00552_責任が大きく、リスクが高い社外取締役としてではなく、会社の経営に関与するためのエンゲージ設計方法

責任が大きく、リスクが高い社外取締役としてではなく、会社の経営に関与するためのエンゲージ方法としては、コンサルティングや商品企画等の委託契約を発注してもらい、助言等を行いその対価を得るという形が考えられます。

「社外役員」
というポスト就任の誘いは魅力的ですが、うっかり乗ってしまうと、大きなリスクと責任が生じます。

社外役員とは、聞こえはいいですが、要するに実情を把握していない会社の経営に首を突っ込む役割であり、そこには当然責任が発生します。

株式会社制度とは、有限責任しか負わない出資者の組織、言い換えればものすごく無責任な存在であり、反面、そのような無責任な組織を動かす役員の責任は非常に重くなります。

そして、社外だろうが、社内だろうが、取締役なり監査役としての責任に差はありません。

たまにしか会社に来ない分、経営の動きが把握しにくく、社外役員の方が、
「知らない間に責任を負担する」
危険が大きいといえます。

「捨て縁がわりに小遣いやるから社外役員にでもなりなさい」
と誘われたら、
「助けていただけるのであれば、顧問とか企画アドバイザーとかで発注をしてください。
むろん、対価に見合ったご助言ができるよう務めます。御社のような立派な会社の役員のポストはもったいないです」
と、やんわりと断るのが紛争回避のための最適な行動であるといえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00551_取締役会で危険な決議がされそうになった場合に、不安を感じた取締役が取るべき自己防衛策

会社の重要な意思決定をする際は取締役会決議で決めるものとされていますが、反対であればその旨きっちりと議事録に残しておくことが重要です。

過大な投資をしたり、アホなプロジェクトを立ち上げたり、骨董を買ったり、愛人の会社に大口発注したり、なんて話が出たときに、
「そんなのイケナイよ」
と反対したものの、
「いいじゃん」
「大丈夫だよ」
とかの大勢に押され、
「だめなんだけどなー」
といいつつ、議事録上
「満場一致で決議」
で記載されるなんてことはよくあります。

そういう場合、どんなに議事においてブーブーいっても、議事録に反対の旨を書くところまできっちりとした形で明確な記録化をしておかないと、賛成した人間と連帯して賠償責任を負うことになります。

危険な事業計画について、取締役会に議題として上程された状況において
「こんな投資の回収は到底見込めない」
と判断した場合、取締役としては直ちに、明確な反対の意思表示をしておく必要があります。

取締役としては、取締役会において決議に反対する自由を常に有しており、無謀な経営計画を討議した際、反対の意思表示を議事録にとどめておけば、当該決議に基づき生じた損害につき責任を免れます。

そして取締役会を欠席した場合や当該決議の際に異議をとどめなかった場合は、賛成した取締役と連帯して会社や第三者(債権者や株主)に損害賠償責任を負うことになります。

会社に損害を及ぼしそうな危険な事業計画が上程され、討議された場合、
「私はこれには反対ですので、その旨議事録にとどめてください」
と述べておけばよいのです。

「そんな雰囲気じゃなかった」
「代表取締役や社主に楯突くなど滅相もない」
などと遠慮するのが日本の典型的会社での
「取締役の美徳」
です。 

しかし、そもそも、取締役は、会社という法人及びこれをとりまく株主や債権者等の利害関係人(ステークホルダーズなどといいます)に対して責任を負うべき存在であり、社長ないし代表取締役という特定個人の使用人ではありません。

もちろん、上記美徳の存在を主張立証したところで、法的には一切考慮の対象外ですし、問答無用で手続を打ち切られ損害賠償債務を負わされます。

危険なプロジェクトが、取締役会に上程されることなく、社長等の一部執行陣で無断で遂行される場合は、そもそも、予見ができませんし、予見可能性がなければ、回避も期待できないので、知らなかった取締役としては、責任を免れる可能性はあります。

なぜ、
「責任を免れる可能性はあります」
という頼りない表現になるかと言えば、予見可能性があれば、予見義務違反としての過失(善管注意義務違反)を問われる余地があるからです。

すなわち、経営や管理のプロとして、しっかりと注意していれば、
「危険なプロジェクトが、取締役会に上程されることなく、社長等の一部執行陣で無断で遂行される」
という動きも察知できたのであれば、責任を追及される余地が出てきます。

株主代表訴訟においては、訴額にかかわらず、印紙代がかからないこともあり、とりあえず、危険なプロジェクトが行われたら、当時関わった役員全員がターゲットにされる事が多く、事実上結果責任を追及される形で始まり、その上で、
「オレは知らなかった」
「私は知ろうとしても、その可能性すらなかった」
「知らなかったし、プロとしても注意しても、知ることもできなかったし、止めさせたりすることもできなかったので、私は関係ない」
と弁解に成功すれば、はじめて、解放される、という形で話が進んでいきます。

いずれにせよ、取締役になったら、相当な注意を働かせて職責を全うすることが求められますので、十分な注意と警戒が必要となります。

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00550_取締役責任限定契約では填補されないリスク

取締役が迷惑をかけるのは会社だけではありません。

取締役が放漫経営したことにより、取引先や顧客や株主等の外部の第三者に損害を与えることだってあります。

そういう場合、取締役は当該外部の第三者からも損害賠償請求を受けることになります。 

ちなみに、報酬一定年数分を上限として制限することができるということをご存じの方もいらっしゃると思います。

だからといって、取締役の放漫経営や不当経営が自由にできるようになったわけではありませんので、注意が必要です。

すなわち、上記の責任制限はあくまで
「対会社賠償」
の問題にしか及びません。

すなわち、上記責任制限を活用しても
「対第三者賠償」
は青天井ですので、ご注意ください。

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00549_会社で一番エライのは、代表取締役社長か?

「会社で一番エライのは誰ですか?」
というと、たいてい
「社長」
とか
「会長」
とかの答えが返ってきますが、会社で一番エライのは代表取締役や取締役ではありません。

会社で一番エライのは会社の株式を持つ所有者たる株主であり、株主の意思決定機関である株主総会です。

代表取締役とか取締役ってエラそうに見えますが、株主総会で選ばれなければただの人です。

また、株主がムカつけば、取締役や代表取締役といえども、いつなんどきでもクビを切られても仕方がない、そんな存在なのです。

当然、代表取締役や取締役だからといって、会社を私物化していいわけはありません。

報酬すらも株主総会で決議される建前になっています。

会社を私物化したり、アホなことをして迷惑をかければ会社に賠償をしなければなりません。

これが取締役の会社に対する責任といわれるものです。

これらのことは、日産自動車某会長の
「盛者必衰の理」
そのまんまの凋落劇をみれば、容易に理解できるところです。

取締役が会社に損害を与えておきながら素知らぬ顔を決め込もうとし、仲間の取締役からも
「身内びいき」
で責任追及されないとなると、株主が会社を代表して問題取締役に賠償請求をすることになります。

これが
「株主代表訴訟」
といわれる制度です。

株主代表訴訟というのは、取締役が、ただの
「番頭」
に過ぎず、いい加減なことをして会社に損害を与えると、旦那さん(オーナー)、すなわち
「株主」
から、ヤキを入れられる、というものです。

この制度は、
「会社で一番エライのは代表取締役や取締役ではありません」
「会社で一番エライのは会社の株式を持つ所有者たる株主であり、株主の意思決定機関である株主総会です」
という本質を如実に物語っています。

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00548_「会長」「社長」「副社長」「専務」「常務」といった会社内での肩書と、法律上の代表権との違い

会社の代表取締役って独裁者のイメージがありますが、実は、取締役の選挙によって選ばれているに過ぎません。

ですから、大昔、某有名デパート会社であったように(最近では、某大手通信機器メーカーや、某超大手自動車会社でもあります)、ワンマン社長がある日突然解任されることだってあります。

なお、最近では、執行役制度や委員会制度というのが登場しましたが、多くの会社で採用されているのは上記のようなシステムです。

一般に会社を切り盛りする人として話の中で社主や会長や社長や重役ってのがでてきますが、会社法の世界では、取締役、代表取締役や執行役というタイトルにしか意味がありません。

例えば、会社間取引で、会社の中で偉そうにしている会長が
「○○株式会社会長△△△△」
と署名・押印しても、その会長が代表取締役でない限り有効な会社の代表行為とはなりません。

逆に、社主や会長や社長の前でもどんなにヘーコラしている副社長がいても、その人が
「代表取締役副社長」
というタイトルを持っている限り、10億円でも100億円でも会社を代表して手形を振り出せます。

このように、会社法においては、徹頭徹尾、形式タイトルがモノをいいます。

実際の会社運営と法的形式はかなり乖離することがありますが、このような乖離があるからこそ、
「法常識」

「一般常識」
のひずみを利用した会社の乗っ取り劇とか、クーデターとかが起こるわけです。

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00547_会社の運営秩序と国家運営秩序との相似性

会社の運営機関は、よく国の政治機構にたとえられます。

日本の国の政治システムはなかなかわかりにくいですが、法律的にとらえると実に単純です。

すなわち、日本の政治は、

  • 国民が自分の意志を代弁してくれる代表(国会議員)を選び
  • その選んだ代表があつまる会議体(国会)が多数決で国の代表(内閣総理大臣)や国の運営の重要なルール(法律)を決め
  • 国の代表(内閣総理大臣)が法律を執行し
  • 裁判所が事後的、後見的に法律の執行状況や、法律そのものが問題ないかどうかチェックをする

というシステムを採用しています。

株式会社(一般的な株式会社形態である取締役会及び監査役設置会社)もこれと同じで、

  • 株主(国民)が自分の意志を代弁してくれる代表(取締役)を選び
  • 取締役があつまる会議体(取締役会)が多数決で会社の代表(代表取締役)や会社運営にかかわる重要な意思決定(取締役会決議)を行い
  • 代表取締役が取締役会で定まった内容を遂行し
  • 監査役(裁判所)が、代表取締役や取締役が法令や定款に違反するような行為を行っていないかどうか、チェックする

というシステムを採用しています。

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00546_会社の種別と、「有限責任」「無限責任」の意味・本質

会社の種類ですが、会社には4つの種類があります。

合名会社、合資会社、合同会社、そして株式会社です。

みなさん、これらの違いってわかります?

これらの違いを説明するには
「有限責任」
「無限責任」
というものを理解する必要があります。

会社が倒産した場合に、出資者が出資した金額を損してしまうのは当然として、それ以上に、債権者(金貸しや使用人や取引先)からの請求に対して責任を負うかどうかというのが
「有限責任」
「無限責任」
の理解のポイントです。

無限責任というのは、上の例で、
「会社が倒産し、出資金額を食いつぶしても債権者への支払ができなかったら、出資者がケツをもつ」
という責任形態です。

有限責任というのは、上の例で、
「会社が倒産しても、出資者は出資金の限度でしか責任を負わないので、最悪、出資金が戻ってこないことさえ覚悟すれば、それ以上債権者から追及されることはない」
という責任形態です。

この責任形態の区別をもとに説明しますと、
合名会社とは、出資者は連帯して無限責任を負う法人形態、
合資会社とは、無限連帯責任を負う出資者と有限責任を負う出資者が混在する法人形態、
合同会社と株式会社は、出資者は例外なく有限責任しか負わない法人形態、の会社です。

こんなこというと、
「ウソだよ、そんなの。中小の株式会社が破産すると、オーナー社長は一緒に破産するじゃないか」
とかいうツッコミが入りそうです。

この現象は、中小企業においては、オーナー社長は連帯保証をしているからです。

すなわち、銀行等は、上記の有限責任制度を前提とした上で、株式会社の出資者が享受している有限責任のメリットを、
「連帯保証」
という別の契約法理によって、放棄させているのです。

よく、
「オーナー(社主、株主)だが、取締役にはなっていない、会社の“事実上”の代表」
というタイプの会社があり、当該会社が左前になっても、オーナー(社主、株主)は一切責任を負わず、悠々と逃げおおせる、という形で
「うまいことやっている」
例に遭遇しますが、このやり方は
「有限責任」
という仕組に基づくものです。

「有限責任」
というと、何か責任を負っているかのような印象を持ちますが、
「会社が破綻すれば、株式が紙切れになるが、それ以上の責任は一切なし」
というのが
「有限責任」
の内容で、会社法上、資本金が1円でも設立できますので、法律上の
「有限責任」
とは、一般的な社会常識上は
「無責任」
という意味と理解されます。

そして、オーナー(社主、株主) は、創業期において差し入れていた連帯保証を、すべて外させ、後継社長に変更していたりしますので、会社が多額の負債を負っていても、僅かな出資金を放棄すれば、道義上はともかく、法律上、責任は一切発生しません。

「会長」
だとか
「社主」
だとか
「名誉顧問」
だとか
「ファウンダー(創業者)」
だとか
「相談役」
だとかの肩書で、どんなに会社の運営に肩入れしようが、個別に連帯保証しない限り、
「出資者=有限責任(出資金を超えた債務は無責任)」
との理屈が優先します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00545_「会社を法令に基づき取り締まるべき専門家」たる取締役のほとんどが、会社法を全く理解できていない実情と対処・克服方法

大抵のビジネスマンや経営者の方はおそろしく会社法に無知です。

弁護士になるには司法試験にパスする必要がありますし、公認会計士になるにも公認会計士試験にパスする必要があります。

ところが、会社の取締役や株主になるには、何の試験も必要ありません。

昔、
「おばけにゃ、学校も、試験も、何にもない」
という唄がありましたが、
「取締役にゃ、学校も、試験も、何にもなく、誰でもなれる」
という点で共通点があります。

そもそも法律的にどういう仕組であるかまったく知識なしに、多くの方々が出資をしたり、役員になったりされていますし、こういう知識の欠如が多くのトラブルの根源になっています。

で、トラブルになる人の傾向を見ていると、大抵は、
「実は会社法につき全くの無知なのに、経験からなんとなく知っている、という心理状態のまま法律行為に突入し、足元をすくわれる」
というのが典型的パターンです。

ちなみに、法学部卒で会社に入ったような方もほぼ同様で、法務部配属でもない限り、営業や企画や財務や製造管理などといった仕事を長年やっている間に、法律知識はほぼ皆無の状態となっています。

ですので、取締役に就任した方は、
「取締役にゃ、学校も、試験も、何にもなく、誰でもなれる」
という点を銘記していただき、会社法をがんばって勉強するか、そんな暇がなければ、専門家と常にコンタクトを取れる状況にして、法的無知の状況を対処・克服すべきです。

取締役となると、大きな権力と責任、魅力的な処遇や立場が与えられ、とかく勘違いしやすいのですが、取締役に就任したからといって、突然、法的知性に覚醒したり、法的知識が増え、法的無知である状況が改善されるわけでもありません。

出世に伴う処遇環境の改善による自己陶酔感に酔いしれ、
「知ったかぶり」
「知っているつもり」
にならず、大きなことや、新しいことや、想定外の事態に触れたら、不安に感じるセンサーを働かせ、謙虚に、専門家に相談しながら、慎重に進めることが推奨されます。

近時、
「コンプライアンス経営」

「法務戦略を踏まえた迅速な経営意思決定」
を確保する観点から、ボード(取締役会)に社外取締役として弁護士を招聘し、会社の重大な意思決定をする際、リアルタイムで助言を受け、リスク管理をする、という方法が一般的になりつつありますが、取締役の法的知識の欠如を補完する方法として極めて現実的で合理的であり、十分考慮に値します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00544_相手方が複数の場合、あえて、ひとまとめにせず、個別に分断し、裁判外交渉したり、訴訟提起する戦略の効用

企業を辞めた役員が、独立し、顧客名簿を用い、従業員を引き抜いて、競業を始めた場合、元役員や起業した会社や従業員をひとまとめにして訴えることももちろん可能です。

他方で、手続の相手方として個々の従業員もターゲットにすることも可能です。

このように、相手方が複数の場合、あえて、ひとまとめにせず個別に分断し、裁判外交渉したり、訴訟提起する戦略の効用とポイントを考えてみます。

こういう場合、相手方をひとまとめにした方が、コスト(内容証明の郵便代や訴訟費用や弁護士費用)はかからないのですが、状況によっては、相手方をあえてひとまとめにせず、個別に手続を展開した方がいい場合もあります。

というのは、相手方をひとまとめにすると、相手方も結束し、弁護士費用をシェアして弁護士を立てやすくなるからです。

ところが、単独の相手方毎に攻撃をしかけ、個々に和解や職場復帰させる等により解決し、和解等の際にその解決内容を保秘させることをしておけば、相手方が結束することが防げ、こちらが優位に進められる可能性がでてきます。

すなわち、
「分断して各個撃破せよ」
みたいな形で個別交渉によって相手方陣営を切り崩す方法です。

相手方陣営がわりとこぢんまりまとまっており、従業員相互間に意思疎通があり、個別に内容証明等を出してもすぐに結束してしまう場合には、やたらコストがかかるわりに結局全員から委任を受けた弁護士が出てくるだけで意味がありません。

ですが、相手方の意思疎通が十分でなかったりする場合には有効な場合もあります。

さらに相手方の状況を推察するに、そもそも引き抜かれる側の人間は、独立に対するモチベーションはそれほど大きくありませんし、居残るか、出ていくかを天秤にかけた際、どちらが得かを再考するチャンスを与えれば気持ちに変化が現れることも十分あり得ます。

「弁護士マターになったり訴訟になるくらいだったら、私、恩義ある会社を辞めて、起業したばかりで不安定なところにやってくるのじゃなかった」
みたいなメンタリティーがいまだ従業員サイドに残っている場合には個別の内容証明により、相手方陣営が瓦解に至る、なんてシナリオも考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00543_訴訟提起をする前に検討すべき注意点

訴訟の場合、原告にとって一番負担となるのは、時間と費用です。

最近ではずいぶん改善されたとはいえ、やはりちょっと経過がややこしい紛争になると、裁判に1年以上かかるのは珍しいことではありません。

それと、裁判所に過度の期待は禁物です。

裁判所といえば、
「すごく優秀な人がなんでもお見通しで正義と公平を実現してくれるところ」
という印象をもっておられる方が多いのですが、これは間違いです。

裁判官も公務員で、公務員は文書や客観的事実と法律に基づいてしか権利を認めてくれません。

口でいくらワーワー叫んでも、肝心な文書がないと、
「主張を裏付ける証拠がない」
として契約の存在を認めてくれません。

裁判官のアタマの中での社会常識(これを業界用語では、「経験則」といいます)では、
「普通の人は重要な約束をしたら文書を取り交わすはずであり、主張している約束を記した文書がないということはそもそもそのような約束がなかったか、あるいはいまだ法律的な意味での約束にまで至っていなかった」
という定理が支配しています。

特に、きっちりとした予防法務の措置を取らず、裁判官の情緒に訴えようとして
「相手が不道徳だ、非常識だ、おかしい、変だ」
と非難し、大した証拠もなく、口でワーワー言うタイプの訴訟を展開するとなると、和解不調で判決ツモの状態にまで至るとなると、相当厳しい結果を予測しなければなりません。

ただ、裁判官といってもタイプはいろいろで、中には、和解を斡旋してくれるような裁判官もいます。

相手方の状況次第では、純法律的理由以外の理由で和解に応じる可能性もあり、この期待が相当程度考えられるとなると、訴訟を提起する意味もあります。

もちろん、相手が徹底応戦し、裁判官としても、
「記憶があっても、記録がない」
という状況で、感情的な話しか出てこないことに辟易しだすと、和解もそこそこに、厳しい判決が想定以上に早く出てしまうこともあります。 

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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