00882_イスラム圏を対象法域とする国際法務実践上の課題と対応の基本

中東等のイスラム諸国では、イスラム教という信条、理念に基づいて制定されたイスラム法の理解、また、イスラム圏特有のイスラム金融やスクークと呼ばれるイスラム債券の理解が必要不可欠となります。

中東特有の政治リスク(政情不安、政府による強権発動等)にも対応しなければなりません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00881_中国を中心とするアジア圏を対象法域とする国際法務実践上の課題と対応の基本

近年、中国における経済環境、法令環境は目まぐるしく変化しています。

そして、日本企業が、中国企業と提携したり、中国市場に直接乗り込み製品やサービスを提供したり、その他中国企業への投資を行ったり、といった活発な国際取引を開始しています。

このような中国に関係する国際取引を実施する場合には、中国契約法をはじめ、知的財産法、競争法、通商法、製造物責任法など複雑化・多様化する各種法令の精査、理解に加え、中国政府との関係構築などの非法律的対応も必要となります。

また、中国は
「法の支配ではなく、人の支配がいまだ色濃く残る法環境である」
などといわれますので、中国に現地法人を設立したり、合弁・合作会社を設立する日本企業は、
「中国のファジーな法環境において、どのようにして、法的合理性に基づく緻密な内部統制を構築するか」
という課題にも直面します。

さらに、中国でのビジネスでは、中央政府や地方政府の役人達とのリレーションが欠かせません。

これは、決して、不正競争防止法において禁止される外国公務員贈賄行為を意味するものではありません。

日本企業が持ち込む事業が成功すれば、その地方に与える経済効果は大きく、担当者にとっては、中央の人事当局における成績評価を改善する絶好のチャンスとなります。

したがって、事業の意義や成功した場合における地域経済や労働市場に与える影響等をしっかり説明すれば、地方の行政当局の積極的な協力を得ることも不可能ではありません。

このように、
「属人的に物事が進む法文化」
を持つ中国の実態を見極めることで柔軟に対応しながら、日本及び現地の法令を確実に遵守していく、というところが、中国に進出する際の国際法務実践上の要諦となります。

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00880_非欧米国際法務の概要(アウトライン)

日本国内では、低迷する経済状況と、少子高齢化を原因とする内需の縮小により企業の成長が鈍化してきています。

他方、近隣のアジア諸国をみると、10億人超の市場を持つといわれる中国には世界中から投資マネーや工業用資材が流入していますし、韓国製家電の世界進出や、シンガポールや香港の証券取引所の発展等、どの国も目覚ましく成長を続けています。

また、中東の新興国も潤沢なオイルマネーを背景に成長が期待されます。

以上のような状況をふまえ、日本企業は、これまでのような欧米諸国との取引に依存することなく、このような新興国市場への進出を開始しています。

とはいえ、非欧米諸国の企業や法人との取引を企業法務の観点から考察する場合、“法文化の違い”以前に、
「(欧米基準に慣れた目線からみると、誤解も含め)そもそも“法文化”が存在しないとも思われるほど、あまりにミステリアスで難解で複雑な“法文化”をもつ国」
も多く、欧米以上に法的トラブルが多発することを想定しなければなりません。

また、一括りに
「非欧米国際法務」
といっても、様々な国や法体系が無数に存在するため、その一般的傾向を抽出し、これを統一的に整理し把握することは非常に困難です。

とはいえ、“非欧米諸国における国際取引一般についてのリスク発見と対策の勘どころ”のようなものをまとめることは可能だと思われますので、以下、非欧米諸国を、おおまかに

1 中国を中心とするアジア圏を対象法域とする国際法務
2 イスラム圏を対象法域とする国際法務
3 その他の地域を対象法域とする国際法務

と、3つに区分できるのではないか、と考えられます。

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00879_M&Aの基本6:M&Aを成功させるために必要なスキル(3)合理的に戦略を立てて、合理的かつ戦略的に実施する

M&Aという業務課題は、
「正解とやり方がわかっていて、経験さえあれば誰がやっても同じ結果が期待できる、陳腐なルーティン」
ではなく、
「正解がなく、定石も不明で、誰も経験がない、未知のプロジェクト」
というべきものです。

買うべきか買うのを避けたほうがいいのか、
買うにしてもいくらで買うべきか、
目の前の企業の適正価格はいくらか、
予算を超えた価格だがやはり買うべきか、
買った後投資回収できるか、
DDの結果は信頼できるか、
シナジーシナリオは実現できるか、
買った後の調査不足や想定外で大損したり財務リスクを抱えることはないか、
こんなものまったくわかりません。

正解があるかどうかわかりませんし、定石も不明で、誰も経験のない、未知のプロジェクトです。

この種の不確実性満載のプロジェクトは、目的設定以前に、状況や環境や相場観の認知・解釈すら選択課題であり、緻密かつ理詰めで構築していかないと手に負えないものです。

インパール作戦のように、杜撰な計画で適当におっぱじめた挙げ句、意地になってムキになって撤退を拒んで突進したら、最後は全滅することもあります。

常に、失敗する可能性を念頭に置き、リスクを保守的かつ鋭敏に感受し、リスクが制御不能となる前にダメージ・コントロールしつつ撤退することも考えながら、進めていくべき必要があります。

日本人は、大学入試のように、
「正解があり、正解が想定できるルーティン」
については、実に緻密に、合理的に対処できます。

しかし、M&Aの失敗率のデータが示すように、
「正解がなく、定石も不明で、誰も経験がない、不確実性満載の、未知のプロジェクト」
となると、途端に、合理的思考を放棄し、トップの鶴の一声で、情緒的に
「エイヤ」
で決定し、絶望的なリスクや障害があっても、撤退をせず、壊滅的な泥沼に陥って無残な失敗をしがちです。

綱渡りや空中ブランコは、勢いとノリでやったら失敗します。

綱渡りや空中ブランコを生業にするサーカス団のプロは、雑でガサツで勢いだけで刹那的に生きている無謀で野蛮な人間ではなく、冷静で緻密で計算高く自己制御ができる実に知的な方々です。

そして、何より、綱渡りや空中ブランコに失敗した場合の怖さを誰よりも理解し、失敗が現実化するメカニズムや兆候を研究しつくし、失敗が現実化しないようにありとあらゆる方面に神経を研ぎ澄まします。

というより、綱渡りや空中ブランコを生業にするサーカス団のプロは、そもそも論として、
「綱渡りや空中ブランコが、危険な営みである」
ということを知っており、過去に何回成功していようが、しっかりと
「綱渡りや空中ブランコが、危険な営みである」
という認識を持ち続けます。

ところが、ズブの素人が、何の準備も知識もなく、
「綱渡りや空中ブランコが、危険な営みである」
ということを認知せず、勢いとノリでやったら、どうなるでしょうか?

待っているのは悲惨な結果だけです。

M&Aを成功させるために大切なことは、成功させるために、あるいは失敗しないために、
「M&Aは成功率3割の危険な営みである」
という認識を持ち、知的資源を絶え間なく惜しみなく動員することです。

そして、その大前提として、
「M&Aは、素人には難しい、『綱渡りや空中ブランコ』なみに知性と計算と冷静さが要求される、常に失敗のリスクがつきまとう、危険で怖い営みである」
という事実を知り、当該認識をもち続けることです。

そして、「正解や定石のないプロジェクトである」という前提認識で、戦略を立案し、これを戦略的に遂行することが必要です

こういう言い方をすると、
「先生、脅すの? そんなに慎重に考えていたら、商機を逃すよ、事業が大きくならないよ」
と反論されます。

しかし、このいいざまは、株式投資や、FXや、CFDや、商品先物や、仕組債や、ノックイン型投資信託や、金利スワップや、為替オプションや、パチンコや、バカラや、チンチロリンで失敗した方々が、勝負の前に豪語する言い方と似ています。

データが示すのは、M&Aは、多くのカネを費やして他人が不要と判断した中古品・リサイクル品を手に入れる、勝率3割以下のポンコツバクチであり、丁半バクチ以下の期待値しかない、極めて危険な営みです。

確実に勝てる案件でもない限り、少しでもリスクがあれば、買い手の有利なポジションを使って、
「や~んぺ」
と言って撤退すればいいだけです。

場馴れしていないド素人の事業会社が、無理して、M&Aマーケットという
「鉄火場」
に乗り込み、身ぐるみ剥がれて死期を早める、なんてリスクを背負うことなんてありません。

M&Aといった、知らない、理解できない、馴れない分野で起死回生の一発逆転を狙うのではなく、地道なリストラと、保有資源の再活用によって、土地勘のある市場を地味に掘り起こし、しぶとく生き残ることが重要ではないでしょうか。

そうしている間に、
「“1万円札を3000円で買える”といった、しびれるくらい安い買い物の提案が目の前に転がっており、それを、相手の無知につけ込み、足元をみて、2000円に値切って買う」
なんて笑いが止まらないくらい美味しい案件が飛び込んでくるかもしれません。

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00878_M&Aの基本5:M&Aを成功させるために必要なスキル(2)PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業

M&Aの成功のためには、

1 「現実的な投資回収シナリオが機能する適正な買収予算」と「予算内の買収を実現するためのハードな交渉」、
2 PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業、
3 全体的な戦略の合理性、

のすべてが必要です。

しかし、これらはいずれも日本企業の“不得意中の不得意項目”といえます。

2 PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業

M&Aを買い物になぞらえて説明できますが、
「人生におけるそこそこ重要な決断で、かつ決断し、セレモニー自体も大変だが、むしろ、セレモニーを行った後の話の方がより重要かつ大変」
という意味において、状況が近似する、
「結婚」
になぞらえて、その難しさや、失敗の根源的原因を探っていきます。

M&Aという結婚自体もそこそこ大変で厄介で苦労続きで面倒です。

散々苦労して取引にこぎつけたのだから、もうこれで、バラ色の未来が描けるだろう、というのが、まあ、普通のM&Aの買い手の認識です。

ところが、結婚もそうですが、結婚するまでに、いろいろな障害や苦労や、あるいは結婚相手に群がる競争相手との競争に競り勝った困難を乗り越えて、さんざん時間とエネルギーを費消したから、といって、そのような
「結婚に至る苦労の大きさ」

「結婚後の生活が楽しく、愉快で、幸せになる」
ということを保障する、というものでもありません。

ちなみに、2013年のデータですが、日本における一般の夫婦の離婚率は31%、とのことです。

これは、恋愛破綻率ではありません。

結婚がぶっ壊れる確率です。

結婚を決めて、結婚式を挙げて、入籍に至るまで、相当な時間とエネルギーとコストを費やしたはずです。

その、膨大な時間とエネルギーとコストの結晶としてのつながりが、3割も解消される、ということです。

離婚に至らないまでも、
「仮面夫婦」
などのような離婚に近い状態の破綻夫婦が、膨大な
「暗数」
として存在する、ということも考えれば、これはこれで、衝撃的な話です。

まあ、一般の方の婚姻となると、気持や感情も入りますし、
「ソロバン勘定」
だけで計算づくでやるわけでもなく、また、
「ビビっと来たので、すべてをなげうって、出会って間もない、素性も不明な相手の胸に飛び込む」
などという合理的に考えて高度の蓋然性を以って破綻が見込まれるリスキーな関係構築もあるわけですから、仕方がない、とも考えらます。

ですが、
「経済合理的な頭脳を有する企業経営者が、プロや優秀な部下を交えながら、純ビジネス的な判断として、熟考の末、行ったM&A」
は、流石に、そんなことはないだろう、と思い、これまた統計データを確認してみました。

同じく2013年に大手監査法人のトーマツが調べたデータによると、M&Aの成功基準達成企業は、全体の36%に過ぎず、M&Aを行った企業のうち、実に、64%もの企業が、やってみたM&Aは失敗、
「やらなきゃよかった」
と考えている、ということが判明しました。

「仮面夫婦」
のように、
「本当は、大失敗しているのだけれども、『このM&A、よかった、成功した、うまく言っている』と強弁している、実体はM&A大失敗企業」

「暗数」
として相当数存在していると思われる、という経験上の事実も併せ考えると、まあ、M&Aは、ほとんどのプロジェクトが失敗に終わる運命にある、ということがいえるほどです。

そういう
「仮面夫婦のような形で、破綻状態で存続するM&A」
という代物ですが、1つには、見栄っ張りで意固地なオーナー経営者が暴走して推進させたM&Aなどにおいて、
「素直に、潔く負けと失敗を認めることができず、損切りするタイミングを逸し、傷口を広げ、あるいは泥沼化する」
という事例です。

もう1つは、例えば、上場企業などにおいては、下手に、自分たち経営陣が自信満々に進めたM&Aが失敗して大コケしたことを、あっさり認めると、株主総会で突き上げを食らったり、最悪、代表訴訟を提起され、自分の立場が危うくなるというケースです。

さらに、先代経営者や先輩・OB経営者が主導したM&Aで、失敗してゾンビ状態になっているものを、失敗したとして終わらせると、どのように文句を言われるかもしれないので、怖くて失敗宣言して清算・撤退できずにずるずる発酵(というか腐敗)させたままにしているケースもあるでしょう。

そんなこともあって、
「夫婦仲が冷えきっても、見栄や沽券や意地や世間体のため、努力によって維持継続する結婚生活」
を続ける夫婦のように、
「論理的に正しくない選択をしてしまったあと、選んだ選択肢を正解にする努力」
というものを尽くして、M&A失敗の表面化を先送りする企業も相当数存在すると思われます。

よく、芸能人が、出会ってまもなく結婚に至る、という例をみかけることがあります。

いわゆるスピード婚といわれるものです。

中には、すでに妊娠しており、早く結婚しないとお腹から出てきた子供の立場が不安定になる、という切羽詰まった状況で結婚を決定し、公表する、ということもあるようです。

企業のM&Aでいえば、M&Aの交渉前に、経営統合が現場レベルではじまって、ジョイント・ベンチャーの子会社までできて、今更、知らん顔もできない、という趣の状況です。

中には、特段、結婚前の妊娠とか、そういう差し迫った事情が見受けられないにもかかわらず、電撃婚、スピード婚に至るような例も見受けられます。

企業のM&Aでいいますと、守秘義務契約を取り交わし、お互い裸になった付き合いが始まってから、デューデリ(買収前監査)をほとんど時間をかけず形骸化したまま進めていき、値段交渉や買収後の取り決めもおざなりにして、一気呵成にM&Aを完遂する、という趣のものです。

電撃婚であれ、スピード婚であれ、ビビっと婚であれ、そういう迅速果断な結婚を行った芸能人が、レポーターから経緯や動機を尋ねられると、
「会った瞬間、ビビッときた」
「すぐにわかった、この人しかいない、と」
という直感なり霊感を重要な根拠として挙げることが多いようです。

しかし、その後、だいたい3年くらいしてからひっそりと離婚する、という例も多いようであり、
「直感とかインスピレーションとかってのもあまりアテにならない」
という例も少なくないようです。

企業も同様で、
「現実や打算や計算を抜きに、天啓や霊感や神のお告げだけでM&Aを猛スピードで敢行するような会社」
で、投資回収がうまくいき、しびれるくらい儲かっている、といったところはあまりないようで、たいていは、
「やんなきゃよかった」
「なんで、こんな企業買ったんだろ」
と後悔することの方が多いようです。

考えてみればそうかもしれません。

俳優の高島政伸氏がいい例です。

高島氏は、あるタレントの方と、交際まもなく、
「この人しかいない、とすぐわかった」
とかなんとかいう直感だか霊感だかにしたがって、スピード結婚しましたが、その後、すぐに離婚したくなってしまいました。

ところが、相手が離婚に応じてくれず、膨大な時間とコストとエネルギーを費やし、ワイドショーでいじられまくられる、“離婚トラブル”に見舞われた、とのことです。

「結婚は自由だが、離婚は不自由」
という私が作った格言がありますが、高島氏は、これをまさしく地で行くような地獄の経験をなさいました。

やってみるとわかりますが、結婚なんて、実はそんなに難しくありません。

結婚式とか披露宴とか二次会とかって、別に法律上必要なわけではありません。双方が合意し、役場に届け出さえすれば、結婚なんて非常に簡単にできちゃいます。

逆に、結婚式とか披露宴とか二次会とか盛大にやって、その後、ヨーロッパに新婚旅行に出かけ、帰国後、婚姻届け出を出す段取りで、新婚旅行中に仲違いして
「別れる」
という話に至った場合、たとえ、結婚式や披露宴とか二次会とかが終わり、カタコト日本語を話す外国人神父の前で永遠の愛を近い、バッカ高い指輪を交換したとしても、
「この結婚式を挙げたカップル」
は法律上は結婚していないので
「アカの他人」同士
です。

「別れる」
「別れない」
といっても、
「離婚」
という話ではなく、もともと無関係のものを、無関係のままとするだけです。

厳密にいえば、婚約不履行の問題にはなり得ますが、まあ、カネの清算の問題であり、身分関係は
「無関係の男女」
のままであり、清算も解消も何も必要ありません。

このように、結婚は、本当にあっさり、というかサックリというか、驚くほど簡単にできます。

結婚は、結婚することそのものより、結婚した後が大変なのです。

したがって、
「結婚するかしないか」
「いつ、誰と、どのような生活設計を想定して結婚するか」
という問題は、もっと、冷静に考えるべきなのです。

この観点からすると、
「ビビっと来たので、すべてをなげうって、出会って間もない、素性も不明な相手の胸に飛び込む」
なんてことをいきなりやるのは、無謀でリスキーで半端なくヤッヴァい行動といえます。

無論、企業間の結婚(ないし養子縁組)であるM&Aも同様です。

統合後、投資回収が成功するまでの苦労や困難、あるいは出口戦略を描かず、うまく行かなかった場合の想定(ストレステスト)を行わず、
「妄想満載のバラ色の未来」
だけを身勝手に思い描きつつ、無警戒に、入り口に飛び込んで、うまくいくはずなどありません。

まず、M&Aを行うほとんどの企業は、当該買収対象企業を、
「買った後どうやって使うべきか」
についてあまり考えていません(出口戦略・シナジーシナリオの不在)。

結婚生活になぞらえると、結婚生活について現実的な生活設計がないまま、若気と霊感の赴くまま、ノリで結婚に突入する、という趣向に近似する傾向です。

あと、企業の立ち上げから現在まで全ての歴史や詳細を把握しているわけではなく、また、企業のすべてを知っているわけでもなく、
「企業独自のルールややり方や“黒歴史”や裏マニュアルや密約やヤヴァイ機密」
などはそもそも文書化・記録化すらされておらず知りようもなく、M&Aの後で、各種瑕疵や想定外に見舞われる、ということも、M&A買い手企業がPMIに失敗する理由として挙げられます。

結婚生活になぞらえると、
言えない過去がある、
多額の借金がある、
実は年齢や身長や体重を誤魔化していた、
重い病気がある、
潔癖症過ぎて共同生活無理、
子ども大嫌いで生むのヤダ・育てるのマジ勘弁とか考えておりすでに家庭設計において致命的な意見の隔たりが内在していた、
などによる結婚生活の破綻です。

そして、このようなことをあまり突き詰めて考えないまま、霊感と神のお告げにしたがい、ノリと勢いでM&Aに突入するものですから、買った後経営統合が出来ない(結婚生活になぞらえると、性格の不一致、方向性が違う、夫婦喧嘩が絶えない、イヤな面が見えてきてしまい生理的に無理といった、結婚当時とは真逆の見解が双方から表明されるなど)、という悲喜劇に見舞われるのです。

前述のとおり、戦後以来、離婚率がものすごい勢いで増加しています。

熟年離婚がテレビ等で取り沙汰されていますが、若い世代の離婚に比べれば、熟年離婚の数自体、必ずしもしびれるくらい多いとはいえないと思われます。

といいますのは、離婚には、相当エネルギーが必要で、年を取って、くたびれきっている世代には、過酷なプロジェクトとなるからです。

加えて、離婚をすると、家計単位が分割されるので、経済的には両者にとってマイナスになります。

2人で暮らしていれば、1つで足りていたテレビやクーラーや冷蔵庫やアパートが2つ必要になる、ということを考えれば明らかに想像できます。

しかも、熟年世代は、年金暮らしあるいは年金支給待機という方も多く、要するに、
「カネ」
がありませんので、不倶戴天の仇敵という関係でもない限り(そんな関係だったら、そもそも結婚したこと自体摩訶不思議というべきです)、理想的なシェア・エコノミーが成立し、効用面でメリットのある生活関係をわざわざ不合理かつ不経済に変更する必然性は乏しいはずです。

で、若い世代の離婚率が一貫して増加傾向にあることについてですが、この理由について、私は、
「特に、女性にとって、悪い方向での想定外が連続するから」
という状況によるもの、と推察します。

シンデレラというお話をご存じでしょうか? 

作者は、ウォルト・ディズニーというアメリカ人ではなく、グリム兄弟というドイツの童話作家です。

かいつまんで言うと、

・ボロを着て、カネも余裕もなく、炊事・洗濯・ムカつくガキの世話等、毎日毎日家事全般させられ、休む間もない赤貧生活をしていた不幸な女性が、
・やがて、悲惨な現実の世界」から「ロマン満ち溢れる世界」へ段階的に移行していき、
・最後は、壮大な結婚式を挙げ、皆の祝福を受け、幸せの頂点に到達する、

という話です。

ところが、日本の若い女性が体験する一般的な結婚生活というのは、この
「シンデレラ・ストーリー」
の、見事なまでの逆回転バージョンです。

すなわち、

・出会ってまもなく、壮大な結婚式を挙げ、皆の祝福を受け、幸せの頂点に到達した女性が、
・やがて、「ロマン満ち溢れる世界」から「悲惨な現実の世界」へ段階的に移行していき、
・何年か後には、ボロを着て、カネも余裕もなく、炊事・洗濯・ムカつくガキの世話等、毎日毎日家事全般させられ、休む間もない赤貧生活に陥る

という、悪い意味での想定外の連続のストーリーを経験します。

こういうことがあると、離婚したくなるのも、うなずけます。

M&Aも、同様の傾向にあります。

M&Aという取引が成立する時点においては、あらゆる不愉快な想定が度外視され、
「この取引が成立しさえすれば、バラ色の未来が訪れる」
というロマンと希望とファンタジーに満ちた想定を関係者全員共有し、取引実現というその瞬間だけを目指して、そこに、カネと労力とすべての勢力を注ぐ熱狂が先行します。

しかしながら、M&A取引が成立し、熱狂が過ぎ去り、
「宴の後」
となった時点以降のプランやシナリオは、なんとなくおざなりになっています。

一応、その種の計画は想定されてはいるものの、華々しい、夢のようなシナジーシナリオを描き、熱狂して神輿を担ぎ、横で声援を送り、脇で踊り狂っていたM&A支援プロフェッショナルは、祭りが終わるといなくなって(別の祭りに行っている)、残ったのは、
「M&A当時は素晴らしく魅力的にみえたものの、よくみりゃ、たいしたことのない、あるいは、お荷物として足を引っ張るしか能が無い、どうしょうもないガラクタ企業」
という状況だったりします。

結婚はともかく、M&Aについては、あまりアホな失敗が続くと、企業そのものが傾きます。

ノリや熱狂も大事ですが、そんなことより、M&Aが終わった後、その後、長く、長く、長~く続く、投資回収までの道のりを、どういう現実的な方法で達成していくのか、ということを、ドライに、クールに、スマートに考えるべきといえます。

ただ、M&Aが下手くそな企業の幹部のメンタリティーは、
「将来的な生活設計も乏しいままノリとアツさだけで結婚に突進した挙句、神の速さで破綻する若いカップル」
のそれとあんまし変わらないせいか、前記のようなドライかつクールでスマートな思考を完全に欠如しているがゆえに、失敗し、失敗し、失敗しまくるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00877_M&Aの基本4:M&Aを成功させるために必要なスキル(1)「現実的な投資回収シナリオが機能する適正な買収予算」と「予算内の買収を実現するためのハードな交渉」

M&Aの成功のためには、

1 「現実的な投資回収シナリオが機能する適正な買収予算」と「予算内の買収を実現するためのハードな交渉」
2 PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業
3 全体的な戦略の合理性

のすべてが必要です。

しかし、これらはいずれも日本企業の“不得意中の不得意項目”といえます。

1 「現実的な投資回収シナリオが機能する適正な買収予算」と「予算内の買収を実現するためのハードな交渉」

M&Aは、いってみれば、買い物と同じです。

専業主婦が、大根や肉や魚を買うのと大差ありません。

とにかく、
「良い物を安く」
というのが買い物における賢い戦略です。

ところがM&Aを行うほとんどの日本企業は、賢い企業の買い方をしていません。

外資系で訓練を受けて独立した百戦錬磨のM&Aのプレーヤーがやるような
「“1万円札を3000円で買える”といった、しびれるくらい安い買い物の提案が目の前に転がっており、それを、相手の無知につけ込み、足元をみて、2000円に値切って買う」
という買い方ができる日本企業は皆無です。

買い物慣れしていいない日本企業のM&Aプレースタイルは、
「買いたい」
という強い願望が先行し、この願望が強力なバイアス(認識の歪み)となって
「価格の合理性に関する検証」
を怠らせ、
「買いたい気持ちがある以上、多少高くても、値段は安いと信じる」
といった愚劣なジャッジの末、経済合理性に反する買い物を敢行して、大損害を被る例がほとんどです。

すなわち、M&Aを行うほとんどの日本企業は、
「感情で決めて、理屈で正当化し、相手のペースに振り回され、引くに引けず、最後は意地になってどこまでも高値交渉に付き合う」
という、
「買い物では、もっともやってはいけない、愚かな購買行動」
に走るのです。

といいますか、M&Aを行う日本企業の大半は、買い物に参加する前提として、
「適正な買収価格」なるもの
を把握しておりませんし、当然ながら買収予算も冗長性があっていい加減にしか設定されておらず、さらに言うと、そもそも、マガイモノとホンモノを見分ける鑑定眼すら欠如しています。

企業に持ちかけられるM&A取引の中には、
「生きている企業」
ではなく、
「死にそうになっている企業」
の買収話もあり、これを前提としたファイナンス(DIPファイナンス)、などというという
「ちょっと聞いただけで、うまくいかなさそうな代物」
もあります。

DIPファイナンスの
「DIP(debtor in possession)」
とは、即ち経営再建中の会社、さらに具体的にいうと“実質的に倒産状態にある会社”のことをいいます。

DIP企業の買収とは、たとえていうなら、
「金持ちで若くて健康な人間」 と結婚するのではなく、
「赤貧にあえぎ、かつ今にも死にそうな病人」
との縁談話であり、DIPファイナンスとはそんな縁談に多額の結納金(ファイナンス)を出すという話です。

したがって、DIP企業買収やDIPファイナンスなどという技法は、普通に考えておよそうまく行くとは期待できない代物です。

よほど企業を見る目があれば格別、こういう話に踊らされている企業は後で大きなケガを負う羽目になりかねません。

にもかかわらず、M&Aの経験のなさそうな企業に限って、ブローカーやコンサルタントの
「最先端のM&A! 今、グローバル企業がこぞって採用する、DIPファイナンスを用いた、DIP企業買収戦略!」
などといった、無内容で有害な煽り文句に踊らされ、
「ババつかみ」
をさせられてしまいます。

ここまで酷い買収話ではないにせよ、日本の一般的事業会社の買収条件の交渉のスキル、なかんずく、価格交渉については、その下手くそっぷりは、非常に際立っております。

日本企業が買収に参加すると、まず、どの企業も、
「物欲しそう」
にしています。

何時でも席を立って破談させるようなポーズをみせながら、
「大阪のおばちゃん」
のようななりふりかまわぬ値切り交渉を行うような日本企業は皆無です。

「骨付きを前に、空腹で死にそうになっている、素直な子犬」
のように、ヨダレを垂らして、尻尾をふりながら、1分でも早く
「お預け食らわされている状態」
が1分でも早くなくなるよう、相手の意のままに全ての条件を呑み、ぼったくられている。

これが標準的な日本の事業会社のM&Aスタイルです。

無論、契約書をギチギチ詰めていけば、ある程度のリスクはヘッジできますが、そこまで、時間と労力をかけて契約書を詰めなければならない、というのであれば、座組自体を考えなおした方がいいかもしれません。

すなわち、
「市場価格1万円で新品を調達できる、商品について、5万円を払って中古品を購入する」
といった趣の取引構造的に狂ったM&A取引については、どんなに優秀な弁護士に契約書をつくってもらったところで、そもそもの取引の前提が狂っているわけですから、うまくいくはずもありません。

ビジネスや交渉の失敗は、法務では補えないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00876_M&Aの基本3:失敗例がことのほか多いM&Aの実体

企業がM&A話をもちかけられている場合、高値づかみして大損しないか、警戒する必要があります。

M&A(合併・買収)が、失敗例が相当数あることはあまり知られていません。

正確な調査をしたわけではありませんが、私の感覚では
「M&Aの失敗例は、芸能人の離婚率とだいたい同じ比率なのではないか(おそらく90%近くが失敗)」
と思います。

ちなみに、日経新聞(2011年4月28日朝刊)によると、世界の歴代金額上位2件は、いずれも買収成立から数年以内に数兆円単位の損失が生じている、とのことです。

また、同記事によると、特に、加工型製造業やサービス業といった川下産業の大型M&Aは、 川上産業に比べて買収後の経営統合作業が複雑になる面があり、失敗する場合が多いそうです。

「カネをもっている」
というのは資本主義社会のプレーヤーとしては最大の強みです。

したがって、買い物というのは、基本的に買い手側が圧倒的に有利なはずです。

なぜなら、さんざん情報をもらって、いろいろ話を聞いて、冷やかして、冷やかして、冷やかしまくった挙げ句、
「やっぱ、や~んぺ」
といってケツをまくる自由と権利を持っているからです。

他方で、買ってくれるかわからない売り手としては、あまり多くの買い手に粉をかけていると、本命の買い手にそっぽを向かれる可能性もあるし、どうしても腰が低くなってしまう。

M&Aにおける企業というのは、どんなに売り手であるオーナーの思い入れがあろうが、ただの買い物の商品であり、
「お金を生み出すマシーン」
であり、一種の金融商品であり、いってみれば通貨のようなものです。

どえらいシナジーが見込めるような場合を除き、金融商品や外国通貨のようなものであると考えると、買い手のスタンスは、投資家のスタンスと同じで、どんなに魅力的であっても、冷静に安くなるまで待ち、安くなってから買い、高ければ無視するという戦略を墨守すれば損したり、失敗したりしないはずです。

また、売る側は売り急ぐ理由はあっても、買う側は買わない自由や買う決定を先延ばす権利があるわけですから、時間的冗長性を確保でき、この点でも圧倒的なアドバンテージがあり、損する理由が見当たりません。

しかしながら、M&Aの場合、なぜか、買い手は焦らされます。

これは一品物、なかなか出ない売り物、これを逃すと買収機会はなくなる、同業者や競合も狙ってる、という有害なバイアスが巻き散らされますが、これに汚染され、時間的冗長性を放棄させられ、勝手に焦り、勝手にパニックになり、経済合理性を喪失し、意地商いをおっぱじめ、絶対的に有利な交渉上の立場を放擲して、アホみたいな会社を、アホみたいな高値で、アホみたいに買って、投資回収もできず、最後に安値で手放したり、挙げ句の果に、連結対象となった子会社がダラダラ損失を出し続けてバランスシートを痛め続けるという憂き目をみたりします。

もちろん、例外的に、上手いこと、安値で買い叩き、早々に投資回収を終え、その後、チャリンチャリンとしこたま儲ける企業もいるにはいます。

ただ、前記のような、残念な失敗をしでかす企業が多いことも事実であり、もしM&Aで買う側に立つなら、愚者の列、敗者の列に加わらないよう、注意と警戒を怠るべきではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00875_M&Aの基本2:M&Aの多くは、どん詰まって「身売り」のケース

企業は、そこらへんの市場に
「日用品」
として転がっているわけではなく、経営者が丹精込めて作り上げ、育て上げた、
「究極の一品モノ」
です。

当然ながら、手放す方は、愛着がありますし、ちょっとやそっとでは手放してくれません。

絵画や彫刻などの美術品なら、持っているだけで、たいしたメンテナンスをしなくても傷んだり、減価したりしません。

しかし、企業は、経営者がものすごい労力や精神力を投入して生かし続けないと、たちまち、市場から見放され、赤字をまきちらし、社会のお荷物になります。

経営者も若い間はいいですが、歳をとって、体が大変になってくると、企業メンテナンスするだけでも大変になってくる。

こうやって、
「愛着はあるが、持っているのは大変」
という状況をズルズル続けているうちに、企業が客からも市場からも見放され、劣化していき、最後は、倒産という恥さらしを回避するため、身売りを選択する状況に追い込まれます。

M&Aという取引の手段ないし方法は、まともな使われ方をする場合もありますが、現在においては、会社のたたみ方、さらには倒産処理方法の1つとして機能しています。

ある企業が倒産しそうになっており、完全に死ぬ前にどこかに安値で引き取ってもらいたい。

「身売り」
というと聞こえが悪いし、
「企業を産み、育ててきた、愛着というか執着というか怨念じみた感情」
に支配されたオーナー経営者が
「倒産」
という恥さらしの終わり方では納得しないし、話が進まない。

じゃあ、
「M&A」
というハイカラな言葉でごまかしてしまえ。

行き詰まっている企業にM&A話が出てくるとすれば、こんな状況が考えられます。

とは言え、
「便所」
のことを
「お手洗い」
と言い換えたのと同様で、品のいい言葉を使ったからといって、便所で行う行為が、華麗で美しいものになるわけではありません。

いろいろ外来語でごまかそうとしても、やっていることの本質は、
「身売り」
を前提とした買いたたきと、買いたたきを前提とした実地調査です。

買いたたこうとしている側は、対象企業の社長が
「バカで舞い上がり易いタイプ」
であると見ると、華麗な言葉で、当該社長が調子に乗るようにし向けていきます。

そして、バカが舞い上がっている間に隙をついて、情報収集し、値踏みし、選択肢を巧妙に 減らしていき、精神的に支配していきます。

そして、にっちもさっちもいかなくしてから、徹底的に買いたたき、身ぐるみ剥ぎにかかるのです。

見たこともない連中(たいていは偏差値が高そうで、いいスーツを着こなし、バカ高いネクタイをぶら下げている)がうろちょろして、書類をコピーしていき、社長がやたらとM&A用語を使いだすときは、
「M&A」
という名の
「身売り」
進んでいると見ていいかと思います。

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00874_M&Aの基本1:M&Aがなぜ面倒くさそうなのか?

破綻間近の企業が無理をして行うプロジェクトで、経験値の無さがわざわいし、ほぼすべて、無残に失敗し、かえって死期を早める結果になるものといえば、M&Aです。

「営業不振で頭を抱え、起死回生を狙うが、どうも妙案が浮かばない、だけど、海外行くのもリスクだし、最後に残ったカネを使って、ミラクルな一手で、華麗な復活を遂げたい」、
そんなことを妄想する、やぼったいドメスティックな企業の社長が、突如、
「デューディリ(デューディリジェンス)」
「DIPファイナンス」
「プレゼントバリュー」
「DCF」
「EBITDA」
「EBITDAマルチプル」
「シナジー」
「PMI(ポストマージャーインテグレーション)」
なんて言葉を使いはじめます。

こういう、地に足がついていない、うわっ滑りの話をしだすのは、企業が失敗する兆候の最たるものです。

ところで、このM&Aですが、最近では随分メジャーになった言葉です。

ちなみに、
「意識高い系」
の知ったかぶりのビジネスマンは、
「エムアンドエー」
と言わず、
「エムエー」
というようです。

まあ、たしかに、英語風に発音すると、
「エム、ンエー」
みたいに聞こえますので、間違いはないのですが。

まあ、どちらでもいいのですが、このM&A、よく聞く割に、実はあまり知らない、
「知ったかぶりビジネスキーワード」
の代表選手のようなものです。

M&Aとは、企業そのものを取引対象とする、ということです。

普通の取引対象といえば、ヒト、モノ、カネ、ノウハウといった形で、個別経営資源毎にバラバラで調達するのですが、
「これをいちいちやっていると面倒くさくてしょうがない。ヒト・モノ・カネ・ノウハウが統合的にシステマチックに合体して動いている、人格そのものを取引しちゃった方がいいんじゃね?」
ということで、
「企業まるごと買っちゃえ」
という趣で形成されてきたビジネス分野です。

では、この
「M&A」
のどこがどう問題か、といいますと、
「企業の価値がはっきりわからない」
ということにつきます。

普通の取引をする際は、土地であれ、車であれ、機械であれ、だいたい相場というか時価というか、値段ってものは
「世田谷のこの駅の近くにあるこの住宅地のこの土地であれば、だいたい坪これくらい」
「レクサスのこの型式の3年落ちの車輌であれば、だいたいこのくらい」
「このコピー機はだいたいこんなもの」
といった具合に想像がつきます。

値段がわからず、お互い値段をめぐって七転八倒するような厳しい交渉をする、なんてことはありません。

ヒトも同様です。

「こういう学歴・経歴で、こういう職歴のヒトなら、だいたい年俸これくらい」
ってことはある程度わかります。

ノウハウやソフトも同様です。

無論、ヒトやノウハウ等については、多少、一義的でないこともありますが、それでも、共通のモノサシがなく、お互い言っていることが噛み合わず、長期間かけて交渉するということは稀です。

ところが、企業という、一種の
「仮想人格を有する有機的組織」
となると、なかなかそういうわけには参りません。

無論、上場企業であれば、
「時価を前提に支配プレミアムを乗せると、だいたいこんなもの」
ということがわかりますが、それでも、TОBの後始末で株式買取価格が高いとか安いとかで延々と裁判をする例があったりします。

これが、上場していない会社の価値となると、まるでわかりません。

だいたい、決算書をはじめとした財務諸表すら、
「きちんとした会計上の真実が反映されたもの」
かどうかも疑わしい。

企業経営をしている方にとっては、自分が作った会社というのは、自分の息子であり娘であり、分身であり、自分の生き様そのものです。

そういう企業の価値となると、値段なんかつけられません。

まさしく“priceless”となり、期待する買収価格はとんでもなく高額になりがちです。

他方で、買う側は、事業経営者として買うにせよ、金融ブローカーが
「金融商品」
のような趣で買うにせよ、1円でも安く調達したい、ということになります。

そういうこともあり、M&Aは、単に
「企業を取引対象物とした取引」
であるにもかかわらず、
値段の基準がないため、 モメて、モメて、モメ倒すのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00873_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する11: 結末を正しく総括する

皆さん、お手洗いに行ったら、必ず、拭くべきところを拭き、流すべきものを流し、手を洗い、身だしなみを整えてからお手洗いから出てこられると思います。

たとえ、用足しの途中に、重要な電話がスマホにかかってきて、一時中断となったとしても、この手続を省略して、何も体裁をほどこさずに、電話をしながらお手洗いを出て、歩きながら電話をしている人はまずいらっしゃらないと思います。

もし、そういう方がいれば、間違いなく警察か、精神病院のご厄介になっているはずです。

このように、何か着手して、それを、本来の形で終わる場合はもちろんのこと、不本意あるいは想定外の形で失敗が確定したり、一定期間休止することになったりといった形で、プロジェクトの進行が見込めなくなった場合、結果であれ、途中経過であれ、きちんと総括しておくのは、お手洗い後にきちんと後処理ないし身だしなみを整えるのと同様、非常に重要なことです。

ところが、現実には、産業社会には、かなりだらしない行動が横行しており、
「お手洗いに行っても、そのまま放置し、手も洗わず、身だしなみも整えないで出てくる」
といった形で、プロジェクトを放置する方がかなりの割合でいらっしゃいます。

プロジェクト終了想定期限がきたら、あるいは見極めをすべきタイミングとなったら、まずは、総括をすべきです。

目的全部達成、一部達成、修正された目的達成であれ、失敗・諦め・撤退という無様なものであれ、結末を総括しなければなりません。

よく言われる、
PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)、
すなわち、
Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の、
C(評価)項目の実施をきちんとすべき、というお話です。

このPDCAサイクルが重要であるというメッセージは、業務を継続的に改善していくというルーティンにもあてはまりますが、
「ルーティンの要素がない、チャレジングな新規プロジェクト」
も同様です。

目的が想定どおり期限内に全部達成されれば総括など不要ですが、世の中そう甘くありません、

M&Aや新規事業立ち上げのような
「ルーティンの要素がない、チャレジングな新規プロジェクト」
については、想定通りの完全なゴール達成に至る方が稀です。

一部しか達成できなかったり、当初想定と全く違った奇形的な形でなんとか採算が取れるようになったり、失敗・諦め・撤退という悲惨な結末を迎えることになったり、というミゼラブルな状況に陥る割合の方が圧倒的に高いものです。

特に、プロジェクトの責任者や担当者は、
「失敗の露顕を恐れ、失敗が露顕するにしてもなるべく遠く遅くしようという組織人としての防衛本能」
に抗えず、
「失敗が現実のものとなることが確定してもとりあえず、総括せず、ずるずると続ける」
というバイアスが強烈に働きます。

その結果、泥沼に引きずり込まれても、
「そのうち天佑がある」
という意味不明で身勝手な妄想で、事態打開を神に祈りつつ、損害を拡大します。

日本の組織の構成員のメンタリティーは、インパール作戦の頃から、あまり変わっていません。

いずれにせよ、良き結果に限らず、失敗やデッドロックといった無様な帰結であれ、重要な中間事象であれ、適時適切に、バイアスを交えず、正しく総括をして、無駄な追加資源投入を阻止し、プロジェクトの正式なギブアップや、より状況に合理的に即応したゲーム・チェンジを行うタイミングを早めるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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