企業法務部を作るプロセスで、企業法務専門スタッフを雇用し、あるいは選定して他部署から配置転換させ、固有の社内人的資源としての法務スタッフを整備することになるとしますが、このスタッフィングも、企業法務担当者の固有の業務となります(顧問弁護士も、経営陣も、他部署も誰も手伝ってくれないし、手伝おうにもやり方がわからないので手出しできない、という意味で)。
では、企業法務スタッフを募集し、整備する前提として、そもそも、企業法務スタッフとして求めるられる資質・能力はどういったものとなるでしょうか?
企業法務スタッフは、別に弁護士資格が必要というわけではありません(弁護士資格があっても構いませんが)。
また、法科大学院卒業者である必要もありません(法科大学院卒でも構いませんが)。
さらにいえば、法学部卒である必要もありませんし、大学卒である必要もありません。
企業法務スタッフに求められる基本的な資質・能力としては、
1 社会人・企業人として普通に仕事ができること
2 リーガルマインドを実装すること
です。
1 社会人・企業人として普通に仕事ができることについては、
00819_法務担当者に求められる資質
において述べているとおり、法務セクションというチームの一員として、法務責任者(法務マネージャー)の指揮命令の下、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献するというのが主なミッションとなりますので、
「部下としての基本的なわきまえができていること」
が前提となります。
法務担当者といえども、その前に企業人ですから当然といえば当然です。
具体的には、
01658_企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、死守すべき固有の業務分野(1)_普通に社会人としての仕事をこなせるようになる
で述べたような社会人・企業人としての仕事の基本的スキルを実装すること、と同義です。
この点、企業法務担当者の中には、
「専門家だから、通常の従業員とは違う」
「単純で卑近な金儲け一辺倒ではなく、大所、高所から、あるいは法的観点から、正しい仕事をする」
といった愚劣な勘違いをする方がいますが、完全に間違っています。
企業活動とは、平たく言えば、組織ぐるみでやる金儲けです。
「金儲け活動」
を単純化すれば、
・安く買って高く売る、
・安く作って高く売る、
・客に奉仕して手間賃をもらう、
・カネを元手にして金融や投資活動でカネを増やす、
のいずれかに整理されます。
これ以外に、金儲けする方法は存在しません。
企業活動とは、単純な金儲けではなく、
「組織ぐるみ」
という点が特徴的です。
そして、
「組織ぐるみ」
でやる上では、 前記の
「『金儲け活動』を管理する活動」
というものが発生します(個人で商売する上ではこの種の管理活動は発生しないか、備忘程度に発生するだけです)。
管理とは、
管理前提を整え、
すなわち、
ミエル化・カタチ化・文書化・フォーマル化し、
これを前提に、
透明化されたものを共有したり、開示したりして、改善を行っていく活動
です。
管理前提、すなわち、
「金儲け活動」
の様子を、数字(や言語)を使って、
ミエル化・カタチ化・文書化・フォーマル化する活動
は、絶対必須であり、重要です。
透明化されないものは、知覚認知できませんし、知覚認知できないものは制御できませんし、制御できなければ改善は望めません。
したがって、管理をする場合、文書を使ってコミュニケーションを行うことが必須スキルになります。
このあたりの詳細は、
00680_法務担当者として法務サービスという仕事を行う前提として、そもそも「仕事」とは何か?仕事の仕方、回し方をきっちり理解できているか?
で述べています。
2 リーガルマインドを実装すること についてですが、この
「リーガルマインド」
というのは厄介です。
通常、
「リーガルマインド」
というと、
「自由と正義を希求し、人権保障や社会正義のため、悪と戦う」
みたいなヒロイックでファンタジックな、とはいえ無内容で、何を言っているのかさっぱりわからないようなものをイメージしがちです。
ですが、
「『自由と正義を希求し、人権保障や社会正義のため、悪と戦う』みたいなヒロイックでファンタジックな、とはいえ無内容で、何を言っているのかさっぱりわからないような『リーガルマインド 』」
というのは、関係ないというか、企業法務担当者(企業法務スタッフ)の資質・能力としては、邪魔というか有害です。
というのは、企業法務担当者(企業法務スタッフ)に求められているのは、企業活動、平たく言えば
「組織ぐるみ金儲け」
を安全・安心に行えるようにするための安全保障活動だからであり、正義とか人権とかは無意味であり、金儲けの邪魔ですらあるからです。
その意味では、
「リーガルマインド」
というものを企業法務担当者向けに再定義することが必要ですが、このことは、
01634_企業法務におけるリーガルマインド
において詳述しています。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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