00286_中小企業が大手企業と共同開発契約を行う場合の注意点

大きなメーカー同士における共同開発契約であれば、互いの法的武装力に格差はなく、不平等な契約になったり、騙したり、騙されたり、といったことはまず起こり得ないかと思われます。

問題は、大企業と中小企業との共同開発ケースのように、契約当事者間に格差がある場合です。

中小企業においては、
「雲の上の存在ともいうべき大企業と共同開発できることで舞い上がっており、この種の経験値もなく、法的武装力ないし法的武装センスは皆無」
という企業も少なくありません。

他方、大企業においては、アホな中小企業が舞い上がっていて脇が甘くなっている状況を完璧に見抜き、
「共同開発」
という美名の下、事実上の技術収奪を図るケースがあったりします。

例えば、共同開発契約において、
「共同開発の成果については共有とし、相互に通常実施が可能。共同開発の成果を実施する過程において必然的に利用すべきこととなる基礎技術については相互に無償で許諾」
などという条項を入れてしまえば、大手企業側は
「共同開発成果の実施」
という大義名分の下、中小企業側の開発技術を無償で利用できることになります。
こうなると、資本力に勝る大手企業は、技術優位性を喪失した中小企業など容易に駆逐することができようになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00285_共同開発契約の進め方

共同開発とは、複数以上の企業(主にメーカー)の間において、得意な技術分野を持ち合ったり、不得意な技術分野を補完しあい、あるいは既存技術を出し合って新たな技術を生み出す目的で行われる企業間の技術交流・人的交流をいいます。

共同開発の一般的な流れで言いますと、まず、NDA(non-disclosure agreement、守秘義務契約)を取り交わし、保秘を前提として非公開の技術情報を相互開示し、共同開発の是非を互いに検討します。

共同開発がお互いの利益となるべきことが確認されれば、予算、人員、プロジェクト期間、開発ターゲット、成果物の取扱い、投資回収シナリオ等を決めていきます。

お互いの合意内容は、共同開発契約書として文書化し、取り交わすことになります。

共同開発契約の内容としては、開発段階の取り決めとして、開発費用、役割分担、既存技術の利用のルール等が、開発が成功した場合の取り決めとして、開発成果の帰属及び成果の利用・収益方法等が、それぞれ定められます。

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00284_会社法に定める「特別清算」を活用する場面

会社法には、清算と破産のハイブリッド型の手続が用意されています。

会社法510条には、
「債務超過(清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りない状態)の疑いがある」
場合には、特別清算手続が可能とされています。

この特別清算手続ですが、裁判所の監督はあるものの後見的な監督にとどまり、破産手続のように管財人が派遣されて会社運営権が取り上げられるものではなく、会社が選定した清算人により自主的に清算手続を進めることができます。

そして、債権者と自主的に話し合い、ネゴが成立すれば、裁判所のお墨付きを得て、スピーディーに清算手続が完了します。

特別清算のおいしいところは、この
「債権者とのネゴOK」
というところです。

ある債権者は債権をとっとと全部放棄して税務上償却してしまうことを考えるかもしれませんし、ある債権者は親会社との何らかの取引とバーターで一部放棄するかもしれませんし。

このようなさまざまな思惑を、清も濁も全部ひっくるめ、ネゴが成立すれば、債務超過会社でも
「破産」
ではなく、
「清算」
という形で会社を解体してしまえるのです。

すなわち、裁判所の監督を受けるので、外見上、透明性ある手続のように見えますし、対外的には、
「破産なんて、とんでもない。当社は、役割を終え、円満に清算したんですよ」
という取ってつけたような弁解も可能になります。

特別清算の過程で放棄・免除した債権も、無税償却(税負担のない債権の償却・貸し倒れ処理)の検討も可能となり、税務メリットも享受することも検討の俎上に乗ります。

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00283_債務超過会社を閉じ(廃業し)たいが、普通に解散・清算ができるのか?

かつて、上場企業の株式を買い集めた某ファンドのトップが
「土地やカネをため込んで株主に還元しないなら、とっとと解散して、株主に分配しろ」
と主張しましたが、会計上は永遠の生命を持つとされる会社といえども、法律上は株主の都合で何時でも解体することができます。

すなわち、株主が会社を解散することを決めれば、清算手続が開始され、負債をすべて弁済した後に残った財産(残余財産)が株式数に応じて山分けされ、会社は消滅します。

この清算手続には、裁判所の監督は行われず、通常の事業活動と同様、会社関係者のみで自主的に進めることができます。

しかし、このような清算手続(通常清算)を取れるのは、債務超過ではない会社に限られます。

債務超過会社や破綻会社の場合、債務弁済の過程で債権者間の不公平が生じる危険がありますので、裁判所が目を光らせる必要が生じます。

債務超過会社の破綻処理として一般的に考えられるのは、破産や民事再生ですが、裁判所から管財人や監督委員というお目付役が派遣され、強い監督や指導を受けなければならないほか、
「破産」

「民事再生」
というレッテルが貼られると、極めてネガティブなイメージが付きまとうことになります。

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00282_口頭契約をドタキャンされた場合の対処法

口頭契約をドタキャンされたケースにおいて、大手企業に何らかの責任を負担してもらう方法を検討してみます。

まず、
「契約準備段階の過失」
という法理の活用です。

これは、契約締結に至らない交渉段階であっても、契約締結の見通しがなくなった段階で相手方に告知するなどの義務があり、これに違反したら、相手方の損害を賠償すべし、という法理で、民法の条文にはありませんが、学説上唱えられ、判例上形成され、一般化したドクトリンです。

民法を勉強する際に必ず学ぶもので、資格ある弁護士であれば、ほぼ間違いなく知っている理屈です。

また、大手企業の契約担当の行動に、契約締結が困難となった状況を故意に知らせなかった等、違法とされるべき行動があった場合には、使用者たる所属企業に使用者責任(民法715条)を追及するということも考えられます。

さらに、大手企業が株式会社である場合、当該企業は法律上
「商人(一般的意味の商売人という意味ではなく、法律上『ビジネスプロフェッショナル』として扱われるべき定義概念)」
とされますから、
「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」(商法512条)
という法定責任を活用した責任追及も考えられます。

最後に、こういった件は
「下請けイジメ事例」
とも考えられますので、下請代金支払遅延等防止法の活用も検討してみる価値があります。

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00281_日経記事「中小の知財 大手が奪う 製造業以外でも深刻に」

2019年5月17日付日本経済新聞
「中小の知財 大手が奪う 製造業以外でも深刻に 手口も巧妙化、改正法成立で提訴しやすく」
と題する記事

には、大企業が、巧妙な手口で、中小企業の特許やノウハウなどの知的財産を奪うやり口が克明にかかれていました。

ずいぶん前に経済雑誌で掲載したものですが、私も、同じ問題意識で、
企業法務ケーススタディ(No.0050):大手企業との共同開発に気をつけろ!
を執筆しております。

新しい動向としては、

・特許侵害については、改正特許法により、被告企業の工場など施設に裁判所が任命した専門家が立ち入り、特許侵害の証拠を収集しやすくする制度が使えるようになったこと
・国(公正取引委員会)も実態把握と課題認識したことで、下請代金支払遅延等防止法や独禁法の優越的地位の濫用といった規制適用に積極的になってきていること

です。

ただ、こういう事後的な責任追及に頼るのではなく、より重要で意義ある対策としては、事前に大手企業のやり口を理解し、予防法務(契約書の精査)や戦略法務(関係構築戦略)を展開・実施する際に、知見反映し、トラブルを回避・予防しつつ、効果的に提携等のメリットを享受することだと思います。

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00280_口頭契約の危険性

ベンチャー企業の中には、大手企業からの指示で、大きな売り上げの見込みをエサにさんざんパイロット商品を作らされた揚げ句、担当者の
「やっぱ、やめた」
の一言で、突然、契約の締結を拒否され、その結果、莫大な損害を被るところが少なくありません。

こういう場合、大抵の大手企業側は、一切ペーパーを出さず、言質を取られず、責任者といってもペーペーの担当者がうろちょろするだけで、社長や役員は出てきません。

ベンチャー企業サイドは、売上が欲しいばかりに、米つきバッタのように、頭を下げ、大手企業からの発注を期待し、ありとあらゆる無理難題をのみ、発注書や依頼書等の書類の裏付けが一切ない状態で、お金や人的資源をつぎ込み、テストを実施し、サンプルを作り、さらには、初期在庫まで作らされます。

その挙げ句、技術の発展や顧客嗜好や市場トレンドの変化のため、初期在庫が陳腐化したので、要りませんので、買いません、と言われ、当該ベンチャー企業は、最悪倒産する、ということもあり得ます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00279_「コンソーシアム」なる主体と契約する場合のリスク

取引相手と目される主体が、コンソーシアム(ある目的のために形成された複数の企業や団体の集まりのことを指します)となっている場合があります。

ですが、このコンソーシアムには、法人格があるのかないのか、一体誰がどのような責任を持って運営しているのか、法的には一義的に明確ではなく、要するに、素姓は明らかではない幽霊とあまり変わりありません。

集団と約束する、ということは、究極の無責任主体と約束することと同義です。

すなわち、当該集団に一定の統治秩序や責任秩序がルール化・法定化されていない場合、
「人格なき社団」
として例外法理による救済を求めるほかなく、
「8、9割は敗訴必至の苦しい状況」
に追い込まれるリスクを背負い込む事になりかねません。

「コンソーシアム」
なる集団ないし組織の法的正体がハッキリしない場合、責任の所在もハッキリしないこととなります。

すなわち、この種の法的な素姓が定かではない団体を相手に取引を進めるということは、
法人格があるのかないのか、
契約上の権利や義務の帰属はどうなっているのか、
誰が代表でどのような機関決定に執行が拘束されるのか、
という基本的取引条件が不明のまま、時間、カネ、リソースをつぎ込むことにほかならず、何も得られず徒労に終わるリスクを負う可能性があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00278_海外取引先企業の素姓確認

海外企業との取引についてですが、一般に、株式市場で上場しているような著名な企業を取引の相手とするような場合、逐一素性を確認するような野暮なマネをする必要は乏しいといえます。

他方、あまり著名でない未公開の法人と取引する場合、著名法人自体ではなくその子会社や関連会社と取引するような場合、さらにはコンソーシアムとして運営されている企業連合体と取引するような場合、取引相手の法的素姓を正確に確認することは非常に重要です。

こんなことを言うと、
「はあ? 会社の素姓なんて確認する必要ねえよ。実際、現地に行って担当者とか社長と会っているわけだし」
なんて声が聞こえてきそうです。

しかし、著名企業と提携したりする場合でも、実際契約相手として指定されたのは親会社の関係法人とはいえ
「ホニャララLLC」
という名の別法人だった、なんてケースがあったりします。

「LLC」
とは、Limited Liability Corporation(有限責任会社)という意味ですが、法律概念における
「有限責任法人」
とは
社会通念上「無責任法人」
という意味にほかなりません。

それなりの資産や経済実体をもっている親会社と取引するならともかく、
「無責任法人」
ともいうべき関連法人と組まされて莫大な投資をさせられた挙げ句大失敗し、当の親会社を問い詰めても、
「ホニャララLLCは、当社とは別法人なので、関係ありません」
などスットボケられることがあったりします。

とはいえ、この弁解は
「法的には完璧な正当性をもつ言い草」
であり、
「そんな無責任な法人と組んで莫大なカネを突っ込んで損した方がバカ」
という結末となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00277_企業が、モニタリング受諾書なしでも、従業員に無断で従業員のメールやパソコンを監視できる場合

「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となること解することが相当である」
との裁判例(フィッシャー事件、東京地方裁判所2001<平成13>年12月3日判決)を前提規範として、許容される例外的場合を検討しますと、

・書き込み内容や調査の前提となった従業員による行為が企業価値を損ねるような誹謗中傷等であって、
・公益目的も推認できず、
また、
・手段方法面においても、私用のデータを含む地引き網的な探索ではなく、犯人特定の範囲で必要かつ合理的な範囲のモニタリングや調査

であれば、企業が、従業員に無断で、従業員のメールやパソコンを監視できる場合として許容さる場合と考えることが可能です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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