出口が見つからず、ファンドの期限が近づいて困っているので、MBOして、高値で一気に引き取らせたい」
という気持ちですが、まさか、そんなグロテスクでエゲツないことを言うわけにもいかず、
「コーポレート・ガバナンスを回復する!」
という心にもない建前をのたまわれ、世間に美しい誤解を撒き散らす、ということなのであろう、と推測されるところです。

したがって、この種の株主代表訴訟は、唱えられるお題目や大義名分はさておき、
「私利私欲にまみれまくった、100%ピュアで天然な銭ゲバルト」
として展開されている、と理解・把握すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00558_訴訟を提起する目的その2:社会的目的でやっている(目立ちたいからやっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

次に、相手方(原告株主)が、
「取締役の不正を徹底して糾す」
なんて高尚な目的で本件訴訟が提起されているとしたら、少々厄介です。

社会的目的や
「コーポレイト・ガバナンス」
とかお題目を唱えているものの、要するに目立ちたいからやっているわけで、この種の原告の意識としては、カネよりも派手なパフォーマンスであり、
「目立つためなら、時間とコストを惜しまない」
という腹積もりができています。

ただ、特に、経営トップや経営執行陣ではなく、社外役員として名を連ねている部外者の場合、相手方 (原告株主)の本来の闘争の対象からは外れている可能性が大きいです。

こういう状況においては、弁護士代をケチらず、代表取締役ら経営主要幹部の弁護士とは別に、自分個人の費用で腰の低い温和なタイプの弁護士を雇い、
「そちらのメインターゲットの責任追求については必要な協力をするから、僕だけは抜けさせてくれ」
と頼み、とっとと自分だけ和解して
「一抜けた!」
とやってしまうのも手です(弁護士代をケチって、代表取締役ら経営主要幹部の弁護士を、彼らと共同で委任していると、仲間とみなされ、判決まで連座させられることになりかねません)。

さらに厄介な事例を挙げますと、アクティビスト・ファンドなどによる代表訴訟の場合です。

一応、
「企業統治を正常化する」
といった大義名分が掲げられますが、ファンドは経済的目的をもった組織である以上、
「世直し」
をやるために投資家からカネ集めをしているわけではなく、最後は、リターンすなわち、ゼニを増やすことが活動の目的です。

株というのは、
「行きはよいよい帰りは怖い」
ではないですが、安値で放置されている株を買い集めるのはさほど難しくないのですが、
「高値でさっくり売り抜ける」
という出口戦略はなかなか構築困難です。

一番いいのは、自社株買をアナウンスしてもらうか、さらにいいのは、MBOを実施してもらい、プレミアム(支配プレミアム)をたっぷり付けて一気に高値買い戻してもらう、というシナリオです。

そのために、
「もう株式公開など懲り懲り。早く、資本市場から退出したい。MBOで逃げるのは恥だが、役に立つ!」
と思い込んでもらう必要があり、そのために、コンプライアンス・モンスターとなって、モラハラの一環として、この種の代表訴訟をしかけて、音を上げさせる、という意図が背景に存在する場合があるようです。

本音では、
「安値で転がっている株を買い集めたが、出口が見つからず、ファンドの期限が近づいて困っているので、MBOして、高値で一気に引き取らせたい」
という気持ちですが、まさか、そんなグロテスクでエゲツないことをいうわけにもいかず、
「コーポレート・ガバナンスを回復する!」
という心にもない建前をのたまわれ、世間に美しい誤解を撒き散らす、ということなのであろう、と推測されるところです。

したがって、この種の株主代表訴訟は、唱えられるお題目や大義名分はさておき、
「私利私欲にまみれまくった、100%ピュアで天然な銭ゲバルト」
として展開されている、と理解・把握すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00557_訴訟を提起する目的その1:経済的動機(カネがほしいから訴える)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

まず、個人で取りっぱぐれて訴えを起こしてきたようなタイプの方がいるとすれば、このような経済的動機で訴訟をやっている(カネがほしいからやっている)場合と想定されます。

なお、純粋にカネ目的の訴訟とすれば、本ケースはあまり効率的な訴訟とはいえません。

主張・立証課題が多いですし、課題の多さに比例して弁護士費用もそれなりにかかります。

万が一勝ったとしても、役員にお金がないと、判決を取っても結局お金を取り返すことはできません。

さらにいえば、株主代表訴訟は金銭の支払いを目的とする訴訟であるものの、請求が認容されても、株式会社への金銭の支払いが命じられるだけです。

すなわち、原告となった株主が直接利益を得るわけではなく、会社の財産状態が改善して、間接的に債権の回収可能性が増える、という意味しかありませんので、この点でも、構造的に、債権回収期待は非常に乏しい状況です。

お金にある程度余裕があり、お金儲けができる方であれば、こんな後ろ向きのことに時間とエネルギーと弁護士費用をつっこまず、
「債権管理の甘さの勉強をさせてもらった」
と考えて今回の件は吹っ切り、とっとと次のビジネスの成算を高める方向に自分の意識を転換させることができるでしょう。

その意味では、カネ目的で訴訟を起こすという相手方(原告株主) はそれなりにテンパっている方と推測されます。

ただ、カネがほしくて、それだけが目的で訴訟を提起しているという状況は、取締役被告側にとって都合のいいことです。

なぜかというと、カネ目的ということは、相手方(原告株主)が
「カネは、時間との相関関係において値打ちが変わってくる」
という程度の計算が働く程度の知能がある、ということですから。

被告取締役サイドがそのような相手方(原告株主)の目的あるいは状況を見越して、徹底して争う姿勢をみせ、手続に時間がかかることを相手方 (原告株主)に匂わせることができれば、相手方 (原告株主)が折れて適当な額での和解に至る可能性があるからです。

とくに、相手方 (原告株主)がカネに困って訴訟を提起しているような状況であればチャンスです。

貧すれば鈍す、という言葉にもあるように、空腹であれば腐肉にでも手が出てしまうのが人間です。

相手方 (原告株主)が
「最高裁まで争って数年後に億単位の請求を認める判決が確定されるという理論上の可能性に賭けるよりも、被告取締役に、詫びを入れさせ、適当な和解金を会社に支払わせる方がはるかに意味がある」
と考え、不利な和解をしてしまうケースなんていうのは実務においては珍しくありませんから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00556_訴訟を提起した場合に警戒し、ケアすべき「敵」を知る

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」
とは孫子の兵法でも有名な一節ですが、これは訴訟対策にもあてはまります。

すなわち、訴訟対策を行うためには、敵を知る必要があります。

裁判沙汰となる紛争に発展した場合、敵は何を考え、どう行動しようとするのか、具体的考えていきましょう。

ここで、通常、
「敵」
というと訴訟の相手方、訴訟の相手方を思い浮かべますが、裁判において
「敵」
として注意しなければならない存在はこれだけではありません。

弁護士は、訴訟の相手方だけでなく、裁判所も
「場合によっては自分に不利な方向で事件をさばく可能性があるという文脈において敵である」
という認識の下、漫然と裁判所を信頼することなく、その動きを注視し、手続の方向や心証の動きをきちんとみておくべきであり、そうしないと思わぬところで足をすくわれます。

すなわち、裁判というゲームにおいて、生殺与奪の鍵をもっている裁判所であり、その裁判所が判断の基礎を置く法律や判例というのが、訴訟の相手方以上に危険かつ厄介な存在であり、もっともケアしなければならない存在です。

かなり前のことになりますが、ノーベル賞も取った某大学教授とその教授が所属していた企業との発明の対価をめぐる東京高裁での紛争がありましたが、その和解直後、当該教授は記者会見において
「日本の司法は腐っている」
などとかなり激しく怒っておられました。

この教授は、おそらく、
「裁判所が敵となる場合」
という状況を想像せず、
「自分たちの言い分を、常にきちんと聞いてくれる味方である」
という勝手で強固な思い込みをしておられたのであり、だからこそ
「裏切られた!」
という感情が強く出たのでしょう。

プロの訴訟弁護士からすれば、司法の判断が裁判所毎に変わったり、世間の常識とまったく逆の経験則でありえない事実を認定したり、明らかに条文の解釈や法的安定性を無視した判断を裁判所が平然とすることなど日常茶飯事です。

したがって、裁判所が常に正しい訴訟運営と事実認定をするとは限らず、むしろ逆の事態を発生しうるリスクとして頭に入れておくべきです。

「定数問題において、投票の価値が1 : 1でなくても平等原則に反しないなんてことを平気でいったりする権力機関」
からすれば、発明の価値を200億から数億円程度に減じることなど
「たいしたこと」
のうちに入りません。

その意味では、例の大学教授は、こういう事情を弁護士からきちんと説明を受け、訴訟の帰趨に対する期待値を適切な水準にまで下げていれば、あのように取り乱すこともなかったと思われます。

今でこそ、裁判所や裁判官ってなんとなく上品で紳士的なイメージがありますが、法を解釈したり事実の存否を認定できる権力って、実はこの社会においてもっとも強大で危険でヤバいものです。

裁判所は違憲立法審査権という権力をもっていますが、これは、
「不透明な選任過程で選ばれた、見たことも聞いたこともない15人の地味な老人」
が、選挙で選んだ議員が喧々諤々の議論の末決めた法律や、民主的基盤を持ち営々と行ってきた行政府の行為を、
「独自の憲法観に合わない」
という理由だけで、吹っ飛ばせるパワーですから、十分ラディカルな権力といえます。

いずれにせよ、本件ににおける訴訟対策を考える上で、原告・債権者、それに裁判所や裁判所がこの種の問題でどのような判断を指向するか、という点をきっちり把握しておく必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00555_取締役が、「異議を留めるべき、冒険的で危険なプロジェクト」が取締役会に上程された場合に異議を留めなかった場合のリスク

会社法429条には
「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」
とあります。

取締役 が重大な過失に基づき、
「本来であれば反対すべきような経済的合理性を欠如した事業投資」
に明示あるいは黙示により賛成したことにより、会社が倒産し、債権者に対して回収不能相当額の損害を与えた、という法律構成に基づき、その賠償を請求されるリスクが生じます。

会社から請求される場合もあれば、株主から、監査役への提訴要求通知を経由して、最終的に株主代表訴訟が提起され、責任追及されることにもなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00554_取締役に選任されたものの、トップの独裁と暴走が激しく、「これ以上、関わったら、賠償責任を負いかねない」と判断した場合の究極のリスク回避手段

「三六計逃げるに如かず」
といいますが、無謀な事業計画が浮上した場合、あれやこれや社内にとどまってがんばるより、辞めてしまうという方法があります。

「辞めてしまうと、せっかくもらった捨て縁にありつけない」
という思いもあるかもしれませんが、ここはリスクとメリットのバランスの問題です。

さらにいえば、取締役は辞任しておいて、顧問や外部コンサルタントでお金をもらったっていいわけですから。

取締役を辞めるには、辞任届を出せばいいのです。

辞任は、会社の了解とか承認とか受諾とか受理みたいなものは一切いらず、取締役が単独で一方的に意思表示をすればいいだけです。

もちろん、会社側としては、
「聞いていない」
「非常識だ」
「認めない」
「許さない」
というかもしれませんが、会社と取締役との関係は民法の委任契約関係を基礎に置く以上、辞任は何時でもできる(民法651条1項 )以上、これら会社の妨害や抵抗は法律上全て
「寝言」扱い
であり、内容証明郵便で送りつければ、それで、辞任は一方的に、有無をいわせず、完了します。

しかし、登記の問題は残ります。

登記するのはあくまで会社ですから。

会社が取締役辞任届を受理しながら、その旨登記せずに放置しておくと、第三者には会社の取締役を辞任したことを対抗できませんので、注意が必要です。

この場合、最終的には、会社を被告として、
「辞任したから、とっとと辞任の登記をせよ」
という訴訟を提起することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00553_「トラブルなき成功」を掴む経営者になるための予防法務センスの磨き方

予防法務のセンスというものを身につけるのはなかなか難しいです。

そもそも、予防法務のセンスは、多くの法律や契約法理を実体と手続の両面についてくまなく理論的把握するとともに、また大小の法的トラブルを臨床経験し、さらに他人の失敗を自分に置き換える想像力を駆使するなどして、はじめて築けるものであり、極めて特異な
「第二の天性」
です。

もちろん、われわれプロの弁護士は、人類の紛争経験知の集積たる実務法学理論を徹底して身につけ、さらに、日々他人の紛争を介入することにより場数を踏んでおりますので、一般の方とは違った目線で取引案件等にひそんだリスクを見つけ出すことができます。

われわれプロの弁護士と同等の予防法務能力のある企業経営者は非常に少ないと思われます。

その意味では、企業経営者が固有の能力として予防法務のセンスを発揮することは少なく、企業経営者でトラブルを避けるのがうまい方は、日頃から弁護士と密にコミュニケーションを取っておられ、疑問に思ったり、何か不安なことがあったら直ちに電話で相談され、リスクを芽のうちに摘み取られるという方法を採用しておられます。

逆に、
弁護士とコミュニケーションが少ない経営者、
簡単に他人を信頼してしまう経営者、
取引をはじめとした経済事案を法的リスクの面から検証することを知らない経営者の方、
さしたる警戒を払わなくても何事も簡単に成功すると信じてビジネスを進める経営者の方、
といったタイプの方の多くが、法的トラブルに見舞われ、ビジネス界からの退場を命じられています。

もっとも基本的かつ有効な予防法務手段とは、法律をよく知ること(あるいはよく知っているアドバイザーを付けること)と、よく知らないまま行動しないこと、です。

「よくわからないままその場の雰囲気に流されるお調子者」
ってのが、法律実務においてもっとも不利を被る存在です。

でもこういう人って世の中にたくさんいらっしゃいます、いや、こういう人の方がマジョリティでしょう。

さきほど申し上げたとおり、何も考えずその場の雰囲気に流される生き方は、実に負荷のかからない楽な生き方ですし、人間も動物である以上、本能的に快が好きで不快を好まない選択をしますから。 

「この事業計画、ヤバイな」
「なんか、不安だな」
「この流れは危険かも」
「本当にこんなにうまくいくのかな」
と思うことは、1つの大きなステップです。

楽観バイアスや正常性バイアスを克服し、正しく、不安に感じ、危険に感じられる、ということはそれ自体高度なスキルといえますので。

ワンマン経営の会社だとトップの決断に疑問をもつことさえ困難な状況がほとんですが、そこから先にどういう展開が待っているかについて、会社法や取締役制度を知し、想像し、展開予測するところまでが次のステップです。

不安や危険を感じながら、これを具体化・特定化せず、不安を不安のままにしながら、結果として
「ま、いいか。多分大丈夫っしょ」
「今までうまくいってたし、これからも問題ないだろう」
という態度でその場をやりすごしてしまうと、結局、予防防法務の致命的なミスが放置され、最後に、大きなトラブルを抱えたり、ダメージを被る事になりかねません。

弁護士とコミュニケーションを密にしたり、
他人を信頼しなかったり、
取引案件をいちいち時間とコストをかけて法的に検証したり、
成功を信じている事業につき失敗の可能性をいろいろ想像してみたり、
というのは実に面倒で負荷のかかる方法です。

とくに他人を信じないという生き方は精神面で大きな負荷がかかります。

ですが、何事も、大きな成功をなし遂げるには、面倒で負荷のかかる方法を選択するのが近道ですし、偉業をなし遂げた方は、皆、面倒で負荷のかかる生き方をしています。

その意味では、自分のビジネスプランが、雑で簡単なイメージでしか描けていない場合、その時点で大きなリスクをかかえているといえますので、専門家に相談するという、面倒で負荷のかかる方法を選択して、より緻密なものにしていくことが
「トラブルなき成功」
への近道と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所