00369_職務発明制度

特許を受ける権利は、発明を自ら行った者(発明者)に与えられるのが原則であり、法人は発明者にはなり得ないとされています。

したがって、当該発明を自ら行った者が特許申請を行い、特許権を取得するのが通常です。

しかしながら、発明はその技術が高度であればあるほど多大な費用が必要となります。

そして、通常、企業などに所属する従業員などは、所属先の研究設備等を最大限に利用して発明を行うわけですから、もし、法人が当該発明を使用できない、特許権を取得できない、とするならば、莫大な費用を投じた企業等は、投資に見合った収益を得ることができなくなってしまいます。

そこで特許法は
「職務発明」
という制度を設け、ある発明が職務発明に該当する場合には、発明者たる従業者と使用者の双方に一定の利益を付与し、両者の利益調整を図っています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00368_裁判所から、突然、債権差押命令が送られてきた場合の対処法

債権差押えとは、債権者が、債務者のもっている債権を、裁判所の命令をもらって強制的に取り上げ、そこから未払分を払わせる手続のことをいいます。

例えば、金融業者が、債務者に対して公的に証明されている売掛債権(裁判所の判決や公正証書で存在が明らかになっている債権)を有してるにもかかわらず、債務者が四の五のいって支払わないときに、債務者の銀行預金(銀行に対する預金債権)を強制的に召し上げるのが、債権差し押さえ手続です。

ここで、金融業者が差し押さえをする銀行は、自分が借金を負っているわけではないのですが、債務者が有する預金債権の関係では債務者となりますので、
法律上「第三債務者」
といわれます。

なお、預金債権を差し押さえる場合には、通常、銀行の支店名まで調査、特定しなければならず、これを捜し当てるのが難しい場合があり、金融業者は、債務者が勤務先に対して有する給料や報酬などの債権を差し押さえる場合があります。

債権差し押さえ命令を受領すると、第三債務者は、債務を弁済することが禁止されます。

差し押さえを無視して債務を支払ってしまっても、差し押さえ債権者から取り立てを受けた場合には、差し押さえ債権者に対してももう一度支払わなければなりません(二重弁済リスク)。

債権差し押さえは、目に見えない
「債権」
というものを相手にするために、債権者としては、本当に債権があるのか、あったとしても、誰のものなのか確信が持てません。

従って、差し押さえが成功したのであれば、さっさと次の手続を開始し、失敗したのであればさらに別の方法を検討するなどする必要があります。

そこで、法律は、
「差し押さえられた債権に関する情報を、差し押さえ命令受領後一定期間内に申し述べなさい」
と第三債務者に対して要求できる制度を定めました。

これが
「陳述催告」
と呼ばれるものです。

ところで、第三債務者と債務者との間に親密な関係がある場合には、通謀して、第三債務者が虚偽の陳述を行う可能性があります。

そこで、民事執行法147条2項は、
「故意又は過失により、陳述をしなかったとき、又は不実の陳述をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」
と規定し、バレたら、差し押さえ債権者に損害賠償を請求されることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00367_国や独立行政法人と取引する企業が、ある日、突然、会計検査院に乗り込まれるリスク

日本国憲法第90条は
「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」
と規定しており、これを受けた会計検査院法第20条は
「会計検査院は、日本国憲法第90条の規定により国の収入支出の決算の検査を行うほか、法律に定める会計の検査を行う」
と規定しています。

このように、国の会計が会計検査院検査の対象となるのはもちろんですが、会計検査院法は、会計検査院が必要と認めるときには、
「国が直接又は間接に補助金、奨励金、助成金等を交付し又は貸付金、損失補償等の財政援助を与えているものの会計(例:日本放送協会の会計)」
「国が資本金の一部を出資しているものの会計(例:日本郵政株式会社の会計)」
なども検査ができる旨を定めています。

さらに、2005(平成17)年の会計検査院法の改正で、
「国もしくは国が資本金の二分の一以上を出資している法人の工事その他の役務の請負人もしくは事務もしくは業務の受託者又は国等に対する物品の納入者のその契約に関する会計」、
すなわち、国などに対し、業務サービスなどを提供する業者や、備品などを納入する業者などの会計内容に対しても検査を行えるようになりました。

前記改正により、会計検査院の検査は、官庁などに出入りする文具品などの納入業者らにも及ぶこととなり、会計検査にとっては検査遂行上、大きな武器を手に入れることになりました。

会計検査院は、会計検査院法に基づき、会計検査院の検査を受けるものに対し、帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出を求めたり、関係者に質問したり、出頭を求めることができますし、必要な場合には会計検査院の職員を派遣して、実地検査をすることもできます。

会計検査院の検査を受けるものは、このような検査に対し、
「これに応じなければならない(会計検査院法25条、26条)」
とされいます。

しかし、会計検査院は捜査機関ではありませんので、捜索や差押さえといった強制捜査はできません。

また、検査に従わなかったとしても罰則が課されるわけではありませんので、不必要な検査や過剰な検査に関しては、きちんとした理由を述べてお断りすることも不可能ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00366_インサイダー規制がトリッキーに作用するストックオプション取引

ストックオプションの権利を行使して株式を取得する場合については、
「厳格な手続きが予定されており、投資家による市場への信頼喪失が発生しない」
という理由で、インサイダー取引に該当しないものとされています(金融商品取引法166条6項)。

ただ、
「ストックオプションがインサイダー取引にならない」
のはあくまで、
株式取得面に限ってのこと
であり、
重要事実を知った者が公表前にストックオプションで取得した株式を売却
したりすると、当該売却行為にはインサイダー取引規制が及ぶことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00365_インサイダー取引が規制される理由・背景

金融商品取引法(旧証券取引法)は、
「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする(第1条)」
という目的を実現するため、詳細な規定を設けています。

株価は市場において形成された客観的で公正な企業価値を反映するものであり、このような期待があるからこそ、投資家は市場を信頼し、資本主義が健全に機能することになります。

その意味では、市場における株価は、正確な情報に基づき、自由かつフェアに評価されたものでなければなりません。

反対に、
市場における株価形成のプロセス自体が歪められたり(相場操縦)、
株価形成の際に虚偽の情報が混入したりすること(開示における虚偽記載)、
さらには、
「一部の者だけが正しい情報を持つ結果、本来あるべき企業価値とは離れた株価が形成されること(インサイダー取引)」
も、投資家の市場に対する信頼を失わせ、資本主義という制度そのものを破壊しかねない悪質な行為と考えられることになります。

このような点から、金融商品取引法は、インサイダー情報による取引を違法視し、刑事罰や課徴金の制裁など厳しい制裁を科しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00364_特許技術を研究発表する際に絶対注意すべき、新規性喪失リスク

自由な競争による経済社会の発展を標榜するわが国において、
「特定のアイデアや思いつきといったものに規制がかけられ、その使用が制限される」
などというのは、国是に真っ向から反する話です。

しかしながら、
「斬新で高度な技術に対して一定期間独占的な利用権を与え、保護することにより、発明が促進し、産業が発達し、結果として社会や国家が豊かになる」
という観点から、わが国においても特許制度というものが定められています。

このような特許制度の趣旨からは、
「アイデアや思い付きであれば何でもかんでも特許権を与える」
ということにはならず、
「産業の発達に寄与するような新規の発明に限って、特許を与える」
という仕組みが導かれます。

このような観点から、特許法において、特許要件として、新規性、すなわち
「その発明が未だ社会に知られていないこと」
が加えられています。

研究者の中には、特許法の知識に疎いために、研究が成功すると、嬉しさのあまり、特許出願なんて面倒なことは後回しにして、すぐに研究内容を発表してしまう方がいらっしゃいます。

しかしながら、この行為は特許取得にとっては非常に有害な影響を与えます。

すなわち、研究発表をしてしまうことで、その研究内容が特許出願に先立ち社会に知られてしまうこととなり、特許を受けるための要件である新規性が喪失してしまうのです。

発表をした本人からすれば、自分の行った研究と同一又は似通った内容の研究が誰かに発表されてしまう前にいち早く発表したいのは心情として当然でしょうし、何より、
「自分で発見した研究成果・技術を自分自身が発表することで、なぜ特許権が与えられなくなるのか?」
と不信に思われるかもしれません。

しかし、新規性のない発明には特許を原則与えないとしているのは特許制度の本質から導かれる要件であり、特許法の立場としては
「成果を言いふらしたいのであれば、特許出願してからにしなさい」
ということなのです。 

とはいえ、ときに、法律も粋な計らいをしてくれるもので、特許法は、新規性のない発明については原則特許権を与えないとしつつ、30条にて、
「特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会」

「刊行物」
にて発表した場合には、例外的に、新規性が失われないとの救済規定を設け、
「研究者の功名心」
に一定の配慮を与えています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00363_「(不正競争防止法上の)営業秘密保護制度」が、特許より強力で使い勝手がいい場合

製造方法のような企業秘密は、
「特許として公開(特許にする以上、一定期間の独占の代償として秘密を全世界に向けて暴露することが要求されます)にしない限り、法律上の保護を一切受けられないのか」
というと、そんなことはありません。

ここで登場するのが企業法務の伝家の宝刀、不正競争防止法に規定される
「営業秘密」
です。

あまり知られていませんが、
「営業秘密」
は広い意味での
「知的財産権」
に含まれるもので、産業財産権に負けない重要でパワフルで便利なものです。

「営業秘密」
に該当する情報は、法律上の手厚い保護が与えられており、営業秘密の不正な取得・使用・開示行為に対しては、民事上、差し止め請求や損害賠償請求が認められている上、悪質なものには刑事罰まで課されます。

「営業秘密」
として保護される対象は、特許権や実用新案権等と異なり大変幅広く、およそ事業に有用な情報であればOKです。

1 秘密として管理されている
2 有用な情報であり
3 公然と知られてはいない
という三要件を充足するものであれば、
「営業秘密」
としての手厚い保護を享受できます。

つまり、厳重なパスワードをかけて保管し従業員に厳格な守秘義務を課すなど、営業に有用な秘密情報を厳重に管理しておけば、ライバル企業も迂闊に手出しできなくなるというわけです。

よくいわれるのが、コカコーラの原液のレシピや製造方法の法的管理方法です。

これを特許でプロテクトしようとすると、たかだか20年しか競争優位が保てませんが、営業秘密には保護期間という概念がありませんから、前記の三要件を充足する限り、未来永劫、独占的な利用の利益を享受できる、というわけです。

ですので、経営戦略・事業戦略を構築する際、
「あえて特許を取得しない」
「どうでもいい外延部分は特許を取得し、外敵を近づけないようにし、中核部分は営業秘密としてブラックボックス化しておく」
などの方策選択により、長期間の独占的利用を手中にできる、ということも検討すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00362_「競争優位を図るため特許出願したら、却って競争優位を喪失する(自爆出願)」リスク

特許権、実用新案権、意匠権及び商標権を総称して、産業財産権(かつての工業所有権)といいます。

近年のわが国の
「知的財産戦略」
のお陰で、特許権をはじめとする産業財産権は一躍脚光を浴び、マスコミ等が騒ぎ立てる
「発明で大金持ち」
のシンデレラストーリーと相まって、
「何でもかんでもとにかく出願」
という風潮が高まりました。

しかしここ最近、こうした状況に疑問を呈する声が上がり始めました。

といいますのも、特許権をはじめとする産業財産権に共通する特徴として、権利として保護されるためには
「登録」
が必要であるという点が挙げられます。

この
「登録」
という制度は、裏を返せば
「世界の中心で企業秘密を絶叫する(企業機密を、自主的に世界中に暴露する)」
ことを示しています(ただし、意匠権については3年以内に限り登録内容を秘密にする制度があります)。

確かに、登録された権利を侵害して商売する企業などには、利用の中止を求めたり、利用許諾の対価を請求したりできますが、単に家庭内で利用する場合等、個人使用の範囲にとどまっている限りは利用の中止や対価を求めることができません。

つまり、一般消費者を対象とする
「誰でも作れちゃう」商品
の作り方を出願して、これが一般に公開された場合、たとえ他企業がマネしなくても、商品の売れ行きは落ち込んでしまうわけです。

さらに、知的財産権の属地主義(登録した国の国内のみしか効力が及ばないこと)の原則のお陰で、わが国でせっかく出願・登録されても、海外で別途出願の手続をとらなければ、海外ではパクられ放題となってしまい、これを避けようとして、たくさんの国で出願すれば、それだけ多額の費用が掛かります。

これが、
「わが国での無計画な出願の乱発が、かえってわが国の貴重な知的財産流出の深刻な要因となっている」
との批判(ないし嘆息)がなされている所以です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00361_独禁法の法令管理を行う際に有益な、公取委提供の啓蒙用パンフレット(PDF形式)

公正取引委員会が、同委員会所管の独禁法や下請法等について、啓蒙用パンフレットを公開しています。

同サイトの独占禁止法関係にあるパンフレットが役に立ちます。

中でも、もっともわかりやすく、ざっくり把握するのに便利なものは
知ってなっとく独占禁止法
です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00360_下請法(下請代金支払遅延等防止法)の法令管理を行う際に有益な、公取委提供の啓蒙用パンフレット(PDF形式)

公正取引委員会が、同委員会所管の独禁法や下請法等について、啓蒙用パンフレットを公開しています。

同サイトの下請法関係にあるパンフレットが役に立ちます。

中でも、もっともわかりやすく、ざっくり把握するのに便利なものは
知るほどなるほど下請法
です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所