01606_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(9)_海外進出に失敗する企業にみられる「必敗の方程式」ないし「敗北のスパイラル」

海外進出成功企業の要素として、
海外進出目的が合理的に設計されていて、かつ明確に意識されており
目的を実現するための基本的なタスクイメージもしっかりと具体化されており
各タスクを実践する人材スペックが明瞭であり、
・当該人材を発掘・発見・調達でき、
・当該人材が遺憾なくスキルを発揮できるような物的環境(予算や報酬やインセンティブ)を整備できる
と、分析しました。

すなわち、
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解し、これを平然と実現して、成果を挙げられる、『東京でたまにみかける、日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部』のようなリーダー(責任者)」
を発見・発掘・登用し、当該リーダー(責任者)に対して
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を提供し、徹底的に、情け容赦なく、
「進出当事国の環境条件におけるメリット(低賃金や魅力的な競争環境)」
を最大限活かす活動を行うことが必要である、ということをお伝えしました。

こういうことを言いますと、
「ここまでやるのか」
「ここまで徹底しなければならないのか」
「これほどまでにリアリティスティックな行動スタイルがないと成功しないのか」
と嘆息が聞こえてきそうですが、これくらいシビアな感覚でもなお、成功は
「可能性」
に留まります(ここまでやってもなお失敗する可能性は顕著に存在します)。

逆に、
「はちみつ漬けのシロップが充満し、一面お花畑の光景が広がる脳みそ」
で、
「世界は1つ、人類は皆兄弟。平和に、仲良く、ハッピーに、同じ人間として共に手を携えてがんばれば、きっとうまくいく」
といった、愚劣な妄想に満ちた感覚で海外進出する、という経営者は、正直申し上げて、
「お前、商売とか海外進出とか国際ビジネス、舐めてんのか」
としか評しようがありません。

結局、「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解した上で、
1 「海外進出を経済的に成功させるために必要となる、いずれも極めて達成困難な、各タスク」 を、命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、
2 これら各タスクを、一定の冗長性(リスクや想定外に常に対応しうるための時間的・経済的・精神的冗長性)を確保しつつ、涼しい顔をして、平然かつ冷静にやり抜けるだけの知識・経験・スキルと、
3 「成功時に得られる、鼻血が飛び出るくらい、旨味があるインセンティブ」を設計して、臆面もなく要求するだけの豪胆さと、当該インセンティブに対する健全な欲望と、
4 声一つ発することなく、被支配者が自然とひれ伏す強烈なオーラと、
5 悪魔の手先のような性根と、
6 遂行しているタスクの毒々しさを全く感じさせることなく、常に、ジェントルかつエレガントに振る舞える典雅さ、
といった各スペックを漏れなく実装した人材
「成功時に得られる、鼻血が飛び出るくらい、旨味があるインセンティブ」
を設計して、臆面もなく要求するだけの豪胆さと、当該インセンティブに対する健全な欲望
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」
となるべき日本人など、まず、滅多にいませんし、仮にそういう
「東京でたまにみかける、日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部」
のような
「稀有な日本人」
がいたとしても、彼ないし彼女は
「誰かのために命を張る」
なんてアホらしいことなど興味すら示さず、自分自身で乗り込んで一旗揚げ、成功の果実を独り占めするだけです。

上記のようなインセンティブを前提に、
「他人事」ではなく「我が事」として、
本気で、死ぬ気で、
海外で事業立ち上げに邁進するのは、結局、
「創業経営者」

「(覇気を喪失した2代目・3代目等ではなく)創業精神を持つオーナー経営者」
だけ、ということになります。

すなわち、海外進出の成功のためには、
「創業経営者」

「(覇気を喪失した2代目・3代目等ではなく)創業精神を持つオーナー経営者」自身が
直接現地に乗り込んで、ゼロというか、ハンデキャップ満載のマイナスからスタートする覚悟で、もう一回、創業する、ということが必須の前提となります。

日本で成功し、カネに不自由せず、ストレスやフラストレーションなどまるで感じず安楽な生活をエンジョイできている
「創業経営者」

「(覇気を喪失した2代目・3代目等ではなく)創業精神を持つオーナー経営者」
が、安穏とした環境を放擲し、老体にむち打ち、それまでの成功体験をすべて捨てる覚悟で、アウェーで、不利な戦いをして、死に物狂いで事業立ち上げをもう1回最初からやり直す、ということを嬉々としてやるのであれば、海外進出が成功する可能性もあるでしょう。

ところが、海外進出を甘くみる
「創業経営者」

「(覇気を喪失した2代目・3代目等ではなく)創業精神を持つオーナー経営者」
は、
「他人任せで適当にやってもうまくいく」
などと考え、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込むだけです。

送り込まれた方も、現地に行くと日本でまるで勝手が違い、やることなすこと障害だらけで、日々壁にぶち当たる現実を目の当たりにする。

結局、普通にやっても成果が出ず、無理に成果を出そうとすると、命の危険にさらされる。

実際、2012年7月18日、自動車メーカー・スズキのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場(ハリヤナ州)で、従業員による暴動が発生し、工場幹部1人が死亡、約90人が負傷する、という事件が発生しています。

「他人のために命を張るなんてマジ勘弁。そんなことするくらいなら、適当にやって失敗して、『海外進出は難しいです』という弁解をして帰国した方がマシ」
という、ある意味当たり前の感覚を持つ、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込んでも、論理的・合理的に考えて、うまく行くはずなどビタ1ミリありません。

かくして、

・海外進出の困難さをきちんと理解せず、あるいは、「海外進出したら、他人からかっこよくみられて、威張れたり、国際的な大企業から『マルドメ(まるで、ドメスティック。完全な国内志向)の中小企業』などと呼ばれる劣等感が払しょくできる」といった経済合理性とは無関係な意図・目的で海外進出を計画する

・海外進出を甘く考えるか、「(見栄を張ったりやコンプレックス解消のための)ファッションアイテム」として海外進出を考えることから、「創業経営者」や「(覇気を喪失した2代目・3代目等ではなく)創業精神を持つオーナー経営者」自身が、命がけで乗り込むことはしない

・そこで、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込むなど他人任せで何とかしようとする

・番頭さん(役員)や手代さん(部課長)には、「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」は与えられないし、また彼らは「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」というキャラでもない

・海外で事業立ち上げを任された番頭さん(役員)や手代さん(部課長)は、やがて、その「しびれるくらいきっつい現実」に直面し、「他人のために命を張るなんてマジ勘弁。そんなことするくらいなら、適当にやって失敗して、『海外進出は難しいです』という弁解をして帰国した方がマシ」という、ある意味素直な考えをもつようになり、かつ、実際そうする

・かくして、海外進出を甘く、軽く考えるオーナー系企業の海外進出プロジェクトは、当然のように失敗する

・なお、自らの愚を悟り、早期に失敗見極めが出来れば傷が浅く済む可能性もあるが、諦めきれず、あるいはサンクコスト・バイアス(埋没費用の無視ないし過小評価によるミスジャッジ)に罹患ないし脳内汚染されて、「損切り」のタイミングを逸失し、資源の逐次投入による泥沼に入り込み、企業を危殆ないし瀕死の状況にまで追い込んでしまう

という
「必敗の方程式」
ないし
「敗北のスパイラル」
ともいうべきプロセスが次々に実現していき、ボロ負けし、這う這う(ほうほう)の体で、海外での事業を畳んで日本に帰ってくるのです。

初出:『筆鋒鋭利』No.101、「ポリスマガジン」誌、2016年1月号(2016年1月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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