00544_相手方が複数の場合、あえて、ひとまとめにせず、個別に分断し、裁判外交渉したり、訴訟提起する戦略の効用

企業を辞めた役員が、独立し、顧客名簿を用い、従業員を引き抜いて、競業を始めた場合、元役員や起業した会社や従業員をひとまとめにして訴えることももちろん可能です。

他方で、手続の相手方として個々の従業員もターゲットにすることも可能です。

このように、相手方が複数の場合、あえて、ひとまとめにせず個別に分断し、裁判外交渉したり、訴訟提起する戦略の効用とポイントを考えてみます。

こういう場合、相手方をひとまとめにした方が、コスト(内容証明の郵便代や訴訟費用や弁護士費用)はかからないのですが、状況によっては、相手方をあえてひとまとめにせず、個別に手続を展開した方がいい場合もあります。

というのは、相手方をひとまとめにすると、相手方も結束し、弁護士費用をシェアして弁護士を立てやすくなるからです。

ところが、単独の相手方毎に攻撃をしかけ、個々に和解や職場復帰させる等により解決し、和解等の際にその解決内容を保秘させることをしておけば、相手方が結束することが防げ、こちらが優位に進められる可能性がでてきます。

すなわち、
「分断して各個撃破せよ」
みたいな形で個別交渉によって相手方陣営を切り崩す方法です。

相手方陣営がわりとこぢんまりまとまっており、従業員相互間に意思疎通があり、個別に内容証明等を出してもすぐに結束してしまう場合には、やたらコストがかかるわりに結局全員から委任を受けた弁護士が出てくるだけで意味がありません。

ですが、相手方の意思疎通が十分でなかったりする場合には有効な場合もあります。

さらに相手方の状況を推察するに、そもそも引き抜かれる側の人間は、独立に対するモチベーションはそれほど大きくありませんし、居残るか、出ていくかを天秤にかけた際、どちらが得かを再考するチャンスを与えれば気持ちに変化が現れることも十分あり得ます。

「弁護士マターになったり訴訟になるくらいだったら、私、恩義ある会社を辞めて、起業したばかりで不安定なところにやってくるのじゃなかった」
みたいなメンタリティーがいまだ従業員サイドに残っている場合には個別の内容証明により、相手方陣営が瓦解に至る、なんてシナリオも考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00543_訴訟提起をする前に検討すべき注意点

訴訟の場合、原告にとって一番負担となるのは、時間と費用です。

最近ではずいぶん改善されたとはいえ、やはりちょっと経過がややこしい紛争になると、裁判に1年以上かかるのは珍しいことではありません。

それと、裁判所に過度の期待は禁物です。

裁判所といえば、
「すごく優秀な人がなんでもお見通しで正義と公平を実現してくれるところ」
という印象をもっておられる方が多いのですが、これは間違いです。

裁判官も公務員で、公務員は文書や客観的事実と法律に基づいてしか権利を認めてくれません。

口でいくらワーワー叫んでも、肝心な文書がないと、
「主張を裏付ける証拠がない」
として契約の存在を認めてくれません。

裁判官のアタマの中での社会常識(これを業界用語では、「経験則」といいます)では、
「普通の人は重要な約束をしたら文書を取り交わすはずであり、主張している約束を記した文書がないということはそもそもそのような約束がなかったか、あるいはいまだ法律的な意味での約束にまで至っていなかった」
という定理が支配しています。

特に、きっちりとした予防法務の措置を取らず、裁判官の情緒に訴えようとして
「相手が不道徳だ、非常識だ、おかしい、変だ」
と非難し、大した証拠もなく、口でワーワー言うタイプの訴訟を展開するとなると、和解不調で判決ツモの状態にまで至るとなると、相当厳しい結果を予測しなければなりません。

ただ、裁判官といってもタイプはいろいろで、中には、和解を斡旋してくれるような裁判官もいます。

相手方の状況次第では、純法律的理由以外の理由で和解に応じる可能性もあり、この期待が相当程度考えられるとなると、訴訟を提起する意味もあります。

もちろん、相手が徹底応戦し、裁判官としても、
「記憶があっても、記録がない」
という状況で、感情的な話しか出てこないことに辟易しだすと、和解もそこそこに、厳しい判決が想定以上に早く出てしまうこともあります。 

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00542_仮処分利用のポイントと注意点

辞めた役員が、起業し、持ち出した顧客リストを利用して、競業を始めた場合を例にとって民事保全処分の具体的利用方法を考えてみます。

普通に、上記のようなトラブルに遭遇すれば、
「競業してはならない」
とか
「持ち出した顧客名簿を使うな」
等を求める裁判を提起することが考えられますが(そもそもそういう権利があるのかという問題については一応おくとしておきます)、1年とか1年半かかってようやく勝訴してもその間に競業を始めた相手方にバンバン金儲けされたのでは話になりません。

そういうときのために、正式裁判(専門用語では、「本案訴訟」といいます)の前に、暫定的に
「正式裁判がもうすぐ出て、そちらの行為は禁止されるわけになるのはほぼ確実だから、火事場泥棒のような真似は許されないし、とりあえず、違法行為を辞めなさい」
という仮処分という手続があります。

これは、
「債権者(被害企業)の言い分が正しいかどうかわからないけど、とりあえず、一応の言い分らしきもの(疎明といいます)があれば、裁判が確定するまでの間債権者の言い分どおりのことを債務者(競業を始めた相手方)に仮に命じておいてあげましょう」
という趣旨の手続です。

この手続の利用については、いくつか知っておくべきポイントがあります。

この手続は、建前上は、仮処分は暫定的な手続であるので速攻で判断してくれるということになっていますが、これをそのまま額面どおり受け取ると、エライ目にあいます。

実際は仮処分のうち審尋を経るもの(債務者からも言い分を聞く手続で、審尋事件などといいます。上記仮処分はこれにあたります)は、正式裁判並にタラタラ進むものもあったりします。

ただ、この審尋事件の場合、双方の言い分を聞く中で、裁判所が和解の音頭を取ってくれることもあるので、早期に和解が見込めるような事件の場合、いい結果が得られる場合があります。

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00541_裁判外交渉(示談交渉)をマネジする上での注意点

弁護士を付けて、内容証明郵便による通知書を相手方に送付し、相手方も弁護士を付けてこれに応答し、裁判外交渉が開始される場合があります。

裁判外交渉においては、注意点があります。

裁判外交渉と裁判の違いは、
1 相手方の対応による解決が長引く可能性があること
2 不調の場合時間が無駄になること
です。

すなわち、裁判になると、だいたい1カ月単位で期日(裁判所に当事者が出頭し、判決に向けた争点の整理や和解を行う手続を行う日)が入るので、あまりズルズル引き延ばしすると、その間に、しびれを切らした裁判所が争点をどんどん整理して、証人尋問までたたみかけ、判決に至る、という形で、公権力によって強権的に(といっても、かなり時間的冗長性はありますが)、不利な状況に押しやられ、最後には不利な和解を事実上強制されたり、不利な判決を食らう、形で強制終了してしまいます。

ところが、裁判外交渉ですと、引き延ばしにペナルティはありませんし、相手方にやる気がなければどんどん解決が長引きます。

また、裁判外交渉は、和解という一種の契約の締結が交渉のゴールになります。

当然ながら、和解は契約ですので、こちらがどんなにフェアな提案をしても相手方が承諾しない限り解決は不可能です。

最後の最後で、ちゃぶ台ひっくり返されてもかけた時間が戻ってきませんし、訴訟提起で最初からやり直しになります。

以上のとおり、裁判外交渉が有用なのは早期の解決の見通しが立つ場合ですので、不調の見極めを行い、解決が困難であればすぐに訴訟に移行する必要があります。

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00540_相手方の属性・心理的状況や経済的状況を勘案した紛争法務戦略構築テクニック

紛争法務戦略構築は、法律知識だけでは対処できないもので、相手の心理や状況に対する想像力の豊かさがポイントになります。

この手のノウハウは、無論、東大法学部でも司法研修所でも教えてくれるわけでもありませんし、法廷にあまり縁がなく行政書士みたいな仕事だけで食べておられる予防法務専門弁護士の方々も、ひょっとしたら、あまりご存じない領域かもしれません。

この戦略構築能力は、修羅場での豊富な経験と、ユニークな経験を汎用的なロジックに昇華させる理論的頭脳の両方があってはじめて習得できるような極めて属人的なもので、弁護士の価値を決める根源的な能力といえます。

無論、私も、かれこれ弁護士生活20年を超えましたが、このあたりの研究や実務経験はまだまだで、現在も、いろいろ模索中です。

ここで、美容やエステといった消費者向けサービス事業を展開する会社を退社し、独立し、その後、従業員多数を引き抜いて競業を始めた、元役員が経営する会社を訴えるケースを考えてみましょう。

起業直後でキャッシュが豊富なんていう会社はないはずです。

美容やエステとなると、お客さんに夢を売る商売ですから、見栄えが勝負です。

手元にキャッシュを残すくらいなら、とにかくカネをかけて内装やパンフレットやユニフォームなんかをゴージャスにすることでしょう。

どんなスーパーカーもガソリンがないと走らないのと同様、どんな優秀な弁護士が近くにいても適正な報酬が支払えなければ、筋のいい事件であっても解決してもらうことはできません。

ですので、完全に勝訴できるだけの決定的な材料がなくても、不当訴訟とか難癖つけられないだけの根拠や材料さえあれば、カネにモノを言わせて、カネのない相手にどんどんアクションをしかける、というのは有効な戦略となります。

「主張上はともかくも証拠上は勝ちが微妙な事案」
でも、裁判になった場合には、相手が、訴訟に対応するだけの経済的余裕がなく、優秀な弁護士を頼めず、降参して和解してくれた、なんてシナリオも十分描けるはずです。

それに起業間もない元役員は、辞めて引き抜いた従業員の掌握も不十分なはずです。

従業員側も、会社や自信の将来に不安をかかえていることでしょうし、裏切ってわずかばかりの勤務条件のよさにつられて辞めた新ボス(元役員)についてきたことによる後ろめたさも少しはあるはずです。

こういう不安定な組織において、法人ではなく、従業員個人全員をターゲットに、
「顧客リストを持ち出した」
などの理由で、法的アクションをしかけるという方法も、
「純戦略上」
は、極めて有効となる場合があります。

裁判とか弁護士とかに縁のない従業員個人が、弁護士名の内容証明や裁判所からの訴状を受け取ったら、かなり具合が悪くなることは想像に難くありません。

辞めて引き抜かれた個々の従業員 としては、いきなり内容証明だの訴状だのが自宅に送りつけられてきたら、
「相手方の主張を裏付ける客観的証拠は乏しいから、裁判で勝訴できるはずだ」
と見極めるまでもなく、書いてある主張内容が理路整然としていれば、自分で弁護士に相談する前にあっさりこちらと和解して、もどってきてくれることだって考えられます。

新ボス(元役員)としては、自分や会社にしかけられた法的アクションでさえ対応に苦慮しているところ、従業員個人にしかけられたアクションまでフォローできるような経済的、精神的余裕は乏しいでしょう。

従業員サイドから辞めた新ボス(元役員) に対して
「あんたの口車にのったらひどい目にあった。とにかくあんたの金で弁護士つけてよ」
なんて突き上げは当然出てくるでしょうし、そんな突き上げに対してまともな対応できないとなると、 新ボス(元役員) にとっては命取りになります。

危機に対応できないリーダーを見限って従業員は離反し、立ち上げ間もない辞めた新ボス(元役員) の組織は瞬く間に崩壊します。

このように、カネにものをいわせて従業員個人に法的アクションをしかけ、 辞めた新ボス(元役員) と従業員との間における未熟で脆弱な信頼の絆に、ガンガン楔を打ち込むというのは、有効な戦略になるといえます。

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00539_内容証明郵便による通知書作成・出状のポイントと注意点

紛争法務を実施する上で、いきなり訴訟を提起するのではなく、たいていの弁護士は、まず内容証明郵便による通知書を送ることを行い、裁判外交渉による解決を模索します。

内容証明郵便とは、いつ(確定日付)、だれが、だれに、どんな内容の文書を出したかということを、郵便局が証明してくれる郵便で、後日の紛争の証拠として非常に役立つものです。

内容証明郵便を出す際には、いろいろ注意点があります。

(1) 配達証明付にすること
まず、必ず配達証明を付けるようにしてください。
日本の民法では、意思表示は到達主義としているので、
「損害賠償を支払え」
等の意思表示も到達しないと、さらにいえば到達したことを証明できないと意味がありません。
相手に配達証明つき内容証明が配達されれば、
「上記郵便物は20XX年YY月ZZ日に配達されたことを証明します」
というハガキ(郵便物配達証明書)が、内容証明郵便の通知人に届きます。

(2) 求める趣旨を明確に
次に、意思表示の内容を明確にしてください。
カネを払ってほしいのか、ある行為をやめてほしいのか。
カネを払ってほしいなら、いくら払ってほしいのか、いつまでに払うのか、振込なのか現金持参なのか、払わなかったら利息はどれだけか。
この点が明確になっていないと、法律上の意思表示をしたことにはなりません。
よく素人さんの内容証明をみていると何を求めているかわからないものがあります。
こういう意味不明の内容証明を出すと、能力が低いとみられ、受け取った相手は
「この程度の内容証明しか書けないヤツが訴訟を起こすわけがない」
とタカをくくり、かえって交渉上不利を招きます。
その意味でもこの種の通知書は、求めるべき内容を明確に特定するよう、きっちりとした書き方をする必要があります。

(3) 回答期限を切ること
最後に、回答期限や支払期限を欠落した内容証明というのもよくみかけますが、非常に間が抜けた感じがします。
応答期限を区切り、それまでに応答がなければ、裁判を受ける権利を行使せざるを得ない旨書かないと、受け取った相手方も放置しても何のデメリットもないので、先送りしよう、ということになりかねません。

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00538_訴訟戦略の組み立て方:現実的なゴールの設定

訴訟戦略を立てるには、現実的なゴール設定が必要です。

どんなに緻密な戦略もゴールの設定を間違えてしまうと、あり得ないゴールを追い求めて無駄で非効率なことを永遠に続ける結果に終わります。

例えば、退職した従業員が独立して競業行為を始めた場合などでは、
「ノウハウや顧客リストの使用や従業員の引抜き問題について、従業員側が確立したノウハウ・顧客リストの使用や当該従業員が連れてきた従業員の引抜きは認めるが、それ以外の使用・引抜きについて止めさせるか、一定の金銭支払を条件として認める」
というのがもっとも現実的なゴールとなると思われます。

無論、従業員が非を認めて、自主廃業したり、こちらが要求した多額の賠償金を支払ってくれる可能性は否定しませんし、そうなれば儲けものです。

しかし、これはあくまでうまくいった場合の話。

相手も馬鹿ではないでしょうし、当然弁護士を選任してくると思いますので、楽観的な見通しは禁物です。

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00537_一流の企業は、紛争が生じたら、「勝訴を目論む」前に、「『紛争発生自体』を失敗と捉え、猛省し、予防法務に活かすこと」に注力する

きちんとした合意書を作らないまま、相当程度のリソースをつぎ込んでビジネスを進行させ、失敗してロスが出た途端、
「先生、友達の社長のAからの紹介で来たんだけど、裁判に強いんだって? 弁護料たんまり払うから、なんとか落とし前つけてやってよ」
なんて感じのお客さんがたまにいらっしゃいます。

こういうお客さんに対して
「私もこんな奴は許せませんねえ。絶対勝ちましょう!」
とか応じ、ポジティブな見通しを共有しちゃうのは三流以下の弁護士です。

一流の弁護士は、まず、なぜそういう事態に陥ったのかをきちんと分析し、二度と同じようなトラブルに見舞われないよう、クライアントを啓蒙することを第一義とします。

その上で、今回の件については
「大きな契約において適切な予防法務を講じなかったことが原因で、トラブルの場面で自らの法的立場の正当性を説明できない状況に立っていること」
をきちんとクライアントに理解させ、客観的にみて相当程度敗訴のリスクがあることを伝え、そのような不利な環境の中、和解に至るまでの現実的な戦略を冷静な観点で描き、これをわかりやすく提示していくものです。

顧問弁護士がいながら、その弁護士を予防法務のために用いることなく、顧問弁護士に紛争処理ばかり依頼している企業とは、
「優秀な侍医がいるにもかかわらず、クスリの処方や健康管理の助言を頼まず、暴飲暴食して、調子が悪くなったら手術をして体を切り刻んでばかりいる」
ような人と同じです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00536_判決にまでもつれ込むのは、訴訟上の和解交渉の失敗

よく、企業経営者で、
「ウチの顧問弁護士はすごい。先生は非常に優秀で、この先生に頼んで負けたことがない」
と自慢される方がいます。

ですが、ある程度優秀な弁護士は、皆、
・ 判決にまでもつれ込むのは、訴訟上の和解交渉の失敗であり、
・ 訴訟にまでもつれ込むのは、裁判外交渉の失敗であり、
・ 裁判外交渉にまでもつれ込むのは、予防法務の失敗
というテーゼを知っています。

しょっちゅう裁判沙汰になって勝訴している企業とは、このような3回の失敗を延々と繰り返している企業であり、学習能力がなく、非効率なリスク管理をしている組織といえます。

商事裁判例は星の数ほどありますが、これは、見方を変えれば予防法務を怠ったダメな企業の標本ともいえます。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
などといいますが、顧問弁護士を対症療法の道具としてアドホックに使うのではなく、豊富な紛争経験値を基礎にリスク予防を構築するアドバイザーとして活用すべきです。

予防法務をロクにやってなかった企業の主張を裁判所で通すなんて所詮無理がありますし、無理を通して道理を引っ込めるほど裁判は甘くありませんので、紛争法務にあまり過度な期待をしないことです。

むしろ、現実的な
「落としどころ」
を戦略のゴールとして冷静に把握して、そのために効率的な手段をなるべく多く抽出し、冷静に評価し、賢明に選択し、果断に実行し、相手の出方を窺いながら、可変的に対応していくこと(ゲーム・チェンジ)が重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00535_辞めて競業しそうな人間に「鈴をつける」ための手法

有能な人間を自社で囲い込む方法のひとつに、彼(彼女)を取締役に選任してしまうという裏技があります。

取締役になると、会社との関係は、労働基準法でなく、商法により規律されることになります。

そして、取締役は、会社に対して、
「善管注意義務」
「忠実義務」
という非常に重い責任を負うことになり、これに違反すると会社法違反として損害賠償が発生することになります。

すなわち、従業員の場合、労働基準法が保護してくれるわけですが、取締役になった途端、会社法がプロとして厳しい責任を課してくるのです。

そして、一旦、従業員を取締役に選任した場合、(言葉は悪いですが)会社に縛り付けることとなり、当該従業員は在任中に独立準備をしているだけでも、それが露骨で競業等と判断される場合、法的責任に問われることにります。

少なくとも、各種独立や競業の準備がやりにくくなることは事実です。

以上のとおり、有能だが、裏切って独立しそうな人間は、取締役にしてスズをつけておくのも一考に値します。

ただ、裁判例等をみると、取締役が形式に過ぎず、あくまで労働法による要保護実体のある使用人兼務役員の場合、名目ないしレッテルが取締役であっても、労働法による保護が及ぶ、と判断される場合もあります。

給与水準や給与の定め方、経営への関与のさせかた、責任に対応した地位や処遇や権限といった、ことも配慮しておくべき必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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