00364_特許技術を研究発表する際に絶対注意すべき、新規性喪失リスク

自由な競争による経済社会の発展を標榜するわが国において、
「特定のアイデアや思いつきといったものに規制がかけられ、その使用が制限される」
などというのは、国是に真っ向から反する話です。

しかしながら、
「斬新で高度な技術に対して一定期間独占的な利用権を与え、保護することにより、発明が促進し、産業が発達し、結果として社会や国家が豊かになる」
という観点から、わが国においても特許制度というものが定められています。

このような特許制度の趣旨からは、
「アイデアや思い付きであれば何でもかんでも特許権を与える」
ということにはならず、
「産業の発達に寄与するような新規の発明に限って、特許を与える」
という仕組みが導かれます。

このような観点から、特許法において、特許要件として、新規性、すなわち
「その発明が未だ社会に知られていないこと」
が加えられています。

研究者の中には、特許法の知識に疎いために、研究が成功すると、嬉しさのあまり、特許出願なんて面倒なことは後回しにして、すぐに研究内容を発表してしまう方がいらっしゃいます。

しかしながら、この行為は特許取得にとっては非常に有害な影響を与えます。

すなわち、研究発表をしてしまうことで、その研究内容が特許出願に先立ち社会に知られてしまうこととなり、特許を受けるための要件である新規性が喪失してしまうのです。

発表をした本人からすれば、自分の行った研究と同一又は似通った内容の研究が誰かに発表されてしまう前にいち早く発表したいのは心情として当然でしょうし、何より、
「自分で発見した研究成果・技術を自分自身が発表することで、なぜ特許権が与えられなくなるのか?」
と不信に思われるかもしれません。

しかし、新規性のない発明には特許を原則与えないとしているのは特許制度の本質から導かれる要件であり、特許法の立場としては
「成果を言いふらしたいのであれば、特許出願してからにしなさい」
ということなのです。 

とはいえ、ときに、法律も粋な計らいをしてくれるもので、特許法は、新規性のない発明については原則特許権を与えないとしつつ、30条にて、
「特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会」

「刊行物」
にて発表した場合には、例外的に、新規性が失われないとの救済規定を設け、
「研究者の功名心」
に一定の配慮を与えています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00363_「(不正競争防止法上の)営業秘密保護制度」が、特許より強力で使い勝手がいい場合

製造方法のような企業秘密は、
「特許として公開(特許にする以上、一定期間の独占の代償として秘密を全世界に向けて暴露することが要求されます)にしない限り、法律上の保護を一切受けられないのか」
というと、そんなことはありません。

ここで登場するのが企業法務の伝家の宝刀、不正競争防止法に規定される
「営業秘密」
です。

あまり知られていませんが、
「営業秘密」
は広い意味での
「知的財産権」
に含まれるもので、産業財産権に負けない重要でパワフルで便利なものです。

「営業秘密」
に該当する情報は、法律上の手厚い保護が与えられており、営業秘密の不正な取得・使用・開示行為に対しては、民事上、差し止め請求や損害賠償請求が認められている上、悪質なものには刑事罰まで課されます。

「営業秘密」
として保護される対象は、特許権や実用新案権等と異なり大変幅広く、およそ事業に有用な情報であればOKです。

1 秘密として管理されている
2 有用な情報であり
3 公然と知られてはいない
という三要件を充足するものであれば、
「営業秘密」
としての手厚い保護を享受できます。

つまり、厳重なパスワードをかけて保管し従業員に厳格な守秘義務を課すなど、営業に有用な秘密情報を厳重に管理しておけば、ライバル企業も迂闊に手出しできなくなるというわけです。

よくいわれるのが、コカコーラの原液のレシピや製造方法の法的管理方法です。

これを特許でプロテクトしようとすると、たかだか20年しか競争優位が保てませんが、営業秘密には保護期間という概念がありませんから、前記の三要件を充足する限り、未来永劫、独占的な利用の利益を享受できる、というわけです。

ですので、経営戦略・事業戦略を構築する際、
「あえて特許を取得しない」
「どうでもいい外延部分は特許を取得し、外敵を近づけないようにし、中核部分は営業秘密としてブラックボックス化しておく」
などの方策選択により、長期間の独占的利用を手中にできる、ということも検討すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00362_「競争優位を図るため特許出願したら、却って競争優位を喪失する(自爆出願)」リスク

特許権、実用新案権、意匠権及び商標権を総称して、産業財産権(かつての工業所有権)といいます。

近年のわが国の
「知的財産戦略」
のお陰で、特許権をはじめとする産業財産権は一躍脚光を浴び、マスコミ等が騒ぎ立てる
「発明で大金持ち」
のシンデレラストーリーと相まって、
「何でもかんでもとにかく出願」
という風潮が高まりました。

しかしここ最近、こうした状況に疑問を呈する声が上がり始めました。

といいますのも、特許権をはじめとする産業財産権に共通する特徴として、権利として保護されるためには
「登録」
が必要であるという点が挙げられます。

この
「登録」
という制度は、裏を返せば
「世界の中心で企業秘密を絶叫する(企業機密を、自主的に世界中に暴露する)」
ことを示しています(ただし、意匠権については3年以内に限り登録内容を秘密にする制度があります)。

確かに、登録された権利を侵害して商売する企業などには、利用の中止を求めたり、利用許諾の対価を請求したりできますが、単に家庭内で利用する場合等、個人使用の範囲にとどまっている限りは利用の中止や対価を求めることができません。

つまり、一般消費者を対象とする
「誰でも作れちゃう」商品
の作り方を出願して、これが一般に公開された場合、たとえ他企業がマネしなくても、商品の売れ行きは落ち込んでしまうわけです。

さらに、知的財産権の属地主義(登録した国の国内のみしか効力が及ばないこと)の原則のお陰で、わが国でせっかく出願・登録されても、海外で別途出願の手続をとらなければ、海外ではパクられ放題となってしまい、これを避けようとして、たくさんの国で出願すれば、それだけ多額の費用が掛かります。

これが、
「わが国での無計画な出願の乱発が、かえってわが国の貴重な知的財産流出の深刻な要因となっている」
との批判(ないし嘆息)がなされている所以です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00361_独禁法の法令管理を行う際に有益な、公取委提供の啓蒙用パンフレット(PDF形式)

公正取引委員会が、同委員会所管の独禁法や下請法等について、啓蒙用パンフレットを公開しています。

同サイトの独占禁止法関係にあるパンフレットが役に立ちます。

中でも、もっともわかりやすく、ざっくり把握するのに便利なものは
知ってなっとく独占禁止法
です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00360_下請法(下請代金支払遅延等防止法)の法令管理を行う際に有益な、公取委提供の啓蒙用パンフレット(PDF形式)

公正取引委員会が、同委員会所管の独禁法や下請法等について、啓蒙用パンフレットを公開しています。

同サイトの下請法関係にあるパンフレットが役に立ちます。

中でも、もっともわかりやすく、ざっくり把握するのに便利なものは
知るほどなるほど下請法
です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00359_メーカーが下請に在庫引取を強制した場合における、下請法違反リスク

下請法は、適用対象となる下請取引について、発注元会社に対し
「下請代金の減額」や「買いたたき」等

「11の禁止事項」
を命じており、そのうちのひとつとして、
「正当な理由なく自己の指定する物を強制して購入させること」
を禁止しています(物の購入強制の禁止。同法4条1項6号)。

違反した発注元会社には、公取委による警告や勧告措置等が待っています。

ここにいう
「正当な理由」
とは、例えば、
「下請業者に発注した製品の品質を一定に保つために、発注元会社が自社製原材料の(適正な価格での)購入を要請する場合」
などが挙げられますが、今回のように、単に自社の在庫の消化を目的としているような場合には、正当な理由があるとは認められません。

また、
「強制して購入させること」
とは、下請業者による上辺だけの
「任意の了承」
の有無で決まるわけではなく、発注元会社としての強い立場を利用し、物の購入を取引条件に組み入れさせる場合はもちろん、事実上、物の購入を余儀なくさせているような場合も含まれます。

典型例としては、
1 発注担当者など下請取引に影響を及ぼし得る者が購入を要請する場合
2 下請業者ごとに目標額や目標量を定めて購入を要請する場合
3 購入しなければ不利益な取扱いをする旨を示唆するような場合
4 下請業者が反対したにもかかわらず重ねて購入を要請する場合
等が挙げられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00358_下請イジメをした場合に適用されるのは、下請法か「優越的地位の濫用」か?

独禁法は、大企業など取引上優越した地位にある企業が、その地位を不当に利用して圧力をかけるなどし、相手方企業に不利な取引条件等を強要することを、
「不公正な取引方法」
のうちのひとつ、
「優越的地位の濫用」
として禁止しています。

もっとも、この弱肉強食の資本主義経済においては、契約締結や取引条件の交渉等の局面において厳しい交渉が行われるのは当然のことであり、
「どこまでやると不当なのか」
の判断は難しく、その分、公取委(公正取引委員会)が
「優越的地位の濫用」
として独禁法違反を認定するためには、長時間を要する慎重な調査や手続が不可欠となっています。

そこで、一般に極めて弱い立場にあるといえる下請業者を画一的な基準と簡易な手続で迅速に救済するために、独禁法の補完法としての下請代金支払遅延等防止法(長ったらしいので「下請法」と略称されます)が制定されました。

例えば、メーカー下請とメーカーの関係については
「物品の製造委託」
の場合、原則として、
1 資本金3億円を超える企業が3億円以下の業者に下請けさせる場合、
もしくは
2 資本金1千万円を超える企業が1千万以下の業者に下請けさせる場合に、
下請法が適用されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸
著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00357_実績の乏しい「割引」表示をした場合のリスク

景品表示法とは、正式には不当景品類及び不当表示防止法といいます。

消費者は、商品を購入するにあたり、より質の高いもの、より価格の安いものを求めますし、商品を販売する事業者等はそのような消費者の期待に応えるため、他の事業者の商品よりも質を向上させ、また、より安く販売する努力をし、このような過程を通じて市場経済が発展していきます。

ところが、品質や価格などに関して、誇大な広告や過大な景品類の提供が行われるようになると、消費者が誇大な広告に惑わされたり、商品を選択する際に商品の品質ではなく景品の善しあしに左右されるようになり、その結果、質が良く安い商品を選ぼうとする消費者の適正な選択に悪影響を与えてしまい、本来あるべき
「商品の価格と品質による競争」
がなくなってしまいます。

そこで、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護することを目的として景品表示法が制定されたのです。

以上のような趣旨で定められた景品表示法ですが、第4条第1項第2号において
「実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるものであって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる広告」
等を禁止しています。

具体的には、商品・サービスの取引条件、購入方法などについて、実際よりも顧客にとって有利であると偽って宣伝したりする行為、例えば、過去に定価で販売したことがないにも関わらず、広告などで
「今なら通常価格から1000円引!」
などと表示する行為が
「有利誤認表示」
に該当することになります。

消費者庁(かつての所管官庁であった公正取引委員会から2009<平成21>年9月1日付で消費者庁に移管されました)から、
当該「有利誤認表示」行為
の排除命令がなされ、命令の公表等を通じて対消費者イメージが急激に悪化してしまう場合があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00356_違約金の種別と、効果と、契約記載テクニック

「違約金」

「制裁金」
「ペナルティ」
という言葉は、ビジネスの世界でもよく耳にしますが、その実際の意味について正確に理解している方はあまり多くないように思われます。

それもそのはず、
「違約金」
という言葉は、
「債務者が債務不履行の場合に、債権者に対して給付することを約束した金銭」
などと説明されるものの、実際には、次のように
1 予め定められた損害賠償額(損害賠償額の予定)
2 実際の損害のほかにプラスαで課される制裁金(違約罰)
などなど、多種多様な意味で用いられる、いわば
「玉虫色のマジックワード」
なのです。

これらは、それぞれ似たようなものに見えるかもしれませんが、
「1 損害賠償額の予定」
の意味であれば、実際に発生した損害額がいくらであるかとは無関係に予定額の賠償しか請求できないのに対し、
「2 違約罰」
の意味であれば、当該金額の請求に加えて、別個に、実際に生じた損害額の賠償をも請求できます。

このように
「たかが言葉一つ」
とはいえ、解釈によって、時に巨額の差を生み出します。

民法は、
「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合においては、裁判所は、その額を増減することができない」(420条1項)
と規定し、
「1 損害賠償額の予定」
に拘束されます(ただし、法外に高額または低額の予定をすると公序良俗違反として無効にされることがあるほか、利息制限法などの特別法による規制もあります)。

その上で、同条3項は、
「違約金は、賠償額の予定と推定する」
と規定し、
「違約金」は、(推定を覆すような)特段の定めがない限り、「2 違約罰」ではなく「1 損害賠償額の予定」として解釈されるべし、
というデフォルトルールを決めています。

したがって、契約書の中に特段の説明がなく
「違約金」
とだけ書かれた約定が存在する場合、損害賠償を請求する側は、この推定を覆さない限り、実際に発生した損害額が予定額を上回ったとしても、予定額しか請求することができません。

予定額以上の損害を請求するには、あらかじめ契約書の中で、
「違約罰として○○円を支払う。ただし、甲はさらに契約の履行を請求し、あるいは実際に生じた損害の賠償を求めることができる」
等と定める必要があるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00355_越境EC(外国人に日本の商品をネットで売る)の準拠法

場所や当事者などの要素に外国が絡む渉外的な法律関係には、
「どこの国の法律により規律されるのか」
という問題があり、規律する国の法律を
「準拠法」
と呼びます。

わが国の法の適用に関する通則法(通則法)7条によれば、私人同士の契約の成立や効力についての準拠法は、当事者が契約の際に合意した国の法律となります。

仮に契約の際に準拠法を決めなかった場合には、例えば通常の動産売買契約であれば売主側の国の法律が準拠法となります(通則法8条)。

今回の場合、売買契約の際に準拠法が決められていなかったようなので、売主側の国の法律、すなわち日本法が契約準拠法となるのが原則です。

ところが、平成19年1月から施行された通則法において、消費者と事業者の間の契約(消費者契約)について、消費者保護の観点から、
「消費者契約の特例」
が新設されました(通則法11条)。

これによると、契約の際に準拠法が決められていなかった場合には、消費者が常日頃生活している国(常居所地)の法律が準拠法となります。

また、準拠法が決められていた場合でも、消費者が、自分の常居所地の法律のうち特定の強行規定(契約当事者同士が適用しない旨を合意しても、強制的に適用されてしまう規定)も適用するよう求めた場合には、その規定が適用されることになっています。

ですから、事業者は、外国人のお客さんと契約の場合、十分注意をしないと、思わぬところで
「アウェーの法律」
に縛られることになります。

もっとも、
「消費者契約の特例」
にも例外があります。

消費者自らが事業者側の国に赴いて契約を締結した場合(「能動的消費者」と呼ばれます)、
「自ら進んで外国の事業者と取引したのだから保護してあげる必要はない」
とされ、適用がなくなるのです。

ただし、事業者が消費者に対し、当該消費者の常居所地で
「勧誘」
を行っていた場合には、
「消費者契約の特例」
が適用されるので注意してください。

この場合は、
「外国の事業者の勧誘に乗っかって取引をしてしまったのだから、保護してあげる必要がある」
というわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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