01909_冷静な判断ができない状況に陥るとは(その2)推奨行動

「正解も定石もない事案対処」
において、もっともやってはいけないことは、
「正解」
を探したり、
「正解を知っていると称する(言葉のみならず、態度で示す者を含む)」
人間を探すような、愚考をやめ、目を覚まして、合理的な試行錯誤を構築し、実施することです。

引用開始==================>
訴訟や紛争事案対処というプロジェクトの特徴は、
・正解が存在しない
・独裁的かつ絶対的権力を握る裁判官がすべてを決定しその感受性が左右する
・しかも当該裁判官の感受性自体は不透明でボラティリティーが高く、制御不可能
というものです。
「正解が存在しないプロジェクト」
で、もし、
「私は正解を知っている」
「私は正解を知っている専門家を紹介できる」
「私のやり方でやれば、絶対うまくいく」
ということを言う人間がいるとすれば、
それは、
・状況をわかっていない、経験未熟なバカか、
・うまく行かないことをわかっていながら「オレにカネを払えばうまく解決できる」などというウソを眉一つ動かすことなく平然とつくことのできる邪悪な詐欺師、
のいずれかです。
そもそも
「絶対的正解が存在しないプロジェクト」
と定義された事件や事案については、
「正解」
を探求したり、
「正解を知っている人間」
を探求したりするという営み自体、すべてムダであり無意味です。
〜〜中略〜〜
「正解」
がない事件や事案 に立ち向かう際にやるべきことは、正解を探すことでも、正解を知っている人間を探すことではなく、まず、
・とっとと、正解を探すことや、正解を知っている人間を探すことを諦めること
と、
・現実解や最善解(ひょっとしたら、クライアント・プロジェクトオーナーにとって腹が立つような内容かもしれませんが)を想定・設定すること
です。
次に、この現実的ゴールともいうべき、現実解や最善解を目指すための具体的なチーム・アップをすること、すなわち、
・プロセスを設計・構築・実施するための協働体制を描けるか
・それと、感受性や思考や行動が予測困難なカウンターパート(相手方)である敵と裁判所という想定外要因が不可避的に介在するため、ゲームチェンジ(試行錯誤)も含めて、柔軟な資源動員の合意を形成できるか
という点において、親和性・同調性を内包した継続的な関係構築を行い、(おそらく相当長期にわたることになる)事件や事案を協働できるチーム・ビルディングを行うべきです。


<==================引用終了

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01908_冷静な判断ができない状況に陥るとは

法律相談にて、弁護士から現実をきかされたとき、パニックになって冷静な判断ができない状況に陥る相談者が少なくありません。

また、
「急がば近道」
の思考回路となり、
「急がば近道が正常」
という状況になる相談者もいます。

「特効薬」
「速攻で解決する方法」
を模索するあまり、
「冷静な状況認知・状況解釈・状況評価・課題整理・秩序だった選択肢抽出・合理的試行錯誤」というこの種の
「正解も定石もない事案対処」
において取られるべきステップが、頭に入ってこない状況のようです。

引用開始==================>
まず、持つべきは、未知の課題や未達成の成功に対する「謙虚な姿勢」です。
正解もなく、あるいは正解も定石も不明な課題です。

「こうやれっばいい」「こうすべきだ」「正解はこれだ」「絶対このやり方がいい」
とこの世の誰も断言できることができない課題です。
なぜなら「正解もなく、あるいは正解も定石も不明な課題」だからです。
<==================引用終了

著者は、企業法務を取り扱っていますので、当然ながら、相談者の多くはオーナー経営者です。

日頃、会社経営のかじ取りをしているのですから、さまざまな難局は乗り越えてきていることは想像に難くありません。

それでも、
「正解も定石もない事案対処」
おいて取られるべきステップが、頭に入ってこないのは、

左脳では、
・大事である=簡単にはいかない=専門家の動員も含めた相応の時間とコストとエネルギーがかかる
・正解や効果的な対処法がない=ありとあらゆる試行錯誤をやってみるほかなく、「専門家」に頼んだら、一瞬で解決するような安直な方法がない
ということは、理解できる。

他方で、右脳では、
・大事ではない(と思いたい)=簡単なこと=自分で何とかできるし、それほど、時間もコストもエネルギーもかからない
・探せば、どこかに、正解や安直な方法や、一瞬で都合よく解決できる専門家がいるはず
と思いたい、というバイアスが働くからでしょう。

作戦行動に必要なのは、ファンタジーではなく、リアリティです。

プロジェクトオーナーの脳内がファンタジーであれば、作戦はまともに構築できませんし、機能もしない、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01907_パワハラを理由に社員を降格する場合

たとえば、パワハラ等が起きたことを理由に、従業員を降格させようという場合、会社側として、
「パワハラ等が起きた」
ことをリーガルマターとして捉え、将来の訴訟を予知して、訴訟における論争や立証まで視野に入れて、状況をミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化 することが肝要です。

要するに、

1 「パワハラ等が起きた」という事実を、きちんと調査して、事実として確定済み
2 1をきちんと明確かつ具体的に、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化する
3 「パワハラ等を起こした」とされる従業員に告知聴聞の機会といった手続保障を与える
4 3において、当該従業員が認めている

1~4のようなものがなく、単に、一方的に、根拠もなく
「あいつはパワハラやった」
と言うだけ降格させると、
「理由なく降格している」
と争われる可能性があります。

言い換えると、
「降格が有効である」前提
が、容易に覆滅される危険を内包している、といえるのです。

たいていの企業は、 1~4のような手間や負荷を惜しみ、事態をリーガルマターではなく、ビジネスマターとして、甘く、軽く捉えて、乱暴な処分を一方的に行うことが多いです。

その当然の帰結として、多くの企業は、労働訴訟で負けて負けて、負けまくるのです。

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01906_労働契約について

従業員を雇うとき、オーナー経営者は、知っておくべきことがあります。

それは、契約書と契約とは概念として別物だということです。

契約書がないから契約が存在しない、という関係には立ちません。

もしも、労働内容や労働時間等、労働契約について、従業員と揉めるようなことになった場合、相手方との間の契約関係については、いくつか解釈が成立し得えることもあり、
「契約の解釈」
という作業が争点となります。

もちろん、この
「契約の解釈」
については、我が方の説、相手方の説と整合しない可能性があり、最終的には、裁判所が
「契約の解釈」
に関して公権的に確定する権限を行使することになります。

ちなみに、労働基準監督署の行政指導は、公権的に確定する権限をもたず、いわば、お節介や、つぶやきや、ノイズとかのレベルの話です。

三権分立の原理からすれば、司法権をもつのは裁判所という奉行所であって、労働基準監督署という奉行所には権限がなく、お門違いのお節介、という位置づけになる、ということなのです。

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01905_社員を降格させることについて

経済社会の現実として、多くのオーナー企業では、
「降格させる」
「管理職の任を解く」
ということを、イージーに、平気で行います。

これは相手(従業員)がリーガルマターとして抵抗せず、泣き寝入りするから成立している話であり、リーガルマター化すれば、まったく通用しない話になります。

学校でも、普通は
「進級」
するものであって、問題があっても、せいぜい
「留年」
であり、
「降年」
というのは、聞きません。

すなわち、従業員において、一度、
「管理職に相当する能力あり」
と認定されながら、
「途端に、退嬰化して能力後退して、ヒラ社員になった」
という事態は、経験則上あり得ない話です。

頭を打ったり、精神を病んだり、障害を負ったり等、特異な事情があれば、
「 一度、管理職に相当する能力あり、と認定されながら、途端に、退嬰化して能力後退して、ヒラ社員になった 」
ことはあり得ましょうが、普通に仕事をしていて、
「突然、能力がなくなった」
というのは、明らかに無理のある話です。

とすると、
「降格させたい」
というのは、相当納得性と説得性のある事情と根拠が必要であり、企業側の立証責任は厳しいものになります。

要するに、オーナー経営者が、ある社員を
「降格させたい」
のであれば、その経緯と理由を、
「リーガルマター」
としての観察と検証に耐え得るようなものかどうかを検証する必要がある、ということなのでり、弁護士に相談したからといって簡単に実現できるものではないのです。

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01904_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する6: 課題を突破し、ゴールに近づく方法を考案する(戦略を構築する)

現状が正しく認識され、正しいゴールが設定され(SMART基準を充足するゴールが発見・定義・デザイン・言語化・文書化され)、現状(スタート)から目標(ゴール)に到達する過程において立ちはだかる課題(障害)が余すことなくすべて発見・抽出・整理・定義されました。

ここで、当該課題を突破し、ゴールを達成、あるいはゴールの近づく方法論を構築する段階、すなわち戦略を策定する局面に至ります。

すなわち、現実的で達成可能なゴールデザインが共有でき、
次に、
「スタート(現状、as is)とゴール(目標、to be)との間に立ちはだかる課題」
を発見・設定・定義し、
当該課題が複数にわたる場合は優劣・先後等について相互の関係や関連性を整理できた後、
当該課題達成手段の創出・整理をすることになります。

戦略を構築する際、重要なことは、より多くの選択肢を抽出することです。

そして、より多くの選択肢を抽出するためには、タブーなき議論により、極論と、当該極論の対極に位置する対極論を探り当てることです。

この
「タブーなき議論」
を行う上では、
「結果がすべてであり、目的は常に手段を正当化する。必要であれば、明確な痕跡が残らない範囲で、あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技、すべてを駆使しても差し支えない」
というリテラシーを是として議論することが重要です。

戦略に
「正邪」
はありません。

戦略構築においては、ただ、作戦合理性があるだけです。

目的を達成するのは、
「正しい人間」
ではありません。

「強い人間」
すなわち、
「合理的で、(ズル)賢く、素早く、他人に期待せず、自分にできることに徹して、努力した、強い欲のエネルギーをもった人間」
です。

そして、
「目的を達成する人間」
とは、
「あの手、この手」
だけでなく、
「あの手、この手、奥の手に加え、禁じ手に、寝技、小技に反則技」
を使える人間(禁じ手や反則技を使うかどうかは別問題として、そのような手法を知っている人間)です。

自らを
「正しい」
と自認する人間が、ときに、正義に酔いしれ、自らを神聖視し、何もせずに天が味方すると漫然と考え、行うべき想定を行わず、行うべき対処を行わず、
「手段」
にこだわり、結果、当然のように、
「入念に準備し、あの手、この手、奥の手に加え、禁じ手に、寝技、小技に反則技を使える、合理的で、(ズル)賢く、素早く、他人に期待せず、自分に出来ることに徹して、努力した、強い欲のエネルギーをもった悪」
に惨敗します。

目的を達成するのは
「正しい人間」
ではなく、
より正確に状況を認知し、
より確実に状況を評価・解釈し、
より現実的で合理的な目的を策定し、
より広汎に課題を抽出し、
より迅速かつ入念かつ効果的に課題対処をした、
「強く、賢い人間」
です。

「展開予測を正確に行い、早く、入念に、的確な準備をして、結果、博打の要素をできるだけ排除し、目的を達成する」
ことが戦略においては最も重要です。

そして、このような
「タブーなき、常識に囚われない議論」
によって、極論と対極論という形で、大きな幅と広がりをもった
「戦略構想空間」
とも言うべき
「思考空間」
が現れます。

ここで、極論と対極論の間のスペクトラムにおいて、
各種「中間解」
が想定されます。

このようにして、なるべく多くの、ブレイクスルーアイデア(課題突破のための方法論)を発見・定義・抽出・整理していくことになります。

次に、各種戦略手法のプロコン分析を行います。

すなわち、
極論、
対極論、
中間解その1、
中間解その2、
という各ブレイクスルーアイデア(課題突破のための方法論) について、
プロス(長所)とコンス(短所)
を、いろいろな面(予算面、人材面、時間や機会の問題、成功蓋然性、リスクや失敗した場合のダメージ)から検討して、描き出していきます。

具体例を出して考えてみます。

例えば、契約の記載が曖昧で、権利や義務の存否や範囲、さらには契約違反の有無・程度について紛議になったところ、相手方が義務や責任を認めず、こちらが求める金を払わない状況を改善するためには、自己制御課題として達成・解決し得る課題、具体的には
「(何らかの)強制の契機を働かせ翻意させる」
という課題に再定義し、この課題達成を通じて、
「相手方が、義務や責任を認めさせ、我が方が求める金銭を支払わせる」
という目標を達成することが意識されました。

ここで、
「(何らかの)強制の契機を働かせ翻意させる」
という課題を達成するための手段としては、いくつかの方法論が想定されます。

方法論想定に、タブーを設定せず、モラルや法律はさておき、想像力を働かせて、違法・不当なものも含めて、極論も含めて、考えてみますと、

0 相手方が正義に目覚め、自発的に義務を認めて金を払ってくれるよう、神(か仏様)に祈る
1 電話をかけ説得する、面談して説得する
2 請求書や催告書を送り付ける
3 弁護士名の内容証明郵便による通知書を送付する
4 仮差押えを申し立てる
5 調停を申し立てる
6 訴訟を提起する
7 仲裁申し立ての仲裁合意を提案する
8 脅す
9 暴力に訴える
10 反社会勢力を使って説得する
11 詐欺だと警察に告訴する
12 米軍を動員して、核兵器を運び込み、攻撃態勢を整え、照準を相手方の会社本店と役員全員の自宅に合わせる

というものが考えられます(なお、冗談が通じない方もいらっしゃるので、注意しておきますが、思考訓練として想像力を働かせているだけであって、実行することあるいは実行を推奨することを意味していません)。

以上のように想像した方法論(課題解決手段)のうち、まるで無意味なもの、違法なもの、実現不可能なものを排除していきます。

そうすると、
3 弁護士名の内容証明郵便による通知書を送付する
4 仮差押えを申し立てる
5 調停を申し立てる
6 訴訟を提起する
7 仲裁申し立ての仲裁合意を提案する
11 詐欺だと警察に告訴する
というものが、
「相応に意味と価値があり、適法で実現可能で、取組価値ある選択肢」
と浮上してきます。

ここで、想定する方法論(課題解決手段・解決のための選択肢)は、多ければ多いほど、ダイナミックレンジ(範囲の広がり)が広ければ広いほど戦略構築の意味と価値が高くなります。

もちろん、違法、不当なものや、まるで無意味なものや実現できないものなどを議論の俎上に乗せるのは、常識を疑われますし、時間の無駄です。

しかし、そのようなものでない限り、選択肢は多ければ多いほど、個々の選択肢の偏差が大きければ大きいほど、プロジェクトマネージャーのスキルとマネジメントの価値が高いと認識されます。

プロジェクトマネージャーが、プロジェクトオーナーに対して、選択肢を1つしか出してこない、というのは、もはやプロジェクトマネジメントではなく、オーナーに指示・命令し、あるいは脅しているのと同じです。

助言者が
「訴訟提起しかありません」
といえば、それは、相談者に
「現状を改善したければ、訴訟提起をせよ。それ以外に現状を解決する方法は存在しない。オレにカネを払って、裁判を起こすことを決めろ」
と脅しつけているのとあまり変わりありません。

法律実務、紛争処理実務を含む「正解や定石のないプロジェクト」において発生する課題は、すべて
「自然科学上の課題」
とは違う
「社会上あるいは社会生活上の課題」
であり、
「この手段ないし方法を、この程度までやれば、絶対にこうなる」
という
「唯一絶対の正解としての選択肢」
が存在するわけではありません
(自然科学上の課題であれば、水を100度に熱すれば気化する、0度以下に冷やせば固体になる、といった形で「この手段ないし方法を、この程度までやれば、絶対にこうなる」という「唯一絶対の正解としての選択肢」が必ず存在します)。

対人課題としての他者制御課題を不可避的に内包する、法律実務、紛争処理実務等の
「正解や定石のないプロジェクト」
において、課題解決の方法論として浮上する選択肢は、どれも
「正解」
ではなく、すべからく
「最善解」「現実解」
であり、いってみれば、どれもこれも不正解であり、
「やってみないとわからない」
という程度のものです。

そうすると、多くの不正解から
「不正解の中でも、もっともマシな、最善解」
を探すためには、より多くの選択肢を比較検討して消去法的に候補を絞ることがもっとも有益なアプローチになります。

合理的なプロジェクトマネージャーないしプロジェクトオーナーほど、
「1つの選択肢しかないので、これを選べ」
と脅されることを忌避し、豊富な選択肢から自由に判断することを好みます。

このようにして、多くの戦略手法が、思考上のテーブルにずらりと並ぶことになります。

2016年から現在までの在任期間中一度も戦争を行わずに輝かしい外交成果を挙げてきた米国のトランプ大統領も、安全保障課題については、よく
「すべての選択肢はテーブルの上にある」
と述べていました。

要するに、国家の安全保障課題(外交課題、軍事課題)という、もっとも重大かつ困難な
「社会上の課題」としての「他者制御課題」
を内包する
「正解や定石のないプロジェクト」
の1つであり、
「判断の合理性を担保する」
ためには、どこまで判断の柔軟性や自由度を保てるか、という営みを徹底することこそが重要なポイントになります。

この点で、
「正解も定石も存在しない」紛争処理課題
について、
「こうなったら訴訟提起しかない」
「ここは刑事告訴でしょう」
「絶対仮差押から始めるべきです」
などと、一択しか提案できないプロジェクトマネージャー(弁護士)は、決定者・判断者を脅しつけて判断の自由を奪っているだけであり、あまり価値の高いプロジェクトマネジメントサービスを提供しているとは言い難い、と考えれます。

仮に、トランプ政権の外交アドバイザーや軍事顧問の中で、
「ここはミサイルによる先制攻撃しか考えられません」
「ここは妥協して戦争を回避すべきです。それしかありません」
などと、
「正解のない課題に対して、一択しか提示できない、視野が狭く、思考の柔軟性がなく、想像力が貧困で、助言者としての役割をきちんと認識していない愚劣な人間」
は、即刻解任されたであろう、と推測します(「愚劣な人間をゴミや汚物のように毛嫌いするトランプ大統領」のことですから、「正解なき課題に直面してより多くの選択肢を多面的に検証して最善解を探す努力をしている大統領」からの下問に対して、「狭い視野と貧困な想像力から陳腐な方法論を一択として押し付ける」ような愚劣な輩が、トランプ大統領から即時解任された例は少なからず存在するような気がします)。

このように、多くの選択肢が抽出され、整理され、さらに、プロコン情報が付加され、
「すべての課題突破のための方法論(戦略上の選択肢)がテーブルの上にある」
という状況まで成熟しました。

そして、戦略を選択する時機が訪れます。

では、数ある選択肢の中から、どのようにして実行・実施する戦略を選択するべきなのでしょうか?

この点、
「正解や定石のないプロジェクト」
を成功に導いた経験のあるプロジェクトマネージャーが一様に納得する、至言ともいうべき、戦略の選択・意思決定に関する格言があります。

「(選択に)迷ったら、苦しい方、負荷がかかる方を選べ」
「急がば回れ」
というものです。

すなわち、
「いくつか選択肢があるときは、より、(経済的、資源消耗的、精神的)負荷がかかり、目先、苦しさが訪れて、準備と段取りに手間取り、時間とエネルギーを消耗するような、そんな選択肢が、最善解に至る可能性が高い」
という経験上の蓋然性です。

逆に、迷った時に、簡単な方、楽な方、安直な方、手っ取り早い方、フィーリング的にフィットする方、自分の常識(という、偏見、思考上の偏向的習性)に適う方を選んだら、たいてい、泥沼にはまりこみ、あとで後悔する、ということも意味します。

特に、精神的負荷の楽な方を選んで失敗する、という例は、私の小さな経験上、よく見聞します。

具体的には、
「人間の善意」
「相手の思考における合理性に対する信頼」
を認識の根源的前提に置き、相手の善意や合理性に依拠して、
「相手が悪意で、期待と真逆の態度に出た場合の備え」
をすることなく、漫然と、安直に、軽い気持ちで、丸腰で、初手を打って、
「相手が悪意で、期待と真逆の態度」に出る、
という憂き目に遭い、そこで詰んでしまう、という状況です。

そして、
早期妥結が相互互恵の最善の結末という予定調和と勝手に夢想し、
相手の善意と理性を一方的に期待し、
交渉の初手で、具体的条件を示したり、さらには、闘争忌避を明示あるいは黙示に表明するなどという愚行をしでかす交渉担当者の失敗の根源も同様のものです。

例えば、交渉課題において、妥協内容を含む和解条件の提示するのは、1年かかろうが、10年かかろうが、100年かかろうが、絶対こちらからは切り出しません。

北方領土の返還交渉において、ロシア側は、10年たとうが、50年たとうが、妥協した条件をまったく示すことがないのは、まさしくこういう戦略的理性に基づく合理的態度決定の帰結なのです。

民事紛争・商事紛争においても、しびれを切らして条件を出し始めた側が交渉が不利に陥りますので、訴訟が始まり、裁判官が
「このくらいの金額で和解されたらどうでしょう」
という声が聞こえるまで、貝殻のように沈黙を守り通すのが、最も戦理にかなった態度といえます。

無論、支払うべき義務が明らかで、裁判になれば早晩不利な判決が出て、遅延損害金等を支払わされたりして、時間の流れがこちらに悪意に作用するような場合は別です。

しかし、そのような場合であっても、究極的には、供託するなり、債務不存在確認訴訟提起によって、こちらがイニシアチブを握って紛争フェーズを変えることもできなくはありません。

いずれにせよ、相手の理性や善意に漫然と依拠して、思考やメンタリティに負荷をかけずに、キモチがラクになるような方法選択は、プロとして取るべき態度ではありません(クライアントやプロジェクトオーナーが、不利を十分承知で、招来される悪しき結果に対する免責を明確に了解して、そのような愚策履践を求めるなら別ですが)。

以上のとおり、タブーなき議論によって、極論と対極論、さらにこの間の広汎なスペクトラムに存在する無数の中間解を発見・創出・抽出・整理し、これにプロコン評価を加えて、
「すべての選択肢がテーブルの上にある」状態
まで到達したら、最後は、
「(選択に)迷ったら、苦しい方、負荷がかかる方を選べ」
「急がば回れ」
という選択決定哲学で、戦略(方法論)を選び出すのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01903_法律相談から時間が経過すると起こり得るリスク

法律相談に何度も来て、相談を重ね、弁護士において今後の展開を構築し提案したとたん、連絡が途絶える相談者がいます。

「すったもんだ」
が解決できたのであれば、問題ありません。

その後、うまく行っていないのであれば、以下のような原因が考えられます。

・作戦環境の認識・評価が誤っている(たいしたことない、何とかなる、という楽観バイアスによる環境誤認)

・作戦課題の認識・評価が誤っている(話してわからない相手ではない、話せばなんとかなる。常識で処理できる。法律問題ではなく、ちょっとしたビジネストラブルであり、弁護士など不要)

・作戦目標の設定の誤り(謝ればなんとかなる。カネがかかるような大事ではなく、ちょっとした行き違いなので、現状変えずにうまく行けそう)

・方法論の誤り(法律問題ではない、ちょっとした行き違いなので、弁護士マターではなく、ビジネスマナーだろう。だから、ノンプロの話し合いで何とかなる)

相談時から時間が経つと、状況がどんどん変化(良くも悪くも)します。

状況が悪化している場合、たとえ弁護士であっても軌道修正不可でお手上げ、ということも、現実的にはある話です。

1つ言えるとするならば、時間が一番貴重な資源であることは間違いありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01902_ストーリー構築とストレステスト

法務相談を経ると、弁護士はストーリー(筋書き)を構築し、その後、相談者にストレステストを行います。

要するに、弁護士が構築したストーリー(筋書き)が、相談者にとって、
・事実と違う話か
・自分の経験したものと違う話か
等、違和感があるかどうかの確認をするのです。

それは、これから相談者が相手方と対抗するためのものです。

相談者においては、この営みの意味を、より本質的なところで理解できないと、弁護士ときちんとした連携が取れず、結果、成果が挙げられません。

作戦原理の本質を理解するには、下記コンテンツ及びビデオを、閲読・視聴することを推奨します。

https://9546.jp/2019/06/05/00470_%e6%b0%91%e4%ba%8b%e8%a8%b4%e8%a8%9f%e5%bc%81%e8%ad%b7%e6%b4%bb%e5%8b%95%e3%81%ae%e5%ae%9f%e9%9a%9b%ef%bc%9a%e8%a8%b4%e8%a8%9f%e5%bc%81%e8%ad%b7%e5%a3%ab%e3%81%ae%e6%88%a6%e7%95%a5%e6%80%9d/

さて、ストーリー(筋書き)については、禁忌事項があります。

それは、相手方の手許にある客観的痕跡と異なる事実を筋書きに加えることです(訴訟になり、反対尋問になったら、露呈し、筋書きが崩壊するからです)。

したがって、ストレステストに加え、

1 相手方が客観的痕跡をもって完璧な反証ができないエピソードについては、筋書きに加える
2 相手方が客観的痕跡をもって完璧な反証が可能なエピソードについては、筋書きから外すか、少なくともカバーストーリーを補充する

ということも、必要となります。

経緯を知るのは本人である相談者だけなので、きっちりと作戦構築に協力・参加することが肝要です(人任せ、弁護士任せにはできない、ということです)。

最後に、この作戦構築の原理は、訴訟実務において特異なものであり、きちんと理解・実践している弁護士はごく少数にとどまることも申し添えておきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01901_週刊誌にあることないこと書かれたら_その6_人を貶めるような行為の分析・検証2_完

書かれた側として、まずすべきことは、
勘定で戦うのか
感情で戦うのか

を、態度決定をする必要があります。

うまく喧嘩すれば(弁護士をつかって、法的に解決すれば)勝てるでしょうが、相当なリソースをつぎ込む覚悟が必要になります。

そして、一旦、相手と戦うことになれば、どちらかが、
「降参」
するまで、戦いは形を変えて続く、ということを覚悟しておかなければなりません。

解決したようにみえても、攻撃は形を変えて、なされる、と心づもりしておくことが肝要です。

たとえば、あなたは、相手に対話をもちかけ、対話を積み重ねる中で、相手が納得し、自分の行為を反省し、
「あなたを貶めるようなことは、もうしない」
と、約束したとしましょう。

「あなたが貶められる行為」
はなくなり、あなたは、解決したと考えるでしょう。

ところが、しばらくたって、相手は、また、
「あなたを貶めるような行為」
をしてきます。

現実には、このような例は少なくありません。

相手を
「降参」
させるに有効なのは、法的解決であることが、 次のような事例からおわかりいただけるでしょうか。

ただし、それには、
「時間」
が味方してくれないと、訴訟のプロである弁護士であっても困難を極めます。

さて、法的に解決するには、弁護士は、事実関係を5W2Hで聞き出したうえで、次のように検証をすすめていくこととなります。

まず、約束違反した行為は2種類にわけることができます。
A やらないと約束した行為
B 新たな貶めるような行為

その関係性を検証しますと、
1 A=B
2 A≒B
3 A≠B
と、3つにあらわすことができます。

1の場合は、これは、そのまま約束違反だから、約束違反であることを主張すればいいだけです。

3の場合は、やめさせるよう対話に持ち込めばいいだけです。

問題となるのは、2です。

ここで、01918で申し上げた
「事実」と「形容」
の2つから成り立つ話
が、登場します。

2は、
「形式的表現は違っているが、事実(本質)は同じ」
「形式的表現の一部は同じだが、一部を変えてきている 」
というように分析することができます。

2の場合、裁判所に持ち込んでも、こちらの主張が認められるかどうかは、ケースバイケースとなります。

このように、弁護士に依頼すると、弁護士は、分析と検証を重ね、法的解決へとすすめていきますが、一つ注意しなければならないのは、最初から法的解決をすすめるのと、回り道をしてから法的解決をすすめるのとでは、解決の難易度は雲泥の差となる、ということです。

弁護士がいえることは、 やはり、
勘定で戦うのか
感情で戦うのか

を、態度決定をする必要がある、ということですし、もっというなれば、 リソース を無駄にしないためにも、
「できるだけ早く」
「包み隠さず」
相談し、決裁権者が態度決定すること、につきるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01900_週刊誌にあることないこと書かれたら_その5_態度決定その2

書かれた側として、まずすべきことは、
勘定で戦うのか
感情で戦うのか

を、態度決定をする必要があります。

たとえば、質問状を出してきた週刊誌に対し、態度決定をしなければなりません(無論、目的を明確にする前提は必須です)。

そして、当然ながら、態度決定には、選択肢をあげることとなります。

1 態度決定する

1)沙汰止みにする、何もしない
2)ソフトに公表する(立場を明確にして沙汰止みにする)
3)回答を我田引水的に援用して、公表する
4)「●●は、虚偽の事実を公表して、名誉を毀損している」として、●●を攻撃する
5)反論して、追い込む
6)訴訟をチャレンジする

2 現実の行動(方法論)

1)相手方の書面の打ち返しをする
2)相手方の書面を黙殺する
3)今回のやりとりについてリリースをする
4)リリースをするとして、どの範囲でどういう形でするか
5)今回のやりとりについてリリースをしない

1において、(6)を選択することを態度を決定するのであれば、裁判所にこちらの主張が認められるよう、細かく丁寧に、
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
していくこととなります。

要するに、
「細かな表現は違うが、○○の5W2Hの事実について、否定的な表現で貶めているので、同じと判断できるのではないか」
というように、こちらの主張を積み上げていくことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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