00722_企業倫理と法令遵守はどういう関係に立つのか?

A説:コンプライアンス=法令遵守+倫理的要請の遵守

B説:コンプライアンス=法令遵守のみ。倫理的要請の遵守は、別途の問題として議論すべき、リーガルマターとしてのコンプライアンスの議論と混同すべきではない。

A説の問題点:A説は往々にして、法務活動のサボタージュのための弁解として使われる。すなわち、コンプラという実体なき概念で思考停止を正当化してしまう危険がある。

A説の立場からの法務対応例:「このスキームはたしかに法的には正しいかしれない。しかし、そんな前例のないスキームをやること自体、企業倫理的に大問題であり、コンプラ違反だ。横並びの業界に波紋を巻き起こすし、業界的に世間の目も厳しい状況にあって、あざといやり方だ、金儲け主義だ、と非難されるなど、マスコミから何を言われるかもしれない。法務の意見としてはNGだ。社長には、『コンプラ違反につきやったら大変なことになる。検討に及ばず』、と伝えておけ

B説:倫理を軽視せよ、と言っているわけではない。法令遵守の問題と世間体の問題を分けて議論せよ、と言っている。

B説の立場を取る法務対応例:「法令を調べる限り、明確に禁止した条項はみつからず、所管官庁に対する非公式の意見照会でも、違反とすべき点は見当たらない、との発言を得ています。ただ、あざといやり方で、相手方への打撃が大きく、報道のされ方によっては、ウチが悪者になるかもしれません。その意味では、消費者の離反を招くかもしれず、得られる経済的効果とレピュテーション上の犠牲とのバランスを勘案する必要があります。実際、よく似た事例ですが、この分野における新しいスキームを先取りしたX社は、マスコミから避難を浴び、結局、当該スキームを撤回するという不名誉な選択を強いられ、株価も大幅に下落しました。法務としては、以上のような法律以外のリスクも付記させていただきますので、PR、IR上のシナリオについて、担当部署とよく議論の上で、ジャッジしてください

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00721_企業経営に失敗した場合において経営幹部が負担しなければならない責任としては、どのようなものがあるか?

「役員個人として、個人の法務安全保障上、法務部に対して、常にきちんと把握し、不安になったりリスクを感じたりすれば、すぐさま答えてもらいたい事柄」
として、
「企業経営に失敗した場合において経営幹部が負担しなければならない責任としては、どのようなものがあるか?」
という課題があります。

1 純経営上の失敗

(1)経営責任:辞任・解任

(2)法的責任:よほどひどい失敗でもない限り、ビジネスジャッジメントルール(経営裁量保護の法理)により免責

(3)オーナー経営者の場合におけるオーナーとしての責任:株主有限責任(社会的意味としては、「株主無責任」と同じ)が問われるが、実質的には責任なし(投資金をスるだけ)

2 法令違反による失敗

(1)経営責任;辞任・解任

(2)法的責任

ア 民事責任(=善良なる管理者としての注意義務に違反したかどうか)
・株主代表訴訟(株主が会社に代わって、賠償請求)
・株主や債権者等からの直接の損害賠償請求

イ 刑事責任
・回収可能性がないにもかかわらず貸し付けを行うことは状況によっては背任罪を構成する可能性がある

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00720_株式会社運営システムと国家運営システムとの相似性

国家運営システム 株式会社運営システム
国民 株主
国会 株主総会
内閣 取締役会
内閣総理大臣 代表取締役
裁判所 監査役

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00719_契約書のチェックの段取りと実務その14:契約書の内容や条件や記載をめぐるトラブルを交渉により打開する方法

契約法務(取引法務)には、依頼部門の依頼に応じて、依頼部門の交渉の場に立ち会ったり、あるいは取引相手が指名する交渉担当者との駆け引きをしながら、契約条件や主要な契約条項を確定させる活動(交渉法務)も含まれます。  

交渉に関しても、契約自由の原則が働きますので、道義的なものはさておき、法的には、交渉上遵守しなければならないルールといわれるものは特段存在しません。

したがって、自己の立場の優位性を背景に独善的な条件を提示しても構いませんし、相手の足元をみて自己に徹底的に有利な条件を提示しても、相手が承諾すれば法的合意として効力をもちます。

無論、公正な競争秩序を害する形で、優越的地位を濫用したり、下請企業に不当な要求をしたりすることは、契約自由の原則の例外として許されません。  

契約交渉の際、彼我の交渉上の立場が対等である場合で互いに自己の条件に固執して交渉がストップすることがありますので、このような状況を打開する契約交渉上のテクニックをいくつかご紹介しておきます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00718_契約書のチェックの段取りと実務その13:契印、袋綴及び捨印等

契約書調印の際、
契約書が何ページにも渡る場合に、
「途中のページを差し替え、入れ替えさせて内容を変更する」
という違法・不当な改ざんを防止する必要が生じることがあります。

そういう場合に、上記のような改ざんを防止する方法として、契印や袋綴押印という手法があります。

まず、契印ですが、2枚以上にわたる契約書や法律文書を、1つの一体となった文書であることを証明するために、両ページにまたがって押印することをいいます。

両ページの見開き部分に半分ずつまたがるように押印をしますが、数ページに渡る場合、全てのページがつながるように、契印を続けます。

となると、例えば100ページの契約書は、かなりの契印を押すことになりそうです。

この場合、袋綴製本(各ページをホッチキス等で製本した上で、背面と表紙と裏紙をまたぐような帯で糊付けし、帯を剥がさない限り、途中の差し替えができないようにされた文書)を行った上で、
帯と表紙、
帯と裏紙
の両方にそれぞれ契印を行えば、途中の差し替えによる改ざんがされないことを証明することが可能となります。

なお、実務の世界では、
帯と表紙だけの契印、
帯と裏紙だけの契印
のいずれかだけの手法が見受けられますが、これでは、契印していない方の帯を剥がして差し替えによる改ざんは防止できません。

したがって、前記の袋綴製本契印手法は、片手落ちであり、前述のとおり、
帯と表紙、
帯と裏紙
の両方にそれぞれ契印
というのが完全かつもっとも正当な方法です。

なお、捨印や訂正印という押印手法もあります。

訂正印とは、文書の誤記を訂正するための押印で、署名押印欄の押印と同じ印鑑を使用します。

訂正の具体的内容としては、
余計な文字が削る場合の「削除」、
記入漏れがある場合に追加する「加筆」あるいは「追加」、
別の語句に入れ替え修正する場合の「訂正」
の3類型です。

削除の場合、誤った語句を二重線を引いた上で、訂正印を捺印し、さらに明確を期すのであれば
「削除○○字」
と記入します。

行間余白が狭く捺印できない場合や、印影の大きい場合は、欄外余白に
「◯行目 削除○○字」
と書けば明確となります。

追加(加筆)の場合は、吹き出し(「∨」)を書き、追加します。

文字の近くに訂正印を捺印の上
「追加(加筆)○○字」
と修正内容を書くか、欄外の余白部分に
「◯行目 追加(加筆)○○字」
と書きます。

訂正は、削除と追加(加筆)の合体です。

過誤の語句部分を二重線で削除した上で、その近くに訂正語句を記入するか、吹き出し(「∨」)を書き、訂正箇所付近に訂正印を押し、すぐ近くに
「削除○○字 加入(加筆)○○字」
と書くか、欄外余白部分に
「◯行目 削除○○字 加入(加筆)○○字」
と書いておきます。

捨印は、おって訂正が生じることに備え、欄外余白部分に押印しておくものですが、見方を変えれば、
書類を交換・提出した後に、相手方が訂正することをあらかじめ承認する意思を表明するもの
であり、相手方に対して、自由勝手に訂正して差し支えなし、という危険な意思表明です。

弁護士や司法書士等、資格によって職務遂行の信頼性が担保され、不正や悪用が行われることが想定されない者への提出・預託書類(委任状等)や、
銀行等、こちらもやはり許可事業を行い、業務遂行の信頼性が担保され、不正や悪用が行われることが想定されない者への提出・預託書類(金融口座開設申し込み書類)
については、捨印を押すことが行われます。

しかし、
「いかに弁護士や銀行といえども信用できないし、もし、不備があるならもう一度押印するから、何度でももってこい」
といって、捨印を拒否するのも自由です。

そのような職務遂行上の期待も、属性上の信頼性も担保されていない、むしろ、利害が対立する取引相手に対して、捨印を押した文書を交付するのは、リスク管理のセンスがなさすぎます。

実務の世界で、
「ありとあらゆるページにバカスカ捨印を押しまくっている契約書」
という何とも奇天烈なシロモノをみたことがありますが、無知とはいえ、ありえない契約処理といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00717_契約書のチェックの段取りと実務その13:本人確認、登記簿謄本、署名、印鑑及び実印等

契約当事者が、実は存在しなかった、架空だった、別人だった、というのは、何かのドラマや事件のような話ですが、取引実務でも普通に起こり得るトラブルです。

もちろん、誰もが知る上場企業で、社長も著名人で、という場合に、契約当事者が違っていた、なんてことは、そっくりさんや、プロのモノマネ芸人でも使った、オーシャンズ11ばりに手の混んだ詐欺にでも遭わない限り、おみかけしません。

しかし、聞いたこともない中堅中小企業や、海外の会社、地方の会社、個人の資産管理会社や、知人や特殊関係人が代表を努めている会社など、統治秩序の実体が不明な会社など、山程あります。

そのような場合、間に入った人間や、エラそうにしている親分やボスを信じて契約したところ、正式な代表者や契約当事者はまったく別の存在で、契約当事者が、実は存在しなかった、架空だった、別人だった、といういかにもどんくさいトラブルに遭遇することもあります。

また、代理人や代理店や委託を受けた仲介者といった者が間に挟まって、実体が不透明なまま、取引が進み、最後に本人がケツをまくって、大きなトラブルに発展、という事故もあります。

そのような事故を防ぐためには、 まず、本人確認です。

個人であれば、印鑑証明と実印、
会社であれば、登記簿謄本と印鑑証明と登録印、
これらを必須の前提として取引を進める限り、事故はほとんど起こりません(たまに、地面師のような詐欺に遭ってしまうこともありますが、逆にそのような世間を騒がす事件に遭うくらい稀です。)

なお、契約書や取引で署名や印鑑、さらに印鑑証明といったものを徴求して安全性や堅牢性を増強するには、きちんとした理論的背景があります。

これは、俗に二段の推定といわれるものです。

私文書については本人又はその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定するとされています(民事訴訟法228条第4項)。

難しく書いていますが、私文書に本人又はその代理人の 署名または押印がある契約書は、偽造ではなく、ホンモノと推定してしおこう、というルールです。

ただ、偽造文書であっても、署名または押印があれば真正に成立したものと推定されてしまいますので、勝手に偽造さえた本人にとってはかなりキツい内容となってしまいます。

そこで、前記条項は、やや狭く解釈されることとなり、本人の署名または押印についてはいずれも
「本人の意思に基づくものであること」
が前提となる、とされます。

要するに、私文書に本人の署名または押印があっただけでは不十分で、
「本人の意思に基づいて」
本人の署名または押印がなされたものであって初めて真正に作成されたと推定される、というルールと理解されています。

では、この
「本人の意思に基づくもの」
をどうやって立証するのか、という話になります。

この点については、最高裁昭和39年5月12日判決において
「文書中の印影が本人または代理人の印章によって顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当である」
とされました。

要するに、本人の印鑑を使って押印された契約書があれば、その契約書は
「本人の意思に基づく契約書」
と推定しよう、というものですが、これが判例法として法律に準じるルールとして扱われています。

以上のとおり、
私文書に本人の印鑑による押印があるときは、本人の意思に基づき押印されたものであると事実上推定され(最高裁の判例法による1段目の推定)、
私文書に本人の押印があるときは、
「押印が本人の意思に基づいているとき」
と解釈されて、文書の真正が法律上推定される(民事訴訟法第228条第4項による2段目の推定)
という取扱がなされ、これを称して
「二段の推定」
といいます。

訴訟実務では、契約の存在や内容を立証する際、当該契約書がきちんと成立したものであること(契約書の真正)を立証しますが、
「契約書に押印された印影が本人の印鑑であること」
さえ立証すれば足りることになります。

もちろん、これは
「擬制(確定)」
ではなく
「推定」
のレベルの扱いですから、反証は可能です。

偽造を主張する側は、
印鑑を他の者と共用していた、
印鑑の紛失、盗難、盗用、
別の目的で預けた印鑑の悪用、
などの事実を主張・立証したり(1段目の推定を破る主張・立証)、
白紙に署名(または押印)したものを他人が悪用して文書を完成させた、
文書作成後に変造がされた、
他の書類と思い込ませて署名(または押印)させた
などの事実を主張・立証したり(2段目の推定を破る主張・立証 )をして、反論していきます。

ところで、1段目の推定についてケチをつけさせたくなければ、
「この印鑑は、本人しかもっていない唯一無二の印鑑で、他の者は使うことがあり得ないもの」といえれば、推定を破る反証がほぼ不可能となります。

ここに、実印とか登録印の意味が出てきます。

実印、すなわち
「住民登録をしている地方自治体に印鑑登録したも印鑑」
であったり、
会社の登録印、すなわち
「登記簿を所管する法務局で印鑑登録した代表印」
であれば、
前記の反証がほぼ不可能となります。

このような意味において、重要な取引や契約においては、事故を防ぐため、登記簿謄本で代表者であることを立証させたり、押印も実印や登録印を押印させ、さらには印鑑証明書も添付させておくべき、といえるのです。

なお、署名または押印とありますが、事故を防ぐためには、代表者に自署させた上で、実印または登録印で押印させるという二重の備えで、事故を防ぐことが推奨されます。

その際、代表者でなかった者が署名するような場合、すなわち、代表権のない平取締役であったり、部長等であったり、あるいは代理人といった場合、委任状や決裁権を示す文書も同時に提出させ、後から無権代理や無権代表といった難癖がつかないように備えておくことも推奨されます。

以上のとおり、契約書に限らず、法務文書一般に関しては、作成意思を明確にするため、押印という手続きがかなりの頻度で発生します。

この点、中小企業等で全ての押印を実印(登録印)で処理するところもあるようですが、契約書に押印すべき印鑑には法律上特段規制がなく(前記のとおり、偽造等が争われる民事訴訟の場面では立証課題に差が出てきますが)、実印を用いて印影を明かすことにより偽造等のリスクも出てきます。

したがって、公的手続等実印が絶対必要な場合を除き、取引印(認め印や角印)と呼ばれるものを別途作成し、日常の取引や契約には実印以外の印鑑を用いることが推奨されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00716_契約書のチェックの段取りと実務その12:公正証書

公正証書とは、一般私人の要請(嘱託といいます)に基づき作成される私的な権利義務等に関する文書ですが、その内容を法律の専門家である公証人が確認し、公証人法に基づき作成する公文書です。

私人の権利関係等を取扱内容としながら、他方で公文書としての性格を有している関係で、高い証明力があるうえ、債務者が金銭債務の支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続に移ることができる、というわけです。

すなわち、金銭の支払いを内容とする契約の場合、公正証書を作成しておけば、裁判を起して裁判所の判決等を得るという面倒な手続を踏むことなく、直ちに強制執行手続きに入ることができるのです。

以上のように、公正証書は非常に強い効力を有しますので、重要な契約に関しては、多少コストがかかっても、公正証書化も検討すべきです。

特に、金銭消費貸借契約(いわゆる貸金契約)で抵当権等を設定しない場合などは、支払懈怠があったとき公正証書が強い力を発揮しますので、債務者への融資条件として是非とも公正証書化を求めるべきです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00715_契約書のチェックの段取りと実務その11:会計・税務との整合性

法的な観点で契約事故・企業間紛争を防ぐ合意内容としては適正であっても、当該契約締結の結果、会計上、税務上の不都合が生じる場合があります。  

例えば、物品販売の場合、委託方式か買取方式かによって売り主・買主のどちらが在庫を負担するかが変わってきますし、資産譲渡の価格の決定如何によっては税務上低額譲渡等と認定され、思わぬ課税がなされることもあります。

さらに、M&AやSPCを用いたオフバランス取引等を実施する場合も、
「適格要件充足判断において企業組織再編税制の活用が可能か否か」

「税務上オフバランスと判断されるか否か」
を実例に即して具体的に検証しないと、取引そのもののゴールが達成されない場合もあります。  

その意味で、契約書を作成する前に、依頼部門に税務・会計上の検討を了したか否かを確認するとともに、必要に応じて、財務責任者や税務担当者らを招集して、取引組成が税務上あるいは会計上のゴールを達成するに十分な適格性を有するか否かを厳密にチェックすべき必要があります。

なお、 零細企業や地方の中小企業でよくみられるのは、税理士が主導して、
「税務的な整合性『だけ』しか考えておらず、法的にはデタラメな契約処理」
がなされている例が散見されます。

そして、このような
「法的にはデタラメな契約処理」
が仇となって、致命的な法的窮地に陥るケースもあります。

当事者同士の仮装の契約であっても、デタラメなはずの契約内容が独り歩きし、「善意の第三者」が登場した途端、民法94条の虚偽表示として無効等々の抗弁をしたところで、通用しない場合もあります

いずれにせよ、会計・税務・法務すべてにおいて整合性を維持する契約処理を目指すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00714_契約書のチェックの段取りと実務その10:契約書のチェック

法務スタッフが他部門(依頼部門)から契約書のチェックを求められる場合がありますし、また、弁護士も顧問先企業法務部から
「この契約書をチェックしてください」
と要請される場合があります。

この
「契約をチェックしてくれ」
という依頼の趣旨は、一般に以下のような要請と考えられます。

1 代読の要請としての「契約書のチェック」

この場合の
「契約書のチェックをお願いします」
とは、
「契約書に書いてある文書は難解で私の国語力では理解できない。代わりに読んで、何が書いてあるかその概要をかいつまんで一般人でも解る言葉で教えていただきたい」
という要請です。

もう少し具体的に言えば、
担当者としては、先方から提案された契約書が目の前にあるが、自身が機能的非識字状に陥っており、契約書は日本語で書かれている日本語の文書のようではあるものの、漢字や理解困難な文書や長文が多すぎ、自分には、まるで、象形文字で書かれた知らない国の知らない部族の呪いの文書にしか見えないので、何を書いてあるか、バカな自分でも分かる程度に教えてほしい
という依頼内容です。

実際の
「契約書のチェックの依頼」
のほとんどは、このレベルの依頼です。

営業部が、ある時、
「こんな条項みたことない。これはかなり危険な条項だ。これこれ、エビ、エビ。エビちゃん。エビ担保、エビ担保。エビちゃんの担保とかってやつ。これはかなり高度だよ。ヤバイよ。難しいよ。法務として、しっかりチェックしてよ。」
と大騒ぎして、契約書チェックを依頼しました。

実際は、
「瑕疵担保責任条項」
のことで、
「瑕疵(かし)」
が読めなかったため、
エビちゃんこと「蛯原友里(えびはらゆり)」

「蛯」なのか「蝦」なのか
が、字体としてよく似ていたため、大騒ぎした、という話でした。

結局、
「瑕疵担保は、『かしたんぽ』と読みます。瑕疵とは欠陥のことです。購入直後わからなかった初期不良の修理保証を1年分だけ保証サービス提供する、みたいな話で、民法で決まっているものの焼き直し条項で普通のものです」
と回答したら、営業部から
「さすが、法務。やっぱり優秀」
と絶賛された、というオチがついています。

そこそこ大きな企業の話ですが、契約書のチェックのレベル感として納得できる実情をよく表しています。

2  契約書の確認・把握と情報共有を依頼する趣旨としての「契約書のチェック」

この場合の
「契約書のチェックをお願いします」
とは、
「本契約書は、すでに内容を含め社として理解するとともに、特段の校正ないし修正なく締結することが決定しており(あるいは相手方との交渉上の関係や、契約の性質上校正や修正が不可能となっており)、修正やコメントを求めるものではないが、社としてこういう契約を締結することを閲覧し、認識していただきたい。その上で、もし契約上のトラブルになった際には、すみやかに対応いただけるよう事前認識していただきたい」
という要請です。

3  契約書の校正の依頼その1:リスク・アセスメントの要請

この場合の
「契約書のチェックをお願いします」
とは、
「本契約書の意味や内容は理解したが、契約書に書いてある特定の条項の内容が抽象的で、具体的にどのようなリスクがあるのか一見して不明で、あるいは、契約書の特定の条項の解釈・運用の結果、当方が具体的にどのような内容・範囲の義務・責任を負うのか教えていただきたい。なお、リスク・アセスメントいただきたい具体的な箇所は○○条○○項の『○○○』という部分である」
という要請です。

4 契約書の校正の依頼その2: 特定の条項の起案依頼

この場合の
「契約書のチェックをお願いします」
とは、
「 本契約書において、特定の取引条件や特定のリスク予防措置を表現したいが、法的に適切な条項を作成する能力がないので、当該作成を依頼したい。作成を依頼したい具体的な取引条件や特定のリスク予防措置の内容は○○条○○項の『○○○』という部分を『○○○○』という趣旨への変更である」
という要請です。

5 契約書の校正の依頼その2: 契約締結交渉上の助言・対策要請

この場合の
「契約書のチェックをお願いします」
とは、
「この契約書のこの義務や責任は負いかねるので、合理的対案提示や当該条項の削除要請をしたい。その際の交渉ロジックを助言し、あるいは対案の策定及び起案を依頼したい。 作成ないし変更を依頼したい具体的な取引条件や特定のリスク予防措置の内容は○○条○○項の『○○○』という部分を『○○○○』という趣旨への変更である」
という要請です。

6 社外専門家の手配の依頼

この場合の
「契約書のチェックをお願いします」
とは、
「この契約書はリスクが高すぎる、あるいは取引の仕組みが複雑すぎて社内では手に負えないと判断するので、顧問弁護士等の外部法律専門家に、
・契約書作成・校正代理(ドキュメントコントロール)を依頼すべきであると考える、または
・契約交渉代理(ネゴシエーションコントロール)を依頼すべきであると考える
ので、しかるべき外部法律専門家を、予算の範囲内でもっとも費用対効果が高い方法で調達し、目的を達成したいので、
・調達するべきサービスの期間・予算・品質・リスク等の相場観や現実感を教えていただき、
・法務としてのコネクションを活用して競争的調達を実施し、
・調達手配完了後、期間、予算、品質、使い勝手が最適化されるよう、外注管理をお願いしたい」
するので、見積もりをお願いしたい 、という要請です。

依頼部門の担当者から、契約書のチェックを要請された場合、まず以上の1ないし6のうちどの要請であるのかを確認すべきです。

問題なのは、依頼部門の担当者自身が、そもそも契約書をまったく読んでおらず、自らの要請の趣旨すらつかめず、ただ意味もわからず
「契約書のチェックを乞う」
と言っている場合です。

この場合、依頼部門の担当者の要請の本質は、1ということになりますので、当該担当者にそのことを自覚させ、今後のことも考え、少なくとも契約書を独力で読む程度のことはさせるべきであり、その上で、依頼の本旨を確認し、所要の対応をすべきです。

なお、このような依頼部門の要請の趣旨を、依頼部門の担当者自身に理解させ、その後の法務部としてのエンゲージスタンスや役割や責任範囲を明確にするため、上記のような要件を明確化したRFPともいうべき、
契約書受審申請書
といったフォームを整備し、運用することが推奨されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00713_企業法務ケーススタディ(No.0227):団体交渉! 恐れず甘く見ず

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース34:団体交渉! 恐れず甘く見ずをご覧ください。

相談者プロフィール:
数寄村物産株式会社 代表取締役社長 数寄村 泰蔵(すきむら たいぞう、36歳)

相談概要:
中途採用された女性社員が、
「パワハラされた」
「セクハラされた」
「鬱になったから心療内科通う」
と欠勤が続いた後、労働組合から団体交渉要求通知がきました。
労務部長と知り合いの社労士、弁護士のにわかチームで対応させたところ、相手から
「東京都労働委員会に団体交渉をします」
「交渉を拒絶されたということで、争議に移行します」
と威圧的に言い放たれるような状況に陥りました。
あげくの果て、会社側社労士チームが相談者に対して、労働組合のいいなりになるようにと提案するにいたりました。
以上の詳細は、ケース34:団体交渉! 恐れず甘く見ず【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 団体交渉とは何か
団体交渉とは、日本国憲法第28条及び労働組合法によって保障された手続きにのっとり、労働組合が企業と労働契約に関する事項に関して交渉することを指します。
企業側が正当な理由もなく無視・拒否・不誠実に対応した場合、その対応は
「不当労働行為」
とされ、組合側が労働委員会に救済申し立てをされることにより、救済命令が発令され、使用者の面目を喪失するような措置が取られたりすることが生じます。
また、企業側が団体交渉にきちんと応じない、あるいは正当かつ誠実な団体交渉を経てもなお解決できない問題については、組合側としては、打開を求めて争議行為を展開することになります。
以上の詳細は、ケース34:団体交渉! 恐れず甘く見ず【団体交渉とは何か】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:やってはいけない独立系労組への対応
組合員は自らの地位や権利や尊厳がかかっており、大変な決意で団体交渉に臨んでおり、また当該組合員の権利や立場や尊厳を守るために、組合としても
「労働争議のプロフェッショナル」
として、交渉テーマについて、組合として掲げた目的を達成するため、入念な準備と必死の姿勢で臨んでいます。
企業側がのらりくらりと対応していると、痛いところ、弱いところを突かれ、反論もろくにできないまま妥協の姿勢を示そうものなら、すかさず強硬な条件をつきつけられ、際限なき譲歩を迫られることにもなりかねません。
以上の詳細は、ケース34:団体交渉! 恐れず甘く見ず【やってはいけない独立系労組への対応】をご覧ください。

モデル助言:
交渉テーマは
「セクハラ」
「パワハラ」
という事実の有無であり、水掛け論に至ることが想定され、交渉によって妥協して解決できる性質のものとは考えられません。
最終的に事実の有無を公権的に判断するのは裁判所です。
会社としては、誠実な姿勢を崩さず、きちんと対応し、不当労働行為かどうか争われれば、きちんと反論すればいいだけですし、仮に負けても、東京高裁に訴えることもできます。
争議行為といっても、もともと会社を休んでいる人がストライキをして来ないだけですから、基本的には事業に影響はないはずですし、何十億円も取られるわけでもありません。
以上の詳細は、ケース34:団体交渉! 恐れず甘く見ず【今回の経営者・数寄村社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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