00249_契約書のボリュームアップ化現象

日本の産業界では、ついこの前まで、どんなに大きな取引でも欧米流の分厚い契約書は嫌がられ、
「信頼関係」
という日本独特の美風と伝統に基づく、簡素な(というか法的にほとんど意味のない)契約書による取引(あるいは契約書すらあえて作らない取引)が尊ばれてきました。

また、
「契約書に想定しないような状況や契約文書の解釈に相違が生じた場合は、トップ同士酒食を共にして仲良く話し合い、それでもダメなら業界の顔役や監督官庁の指導で、解決を先延ばしにするなり適当に手打ちをする」
というやり方が支配的で、弁護士に依頼して裁判で徹底して自己の主張を展開するなんて下品なことはまず行なわれませんでした。

ところが、市場が縮小し業界内競争が熾烈化するとともに、
「規制緩和」
の流れの中で役所も業界のリーダーも業界内秩序維持の役割を放棄するようになりました。

さらに、外資や新興企業の参入が常態化するようになると、古き良き取引文化は消滅し始め、欧米流の法的合理性に基づく取引構築が主流となってきました。

最近では、
「ペラペラの適当な契約書はイヤ、欧米流のきっちりとした契約書を作成してほしい」
という要望を持つクライアントが増えてきました。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00248_インデペンデント・コントラクター(外部の独立事業者、IC)の雇用認定を避けるための予防法務テクニック

理論上の回避策としては、まず、インデペンデント・コントラクター(外部の独立事業者、「IC」)に法人を設立させ、法人間契約とすることが考えられます。

ただ、新会社法で設立が従来に比べ簡単になっているとはいえ、ICの数が相当数にわたる場合を考えると、設立手続き負担の重さはあまりに非現実的です。

あと、ICに
「独立個人事業主であることの客観的状況」
を具備させる方法として、商法11条に基づく屋号登記を実行させるとともに、税務署に個人事業開始届を提出させるという方策も、理論上の選択肢としては考えられます。

これに加えて、会社で税理士を用意し、税理士が管理する金融機関の特別口座を準備し、各IC)から半強制的に申告税相当の金銭を預かり、この口座にプールし、確実に税金を支払わせるという方法もアイデアレベルでは考えられます。

なお、このような方法であっても、下請法や独禁法上の優越的地位の濫用の問題は回避し得ませんし、さらには近時社会問題になっている偽装請負等の問題については、未解決のリスクとして残ってしまいます。

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00247_他者の労力やスキルを使う取引の設計:請負と委任と雇用をどのように使い分けるか

「お金をもらって仕事をする」
というのは経済的には単純な話ですが、法律的には、それが請負ないし委任なのか雇用なのかはなかなか悩ましいところです。

悩ましいといっても、理論的な議論だけならいくらでも悩めばいいのですが、税務の問題が絡むと、議論の方向性を誤ると無用な税務リスクに発展するので、慎重に取り扱う必要があります。

さらに、実質的に派遣元が指揮命令を行っているにもかかわらず、雇用以外の契約形態(委任や請負)を採用すると、偽装請負の問題も生じかねません。

SEを使って派遣業務等を行う場合、各エンジニアが独自の裁量で仕事を遂行し、勤怠管理や作業報告義務等も一切行なわないということであれば、独立事業者との請負ないし委任契約という形でも差し支えありません。

エンジニアに仕事の裁量がなく、勤怠管理に服し、作業報告義務までも課されているのであれば、契約名目にかかわらず、雇用という法律関係が形成されているものと見られます。

請負や委任というのは、独立の事業者として義務を遂行するものであり、誰かの指導命令に服するということとは相いれませんから、当たり前といえば当たり前の話なのですが、世の中には契約の名称だけ
「請負」

「委任」
としておけば税務署や労基署も同じように法的におかしな理解をしてくれる、などということを考えられる会社もあるようです。

もちろん税務署も労基署もこんな話をまともに受け取ってくれるほど甘くはありませんので、
「実体が外部行政機関によってどのように認定されるか」
という外部機関認定に関するストレステストを加えて、契約形態を設計しておくべき必要があります。

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00246_解雇ができない場合、どうやって、問題社員のクビを切るか

解雇をしたくても、解雇理由がない、あるいは、解雇理由があっても、労働契約法16条(「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」)によって、解雇権の濫用として、解雇が無効とされてしまう。

でも、この問題社員はなんとかクビにして追い出したい。

その場合、クビを切るにはどのようにするかというと、従業員側から退職届を出してもらうことに尽きます。

さまざまな規制が及ぶ
「解雇」
とは、あくまで
「嫌がる従業員を無視して、会社の一方的意思表示により雇用関係を消滅させること」
を意味します。

すなわち、会社の一方的都合でラディカルな行為が行われるから、さまざまな解雇の法規制が働くのです。

他方、従業員が自主的に雇用関係を消滅させることは全く自由であり、そのような形での雇用関係の解消には法は介入しません。

男女の交際関係を上手に解消する手段として、
「こちらからフるのではなく、相手に愛想を尽かせて相手からフらせるようにもっていけ」
なんて方法が推奨されることがありますが、雇用関係の解消もこれと同様に進めれば、カドをたてず所定の目的を達成できる、ということになります。

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00245_解雇不自由の原則

労働法の世界では、解雇権濫用の法理といわれるルールがあるほか、解雇予告制度や即時解雇の際の事前認定制度等、労働者保護の建前の下、どんなに労働者に非違性があっても、解雇が容易に実施できないようなさまざまな仕組が存在します。

映画やドラマで町工場の経営者が、娘と交際した勤労青年に対して、
「ウチの娘に手ぇ出しやがって。お前なんか今すぐクビだ、ここから出てけ!」
なんていう科白を言う場面がありますが、こんなことは労働法上到底許されない蛮行です。

そもそも、 解雇権濫用法理を定めた労働契約法16条(「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」)からすれば、
「代表取締役の娘と従業員が交際した事実」
を解雇理由とすることは濫用の典型事例であり、解雇は明らかに無効です。

仮に解雇理由があっても、労働基準監督署から解雇予告除外のための事前認定を取らない限り、解雇は一カ月先にするか、1カ月分の給与(予告手当)を支払って即時解雇することしかできませんので、
「今すぐクビ」
というのも手続上無理。

婚姻関係が
「婚姻は自由だが、離婚は不自由」
と言われるのと同様、従業員雇用も
「採用は自由だが、解雇は不自由」
とも言うべき原則が働きます。

ちなみに、日本の社会政策的私法制度(弱者救済のため、自由主義を国家政策によって捻じ曲げているシステム)としては、

1 解雇の不自由
2 借地借家の解除の不自由
3 離婚の不自由

があります。

すなわち、
・雇用契約は自由だが、一端雇用したら、解雇は事実上不可能
・家や土地を貸すのは自由だから、一度貸したら、事実上、家や土地は、借りた人間のモノで取り上げることはほぼ不可能
・結婚は自由だが、離婚は不自由であり、もめた場合、多大な時間とコストとエネルギーを消耗する
という社会政策的な自由弾圧型法システムを確立し、弱者を保護しています。

いずれにせよ、解雇は
「勢い」
でするのではなく、法的環境を冷静に認識した上で、慎重かつ合理的に行うべき必要があります。

というより、
「採用する」
ということは、決してノリや、
「ビビっときたから」
といったインスピレーションに依拠して、気軽にすべきではなく、結婚と同じくらい、
「一旦エンゲージしたら、ちょっとたんま。やっぱり、やーんぺ、というわけにはいかない」
という前提環境をしっかい理解して、慎重に行うべきです。

また、一度採用してしまったら、基本、取り返しがつかない状態に陥っており、解消には、離婚同様、多大な時間とコストとエネルギーを要する(というか、離婚と違って、定年まで解雇ができない状況に陥る)ことを理解把握しておくべきです。

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00244_性悪説に立った契約書設計

今どきの契約書において、カネを払う側は、取引相手を
「信頼に足り得る取引先」
としてではなく、
「契約書で縛っておかないと、あらゆる悪さをする危険のある、信頼できない奴」
としたうえで、性悪説に立った契約書を取り交わし、厳格な法的管理を実行することがトレンドです。

「先生、信頼に足る適正な関係を構築するために必要な、関係構築哲学とはどのようなものでしょうか?」
こんな問いに対して、私は、こう答えています。

「とことん相手を信頼しない前提で関係構築すること。それが、信頼に足る正しい関係を構築する前提思想」
と。

相手を、とことん信頼せず、信頼を裏切る行動に出たら即座にかつ徹底的に当該行動に対する代償を払わせるような契約条項を考案しておけば、取引相手も諸事、自重し、慎重に丁寧な行動を心がけ、ナメた行動をしなくなり、甘えた考えをもたなくなります。

結果、相手は、やましい心をもたなくなり、真面目に、誠実に、契約履行を心がけ、双方にとって歓迎すべき帰結を迎えることができます。

厳しい契約で、利益を得るのは、カネを払って商品や役務を受け取る側もそうですが、適切な自己規律で、正しく義務を果たすことで、トラブルの種を自主的に排除できた相手方も同様です。

ところが、細かいスペックや期限、義務不履行の際のリカバリースキームやペナルティを取り決めていくと、たまに、これを忌避する相手がいます。

本来遵守して当然の契約条項を
「そんなの厳しいからヤだ」
とか言って忌避するような契約相手のスタンスは、
「モレやヌケがあったり、チョンボやズルをしても文句を言わないでくれ」
というのを求めているのと同義です。

こんなヤツとは、付き合わないか、契約を解消し、
「約束した以上、命をかけても、契約を履行するし、できなかったら、いかなる制裁も甘受する」
ということを宣言できる、信頼に足る別の契約相手を探した方がいいということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00243_契約自由の原則:愚かでリスキーな契約上の立場に陥れられたら、それは自己責任であり、そんな愚かでリスキーな契約した方が全て悪い

民商事法の世界では、契約自由の原則という理屈があります。

これは、どのような契約を締結するかは当事者間の自由であり、公序良俗に違反しない限り、裁判官が理解して判決書ける程度に明確な条項を取り決めてあれば、どんな契約上条項も法的に有効なものとして取り扱う、という原則です。

逆に、契約相手を漫然と信頼して、本来契約内容にしておくべきことを契約内容として明記せず、
「いざとなったら誠実に協議して対応しましょう」
みたいな法的に無意味な取決めで誤魔化すことも自由です。

無論、その場合、契約相手方に対して
「書かれざることは、どんなに道義的にひどいことをやろうが、法的には問題なし」
ということを許すことになります。

要するに、
「契約相手にやられて困ることがあれば、性悪説に立って、すべて契約条件として事前に明記しておき、法的に縛っておけ。逆に、この種の管理を面倒くさがって、契約を曖昧にしたのであれば、ひどいことをされても文句はいうな」
というのが契約自由の原則の正しい帰結です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00242_国際取引において、仲裁地の交渉がデッドロックになった場合のブレイクスルー・テクニック

国際契約においては、お互い仲裁地を譲らないことが多いです。

これによって、国際取引が暗礁に乗り上げてしまうことがあります。

無論、どちらかが契約交渉上に有利な地位を有していれば、力関係を通じて解決されます。

すなわち、強者が弱者に
「契約条件についてオレの言うこときけないなら、契約はヤメだ」
と要求すれば済む話です。

しかしながら、両者対等の立場ですと、調整は難航します。

ひとつの案としては、第三国を選ぶという考え方です。

すなわち、各当事者の国以外の特定の国、例えばイギリスとかスイスとかを仲裁地とする方法です。

とはいえ、当該第三国の仲裁地までの移動にかかる負荷や当該仲裁地における仲裁の質や信頼性、当該仲裁地の弁護士が確保できるか等いろいろ調査の手間がかかります。

もう1つの案としては、仲裁を申し立てる側が、相手方当事者の場所に乗り込んで仲裁するという方法です。

すなわち、当方が契約に関して文句があるときは相手国を仲裁地とする仲裁を申立て、相手方が契約に関して文句があるときは当地(例えば東京都)を仲裁地とする仲裁を申し立てる、という取り決めをして、デッドロックを解消する方法です。

参考:
00074_企業法務ケーススタディ(No.0028):国際契約での仲裁地の引っ張り合い解消法

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00241_管轄地・仲裁地の重要性

日本国内の会社同士の取引なんかですと、ある程度中味のしっかりした契約書を取り交わし、日常のコミュニケーションがしっかりしている限り、トラブルが裁判に発展するなんてことはありません。

とはいえ、いざ裁判になった場合、弁護士として一番気になるのは裁判管轄です。

サッカーや野球の場合、
「試合の場所がホーム(当地)であるかアウェー(敵地)であるかは、試合結果を左右するくらい重要」
などと言われますが、これは裁判でも同じです。

私の場合、東京地方裁判所の裁判ですと散歩感覚で行けるのですが、地方での裁判は移動の時間やこれにかかるエネルギー(弁護士は膨大な書類を持ち歩く必要があり、遠隔地への移動は大変体力を消耗します)は非常に重くのしかかります。

依頼者にとっては、日当や稼働時間報酬というコスト負担の問題が生じます。

これが海外になると、アウェーでの裁判や仲裁はさらに不利になります。

裁判官なり仲裁人は現地の文化や言語を基礎に手続を進めますし、当然ながら、相手国の弁護士を採用しないとこちらの言い分が満足に伝えられません。

仲裁期日のほか、相手国の弁護士との打合せに要する時間やコスト、コーディネイターのコスト、証人等社内関係者の渡航による事業活動への影響等々を考えると、紛争を継続するコストは、ホームでやる場合に比べ、ケタが1つないし2つくらい違ってきます。

国際仲裁において仲裁地を相手国とすることは非常な不利を招き、トラブルが生じても仲裁でこれを是正する途が事実上閉ざされてしまうことになりかねません。

要するに、国際取引契約で、
「取引紛争が生じた際、相手先の管轄地や仲裁地で解決する」
という条項が定められたら最後、機能的な意味解釈をほどこせば、
「紛争が生じたら、訴訟や仲裁手続きはギブアップし、相手のいうなりになる」
ということ同義といえます。

そのくらい、管轄地や仲裁地の定めは契約上重要性を帯びています。

こういう言い方をすれば、
「そんな、まさか、トラブルなんて、そうしょっちゅう起こらないでしょ」
といって、ビジネスサイドや営業サイドから楽観的な見解を示される場合があります。

しかしながら、経験上、国際取引においては、相手の企業と、話も通じず、言葉も通じず、感受性も常識も通じない、と考え、警戒してちょうどいいくらいです。

しかも、大きなカネや権利がかかわると、相手の立場の配慮や、信義誠実や、紳士的な振る舞いというのは、大きく後退し、暴力的な強欲さが浮上してきます。

加えて、万国共通の契約ルールは、
「書いてないことはやっていいこと」
「甘い、ぬるい、ゆるい記載で解釈の幅がある契約条項は、我田引水の解釈をして差し支えない」
「契約の穴は、いくらでも都合よく解釈していい」
という、品位のかけらもない、野蛮なものであり、取引がうまくいってうまみや利益の取り合いになる場面でも、取引がうまくいかず責任を押し付け合う場面のいずれでも、トラブルの種は山のように存在します。

そういった意味では、紛争を予知して、紛争になった場合の対処イメージを具体的に把握しながら、ホーム戦か、アウェー戦となるか(=戦いをギブアップして、不戦敗を受け入れるか)という、契約条件設計上の態度決定課題は、真剣に考えておくべきテーマといえます。

参考:
00074_企業法務ケーススタディ(No.0028):国際契約での仲裁地の引っ張り合い解消法

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00240_売掛で商品を卸すということは、代金相当のカネを貸すのと同じ

売掛で商品を卸すということは、代金相当のカネを貸すのと同じです。

身なりや話しぶりだけで、いきなり新規取引先に売掛で商品を販売するような、物を知らない、世間を知らないベンチャー企業を見受けることがありますが、これは、見ず知らずの人に担保もなしにカネを貸したのと同じくらいアホなものだったということです。

代金引換で売り渡すのであればリスクはないですが、掛で売る以上は、取引相手が信用に足るかどうか調査した上で、債権を適正に保全する方法を構築することが必要です。

掛で売ることはカネを貸すのと同じといいましたが、
「どうやって信用を調査するか」
には、資本主義社会という生態系の頂点に立つ、全ての企業の霊長とも言える、銀行のビヘイビアをベンチマークにするのが賢明です。

すなわち、売掛で商品を販売する先の信用調査は、銀行がカネを貸す時に行うことを参考にするのが手っとり早く確実な方法です。

銀行からカネを借りる時には、登記簿謄本をもってこい、印鑑証明もってこい、決算書もってこいなんて鬱陶しいことを言われます。

ですが、掛売を行う際は、この状況を彼我の立場を替えて再現すればいいだけです。

こちらの商品をどうしても掛(代金後払い)で欲するような相手に対しては、たとえ相手の会社が、立派そうで、金を持ってそうでも、登記簿謄本や決算書を要求すればいいだけです。

見ず知らずの人間に、商品代金相当のカネを無担保で貸すわけですから、そのくらい要求するのは不当とも思えません。

実務上経験するのは、そうやって、
「新規に大量の売掛を要求する」
という傲慢な企業の中には、登記簿謄本や信用調査会社のスコアや決算書等を要求したら、
「プライバシーの侵害だ」
「個人情報だろ(←いえいえ、法人情報ですが)」
「無礼だろ」
などと意味不明なことを言って騒ぎ出し、激怒して逆ギレするようなところもなくもありません。

しかし、後から調べると、会社の実体がなかったり、破産寸前だったり、ということがあり、あやうく取り込み詐欺に遭いそうになっていたところで、
「取引をしなくてよかった」
ということが判明する場合があります。

考えてみれば、上場・非上場、規模の大小を問わず、株式会社は、商業登記簿は法務局で世界にあまねく公開しておりますし、決算についても、会社法に基づき公告義務が課せられており、プライバシーもへったくれもありません。

公開が法律上義務づけられているものを、不合理にしぶるのは、存在しなかったり(私も実務上、「株式会社の名刺をもっているが、実は、そんな株式会社が存在しなかった」というコテコテの詐欺の被害にあった会社の事件を受けたことがあります)、見られたら即信用をなくすような相当ひどい内容が書かれている場合の可能性が高いです。

いずれにせよ、会って間もない相手に、いきなり、掛けで大量の商品をもってこい、というのは、かなり非常識な話で、話の筋だけで、眉にツバをべったりつけて、対応すべきであり、
「みかけの受注話に舞い上がって、取り込み詐欺の被害者になるような愚かな真似」
をすべきではありません。

参考:
00073_企業法務ケーススタディ(No.0027):商品売掛先に騙された!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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